アルがその気になるまで、ずっと待つ。
百合注意。
混乱したように固まるアルを見下ろす。色々な感情と思考がぐちゃぐちゃに絡まっている。
「アル? 落ち着いて」
宥めるように、頬へキスを落とす。
「返事は今じゃなくていいから。ね?」
そう。返事は別に、今じゃなくていい。
「何十年、何百年、千年だって待つよ」
不安げな翡翠が見上げる。
「…千、年って・・・そんなに、待つの?」
「うん。アルがその気になるまで、ずっと待つ」
アルにイリヤの影響が強く残るのなら、アルに、俺の影響を及ぼせばいいと考えた。
イリヤはヴァンパイアの真祖。
アルは、ヴァンパイアのハーフ。
アルは、半分だけ、ヴァンパイアだ。
元々は母方の血の方が濃かった。
なのに、真祖の血を与えられた。
アルは、イリヤの血を分け与えられた子供だ。
ハーフなのに、真祖の強い血を無理矢理与えられて、壊された子供。
アルは元々、そんなに血を必要とするタイプじゃなかった筈だ。けれど、調子が悪いときには血を必要とする。
それが一体、どういう意味なのか?
アルは、イリヤが活動を再開してから、調子が悪かったらしい。そして、自分では気付いていないだろうけど、明確に血の摂取量が増えている。
イリヤの影響でアルがヴァンパイア寄りに成って行くというのなら、俺の精気や血を与えることで、アルを夢魔に寄せればいいと思った。
幸い、アルは俺の子孫達の血や精気を長年取り込んで来ている。そんな彼らの先祖である俺の精気はきっと、アルには馴染み易いだろう。
そしてなにより、アルは俺の愛し子だ。
アルを俺に馴染ませる。
そして、夢魔である俺の方に寄せる。
イリヤやアルの実兄がしたように、許容できない程に大量の血と魔力を短時間で一気に与えてアルを壊すような真似は、絶対にしない。
アルに触れ、撫でて、キスをして、俺の精気を与えることで、ゆっくりゆっくり、じわじわとアルを俺に馴染ませ、アルを夢魔寄りに創り変えて行く為の準備を整える。
何百年掛かろうとも、全然構わない。
時間は、幾らでもある。
死ぬまでに返事をくれれば、構わない。
「ふふっ、忘れてもいいよ?」
「・・・さすがに忘れないでしょ」
「そうだね」
アルの唇をそっと塞ぐ。
「愛してるよ、アル」
「ん…」
ほんのり冷たくて柔らかい唇を啄み、ゆっくりと精気を分け与える。
閉じる、銀の浮かぶ翡翠の瞳。
アルにとって、キスは挨拶と食事、愛情表現の方法でもある。そしてそれは、俺にとっても同じこと。キスは食事で、愛情表現で、挨拶だ。
唇をやわやわと食み、開いた口からそろりと舌を入れ、ゆるゆると絡ませる。
「んっ、ふ・・・ぁ…」
可愛い、好き、愛しているという気持ちを籠めて、ねっとりとキスを深めて行く。
「はっ、ぁ・・・ハァ、ハァ…」
上気する頬、とろんと潤む瞳、乱れた甘い吐息。
息継ぎの為に軽く唇を離し、呼吸が整う前に、また唇を塞いで精気を流し込む。
「は、ぁ・・・んっ…」
くたりと力の抜けたアルを抱き上げ、ベッドへ。
「る、ぅ…も、ぃ…」
呂律の回らない舌っ足らずな甘い声でアルが首を振る。口の端から垂れた唾液を舐め取る。
「ん、可愛い♥️」
「んっ…」
とろけた表情がもっと見たい。だからアルに、もっと俺を与えて、馴染ませておこう。
空気を求めて喘ぐ半開きの唇を、また塞ぐ。
「る・・・んっ、ふ・・・」
俺も、少しローレルの真似をしようかな?
side:夢魔。
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目を覚ますと、ルーがいなかった。
そして、ベッドサイドには覚えのない血晶が十数個と、置き手紙とが置いてあった。
『愛しいアルへ。
あたしの血晶。使い方は、わかるでしょ?
ちょっとヒトを探して来るから、またね?
愛してるわ。ルーより。』
という、キスマーク付きの手紙だ。
あのヒトは、本当に・・・
来るのも、いなくなるのも突然だ。
つか、オレは、どれくらい寝てたんだ?
キスをされてからの記憶が曖昧だ。
side:アル。
読んでくださり、ありがとうございました。
夢魔のヒト、再び退場です。
メリークリスマスということで、(ウソです。あまり関係ありません)イチャイチャしてます。
けど、キスはアルと夢魔のヒトにとっては食事と愛情表現の一環なので、気持ち悦くはなっても、ムラムラはしません。




