可愛い顔でなかなか辛辣な口だ。
ということで、荷物をまとめてやって来たのは実家から程よく離れた港街。
活気があって実にいい。
とりあえず、当面の資金調達だな。
一応、手持ちの荷物だけでも一財産にはなる。しかし、放浪するのもそれなりに金がかかる。
手配書をぱらぱらと捲る。手頃な賞金首がいれば、是非狙いたい。
オレの育った家。エレイスは、父上御用達の便利屋と言ったところ。要人警護からパシリまで、様々な仕事をこなす。例えば、敵対勢力の暗殺から……隠し子の養育なんかも。
父上は高位の貴族だけあって、敵もそれなり…いや、かなり多い。暗殺やそれに類するきな臭い話は常にごろごろしている。
実際、オレの養育というのも、護衛兼教育だ。
そういう家で育ったから、護身術はそれなりに仕込まれている。まあ、オレが仕込まれているのは、あくまでも護身術と逃げ足で、さすがにレオや養父さん達みたいな本職の暗殺者や戦士なんかには敵わないが・・・一応、負けもしない。逃げるだけなら、ある程度は余裕だ。
活気があってある程度人間の多い港街には、それなりに犯罪も起こる。
詐欺師は……ちょっと微妙だな。どうせ狙うなら、強盗や殺人犯、暴漢辺りを減らす方がいいだろう。治安への貢献にもなるし、判り易くて見付け易い。
そんなことを考えながら歩いていると、可愛い子がチンピラ的な男共に絡まれているのを見付けた。短いふわふわの明るい茶髪とターコイズブルーの瞳をした背の低い子。
「よう、嬢ちゃん。俺らに付き合えよ」
昼日中から下卑た視線と目的を隠そうともせず、可愛い子の腕を掴む。
全く、大通りでよくやるものだ。
「ちょっと、離せってばっ!? 汚い手で触るなっ!? っていうか、さっきから言ってるだろ! 僕は女の子じゃないってさっ!? アンタら、顔どころか頭も、オマケに耳まで悪いワケっ! いい加減にしてよねっ!」
なかなかいい啖呵を切る。確かに、格好は男の子で胸もペタンコだ。けど、それが馬鹿共に通じるか……
「ンだとっ、このアマっ!! 人が下手に出てりゃつけあがりやがってっ!?」
やっぱり怒った。いつ下手に出たのかは不明だが、まあ、馬鹿の言うことだ。当然ながら、意味は無いのだろう。ああいう手合いって、言葉は通じても話が通じないような馬鹿が多いし。
「さて、行きますか…」
このままあの子が連れて行かれる場面は見たくない。例えあの子が男の子だとしても、可愛い子には違いない。手配書を仕舞い、キャスケットを深く被り直す。そして、移動して・・・
「とうっ!」
と、ジャンプ。とりあえず、あの子を囲むチンピラその一の横合いから軽~く飛び蹴りをかます。※良い子は真似しちゃいけません。危険です。
「ブヘっ!?」
側頭部へガツン! と膝蹴り。無論、ちゃんと手加減はした。そして、
「おお、ナイススライディング!」
ズベシャっ! と、地面で顔面を軽~く擦り下ろすチンピラその一。顔や頭は、軽傷でも割と血を吹く箇所だからなぁ。
「な、なんだっ!?」
「単なる通行人でーす。いやー、なんかちょっと足が滑っちゃって。すいませんねー」
「いや、そんなワケないでしょ! とうって言ったの聞こえたからっ!」
あ、近くで見るとホントに可愛い。ふわふわなライトブラウンの髪、ターコイズブルーの瞳はミルキーな色が強め。
少年というよりは、可愛い系の美少女と言う方がしっくり来る顔立ちだ。あまり背の高くないオレより更に小さくて華奢な体格だし。
「あははっ、ナイスツッコミ」
「アンタがボケかますから! って、そんなこと言ってる場合じゃないしっ!」
どうやらツッコミ体質のようだ。可愛くて面白い子だな。ちょっと気に入ったかも。
「だよねー、あははっ、うりゃ!」
可愛い子の腕を掴むチンピラその二の肘をガツンと拳で殴る。狙うはファニーボーン。殴られると腕全体が痺れて痛くなる場所だ。そしてここは、鍛えようが無い場所でもある。ヒビが入ったり、骨折すると後遺症が残ったりもする。※良い子は真似しちゃいけません。
「ぐがっ!?」
よし、男の手が離れた。
「さ、行くよ!」
「へ?」
可愛い子の手首を掴み、チンピラ共の壁が薄い方向へパッと駆け出す。うん、腕も細い。ホント、華奢な子だな。
「待てっ!? このガキっ!?」
追い掛けて来る奴に待てと言われて待つ奴はいないのが、万国共通の道理だと思う。
「ちょっ、どこ行くのさ?」
「ん? 逃げるよ?」
「は? アンタ、関係無いじゃん」
「気にしない気にしない」
「は? ちょっ、わわっ!」
「頑張ってついて来てね?」
ごちゃごちゃ言う彼? を無視して走る速度を上げる。
「待てっ!!」
無論、待たない。まああの程度の人間、捻るのはワケないが、とりあえずそれは後にしておく。
適当に狭そうな裏路地へと入る。
「へっ! そっちゃあ、行き止まりだぜ!」
勝ち誇ったような下卑た声が背後から聞こえるが、特に気にしない。
「ちょっ、行きっ…止ま、り…って…」
息の切れたボーイソプラノ? が言う。
「全然平気だから。ごめんだけど、ちょ~っと大人しくしてね?」
「…は? な、なにするワケっ!?」
彼? を、ぐっと抱き寄せる。そして、
「ちょっとぉっ!?」
トン、と壁に向かってジャンプする。道が行き止まりなら、上に行けばいい。
「はあっ!?」
「ちょっと口閉じようか? 舌噛むよ」
壁の出っ張りに足を掛け、反対側に向かってまた跳ぶ。三角飛びの要領で、屋上までジャンプを続ける。と、
「ど、どこへ消えたっ!?」
下からオレらを探す声。
「ほい、もう離れていいよ?」
「っ!」
羞恥にか、顔を赤くしてパッと離れる彼?
「な、なにが目的なワケっ?」
噛み付くような言葉。
「ん? 特に無いよ」
「はあっ? アンタ、バカなの?」
可愛い顔でなかなか辛辣な口だ。
「バカはヒドいな? ま、お節介なのは認めるけどさ。じゃあオレもう行くから、今度は絡まれないよう気を付けなよ」
「あ、ちょっと!」
隣の建物へとジャンプして移る。近くで降りて・・・あの下衆共をシメよう。
手配書に載ってたらいいけど・・・まぁ載ってなくても、金とか持ってるといいなぁ。
読んでくださり、ありがとうございました。