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※本編とはあんまり関係無い七夕企画。お遊び第八段。

 本編じゃなくてすみません。

 突発的に思い付いた話です。

「・・・・・・こうして、織姫と彦星は一年に一度の七夕の日にだけ、天の川を越えて会うことができるようになったのです」


 可愛らしい声が語って聞かせてくれたのは、タナバタと呼ばれる一年に一度、七月七日の日だけに会瀬を許される恋人達…いえ、夫婦の話ですか。オリヒメとヒコボシというアジア圏に伝わる神話の一つでした。

 中華圏では確か、ショクジョとケンギュウという名前で呼ばれていたかと思いますが。

 夏の大三角の、琴座のヴェガがオリヒメで鷲座のアルタイルがヒコボシ、だったように思います。


「どうされましたか? フェンネル伯父様」


 きょとんと僕を見上げるのは、愛らしい青い瞳。サラリと真っ直ぐな栗色の髪の毛が揺れました。

 彼女は椿の娘で、僕の姪に当たる鈴蘭という大変愛らしい椿似の女の子です。ええ、誰がなんと言おうと、椿の娘で、椿に似た、とても愛らしい女の子なのです。


「いえ、なんでもありませんよ。ただ、いつ聞いても、この話は物悲しいと思いまして」

「悲しい、ですか?」

「ええ。愛する方と、一年に一度しか会えないというのは、とても寂しいと思うのです」


 僕も、椿とロゼットと逢えない時間はとても寂しく感じるものですからね。


 そして、二人を引き離したオリヒメの父のテンテイとやらに苛立ちを覚えてしまいます。


 愛する方と一時も離れたくないというのは、とても自然なことだと思います。


 愛する方を自分の腕に閉じ籠め、自分がいないと生きて行けないと思わせる程に、どろどろに甘やかして、思う存分二人だけで素敵な時間を過ごしたいと思うことの、なにがいけないのかが全くわかりませんね。


「お仕事をサボって迷惑を掛けるのは、いけないことではありませんか? 伯父様」


 どうやら、鈴蘭は良い子に育っているようです。嬉しいことですね。


「確かに、鈴蘭の言う通りです。仕事を滞らせた結果、愛しい方と離れ離れになってしまったというのは本末転倒と言いますか・・・もしかして、ヒコボシとやらは無能なのでしょうか? 愛する方を隣で愛でつつ、仕事などは片手間でさっさと片付けてしまえばよかったのです。尚且つ、愛する方の仕事も手伝えばよかったのですよ。そうすればきっと、仕事が滞ることなどなく、二人はテンテイとやらに引き裂かれずに済んだことでしょう。ヒコボシとやらが無能だったせいで、オリヒメは寂しい思いをしているのですね」

「無能・・・」


 僕の感想に、鈴蘭がなぜか難しい顔をしています。鈴蘭には少し難しい話だったでしょうか?


「ええ。使えない男だと思います。ヒコボシは。そして、そんな使えない男と大事な娘を、よりにもよって(めあわ)せてしまったというテンテイも、大概ですよ。目が節穴なのではありませんか?」


 むしろ、そもそもの婚姻からして、間違いな話だったように感じますね。

 

「僕なら、絶対にオリヒメを手放しませんね」

「そういうお話でしたっけ?」


 鈴蘭が不思議そうに首を傾げます。


「はい。きっと一番愚かだったのは、オリヒメの気持ちも考えず身勝手に婚姻を決め、大事な娘を無能男に嫁に出した挙げ句、またしても身勝手に二人を引き裂いたテンテイという父親でしょう。どうせなら、一年に一度だけ会わせるより、綺麗サッパリ後腐れ無く、とっとと離縁させた方が良いと思います。まあ、神話とは大概、理不尽なことばかりですから、そうも行かないのでしょうけどね・・・」


 思わず溜め息を吐いてしまいます。すると、


「・・・フェンネル兄様、ちょっといいかい?」


 低い声で(あで)やかに微笑むのは、東洋風の美女。真っ直ぐな長い黒髪にキリッとした輪廓の濡れた銀環の黒瞳、象牙の肌に紅い唇。麗しい美貌を持つ僕の妹の・・・


「椿! はい、なんでしょうか?」

「ちょっとこっち来な。ああ、鈴は少し待ってな。フェンネル兄様とちょっと話して来るから」


 にっこりと、麗しいのにどこか圧のある笑顔で鈴蘭へ言い置き、椿が僕を引っ張ります。そして、


「・・・アンタはっ、子供になんてこと言うんだいっ!? 自分の考えを年端も行かない子供に押し付けンじゃないよっ!? バカフェンネルが!」


 怒られてしまい、


(しばら)く家に出禁」


 と、冷たく追い出されてしまいました・・・


 ああ、椿の愛はとても痛いです。


 椿の怒りが解けるまで、待つしかないのですね・・・オリヒメとヒコボシも、このような切なくやるせない気持ちなのでしょうか?

 読んでくださり、ありがとうございました。

 いつかの七夕が近い日のこと。

 フェンネルと鈴蘭と椿でした。

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