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ごきげんよう、皆様。

 噂の、兄さんが苦手とする人物が登場。

 百合注意。

 そして、少々品の無い会話があります。

 アルが船へ滞在して二週間程。手首の骨のヒビが全快したので港を出航して、陸地から離れた頃。


 それは、来た。


「 ~♥️」


 最初は小さくて気付かなかった。

 けど、アルがとても驚いた顔で慌てて甲板へ駆け出したのがなんだか印象的だった。


「っ!? 嘘だろ・・・」

「ちょっ、どうしたのさ? アル」


 アルについて甲板へ向かうと、


「ア~ル~様~~~♥️♥️♥️」


 澄んだソプラノの魅力的な声が、甘やかに海上へと渡り響いたのだった。ハートマークが乱舞してる雰囲気って感じ?


「は? な、なに? アル?」


 思わずアルを見ると、困ったような顔。あ、初めて見るかも。アルのこんな顔は。


「・・・マジかっ」

「なんだありゃ?」

「アルちゃんの知り合い、なのは間違いないよね? 思いっ切りアルちゃんのこと呼んでるし」


 声を聴いて出て来たであろうヒューとヤブ医者。


「ぁ~……まあ、そうですね」


 海上の、こちらへと近付いて来る巨大な船から響く甘やかなソプラノの声。その船首から、大きく手を振る小さな人影が見えた。


「耳、良いヒトは塞いでてください」

「え?」


 聞き返す間も無くアルが大きく息を吸い、


「(リリ、恥ずかしいからやめて!)」


 口を開いた。なにか(・・・)を言ったらしい。


「(わかりましたわ、アル様♥️♥️♥️)」

「っ!」


 僕にはなにも聴こえなかったが、ジンは両耳を押さえて顔をしかめている。


「? なに? 今の。アル?」

「超音波ってやつ。高周波だね」

「高周波? なにそれ?」

「超高音の音のこと。可聴音域(かちょうおんいき)が広いモノにしか()き取れない音だね。蝙蝠(こうもり)とか、イルカ、(くじら)なんかがエコーロケーションやコミュニケーションの一環として使う音。犬科のヒト達や、動物なんかも耳が良いからね。聴こえるみたいだよ?」


 ちらりとジンへ向けられる翡翠の視線。


「エコーロケーション?」

「超音波や音を発生させて、その音の跳ね返りに拠って、地形や距離なんかを把握することだよ」

「へぇ…」

「ンで、なにを言ったんだ?」


 ヒューが聞く。


「あ、僕も知りたい」

「……恥ずかしいからやめてって」


 ぽそりと小さく呟くアルト。


「そういえば、止んだねー。あの声」


 いきなり割り込んだのは、ミクリヤさんの声。


「わっ!? ミクリヤさん、いつの間にっ」

「今かなー」


 ミクリヤさんは、猫だけあって気配を殺すのが得意なヒトだ。いつの間にか近くにいたりして、驚かされることがある。


「で、あれアル君の知り合い? 派手だねー」

「はは……」

「ところでさ、あの船。なんか・・・こっちに突っ込んで来てるような気がするんだけど?」

「え?」


 ジンの言う通り、その船はこの船目掛けてやって来る。それも、猛スピードで、だ。


「ちょっ、ちょっとアルっ!?」


 side:カイル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 猛スピードで突っ込んで来た巨大な船は、不自然な程静かにこの船へと並走し、ぴたりと隣に並んだ。そして、


「アル様~っ♥️」


 甘やかなソプラノが名前を呼び、この船よりも高い位置から、女の子が甲板へと飛び降りて来た。真っ逆さまに。


「ハアっ!?」

「ちょっ、危ないっ!?」

「バカかっ!?」

「あ、死んだなこれ」


 カイル、ジン、ヒューの慌てる声と、なにげにヒドい雪君の感想を聞きながら甲板を強く蹴り、高く跳ねて落ち来る彼女をキャッチ。背中に翼膜(よくまく)を出して強く羽撃(はばた)く。


「アル様♥️」

「リリ・・・無茶し過ぎ」


 上手く拾えたことに安堵する。


「アル様に、早くお逢いしたくて♥️」


 ぽっと頬を染めるリリをお姫様抱っこしながらパタパタと羽撃き、ゆっくりと甲板へと降りる。


「お邪魔致しますわ」


 と、甲板へと降り立つのは、ふわりとウェーブの掛かった赤味の強い紅茶色の髪の毛に、アクアマリンの瞳。赤いフレームの眼鏡を掛け、フリルのドレスを(まと)った可愛らしい小柄な少女。


「ごきげんよう、皆様。初めまして。わたくし、リリアナイト・ローズマリーと申します」


 ドレスの裾を(つま)み、にこりと淑女の挨拶。


「どうぞお見知りおきを。お気軽に、ミス・ローズマリーとお呼びくださいませ」

「それ、気軽か? リリ」

「当然ですわ。見知らぬ殿方に、馴れ馴れしく名前を呼ばれる筋合いはありませんもの」


 リリは相変わらず、笑顔でバッサリ行くな? しかも、名前を聞く気さえも無い。


「え~と…リリちゃん、でいいのかな?」

「いいえ、是非とも、ミス・ローズマリーで。もしくは、ミス・ロゼマリア。または鬼百合、タイガリス。そうでなければ、単なるミスとでもお呼びください」


 ジンの言葉を即行断るリリ。ロゼマリアは、ローズマリーの別発音だ。ファミリーネームか、あだ名で呼べと言っている。ちっとも気軽じゃない。


「鬼百合?」

雌虎(タイガリス)?」


 首を傾げるジンとヒューに、にこりと微笑むリリ。


「ええ。わたくしのあだ名ですわ」


 可愛らしい少女の見た目には、あまり似つかわしくないあだ名に困惑げな二人。


「あだ名? 似合わなくない?」


 カイルも首を傾げる。


「ふふっ……わたくし、アクアス銀行の専務を致しておりますの。リリアナイト、という名前から鬼百合(タイガーリリー)。それが転じて、タイガリスと呼ばれるようになりました。専務と呼んでも(よろ)しくてよ?」


 実はリリは、アダマス傘下の銀行の重役。この年若く可愛らしい少女の見た目に反し、鬼のように仕事をこなすことから名付けられた異名だ。


「では、早速本題に入らせて頂きますわね? アル様」

「ん?」

「わたくしの船にお乗りくださいませ」

「? リリ?」

「スティング様からお聞き致しましたわ。アル様は望まぬ結婚を迫られて逃亡中なのだとっ・・・ならばリリはっ、アル様へリリの船を提供致しますわ! こんな狭い船で、アル様が身も知らぬ殿方達と無理に過ごすことはありません!」

「リリ」

「そして・・・結婚が条件ならば、どうぞリリをアル様のお嫁さんにしてくださいませっ♥️」


 ぽっと頬を染めるリリは、とても可愛いけど・・・


「や、あのな、リリ?」

「え~と、鬼百合ちゃん?」


 困惑したように切り出すジン。


「なんでしょうか? 銀髪の方」

「アルちゃんは、女の子だよ?」

「ええ。存知(ぞんじ)ていましてよ? それがどうか致しまして?銀髪の方」

「え? ぁ、いや・・・アルちゃん?」

「ああ、ヴァンパイアの方は、女性を好む女性も多いので、特に問題ありませんわ。アル様も、殿方の…弟君の(・・・)()なんかより、女性の…わたくし(・・・・)の血(・・)を好まれますもの。リリの血で宜しければ、幾らでもアル様へ捧げますわ♥️」

「あのな、リリ。そうじゃない」

「ハッ! もしかして、お子様でしょうか? 確かに、女性同士では難しいかと思われますが・・・」


 頬を真っ赤に染めたリリの、爆弾発言。


「アル様がお子を望むのであれば、リリはアル様のお父様へ授けて戴くことも覚悟致しております!」

「マジかよ・・・ぶっ飛んだ覚悟の仕方だな」


 雪君が言う。確かに。冗談じゃない。


「・・・リリ、それはやめろ。リリが望まないことは、絶対にするな。オレは、自分を大切にできない子は好きじゃない。本気で怒るぞ」


 眼鏡の奥のアクアマリンを強く見据えると、


「はい。アル様がそれを望まないのであれば、そのようなことは致しませんっ! リリは、リリはっ・・・単一生殖ができるよう努力致しますっ!」


 リリは真剣な顔で力強く頷いた。


「や、あの…それって、努力でどうにかできる問題じゃないと思うんだけど・・・」


 ぽつりと呟くジン。


 さすがはあの兄さんの天敵ライバル。リリは強い。

 けど、このままじゃらちが明かない。


「リリ」


 小さく呼んで抱き締める。そして、


「アル様っ…♥」


 聞かれると厄介なので、リリの耳元へ(ささや)く。


「(あのな、リリ・・・)」


 基本的にはみんな耳が良さそうなので、高周波でのひそひそ。ジンには音としては聴こえていても、きっと意味は理解できないであろう会話で、リリへ事情の説明。アダマス関連の施設の使用は慎むようにとの命令を。

 リリの船は、アダマスでも重要な銀行施設だ。一時的な利用は可能でも、滞在することはできない。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 ハートマーク乱舞です。

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