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それじゃ、考えておいてね? アル。

 ・・・疲れた。


 いや、もうあれ、試着じゃなくて普通に本格的な仮縫(かりぬ)いになったし・・・


 仮縫いって、疲れるんだよね・・・


 変なポーズで固定、絶対動くな!ってやつ。

 本気でマネキン扱いされたし。

お陰で、肩とか背中がバキバキだ。

 もう既に筋肉痛が・・・


 鈴蘭(スズ)といい、アマラといい・・・


 なんていうかこう、熱量? あの、ファッションとやらに対する情熱はどこから来るんだろ?


 オレには真似できん。


 そもそも、服はTPOに合ってて、特におかしくなけりゃなに着てもいいと思うんだがな?


 オレは、可愛い女の子…男の子でも可…を見るのは好きだが、自分が着飾りたいワケじゃない。


 ヒラヒラやフリフリで、荒事ができるか。

 テラテラやキラキラは、目立つじゃないか。

 コルセット? なにそれ拷問?


 オレ自身は、動き易い格好が好きなんだ。


 ・・・世の令嬢方はホント凄い。


 暑い寒い痛いキツいツラいなどを、この服を美しく着たい! と、ド根性で我慢する。我慢できる。


 敬服するぜ、全く。


 side:アル。


※※※※※※※※※※※※※※※


「疲れてるの?」


 重い足取りで階段を上がって来るアル。


「ん~・・・まあ、少し」


 気怠(けだる)げな返事が返る。


 どうやら、もう怒ってはいないようだ。というか、疲れててそれどころじゃないのかな?


「運んであげようか?」


 手を差し出す。


「いや、いい」

「そう? 残念」

「? なにが?」

「なんだろうね?」


 不思議そうに見上げる翡翠が可愛い。


 断られたが、白い手を引き寄せて抱き締める。ほんのり低い体温と、華奢な身体を。


「クラウド?」


 抵抗はされない。本当にもう、怒っていない。


「ふふっ、愛してる」

「? ありがとう?」


 どうやら…というか、やっぱり(あたし)は、アルを甘やかすのが好きなようだ。


 (あたし)のこれは、恋ではない。


 アルを()でて、優しくすることが好きだ。アルに触れ、抱き締めて、撫でて、キスをする。

 それだけで(あたし)は、満足する。

 アルが欲しいとは思わない。

 むしろ、アルに(あたし)を与えたいと思う。

 (あたし)は、アルが生きていることが嬉しい。


 熱く燃え上がるような感情を伴わないこれは、きっと恋じゃない。


 (あたし)は、アルが好きで、アルを愛している。


「ねぇ、アル」


 頬へ手を添え、


「? なに、クラウド」


 じっと、銀の浮かぶ翡翠を覗き込む。


(あなた)は、ヴァンパイアでいたい?」

「? ・・・どういう、意味だ?」


 きょとんと、(あたし)に言われたことの意味が一瞬わからなくて、けれどそれを理解した瞬間に、低くなるアルトの声と険しくなる視線。


 アルは、ヴァンパイアのハーフだ。


 アークとイリヤの子孫で、純血のヴァンパイア。ローレル・アダマスと、とある種族の…人間に聖女と祭り上げられたリュースという女性との間に生まれた子供。


 けれどアルは、母親であるリュースの一族に混血だと(うと)まれ、()まれた。狂ったような否定と、殺意と共に・・・そして、アルに対するその狂ったような殺意と否定とで、リュースを追い詰めて壊した連中を、非常に憎んでいる。


 アルはあの連中を、絶対に(ゆる)さない。赦せない。嫌悪している。軽蔑している。憎悪している。殺したいと思っている。壊したいと思っている。


 普段は熾火(おきび)のように、ひっそりと心の奥深くへと仕舞い込んでいるその感情が・・・

 どす黒く、どろどろと重苦しくも激しい怒りと憎悪が鎌首をもたげ、翡翠の瞳を(くら)い炎が燃え上がらせる。


 その、昏く激しいアルの憎悪と憤怒は、()しくもあの馬の子…トールと似た感情だ。


 アルは、嫌悪するだろうけど・・・


 アルとトールは、ある意味では似た者同士。


 (あたし)には、表裏の関係のようにも思える。


「クラウド」


 剣呑さを(はら)む低いアルトが、(あたし)を呼ぶ。


 きっとアルは、今の問い掛けを、ヴァンパイアではなく、母親(リュース)の種族にならないか? という意味で取ったのだろう。けど、そうじゃない。


「夢魔に、成らない?」

「は?」


 アルの記憶(あくむ)はもう、(あたし)のモノでもある。

 アルの感情は、手に取るように理解(わか)る。


 そんな(あたし)が、アルの(いや)がることをするワケないじゃないか。不可抗力なら仕方ないとして、(あたし)は、(あなた)を愛しているんだから。


「???」


 昏い感情と剣呑さがさっと失せる。まあ、あの感情が無くなったワケではないが・・・


 表に出て来るのは、強い困惑と戸惑い。


 アルは、ヴァンパイアハーフだ。そして・・・可愛い可愛い、(あたし)の愛し子。


「ふふっ」


 驚きで思考が停止したアルの唇に、そっと触れるだけのキスを落とす。と・・・


「ああっ!? またこんなとこで公序良俗違反してるっ!? 公共の場でイチャ付くのはやめてって言ってるのにっ!? 何度言ったらわかるのさっ!?」


 ぷりぷりと怒るボーイソプラノ。(ほうき)を持って(あたし)を指差すのは、妖精の子。


「あ~あ、見付かっちゃった♥️」

「見付かっちゃった、じゃないよっ!?全く。はい、クラウドはさっさとアルから離れるっ! っていうか、さっきアルがベタベタするなって言ってたのに。さっきの今で、もうこれなワケ?」


 怒ったり呆れたりと、感情豊かな可愛い子だ。


「仲直りしたからね」

「え? もう? アル、結構怒ってたよね?」

「うん。でも、もう怒ってないみたい」

「そうなの? アル」

「・・・」

「アル?」

「アル、妖精君が呼んでるよ?」


 聞こえていない様子のアルを呼ぶと、驚いたようにパチパチと妖精君を見やる翡翠。


「え? あ、カイル? なに? どうしたの?」

「いや、どうした? は、アルの方でしょ。なに? クラウドと二人切りのがよかった? 僕、邪魔?」


 ぼーっとしたようなアルの返事に、ムッとしたようなボーイソプラノが返す。


「そんなことないよ? むしろ、俺はいつでもどこでも、アルとイチャイチャして見せ付けたいけど♥️」


 別に恥ずかしいことはしていないし。


「だからっ、そういうのやめてってばっ!? もうっ、さっさと離れるっ!?」

「ふふっ、はいはい。わかったよ」


 ぷりぷり怒る妖精君の言葉で、アルを放す。


「…それじゃ、考えておいてね? アル」


 そっと耳元に小さく(ささや)いて、


「さて、人魚ちゃんにお土産持って行こうっと」


 人魚ちゃんのところへ向かう。


 さっき、人魚ちゃんに約束した宝石類を、馬の子に貢がせたからね。それを渡しに行かなきゃ♪


 side:夢魔。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 夢魔のヒトの誘惑?でした。

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