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・・・食事がてら、少し外を散歩するか。

 人に拠っては不快と感じる表現があります。

 主人公が吸血(食事)します。

 人間を食料だと見做すような主人公の表現と、軽い流血シーンです。

 ヒュー達の船に乗って、数日が経った。


 一応手首の痛みは、少しマシになって来た。まだ治ったワケではないが、食っちゃ寝の生活をしていては身体がなまる。なにかあったときに動けないのは、とても困る。


 ・・・食事がてら、少し外を散歩するか。


 ということで、夜。


 船をこっそりと抜け出して、街を歩く。

 (あお)い空に、冷たい夜風が気持ちいい。が、どうやら船を抜け出すのが見付かっていたようだ。つけられている。あれはジンだろう。気配的に。


 どうする、か・・・


 まあ、戻るのは無しだな。一応、目的は食事だし。かといって、食事風景を覗かれるのは嫌だ。それは、血液提供者(おんなのこ)達に失礼だ。


 というワケで、こう。

 適当な路地へ入り、建物の壁を三角跳びの要領で蹴って屋上へ。そこから更に、隣の建物へと跳び移りながら移動する。が、まあ……相手は人間ではない。確りと付いて来ている。


 なので、飛ぶことにした。


「よ、っと」


 トン! と強めに屋上を蹴って垂直に高く跳び上がり、パッと翼を広げる。蝙蝠(こうもり)翼膜(よくまく)のような翼を背中に出して羽撃(はばた)く。

 一応、オレもヴァンパイアだから飛べる。まあ、短距離なら走った方が速かったりもするけど。長距離なら断然、飛ぶ方が速い。


 上空へと舞い上がる。

 翼の無いヒトには、跳ぶことはできても飛ぶことができない。拠って、同じ距離の水平移動なら追跡できても、垂直移動なら追っては来られない。


 雲に届くくらいまでぐんと高度を上げ、濃い霧状の雲の中へダイブ。ひんやりした空気がいい感じだ。パタパタと緩やかに翼を動かして雲の中でホバリング。(しばら)くは雲の中で待機しておこう。


 で、下の街を偵察する為に・・・ピッと親指の爪で人差し指を軽く切り、雲から水蒸気を集めて作った水球に数滴血を垂らし、少しの魔力を込めて偵察用の使い魔を作成。蝙蝠の形のモノを五匹。うち一匹には、血と魔力を増量して街へと放つ。


 傷を、操血そうけつでさっと塞ぐ。

 ヒビもこれくらい早く治ればいいと心底思うが、それは無理だ。骨や体内の損傷は、皮膚とは違って治すのにそれなりの時間が掛かる。

 当然、体力も必要となる。

 だから、食事をしようと出て来た。


 血液提供者は、娼婦…になる前の女性が狙い目だ。辻に立ち、馴れた様子で男の手を引く女性ではなく、暗がりで悲壮な顔をして動けないでいる大人しそうな女性を探す。


 他人(ひと)の不幸を狙うようで少し悪いことをしている気分になるが、お金が必要な人間に定期的に血液を提供してもらい、それをうちが経営する病院や診療所でストックし、人間の血液を好むモノ達へ販売している。

 血液を提供する場があれば食事に困らなくなるので、わざわざ人間を襲わないで済むと案外好評だ。


 身体を売ろうとまで困窮している人間は、多少怪しかろうが、割と高値で血液を提供する。物理的に身売りをするよりは、血液を売る方がまだマシだろう。うちは衛生管理を徹底している為、変な病気を貰うリスクもかなり低い。

 一応、血液の採取は診療所でするし・・・なんなら、内蔵や死体も買い取る。それなりの需要(・・)もある。無論、生前に本人へ了承を得て、報酬を先払いしてからとなるが。経営側が人間じゃないだけで、うちは割と良心的だと思う。


 血液提供者は、痩せてはいても健康そうで、やさぐれた雰囲気の無い女性が理想だ。まあ、ぶっちゃけ味の問題でもあるが。

 病気だったり、ヤク中やアル中の人間の血は美味しくないし。怪我ばかりする人間にも、血液を提供してほしくない。怪我をすると血液の味が薄くなる。不健康な人間には、養生しろと言いたくなる。


 まあ、やはり中には変わった嗜好のヒトもいる。病気持ちや、アル中、ヤク中の血液が好きだという悪趣味な連中。そんな不健康マニア共は、そういう人間を狙う。消えても、あまり誰にも気にされないような人間ばかりを・・・


 無論、オレは健康な血液派。


 さて、ジンの気配は蝙蝠を追って行ったようだし、オレもそろそろ街へ降りるとしよう。血液提供者(おんなのこ)達の目星は付けたし。今夜は三名、ね。


※※※※※※※※※※※※※※※


 暗い路地に、悲壮な顔をして立つ薄着の女性が一人。


「おねーさん、こんなとこに立ってどうしたの? 暗いし、危ないよ」


 オレの声にビクッと震える彼女。


「っ! …あ、あなたこそ、どうしたの? 幾ら男の子でも、こんな時間に子供が出歩いてちゃ危ないわよ? 早くお家に帰りなさい」


 少し痩せ気味で、悲壮な表情はしているが、病気の匂いはしない。健康そう。オレの心配をしてくれる辺りにも、やさぐれている雰囲気はない。優しい子なのだろう。


 にこりと安心させるように微笑み、視線を合わせて、少しだけ判断力を鈍くさせる。

 そして、彼女の事情を聞き出した。案の定、お金が必要で身売りを考えていたらしいが・・・案の定。いざ身売りをするとなると、怖くて尻込みしていたという。


「そっか。なら、よかった。間に合って」


 パチンと指を鳴らし、暗示を解除。


「・・・?」


 パチパチと瞬く彼女。


「ねえ、一回だけ大金が手に入るのと、定期的な収入。どっちがいい? おねーさんが望むなら、割のいい仕事紹介してあげる。ちなみに、返事は今すぐね? 五分待ってあげる」


 急かすようで悪いが、あまり時間は掛けられない。この子以外にも、身売りをしそうな女の子があと二人いるし。


「さあ、よく考えて。勿論、断ってくれても構わないよ」

「・・・大金って、どのくらい?」

「これくらい、かな?」


 平均的な労働階級の年収の約三年分程から、と提示する。


「そんなにっ?」


 驚く彼女。しかし、即決はせずに冷静に質問を重ねる。賢いな。そういう慎重さは美徳だと思う。


「・・・定期的な収入の方は?」

「月一回で、最低これくらいかな?」


 労働者階級の月収の約半分、からだ。血液提供者の報酬は、血の質と量による。血液の量の基本額に、品質(あじ)に拠る付加価値が付いて値段が変わる。


「月一回でその値段? ・・・怪しい仕事?」

「まあ、怪しいっちゃあ怪しいかもね。短時間でかなり、割がいいからね。他言無用が厳守。場所は病院。内容は献血」

「けんけつ? なにそれ?」


 そうか。知らないのか・・・


「まあ、要はおねーさんの血を買うよ? ってこと」

「え?」

「健康な身体を維持することと、この仕事を絶対に他言しないことが主な条件になる」


 こうして、条件に頷いた彼女をひっそりと(たたず)む診療所へ案内。後を受付の吸血鬼へと任せた。彼女への説明と契約、簡単な問診、及び健康診断、銀行口座の開設などの手続き。

 そして、オレのことを忘れさせてくれるだろう。


 これで彼女は、おそらく四十代手前までは安泰だろう。

 妊娠したら、献血は停止。堕胎しても、半年は献血禁止。子供を産み育て、授乳期間を終了して、(しばら)く時間を空け、更に健康に問題が無いと診断されれば、献血を再開してもいい。但し、大概の女性は子供を産むと血の味が変わる為、以前の血液の値段が付くかは不明。そして、健康に問題が生じたり、四十代になった女性からの献血は受け付けない。


 そうやって血液提供者(かのじょ)達は、守られることになっている。健康な血液を提供してもらう為、これから血液提供者達の生活は影ながらサポートされることとなる。

 彼女達の健康を害する要因は、彼女達の提供した血液を食事とするサポーター職員達に拠って、なるべく穏便に取り除かれる手筈だ。偶に、穏便に行かないこともあるが・・・


 血液提供者(かのじょ)達の婚期が遅れたら申し訳ないが・・・逆に、結婚相手が見付かる場合もある。偶にいるのだ。血液提供者の血の味を気に入って、本人に結婚を申し込むヒトが。

 そうなれば、一生安泰とも言える。基本的に彼らは、人間よりも長生きで裕福だ。人間ではないが故に・・・まあその辺りは、当人同士の問題となる。当然ながら、無理強いは、規定違反だし。


 ちなみに、血液バンクの関連の吸血鬼達はアンデッドの吸血鬼達だ。過去にやらかしたモノ達…とでも言えばいいだろうか? 元賞金首のヒト達が多い。消滅よりもペナルティを受け入れ、人間社会に影響を及ぼさないよう調教…もとい、確りと教育を施されたヒト達。


 確りと教育、をされただけあって、有能なヒト達が多い。過ちを犯すことは・・・そうそう無いだろう。上に純血のヴァンパイアがいるのだ。例え血統が違っていたとしても、アンデッドの吸血鬼は真祖に近い血を持つモノには、本能的に服従してしまう。

 兄さんの部下にやたら調教…じゃなくて、教育が上手いヒトがいたし。間違っても、アダマス(うち)に逆らうようなことはないだろう。逆らっても、地獄しか無いし・・・


「さて、次は…」


 残念ながら、次に会った女の子には頷いてはもらえなかったので、彼女にはオレとの会話を忘れてもらうことにする。縁が無かったのだろう。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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