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Remember memory~イフェイオン~

 すみません、順番いじりました。

 リュースちゃんを助けられなかったわたしは――――気付いたら、父上のところにいた。


 断片的な記憶はある。


 落ちたリュースちゃんを探して、傷だらけになりながら暗い森の中を彷徨(さまよ)った。


 血を流して倒れているリュースちゃんを見付けて、血を止めなきゃと思った。


 でも、角が折れてて――――


 どうしたらいいのかわからないで泣いていたわたしに、声を掛けてくれた誰かがいた。


 わたしはそのヒトに助けを求めたけど、「助けられないの。ごめんなさい」と言われて――――熱いくらいのぬくもりに包まれた気がした。


 それから、わたしは・・・?


 気付けば、あのヒトはいない。顔も覚えていない。どこにいるの?


 頭がぼんやりする。


 ここも、どこだかわからない。


 知らない部屋で、父上が険しい顔をしていた。


 ここは家じゃない。

 森の中でもない。

 わたしの全然知らない違う場所。

 リュースちゃんがいない。


 リュースちゃんが、いない――――


 握っていた折れた白い角を差し出して謝ると、


「すまない、アレク」


 悲痛な声で強く抱き締められた。


 目の奥が熱い。

 勝手に涙が零れる。

 上手く息ができない。

 胸が、苦しい。


 父上と、どれだけそうしていたのか・・・


 わたしは、リュースちゃんと父上に対して強い罪悪感があって……父上に謝られることが、苦しかった。リュースちゃんがあんなことになったのは、わたしのせいだと……思う、から。


 リュースちゃんを酷く責める、あの(いや)な『声』からリュースちゃんを守れなかった。


 リュースちゃんが、わたしにあの『声』を聴かさないようにしていたのは、知っていたのに。わかっていたのに。


 リュースちゃんが(やつ)れて行くのを、ただ見ていることしかできなかった。


 そして、リュースちゃんは――――


 リュースちゃんが落ちて行くとき、わたしはその腕を掴めなかった。


 リュースちゃんはわたしを愛してくれたのに。


 父上は、リュースちゃんを愛しているのに。


 わたしも、リュースちゃんを愛しているのに。


 助けたかった、のに。


 それなのに、なにもできなかった。


 わたしはなにも、リュースちゃんになにも、なにもなにも・・・わたしには、なにも、ただ見てることしか、できなくて――――


 リュースちゃんの笑顔が、愛していると言った声が、脳裏から離れない。


 だから――――赦されたくはなかった。


 父上も、わたし同様、わたしに赦されたいとは思って(・・・)ない(・・)みたいで――――


 そんな父上に抱き締められ、寄り添って、二人でリュースちゃんを悼んだ。


 父上にはなにもしないでいるような時間はなくて、(しばら)くすると机に向かった。


 わたしに申し訳なさそうに。わたしを気にしながら仕事をする父上は、わたしを側に置いてくれた。


 同じ部屋にいて、けれどなにを話していいのかわからなくて、口を開くと謝罪しか出て来ないから。お互い黙ったまま。けれど、父上が辛そうなときには黙って父上にくっ付きに行った。


 わたしも、寂しかったから。そして父上も、なにも言わないでわたしを抱き締めた。


 ぼんやりとリュースちゃんを想っていて・・・リュースちゃんが口にした、「お父様」という震える小さな声を思い出した。


 もしアレ(・・)がそうなのだとしたら、リュースちゃんを口汚く罵り、追い詰めたあの声が、リュースちゃんの父親……家族なのだとしたら――――


 絶対に赦せない。


 いや、わたしは奴らを、絶対に赦さない。


 あの『声』を、吐いた言葉を、忘れない。


 わたしは、リュースちゃんを追い詰めた奴らのことが大嫌いだ。心底から軽蔑する。嫌悪する。憎悪する。絶対忘れない。


 アイツらを忘れない。アイツらを赦さない。


 そして、リュースちゃんがあんなことになった要因のクセに……リュースちゃんを助けられなかった自分のことも、嫌いだ。


 わたしがもっと大きかったら?

 わたしに、もっと力があったら?

 父上に知らせることができていたら?

 リュースちゃんと逃げていれば?

 あの森に住んでいなければ?


 たらればを考えると、切りが無い。


 けれど、リュースちゃんが彼らの下へ行くという選択肢だけは、絶対に無い。それだけは、なにがなんでも、無い。


 リュースちゃんが父上と出逢ったことは、正しかった。あんな……酷いことを言うような連中がリュースちゃんの家族なのだとしたら、リュースちゃんが彼らの下を去ったのは間違っていない。


 奴らは、リュースちゃんの家族じゃない。あんなのが家族であって堪るか。誰がなんと言おうと、わたしが認めない。絶対に。


 けれど――――もしも、リュースちゃんがわたしを産んでいなければ? そうすれば、リュースちゃんは父上と一緒に笑っていられたんじゃないか?


 そう、考えてしまう。


 ああ、リュースちゃんの好きな、父上の銀灰色の瞳に映るわたしは、(くら)い目をしている。


 父上は、そんなわたしを辛そうに見下ろす。


 父上の中にも、わたしと同じように、激しく強い憎悪と嫌悪の昏い感情があるのが判る(・・)


 そんな日が何日か続いたある日のこと。


「アレク。お前に×××××××がいる」


 苦い声で、父上がなにかを言ったように思う。凄く葛藤して、とても渋って。それでも決めた、という風な声で。


 この後の記憶は、かなり虫食いになっている。

 読んでくださり、ありがとうございました。


 この話はアルが覚えている記憶です。


 イフェイオンの花言葉。『別れの悲しみ』『悲しい別れ』『耐える愛』『恨み』『愛しい人』『卑劣』『星に願いを』などです。

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