海賊専門の海賊かな?
刃物に興味無い方は読み流してください。
クラウドの野郎が出て行ってから、慌ただしく出港の準備をして海へ出た。
海上を進む航路は、全てアマラが決める。自分達はどこに行くかを知らない。頼めば、目的地へ行ってくれるが、進路も全てアマラ任せだ。
海に出ると、陸にいるときよりも「雪君、暇ー」と言ってアルが食堂に入り浸っていたが・・・
「・・・」
今、アルが食堂にいるのは同じだ。但し、だらりと机に突っ伏して、その目は軽く死んでいる。
アマラに使われて疲れたのだろうか? 今回のアマラの買い物は、アルがカイルとジンよりも多く使われていた筈だ。
アルが具合いを悪そうにしているのはよく見掛けているが…本人は無自覚なことが多かったように思うが…どうもそれとは少し違うような気がする。目が死んでいるアルは、初めて見る。
「アル君、目死んでるねー? どうしたのー?」
疑問に思ったので聞いてみた。
「・・・疲れた…」
「なにが疲れたのー?」
「・・・アマラの血は、高く付いた・・・」
深い溜息と疲れた声。
よくわからないが、どうやらアルは、食料事情でアマラから血を貰ったようだ。基本的に雑食だから偶に忘れるが、アルは一応ヴァンパイアハーフだからな。どうしても血が必要なときもあるのだろう。
なぜアマラの血? とは思うが・・・
まあそれで、対価としてアマラになにかさせられているというところだろう。
アマラになにか頼むと面倒なことになるのは、この船の連中はみんな知っていることだ。まあ、なにか頼み事をしても、それをアマラが聞いてくれるとは限らないけど。
アマラは女王様気質だからな? 男のクセに。本人に直接言うと面倒だから言わないが・・・
「御愁傷様ー。で、なにさせられてるのー?」
「・・・」
ぷいとアルがそっぽを向く。どうやら言いたくないらしい。後でアマラの方に聞いてみるか。
だらだらしているアルを放置して料理の仕込みをしていると、
「ミクリヤ、ちょっといいかな?」
ジンが食堂へ来た。
「なーに?」
海へ出て暫くして、ジンが自分を呼びに来た。ということは・・・
「あ、アルちゃんがいる・・・ま、いっか」
少し考えるような素振りで、けれど、アルの実力を踏まえた上で、ジンが続けた。
「ヒューが、きな臭いから準備しとけってさ」
「おう、わかった。じゃ、急ぐわ」
と、仕込みのスピードを上げる。
「?」
きょとんと自分とジンのやり取りに首を傾げたアルが、ジンの方へ聞いた。
「なにがきな臭いんです?」
「そりゃあ、海できな臭いって言ったら海賊でしょ? 俺らも、だけどさ」
笑みを含んだ低い声が言う。
「海賊…海で人魚の船相手に海賊行為を仕掛ける愚か者ですか…凄いな? 自殺志願者共か」
感心したようなアルトに、
「まあ、人間にはそんなことわからないからね。で、俺らが彼らをカモにするってワケ」
ジンの苦笑が応じる。
まあ、アルの言う通り、海で人魚に喧嘩を売るなど、正気の沙汰でないことは事実。
船は、広大な海の上にぽつんと頼りなく浮いているだけだ。その足場のすぐ下には、広く深く、光も届かない程の暗い深淵が口を広げて待っている。船自体を沈めらてしまえば、海中で生存できる生き物以外はひとたまりもない。
「そういえば・・・なにをしてるのか、聞いたことなかったですね。バウンティハンターかと思ってました。ヒューが前に、刀剣マニアの犯罪者を数年間追い回してたとか言ってたので」
「う~ん…どっちかというと、海賊専門の海賊かな? 襲われたら襲い返して、財産と食料を奪って放置ってパターンが多い。捕まえても、わざわざ陸まで持って行くのは面倒だからね。賞金稼ぎは、陸にいるときかな? で、ヒューが奪ったカトラスの前の持ち主は、刀剣マニアな海賊だったんだよ」
「成る程」
「それで、アルちゃんはどうするの? 海賊とやり合ってるときは、カイルは船内から出ないんだ。無論、アマラもね。俺としては、アルちゃんも中にいてほしいと思ってるんだけどね?」
どうやらジンは、アルを出したくないらしい。けど、アルの答えは決まってるだろうに?
「じゃあ、適当に遊んでます」
「適当って・・・わかってると思うけど、一応言っとくね。危ないよ?」
「でしょうね」
「銃とか、下手したら大砲なんかも撃って来る。当たると、アルちゃんは大怪我するかもしれない」
「大丈夫です。当たらなければ問題無いので」
なんでもないというように、さらっと返すアル。
「・・・無茶しないこと。ちゃんと約束できる?」
「ええ」
ま、アルにはたかが人間の海賊程度は、大した脅威にならないだろう。
なにせアルは、割と本気気味の自分と斬り合いができるんだからな?
ひゆうとジンでも、自分と斬り合いはできない。もう少し正確に表現するなら、二人は自分の動きに付いて来られないと言うべき、か?
自分が四手動くときに、ひゆうは一手。ジンは、五手目で漸く一手となる。まあ、自分は両手ナイフだからというのもあるがな。長剣よりリーチが短くて、返しの時間が短い。そしてジンは、戦闘があまり好きではないらしい。得物が剣というワケでもないからな。
というか、身体がやたら頑丈で怪我の再生が早い奴らは、防御や回避を疎かにする傾向があると思う。偶に、連中は被虐趣味でもあるのかと疑ってしまうが・・・
自分は、スピードと手数で相手を圧し、正面から斬り合わないことで、相手を刻むタイプだ。
一撃一撃は軽いが、その軽い一撃を、相手の防御が薄い場所へ通す技術を磨いた。
猫だから身体が柔らかいことも、自分の長所だ。関節の稼働範囲が普通の男よりも…いや、女よりも断然大きくてしなやかに動ける。
アルも、自分と似たようなタイプだ。
まあ、自分よりも身体は柔らかくないがな?
非力さを、技術とスピードと不意打ちで補うタイプと言い換えてもいい。
非力だから防御と攻撃力自体は低いが、自分やアルみたいなタイプは、速いこと、攻撃が当たらないこと、そして捕まらないことが最低条件になる。あとは、この低い攻撃力の一撃を通す技術か?
つまり、ジンの心配は、自分やアルよりも速く動ける奴がいない場では無用なことだ。
人間で、自分よりも速い奴は、殆どいないと言ってもいいだろう。
「まあ、きな臭い船が遠くにあるだけで、まだ海賊が襲って来るとは限らないけどね?」
「そうですね」
ジンとアルが話している間に、超特急で料理の仕込みを終わらせる。
そして、もう一つの準備を開始する。
「♪~」
刃物コレクションを取り出し、使う物を選ぶ。
自分は、ひゆうとは違って、刀剣マニアじゃない。自分は、刃物が大好きだ。
包丁、ナイフ、短剣を主に集めている。
ちなみに、自分のコレクションの中で一番大きな刃物は、鮪包丁だ。刀身が一メートル以上ある、日本刀のような形状の美しい包丁。
溜息の出るような機能美を誇る形状と、うっとりするような刃紋。
無論、大和産だ。これを入手するのに、自分がどれ程苦労したことか・・・
勿論、包丁は戦闘には使わない。食材を切る神聖な包丁で、他人を斬ったり刻んだりするワケがない。
一度でも武器にすると、それはもう包丁とは呼ばない。自分はそれを、包丁として扱わない。
武器は武器。包丁は包丁。
当然、武器と包丁は研ぐ砥石も、変えている。
今度、アルのナイフを見てみたい。頼んだら見せてくれるだろうか?
『ジン、雪路。来るぞ』
ひゆうの声が声菅パイプ越しに告げた。
さあ、海賊狩りだ。
side:御厨。
読んでくださり、ありがとうございました。
一応海賊設定なのに、海賊らしいことを全くさせていなかったので、海賊らしいことをさせてみようと思います。
百部越えてからやっと・・・




