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甘くて美味しい、僕の愛する血の味。

 流血注意。

 肩までかかる紫がかった漆黒のストレート。垂れ目気味な蘇芳(すおう)の瞳。その右目の下には泣き黒子(ぼくろ)。褐色の肌で長身の・・・バイコーン。



 その男が、ぐったりとした僕のモノ(・・・・)を腕に抱いて意味不明で馬鹿馬鹿しいことを喚いている。


「大体だなっ、角が生えてる連中にとって角は急所であると同時に、身内にも滅多に触れさせないとても神聖なものなんだぞっ!? その中でも特に、ユニコーンのクソ共はプライドが高くて…いや、アルゥラはユニコーンじゃないがっ! それでも、他者へ(ひざまず)くことをよしとはしない筈だっ! 額へ…その角へと触れてもいいのは、アルゥラが認めて・・・(つが)う相手だけの筈だっ!? それを、無理矢理愛を交わそうとするなど言語道断っ!? 鬼畜か手前ぇはっ!!!」


 アイヲカワス?


 なにを言っている?


 意味がわからない。


 ただ、アークの血を飲むことを、この馬鹿に邪魔されたのは事実だ。


 そしてそれは、僕のモノ(・・・・)だ。


 僕の血筋で・・・アークが血を与え(・・・・・・・・)、そして僕が血を与えた(・・・・・・・)モノ。僕が名前を付けた(・・・・・・・・)モノ。


 昔よりも色々と混ざっているけど、それでもルチルからは、アークの血の味がする。

 甘くて美味しい(・・・・・・・)僕の愛する(・・・・・)血の味。

 だから、アレ(・・)は僕のモノだ。


 幾らバイコーンが、大の女好きで常に盛っているような、淫蕩で頭の悪い馬鹿な種族だとしても、僕のモノを取ることは(ゆる)さない。


 それに・・・


誘惑者(アルゥラ)、だと?巫山戯(ふざけ)るな。それ(・・)は、僕のモノだって言っているだろうが」


 なんだか、凄く苛々して来た。

 なぜかこの馬鹿は、物凄くムカつく。


「あ? 魅惑的(アルゥラ)な女を魅惑的(アルゥラ)と呼んでなにが悪いっ! それに、好きな女を苛めるだなんて物凄くカッコ悪いぜっ! そんな幼稚な愛情表現は幼児の間に終わらせとけっ! ガキがっ!!!」


 意味が、わからない。


「っ・・・ルチル」


 side:イリヤ。


※※※※※※※※※※※※※※※


 呼ばれた。×××に・・・


 オレ、は・・・?

 ボクが・・・?

 わたしを・・・?


 誰が、呼んだ・・・?


 苛立たしげな、彼の声。


 痛む角、ぬるりと流れる熱い赤。


 あのとき…も、わたしは・・・?


 わたしは、彼に殺されるのだと・・・


 ああ、頭が痛い。


 彼って誰だ? なんで頭がこんなに痛む?


 脈動に合わせ、ガツンガツン神経を直接殴られているような激痛。


 痛い、苦しい・・・


 熱い血が、流れ・・・


 酷く、頭が痛む・・・


「ルチル。来い。君は、僕のモノだろう」


 ああ、×××が、呼んで・・・


 刺々しいのに、寂しそうな声が・・・


 わたし(・・・)を、呼ぶ。


 与えられた血が、呼ぶ・・・


 だから、行かなきゃ・・・


 常に、寂しいと全身で叫んでいるような・・・


 彼が求めるのは、わたしじゃないけど・・・


 でも、彼が呼ぶから・・・


「・・・×()×()×()・・・」


 呟いた瞬間、オレの意識は闇に飲まれ・・・


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 side:角を砕かれた混血のユニコーン。


※※※※※※※※※※※※※※※


 苦痛に(うめ)いていたアルゥラが小さくなにかを呟いた瞬間、ふっとその身体が脱力した。どうやら意識を失ったようだ。


 さて、どうするか・・・


 アルゥラを抱えて逃げるにしても、あっちで床に座り込んで、こちらを悲痛な顔で見ている女の子もいる。あの子も抱えて、真祖から逃げる・・・


 まさに両手に花という状況っ! 美少女二人を抱えて颯爽と助ける格好いい俺っ!

 ではあるが・・・少々状況が厳しめだ。


 アルゥラと、あの彼女も怪我を負っているようだし、おまけにアルゥラは意識を失った。


 それでもおそらく、逃げ切ることは可能だ。


 多分、本気を出せば・・・振り切れる。


 しかし・・・この状態のアルゥラを、動かして大丈夫なのか? という問題がある。


 角は、まさしくユニコーンの急所だ。角を折られて生きていること自体が、まず奇跡と言える。


 その、角が折れている状態のアルゥラを動かすことへの不安だ。


 この真祖のガキから逃げるとなると、本気で走らなければいけないだろう。

 それも、獣型の俺の背中へ乗せての全速力、となる。果たして、この状態のアルゥラが、その負荷へ耐え切れるのか・・・?


 逃げることで、アルゥラへ更なるダメージを与えてしまうことは、なるべく避けたい。


 だから今は、下手に動けない。


 さあ? 動くか、動かざるべきか・・・


 そう逡巡していたら、


「っ、ぅ・・・」


 閉じた白い(まぶた)がゆっくりと開いた。


「!?」


 それは、常の翡翠ではなく、以前にアルゥラに異変が起こったときに見た・・・赤い(・・)色の瞳。


「アルゥラ?」

「・・・あぁ、頭痛い。本当に、最悪だ」


 掠れたアルト。蒼白な顔を(しか)め、額を押さえる赤い瞳(・・・)のアルゥラ。その赤い瞳が、俺を見上げた。


「・・・降ろしてくれる?」

「大丈夫、なのか? それ・・・」

「まあ・・・あんまり大丈夫、ではないけどね。なんとかするさ」

「・・・無理は、しないでくれ」


 そう言ったアルゥラの意志を尊重して、そっとアルゥラを床へと降ろす。


「・・・やあ、イリヤ。久し振りだね。相変わらずの容赦ないクズっ振り。お陰でぼろぼろじゃないか」


 脱臼した肩をそのままに、アルゥラは黒髪金眼のガキへ、どこか親しげに語りかける。


「容赦も手加減もしている。優しくしているだろう? そうじゃなきゃ、君なんかとっくに殺してるよ」

「手加減してこれか・・・全く・・・まあ、君が隷属を()いてないというのは収穫、かな?」

「? 君ってそんな喋り方だっけ? ルチル」


 首を傾げたガキへ、アルゥラが一歩踏み出す。


「アルゥラ!」


 思わず呼ぶと、振り向いたアルゥラの唇が、


・・・(大丈夫)・・・(任せて)


 音無く動いた。そして・・・


 side:トール。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 前回トールが、愛がどうこう言っていた理由ですね。そして、即行で逃げない理由。

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