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少し怠いが、起きよう。

 ローレルの護衛を兼ねてと療養で、アダマスの本邸に滞在中。


「!」


 クレアがふっ、と顔を上げた。ピクリ、とその尖った耳が動く。


「どうした、クレア」


 特に、なにかの気配がする様子はない。


「・・・アルが、呼んでる」

「そうかよ」


 クレアはやたら直感が鋭い。クレアがそう言うのなら、そうなのかもしれない。

 ・・・電波とかでなければ、だが。


「行く」

「なら、レオンも連れて」

「スティングとレオンハルトは、駄目」


 行け、と言う前に、クレアに遮られる。


「は? いや、アルの捜索はローレルが」

「スティングとレオンハルトは、駄目。二人は、前にアルと会ってる。今度は、私の番」


 無表情だが、どことなくムスッとしたような声だ。どうやらクレアは、前に俺達がアルと会ったことを根に持っているようだ。


 まあ、コイツはアルとシーフを溺愛しているからな。レオンよりも、二人を可愛がっている。


 レオンも、あの二人を可愛がっている。それにはとても助かっている。多分、それなりに年が離れているのがよかったのだろう。二人への変な嫉妬はない。というか、むしろある意味、自由人…というか、割と野性の狼に近い感性のクレアよりも、レオンの方が二人の母親(・・)をしている気がしなくもないが・・・


 常識は、クレアよりも普通にレオンの方があるからな。というか、なぜかシーフの方がクレアと性格が似ている。そして、アルはレオンの方と似た。


「・・・わかった。行って来い」

「ん。行く。レオンハルトと、シーフをよろしく」

「おう」


 ローレルが倒れ、俺らが怪我をして帰って来てから、シーフは工房に(こも)り切りだ。クレアは火が苦手で、あまり工房に出入りしたがらない。

 まあ、工房への出入り自体を、今はシーフが嫌がっているということもあるが・・・


 レオンは、足留めをしろということだろう。真祖とやり合うには、レオンは明らかに実力不足。足手まといになる。


 現状としては・・・


 あの真祖が、死んでいなかったようだ。そして、ローレル(いわ)く、奴がアルと接触した、と。


 アルが奴と接触したとは言っていたが、アルが死んだとは言っていない。


 なら、アルはまだ生きている。


 拠って、真祖とアルの動向把握が最優先事項。


 可能であれば、アルを連れ戻せとのこと。


 椿ちゃん達は無事。


 そして・・・


 リリアナイトの船で、フェンネルが仮面舞踏会(マスカレイド)を開催したそうだ。

 そこで、グランデノム他、純血主義を主張し、混血排除を(うた)う主要なヴァンパイア共を一掃したようだ。

 結果、なぜかリリアナイトの船が沈没。

 詳細は不明。

 事情を知っているであろうフェンネルは今、アダマス本邸(ここ)へ向かって移動中とのこと。

 ローレルと俺らが動けない間に、フェンネルがこそこそと動いていたようだが・・・


 ローレルはフェンネルの勝手に、少々キレ気味だ。アルと奴の接触で苛ついているというのもあるが・・・これはきっと、血を見ることになるだろう。


 まあ、フェンネルは自業自得だな。


 ローレルはフェンネルを制裁し(シバい)て当分動けないようにした後、回復次第動くようだ。ある意味、愛情だと言えなくもない。八つ当りが透けて見えるが。


 俺とレオンはそれまで、ローレルの護衛兼、鬱陶(うっとう)しく(うごめ)き出した蝿共の駆除。


 さて、クレアはアルを連れて帰って来るか・・・


 side:狼夫妻。


※※※※※※※※※※※※※※※


『ねぇ、アル。(あたし)(あなた)に、思い出してほしくないんだ。忘れたままでいてほしい。お願いだから・・・』


 艶やかで優しい声が、脳裏に響く。


『思い出さないで? 愛しい(あなた)を、渡したくない』


 とろりとした眠気から・・・


「・・・」


 ゆるゆると意識が浮上して、目が覚めた。


 ぼんやりと真上に見えるのは天井。

 オレンジの柔らかい光が照らしている。

 多分、今は夜。


 一定の揺れる感覚と潮の匂い。


 そして、花の香がする。


 ここは、船の中。


 オレは、寝ていたようだ。


 なんで、ここにいる?

 どうやってここまで移動した?


 オレは確か、リリの船で・・・


 ああ、なんだか・・・ぼーっとする。


 額が鈍く疼く気がするが、痛くはない。


 状況が把握できない。


 ・・・お腹が(・・・)空いた(・・・)気がする。


 喉も渇いて(・・・・・)いるような・・・


 まあ、どうせ血は飲めそうにないけど。


「・・・」


 少し(だる)いが、起きよう。


 のそのそと身を起こす。と、


「・・・起きたの? アル」


 ハスキーな声がした。


「開けていい?」

「・・・どうぞ」


 少し掠れたような声が出た。そして、


「開けるわよ」


 シャッとカーテンが開いた。そして、見下ろすのは淡いハニーブロンドとアイスブルーの瞳をしたゴージャス美女・・・に、見えるアマラ。相変わらず、今日も麗しい美貌だ。


「おはよう。気分はどう?」

「・・・そこそこ悪い」


 溜息を吐きながら答える。


「顔見せなさいよ」


 そっと、下の方から伸ばされる白い手。


「今、オレお腹空いてるから、触ると多分エナジードレイン全開だよ?」

「少しくらい構わないわよ」


 白い手が頬へ触れ、優しく上を向かされる。


「酷い顔色ね。大丈夫なの?」

「頭痛の後はこんなもんだよ。こないだは、ルーがいたから回復が早かったんだ。もう放して。ホントに加減利かないんだって」


 頬へ触れている手から、アマラの精気を奪っているのがわかる。キスとかの接触の方が効率はいいが、あまりにもお腹が(・・・)空いて(・・・)いると、無意識にエナジードレインをしてしまう。

 多分これは、血を飲めない代わりだから、オレには抑えられない。

 半径一メートルの範囲くらいにある植物を片っ端から枯らしてしまったり、だとか・・・


 今回は養母(かあ)さんもシーフもいないから、回復までに時間が掛かるだろう。


「アンタ、昼間のこと覚えてる?」


 アマラは、オレを無視して問い掛ける。


「昼? ・・・いつの昼? っていうか、なんでオレはここに? 違う場所にいた筈だけど・・・」

「・・・覚えてないの?」


 アマラの眉が(しか)められる。


「? 記憶が飛ぶのは、よくあることだから」

「・・・どこまで覚えてるの? アンタは」


 どこまで、か・・・


 兄さん主催で仮面舞踏会(マスカレイド)をして、兄さんと踊った。それか、ら・・・?


 リリが、×××に傷付けられて・・・


「?」


 ×××、が・・・?


『駄目だよ。アル』


 瞬間、


「っ!? っ、っぐっ!?」


 ズキン! と、強烈に痛む額を強く押さえる。


「ちょっ、アルっ!?」


 激痛に、ハスキーな声が遠くなる。


「っ!? アルっ!? 思い出さなくていいからっ、落ち着きなさいっ!? アルっ!」

「っっっ、くっ・・・ハッ、はぁ・・・」


 治まった痛みに、息を吐く。


 くらくらする。気持ち悪い。


 喉が、渇く。血が、欲し・・・


 いや、この状態じゃ飲めねぇし。


 絶対ぇ吐くだろ。


 この、矛盾した気持ち悪い感覚に・・・自分が、欠陥品なのだと思い知らされる。


 酷く、(いや)な気分になる。


「……っとアル! 大丈夫っ!?」


 ガッ、と肩を掴まれ、遠くなった音が戻る。


「(ジンっ!? 今すぐ来てっ!?)」

「・・・大丈夫。治まったから」

「ンなワケないでしょ! そんな蒼白な顔で!」


 アマラが言うと、バタバタと足音がしてドアの開く音がした。


「アルちゃんはっ!? 退()いて、アマラ。アルちゃん、大丈夫? 頭痛いの?」


 慌ただしく入って来た声に、緩く首を振る。


「少し触るよ?」


 頷くと、熱い手に左手首が取られる。


「・・・脈が、少し速いかな。気分はどう?」

「そこそこ悪い」

「痛いところはある?」


 首を横に振る。


「右肩とか、右腕に痛みや違和感は?」

「? 特に無いけど?」

「・・・少し触っていいかな?」

「腕なら」


 右腕を差し出すと、そっと袖が捲られる。なぜか巻かれていた包帯の上から、確かめるように腕が触れられた。


「痛くない? 肘はどう?」

「? 特になんとも・・・オレ、自傷でもした?」


 眼鏡越しの琥珀を見上げると、少し困ったような表情。


「いや、そうじゃないけど・・・三日…いや、もう四日くらい経つかな? 前に、右肩を脱臼。肩は填められてたけど、筋肉を少し傷めていて、右腕にはヒビが入っていたんだよ。もう、治っているみたいだけど。覚えてない?」


 四日前? 脱臼と、ヒビ・・・


「ジン、聞かなくていいわ」

「え? でも」

「いいから聞くな!」

「わかったよ。じゃあ、別の質問。自分の名前はわかる? ここは? 俺達のことはわかる?」


 オレは・・・アレクシア・ロゼット・アダマス。それが、名乗ることが許されていないオレの本名。


 大丈夫(・・・)ちゃんと(・・・・)答え(・・)られる(・・・)


「アル……ソーディ」


 と、この船では名乗っている。


「ここはアマラの船で・・・ジンと……」


 青みがかった銀髪、琥珀の瞳に眼鏡を掛けた長身の白衣の男。そして、人狼。確か、養母さんのイトコを母親に持っていて、レオとはハトコに当たる。


「アマラ」


 淡いハニーブロンドの豪奢な巻き毛にアイスブルーの瞳、白い肌、赤い唇。少しキツめの顔立ちでドレスを(まと)ったゴージャスな美女! …に、見える美貌の、女装人魚。


「家族とか、自分の家はわかる?」


 それには答えないで、頷くだけに留める。


「そっか。なら、大丈夫だね。よかった」


 安心したように微笑むジン。


 家族・・・兄さんはどうなったのだろうか?

 あの時点ではもう、兄さんはいなかった。

 リリが逃がしたのだと思う。

 でも、それならリリは?


 とりあえず、兄さんの安否は後で姉さんに確認することにして・・・


「誰が、オレをここに?」


 聞くと、ジンとアマラが顔を見合わせた。


「・・・バカ馬よ。トールが、意識の無いアンタを運んで来た」

「・・・そう。わかった」


 リリのことは、あのバカへ聞こう。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々のスティングとクレアです。シーフとレオのこともチラッと・・・

 そして、フェンネルはローレルに八つ当り兼、お仕置きされることが決定。

 アルも、ちゃんと起きました。

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