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・・・なんで、そこまでするの? 貴方は。

 ちゃんと本編です。

 オレは、ヴァンパイアハーフだ。


 ヴァンパイアの、ハーフで・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


「アルさん? どうかなされましたか?」

「え?」


 アクセルさんの言葉に、顔を上げる。


 覗き込むような青の瞳に、僅かな心配が滲む。


 ああ、今はアクセルさんの…というか、ブライトの店でアマラとアクセルさんが契約中。


 さっき、長袖に帽子、サングラス、日傘の完全防備のアマラに引っ張られて来たんだったな。


「やはり、具合いが宜しくないんですか? 手配した血液だけでは足りなかったでしょうか?」

「あ、いえ、体調は大丈夫です。そうじゃなくて、少し…考え事をしていただけです。すみません」

「この子、さっきからずっとこんな感じなんです。多分、病気とかではないと思いますから」


 呆れたようなハスキーが言う。


「そうでしたか。それなら、いいんですが……」


 納得したようなアクセルさんの返事。同情のような、(いたわ)るような柔らかい青の眼差し。


 いや、うん。まあ、兄さんの件も・・・ね?


「・・・・・・・・・」


 ぼんやりしていたら、いつの間にかアマラとアクセルさんとの契約が終わっていた。


 会話が全く頭に入って来ない。


「ちょっとアンタ、聞いてるのっ?」

「・・・え? あ、なんか言った?アマラ」

「こんの、ぼけぼけアホ小娘はっ……」


 苛立ったようなアイスブルーが、サングラス越しにオレを見下ろしている。


 あれ? いつの間にか外だ。アクセルさんに挨拶したっけ? 覚えがないな。


「え~と? ごめん? 聞いてなかった」

「なにぼけ~っとしてンのよ? なに? 本当に体調悪いワケ? …連れ回してる、アタシのせい?」


 ハスキーな声が、若干弱気になって聞く。


「いや、本当に体調は悪くないよ。ただ・・・」

「ただ、なによ?」

「・・・」

「だからっ、なんなのよっ!?」

「なんでもないよ・・・」

「ああもうっ、ハッキリしないわねっ!? 体調も具合いも問題無いなら行くわよっ!?」

「へ? アマラ?」


 ぐっとアマラに手を引かれ、高級ホテルへ。


「ほら、ケーキが来たわ。食べなさいよ」


 ラウンジでお茶をしている。


「昨日は来られなかったんだから、堪能なさい」

「うん、ありがと」


 ほこほこと香り立つ(かぐわ)しい紅茶の匂い。


 ケーキスタンドに乗ったサンドウィッチ、スコーン、マフィン、クッキー、チョコレート、プチケーキなどの揃った本格的なティーセットを、結構高いだろうなと思いながら、ぼんやりと手を伸ばす。


「アンタって、やっぱり育ちがいいのね」

「ん?」

「こんなとこ来ても全く慌てないで落ち着いてるし、食べ方もなかなか綺麗だわ」

「まあ、一応テーブルマナーなんかも習ってはいたから。それなりにね?」


 兄さんやリリとお茶するときは、本当に最高級なお茶やお菓子を張り切って用意してくれるし。


 こういうティーセットは食べ慣れている。


「オレ、コーヒーより紅茶派だし」

「そう」

「うん。アマラこそ、優雅だね」


 とても、美女だと思う。なんて思っていることは口には出さないけど・・・


「ふっ、当然じゃない!」


 パッと髪を掻き上げ、胸を張るアマラをぼんやりと眺める。


「・・・もしかして、気を抜いてンの? アンタ」

「へ?」


 気を抜いて・・・る、か?


 確かに。そうかもしれないな。こんなに気を抜いてぼーっとしてるなんて、久々だ。


 なんだかんだで、なぜかこの数ヶ月はず~っと体調悪かったし・・・なんでだろ?


 父上に家を追い出される少し前くらいから体調が悪くて、夢見もやたら悪いし、なかなかキツかった。


 夢見は悪いが、夢の内容はあまり覚えていない。ただ、凄く(いや)な夢だったということは判る。


 夢見が悪いのは昔からだが、それが数ヶ月も続いたのは今回が初めてかもしれない。


 眠るのが厭だったし・・・


 オレは、ずっと気を張り詰めていたのか・・・


 多分、ここ一週間…くらいかな? (ようや)く調子が戻って来た感じがする。


 ルーのお陰・・・なんだろうか?


 ルーといると、すとんと眠れて夢も見ない。まあ、あのヒト夢魔だし。


「なんか、体調良くなったから気が抜けたのかも…? あと、あのクソ野郎もいないし」


 まあ、兄さんが動いているというなら、このままぼへーっとしているワケにも行かないけど・・・


 いや、兄さんが動く前のこの、嵐の前の静けさというか・・・()いだ時間が心地よいのか?


「・・・そう。なら、思う存分、気が済むまでぼーっとしてなさい」

「?」


 謎なアマラの言葉。けれど、オレがぼけーっとしているのも事実。なんとなく頷いておく。


※※※※※※※※※※※※※※※


 オレはヴァンパイアのハーフ。


 それをずっと考えて、考えて・・・


 結局わからなくて、()くことにした。


「・・・ねぇ、クラウド」


 部屋に呼んで、向かい合う。


「ん? なぁに? アル」


 甘い艶やかな声。金の混ざる紫。アメトリンの瞳が、柔らかくオレを見下ろす。


「あれって、どういう意味?」

「そのままの意味だよ。夢魔に成らない? アル」

「オレは、ヴァンパイアハーフだよ?」

「うん」


 にこりと微笑むクラウド。


「ねぇ、アル。アルは、(あたし)(あなた)の弟君と似ていると思っているよね」

「?」


 頷く。クラウドの容姿は、シーフと似ている。癖のある漆黒の髪、蜜色の(なめ)らかな肌。


 瞳の色、性格や雰囲気なんかはまるで違うが、顔の造作自体と、シーフの根底にそこはかとなく漂う妖艶さは、どこか似通っている。


 ルーの方は、シーフの母親のビアンカさんと雰囲気もよく似ていて・・・


 まあ、シーフはあの性格と言動がアレだから、かなりアホっぽいが、黙って起きていれば、物憂げな妖艶さが漂う。普段から眠り()けて、寝捲っているあのシーフが、黙って、起きてさえいれば、だ。

 ほぼ無理な条件だけど・・・いや、吸血(キス)のときのシーフは、割と雰囲気がエロいかな?


 ・・・いや、それはヴァンパイア全般か。


「弟君の方が、(あたし)に似ているんだよ」


 クラウドの言葉に頷く。


 だって、クラウドの方が、シーフよりもずっとずっと年上だ。それは判っている。


(あたし)はね、アルの弟君の先祖に当たる」

「・・・納得した」


 とても、()に落ちた。


「アルは、(あたし)の子孫の弟君と、その母親の血と精気を、どのくらい口にした?」

「え?」

「少なくとも、百年以上だよね? 下地はもう、できていると思うんだ」


 蜜色の熱い手が、頬へ添えられる。


「アルは、純粋なヴァンパイアじゃない」


 クラウドのそれは、単なる事実を言う言葉。それ以外の意図の無い言葉。なので、頷く。


「アルは、(あたし)の血を引く子供達の血と精気を、長年分け与えられて来た」

「・・・」

「ねぇ、アル。(あたし)の精気は美味しいでしょ? 血と魔力は、まだアルには少し強いみたいだけど」


 アメトリンが優しく見詰める。


「アルが頷いてくれるなら、何年、何十年、何百年でも・・・長い、(なが)い時間を掛かけて、(あなた)をゆっくりゆっくり(つく)り変えてあげる。大丈夫。アルのお兄さんみたいに強引な真似は、絶対にしないから。痛いことも、(つら)いことも無い」


 熱い親指が、唇へ触れる。


「お腹が空いたら、(あたし)の精気を分けてあげる。(クラウド)が微妙なら、(ルー)になってあげる」


 クラウドのスラリとした少年の輪郭が、柔らかな丸みを帯びて曲線を描く。


 少年(クラウド)の身体から女性(ルー)の身体ヘと変化する。


「・・・なんで、そこまでするの? 貴方は」


 オレに、なんでそこまでしてくれる?


(あなた)を、愛しているから」


 少し高くなった声が、慈しむように言う。


(あなた)が好きだから甘やかしてあげたいし、優しくして、()でて、(あたし)を与えてあげたい」


 涙が出そうなくらい、優しい声。


 オレは・・・


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 夢魔のヒトの愛の告白?でした。

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