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・・・相変わらず、度し難い程愚かだな。

 とりあえず、状況は把握した。


 けど・・・ああ、頭が痛い。


 脈拍に合わせて、ガッツンガッツン! 痛覚神経をハンマーでぶん殴られている感じ。


 この激痛、心臓が弱かったり、痛みへの耐性が低い奴なら、とっくにショック死か発狂しているレベルの痛みだって・・・


 それに、頭が一番痛いから判り難かったけど、胸も痛い。あの(しるし)が消えて火傷をしている・・・のは仕方ないとして、胸骨もヒビくらい入ってないか?

 右肩は脱臼しているしさ?


 あちこち、ぼろぼろじゃないか。


 ふらふらする。


 本当に、心底から気分は最悪だ。


 女の子になんて扱いをするんだ。


 まあ、想定していた最低最悪の状況(・・・・・・・)でないことは、素直に僥倖(ぎょうこう)だと言えるけど・・・


 それにしても、あのイリヤに笑顔を向けられるだなんて、考えもしなかったよ。


 全く・・・


「ところで、誰がクズだって?」

「君に決まってるだろう? イリヤ」

「減らず口」

「君とまともに会話をしてくれるような奇特な奴は、なかなかいないと思うんだけどな?」


 イリヤは、会話自体が嫌いなワケじゃない。単に、気に入らない相手とは、会話をしないだけだ。それで必然的に、会話ができる相手が非常に少ない。


「・・・」


 図星のようで、嫌そうな顔で口を閉じるイリヤ。


 額に手をやり、俺の血を入れて血晶(けっしょう)にする。


「それで、オレをどうするつもりだ? イリヤ」

「俺? 君、そんな喋り方をしてた?」


 怪訝な顔をするイリヤ。


「悪い?」

「別に。どうでもいいよ。僕は君になんか興味無いし。どうでもいいんだから」

「あのさ、興味無いなら、放っといてくれない? 君が殺したいのは純血の連中だろ。オレは、君の殺意の対象には入らない筈だ」


 イリヤが放っといてくれれば、こんなにぼろぼろになることも、俺が出て来ることも無かったのに。


「なにを言ってるの? ルチル。僕は、君自身には一切興味は無い。でも、君に流れているのはアークの血(・・・・・)だ。そんな君を、僕が手放す筈ないだろう。恨むなら、ローレルを恨みなよ? 君を、アークに逢わせたっ…ローレルをさ!」


 金眼に(たぎ)る憎悪の色。


「それで、オレをどうするつもり?」

「僕と来い。ルチル。君は僕のモノだ。僕から逃げるなんて、(ゆる)さない」

「オレを、殺したクセに」

「君は僕が血を与えて(・・・・・)、名前まで付けた僕のモノ(・・・・)なんだから、僕が君をどうしようと僕の勝手だ。アークを見付けるまで、僕の傍にいろ。ルチル」


 ああ、本当に・・・


「・・・わかったよ。イリヤ」


 君が昔から、何一つ変わってないことを。


 本当に君は・・・


「アレク様っ!?」

「アルゥラっ!?」


 上がる声を無視して歩を進めると、ゆるりと嬉しげに弧を描く薄い唇。


「君へ血を提供すればいいんだろう?」


 手を開いて、血晶をイリヤへ差し出す。


「血晶? 手を出しなよ。飲ませろ」


 金眼に点る、赤い煌めき。


「嫌だよ。君、ぼろぼろじゃないか。そんな状態で吸血(キス)なんかされたら、君に殺される。また(・・)君に殺されるなんて、絶対に(いや)なんだけど?」

「・・・殺しは、しない。まだ、君は・・・アークが、見付かるまでは・・・」


 戸惑うような低い声。


「なら、我慢できるの?」

「・・・」


 イリヤは不満そうに血晶を受け取ると、それを口へ含む。そして、ゴクリと飲み込んだ。


「? なんか、味が・・・?」

「・・・眠りなさい。イリヤ」

「・・・ルチル?」

「眠れ。深く。死んだように。深く深く。その意識を。奥底へと沈めろ」

「な、にを・・・?」


 side:アルor???。


※※※※※※※※※※※※※※※


 急激な、強い眠気、が・・・


 ゆらり、と揺れる視界。


 力が抜けて傾いだ身体が、細い片腕にふっと受け止められる。柔らかい感触と、ふわりと香る甘い血の匂い。


「おやすみなさい。イリヤ」


 耳元に囁かれるのは、魔力の(こも)る言葉。


「いい夢を、魅せてあげる♥️」


 どこか、聞き覚えのあるような・・・とても女らしい、色気を含んだ甘ったるい、声の、響き、が・・・?


「! お、前っ…ルージュ、エリアルかっ…」

「正解♥️この子の血で、あたしの血を(くる)んだの。強力な眠りを付与した、(あたし)の血を。普段の(あなた)ならいざ知らず、今の弱っている(あなた)になら、よく効くんじゃないかしら?」


 クスリと、ルチルの声が妖艶に笑う。


「なん、で…お前、が…ルチル、に…」


 とろりとした眠気に落ちそうになる意識の中、


「言ったでしょう? イリヤ。(あたし)の子供()に手を出さないでって」


 ルチルの声で、ルージュエリアルが言う。


「お前、の・・・?」

「ナイトメアのメアには、馬の(いなな)きって意味があることを、知らないワケじゃないでしょ?」


 ナイトメア。

 それは、夜に聞こえる馬の嘶きを意味する言葉。

 その昔。夢魔は、馬の形をしていると信じられていた。悪夢を連れて来る、目には見えない、邪悪で淫蕩(・・・・・)とされる、馬の形をした悪魔(・・・・・・・・)を指す言葉。


 そしてバイコーンは、邪悪で淫蕩とされる(・・・・・・・・・)角が二本ある馬(・・・・・・・)のこと。


 ユニコーンは、そのバイコーンの亜種。


 つまり・・・


「ルチル、は…お前、の・・・」

「そう。可愛い可愛い(あたし)の子供の一人。だからこの子は、(あたし)の血筋のモノとは相性がいい。こうして、意識を乗っ取ることができるくらいには、(あたし)自身ともね?」

「っ・・・」


 なぜか、湧き上がる怒り。


「返、せっ…ルチル…は、僕の…」

「・・・相変わらず、度し難い程愚かだな。君は」


 怒気で一瞬散った眠気が、また襲って来る。


「だ、れ…がっ…」

「その感情の意味を知らない君が。ローレルもアークも、(あたし)だって、とっくの昔に気付いていた。知っていた。理解してないのは君だけだ。イリヤ」

「・・・?」


 音が、段々と遠くなって行く。


「初対面のバイコーンの子だって、人魚の子だって、すぐに判ったことを」


 とろりと瞼が重く・・・


「そもそもヴァンパイアは」


 意識が、


……………(愛するモノ)の血を欲し」


 閉じて行く・・・


……………(愛するモノ)…………(自分の血)……………(満たしたい)と願う……………(因果なモノ)、だろう? ねぇ、イリヤ。(あなた)は、アークとアルの…………(どっちに)……………(嫉妬してた)んだろうね? まあ、考えたことも無さそうだけど」


 ルージュエリアルが、僕へなにを言ったのかはわからないままに・・・


「そんな・・・(あなた)みたいな愚か者に、(あたし)の愛し子を渡して堪るか。寝てろ」


 闇へと、ゆっくり堕ちて行く・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 side:イリヤ。

 読んでくださり、ありがとうございました。


 ということで、またまたネタバレ回です。


 キーワードは、ヤンデレ・愛憎・執着。

 イリヤは馬鹿ですねー。ローレルやアーク、夢魔のヒトが怒るワケです。

 そして、夢魔のヒトが途中からアルを乗っ取ってました。

 もしかして、アルって実は夢魔のヒトの子孫なんじゃ・・・と思っていた方もいるかもしれませんね。


 ちなみに、ナイトメアがバイコーンの~というのは、書いてる奴のオリジナルです。呉々も鵜呑みにはしないでくださいね?

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