Lost memory~アロエ~
※ヤンデレ回。イリヤがドクズの外道。
アロエの花言葉は、『苦痛』、『悲嘆』などです。
今回は、ただただ苦痛な回です。苦手な方は、読み飛ばしてください。
「っ!?!?」
気が付いたときには、激痛の中にいた。
痛いっ!! 痛いっ!! 痛い。痛い、痛い、いたいいたいいたいイタイイタイいたい痛いいたいいたい――――!!!!!!
ドクドクと脈拍に呼応するように、頭が、額が、割れそうな程に痛む。
膜が張ったように遠い耳は、耳障りな音が鳴り響いている。
「がああああああアァあぁァァっ!?!?!?」
金色の瞳に黒髪の少年が見下ろし、口を動かしている。が、なにを言っているのかはわからない。音が遠い上、耳障りな音が響いているせいで、その声が全く聞こえない。
やがて、ふつりと意識が途切れた。
※※※※※※※※※※※※※※※
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
次に気が付いたときには――――
「いい加減にしろよ」
酷く苛立った声がして、身動きが取れなかった。
「っ!?」
ぐぐっと、背中に掛かる負荷に息が詰まる。
けど、ビリビリと空気を震わせている怒気に、『逃げろ!!』と本能が警鐘を鳴らし続けている。『逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!』と、『逃げないと死ぬ!!』そんな、刺すような強烈な怒気に満ちた空間。
本能の警告に、動けないながらもなんとか逃げようと伸ばした手が、ダン! と踏み付けられる。
「っ!?」
「聞いてるの? 逃げることは赦さないって言ってるんだよ」
冷たい声が言った。
けれどもう、その意味さえもわからない。朦朧とする意識。
手、が踏まれて・・・
「?」
不思議に、思った。
なぜ? こんな、手をしている?
逃げるなら、もっと最適な姿がある筈だ。
こんな柔らかい、短い手足じゃあ、満足に走れない。
知っている。真白い、××××を。
アレは、嫌い。大っ嫌い。
でも、朝焼けの金色をした×の、すらりとした姿は綺麗。きっと、走ると速い。
アレは、厭。絶対に厭。
×があれば、もっと速く走れるのに。
アイツらを、赦さない。絶対に赦さない。
逃げる為に。逃げる為に。逃げる為に――――
アイツらは、赦せない。絶対に赦せない。
でも……そう、逃げなければ、殺される。
成りたくない。アレに成ってはいけない。
けど……この、殺気を放つモノに殺されてしまう。
きっと、殺される。殺される殺される殺される殺される殺される――――
だから早く、早く、速く、速く、速く、疾く走らなければいけない――――
本能が知っている姿へ――――
「? 白い馬? 角・・・ユニコーン、か?」
ほんの少し殺気と拘束とが緩んだ瞬間、カツン! と×で強く地面を蹴り、一気に駆け出す。
早く、できるだけ速く、一歩でも遠くへ。
「言葉も通じないくらい意識が飛んでいる?」
逃げる。逃げる。逃げる。この、怖いモノから逃げる。これは、絶対に勝てないモノ。強い怒気の恐ろしいモノ。殺される前に。
殺される前に、逃げなくてはいけない。
遠くへ。遠くへ。早く逃、げ――――
「?」
ドン! と背中に強い衝撃が走った。
遅れてドバっと熱い液体が、流れ出た瞬間、
「っ!?」
カクンと力が抜けて、後脚が動かなくなり――――
「手間を掛けさせるなって言ってるだろ」
地面に、倒れ込む。
どこか遠くで馬の嘶く声がした気がして、意、識が遠の、いて・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
激痛と覚醒。
逃げなければ殺されるという強迫観念。
けれど、逃げられない。
常に、捕まる。何度も捕まる。
そして痛め付けられて、気を失う。
それを、何度も何度も何度も繰り返して――――
「っ!?」
息が、苦しい。
「一体、何度言えば理解するのかな? 君は、頭の中身まで動物になったの?」
どう、ぶつ?
「躾が必要?」
そう、言って、熱い、熱い、炎を纏った手が、××へと押し付け――――
「!!!!」
熱い、熱い、熱い、肉が焼ける激痛が、脳天へと突き抜けるっ!?!?!?
自分の身体の、焼ける臭いが鼻に付く。
痛い、熱い、熱が、肌を、肉を、焼き焦がして、激痛を、痛み、痛みが、痛みが、痛みが神経を支配して――――
そしてまた、意識が・・・途切、れる・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
疲弊する身体。
壊されて、治される身体。
逃げられない。
捕まり、痛め付けられて壊される。
そしてまた、治される。
強い怒気。強い殺気。強い苛立ち。強い焦燥感。強い――――
酷薄に見下ろす金色の瞳。黒い髪。皮肉げに嗤う貌。鋭い声。白い手。炎。暴力。痛み。痛み。痛み。痛み。痛み。
容赦なく叩き衝けられる、苛烈な感情。
「……アークが、来ない。アークが来ない。アークが来ない。アークがまだ、来ない。来て、くれ……ない。まだ、来てくれない? 壊すよ? いい、の? アークのっ、お気に入りっ……なんだよね? ねえ、君。聞いてるの?」
業火のような灼熱の感情。
それは、その感情を向けているモノさえをも、焼き尽くすような――――
読んでくださり、ありがとうございました。
イリヤが出逢ってから数日で、小さいアルを何度も何度も殺し掛けたという話でした。
多分、アルもガチでなにも覚えていない『苦痛』の記憶。完璧に理性が飛んで、本能で逃げようとして、イリヤから逃げ切れませんでした。