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早くダンスを終えて頂けませんことっ!?

 シスコン、百合注意。

「あの女嫌いの貴公子がっ…」「誰だあの女は……」「冷血の君は確か、妹御にしか……」「黒髪の……」「妹君の代わり……」「妹も混血だとか」「あの混ざりモノはブライトに」「ああ、だから……」「それで」「どうせ(たわむ)れに決まっている」「所詮は愛玩用」「やはりアダマスは変り者の……」「当主も他種族の女と……」


 わー、兄さん驚かれてるー…

 っていうか、愛玩とか、姉さんの代わり、ね…

 純血共、発想からして下衆(げす)なんだが?


 まあ一応、そういう風に思わせる為に姉さんに寄せた変装なんだけど、思ったよりも気分悪ぃな。


 そして、オレを見詰めてぼーっとしている兄さん。いい加減放してほしいと思う。


「…フェンネル様?」


 高い声作るのもなぁ。

 あと、この令嬢な喋り方、舌噛みそう。


「っ…はい、どうしましたか?」


 一拍遅れて反応する兄さん。なんだろ?


「フェンネル様こそ、どうされましたか?」

「愛しい貴女が、僕を呼んでくれることが嬉しくて。どうか、もっと僕の名前を呼んでください」


 にこりと微笑む兄さん。


 フェンネル、と呼ばれて喜んでいるらしい。まあ、普段は兄さんとしか呼ばないからな。


 というか、そんなことより、恥ずかしいんだよね。ここ、衆人環視なんだからさ?


「そんなことより、早くお放しください」

「放したく、ありません」


 いや、切なげに言われても困るんだけど?


 次の段取り的には、確かダンスだった筈。女側から誘うことはあまり宜しくないとされているんだが、仕方ないか。


 曲は開始の合図で始まっているけど、最初に主催側の要人が踊らないと、ダンスは始まらない。


 一応、仮面舞踏会(マスカレイド)も舞踏会だからね。


 男が苦手なリリに踊らせるワケには行かない。


 というワケで、ダンスを始めてしまおう。


 そしてオレは、さっさと引っ込んでリリを愛でつつ癒されたいと思う!


 ここは居心地が悪い。疲れる。

 兄さんが他の連中相手にしている間に・・・


「? ・・・!」


 というか、今思ったんだが、兄さんが招待客を相手にしてる間に、オレ帰れるんじゃね?


 よし決めた! さっさと引っ込もう!


「では、踊りませんか?」


 首を傾げて聞くと、


「っ、これは失礼を。貴女に見蕩(みと)れていたとはいえ、まだダンスを申し込んでいませんでしたね。では、レディ。僕と踊っては頂けませんか?」


 ハッとしたようにオレから離れ、にこりと微笑みながら手を差し出す兄さん。


「はい」


 兄さんの手に手を重ねて微笑む。


 兄さんに引き寄せられて、ホールド。

 あ、そうだ。今日は女役だった。危ない。

 危うく兄さんをリードするところだったぜ。

 リリや鈴蘭(スズ)と踊るときは男役だからな。女役で踊るのは久々だ。大丈夫かな?


 一歩を踏み出し・・・


 最初は久々過ぎてちょっとぎこちなかったけど、兄さんがやたら張り切ってリードしてくれるから、段々と足運びを思い出して来た。


 ワルツのリズムに乗ってくるくると踊る。


 色々と外野は煩いが、オレ達が踊りを開始したからか、他の招待客の方もちらほらと踊り始めている。


「やはり、動いている方が気が紛れますか?」


 耳元に小さく囁くテノール。


「?」

「先程より、表情が柔らかくなったので」


 にこりと微笑む口元。


 一応、お互いアイマスク付けてんだけどね? まあ、機嫌くらいは普通に判るか。


 そりゃあね、そこそこ楽しくない。

 いろんな陰口や嘲笑、侮り、嘲り、そして好奇の視線なんかはかなり気分悪い。


 ホンっト…ぶっ飛ばしたくなるぜ…

 我慢するけどね! どうせ喧嘩売ったって、純血のヒト達には勝てないの判ってるからさ。


 馬鹿な若い純血と一対一なら()(かく)、これだけの人数がいる中で喧嘩売ったら瞬殺確定だろう。無謀なことは、するものじゃない。


 そして、踊るヒトが増えると、オレを凝視して来る(いや)な視線減るし。


「やはり貴女は、ダンスがお上手ですね」

「それは・・・フェンネル様がわたしをリードしてくださるから、です…」


 兄さんに引っ張られなかったら、女役で動くのを忘れてたからね。危うく兄さんに恥を掻かせるところだったぜ。


「っ…貴女は全く…可愛いことを言ってくれますね? 愛していますよ」

「っ…」


 嬉しげに笑んだ唇が、頬を掠める。


「けれど、あまり僕を困らせないでください」

「?」


 いや、衆人環視でなにしてンのっ!? って言いたいのはオレの方なんだけどっ?


吸血(キス)を、したくなってしまいます」


 熱を帯びたテノールの囁き。仮面(アイマスク)の奥、セピアに灯る赤い燐光に、血の気が引く。


「…フェンネル、様?」

今は(・・)我慢しますよ? 今は、ですけど・・・後で、たっぷりと吸血(キス)をさせてくださいね?」


 にこりと微笑む口元に覗いた白い牙。


 やベェ・・・後が怖いっ!? 物凄くっ!?


 早く帰ろうっ!?


 side:貴公子の恋人役。


※※※※※※※※※※※※※※※


 ・・・アレク様とっ、フェンネル様が身を寄せ合ってダンスをっ!?


 ああっ、なんて妬ましいっ!?


 リリもアレク様と踊りたいというのにっ!?


 無論、アレク様は燕尾かタキシードで、リリを優しくリードしてくださいます♥️


 まあ、麗しいドレス姿でも構いませんが♥️


 ですがっ・・・今回は衆人環視のパーティーです。


 幾ら無礼講の仮面舞踏会(マスカレイド)とはいえ、他の参加者がいますからね。女性同士でパートナーを組むワケには行かないのです。


 ああっ、フェンネル様が憎いですわっ!?


 なんですのっ? あんなにアレク様へ密着してっ!? しかもっ、黙って見ていれば先程からっ・・・


 アレク様へ不要なキスばかりっ!?!?


 見せ付けてくれますわねっ!?!?

 わたくしへの嫌がらせですかっ!?

 当て付けなのですかっ!?

 全くっ、フェンネル様は本っ当におヒトが悪いのですからっ!?


 ・・・そして、二重の意味で不愉快です。


 わたくしが、フェンネル様を見ているのだと、リリがアレク様へ嫉妬をしているのだという、見当違いのさざめきが、酷く不愉快ですわ。


 全く、勘違いも甚だしいですこと。わたくしが好きなのは、フェンネル様ではありません。


 その誤解が非常に腹立たしいですわ。


 リリが愛しているのはアレク様ですのに!!!


 アレク様が、好きなのですっ!?


 フェンネル様など眼中にありませんわっ!?


 まあ、面倒なので主張は致しませんが。


 ダンスが終わればアレク様はリリのところへ来て頂くので、それまでの我慢ですっ!?


 わたくしをダンスに誘いたそうにしている殿方もおりますが、鬱陶(うっとう)しいので空間を操作して、殿方を一定距離以上には近付けておりません。


 この船は、わたくしの領域(テリトリー)ですからね。


 アレク様がリリの下へ来られたら、この空間操作でお守り致しますわ♥️


 無粋な殿方など、一歩も近寄らせませんっ!


 ですからっ、フェンネル様!

 早くダンスを終えて頂けませんことっ!?


 side:嫉妬する人魚。


※※※※※※※※※※※※※※※


 血…の、匂い。が、する…


 君、の…?


 ああ、そんな…ところに、いたの?


 待って、て…


 今、行く。から、さ…


 ああ、でも…その、前に…


 血を、飲まないと・・・


 なんでも、いい…から。血、を…


「? なんだ? 汚ならしい蝙蝠だな」


 血、を・・・


「ヒッっ!? な、なにを・・・っ!?!?」


 side:???。


※※※※※※※※※※※※※※※


「?」


 気のせいでしょうか?

 今、悲鳴のようなものが聴こえたような…?


 まあ、純血の方々の集りですからね。


 仲の悪い方々も関係無く招待致しましたから、パーティー開始早々、仲の悪い方同士で殺し合いでも始めているのでしょう。


 血(なまぐさ)いことですね。


 少し気にはなりますが・・・

 まあ、いいでしょう。


 そんなことより、アレク様ですわっ!?


 side:リリアナイト。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 じわじわと不穏さがにじり寄って来てます。

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