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血液を結晶化させた石。

 手当てを終えてから船内を見て回り、良さそうな部屋を決めた。使っていないという割にはかびや埃っぽい感じの臭いはしない。掃除が行き届いている。


 靴を脱いで、ベッドの上に倒れ込む。


 疲れた。怪我を治すには体力が要る。


「・・・ふゎ…眠…」


 欠伸(あくび)に涙がにじむ。腕に血流を集中させている為、眠気が・・・


「けど、痛い…」


 怪我は、治りかけが痛むものだ。しかも、体質的に麻酔は効かない。だから、痛みを紛らわせるには冷やして感覚をにぶらせるくらいしか効果がない。

 他は……痛み以上になにかに集中するとか? とは言ってもなぁ・・・痛くて眠いという状態で、他のなにかに集中するのは難しい。今は動くのも億劫おっくうだ。


 つか、これ。さっきのが尾を引いてンな? 昏睡に落ちかけたのを、養父さんの殺気で意識が浮上させられた。だから、緊張常態が解けて一気に眠気と痛みが襲って来たという感じか? まあ、痛いせいで中途半端に眠れないが・・・


「…腕、熱い」


 血流を集めている右腕が熱い。空気中の水蒸気を集め、水にして腕に(まと)わせ、さっと水蒸気に戻し、気化熱を利用して腕を冷やす。


「はぁ…」


 冷やし過ぎても血流阻害になる為、治りが遅くなる。熱くなったら冷やすというのを繰り返す方がいいだろう。


 眠いし痛いし怠い。


 そして今、なによりキツいのは、信頼できる奴が傍にいないということだ。

 安心して身体を休めることができない。

 ここは、見知らぬ場所だ。昔から知っている奴…雪君だって、ここ百数十年程は没交渉。

 おまけに、つい先程知り合ったばかりの連中も複数。この怪我を手当てする為だとは言え、オレはここに無理矢理連れて来られた。

 そんな相手を、いきなり信用することはできない。オレは、そこまでめでたい頭はしてない。


 というワケで、さっき養父とうさんがポケットへ忍ばせてくれた血晶けっしょうを取り出す。一センチ程の深紅の丸い石が数個。

 見知った気配と魔力とが滲むこれは、血液を結晶化させた石。

 液体に戻して血として飲むも良し。魔術の触媒にするも良し。攻撃に使うも良し。連絡手段にするも良しという便利な石。


 気配的な感覚では・・・父上の血晶、養父さんの血晶、レオの血晶…ぅわ、兄さんのもあるし・・・弟のやつ、そして姉さんのだ♪


 とりあえず、兄さんのは仕舞っておこう。

 ストックがまだある…っていうか、定期的に送られて来るから全く減らない。

 というか、下手に使うと身元特定に繋がるから使えないし・・・うん。絶対使わない。


 父上のは・・・あれだ。きっと、帰るなら使えということなのだろう。

 これも、お蔵入り決定。

 当然ながら、オレは帰るつもりが無い。

 もしくは、栄養剤として使えということなのかもしれない。まあ、父上と兄さんの血は、魔力が濃いからあまり飲みたくないんだが。


 生きているヴァンパイアにとって、血は必ずしも必要なものではない。

 真祖の血筋に近しいモノは、他生物からの栄養補給を必要としない個体も存在する。

 大気中に漂う魔力や精気を取り込むだけで存在維持ができる個体にとって、経口摂取の食事は嗜好品(しこうひん)(たぐい)となる。


 とはいえ、ヴァンパイアという種族は、愛するモノの血を本能的に求めてしまう…愛する(・・・)モノの(・・・)血を(・・)求め(・・)愛する(・・・)モノを(・・・)自分の(・・・)血で(・・)満たしたい(・・・・・)という欲求を持つ因果な存在だ。


 これは、アンデッドの吸血鬼も変わらない。劣化しても、仕様(しよう)を受け継ぐというべきか・・・いや、自分の(・・・)血で(・・)満たしたい(・・・・・)というのは、受け継いでないかもな?


 オレは、普通の野菜や果物、動物の肉なんかからも栄養を摂取できるタイプ。

 人間の食べ物は普通に美味しいと感じる。そして、折角(せっかく)美味しいと感じるのだから、食べないのは勿体無いと思う。

 まあ、衰弱したときや疲労困憊(ひろうこんばい)のときなんかには、血液の方が栄養摂取の効率は良いが・・・

 オレにとっての血液摂取は、栄養剤や点滴のような感じだろうか? または、ドーピングに近い。


 適度な魔力のこもる血液ならいいが、魔力が濃過ぎると、非常にキツい。魔力を他のモノで例えるとしたら・・・酒に近いだろうか?

 魔力の低い血は軽めの酒。魔力が高くなって行くにつれ、アルコール度数も高くなって行くイメージというのが近い。

 魔力が高過ぎる血液はウォッカとか、むしろ純粋なアルコール…消毒液などの劇薬げきやくに近い感じだ。


 魔力の許容量の低いモノが濃度の高い魔力を摂取すると、急性アルコール中毒のような症状を起こす。運が悪いと、魔力飽和で死ぬだろう。死ななくても、身体や精神が壊れてしまう。いや、死ねない(・・・・)方が・・・壊れた(・・・)身体や(・・・)精神で(・・・)生き続ける(・・・・・)方がもっと大変、か・・・


 昔、姉さんが結婚したばかりの頃・・・オレは、とち狂った兄さんに致死量ギリギリまで血を飲まれた挙げ句、兄さんの血を大量摂取させられて死にかけたことがある。

 それ以来、魔力の高い血液は少々トラウマだ。飲むのに覚悟を必要とする。


 ちなみに、兄さんはそれが原因でオレへの接近禁止令が下った。数十年間程に渡って……

 今は解除されているが、それでも兄さんとオレが二人きりになるのは規制中。

 規制解除の権限はオレが有しているが・・・まだしばらくは、解除はできそうにない。


 そんな兄さんには、こんなところ絶対に見せられない。あのヒト、保護という名目でオレを軟禁。報復とか言って、この船のヒト達を殲滅せんめつ・・・なんてことを、素面しらふでやりそうなくらいにはヤバい重度のシスコンだ。


 兄さん、実母がアレなヒトだったらしいからなぁ・・・ちなみに、オレが産まれる前にはもう兄さんの実母は死んでいるので面識は無いが。ただ、父上とそのヒトは政略結婚で、兄さんが産まれた後、父上を暗殺しようとしたそのヒトが返り討ちにされたという。


 そんな感じで、兄さんは色々とこじらせている。


 しかも兄さんの実母の血族はまだ続いていて、隙有らば兄さんを使ってアダマスを乗っ取ろうと、未だに画策しているらしい。ちなみに、始祖がうちと同じということもあり・・・なんというか、非常にいや過ぎる因縁だ。

 まあ、オレは向こうの血族には認識されていないけど。というか、純血至上主義者共はけがれたハーフは始末すべしっ! な連中だからなぁ・・・認識されると非常に厄介だ。


 向こうの血族は昔、姉さんを侮辱した上、暗殺しようとしたので、重度のシスコンな兄さんとは問答無用で険悪だ。なのに、兄さんに見合い話を持ち掛けて来るという図太さ。それも、向こうの血族の女性を・・・

 ながく続いている家系だけあって、老獪ろうかいというべきか、面の皮が厚いと言うべきか・・・兄さんに言わせれば、恥知らずなのだそうだが。


 まあ、どのみち至極厄介なことに変わりはない。


 あの連中のせいで、兄さんが益々厄介に拗れたことも間違いないのだが。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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