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兄さんに会うのは、覚悟が要る。

 シスコン、ヤンデレ注意。

 ちょっと重めかもしれません。

「そう、だね・・・」


 どこへ行ってほしい? か・・・


 リリの船が停泊する港へ、この船で直接行くようなことはしない。


 一度、どこかの港で降りて、陸路を挟んでからリリの船が停泊予定の港へ向かうと決めている。


 だから、ハッキリ言えば、向かう場所はその港から遠い場所。数百キロ以上離れていた方がいい。


 数百キロの距離なんて飛べば数時間だし、走っても数日程度しか掛からない。


「近場でいいから、降ろしてくれる? アマラ」

「近場なの?」

「うん。内陸部に向かうからさ」


 一旦は、ね。


「そう。わかったわ。それじゃあ、これから近場の港に向かうとして・・・」


 唇に親指の爪を当てて考えるような仕種のアマラ。やがて、アイスブルーがオレを見下ろす。


「一週間後に、そこで待つわ。それより前に帰って来るなら、バカ馬対策で近場の海域をのんびり航行してるから、飛んで来るといいわ」

「・・・あのクソ野郎か…」

「ちょっと小娘、アンタがあのバカ馬のこと相当嫌いなのは判ってるけど、ここでいきなり物騒な殺気撒き散らすのはやめてちょうだい」


 ムッとしたようなハスキー。


「あ、ごめん…」


 アマラは、荒事が苦手なんだっけ?


※※※※※※※※※※※※※※※


 メッセージカードには、『来られないというなら、お迎えに上がります』と書かれていた。


 それは多分、ハッタリだと思っている。


 リリが兄さんにオレの居場所を漏らすとも思えないし、招待状とメッセージカードがリリ経由で届いたこと自体が、兄さんがオレの居場所を知らないと示しているからだ。


 しかし、万が一・・・ということもある。


 兄さんに、この場所を…アマラの船を、襲撃させるワケには行かない。


 用心するに越したことはない。


 あのヒトは、姉さんとオレのことになると見境を無くす傾向がある。


 あのヒトは…兄さんは、怖いヒトだ。


 オレもあまり他人(ヒト)へ言えた義理はないけど・・・兄さんの世界は、とても狭い。「フェンネルの見ている世界は、とても狭いんだ。兄様の世界はきっと、アンタとあたしとでその比重が占められているからね。ホンっト、兄様はウザくて重っ苦しいこと」姉さんが、そう言って苦笑していた。


 好きなモノと、興味の無いモノに対することへの落差が非常に激しい。


 兄さんは興味の無いモノや、(ゆる)せないモノへは、非道な程に冷酷に、残酷になれるヒトだ。


 殺す…消すことを微塵(みじん)躊躇(ためら)わない。

 兄さんは、自分が大事にしていないモノは、その表情一つ変えずに消し去ることができる。


 その代わり、大切なモノは、大事に大事にする。例え、大切にし過ぎて『それ』が壊れてしまおうとも・・・絶対に『それ』を、大切にする。


 大切なモノは、壊れるまで愛する。

 壊れても、愛する。

 壊しても、愛し続ける。

 自分が壊しても、きっと離そうとしない。


 兄さんは、オレが死んでも愛してくれる。

 オレを殺してしまったら、アンデッドの吸血鬼にして、(よみがえ)らせると言っていた。

 兄さんの、花嫁として。


 果たして、それは・・・一度死んでアンデッドになったオレは、オレなのだろうか?


 わからない。けれど・・・


 一度、兄さんに壊されかけた身としては、それが実現しそうになったのが、とても恐ろしい。


 兄さんの愛情の深さが、怖い。


 どろどろと深く、絡め捕るようにとても重い。恐怖を感じる程の・・・凄く(こわ)い、愛情。


 けれどオレは、そんな兄さんが嫌いではない。


 怖くは思うが、嫌いにはなれない。


 オレは、自分のことがあまり好きではない。


 (けが)れた混血の忌み子として、狂ったような憎悪と殺意を向けられた幼少期。

 そして、そんなオレを殺せという声に、段々と壊れて行ったリュース。

 それを、オレはただ、リュースに耳を塞がれながら見ていることしかできなかった。

 ぽろぽろと零れ落ちる熱い涙と、どんどん(やつ)れて行った細い身体。それでもずっと「ごめんなさい」と「愛しているわ」の言葉を、オレへと言い続けていた母親(リュース)の姿を・・・


 リュースを助けられなかった自分が、大嫌いだ。


 弱くて脆い自分が、嫌で(いや)で堪らない。


 だから、こんなに弱くて脆いオレを受け入れて愛してくれるヒト達のことが好きだ。


 愛されることは心地よい。

 好かれることは気持ちいい。

 受け入れてもらえると、安心する。

 守ってもらえると、生きていてもいいのだと・・・そう、思わせてくれるから。

 生きていることを肯定されると嬉しい。


 だからオレは、兄さんを嫌いになれない。


 けれど、守ってもらうばかりで、弱いままでいることはとても嫌だ。オレは強く()りたい。


 だからオレは、兄さんの傍にはいられない。


 まあ、あれだ。嫌いじゃないからって、兄さんが怖くないワケじゃないからね・・・


 ヴァンパイアにしては割と特異(まとも)な感性を持っていると言われるが、オレもそう…あまりまとも(・・・)な方ではないと思う。自分で、判っている。


 兄さんに会うのは、覚悟が要る。


 兄さんに相対するのは、気力と胆力が要る。


 そして、一人で兄さんに会いに行くのは・・・あのとき以来のことになる。


 行って、兄さんに会うことは簡単だ。


 問題は、帰り。兄さんに、この船のことを知られるワケにはいかない。


 きっと、オレを帰したくないだろう兄さんを説得して、更には兄さんの追跡を振り切ってから戻って来る必要がある。それも、レオがいないこの現状で、だ。オレ一人で、兄さんを振り切る。


 ・・・オレ、ちゃんと帰って来れるかな?


 もう既に、色々と不安しかねぇ・・・


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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