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ということで、アマラ様。

 百合注意継続中。ハートが乱舞しています。

 自傷、流血にもご注意。

 アル・・・アレク様。


 アレクシア・ロゼット様。本来のそのお名前は、決して他言してはならないお方。


 他人がいる前でお呼びする名前はアル様、です。


「(サラリと揺れる長い月色の髪に、長い(まつげ)、切れ長の瞳は、銀色の浮かぶ神秘的な翡翠。(なめ)らかな頬に白磁(はくじ)の肌、凛とした中性的な美貌・・・そして、なにより、リリを見詰めるその暖かくも柔らかい眼差し・・・はぁ♥️)」


 アレク様を想うだけで、リリの胸は甘く疼き、苦しくも高鳴る鼓動が抑えられません!


「(なんかアンタ、大絶賛されてるわよ?)」

「(? アマラ様が、わたくしへアレク様の魅力をお聞きした筈なのですが?)」

「(や、美化し過ぎでしょう。リリは)」

「(ああ、恋愛脳(あたまピンク)なワケね)」


 アレク様は、ご自分ではその高貴で慈愛溢れる魅力に気付いておられないだけ・・・


「アル様・・・アル様は、リリの王子様なのですっ! リリはアル様をお慕いしておりますっ♥️」

「ありがと、リリ」


 にこりと微笑むアレク様! はぅっ♥️


「・・・アンタの甘やかしも、この小娘の頭がユルくなる原因なんじゃない?」

「え? だってリリ、すっごく可愛いし」


 人魚の中では然程(さほど)美しい容姿をしていないリリを可愛いだなんて・・・

 しかも、すつごく可愛いだなんてっ♥


「アル様っ…♥️」


 出来うるならば、ずっとず~っと、ず~~~っとっ! アレク様を見詰め続けていたいのですが、そうも参りません。アレク様をお連れするだけのつもりでしたから、次のお仕事への移動時間が差し迫っているのです。

 ああっ、目一杯に時間を取らなかった自分が憎いっ! しかも、この後にはすっぽかすことなど言語道断な大事な会合が控えているのがまたっ…~~っ!?!?


「ということで、アマラ様」


 アマラ様へと向き直ります。


「や、なにが、ということなのよ?」

「次の、お仕事ですっ……非常~に名残惜しく、アル様と離れるのは身を切られるような思いではありますが・・・リリの代わりに、アル様を全力でお守りください。ですが、呉々も、アル様をお好きにはならないでくださいませ」

「ハッ、アタシがこんな小娘に惚れる? ンなことあるワケないでしょ。アンタと一緒にすンじゃないわよ、百合娘が」

「お願い致します」


 こうしてリリは、断腸の思いでアレク様をアマラ様へと託し、アマラ様の船を後にしようと・・・


「ハッ! アル様!」

「ん? どうした? リリ」

「リリの血を、どうぞお納めください♥️」


 危うく忘れるところでしたっ!?


 袖口を捲って手首を露出させ、ガリッと皮膚ごと血管を噛み切ります。

 口の中に溢れる血の味。ぼたりと飛び散る血が服を汚すことなく、空中で不自然に留まり、一ヶ所へと集束して行きます。アレク様の操血(そうけつ)でしょう。服を汚すまいというお優しい配慮…やはりアレク様は、素敵です♥


「・・・リリ、さっきから無茶し過ぎ。唐突だし」


 ムッと眉を寄せたアレク様がリリの手首を取り、傷口へ唇を寄せながら言います。はぁっ♥️


「…こんなにこぼしたら、勿体無い…ん」


 アレク様の吐息が肌を擽り、温かい唇がリリの手首に、触れっ・・・♥️


「っ……!」


 ぎゅっと強く握られる手首。うっすらと赤い燐光を帯びる翡翠の瞳は、いつもよりも艶めいて見え・・・傷口をぬるりと這う熱い舌の感触に、背筋がゾクリと粟立ちます。


「…アル、様っ♥️」

「はい、終わり。止血完了」


 離れる唇。にこりと微笑むアレク様。


「え? もう、終わり…ですか・・・?」


 強く握られていた手首が放され、傷口には赤い血晶(けっしょう)が貼り付いて出血を止めています。その間に痛みが段々と小さくなり、傷口が急速に再生して、塞がって行くのが判ります。


「うん。終わり」


 薄く微笑むアレク様。その翡翠の瞳は、全く笑っていません。どうやらこれは・・・


「……怒って、いらっしゃいます、か? アル様」

「ん~? リリにはなにか、オレに怒られるような心当たりがあるのかな?」


 口元だけの薄い笑みで、リリを見下ろすアレク様。銀の瞳孔が浮かぶその翡翠は、全く笑っておられません。


「い、いえ…その…」


 これは、確りと怒っていらっしゃいます。リリはなにか、アレク様の気に障るようなことをしてしまったのでしょうか?


「誰か怪我っ!? 血の匂いがしたけどっ!?」


 バタバタと慌てて駆けて来たのは、先程ぐったりされていた筈の銀髪長身の殿方です。


「怪我っていうか……自主献血? 小娘に百合娘が血液提供って感じかしら?」


 呆れたようなアマラ様。


「もう塞がったみたいだから大丈夫よ」

「いや、怪我なら診るよ。結構な血の匂いがしたんだけど・・・鬼百合ちゃん、だよね?」


 銀髪の方が心配そうに言います。この口振りからすると、この方はお医者様なのでしょうか?


「大丈夫よ。アタシら人魚は、狼達(アンタら)並みか…水が有れば、それ以上に生命力高いから。基本、首が落ちなければ心臓(えぐ)っても生きてられるもの。放っといても死なないわよ」


 ひらひらと手を振り、銀髪の方を追い払うアマラ様。


「ここ、アタシの船なんだけど? なにか言うことはないワケ? 小娘」

「・・・お騒がせして、大変申し訳ありません」


 アマラ様へ頭を下げます。


「全くだわ。やるんなら余所(よそ)でやんなさい」

「すみません。アマラ」

「アル様は悪くありませんわっ! 悪いのは、わたくしです・・・お叱りならばわたくしをっ、アマラ様!」

「別に怒ってやしないわよ。人魚の頭のユルさを思い出して呆れただけ」

「…申し訳、ございません」


 先程、自分で頭がユルくないと言ったばかりなのに…周りが見えていなければ、アレク様へ迷惑をお掛けしてしまうのですね。反省です。


「ごめんなさい、アル様…」

「気を付けなよ? いつもみたいに、身内だけがいる場所じゃないんだからさ」


 下げた頭がぽんぽんと撫でられました。


「はい・・・」

「そうよ。不老不死の夢とやらで人魚(アタシ)らを狙う連中、まだいるもの。不用意に傷なんか作ってンじゃないわ」


 真剣なアイスブルーがリリを見詰めます。


「はい。気を付けます」

「で、行かなくていいの? 仕事」

「! そうですわっ、慌ただしくて申し訳ありませんが、失礼致します! アマラ様、ご挨拶は後程させてくださいませ!」

「要らないわよ」


 どう船へ戻ろうかと思案していると、


「リリ、おいで。連れてく」


 アレク様が両手を広げてリリを呼びました。


「はいっ♥️」


 本日二度目の、アレク様に拠るお姫様抱っこ♥️

 パッと背中に広がる黒い翼膜(よくまく)。風を受け、ふわりと空中へと羽撃(はばた)くアレク様のその凛々しいお顔・・・アレク様の腕、体温、匂いに包まれるこの感覚っ♥️♥️♥️

 ああもうっ…リリは幸せですっ♥️このうっとりするような幸せを、是非とも後程、フェンネル様へ存分に自慢(おすそわけ)することに致しましょう。フェンネル様の悔しがるお顔が、今から見えるようでとても楽しみです。


「さ、着いたよ」


 トン、とリリの船の甲板へと降り立つアレク様。極短い距離のお散歩は、もうお仕舞い。そっとリリを立たせてくれます。


「アレク様…お名残惜しいですが、また…」


 小さく背伸びをして目を閉じ、アレク様へと口付けます。温かく、柔らかい唇にそっと触れ、アレク様へ海のご加護を祈ります。リリの想いを籠めて。


「お気を付けください、アレク様」


 パチリと瞼を開いた目の前には、銀の浮かぶ神秘的な翡翠の瞳が優しく見下ろしています。


「ありがと、リリ。愛してる」


 にこりと微笑んだアレク様が、お返しと可愛らしくチュッとリップ音を起ててリリのこめかみへ口付けてくれます。


「…リリも、愛しています♥️」

「リリも気を付けて。またね?」

「はいっ、アレク様♥️」


 こうしてリリは、アレク様と別れてアマラ様の船を後にしました。


 これから、大事な会合へと向かいます。本当でしたら、ローレル様にアレク様のお嫁さんになることを認めて頂きたかったのですが・・・残念です。


 さあ、気合いを入れなくては。


 side:リリアナイト。


※※※※※※※※※※※※※※※


「なんだったのさ? あの子」

「強烈だったね…鬼百合ちゃん」

「なあ、人魚ってな、強烈なのしかいないのか?」

「ウルサいわね。アタシに聞くンじゃないわよ」

「なはは、アマラも相当だもんねー」

「お黙り、ミクリヤ!」


 side:船の住人。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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