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煩いよ、ヤブ医者。余計なお世話。

 視点がまたアルじゃないです。

「ん…」

「あ、起きた? どこか痛いところとかある? 自分の名前は言える?」


 目を覚ますと、不愉快な声がした。しかも、意味不明な質問が立て続けにされている。


「・・・は? なにアンタ、ふざけてンの?」

「残念ながら、今は全くふざけてないんだよね。医者としての真面目な質問。はい、さっさと答える。君は、どこの誰かな? で、俺の名前は言える?」


 銀色の髪、眼鏡を掛けて白衣をまとう長身の男。僕は、この男が嫌いだ。人狼の闇医者、ジンが僕を見下ろして言った。


「・・・カイル。この船の、ブラウニー」


 嫌々答える。


 ブラウニーというのは、人間の家に住み着く妖精のこと。お菓子やミルク、綺麗なものが大好きで、住み着いた家の家事を手伝ったり、気に食わない住人には酷い悪戯いたずらや嫌がらせをしたりする。僕は、そのブラウニーのはぐれ者。前に住んでいた屋敷を火事で焼け出され、途方に暮れていたところをヒューに拾われた。今は、この船に住んでいる。


「……ヤブ医者」

「・・・ま、いいけどね。それで、痛いところは? 目眩めまいとか、手足の痺れの有無。違和感があったりする?」

「……特に無いよ」

「そう。それはよかった。なら、目を覚ます前の記憶はどこまで辿れる?」

「え?」

「君は今朝早く、ミクリヤと出掛けた。そして、今は夕方の五時。空白の時間があるよね」

「は? 夕方?」

「そう。今は夕方。外を見れば判るよ」


 ジンが示したカーテンを開けると、空が赤く染まっていた。


「な、なんで…??」


 意味がわからない。丸半日以上、記憶が飛んでいることになる。


 今朝の夜明前、ミクリヤさんが食材の買い付けに行くと言って、僕はそれに付いて行った。手分けした方がいいと提案して、ミクリヤさんと別れた。それから・・・


 それから、確か…女の子がいたんだ。

 漁港には不似合いなドレス姿の女の子がいて、それから……え~と??


「駄目だ。思い出せない」

「その女の子、吸血鬼だったらしいよ?」

「は?」

「君がはぐれて、いつまで経っても帰らないときに、ヒューの嫌な予感発動。で、俺とミクリヤは君を探して駆けずり回ったってワケ。俺が君の匂いを追って、ヒューとミクリヤが吸血鬼の屋敷に突入。無事、君を救出。まあ、少々ごたごたがあったワケだけど」

「待って。意味わかんない」

「だろうね。君は眠らされて、吸血鬼の食事にされる直前で助けてもらったんだよ。その子(いわ)く、君はただ寝かされているだけって話だったけど」

「……その子? 誰それ?」

「今から会えるよ。呼んで来るからちょっと待ってて。あ、部屋から出ないでね」

「は? ちょっ、ヤブ医者!」


 ジンが部屋を出て行き、暫くして戻って来た。その後ろに、眠そうな美少年を連れて。艶やかなプラチナブロンドに眠たげな瞳は翡翠。白皙はくせきの美貌は・・・


「ああっ!? 昨日のっ!?」

「あれ? 知り合いなの?」

「っ…昨日、変なのに絡まれたのを・・・助けてもらったんだよ」


 渋々口に出す。


「へぇ」

「なんでここに?」

「ん? ああ、オレはアル。しばらくこの船に厄介になるからよろしく」


 硬質なアルトの声が言う。


「僕はカイル……その、昨日は助けてくれて、ありがとう」

「どう致しまして」

「・・・なに?」


 じっと僕を凝視する翡翠に耐えられず、質問する。と、その翡翠の瞳に浮かぶ瞳孔が銀色だと気付いた。綺麗…だと思った瞬間、赤い燐光を帯びる翡翠。


「っ!?」

「大丈夫。特に変な暗示や支配は受けていないと思います」


 ぱちりと瞬くと、また翡翠へと戻るその瞳。


「そう。よかった。ありがとう、アルちゃん。あんまり具合良くないのに呼び出してごめんね?」

「いえ、確かめておきたかったので」

「・・・ちょっとアンタ、今僕になにしたワケ?」


 僕より少し…ほんの少しだけ高い位置の翡翠を睨む。今僕は、なにかをされた。それがなんなのかはわからないけど、わからないのが嫌だ。


「君に、変な暗示とかが掛けられてないかを調べただけ」

「・・・変な暗示って、なに?」

「ん? 変な暗示は変な暗示(・・・・)。例えば・・・遅効性の暗示で、穏便なのは自殺の指示。そうじゃなければ、味方とか…他人への無差別な攻撃だとか、君が不利になるようなことを指示とか? 細かいことを挙げれば、きりがない」


 淡々としたアルの言葉に、顔が引きつるのがわかる。


「ま、そのたぐいの暗示は掛かってなかったし、魅了みりょうの類も…原因の方が消えたから、彼女のところへ行くことはもう無い。安心していいよ? よかったね」

「な、なんでそんなことが判るのさ?」

「仕事柄、そういう暗示を掛けられた人間をよく見てるからね。大概は、原因の方をどうにかすれば自然に解ける」

「・・・仕事柄?」

「オレ、賞金稼ぎやってんの。で、人間でも狩れる百年未満の吸血鬼は、割と美味しい獲物なワケ。被害者も、それなりに見てるからね。手遅れと、そうじゃない被害者の見分けくらいつくよ」

「・・・ヴァンパイアハンターやってんの?」

「いや、賞金首なら人間もそれ以外の犯罪者も、特に区別はしてないよ。ま、自分に狩れる程度の奴に限るけどね」


 淡々とした言葉。


「ちなみに、どの程度なら狩れるの?」


 ジンが聞いた。割と真剣な顔で。


「一応……普通の吸血鬼なら、百五十年くらいまでなら一人で余裕です。三百年を越えると、少し苦戦するかもしれないですね」

「・・・一人で余裕、ね」


 ジンが眉を寄せてアルを見下ろす。


「ねえ、それって、もしかしてカイルを庇ったから……だったりする?」

「え?」

「単に、オレが油断しただけです」

「なにそれ? ちょっとヤブ医者、どういうこと?」

「どういうもなにも、カイル。君を助けたのはアルちゃんだってこと。感謝しないとね? ヒューとミクリヤは、状況的に、間に合ってない。なら、そこに先にいたっていうアルちゃんが君を守ったってことになるだろう? オマケに、ヒューはそんなアルちゃんを攻撃して怪我させるしさ」


 バッとアルを見ると、不思議そうに瞬く翡翠。


「怪我、したの?」

「そ。手首の辺りにヒビが入ってるよ」


 答えたのはジン。


「ヒビっ!? 大怪我じゃんっ! 痛くないの? っていうか、大丈夫なワケ? いや、待って! なんでヒューがアルを攻撃するのさ? おかしくない? ヒューはお年寄りや女子供に親切で・・・って、ことはあれかっ! 僕を子供扱いするのに、ヒューはアルを男扱いしているってことっ!?」

「カイル、落ち着きなよ。君を助けるのに夢中で、手加減をミスったみたいだよ。あとは・・・まあ、状況のせいってのもあるかな? 後でたっぷりとお説教しとくけど」


 ジンの言葉に、サッと頭が冷える。

 そして、ぼそりと低い後半の声は・・・まあ、ジンはこの船では、一番の年長者らしいし。ジンやミクリヤさんに小言を言っている姿を偶に見掛ける。


「・・・状況って?」

「ヒュー曰く、眠っているカイル。そして、明らかに支配を受けている吸血鬼の女の子。となれば、支配をしているのは吸血鬼のマスターに違いない! ってことで、確かめもせずにいきなり攻撃したらしい。本当にごめんね、アルちゃん」


 アルへと申し訳なさそうに謝るジン。


 なんだか、僕の罪悪感まで騒ぐ。確かに、僕のせいだと言えなくもない。


「状況を(かんが)みるに、そう外した判断でもないですよ。仲間が心配だったとすれば、その気持ちはわからなくもないですから」


 アルはやはり、淡々と答える。


「って、アル、吸血鬼を支配できるの?」

「オレよりも弱い相手ならね」

「・・・アルって、なに?」

「そういうカイルの方こそ」


 僕より少し…ほんの少しだけ高い翡翠が、僕を見下ろす。相手に種族を聞くときは、自分の種族を明かすのが暗黙の了解。僕が答えないと、アルも答えないのだろう。


「僕は、ブラウニー」

「・・・ヴァンパイアのハーフ」

「え? ウソ! 僕、初めて見た」

「カイル」


 ジンの咎めるような声。


「オレも、屋敷妖精(ブラウニー)が、自宅敷地近郊外にいるのは初めて見た。君らは、短期間の旅行なら兎も角、長期間の旅はあまり好きじゃないって聞いたんだけどね?」

「・・・それ、皮肉? 前に住んでた屋敷が、火事で燃えちゃったからだよ」

「別に? ま、船上生活者もいるからね。船を家だっていうブラウニーがいても、別におかしくない」

「……僕らのこと、知ってるの?」

「まあね。親類の家に住んでるから。カイルの同類が」

「え? それどこっ!?」

「・・・そこに住むなら紹介するけど、どうする?」

「……場所だけ聞くのは?」

「それは無し」


 どうやらアルは、秘密主義のようだ。


「・・・その屋敷の仲間ブラウニー達は、元気? 不当な扱いとか、受けてたりしない?」

「待遇は割といいと思うよ?」

「元気でやってる?」

「オレが見る限りは、みんな元気してると思う」

「そう。なら、いいや」

「いいの? カイル」


 ジンが言う。


「煩いよ、ヤブ医者。余計なお世話」


 side:カイル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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