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船を壊すと、アマラがキレるんだよ。

 甲板にやって来たのは、ウキウキと刃物を持った雪路(ゆきじ)と、キョロキョロと海を見渡すアル。そして、そんなアルを心配そうに見やるジンの三人。


 これから、こちらを襲撃して来るであろう海賊を逆に襲撃して撃退する予定だ。


 アル…は、まあ大丈夫だろうが・・・


「なにをそんなにキョロキョロしてんだ? アル。特に面白いもんはねぇと思うが?」

「? 面白いよ。海で人魚の船に喧嘩を売る馬鹿共」


 最近、アルの言葉が少し崩れて来ている。打ち解けてくれたようで少し嬉しい。


「身も(ふた)もねぇな・・・けど、アマラは基本、夜以外は手ぇ出さねぇからな」

「あ、そうなんだ?」

「ああ。ただ、その代わり・・・」


 恐ろしいことも、ある。


「その代わり?」

「船を壊すと、アマラがキレるんだよ」


 ジンが肩を竦めて言う。


「ああ…そりゃ怒るわ。リリも船壊されたら怒るしなぁ・・・シーフとか、移動制限掛けられてるし」

「マジか・・・あの人魚の船でも移動制限を掛けられるとは、シーフも大変だな」


 これはシーフ本人が帰った後、カイルに聞いたんだが、シーフはこっちでは、アマラに移動制限を掛けられてアルの部屋と食堂、甲板や通路以外の立ち入りを禁止されていたらしい。だから、甲板や廊下、階段や手摺(てす)りに引っ掛かって寝たりなど、変な場所に転がっていたようだ。よくあんな変な寝方ができるな? とは思っていたんだが・・・


 まあ、アル曰くの、「シーフがそこらで転がるのは習性だから気にしないでください」に騙されたというか、説明不足というか・・・知らなかったとはいえ、シーフには少し申し訳なく思っている。


「まあ、シーフは半分イフリートだからね。仕方ない。水属性の強いヒト達に敬遠されがちなんだ」


 苦笑気味のアル。


「それで、馬鹿共はどこにいるの?」


 銀の浮かぶ翡翠が、キラリと(きらめ)めく。判ってはいたが、アルはなかなか好戦的だ。雪路と素手の格闘(じゃれあい)を遊びだというだけはある。


「向こうだ」


 東側の方向を指す。数キロ先から、こちらの方へと向かって来る船。


「とはいえ、まだ怪しいって程度だ。あの船が海賊だと決まったワケじゃない」

「へぇ・・・よくあんな遠くの見えるな」


 目を(すが)めて遠くを見る翡翠。


「見えないのか?」

「昼は眩しい。遠くは夜の方が見易い」

「だよねー。御厨(ミクリヤ)も昼は眩しい」


 アルの言葉にうんうん頷く雪路。雪路は猫で、アルはヴァンパイアだからな。コイツらは夜目の方が利くようだ。


「俺はそもそも見えないけどね」


 眼鏡のジン。確か、近視とか言っていた。

 カイルも視力は普通。

 アマラは・・・そもそも太陽の下に出ないからな。まあ、人魚は海のことは色々とわかるそうだが。

 とりあえず、真昼でも遠目が利くのはこの中では俺だけのようだ。


「問題は、あれが本当に海賊だった場合だよ。いきなり大砲ぶっ放して来る馬鹿共が一番困るんだ」


 やれやれと肩を(すく)めてジンが言う。


「ああ、大砲は本気で困る」


 被害が大きい。船が壊れるとアマラがキレるし、だからと言ってアマラを起こしてどうにか大砲を避けたとしても、「よくも昼間に起こしたわね?」と盛大に不機嫌になる。


「あと、こっち側に乗り込まれてもねー」


 雪路が言う。別に、乗り込まれたところでたかが人間の海賊数十人に負けることはない。


 負けることはないが・・・


「ああ。甲板を汚すと、カイルが怒るからな・・・海賊掃討後、全員で仲良く甲板の掃除をさせられる」


 アマラもカイルも、かなり綺麗好きだ。船の設備を壊したり汚したりすると、かなりキレる。

 だから海賊掃討戦は、如何に船を壊さない、汚さないようにするか? というのに毎回苦心している。

 ということで、怪しい船を見付けたら俺達三人で頭を悩ませるワケだ。まあ、海賊掃討戦の後に、甲板掃除から逃れられたことは一度もないが・・・


「ふ~ん…なんなら、様子見て来ようか?」


 アルが怪しい船の方角を見て言った。


「は? どうやって?」

「や、オレ普通に飛べるし」

「いや、アルちゃん? 真昼に飛ぶとかなり目立つから! 撃たれたら危ないから!」


 慌てたようにジンが言う。


「誤魔化すことできるけど?」

「へぇ…どうやって?」


 ニヤリと雪路が笑う。


「ん? こうやって?」


 と、アルがゆっくりと手を(かざ)して動かすと、ひんやりと空気が冷えて、視界がもわもわと歪んだ。


「なんだそりゃっ!?」

「あ、もしかして蜃気楼?」

「ええ。というワケで行って来る」


 ジンへ頷き、トンと軽く甲板を蹴って数メートル跳ね上がったアル。その背中に蝙蝠(こうもり)のような翼がバッと現れて広がる。そして、


「自分も連れてけ」


 と、雪路が高く跳ね上がってアルの足を掴んでぶら下がった。瞬間、ガクッとアルの高度が低くなる。


「わっ!? ちょっ、雪君っ!?」

「おい雪路っ!?」

「ミクリヤっ!?」


 慌てる俺らを余所に、


「なんだ? 無理か? アル」


 笑みを含む雪路の声が揶揄(からか)うように言う。


「雪君くらいは余裕だけどさ、いきなり重くなるとバランス崩して危ないだろ」


 迷惑そうなアルトの返事。


「あと、落ちても知らん」

「なははっ、(しっか)り掴んでるから平気だ」

「あっそ。なら、振り落とされねーよう、せいぜい確り掴んでろ」

「望むところだ」

「んじゃ、頑張れ」


 と、アルの声がしたら、またもや空気がぐにゃりと歪んで二人の姿が視認できなくなった。


「二人共気を付けて無茶しないでねーっ!?」

「落ちンなよ雪路っ!?」

「おう!」


 side:ヒュー。


※※※※※※※※※※※※※※※


 アルの足を掴んでぶら下がっているワケだが、まず、真上にグンと上昇した。そして、海面から数百メートルまで高く上がり、ぐっと急降下。


 これは確かに、「振り落とされるな」だ。高い場所から飛び降りるときのように、内臓がきゅっと圧されて浮くような感覚。叩き付けるような風圧の冷たい空気に体温が奪われる。が、アルの足を放すワケにはいかない。

 海の上だから多分、落ちても死にはしないだろうが、落ちて濡れネズミになるのは嫌だ。海水はベタベタするから嫌いだ。


 そして、あっという間に怪しい船の上まで来た。


 成る程、急降下でスヒードを出したワケか。


「で、どうよ? あれ」


 アルの声が上から降って来る。


「あ~、海賊だねー」


 普通に人相が悪くて、明らかに武装している野郎共がわらわらいる。軍服着てる奴は一人もいない。そして、望遠鏡でうちの船を窺っている。ピリピリとした敵意というか、害意が伝わって来る。


 人数は、甲板にいるだけでざっと二十人程。船内にもまだいるだろうから、なかなかの規模の海賊。


「アル」

「なんだ?」

「自分、先行っていいか?」

「二十メートルくらいの高さ、大丈夫?」

「おう、任しとけ」

「ンじゃ、マストの上辺りでもう少し高度落とすから、下がらなくなったら飛び降りて」

「OK」


 と、パタパタとホバリングしていた飛行が、ふわりと下がって段々と高度を落として行く。そして、マストの上の見張り台の真上近くに来たところで、


「じゃ、行って来るわ」


 アルの足を掴んでいた手を放す。


「オレの分も残しといてよ?」

「早いもん勝ちだ♪」


 と、降って来たアルの声に返し、内臓がきゅっとする感覚と着地に備えて体勢を整える。


「ったく…雪君(ねこボム)投下っと」


 クスリとイタズラっぽいアルトがして、アルの気配が遠ざかって行くのが判る。姿は、見えない。


 さて、まずは見張りをどうにかしないとな?


 落下中、尻尾を出してバランスを取り、マストの天辺(てっぺん)に両手両足を着いて衝撃を殺しながら着地。


「ん? なんか今、揺れたか?っ、・・・」


 するりと見張り台へと降り、上を見上げた見張りの男が声を上げる前に尻尾で絞め落とす。


「これでよし、っと」


 見張り台から船を見下ろし、一人でいる奴へと狙いを定める。見張り台から帆桁(ほげた)へ跳び移り、ロープを伝って下へ。

 そろりと近付き、背後から絞め落とす。


 さて、次は大砲を使う狙撃手を潰しに行くか。撃たれると厄介だからな?

 甲板から、階下へと向かう。


 こうして段々人数を減らして行くと・・・


 甲板の方が騒がしくなって来た。


 side:御厨。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 変なところで切ってすみません。

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