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美しい鳥籠の森。

 すみません。遅くなりました。

 そして、今回から過去編です。

 暫くアルは出て来ません。

 緑深い森の奥。


 静謐(せいひつ)(たた)えた清らかな泉。


 一片の(けが)れも無い清廉な空気。


 そこは豊かな、とても美しい森だった。


 人間が踏み入らぬ深い深い奥の森だというのに光が射し込み、恵み溢れる明るい森。


 小鳥が(さえず)り、妖精が飛び交う幻想的な森。


 流れるのは、ゆったりとした穏やかな時間。


 美しくも一切の穢れが(ゆる)されない、聖なる森。


 己が種を、至高とする獣の造った箱庭で・・・


 美しい鳥籠の森。


※※※※※※※※※※※※※※※


「はぁ……つまらないわ」


 ここにいる妖精達はどれも知能が低くて遊び相手にするには物足りないし、私と同年代の子達はみんな男の子ばかりで、私を仲間には入れてくれない。


 だから私は、大抵一人で遊んでいる。なのに・・・


 つつくと煙の出るキノコやレースのドレスを着たようなキノコ、夜闇に光るキノコ、真っ白で美しいキノコ、毒々しいカラフルな色彩で面白い形のキノコ、虫から生えたキノコ、虫を食べる草、変な形の花、蛇の脱け殻、鹿の角の欠片、松ぼっくり、蜘蛛の糸、真っ黒な軽い石、大きな魚の鱗、熊の爪、栗の(いが)七竃(ななかまど)の枝。


 集めていた面白いキノコや植物、動物の一部なんかが全て、お父様に全部捨てられてしまった。


 ついでに、お説教を食らってしまった。


 女は貞淑で、夫に従順であるべきで……だとか、子供を生んでどうのこうの……と。耳にタコができそうな程、聞き飽きたお説教を延々とされてしまった。


 どうやら、私が面白いと思うのは変なモノで、女としてはセンスがおかしいらしい。


 どうせなら綺麗な花やら、食べ物を採取すればまだ可愛げが……お前は女なのだから……云々。


 お説教はもう沢山だから、家を出て来た。


 面白くない。つまらない。


 お母様が亡くなってから、家事は私の仕事となった。掃除、洗濯、炊事。森で食べ物を採取して、調理して、お父様へ提供して、そして一日が終わる。また朝が来て、同じ一日が繰り返される。


 一応すべきことはちゃんとしているのだから、私の些細なコレクションを少しくらい多目に見てくれてもいいと思う。


 変わり映えのしない毎日。


 緑豊かな美しい森。


 美しいけれど・・・この森はお父様達に丹念に整えられ、生態系さえも管理されている。


 この森から出ることは、許されていない。


 あのキノコや動植物の一部は、森から出ない範囲の、お父様達の管理の行き届いていない場所にひっそりと生えていたものや、ゴミだって捨てられそうだった物を、こつこつ集めて隠していたというのに・・・


 全部捨てられてしまった。


 なんだか悔しいから、森で一番高い木に登っている。木の上の方の太い枝に腰を下ろし、綺麗に調えられた森を見渡す。


 この森は綺麗だけれど、綺麗なだけ。


 予定調和で全然面白みが感じられない。


 足をぷらぷらさせながら、『森の外』へと、遠く遠くの方へ視線を向ける。緑の色が変わり、暗くなっている辺りが外の森とこの森との境界。


 とても遠くに感じるけれど、駆けて行けばそんなに遠くでもない距離にある場所だ。


 どれだけそうしていただろう・・・


「アマンダ」


 いつの間にか陽射しの色が変わっていて、木の下から名前が呼ばれた。よく通る澄んだ低い声。


「降りて来なさい」


 下から見上げるのは、切れ長の薄い青色の瞳。真っ直ぐな長い金髪を後ろで括った、涼やかな(おもて)のスラリとした美青年…だと一族の中で称されている、若い男のヒト。


「アマンダ」


 落ち着いた声に、また名前が呼ばれる。下から伸ばされる手。降りて来い、とのこと。


「……シリウス兄様」


 私は彼のことが、昔から苦手だ。溜め息を吐いて、木から飛び降りる。と、


「貴女はまた、そんなことをして」


 呆れた顔をされる。


「相変わらずアマンダは、長の娘、そして年頃の娘なのだという自覚が足りないようですね。今度は一体、なにをしたのですか?」


 見下ろす薄い青。呆れを隠さない低い声。


「別になにもしてません」

「アマンダ? 貴女はいずれ、わたしの妻になるのですよ? いい加減、子供のような真似はやめて、少しは落ち着いた振る舞いを覚えなさい。(しっか)りしてもらわねば困ります」


 彼、シリウス・ウリエル・ホーリレは、幼い頃から決められている私の許嫁(いいなずけ)で、年上の親族。そして、未来のユニコーンの長となるべく育てられたヒト。


 彼はとても優秀なのだそうで、お父様と似たようなことばかり、いつも私に言う。


「お説教は沢山です」

 

 ぷいと横を向くと、零される溜め息。


「貴女は、全く・・・」


 顔へ伸ばされる手。近付く気配。


「お仕置き、です」


 弧を描く唇。そして、温かい指先がつうと額の真ん中に触れる感触に身を固くする。


「っ!」

「さあ、帰りますよ。オーガスタス様が心配しているでしょうから」


 お父様の名前を出し、にこりと笑顔で腰へ回される手。シリウス兄様に家へ帰ることを強要される。


「・・・」


 幾ら普段は人型を取っていると言っても、やはり私達の本性はユニコーンで、額の角は急所だ。角を出していないときでも、額に触られるのはとても気持ち悪い。背筋がざわざわする。


 けれど、「貴女はわたしの妻になるのだから、慣れないといけません」そう言ってシリウス兄様は、私の額へ触れることを繰り返す。小さい頃から幾ら(いや)だと言っても、全く聞いてくれない。


 むしろ、私が厭がれば厭がる程、その薄い青色の瞳の奥が(たの)しげに(きら)めき、唇が満足そうに笑みを湛える。『正しいこと』、を私へ言い聞かせながら・・・


 どこか、怖いヒト。


 私はいつか……いや、あと数年もすれば、この怖いヒトへ嫁ぐことが決められている。


「では、ここで。また近いうちに会いましょう」


 家の前で足を止め、吊り上がる口の端。


「アマンダ」


 額に落とされた柔らかい感触、愉しげな薄青の瞳に、背筋がざわりと粟立つ。


「っ……」


 やはり、慣れない。気持ち悪い。


 ああ、とても憂鬱(ゆううつ)だ。

 読んでくださり、ありがとうございました。


 過去編で、リュースの話でした。ローレルと出逢う以前のことです。なんかちょっとお転婆?で変な子になりました。

 前回お遊び企画でチラッと名前の出ていたヒトが出て来てます。今回もチラッとですが・・・まあ、お察しの通りのキャラです。

 フェンネルとは喋り方がカブってますが、性格は違います。イメージとしての口調は、フェンネルが慇懃無礼な丁寧語なのに対し、シリウスが聖職者みたいな話し方です。

 文字だと伝わり難い…というか、この時点ではリュースがまだ聖職者というものをわかっていないという感じでしょうか。


 次回から、なるべく月一くらいで更新したいと思っています。お遊びは別で……


 過去編が終わってから、イーレ編(仮)でアル達の今の話へと戻ると思います。

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