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シーフやレオンさんじゃなくて悪かったな?

 ちゃんと本編です。

「ぁ~、アマラ? オレ、一応奴に用が」

「いいから、寝てなさい」


 圧のある声が言う。


「・・・いや、起きたばっかで眠くないんだけど」

「なら、ベッドで大人しくしてなさい」

「そうそう。まだ顔色悪いんだから、もう少し休んでなきゃ駄目だよ。それとも、なんか食べる?」

「腹減ってンなら、雪路(ゆきじ)呼ぶか?」

「呼んだか?」


 名前が出た途端、滑らかなアルトの声がして、ひょいと医務室を覗き込んだのは、黒と茶色の(まだら)髪をした小柄で細身な若い男。


「やっと起きたかアル。なんか食うなら、作ンぞ。食いたいもん言え」


 御厨(ミクリヤ)雪路。この船の料理人で、オレの古くからの・・・数少ない友人の一人。


「おはよう、雪君。今はいいよ」

「・・・生野菜とか、食う(・・)か? お前が食いてぇンなら、持って来る」


 食う、か・・・まあ、精気を奪って枯らすという方向での食べる(・・・)になるが。


「そうだね。じゃあ、お願いしようかな」

「おう。じゃあ、待ってろ」

「いや、食堂(そっち)行くよ」

「顔色悪ぃ病人は寝てろや」


 ムスッとしたアルトが言う。さっきから、言葉遣いが素だ。どうやら雪君は不機嫌らしい。


「や、持って来るの待つより、食堂行った方が早いだろ? 今ちょっと、かなりお腹空いてて、エナジードレインが制御できない」

「そうかよ。なら・・・」


 すっと足音も無く動いた雪君が手前に来て、


「アマラ、ジン。手ぇ放せ」


 低く言うと、肩と手から手が離され、


「へ?」


 ひょいと抱き上げられた。


「ちょっ、雪君っ!? オレ今、エナジードレイン制御できないんだけどっ!?」


 オレとの距離や、触れている面積、接触の度合によって、エナジードレインの威力が変わる。

 今のオレには、触れているだけでどんどん体力が減って行き、疲労して行くのだ。


「構わねぇよ。どんどん吸え」

「いや、オレが構うからなっ!? つか、歩くから」


 そのまま歩き出し、医務室を出ようとする雪君から離れようとしたら、


五月蝿(うるせ)ぇ、病人は黙って大人しく運ばれてろ。自分達を巻き込みたくねぇってンなら、これくらいはさせろ。この大馬鹿野郎が」


 ギロリと猫の瞳がオレを睨む。なにやら、とても怒っているようだ。


「は? いや、なに言ってンの? 雪君」

「黙れ馬鹿」

「え? なんか理不尽」

「まだ、自分のがマシだろ? お前は」


 なにが? と、聞くのはやめた。


 確かに、アマラとジンよりは、雪君の方がまだマシだ。精神的に、エナジードレインをする罪悪感のハードルが低い。


 まあ、シーフのが全く、一切胸が痛まないが。


「・・・雪君よりシーフのがいい」


 オレはシーフのことを、肉体的になら傷付けてもいいと思っている。アイツの血も、精気も、好きなだけ奪っていいモノだと認識している。さすがに、命まで差し出せとは言わないが・・・

 シーフは、奴が言う通り、オレの非常食だ。

 肯定するのは心底(しゃく)だから、奴には絶対に言ってやらないけど。


「自分で我慢しとけ」

「疲れンぞ?」

「感謝しろ」

「押し付けはどうかと思う。そして、シーフじゃなかったら、レオのが気兼ね無い」

「シーフやレオンさんじゃなくて悪かったな? だが、ぶっ倒れるお前が悪い」


 なんだか理不尽だ。オレだって、倒れたくて倒れたワケじゃないってのに・・・


 ぼそぼそと言い合いながら、夜空の甲板を食堂へと向かう。と、船縁(ふなべり)にバカが現れた。


「そこの小さい野郎っ! アルゥラをお姫様抱っことは大層いいご身分なことだなっ!? 手前ぇこの野郎っ、誰の許可を得てそんな(うらや)まっ…じゃなくてけしからんことをしてやがるっ!? 今すぐ俺と代われっ!!!」


 船縁に立ち、こちらを指差すバカ男。


下衆(ゲス)が……」


 ぼそりと吐き捨てる雪君。そして、奴を無視して食堂の方へ歩を進める。


「くぉのっ、小さい野郎めっ!? チクショーっ、なんだってこんな大事なときにここから先へ進めないんだっ!? っていうか、裸足じゃないかアルゥラっ!? だからかっ? だからアルゥラは大人しくお姫様抱っこされてンのかっ!? ということはっ、アルゥラが普段から裸足だったら、俺がアルゥラをお姫様抱っこして運べるということだなっ!? どうだろうアルゥラ! これからは裸足で過ごさないかっ!?」


 船縁から一歩も踏み出せない様子で、地団駄を踏みながら、馬鹿馬鹿しいことを喚くバカ。


「死ね、クソ野郎」

「フッ、アルゥラは相変わらず照れ屋さんだな?」


 照れなどではなく、心底からそう思っているのだが、異常な女好きで、明確に嫌がっているオレの殺意溢れる言動を、非常にポジティブに曲解する常春(ピンク)頭のバカには通じない。


 もうホント、死ねばいいのに。


「・・・こんな夜中に五月蝿いんだけど、なんなの? 他人(ヒト)の迷惑も考えないで喚いて、バカなの? まあ、バカなのは判り切ってるけど」


 低く不機嫌なボーイソプラノの声がした。


「誰がバカだっ!? おチビちゃんっ!?」

「誰がチビだっ!? このバカがっ!?」


 即行で言い合う二人。


「・・・やっぱり、あのバカはムカつくよな」


 呟くと、


「って、あれ? アルが起きてるっ!? っ!? ま、(まばゆ)く美しいプラチナブロンドがっ!?」


 キラン! と、ミルキーなターコイズブルーが、オレの下ろしたままの髪をロックした。ふわふわのライトブラウンの髪に美少女張りの顔をした屋敷妖精(ブラウニー)のカイル。陸地の屋敷ではなく、この船に住み着いている変わり者だ。


「その、プラチナブロンド・・・触らせてっ!? セットさせてっ!? 弄らせてっ!?」


 そして()は、髪フェチだ。


「絶対ヤだ」

「なんでっ!?」

「カイル、アルは病み上がりだ。無理を言うな」

「ミクリヤさん・・・わかった、ごめん。アル」


 低く言った雪君に、しゅんと項垂れるカイル。


「くぉらおチビちゃんっ!? そんな美少女みたいな可愛い顔してっ……いきなりアルゥラの髪を触りたいとは、なんて破廉恥なことを言うんだっ!?」

「誰が美少女顔だよっ!? 僕は男だっ!? っていうか、セクハラし捲ってバカみたいにバカなアンタに、破廉恥とか絶っっ対に言われたくないんだけどっ!? むしろ、アンタの存在自体が破廉恥且つ卑猥なんじゃないのっ!?」

 

 同感だ。


「なんだとっ、おチビちゃんのクセに生意気な!」

「僕はチビじゃないっ!!! このバカが!」


 ワーワー言い争う騒がしい声を後にして、雪君は音も無く食堂へ歩を進めた。


 そしてオレは、野菜や果物を全滅させた。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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