お正月企画。※お遊び第四段。
前回、変なところで切っておいて・・・
すみません!
本編とは微塵も関係無いお遊びです。
ハロウィンのときのやつとはパラレルだと思ってください。
花のエド。城下町。
呉服問屋の大店、祝屋。
その祝屋の主一家は、仲睦まじい夫婦とその子供達。これまた仲良しの二人兄妹の四人家族だ。
兄の名は龍胆。少々身体が弱いが、実直で聡明な美少年。そして、その妹の名は鈴蘭。お洒落が大好きな、小さくて可愛らしい美少女予備軍。
そして、そんな龍胆と鈴蘭の兄妹二人のお守りに雇われたのは、これまた全く似ていない姉弟の薔薇と緋衣の二人だった。美しく確り者たが、弟には少々手厳しい姉のソウビと、その弟でのんびり寝てばかりいる怠け者の緋衣。
今日は大晦日。祝屋総出での年末の大掃除。
奉公人が朝から忙しくバタバタ働いていた。
「ソウビ姉様」
「ん?どした、スズ」
ソウビは、類い稀なる美しい容姿をしているというのに、自分のその容姿には無頓着で、いつも作務衣姿。粗雑で男のような口調で喋る。
鈴蘭は、いつもそれを勿体無いと思っていた。
「スズはお掃除をしなくていいのですか?」
「なんだ? 掃除がしたいのか?」
「リン兄様も帳簿付けを手伝っているのです。スズもなにかお手伝いしたいです」
「スズはいい子だな? アホ緋衣も見習えや」
そう言って、ゲシっと畳に寝転がってる緋衣を蹴り飛ばすソウビ。
「む・・・? ちょっと、痛い? ・・・」
眠たげな声が呟いて、すぐに寝息に変わる。
「ソウビ姉様、蹴っては緋衣兄様が可哀想です」
「いいよ別に。つか、起きねぇコイツが悪ぃし」
「ソウビ姉様は、緋衣兄様に厳しいです」
「だってコイツ、リンやスズみたく可愛くねーし」
「ソウビ姉様ったらっ・・・スズよりもお綺麗な顔のソウビ姉様にそう言われると、照れますっ♡」
「スズは可愛いなっ♪」
「ソウビ姉様っ♡」
小さい鈴蘭をひょいと抱き上げたソウビに、
「・・・おれも」
その背後からむくりと起きた緋衣が抱き付いた。
「放せこのボケがっ!」
鈴蘭を落とさないよう緋衣を殴るのを諦めたソウビは、低い声で怒鳴る。しかし、緋衣はそんなことでは退かない。緋衣はソウビが好きなのだ。
「や…」
「ヤじゃねぇンだよ! お前全然可愛くねぇし」
「・・・可愛ければ、いい?」
こてんと首を傾げる緋衣。
そんな緋衣を見て、鈴蘭は胸がキュンとした。鈴蘭は、常日頃ごろごろしてばかりいる緋衣についても、非常に勿体無いと思っているのだ。
顔は美形なのに、黙って起きてさえいれば、緋衣は妖艶な色香が漂う。二枚目看板の役者にだって劣らないのだ。変人さと、いつでもどこでも眠たい感じをどうにかすれば、とても格好いいヒトなのに! と、鈴蘭は残念で堪らない。
本当に、黙って起きてさえいれば、それだけで美形なのだ。しかし、その、黙って起きているという簡単なことができない変人なのが緋衣だ。
ことに拠っては、ソウビよりも緋衣の方が残念さが際立っている。
この二人の、美しくて残念な姉やと兄やを、心行くまで飾り立てることが鈴蘭の目下の野望だ。
「いや、お前可愛くねーし」
「・・・女装、する?」
「は?」
「まあっ! 緋衣兄様の女装ですかっ!? スズは見たいですっ!? 今すぐやりましょうっ!!!」
思わぬ機会が巡って来たので、絶対に逃すものかと鈴蘭は超特急で準備に取り掛かる。
ちなみに、掃除のことはもうコロッと忘れてしまったようだ。
そして、数時間後・・・
「できましたっ!? 見てくださいソウビ姉様っ!」
振り袖を着せられ、長いつけ毛をして紅を差した緋衣が鈴蘭に手を引かれてソウビの前へ出て来る。
「・・・ふゎ…眠…」
欠伸をしながら目を擦ろうとする緋衣。それを、鈴蘭が引っ張って止める。
「ダメですよ、緋衣兄様っ! あんまりおめめを触っちゃダメです。お化粧が取れてしまいます」
化粧と言っても、ドウランや白粉ではない。緋衣の肌は色黒で、滑らかな蜜色。白粉を乗せると非常に不自然になる為、唇と目尻に紅い紅を差しただけだ。しかし、その唇と目尻の紅が緋衣の色香を引き立て、実に美しく仕上がった。鈴蘭の満足の行く出来映え。だが、それも緋衣が目を擦ると、その紅が落ちてしまう。
「ん…どう? ソウビ」
「おう。美人美人」
「おお…それじゃあ・・・? なんで、避ける?」
さっと両手を広げ、ソウビの包容を待つ緋衣。しかしソウビは、すっと避ける。
「いや、お前が寄って来るからだろ」
「・・・おれ、可愛い…よ?」
「いや、お前はお前だし」
「??」
「ふっ、緋衣兄様。緋衣兄様は、可愛いというよりも綺麗系です。人気女形も裸足で逃げ出す美しさ♪」
首を傾げる緋衣がおかしくて、クスリと笑ってしまう鈴蘭。鈴蘭には、その緋衣の様子は可愛く思えた。
「・・・綺麗、だと…可愛く、ない?」
「違いますよ。綺麗でも可愛いヒトはいますし、可愛いけど綺麗ではないヒトもいます」
「・・・難しい…脱ぐ」
ソウビが構ってくれないなら女装に用は無いとばかりに、数時間掛けて準備した格好をあっさり脱ごうとする緋衣。それを慌てて止める鈴蘭。
「あ、待ってください緋衣兄様! どうせならこのまま初詣に行きましょう! 二年詣りです」
「・・・面倒」
「そんなこと言わないで・・・緋衣兄様、ちょっとお耳を貸してください」
「?」
袖を引く鈴蘭に従い、緋衣は身を屈める。
「・・・・・・・・・」
緋衣の耳にひそひそとなにかを囁く鈴蘭。
「ん。わかった。少し、寝る・・・」
緋衣の説得完了。緋衣は大人しく、居眠りすることにした。
「というワケで、後でリン兄様もお誘いして二年詣りに行きましょう、ソウビ姉様」
「ん? ま、いいけど。なに言ったんだ? スズ」
「ソウビ姉様には内緒です♪」
鈴蘭はソウビににっこり微笑んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
こうして、振り袖を着て女装した緋衣とソウビ、兄の龍胆を引っ張って鈴蘭は二年詣りへやって来た。
夜も更け、冷たい風が吹き荒ぶ中、檀那寺の境内へ向かって歩く四人。
鈴蘭は兄と手を繋ぎながら、
「ソウビ姉様は、今夜は絶対に緋衣兄様の手を離さないでくださいね?」
笑顔でソウビへ緋衣と手を繋ぐよう強要。
「は? なんで」
「ん…」
手を差し出す緋衣。鈴蘭はソウビの手を取り、緋衣の手を握らせる。
「だって、今日の緋衣兄様はお綺麗ですから。ナンパでもされると面倒です」
「そうですね。…というか、なぜソウビ姉様が作務衣のままで、緋衣兄様が振り袖を? 普通はソウビ姉様が振り袖の筈では?」
龍胆が首を捻りながら聞く。
「え? 振り袖とかヤだよ。めんどい」
「というワケです。リン兄様」
「そうか・・・鈴蘭。今年も負けたのか。うちは呉服屋だというのにな」
溜息混じりに龍胆がソウビを見やる。ソウビが着飾ると、それはそれは良い宣伝になるだろうに・・・と。しかし、本人が嫌だというのを無理矢理飾り立てるのは龍胆も気が引ける。
「はい・・・来年こそは、勝ってみせます!」
「ん? スズは誰かに負けたのか?」
「はい。ですが、スズは負けませんっ!」
「そうか。まあ、頑張れ。つか、別にわざわざ手ぇ繋がなくてもいいんじゃね?」
「そんなことはありません。美男美女が手を繋いでいるだけで、美女へのナンパが減るのです」
「ん」
コクコク頷く緋衣。
「仕方ないな。ほら、行くぞ」
こうして年が明けて行った。
「「「「明けましておめでとう御座います」」」」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
キャスト。
薔薇・・・アル。
緋衣・・・シーフ。
龍胆・・・リン。
鈴蘭・・・スズ。
祝夫妻・・・アクセル、椿。
以上、続かない。
読んでくださり、ありがとうございました。
時代劇風で鈴蘭を出したかったんです。
でもなんか、リリとカブってたり…?
一応、鈴蘭はリリに懐いています!という感じでどうでしょうか?
そして、大したオチもありません。
鈴蘭と女装シーフを出したっただけです…




