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そんなにオレと逢いたかったの?

 ・・・ねぇ、逢い…たい。


 逢い、たい…んだ。君…に。


 ねぇ、どこに…いるの? 君は・・・


 逢いたい、よ・・・


 君、に・・・


 side:???。


※※※※※※※※※※※※※※※


 日暮れになる前に、着いてしまった。


 アダマスの関係者を集めたパーティーの開催会場となる、リリの船が停泊する港のある街へ。


 正確には、街へ至る道の途中だけど。

 内陸部方面から飛んで来て、街の方へ向かう道に降りて歩いていたら、どこからともなく現れた吸血鬼のヒトが二人。


 まあ、ね。予想はしていたけどね・・・

 着いた…というか、まだ街に入ってさえいないというのに、即行で兄さんの使いのヒト達が現れたよ。


 片方は知っていた(・・)子だった。そして、もう片方は初対面(・・・)なのに、どこか見覚えのある顔をしている。

 メイド姿の金髪の女の子と、同じくメイド姿のダークブラウンのストレートの髪をした女性。


「ようこそお越しくださいました。ソーディ様」


 見知っていた金髪の方の女の子が言った。(うやうや)しく頭を下げて。もう一人も、それに(なら)う。


 オレは基本、女の子が好きだ。女の子じゃなくても、可愛い子や綺麗な子は男女問わず好きだ。


 けれど、彼女達に対しては複雑な気分になる。


 初対面なのに、見覚えがある気がするのも当然。彼女達は、姉さんやオレに少し似た女の子達だ。


 姉さんとリリが嫌悪する、兄さんの侍女達。

 まあ、正確に言うと、姉さんが嫌っているのは個人としての彼女達ではなく、兄さんの趣味…というか感性? を気色悪いと言っている。それに対して、リリは彼女達を全体として嫌っている。


 その気持ちも、わかる。

 オレは、彼女達を嫌いとまでは行かないが、見ていると複雑な気分になって来ることは確かだ。


 けれど、良くない環境に堕ちそうだったという彼女達の境遇を知ると、彼女達を庇護した兄さんの気持ちも、わからなくもない。

 その点に関しては姉さんも理解しているし、オレだって姉さんやリリに似た子が不幸な状況にあったら、見過ごせないだろうから。


 まあ、さすがに自分の使用人にはしないけど。

 それは、ね・・・


「ローズマリー様がお待ちです」


 兄さんの使いなのは明白だというのに、彼女が出したのはリリの名前。別にいいけどね?


「こちらへどうぞ」


 二人に先導され、近くに停めてあった馬車へ乗り込む。それなりの広さ。


「お久し振りで御座います。お嬢様」

「久し振りだね。君は、吸血鬼に成ったんだ?」


 オレに似た金髪の女の子は、人間だった(・・・)

 少なくとも、十数年程前に会ったときまでは。

 けれど、今の彼女(・・・・)は人間の気配をしていないし、十数年程前とあまり容姿が変わっていない。強いて言えば、以前よりも血色が悪くなったというくらいだろうか?


「はい。フェンネル様のお側を離れたくなくて、無理を言って従者にして頂きました」


 生きたまま、兄さんの眷族(けんぞく)に成ったのか。


 やっぱり、複雑な気分だ。多分、彼女の方も複雑な気分なのだろうけど・・・


「そう。君が納得してるなら、特になにも言うつもりはないよ。頑張って」

「有難う御座います、お嬢様」


 彼女が望んで、兄さんがそれに応えた。

 双方合意の上なら、他人であるオレが口出しするようなことでもない。

 気分はまあ・・・複雑だけどね。


「血を、お飲みになられますか?」


 金髪の彼女が、襟元へ手を掛けて言う。


「いいよ。今はお腹空いてないから」


 ガタゴトと馬車に揺られること数十分。


 やがて港へ到着。そして、馬車ごとリリの船へ乗り入れた。と、思ったら・・・


「アレク様っ!!!」


 景色が一変。今まで馬車の中にいたのに、ふっと柔らかいソファーに身体が沈み込む感覚。そして、目の前に現れたリリがオレの胸に飛び込んで来た。


「リリっ!」


 両手を広げてリリを受け止めると、


「アレク様アレク様アレク様っ!」


 ぎゅっとリリが抱き付いて来る。

 ここは、リリの部屋か?

 どうやら、リリに引き寄せられたようだ。


 side:アル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 アレク様の気配が船へと入った瞬間、アレク様をリリの部屋へと引き寄せてしまいました。


 そして、アレク様を目の前にしたら、アレク様へお話しようとしていたことのなにもかもが吹っ飛んで、その腕の中へと飛び込んでしまいました。


 本物のアレク様です!!!


 フェンネル様の使用人の、アレク様へ容姿だけが似た偽者(にせもの)ではなく、本物のアレク様っ♥️


 温かいアレク様の体温をぎゅっと抱き締めると、柔らかくリリを抱き返してくださる優しい腕。アレク様の香りを胸一杯に吸い込み・・・


「リリ?」


 驚いたように(まばた)いた銀の浮かぶ神秘的な翡翠の瞳。あぁ…驚いたお顔も麗しいです♥️


 ! いえ、そのような場合ではありませんわ。

 リリはアレク様へ、どうしても伝えなければならないことがあるのです。


 アレク様に、謝らなくてはいけません・・・


「…アレク様、申し訳御座いません…リリは…」


 声が、震えました。

 アレク様にお逢いしたら、悪い子のリリを叱って頂きたいと、あれ程思っていたのですが、実際にアレク様へ相対(あいたい)すると、言葉が()まります。


「リリ?」


 あれ程お逢いしたかったアレク様が・・・

 今・・・とても、怖い。


 アレク様が、フェンネル様を苦手とされているということを知っておきながら・・・


「…リリは、悪い子…なのです…」


 震える唇から、ゆっくりと言葉を紡ぎます。


「? どうして?」


 そっと、温かい手がリリの頬へ添えられました。リリを覗き込む、不思議そうな翡翠の瞳。


「フェンネル様、が…船に、いらっしゃるのに…」

「うん」


 震えて詰まりそうになるリリの言葉を急かすことなく頷いて、優しい翡翠が見下ろします。


「アレク様に、お逢い、したい…からとっ…アレク様を、リリの…船にっ、お呼びして…しまい、ましたっ…ごめんなさい、ごめんなさいアレク様っ! アレク様へ結婚の話が持ち上がっている今、アレク様がフェンネル様へお逢いすることへのリスクを考えていなかったワケではありませんっ! だというのに、リリはっ・・・リリはっ、自分がアレク様へお逢いしたいという気持ちを優先させてしまいましたっ! リリは悪い子ですっ!」


 泣いてはっ、駄目です!

 リリは泣きません!!

 泣いたらきっと、アレク様はリリを許してしまう筈です。それは、いけません。


 ローレル様の言い付けを破って、フェンネル様へ加担すると決めたのはリリです。


 フェンネル様は、アレク様の為になることをすると仰っていました。リリも、それに賛成致しました。


 けれど、それをアレク様がどう思うのかは別のことです。アレク様が、リリをどう思うのか・・・


「そっか…」

「!」


 小さく呟いたアレク様のお声に、思わずぎゅっと目を瞑ってしまいます。

 失望、されてしまったでしょうか?

 アレク様のお顔を見るのが怖くて、目が開けられません。嫌われたら、リリは・・・


「リリ」


 柔らかく、リリを呼ぶアレク様のお声。


「じゃあさ、責任取ってよ。パーティーの間はオレから離れないで。兄さんからオレを守って?」


 言われた言葉に驚いて目を開くと、優しくリリを見詰めて微笑むアレク様のお顔。


「怒って、いらっしゃらないの…ですか?」

「リリは、オレといるの嫌?」

「そんなことはありませんっ!!!」

「そんなにオレと逢いたかったの? リリ」

「っ…お逢い、したかった…ですっ!!」


 容姿だけが、アレク様や椿お姉様に似ていて、それなのに唯々諾々(いいだくだく)とフェンネル様へ従う彼女達は、気持ちが悪くて嫌いです。


 本物のアレク様に、お逢いしたかったのです!


「ありがと。久し振りだね? リリ」

「はいっ!」

「もう、泣かないでよ」


 白い指先が、そっとリリの目尻を拭います。


「アレク様っ…アレク様っ、アレク、様…」

「ほら、泣かないの。これからパーティーだろ? 目腫れてたら可愛い顔が台無しだよ」

「ぅっ・・・」


 人魚の中では然程(さほど)美しい容姿でもなく、並み以下のリリを可愛いと仰ってくださるのは、アレク様と椿お姉様だけです・・・


「全くもう、リリは泣き虫だな?」


 トントンと、あやすように優しく背中を叩く手。


「ふぇ…アレク、さまぁ……」


 涙を止めたいのに、止まりません。

 アレク様に嫌われていないと安心したら、涙がぽろぽろと零れて・・・


 ごめんなさい、アレク様。

 愛しております。


 side:泣き虫な人魚。


※※※※※※※※※※※※※※※


 なにやら、巨大な豪華客船が港へ停まっている。


 どうやら、パーティーをするようだ。


 一般客はお断りで、招待客だけを乗せるという。


 そして、人間じゃない連中が、数日前からこの街へと集って来ている。


 面白そうだ。


 なにより、着飾った貴婦人達を見てしまった。


 これはもう、行くしかないだろうっ!

 美女()るところに俺在り、だからなっ!


 さぁて、どうやって潜り込むか・・・


 side:???。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 前回自信満々だったリリですが、いざアル本人に逢うとヘタレました。泣いてます。

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