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ゎ…クラウドが飛んでっちゃった…

「ただいまー、アルっ♪」


「ルー……」


 帰って来たクラウド…ルー? を呼ぶ低いアルト。ピリピリとした怒気が漂っている。


 どうやらアルは、怒っているようだ。


 珍しいな? というか、アルがルーに怒っているのを初めて見たかも・・・


 最近いつも、あれっだけベタベタしてくっ付いて仲良かったのに・・・喧嘩かな?


 ルー、アルになにをしたんだろ?


「やっぱり、怒ってる?」


 無言で見返す冷たい翡翠を伺うルーは……


「怒っちゃ、ヤ♪お願い、許して? ほら、お土産♥️一緒に食べましょ?」


 お土産を差し出してパチンっ☆とウインクした。


「・・・」


 怒っているヒトにその巫山戯(ふざけ)た態度を取る度胸は、すごいと思う。


「火に油だからねっ、それっ!?」


 思わずツッコミを入れてしまった・・・って、アルが無言でお土産受け取ったしっ!?


「え? あれ? 許すの? アル」


 まあ、ルーがなにしたかわからないけど……


「はい、カイル。全部あげる」


 と思ったら、そのまま僕へ。


「へ? あ、え? ありがとう?」


 思わず受け取ってしまった。というか、押し付けられた? すると、


「…クラウドになって」


 低いアルトが無表情に言った。


「・・・仕方ないな?」


 艶やかな溜息が吐かれた瞬間、ふっと曲線を描くルーの輪郭が溶けて、スラリとした少年の輪郭へ…クラウドの姿へ変わった。


 本当に、いつ見ても不思議な変化だ。


「それで、アルは俺をどうするつもり?」


 少し低くなったクラウドの声が言う。


「手、出して」

「はい」

「両手」

「うん。それで?」


 するとアルは、おもむろにクラウドの両手首をガシッ! と強く握り、


「ぉるぁァァぁっ!!!」


 と、太い声を上げてクラウドをブン投げた。


「ぅわ~っ!?」


 そしてクラウドが宙を飛んで行き、段々遠くなる声。次いで、ドボンっ! と派手な水飛沫を上げて海に落ちた。


「ゎ…クラウドが飛んでっちゃった…」


 海に落ちたクラウドがのろのろと泳いで船へと向かって来る。けど、アルは動かない。


 仕方ないので、クラウドが上がって来られるよう水面にロープを落とす。


「大丈夫ーっ?」


「大丈夫だよーっ!」


 という返事で、片手を振ったクラウドがよじよじとロープを伝って上がって来た。


 水も滴るなんとやら・・・ずぶ濡れで妖艶さを増したクラウドが苦笑し、


「あ~あ、ベタベタする。潮臭いし……」


 海水を含んだ髪の毛を掻き上げてさっと手を払う。すると、パッと濡れた服や髪の毛が一瞬で乾いた。


「え? 今、なにしたのっ?」

「ん? なにって、水分を飛ばしただけだよ。あと、ベタベタしないようにミネラル分もね」

「クラウドもアルみたいなことできるのっ?」

「まあね。ありがとう、妖精君。助かったよ」


 にこりと微笑むクラウド。


「あ、うん。どういたしまして」

「さて、気は済んだ? アル」

「…今回はこれくらいで勘弁しといてやる」

「ふふっ、そっか。ありがとう」


 不貞腐(ふてくさ)れたアルを柔らかく見詰める金の混じる紫。そして、すっと白い頬へ伸ばされる蜜色の手。笑んだ顔が寄せられ、チュッと軽いリップ音。


「…仲直り、ね?」


 それは、流れるような一連の動作で・・・


「・・・って、またかっ!? 少しは場所考えてって言ったでしょっ!?」

「うん? 仲直りのキスもダメなの?」

「駄目に決まってるでしょっ! 公序良俗違反っ!」

「妖精君は厳しいな?」

「厳しくないよっ!?」

「ふふっ」


 side:カイル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 なにやら、クラウドがアルに海に落とされたようだ。カイルがキャンキャン騒いでいる。


 怒っていたのはアルじゃなかったか?


 まあ、アレは怒って当然だと思うが・・・


「?」


 ふと、黒い物体が動いているのが見えた。


「・・・犬? じゃ、ねぇな。なんだありゃ?」


 船へ向かって来るのは、犬の形のナニか。その口には(かご)が咥えられている。


 船を降り、犬っぽいモノに向かう。と、それは俺に近付いて、くいっと咥えている籠を上げた。


 籠の上には、


「? …メッセージカード?」


 シンプルに、『アルさんへ』と書かれている。裏返して見ても、他にはなにも書かれていない。


「アルへの届け物か?」


 受け取れとばかりに、くいっと籠を俺へと押し付ける犬のような黒いナニか。籠を受け取ると、ソレはどこかへ行ってしまった。


 船へ上がって、アルへ声を掛ける。


「おい、アル。届け物だ。ほれ」

「?」


 アルは首を傾げながら籠とメッセージカードを受け取り、それを読むと納得したように頷いた。


「ああ…」

「なにが入ってるの?」


 カイルが興味深そうに籠を見やる。

 俺も少し気になるな。


「中身はなんだ?」

「オレのおやつ」

「お菓子っ!?」


 甘い物に目がないカイルが籠を覗き込む。


「や、残念ながら、これは血液。人間の」

「え?」

「ああ、もしかしてさっきのか? 早いな」


 さっき、アクセルという男がアルへ血液を手配すると言っていたが、それがコレか。


「まあ、あのヒト、有能な商人だからね」

「アルって、人間(ひと)の血を飲むの?」


 パチパチと驚いたように(まばた)くトルコ石の瞳。


「? カイル、なにを今更? オレは一応ヴァンパイアだよ? ハーフだけどね」

「だ、だってアル、いつも果物とか野菜とか、花を食べたり? しかしてなかったから・・・」


 少し気マズげなカイル。


 そういえば、アルが血液を飲んでいる姿は、先程の(あか)い結晶を口にした以外、見たことが無いな? 血の匂いをさせていることは偶にあるが・・・


「ま、オレは基本的にはあまり血を必要とするタイプじゃないからね」

「基本的には?」

「そ。偶には必要ってこと」


 side:ヒュー。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 夢魔のヒトとの喧嘩?と仲直りでした。

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