EP91 変わる世界
戯れに二日連続で出してみたり
あっ、新章突入です
現状銀河旅団は動くことがかなり制限されているのだが、ダンジョンへと突入するクルー達を選出している間に、圏外から多くのシャトルや旅船が到着し、マッサマンから脱出していた元の住人達がエターナルグレー国際宇宙ステーションへと戻ってきていた。
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ガーディオン型アンドロイドKA複製モデル
(忙しい、何故?)
多くの艦艇がレンタルドックの中へと入港し、次々と上陸審査を受けてくるが、その数が多く一人でこの宇宙港を管理している彼女は、自身のコアをフル稼働させ処理の多さに辟易していた。
ーおい!まだ上陸手続きは終わらないのか!
「ゲスト様におかれましては個人認識IDが存在致しませんので、身の証を立てられる情報を提出されまして、精査の上で許可を発行させて頂きます」
ーなんだそれは!?私はマッサマンの上院議員だぞ!
「恐れ入りますがマッサマンという場所は既に存在しません」
ー訳の判らないことを!じゃあ此処は何だと言うのだ!
「はい、此方は資源衛星エターナルグレーです」
ー・・・・・・話しにならん責任者を出せ!
「はい。私ガーディオンKA01がこのエターナルグレー国際宇宙ステーションの責任者となります」
ー何だと!?ロボットのくせに訳の判らないことを!
名乗るKAの呼称の響から只のロボットと勘違いした男は憤慨し、手元のコンソールを激しく叩きながら噛み過ぎて言語として認識出来ないレベルの罵声を浴びせ始めた。
(旧型人類ですかね?)
水掛け論になりそうだと判断したKA01は入港許可を取り消し、上院議員と名乗った男の乗った艦艇をUターンさせ、強制的に発進した履歴の在る場所へと帰還させた。
(同じ事を既に百五十回は繰り返しました。旧型人類は意味の無い無駄が多い)
ガーディオン型アンドロイド達は雨宮の判断で初期出荷状態、つまり人格や記憶などが全く無い皿の状態で再配置されたのだが、彼女はこの短時間で非常に多くの人間と接することによって、人格の種が開花し個を確立し始めていた。
(・・・・・・、自動音声での案内の何が気に入らないのでしょうか?)
彼女の居る中央管制室中にはピカピカと問い合わせ有りのサインが点滅し、ほぼ全てのレンタルドックから同じ様な問い合わせ・・・・・・つまり先程の人間のような現状を理解しない、理解することを放棄した者達からの罵声を何度も何度も聞かなければならず、現状停泊している船を全て回れ右して帰してやろうかとそう思わずには居られないと、神経回路に大きなノイズが奔り、彼女の中に芽生えた職務に対するプライドが揺らぎ始めていた。
(ふぅ・・・・・・。?)
彼女はこの時初めて自分が命令と違うことを実行していることに気が付いた。
(身体が動きませんね?)
シートに何故かもたれ掛かり、ため息を付いた自分に疑問を持ち、改めて自身の内部データを確認し異常が検知されないことを確認した。
(問題は無いようですが・・・・・・)
意志の元に身体が動くこと自体が疑問として残っている彼女にとっては、命令に背くことが正しいことなのか判別出来ず、又それが何故なのかどういう事なのかも判断出来なかった。
(・・・・・・どうしよう)
彼女のコンソールに伸ばされた機械の腕が僅かにコントロールを失い、カタカタと意味の無い動きを繰り返す。
(何故?又コントロール出来なくなった?止まらない・・・・・・)
自分の両手を見つめる彼女は、何故か震えるその手を押さえられず、とうとう他の個体へとヘルプを送る。
(誰か・・・・・・誰か?誰かとは?何故?)
記憶領域の中にない情報を探し求めて混乱するKA01は、先程からずっと光り続けている問い合わせのサインに目をやると、震える手でエマージェンシーボタンとは又違う、救援を求めるボタンへと手を伸ばした。
(手が勝手に・・・・・・)
もはや自分で自由に動けるんだか動けないんだか判らなくなりながらも、その手はしっかりとボタンを押した。
ー問題が起こったか?
男の声で問い掛けが聞こえ、縋るように彼女は声を出す。
「判りません、判りません」
ーどういう事だ?
「終わらない、終わらないのです。業務が終わりません、終わらないのです・・・・・・」
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雨宮 side
(こんなにも早く目覚めるとは思わなかったが・・・・・・)
方針の決まった後、雨宮は少し頭を冷やす為にラピスの秘匿区画でも有るメインサーバールームへとやって来ていた。
終わらない終わらないと繰り返すKA型のガーディオンは、雨宮の考えからしても自我を確立しつつあり、雨宮はそれ自体は要らないと判断し、余計な物として廃除しようかと考えるぐらいは意味の無い物で在ると考えてはいたが、眷属クルー達からすればどうやらそうでも無いらしく、そう言う存在が居ても構わないと迄言うものもいる。敵性存在という物でも無く、プログラムされた行動を繰り返すだけの便利なアンドロイドとして存在していたはずのガーディオンは、ものの一日も経たずに個を確立し、その機能を解放しようとしている。
(個性や自我を持ってキャンセラーを振り回してくるようになったら只じゃ済まんのだがなぁ・・・・・・)
ロペを含む眷属達が、先刻の争いから全滅せずに戻ってこられたのは、彼女達ガーディオンが個性や個別の判断を持たなかったという点に尽きる。パターン化された戦術を見抜くロペの頭脳を持ってすれば、その程度は容易いのだろうが、これに個性や自由な判断、取捨選択等、無数の可能性を追い求めるようになっていたとしたら、眷属クルー達は間違いなく全滅、良くてロペだけが残ると言う結果が見えている。
(ふぅ・・・・・・勇気かぁ・・・・・・)
雨宮は一言声を掛けたKA型が、延々と呪いを吐くように終わらない終わらないと吐き出し続けている現状を打破する為に、サンプルとしてサーバーから抽出した別世界のがーディオン達が齎した、生物の因子の一つを取り出し、実験、研究、と念じるように自身にそれを擦り込むように念じながらナノマシンを使い、KA型の成長を促した。
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???? side
(何かが流れ込んでくる。何が、どうして、何故)
雨宮のナノマシンを通じて選定された遺伝子が、アンドロイドの鋼鉄の肉体を徐々に変換していき、新規構築では無く元から有るエネルギーを使いガーディオン型アンドロイドと因子が融合ていく。
正直雨宮としてはナノマシンを送る事自体、エネルギーの消費こそこれ程でも無いが、それでも余計な事はしたくないと思い交代のガーディオンを現場に送り、救急搬送を行うガーディオンに指示を出しラピスへと彼女を連れてきた。
(私は・・・・・・誰?この身体は・・・・・・何?)
ラピスの医務室へと運び込まれたKA型は徐々に変わっていく自分の肉体を感覚で追い、今迄感じた事が無いような、感じた事があるような、既視感を憶えながらも不安に駆られ身体を動かそうとするが、変換途中の身体は動かず、怖くて目も開けられない彼女は、ナノマシンリンクで周りのクルー達に助けを求めた。
(誰か・・・・・・)
「ン~。さっきから誰か誰かって五月蠅いですね~ン?」
(え・・・・・・?)
「だから~ン。聞こえてるから~。何か有るの~ン?」
(今私に何が起こっていますか?)
「ナノマシンによる肉体変換の途中なのよ~ン」
(な・何故動けないのですか?)
「それは~ン、貴方の保有エネルギーを使って変換をしてるからなのよ~ン」
(に・・・・・・肉体変換?)
「貴方は~ン、ボスが折角だからって~ン、エスパーの因子と貴方を融合させたのよ~ン」
(???)
「まぁ暫く横になっていなさい~ン。機械の身体じゃないから~ン、目ン玉が開いたり~指が飛んだりはしないけど~ン。エスパーっぽくは成るかも知れないわね~ン」
結局何一つ理解出来なかった彼女は、一旦思考を停止し意識を無意識へと沈めた。
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数時間後 ???? side
目を開けると静謐な病室の中で、きちんと皺一つ無いシーツに整えられたベッドの上で横になっている事に気が付いた。
意識を失うまで動かなかった身体は自由を取り戻し、その肉体に違和感も無く、横になったまま両手を動かし顔の前に持ってくると、白磁器のような細い腕が少し脳に残っている感覚とズレたままで動かせる。
「あっ・・・・・・」
音声を発生しようとすると、喉の辺りが動き、今迄聞き慣れていた合成音声では無い違う声が漏れる。
(・・・・・・此処は・・・・・・)
コンコン
病室の扉が軽くノックされ、返事が無い物と考えられていたのか、ノックの主は遠慮無く扉を開け無遠慮に病室へと入ってくる。
「おや?目を覚ましたのか。体調はどうかな?新しい肉体は不都合が無いかな?」
(新しい・・・・・・肉体?)
「まだ精神が安定していないようだね。銀河様が作った肉体に宿ったΔはこの世界のマナと混ざり、Σを受け止め、Ωを使い新しい段階へと至るっ。う~ん神の神秘だねー」
白衣を着こなした女は熱っぽく拳を振り上げ、自らの崇める対象への賛美と賞賛を合わせた感情を彼女へと見せつけるように振る舞う。
「あな・・・・・・たは?」
「おや、リンクはまだ旨く使えないようだね、私はメイスン、メイスン・橘。ラピスの医者だよ。この程君の為に新しい部署が出来てね」
「新しい?」
「そうそう、そうやってゆっくり短く使っていくんだよ。君にはきちんとプログラムされた脳があるからね、以前とは少し感覚にズレがあるかも知れないけど、直ぐに慣れるよ。それが君、ミクスパー(仮)の力の一つだからねー」
「みくすぱ?」
(か・仮?)
「そう仮。エスパーをミックスした肉体、判りやすくて良いだろ?普通のエスパーはピュアヒューマノイドの一部に生まれる突然変異なんだけどね、その因子だけを抜き出したバカがいたのさ」
(エスパー、因子?ピュアヒューマノイド?)
「ふふふ、頭で考える方が簡単で良いかもしれないけれど、練習の為に口を使おうね」
メイスンは彼女の頭を撫で、優しく微笑み、その手を頭に置いたまま暫く動かなくなった。
「ふんふん、肉体の状態は上々、精神的にも少し落ち着いてきたね、君は銀河様の産み出した新しい人類の一人だから、このラピスの子供、私達の新しい妹だよ」
「妹・・・・・・」
「そう、可愛いねー。綺麗な造形に作っちゃうのは銀河様の癖なのかなー?美人さん過ぎて嫉妬しちゃうねー」
うんうんと大仰に首を振り、腕を組んだままくねくねと身体をくねらせ、凄い事なんだよ?と身体で表現する。
「・・・・・・」(美人・・・・・・)
「君の名前は何だろうねぇ?前に銀河様の付けた名前はあんまりセンスが無かったから、もっと可愛い名前が良いね」
コンコン
「どうぞー」
再びノックされた扉から入って来たのは、キラキラ蒼い髪の人、凄く綺麗。
「ロペ様ー」
「よっメイスン、様子はどう?」
彼女はベッドの端に腰掛け、ジッと私の目を見ている。頭の奥がチリチリする。
「ん、問題ないみたいだね」
「後は肉体に慣れるだけですねー」
「まだ時間が経っていないから、精神生命体が安定していないみたい。記憶に混乱が出ているみたいだねぇ」
以前雨宮が朝倉美汐をサーバーにコピーし、精神生命体を再生した時も、美汐の精神が安定するまでに時間を要し、今回は更に最低限のナノマシン最低限のエネルギーでの実験と成っている事も有り、今の彼女の状態は想定の範囲内だった。
「彼女の精神は調律済みなのでは?」
「勿論、エネルギーがなくなる前に銀河きゅんにお願いしてちゃんと直して貰ったよ」
「それなら良かった・・・・・・そうだ、彼女の名前はどうしますか?」
「彼女は・・・・・・あぁそうだねぇ?そのままって言うのも芸が無い気がするし・・・・・・」
「そのまま?」
「一応前に呼んでいた名前もあるからねぇ、記憶が完全に戻ったら混乱するかなって思ってさ」
「そうなんですねぇ」
「天使響。銀河きゅん的に考えるなら、ちょっともじって捻ってぇ・・・・・・」
「もじって捻って?」
「アンジェリーナ何てどうかなぁ」
「あー」
「アンジェ」
「そのままでも良くないですか?」
「あれ?」
(私の名前は・・・・・・)
「まぁそうか、どの道天使響も偽名だしねぇ」
「そうなんですか?」(え?そうなの?)
彼女は自分の事を言われているのだと気付いてから、聞く事に専念していたが、自分自身が何者であるか余計に判らなくなり、つい困ったような表情をしてしまう。
ロペはそんな彼女に気付き、ほっぺたをツンツンと突っつき、その輪郭に手を添えると、もにもにとその感触を楽しんでいる。
「まぁ、時期に記憶も戻るよ、でもその時は文句を言いに来るからね」
「え?」
「思い出すと判るように成るだろうから、今はゆっくり慣らしてねぇ」
そう言うとロペは立ち上がり、外へ行こうとする。
「ロペ様もう行かれるので?」
「流石に私もダンジョン行かなきゃエネルギーがねー」
「そう言えばそうですね、私も手が空いたら行きます」
「おっけ、その子が安定してからで良いからね」
ロペはそう言うと病室を去って行った。
メイスンはその様子を見送ると自身も襟を正し、一言寝ていなさいと言い、病室を出て行った。
(あまつかひびき・・・・・・)
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピスメインブリッジ
「良し、・・・・・・問題は山積みだが、一つずつ解決して行こう」
雨宮は気怠そうに溜息を付きながら、リストアップされた探索パーティを確認し、それぞれのパーティに指令を出し始めた。
エリー・新庄曰く、雨宮が直接動くと大きな問題が起こる。そう言い残し二人を含めたブリッジ要員は、雨宮を残し全員がエターナルグレー統括監督署の地下に位置する月ダンジョン、通称異世界ダンジョンへと向かって、エネルギーを確保しに向かった。
ー雨宮、此方は全員統括監督署へと辿り着いたが・・・・・・
「どうしたいきなり」
ーうむ、どうやらギルド職員が路頭に迷っているようでな?この場を提供しようと思うんだがどうだろうか?
冒険者ギルドは雨宮達が突入した際に、ギルドの前に簡易的な避難民キャンプが有ったが、その際にもかなりの数の職員を見かけていたが、あの時は周辺住民の避難誘導から、残った冒険者への指示出しから、怪我人の救助から・・・・・・ほぼ全てと言って良い位の必要な行動を取っており、最終的に宇宙港へと避難民達を導いたのもギルドの職員達だった。
「非常に優秀なギルド職員だと思う・・・・・・」
ー雨宮?・・・・・・何を考えている?
(あれ程の状況を上からの指示無しで熟せる人材が集まっているのだし・・・・・・)
ーふむ、以前言っていたな。ギルドとのパイプが欲しいと。
「そうなんだがなぁ」
ー何か懸念でも?
「まぁ、エネルギー問題が解決しない事にはな・・・・・・」
ー管理リソースの事か?ロペ女史もジェニ女史も贅沢なリソースの使い方だと言っていたぞ?
「そう言われればそうなのかも知れないが、必要な物では在るんだ」
ー俺には判らんが・・・・・・。
「そうだな、この管理リソースに割いている分のエネルギーを無くせば、復活にものすごい時間が掛かると言えば判るか?」
ーどういう事だ?
この管理リソースの中に、眷属やマギアシリーズのクルー達が瞬時に復活する為に必要な情報が常に使用可能な状態で待機している。勿論それだけでは無く、中には雨宮の心の安寧を保つ為に管理・監視している者の情報を蓄積しておく場所も在り、それに関しては雨宮も必要では無いとは思いつつも、セキュリティとして有っても良いと言う考えの元、続けてきているのだが、極論として監視対象を全て消してしまえば良いという事を言う眷属居も居る。
ーつまりこの作戦で死ぬと・・・・・・?
「一回は直ぐに復活させてやれる、現状ストックされている復活用エネルギーが有るからな。二回目はエネルギーリソースの量によって変動する可能性がある。最大で今すぐに死んだ場合一年後位になる可能性もある」
ー一年後は・・・・・・ハッ。もしや雨宮がその時忘れていたら・・・・・・?
「そうなったらサーバーの肥やしに成るだろうな・・・・・・」
ー俺達の事は忘れないでいてくれると助かる・・・・・・。
「近い奴らを後回しにするつもりは無いが、それもこれもリソースの問題だ。量を確保すればそんな事を考えなくても済む」
ーそうだな。なら雨宮、目標を設定してくれ。段階的でも良い。
「最終目標は九十%、其処まで集まればこれから先余程の事が無い限り枯渇する事は無い。・・・・・・今回の件で有り得ない程保有可能エネルギーが増えたからな」
ー待て、ではその九十%というのは?
「飽く迄最終目標だ、今回の作戦で達成される必要も無い。旅を続けるのに必要な最低限の目標は三十%、研究や分析を続ける為には六十%色々やって遊ぶには・・・・・・八十は欲しいな。安心の為にも」
ー成る程、三十を越えればこのダンジョンに拘る事も無くなる訳だな。
「まぁそういう事だ。此処でのチャージが遅いと感じるようで有れば、冥王星ダンジョンへ行ってみようかと思っているが、わざわざ冥王星圏に戻るのもどうかな・・・・・・」
ーまぁそうだな。良し判った、目標は拡散しておく、でギルド職員をどうするかだが・・・・・・。
「今引き込む事は難しいだろうな、ギルド支部、いや月本部・・・・・・ううんエターナルグレー本部か?の再建の事もあるだろうし、今余計にエネルギーを使うのも何だしな」
ー判った。交流を図るに留めておこう。
「それで頼む」
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エターナルグレー統括監督署 ダンジョン入り口
sideエクシリス・イロリナート
(ダンジョンは久しぶりやわぁ。前は結局ウチは行けへんかったしなぁ)
「ヒューニ?どないしょか?」
「六人パーティが推奨のダンジョンのようですね、それ以上では・・・・・・このダンジョンでは加重の呪いが掛かるとの話だった気がします」
「加重かぁ、訓練に使うには丁度良さげやなぁ」
「もしかするとBMを装備していれば何事も無く全員で進めるかも知れませんが・・・・・・」
「多分人数乗算式やろうなぁ、その手の呪いは」
「自重でめり込んで進めなくなりそうですね」
「ほな六人やなぁ、誰かウチと一緒に行く人居るー?」
「行きます」「私もそろそろ運動しなくちゃだから、超行くわ」「はーい!」
エクスの呼びかけに応えたのは、雨宮にアーティファクトを与えられたレレイマナラーニャ・マーズ・林原、諜報部統括のエリナ・甲賀、雨宮がゼロから作り出した人工人類シス・セブンの三人。
「私も行く」
「えっ?旦那様の側におらんでええの?」
「働かざる者食うべからずだから。行く」
「そかそか、ほな一緒に行こか」
そしてエクスの上着の裾を軽く摘まみ、その存在を主張するイミル。この四人がチームエクスとしてダンジョンへと潜る事に成った。
皆それぞれ準備を完了させており、BMを装備していないだけで、各々武器を持ち、眷属では無いイミルは雨宮から与えられた新型ナノデバイスをへの字口で睨み付け、自分の装備の状態を確認している。周囲の他の眷属達もゾロゾロとそれぞれチームを組み、ダンジョンへと足を進めていく。
「ナノデバイス難しい、数字一杯」
「それぞれ意味が有るの、その内判るように成ると思うけど・・・・・・」
シスは自分より後にやって来たイミルの事を後輩のような妹のような風に考え、近くに居る間はよく世話を焼いている所を目撃されている。
「・・・・・・ふふっほな、潜りに行こか」
「「「「「はーい」」」」」
ーーーーーーーーーー
地球ダンジョン B1
少し間口の広めの入り口を通り抜けると、僅かな違和感があり、真っ暗で先が見えなかった空間に色が付く。六人が足を付けたのは剥き出しの岩盤で覆われた、洞窟型のダンジョンだった。
僅かに発光する壁面のお陰で暗くて進めないと言う事が無く、近くに居る数チームも多少暗いが問題なく先へと進んでいるようだった。
ゴツゴツした質感の壁に手を置きながらゆっくりと進んでいく冒険者もちらほらと見かけられ初心者とは思えない、どうも以前からこのダンジョンに潜っていたであろうそぶりを見せている冒険者達は、頻りに首を傾げ、かなり警戒しながら進んでいるようだった。
「う~んなんやあの冒険者、めっちゃ及び腰やなぁ」
「・・・・・・エクねぇ。このダンジョン中身が変わってる」
「「「「「えっ」」」」」
以前、マッサマンだった頃にこのダンジョンへと潜っていたイミルは、その浅層の構造を熟知しており、脳内にマップを描く事が出来るまでには経験値があったのだが、もうこの入り口からして既に以前とは全く違うのだという。
「前はこんなに暗くなかったし、入り口も大型車両が入れるぐらいは大きかった。そもそも地下一層は確か受付があったはず・・・・・・あっ」
「受付って何の・・・・・・あっ?」
イミルと手を繋ぎぼちぼちと入り口周辺の探索を続けていたエクスPTは、薄暗い洞窟の壁に何か光る物が在る事に気が付き、周囲を警戒しながら近付いていく。
「これは・・・・・・」
忍びとして斥候の知識を持ち合わせているエリナは、辺りに気配が無い事を確認すると僅かな光を反射した何かに手を触れ質感を確かめナノマシンで分析する。
「合成隕鉄のテーブル?カウンターかしら。ここまで磨かれているのだから間違いなく人の手が入った物よね」
「とするとこの壁の中に、イミルの言っていた受付が有るのかもしれないですね」
エクスは少しの間この状況をどうしたものかと考え、分解の練習もかねてダンジョンの壁を分解し、受付に設置されていたであろう大型のカウンターを掘り出した。
L字型に設計された五メートル程の大きなカウンターは、裏側に大小の引き出しや、備え付けのマジックアイテムが綺麗なままで残り、直前まで誰かが使用していたであろう生活感のある物だった。
「受付のおねーさんが使っていたカウンター・・・・・・」
「この受付は何の為にあったん?」
「えっと・・・・・・」
マッサマンのギルド本部は地上一階が依頼受け付けの部署と成っていて、冒険者達が依頼を受けたり、ダンジョンへと突入する際の受付をするのは、此処地下一階にある冒険者用カウンターなのだった。イミルが言うには、このカウンターは大広間の中央に位置し、その周りには出店が並び、オープンテラスのような酒場も併設されていた。
かつてはこの場所も多くの冒険者で溢れ、賑やかな光景が広がっていたのだろうが、今は只の薄暗い洞窟と化し、さも必要無いかのように壁の中に押し込まれたかつての賑わいは、これから先誰にも気付かれる事の無いような物だったが、エクスとヒューニはその中に何かを感じ取り、次々と壁を分解していく。
「おー!」
イミルは眷属達の事を雨宮からそれほど多く聞き及んでいないからか、素直にその力に感心し、只の壁がみるみるうちに消え去りその中に埋め込まれていた者達を暴き出していく様子に目をキラキラさせていた。
「・・・・・・人為的な事では無いようですね」
「せやけど・・・・・・人が居る時にダンジョンの構造が変化するなんて事が、今迄あったかいなぁ?」
「そんな事例は一度たりとも無いわ、有るとしたらダンジョンが消滅する時に圧縮に巻き込まれるぐらいね。それでもシステム崩壊でもしていない限り、やっぱりこんな事が起こる事は・・・・・・」
「じゃあ此処も崩壊する?」
「多分それは無いんじゃ無いかな?でも、手に入れていたダンジョンの地図は全く役に立たなさそうね」
「それはもうしゃあないわなぁ」
分解にレレイとエリナが加わり、以前受付ロビーとして使われていた広い空間が姿を現した。しかし其処には生物の気配は無く、フロアその物が只壁の中に押し込められただけなのだと、そう判明しただけだった。
「電子機器は・・・・・・あ?これ生きてる」
レレイが恐らくギルド嬢達のバックヤードで在ったと思われる場所から、一つの携帯端末を見つけ、手伝う事が無く暇を持て余しているイミルとシスの元へと戻る。隅々まで調べ終えた四人はそれぞれ手に電子機器や記録メディアのような物を持っている。
「携帯端末にシースーメディア、古いカード型メディアかぁ。カードは・・・・・・」
「あぁ、気にせんでええよ、ウチらが読めるさかい」
四人が集めた物を抱えていたシスは其れ等をエクスに見せるように、カウンターに並べ、むむむとその仕事の手際に舌を巻く。
エクスが触れた瞬間並べられていた電子機器が一瞬光り、記録されていた情報がサーバーへと送られていく。
「エネルギーは大丈夫なの?」
「こんなちょろっとのデータを転送する位何ともあらへんよ~。それにさっき壁を分解しとったやろ?」
「うん」
「あの壁がアホみたいにエネルギーを含有しとったさかいに、ちょっとなんやする分には問題あらへんよ」
「一人位なら、BM使っても大丈夫」
「つまり・・・・・・探索中にエネルギーに困ったら、壁を超分解したら良いって事ね」
「この情報は共有した方が良いね?」
「せやね」
シスは携帯端末を取り出し先程の情報を突入している全部隊へと共有出来る、共有スペースへと配置すると目を見開き、短く嘆息する。
「皆情報に飢えてるね」
「リンクもまともに機能していないからねぇ」
情報の共有が行われてから数分後。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「「「「「「!?」」」」」」
地下一層を続けて探索していたエクスPTは大きな揺れに襲われ、何事かとラピスに残った雨宮へと問いかけると、先程共有した壁の件で眷属達分解能力の持ち主が、ダンジョン内のあっちこっちで壁を分解し始め、一部ダンジョンが崩落したのだと雨宮から返事があり、ダンジョン内の壁や床、天井などを分解する事は非常時以外禁止されたのだった。
ガーディオン型アンドロイドKAモデル
KAモデルとは特別な一個人に似せて作られたと思われる、電子情報処理特化型ガーディオンの内の一モデル。KAモデルはエターナルグレー内の情報が集中する場所に集中して配備され、宇宙港・統括監督署・セントラルタワー等に配備されている。
武装は一つ自爆装置のみだが、過去のエターナルグレーにおける戦闘記録には、自らの中に備わったその自爆装置を脱着し、巨大モンスターの内部へと投げ込んだというデータログが残っていたことを雨宮は確認している。
そしてKAモデルは他のモデルに比べ人間における脳の部分である、クリスタルコアと呼ばれる魔導型集積回路の性能が頭抜けて高性能で、何を考えてこのモデルを作ったのか分からないと雨宮はKAモデルのスペックデータを見て頭を抱えていた。
プロトタイプガーディオン
ガーディオン型全ての元となった最初のガーディオン。
彼女は雨宮の能力によって再構成されたのでは無く、ハグラスティルバの移動と共に第三超広域開拓世界へと浸透し、機会を窺っていたのだが登場する機会を見誤り、復讐対象として追っていたハグラスティルバを見失い、あわや雨宮の再構成に巻き込まれそうになるも、イマジンキャンセラーによって雨宮のナノマシンから自らを保護、エターナルグレーへと変貌した月に一人取り残されるが、瞬きする瞬間に他のガーディオン達が現れ、自らの産まれた世界に還ってきたのではないかと錯覚する。
彼女がエターナルグレー内を徘徊している時に何度他のガーディオンに話しかけても、何の返事も無く、自我を失った只のアンドロイドがそこに居るだけだったのだが、雨宮と出会い余計な事をするなと釘を刺されるまで、彼女は他のガーディオンへと自らのプログラムの一部をコピーし、自我を復活させようとしていたのだが、その自我の元となる個人データが全て消失している事に気付かず、知識の無い赤ん坊のようなガーディオンを生み出してしまい、雨宮から強烈に折檻される事になる。
性格は非常に温厚、機能不全なのか常にメインカメラは半開き、見た目的に非常に眠たそうな表情になっているが、特にその様な事は無く開こうと思えば全開に開く事が出来る。フォルムはスレンダーだが、ボディ内部に紋章加工のような物が施されており、ボディの質量を上回る武装を保存する事が出来るようになっている。
又彼女は戦闘を行う際に人型から掛け離れた姿になる事を忌避しており、妹達を守る為で無ければ放熱機能などを展開する事を良しとせず、本気で戦った後は常に自己嫌悪に苛まれ、恥ずかしいと嘆いている。
趣味は妹達のメンテナンス、好きな食べ物はΣ型マシンオイル。
彼女達のボディを動かしているΣエナジーは大気中には存在せず、少し次元のズレた世界、つまり位相空間に漂う精神系エネルギーとして認知されており、それを現世へと抽出し液体として摂取する。摂取されたΣエナジーはクリスタルコアによってガーディオン型内部に装備された、Σカプセルと呼ばれるエネルギータンクへと貯蔵され、必要な時に消費される。尚Σエナジーの抽出装置の出自は不明だが、雨宮によって既に既存の技術としてマギアシリーズに装備されている。元々はエターナルグレー防衛システムに装備された一装置でしか無かった。
彼女達に口の中には人間で言う舌の様な器官が存在し、味覚を持つのだが、彼女にとっては特に意味の無い無駄な機能として認識されており、この器官を削る事で別の装置がパワーアップ出来るのではないかとも考えている。




