はあっ? なにこの頭ヤバい奴・・・
前回の続きです。アホ注意。
条件反射で殺意が湧いて来て・・・ここは真昼の街中で、大通りだということを思い出す。
まずは落ち着こうか? はい、深呼吸。
「・・・」
そう…きっとなにかの聞き間違いだ。
あのクソ野郎がこんなところにいる筈がない。
第一、奴がいた場所からどれだけ離れていると思ってるんだ? 幻聴だ幻聴。
「アルゥラっ!? 俺だ、俺! アルゥラの恋人の」
「誰が恋人だクソ戯けがっ、死ねっ!?」
馬鹿な主張にブチっ! と、頭の中でなにかの切れる音がした。思わず幻聴のした方へ、思いっ切り回し蹴りをすると…
「ぶっ、べへっ!?」
なにか黒い奴が吹っ飛んで行った。ズザザっと、地面をバウンドしながら転がって行くなにか。
「ぅわ・・・」
なぜかアマラのドン引きした視線。
「さあ、行こうかっ? さっさと! 即座に! 今すぐにこの場所から離れようっ! そうしないと、不幸になるからねっ! なんなら、運ぶからっ!?」
パッとアマラの手を引いて…
「ちょっ、きゃっ! アルっ!?」
走りだすのを一旦やめ、日傘を畳みアマラへ。
そして、アマラを抱えて走ることにした。俗に言う、お姫様抱っこで。
「なんなのよっ!?」
「だって、走るの苦手でしょ?」
そう、人魚は走るのが苦手だ。足が遅い。
「リリも、長い時間や長距離は走れないから」
別に、どこぞの人魚の童話みたいに、歩くと足が痛むというワケではないらしいが、オレが見た限りでは、他の人魚も大体走るのが上手くない。
「それは…」
「しかも、ハイヒールだし。余計に走れない」
「っ・・・屈辱だわっ! 自分より小さい、しかも年下の小娘に抱えられるなんてっ…」
「アマラって、案外軽いね? さすがにカイルよりは重いけど、シーフよりは軽いかな?」
身長の割に…というか、シーフが筋肉質なのか? アイツ、すぐ「アル、おんぶ」だとかアホ言って背中に乗って来るし……そのシーフより、アマラが軽い。持った感触も、シーフよりは華奢で筋肉も柔らかめ。女の子よりは少し硬い感じの筋肉だけど・・・人魚だからかな? 皮膚もリリみたいに少し冷たくてひんやりしている。
「お黙りっ!」
「アマラの方こそ、黙ってた方がいいよ? 帽子も、脱いでから確り持ってね。落とさないように」
「え?」
「スピード上げるから」
「きゃっ!」
宣言通り、速度を上げる。
「・・・ァ…ゥラー…」
後ろの方から声が聞こえた気がする。
「チッ…もう復活しやがった」
あのクソ野郎は、やたらタフだ。
・・・撒けるかは、わからない。奴の足はオレより速い。だけど、奴には絶対捕まりたくない。殺したくなる。殺意が抑えられない。さすがに、街中で暴れるワケには行かないだろう。
なので、大通りをアマラを抱えたまま爆走する。
「アマラ。船とホテル、どっち行く? それとも、途中で降ろそうか?」
「ったく、船でいいわよっ!?」
ヤケクソ気味に怒鳴ったアマラがオレの首へ腕を回す。よし、これでもっとスピードを上げられる。
「まだスピード上がるワケっ!?」
驚くアマラと共に、船へと向かう。
side:アル。
※※※※※※※※※※※※※※※
方々を探し回ってやっと見付けたアルゥラだが、呼び掛けた途端首に回し蹴りを食らった。
なかなかの威力で吹っ飛ばされる。地面に叩き衝けられ、バウンドして顔面を擦った。
少し痛いが、相変わらずアルゥラは照れ屋さんだな? まったく…そういうところも可愛いぜ。
しかしまあ、なんというか、前に食らった蹴りよりも威力が高い。元気そうでなによりだ。
前に別れたときは、あんな別れ方だったからな…意識が無くて、本当に心配した。
アルゥラの顔を見るべく身を起こすと、
「元気になったんだなっ? アルゥラっ! …あれ?」
アルゥラが走って行く後ろ姿が見えた。しかも、金髪美女をお姫様抱っこして、だ。
「どこへ行くんだ? ・・・ハッ!」
そうかっ、わかったぞっ!? あの金髪美女はきっと、アルゥラの知り合いに違いない。
そしてアルゥラはっ…俺があの金髪美女に盗られると思ったんだな? 焼きもちだなんて・・・
全く、アルゥラは本当に可愛いぜっ!
確かに俺は女が大好きだ。
女という全ての存在を愛しているっ!!!
だがしかしっ、俺は他の女を愛しながら、同時にアルゥラも愛せるっ!!!
二人でも三人でも四人・・・むしろ、女なら何人でもドンと来いっ!!!
だから、アルゥラ。俺が盗られることを心配するなんて、アルゥラがする必要は全く無いんだっ!!
さあ、アルゥラに教えてやろう!
「待ってくれアルゥラーっ!?」
アルゥラの走って行った方向へ走る。と、暫くして、金髪美女を抱えて一生懸命に走るアルゥラに追い付いた。前より、少し足が遅いような…?
いや、当然か。今のアルゥラは金髪美女を抱えながら走っているからな。むしろ、元気いっぱいで喜ばしいことだ。
「アルゥラっ、そんなに一生懸命になって・・・俺がその金髪美女に盗られるんじゃないかって、不安なんだろう? だが、大丈夫だ! 安心してくれっ! 俺はアルゥラも、その金髪美女も同時に愛することができるんだっ!?」
「はあっ? なにこの頭ヤバい奴・・・」
アルゥラに抱えられている金髪美女が言った。
女にしては少し低めの、ハスキーなアルトがセクシーでいい声だ。淡い金髪のハニーブロンドに、白い肌。生憎、サングラスで瞳の色は判らないが、通った鼻筋に薄めの紅い唇、細い顎。きっと美女に違いない。
「ふっ、美しいお嬢さん。俺はトール。是非とも、トール♥️とハートマークを付けて呼んでくれ!」
パチンと、金髪美女へウインク。
「だからアルゥラ、俺がその金髪美女を運ぶぜ!」
「ヤだっ…気持ち悪っ! 鳥肌が・・・来るな!」
ん? あれ? …なんか、おかしいような? なんか引っ掛かる違和感に首を傾げたときだった。ガッと、足がなにかに引っ掛かり、次いでバキッとなにかが折れる音と共に盛大に転んだ。
「おわっ!?」
ドスン! と、地面に倒れる。そしてアルゥラは、振り返ることなく走って行った。
そして俺の足には、折れた日傘が絡んでいた。
「これは・・・」
金髪美女が持っていた日傘か?
どうやら、落としてしまったらしい。
全く、アルゥラもだが、どうやらあの金髪美女も慌てん坊でうっかりさんのところがあるようだ。本当に可愛らしいぜ。
しかし、困ったな? 金髪美女が落とした日傘に、足を引っ掛けて壊してしまった。
買い直したら、許してもらえるだろうか?
side:トール。
※※※※※※※※※※※※※※※
思わず日傘を投げると、上手い具合いにあの変態の足に絡んで転ばせることができた。
あの日傘、気に入ってたのに・・・
そして、アルが暫く走り続け・・・
「ハッ…ハッ、ハァハァ…撒いた、か?」
ゼェゼェと荒い息で、後ろを振り返るアル。
「ちょっとアンタ、大丈夫?」
荒い呼吸でアルが頷く。少し苦しそうだ。けれど、まだその足を止めない。
「もう降ろしていいからっ!」
アタシがそう言うと、アルが首を振りながら、一旦緩めた速度をまた速めた。
「っ…はぁ…ふぅ・・・」
走って行くうちに段々と調う呼吸。
そうこうしているうちに、港へと辿り着いた。
結局、アタシを抱えたまま数キロを走って来た。
なにこの子? どういうスタミナしてンのよ?
「っ…ハァ、ハァ・・・はぁ…ふぅ・・・久々の、全力疾走っ…キっツっ!?」
上気した白い頬。キツいと言いつつ、アタシを抱えたままだし・・・?
「っ! さっさと降ろしなさいよねっ!?」
「ぁ…ごめ…」
ぼーっとしたような返事。けれど、アルは丁寧にアタシを地面へと降ろした。
「ちょっと、大丈夫? アル?」
赤くなった頬へ手を当て、上を向かせて覗き込む。
「ん…ひんやり、気持ちい…」
熱い手がアタシの手を掴み、火照った頬にすりすりと頬擦りされる。細められる翡翠。
「っ!? は、放しなさいよっ」
「もうちょっと…」
「・・・なにしてるの? 君ら」
頭上から呆れたような声が降って来た。
「ウルサいわよっ、ジンっ!? アンタもっ、さっさと放しなさいよねっ!?」
船の上から見下ろすジンに返し、アルに言う。
「ふぇ~い…」
仕方なさそうにアタシの手を放すアル。
「熱っ…」
パタパタと自分の手で顔を扇ぎ、くるんと指先を回して水球を作って飲み込む。
水蒸気を引っ張って水分の確保だ。
ついでに、気化熱を利用してサッと自分の体温を下げた。この子、水の扱い上手いわね?
「? アマラも水要る?」
「要らないわよ」
「それでっ、なにしてたの? アルちゃんとアマラは、そんなに息を切らしてさ?」
甲板から飛び降りて着地しながらジンが言う。
「・・・」
ムスッと不機嫌丸出しで黙り込むアル。
「アルちゃん? …アマラ?」
困ったような琥珀の視線が、眼鏡越しにアタシへと向けられた。
さあ、どう答えたものかしら?
side:アマラ。
読んでくださり、ありがとうございました。
久々のトール視点。アホですね…