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凶つ元。とある真祖の愚行と現状。

 ブラコンサイコ野郎の話です。

 暴力、虐待、その他不快な表現が多々見られる重い話ですので、ご注意を。

 彼は病んでいます。

 遥かな昔、双子のヴァンパイアの始祖がいた。


 二人は双子で、鏡写しのようにそっくりだった。しかし、その性格はまるで違っていた。好奇心旺盛で優しい兄と、冷酷で兄以外には無関心な弟。


 兄は好奇心旺盛だったので、世界を見て回ることにした。弟は、兄がいればよかったので付いていった。

 そして兄弟は、自分達と似たモノ達と出逢った。

 彼らの中には自分達と似ているモノもいたが、全く異なるモノ達もいた。しかし彼らは、兄弟と同じくとても強かったので、やがて双子は彼らの仲間となった。


 弟は、兄以外に興味は無かったが、兄が喜んでいたので彼らと過ごすことにした。


 仲間達は、一緒に過ごすうちにつがいとなるモノ達がいて、そうしたモノ達の子供が生まれた。


 双子の兄は、その新しく生まれた子供達を可愛がった。


 だから弟は、兄に喜んでほしくて仲間を創った。


 双子の仲間達と同じような仲間を創るのは難しかったので、死にたての死体に自分の血を与えてみた。すると、かなり劣化はするが、双子と似たモノ達ができた。


 成功したモノを兄に見せたが、なぜか兄は喜ばなかった。

 兄が喜ばなかったので、弟はそれらを全ててた。成功したモノも、失敗したモノも。するとしばらくして、棄てたモノ達の一部が、近くの生物を無差別に襲ったという。


 弟は、兄と仲間達からきつく怒られた。

 怒られたので、創ったモノ達は消すことにした。


 だが、また怒られた。

 理由はわからないが、なにかが兄の気に障ったらしい。

 兄に言われて、棄てたモノ達の中で、比較的大人しいモノを消すのはやめた。


 それ以来、兄と仲間達と溝ができた。


 それから時は流れ・・・


 ある日、弟は気が付いた。


 兄が、とある女を目で追っていることに。だから弟は、その女を兄へとあげることにした。従順な傀儡くぐつにして。


 兄は、喜ばなかった。そして、とても悲しそうな顔をした。

 弟には、なにがいけなかったのかがわからない。


 なにを間違えたのだろうか?


 そして、考えた。兄は、子供が好きなのだろうと思った。

 だから弟は、子供を作った。兄が気に入っていた女との子供を、兄へプレゼントしてみた。


 兄はまた、悲しそうな顔をした。そして、子供は自分が育てると言った。


 また、なにかを間違えたらしい。


 なにを間違えたのだろう? と、考えている間に時間は流れて行き・・・


 何時の間にか、子供が増えていた。孫ができていた。


 兄はいつも、弟を悲しそうな顔で見るが、孫達を見る目は穏やかだった。

 子供や孫には特になにも思わなかったが、兄が穏やかな顔でいるから、弟もそれらを眺める。やがて孫達が大きくなり、それぞれに家庭を持つと、双子の子孫達が増えて行った。


 そしてある日、弟は聞いてしまった。

 子孫達の一部が、双子を殺そうとしているという画策を。


 弟は、その子孫を殺した。


 自分はかく、兄を殺そうとしたモノが赦せなくて。

 そして、他の子孫がまた兄を殺そうとするのを防ぐ為、殺すことにした。


 それ以来、兄とは完全に決裂した。


 兄が自分を見てくれない。


 兄が自分から逃げる。


 その理由が、彼にはわからない。


 だから弟は、大好きな兄を追い掛ける。


 愛する兄を殺そうとしたモノ達…自分の子孫達を、消しながら。


※※※※※※※※※※※


 たまに、『彼』と似た子孫が出て来る。彼と似ているので、気紛きまぐれに生かすことにする。しかし、彼ではないので、中身が違うことに苛ついて、結局は殺してしまう。


 そんなことを繰り返していると、子孫を消すのを、彼が止めることがあった。

 久々の再会にとても嬉しくなる。

 だから、子孫を殺し尽くすのは、まだやめておくことにした。彼と、またう為に。


 彼を探し、疲れたら少し寝て、見付からなくて苛ついたら適当に子孫を殺して八つ当たりをする。そんなことを、五千年程も繰り返していたら・・・


 何時いつの間にか僕は、子殺しの始祖と呼ばれるようになっていた。


 それは事実なのでどうでもいい。


 千年程前だろうか? 彼が気に入りそうな子供を残し、その家のモノを皆殺しにした。残したのは、ローレル・ピアス・アダマスという子供。案の定、彼はその子供を助けた。

 もっとも、その子供の名前は随分ずいぶんと後になって知ったが。


 ローレルは、面白い。八百年程前から、僕に挑んで来るようになった。最初の方の子供達以来の、僕を本気で殺そうとしている子孫になる。


 三百だか四百年程前? に、子供ができたらしいので、その後から何度か本気で殺そうとしている。けれどその都度、相方の狼と肩を並べてしぶとく生き残っている。


 そして、ローレルは気付いているのかいないのか…最初の子供以外、下の子供は皆、混血だ。

 僕は、適当に子孫達を消して回っているが、混血は基本的に放置することにしている。

 奴らは弱くて、僕が直接手を下すまでもなく勝手に死んで行くからだ。


 最初の…純血の子だけは、ローレルを殺してから殺すと決めているが・・・


 ローレルの二番目の子供は、消すかどうか悩んでいるところだ。

 大和やまとのモノとの混血。しかも、織女おりめの血筋のモノだ。自然淘汰しぜんとうたされる程には、弱くはないだろう。しかし、大和の連中は同族意識がやたら高くて、揉めるとかなり面倒なことになるのは必至。だから、今のところは放置中。


 四番目は…奴の血筋。

 僕に苦言はていしはしたが、あのメンバーの中では珍しく、僕の全てを否定はしなかった奴。まあ、図々しくも彼に色目を使っていたから嫌いなんだけど…半精神生命体で、殺し方が判らない、厄介で面倒な奴。数百年周期で「顔を見に来た」と抜かして僕の回りを彷徨うろつくウザい奴。それの子孫の四番目(これ)も、そう弱くはないだろう。これは簡単に殺せるが、どうするかを悩んでいる。


 三番目は例外。

 ちょっと前に、僕が壊した。

 多分、生きてはいないだろう。


 だって、彼の血を受けていたから。


 ローレルも、馬鹿なことをしたものだと思った。

 その娘は、ながく永く生きている僕でさえも初めて見る混血で・・・よくも生まれて来れたものだと感心する程に、稀有けうな娘。母親とその一族が、この娘の生存をゆるすことなど、到底有り得ないこと。

 だが、有り得なくても、その娘は確かにった。

 そして、非常に不安定な存在だった。

 おそらく、その不安定さ故に、彼が血を分けたのだろうとも思う。娘を、生かす為に・・・


 けれど、そんなことは赦せない。幾ら稀有な存在で、ひ弱だろうが、彼の血を受けることは、僕が絶対に赦さない。


 ソイツは、変な娘だった。

 初対面で、彼と僕が違うことを嗅ぎ分けた。

 僕らを初見で見分けた奴なんて、あまりいないのに。


 そして僕は娘の一部分(・・・)とメッセージを残し、娘を連れ去った。

 ローレルへの嫌がらせ。

 そして、彼が追い掛けて来ることを願って・・・


 彼の血を受けた娘の血は、とても美味しかった。久々の、愛する彼の血の味。けれど、ひ弱な彼女はすぐに死にかける。彼が来るまでは殺さないようにしなくてはと、非常に気を使った。


 まあ、彼女は最初ですでに、軽く壊れてしまっていたが・・・記憶が飛んでいて、自分の名前さえも忘れてしまっていた。だから、適当に名前を付けた。


 それからは、少し大変だった。

 僕から逃げようとしては痛め付け、口答えしては痛め付け・・・

 彼女は非常に愚かで、幾ら痛め付けても全く学習しなかった。殴っても蹴っても、首を絞めても、皮膚を切り裂いても、焼いても、骨を握り潰しても・・・僕に怯えていたクセに、僕に歯向かうことを、やめなかった。


 何度も殺しかけては治す。その繰り返しで、半月程あの娘を連れ回して・・・


 誰かと過ごすのは、とても久々で・・・いい加減、彼女を殺さないようにすることに辟易へきえきした頃。彼が来る前に、ローレルが相方の狼と彼女を取り戻しに来たのだ。


 そして、遅れて彼が来て、僕は・・・


 彼女を壊した。


 彼は僕に・・・


 初めて、「君なんか、嫌いだ」と言われ・・・

 その後は、正直よく覚えていない。


 けれど、確かに彼女の息は止まった。


 僕が、止めた。


 金のような銀のような淡い白金色の髪に、僕が(・・)血を(・・)分けて(・・・)から(・・)紅く成った(・・・・・)瞳。紅い虹彩に、銀の瞳孔が浮かぶ特徴的な瞳。

 その、白金色の髪を血に染めたとき、白銀の浮かぶ紅い瞳から光が消えた瞬間を、なぜか鮮明に覚えている。

 彼女が、物になったその瞬間を・・・


 幼いクセに生意気で、僕に意見をする度、何度も何度も痛め付けた。殺さないよう手加減するのに、随分と苦心した。まあ、多分百回くらいは殺しかけたけど・・・


 それから、ローレルと相方の狼、彼女にやられた傷を治す為に数十年程寝て・・・


 ごくたまにだけど、なぜかその血の味が恋しくなる。


 君が血を分けて・・・僕が、壊した娘の血の味が。


 そういうときには、彼女にやられた胸が、なぜか痛む気がする。


 久々の酷い怪我だったからだろうか? あばらを折られて、それが肺や内臓に突き刺さって、かなり痛かったのを覚えている。彼女の、最期の反抗。その傷はもう、治った筈なのに・・・


 なぜかわからない、胸の痛みが残っている。


 あれ以来・・・


 あまり、子孫を殺す気分にならない。


 彼女以上に苛つく存在がいないせいだろうか?


 なぜ僕は、動く気になれないのだろうか?


 よくわからない。けど、寂しい。


 もうずっと、君の姿を、君の笑顔を、見ていないせいだろうか・・・?


 君に逢ったら、この胸の痛みは治るのかな?


「ねぇ……教えてよ、・・・」


 もう、充分休んだから・・・身体は大丈夫だ。

 さあ、彼を探しに行こう。

 ついでに、ローレルを殺しに行こうかな?

 それとも、アイツの子供の方を見に行くか・・・


 side:???。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 ダークなブラコンサイコ野郎の話でした。

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