小娘。暇してるなら、少し付き合いなさい。
「お土産のお菓子食べて機嫌直してよ? アル」
というクラウドの誘いを、
「ヤだ」
と、蹴ってお菓子は全部カイルに進呈した。
「ンで以て、暫くはクラウドのままでいて、オレにベタベタするな」
と言っておく。
「はいはい、わかったよ」
苦笑気味に頷くクラウド。
女状態を殴るワケにはいかないので、男状態をぶん投げて海へ落とすくらいで溜飲を下げはしたが、オレはまだ、怒っているのだ。
怒っている。けど・・・クラウドは、そんなオレを微笑ましいという表情で見下ろす。
「? どうしたの? アル」
なんか、子供扱いされている気がする。
「・・・部屋戻る。ついて来るな」
「わかった。それじゃあ、後でね?」
柔らかい優しい声が、余計に腹立つ。
アクセルさんから届いた血液を部屋へ持って行き、籠の底に手紙が入っていることに気付く。
一枚目はアマラとの取引について。
これは後でアマラに確認するとして・・・
二枚目は、やっぱり兄さんに関しての内容。
どうやら兄さんは今、リリの船にいるらしい。
兄さん主催での株主総会、またはアダマスの関係者を呼んでのパーティーは、リリの船で開催されるかもしれない…とのこと。
リリと兄さんは、あんまり仲良いイメージないんだけどな? なんかこう、二人が顔を合わせる度、チクチク言い合いをしている印象だ。アクアス銀行の専務と、アダマスの経営全般の統轄者として。
二人共仕事熱心だからなぁ。
なんというか、二人は見る度に「仕事をしては如何ですか?」とお互いに言い合っている。
お茶会なんだから、お茶を楽しめばいいのにさ? ある意味、仲良しなのかもしれない。
「はぁ・・・」
兄さんについては、対策のしようがない。
兄さんに会うときには盾が必須だというのに。
今は、その盾に接触するのが難しいという状況。
どうするかなぁ・・・
「ぁ~ぅ~~………」
アレだ・・・うん。それは後で考えよう。
どうせ考えたって答えは出ない。
というか、招待状とかも? まだ来てねーしっ!
招待状が来てから考えよう!
兄さんについては、思考を投げた。
ということで、部屋を出て・・・
「アマラー、話あるんだけど?」
コンコンと船底のドアを適当にノックする。
この船は人魚の船なので、リリの船と似たような感じなのだと思う。
だから、船の主であるアマラへ声をかけて呼べば、すぐに応えてくれるだろう。けど、アマラと顔を合わせて話したいので船底まで来てみた。
『なによ? アタシは今忙しいの。話だけなら、その場で適当に話してなさい。聞くだけは聞くから』
船底に、面倒だと言わんばかりのハスキーな声が響く。が、引き下がるワケにはいかない。
アマラに返事をしてもらわねば困る。
「アクセルさんから質問。アクセルさんがここに契約書を持って来るか、アマラがアクセルさんとこに行くのか、どっちがいいか聞いてほしいってさ? ちなみに、契約書自体はもうできてるから、アマラの都合のいい時間と日時を調整するんだって」
相変わらず、優秀な商人っ振りというか・・・
「仕事早いよねー」
『・・・ちょっと、待ってなさい』
考えるようなアマラの返事。
「はいよ」
少しして、ノックした部屋とは別の部屋のドアがカチャリと開いて、アマラが顔を出した。
「入ンなさい」
「お邪魔しまーす」
side:アル。
※※※※※※※※※※※※※※※
「で、どういうこと?」
「ん? なにが?」
「ブライトの若様に決まってンでしょ」
鈍い小娘を見下ろす。
「契約書は持って来るだとか言ってたじゃない」
「ああ、なんか、自分の船に入られるのが嫌じゃなければお邪魔しますってことでしょ。他種族を嫌ってる人魚への配慮ってやつ?」
小娘の言葉に、眉を寄せる。
「アタシ、人魚だなんて名乗ってないわよ」
「そこはほら、あのヒトは商人だからね。他の人魚との取引とかでの情報なんじゃないの? リリもアマラのこと知ってたしさ」
そうだったっ!? ものすごっく、有り得る!
アタシや馬鹿姉、百合娘みたいな人魚の方がかなり特殊で少なくて、他の人魚共は基本頭ゆるゆるピンクなお花畑だったわっ!?
普通に、賄賂に弱いだろうし、口も頭も、ついでに尻も軽い・・・残念な仲間達。
「はぁぁぁ・・・」
思わず、深い溜息。
「? どうかした? アマラ」
「・・・いえ、ちょっと…仲間の残念さに、涙が出そうになっただけよ・・・」
「? 人魚が残念なの?」
きょとんと首を傾げる小娘。
まあ、そりゃあ小娘には普通の人魚共の残念さは、わからないだろう。
だって、海上の世界に出すのは、基本的には優秀で頭の良い人魚だけだもの。
「リリは可愛いよ?」
「アレはアレで、別の意味で残念でしょ」
人魚のクセに百合なんだから・・・
「?」
「まあ、アタシに迫って来ないから、あの百合娘には割と好感が持てるんだけどね」
「ああ……なんか、色々と大変なやつ・・・」
同情するような翡翠の瞳。
そう言う小娘だって、政略結婚から逃げているんだからお互い様だ。・・・いや、「お互い苦労するね」という視線なのかしら?
まあいいわ。つつくと薮蛇だろうから・・・
しかし、買い物か……盲点だったわ。
おバカ共も買い物くらいするわよね……
侮れないわね。商人達・・・
「さて、どうするかという質問だったわね?」
「うん」
「行くわ。小娘、付き合いなさい」
「なんでオレ?」
なんで? そんなの当然、アタシ一人で行きたくないからに決まってるじゃない! …とは言わない。
「アンタあの若様と知り合いでしょうが? それも、家族ぐるみでお付き合いする仲」
「ぁ~…まあ、ね…」
微妙な顔で頷く小娘。
あら? なにか、地雷だったかしら?
小娘…アルは、ヴァンパイアのハーフだ。そしてブライト家は、混ざりモノとして有名な家。
その辺りは非常に繊細な問題だ。おいそれと、他人が簡単に刺激していいことじゃない。
「・・・なんか、困ることがあるってンなら、ちゃんと言いなさいよ。無理強いはしないから」
少し考えているようなアルを見下ろす。
「いや…まあ、時間帯かな? 一応、昼間だったら付き合ってもいいよ。夕方や夜…日が落ちてからは、ヴァンパイアや吸血鬼が出入りするだろうからね。かち合うと厄介だからさ」
「わかったわ。じゃあ、明日お昼に出掛けるわよ」
「OK。お昼ね」
「ということで、小娘。暇してるなら、少し付き合いなさい」
「? なにに?」
にっこりと笑顔で見下ろすと、
「あ、オレ今ちょっと、丁度用事できた」
なにを察知したのか、あからさまに下手な嘘を言って逃げようとする小娘。
「そう。暇なのね? よかったわ。実際にアンタがドレス着てるとこが見たかったのよ♪」
「あ、いや、アマラ?」
ガシッと小娘の肩を掴む。
「ふふっ…逃がさないわよ? 小娘」
「の~~~っ!?」
小娘を、ドレスのある部屋へ移動させる。
さあ、着せ替え着せ替え♪
side:アマラ。
読んでくださり、ありがとうございました。
リリとフェンネルは、勿論アルを取り合っています。仕事行けと互いに牽制。アルはそれを、二人共仕事熱心だなぁと思ってます。




