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謝らなくていいんだ。お前は、なにも悪くない。

 いつものように仕事に追われていたある日のことだった。


 『光から預かっているものがある。受け取る気があるなら、連絡を待っている』


 そんなメッセージを、幾つかの言語で発している女がいると、スティングから聞かされた。


「『光』だ。気になるたぁ思わねぇか? ローレル。長い黒の巻き毛に、エメラルドの瞳、赤みのある蜜色の肌。アラブやインド系人種タイプの、色っぽい美人なんだとよ」


 その、女性の姿をしたモノが誰か(・・)へと宛てているというメッセージ。


「関係無いといいんだがな? リュースの嬢ちゃんとは」


 (くだん)の女に心当たりは無かったが、(いや)な胸騒ぎがした。『リュース』というのは、北欧の言葉で、『光』を意味する。それは、到底無視することのできないものだった。


 なので、スティングに頼み、リュースとアレクの様子を見に行ってもらうことにした。


 ――――その結果。入って来た報せは、認めたくない程に・・・酷いものだった。


 リュースとアレク…アレクシアの暮らす家付近に張ってあった結界は壊されており、家は跡形もなく全焼。リュースとアレクシア、二人の行方は不明。スティングにも匂いが追えず、その足取りは(よう)として掴めないとのこと。


 少なくとも、俺の張った結界を壊せるモノが関与しているということだ。


巫山戯(ふざけ)るなっっっ!!!!」


 強く握り締めた拳からは、血が滴る。爪が皮膚を破ったようだ。しかし、そんなことはどうでもいい。焼け付くような焦燥感と憤怒。今すぐあの家へと……リュースとアレクの下へ駆け付けたいという衝動とを、無理矢理に抑え付ける。


 真っ先に(よぎ)ったのは、イリヤだったが、奴は他種族には無関心だ。ユニコーンのリュースや、ハーフのアレクシアには欠片も興味を抱かない筈。更に言えば、アーク(あのヒト)の言葉を律儀に守り、他種族のモノはなるべく殺さない。


 だとすれば、敵対している純血の連中だろうか……


 俺には敵が多い。


 激情を抑え、冷静になれ。


 焦っては駄目だ。


 リュースとアレクに一体なにがあったのかを、これからどうするかを・・・考えろ。


 リュースとアレク、二人の無事を祈りながら、二人を取り戻す算段を考えつつ――――件の女との面会を直ぐ様予定に組み込み、女を呼び付けた。


※※※※※※※※※※※※※※


「ハァイ、はじめまして♪」


 長い黒の巻き毛、煌めくエメラルドの瞳、赤みを帯びた蜜色の肌をしたアラブやインド系人種タイプの華やかな雰囲気の女。


 いきなり呼び付けたというのに、女にはそのことへの不満などは見て取れない。にこやかにひらりと手を振る。


 敵対する意志は無さそうだが・・・


「あたしは、ビアンカ・フラメル。イフリータよ」

「ローレル・アダマスだ」

「銀髪に銀の瞳……」


 呟く声。煌めくエメラルドが、なにかを確認するようにじっと俺を見上げる。


「単刀直入に聞く」


 探るような視線を無視し、口を開く。


「ええ。どうぞ」

「二人はどこだ。答えろ。但し、その返答次第では実力行使も辞さない」

「ふふっ、大事にしているのね。それなら、わざわざ探して連れて来た甲斐があるわ。もし、大事にされていないようなら、あたしが貰っちゃおうと思っていたの」

「ご託はいい。さっさと答えろ」

「まず一つ。これだけは言っておくわ」

「なんだ」

「あたしは、偶々見付けたから保護しただけよ。あたしが殺したワケじゃない。そこは間違えないでほしいわ」


 そう言って、女…ビアンカ・フラメルは森の中でアレクを見付け、リュースの遺体を荼毘(だび)に付したこと。ユニコーンの手を逃れる為、あの家の結界を壊し、二人を殺したと偽装して家を全焼させたこと。そして、アレクを保護してここまで連れて来たのだと話した。


 そうして戻って来たアレクは――――


「……りゅーすちゃん、が……ちちうえ」


 青い顔で折れた白い角を差し出した。


「っ、すまない。アレク。傍に、いてやれなくて」


 小さな身体を抱き締めると、


「ごめ、なさ……」


 謝りながらぽろぽろと零れ落ちる涙。


「アレク、アレクシア。謝らなくていいんだ。お前は、なにも悪くない。だから、アレク……」


 また、喪ってしまった。


 イリヤの、その他の、煩わしい連中の手が届かないよう、隠していたのに。


 大切にしていたのに。


 愛して……いたのに。


 守れな、かった。


 この手から、零してしまった。


「…………すまない、リュース……」


 なにも、気付かなかった。


 リュースが苦しんでいるときに、怯えているときに、追い詰められているときに、そのことさえも知らず、遠くにいた。


 手の届かない場所に・・・


 その最期にすら……傍にいることさえ叶わず、なにもできなかった。


 アレクも……母親の、リュースの壊れて行く姿を見ているのは、どれだけ(つら)かったことだろう。


「アレクっ……」


 それから数日間。アレクと言葉少なに過ごし、迷いに迷って――――決めた。


「アレク。お前に会わせたいヒトがいる」

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々のスティング。チラッとだけですが。

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