表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/179

俺は男とは話さんっ!

「!」


 なにかが、来る。


 物凄い速さで、ここへ近付いている。


 それを確かめる為、ドレスの縫製を中止し、パッと甲板へと移動する。


 夜明け前の白んで来た空の反対側から、


「見えないわね・・・」


 と言った側から、なにかが近付いて、!


「っ!? バカ馬っ!?」


 なんでバカ馬がここに?


 とりあえず、船を移動・・・


「? は? なんでバカ馬が?」


 小娘の、気配? アルは、あのバカ馬をとても嫌っていた。追い掛けられているのかしら?


 空を見上げるが、アルの姿は見えない。相当高い高度を飛んでいるのかしら?


「・・・なんにせよ、迂闊に船を出すワケには行かないわね」


 むしろ、あのバカ馬の方へ動かす・・・までもなく、バカ馬が船へと猛然と突っ込んで来た。


 そして、


「とうっ!?」


 大きく高く跳ね上がり、


「今すぐ医者を出せーっ!?!?」


 バリトンを響かせて甲板へ着地した。


 その腕には、目を閉じたアルの姿。


「っ! ジンっ!?」


 大声でジンを呼ぶ。と、


「どうかした・・・って、アルちゃんっ!?」


 (いぶか)しげな顔で出て来たジンが、血相を変えてバカ馬の方へ向かう。


「なにがあったっ!?」

「主な怪我は、右肩の脱臼と右腕の痣。右腕の方はもしかしたらヒビが入っているかもしれない。一応、右肩は入れたが、筋肉や腱が心配だ。以上」


 バカ馬はそう言うと、そっとアルをジンへ渡す。


「早く診てやってくれ」

「わかった」


 ジンが意識の無いアルを連れて素早く医務室へ移動した。すると、


「どういうことだ?」


 緑みを帯びた飴色を、剣呑に光らせた低い声。そして、音も無くアーミーナイフを構えたギラギラと光る猫の瞳が、バカ馬…トールを捉える。

 いつでも斬り掛かれるように。


「俺は男とは話さんっ!」


 キッパリとした馬鹿馬鹿しい言葉に、ざわりと殺気立つヒューとミクリヤの二人。


「だが、美女モドキに、可憐な人魚のお嬢さんからの伝言があるから特別だ。一度しか言わん」


 トールは物怖じせず堂々と告げる。


 誰が美女(もど)きよっ!? と、怒鳴り付けたいところだけど、それは堪える。


「・・・聞きましょう」


 と、アタシが応えると、


「アルゥラを・・・『アル様の親族を名乗り、迎えに来る純血の方へは絶対に渡さないでくださいませ。アル様をお守りください。お願い致します』以上が、人魚のお嬢さんからの伝言だ」


 低いバリトンが百合娘の言伝を伝えた。


 緊張を孕み、しんとする甲板。

 潮騒の音が、やけに響く。


 アルは仕事だと言って、純血のヴァンパイア達のいるパーティー会場へ向かったという。

 カイルとジンが言っていた。


 そして、怪我をして意識を失った状態で、トールへ抱えられて帰って来た。


 更には、百合娘の伝言。


 純血共となにかあったと考えるのが自然だ。


「・・・なにがあった」


 低い声が言う。しかし、


「・・・」


 トールは答えようとしない。


「なんか言えよ、おい」

「・・・」

「だんまりってンなら、力付くでも話させる」


 スラリと抜いた剣を、トールへ向けるヒュー。


「・・・」


 そして、それでも黙り続けるトールの背後へ、ミクリヤが音も無く回り込む。


「いい度胸だ」


 剣呑に光る緑みを帯びた飴色の瞳。


 side:アマラ。


※※※※※※※※※※※※※※※


 アルゥラが可憐な人魚のお嬢さんと着替えに行って、少し経ってから・・・


「大変不本意且つ、非常に心配が尽きませんが、あなたへお願いしたいと思います。どうか、アル様を・・・アマラ様の船までお連れください」


 可憐な人魚のお嬢さんが一人でパーティー会場へ現れ、深々と俺へ頭を下げた。


「わたくしへ払える対価なら、なんなりと仰ってください。最大限努力致します」


 魅惑的なソプラノが切々と頼む。


「そうだな・・・なら、お嬢さんのキスを」


 と、冗談めかして言ってみたら、決死の表情で俺を見上げる可憐な人魚のお嬢さん。


「では」

「いやいや、お嬢さん? 今のは冗談だ冗談。本気にしないでくれ。俺は、女が大好きだからな。無理強いするのは嫌いなんだ。特に、既に好きな奴がいる女に、無理矢理手を出すことはしない」

「え?」


 驚いたように見開くアクアマリンの瞳。


「女の嫌がることをしないのが信条なんだ。ま、女の方から誘って来るなら別だがな?」


 パチンとウインクをすると、スッとまた元のように温度を下げるアクアマリンの瞳。


「そうですか」

「ああ。ところで、お嬢さん。今更だが、俺の名前はトゥエルナキス・デザイン・ヴァイオレットだ。気軽にトール♥️って呼んでくれ。勿論、ハートマークは忘れずにな?」

「・・・では、バイコーンの殿方」


 低くなるソプラノ。


「フッ、お嬢さんは恥ずかしがり屋さんのようだな? だが、俺をバイコーンと呼ぶのはやめてほしいんだ。ユニコーンのクソ共が、殺しに来るかもしれないからな。アルゥラも、自分をユニコーンだとは絶対に名乗らないだろう? 俺も普段は、自分を水棲馬(ケルピー)だと称している」


 水棲馬(ケルピー)は全くの別種ではあるが、バイコーンと似たような特性を持つ種族だからな。角さえ出さなければ、判別が難しいだろう。無論、俺は人間を喰うことはしないが。


「・・・理解しましたわ。では、ヴァイオレットさん。で、宜しいでしょうか?」

「ああ、それでいい。お嬢さんは?」

「わたくしはリリアナイト・ローズマリーと申しますが、名前を呼ばれたくありません」

「それじゃあ、人魚のお嬢さん」

「はい」

「アルゥラを、船へ連れて行ってほしいというのは、あの美女モドキのいる船でいいんだな?」

「美女(もど)き・・・まあ、アマラ様はお美しい方ですわね。ええ。その船ですわ。そして、もう一つお願いがあります」


 溜息を吐きながら頷き、俺を見上げる人魚のお嬢さん。アクアマリンの真剣な色。


「なんだ? 俺は基本、女の頼みは断らないぜ」

「・・・本当に、女性がお好きなのですね」


 呆れの入った、けれど少し優しい声が言う。


「アルゥラも、女に甘いだろう? 似たようなもんだ。無論、俺の方が女好きは上だがな!」


 女好きは、バイコーンやユニコーンの種族特性だからな。それはもう、治しようがない!


「・・・そうですか。では、今夜のことは他言無用でお願い申し上げます。アル様の血統、そして真祖の君とのご関係、この場で起きた出来事。全てを秘してくださいませ」

「わかった。まあ、元々よくわかってはいないが、アルゥラがあの真祖のガキに酷いことをされたというのは、判る。それらを含め、アルゥラのことを他言するつもりは端から無い」

「そうですか。配慮に感謝致しますわ。では、アマラ様…ヴァイオレットさんの言う、美女擬きの方へ伝言をお願い致します」


 ホッとしたという風な人魚のお嬢さん。余程アルゥラのことが心配だったらしい。


「任せとけ!」

「では・・・アル様の親族を名乗り、迎えに来る純血の方へは絶対に渡さないでくださいませ。アル様をお守りください。お願い致します。以上です」


※※※※※※※※※※※※※※※


 そして、人魚のお嬢さんから託された、気を失っているアルゥラを抱えてこの船へ来たワケだが・・・


 俺は男とは話さんと言ったのに、それを理解しないアホ野郎共が、なぜか殺気立っている。


 ピリピリと突き刺さる怒気混じりの殺気。


 なぜだ? ()せん。


「ハッ、そうか! 俺は前々からわかっていたが・・・さてはお前ら、頭が悪いなっ!」

「あ゛?」


 瞬間、鋭い殺気が迸った。しかし、


「なんだ? 遅ぇ」


 背後から襲い来る小さい野郎を半身になって避け、前から来る更に遅い刃を軽く蹴って逸らす。


「チッ…」

「なっ!?」

「バっカじゃねぇのお前ら。そんな遅ぇ攻撃が俺に当たるワケねぇだろ? せめてアルゥラくらいの速度出せよ。まあ、それでも食らってやらんがな! あと、俺は男には優しくしねぇ!」


 まあ、俺は一応ユニコーンと、女へ非道な真似をするクソ共以外は殺さないと決めているが・・・


 誰が馬鹿正直に攻撃を食らうか!

 当然、逸らすくらいはする。その余波で腕や肩を傷めようが、そんなことは知らん!

 男にそんな配慮はしてやらん!

 馬鹿共の自業自得だ!


 男なんぞどうでもいいわっ!!!


 side:トール。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々の面々。ピリピリしてますが、やっぱりトールは締まりませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ