表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/179

アルは自分を構え~。

 食堂に行くと、なぜか酒瓶に懐いている尻尾が二本ある(・・・・・・)三毛猫を、ブラッシングしているカイルの姿。


 猫は、まあ・・・ミクリヤだ。


 二人共恍惚とした表情をしている。


「は? なにしてんの? カイル? ミクリヤ? どういう状況? っていうか、夕食は?」


 俺は食事をしに来たんだけど・・・?


「おう、ジン。少し待ってろ」


 厨房からヒューの声。


「ヒュー? なんでミクリヤが泥酔しているんだ?」


 獣人系のモノは、泥酔したり理性が飛んだりすると本性を(あらわ)にしてしまうモノが多い。


 そしてミクリヤは、泥酔するまで飲むことは無い。というか、猫の姿になること自体も少ない。


 こんな酔っ払った姿は、初めて見る。


「キウイのリキュールのせいだよ」


 と、これまた厨房からアルちゃんが顔を出す。


「キウイの、リキュール? ・・・あ、マタタビ」


 確か、キウイフルーツはマタタビ科の植物。

 猫科のモノ達を問答無用で酔っ払わせると(おそ)れられている植物だ。まあ、マタタビが好きなヒトは、非常に好むと聞いたが・・・


「こないだの酒の残り?」

「製菓用のリキュールを、ヒューが雪君にあげたらああなったんだって」

「ああ…それで・・・ん? カイルは?」


 カイルも、どこか酔ったような表情だ。


「まさか、カイルも酒を飲んだの?」


 カイルは見た目が諸に子供な為、ヒューが禁止していた筈なんだけどな?


「いや、多分猫好き? で、雪君にめろめろ?」

「・・・カイルがそんなに猫好きだとはねぇ? 知らなかったよ」


 まあ、猫好きでデレデレになるタイプは、猫にすっごくデレっデレになっちゃうらしいけど。


 ちなみに、俺は狼なので犬派だ。

 特に溺愛もしない。


「それで、アルちゃんが料理するの? 楽しみだな」

「なんだって。ヒュー」

「まあ、俺らに雪路(ゆきじ)程の腕は無ぇからな。一応食べられる程度の味だ。期待はするな」

「いや、ヒューに言ったんじゃないからね? 俺は、アルちゃんの手料理が嬉しいんだよ」

「アルのぉ、手料理は食えたもんじゃにゃ~い!」

「あ、ミクリヤさん!」


 と、いきなり失礼な割り込みを入れるアルトの声と共に、シュッタとカウンターに降り立つ三毛猫。


「は? ミクリヤ? なに失礼なこと言ってるんだ」

「だ~か~ら~、アルの手料理は食えたもんじゃねぇ! レオンさんをノックアウトさせた毒料理!」


 器用に二足歩行して、ビシッとアルちゃんを指す失礼な三毛猫(ミクリヤ)。酔っ払うにも程がある。


「ミクリヤ、いい加減にしろ?」

「いや、それ事実だけど?」

「え?」

「ほれ見ろ~!」


 アルちゃんの言葉に胸を張る猫。


「・・・あ~、アル。その、手伝いは」

「言っとくけど、それは素材が毒だっただけだよ。オレの料理の腕は、可もなく不可もなく。マズいのは、採集の方だからね」


 手伝いを断ろうとしたヒューを遮るアルちゃん。


「採集?」

「そ。オレは毒が効かないからね。拠って、大抵の動植物が食えるんだ。だから、毒物を食っても気付かない。で、自分が食えるもんだから、毒物の見分けがどうしても甘くなるんだよ。野戦料理で何度かレオをノックアウトしてやったぜ」


 冗談めかした口調のアルちゃん。


「毒無効にはそういう危険な弊害が・・・」

「ちなみに、料理はレオの方が上手いけどな」

「あ、それはどうでもいい情報かな?」

「つか、なんでお前に採集させンだよ? そして、危険だと判ってて食うとか、おかしいだろ」


 呆れたようなヒュー。


「毒に耐性付ける為? だってさ。最初は養父(とう)さんの命令だったけど、積極的に自分でやり始めて、今もレオは定期的に毒物食ってる筈だよ」

「・・・まさかとは思うけど、普通の食事に毒盛って訓練したりしてるの?」

「いや、毒その物の味とか覚える為に、基本的に毒物は単体で摂取するんだ」

「エレイスって・・・」


 昔、入るの断ってよかった・・・

 俺はあそこまでの武闘派じゃないし。


 まあ一応、俺も毒物や劇薬は使うことはあるんだけどさ? 自分で試すようなことはなかなかしない。


「レオンさんはシスコン!」


 と、身も蓋もなくまとめるミクリヤの言葉に、


「まあ、うちはみんなオレに過保護だからな」


 苦笑気味に頷くアルちゃん。


「料理はカイルとひゆう!」

「え? あ、はい!」

「アルは自分を構え~」

「は? わっ、雪君!」


 パッと跳ねてアルちゃんの肩に乗り、しゅるんとその首に尻尾を巻き付けるミクリヤ。


「「っ…なんて羨ましい」」


「「え?」」


 カイルと声がカブり、思わずお互いに顔を見合わせる。


「構え~」


 うりうりとアルちゃんへ頭を寄せ、その白い顔へと頬擦(ほおず)りするミクリヤ。


「ミクリヤっ!」

「ズルいよアルっ!」


「「・・・」」


 どうやらカイルとは、見解が違うらしい。

 俺はミクリヤをズルいと思い、カイルはアルちゃんをズルいと思っているようだ。


 side:ジン。


※※※※※※※※※※※※※※※


 肩に乗った雪君が首に絡み、降りそうにない。


 厨房に毛を落とすのは気が引けるので仕方ない。


「ヒュー。悪いけど、後は任せる」

「おう。カイル、手伝ってくれ」

「あ、うん!」


 微妙な顔でジンと見合っていたカイルが頷き、厨房の方へ移動する。

 オレと雪君は入れ替りで食堂側へ移動。


 どこかホッとしたようなヒューに、多少思うところがなくもないが・・・


 オレは別に、毒を盛るワケでも、料理の腕が壊滅的で結果的に毒物を生成しているワケでもない。


 採集に少し難があるだけだ。全く・・・


 普通の食材で作る料理は、無論普通の料理になる。特に美味くも不味くもない、無難な味の料理に。


 すりすりと柔らかい毛皮を寄せる三色毛並みの頭を撫でながら、テーブルに着く。


「アルちゃんから離れろ? ミクリヤ」


 薄い笑みを浮かべてジンが言う。しかし、眼鏡の奥の目は全く笑っていない。


「な~ぅ」


 ゴロゴロと喉を鳴らし、目を細める雪君。


「おい、ミクリヤ・・・」

「ふゎ~」


 ジンを無視して欠伸。


「・・・」


 そして、無言で伸ばされた白い大きな手に、


「ジン、手を向けないでください。不快です」


 思わず顔を(しか)める。雪君に伸ばされている手だとは思うが、上からの手は大嫌いだ。


 額がチリっと軽く(うず)く。


 未だに背筋がざわついて、気分が悪くなる。


「え? あ、ごめん・・・」


 慌ててジンの手が引っ込められる。


「その、大丈夫? アルちゃん」

「ええ」

「へっ、バ~カ」


 思わず低くなった声に、(ジン)揶揄(からか)(雪君)


「っ…ミクリヤっ…」

「雪君」


 溜息を吐いて、肩から首に絡まる柔らかい身体をテーブルに抱き降ろす。


「撫でろ~」

「はいはい」


 狼よりも短い毛並みで、ぐにゃぐにゃとした柔らかい猫の身体を撫で回す。


「・・・後で殴ろう」


 ぼそりと呟くジンを尻目に、ゴロゴロと心地よさそうに喉を鳴らす三毛猫。


 side:アル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 なでなでと優しい感触が何度も上下する。ほんのりと低い温度がゆるゆると身体の上を行来。


「…くふゎ~」


 欠伸をして伸びをすると、ほんのり低い温度が離れて行くのがわかった。少し名残惜しい気がする。


「や、雪君。おはよう」

「にゅ~・・・アル?」


 目の前にアルがいる。デカい。というか、自分(ミクリヤ)は寝ていたようだ。

 それも、テーブルの上に。なぜか猫姿で・・・?


 よくわからないが、なんだか頭がふわふわして、とても気分がいい。


 起きはしたが、とろんとした眠気がもたげて来る。日向ぼっこのような心地よさ。


「あれ? 雪君? お~い」


 アルトの声が呼ぶが、眠気に負けて目を閉じた。


「あれ? また寝た?」


 段々と音が遠くなり・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・


 次に目を覚ますと、なぜか医務室にいた。そして、ベッドのカーテンがシャッと開けられる。


「起きたか、ミクリヤ」


 低い声で自分(ミクリヤ)を見下ろすジン。なぜか、とても不機嫌そうな顔をしている。


「おう。なんだ? ジン」

「とりあえず、殴らせろ?」

「あ? 断る。つか、なんで自分がここに?」

「・・・覚えてないのか?」

「? なにをだ?」


 と、聞くと・・・


 どうやら自分(ミクリヤ)は、キウイのリキュールで酔っ払っていたらしい。全く覚えてないが、やたら気持ちよかったような気はする。


 アルに絡んでどうのこうのジンが言っている。


「知らん。自分は、飯の用意をして来る」


 殴らせろというジンを無視して厨房へ向かう。


 ・・・後で、なんか侘びた方がいいのか?


 アルとカイルには、スイーツを進呈しておこう。


 side:酔っ払い猫。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 酔っ払い御厨でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ