EP90 超危険物
夏が・・・・・・終わるっ
side ロペ・キャッシュマン
(・・・・・・。知らない事が多すぎる。このガーディオン型アンドロイドと言うのも見た事が無いし、エターナルグレー何て言うのも知らない。今の銀河きゅんも・・・・・・見た事が無い気がする。もしかすると保存している精神生命体に呑まれた?・・・・・・それは無理か。・・・・・・融合?それなら無い事は無いかもしれないけど・・・・・・銀河きゅんの性格からしたらそれも無い気がする。)
これまでのロペが何度転生を繰り返してもとある時点で雨宮は死に、その度にこの世界を作り直してきた。だがそれは管理者としての力を完全な形で持ったままの状態で転生し、尚且つ雨宮が進化しなかった時の話で在る。
前提となりうる条件をクリアし、無数の経験を得てロペは雨宮を進化させる事に成功し、更に無数の可能性を突き詰めた結果、雨宮の記憶を保持したままで前の世界から連れ出す事に成功した。
しかしロペとしては今のこの世界は、この世界の雨宮はかなり異質な存在として認識出来てしまっている。今迄ロペが出合った雨宮は全ての記憶を失い、第三世界のどこかに普通の赤子として生まれ落ちる事になっていた為、そもそも出合う為に多大な時間が掛かり、出合えすらしない時もあったりする事も在った事から、ギリギリまで雨宮の存在を認識したままで転生する事が必要で、尚且つ雨宮の存在が辿る運命の流れに逆らう事が無いように添わなければならない等、制約も多かったが雨宮の存在を感じる事でロペにとってはストレスをあまり感じないような作業ではあった。
多くの難題を乗り越えロペは結論として、余所の世界で生まれた雨宮を連れてくる事を選択、異世同位体が存在しない雨宮が産まれるまで待つ時間を短縮し、完成させたこの第三超広域開拓世界に雨宮を連れてきたのだが、其れ等全ての行動の結果として、作り上げた世界が周辺世界の管理者達から狙われる事となり、其れ等全てを退けつつ雨宮を完全に転生させる事となって・・・・・・ロペは雨宮を転生させる事に失敗し、自らも転生に失敗するどころか、管理者としての力を何者かによって凍結させられてしまい、自ら力を蓄えてきた神域を失ってしまうと言う大失態を演じ、これまでロペがある程度コントロールしてきた歴史や、雨宮の成長を制御出来なくなり、力を失ったロペは精神に同居していたもう一人の存在によって転生した肉体の支配権を奪われ、精神内で支配権の争いを続ける事で、本来のロペとはかなり掛け離れた人格として周りに認識されてしまう事となり・・・・・・今に至る。
しかしそんなロペとは対照的に、今の雨宮はロペの求める雨宮に限りなく近く、これまでロペのコントロール下で調整されてきた雨宮の生き方は、雨宮自身が認識出来る物では無かったが、結果的にコントロールを失った事でより雨宮らしい雨宮へと到達し、ある程度成長した雨宮を第三世界に引き込もうとしたのだが、最終的に雨宮の精神生命体はロペと同じく何度も何度も生と死を繰り返しているうちに、思い出す事は無い物の情報は肥大し超高密度精神生命体へと昇華され、ロペは自らを上回る存在を移動させる為に、前の世界で雨宮が死ぬまで手を出す事が出来なくなった。
(繰り返しすぎたのかなぁ・・・・・・、思ったより自分達の情報量が大きくなりすぎているのかも知れない。それも同じ事を繰り返す事によって生まれた無駄な情報が)
精神生命体が大きく肥大する事は、それ自体は問題では無い。しかしそうなってくると今度は器としての肉体に制限が掛かり、転生する際に多大なリソースを使用する事になり、転生自体に大きなリスクを伴うようになる。全ての世界には世界全体で保有出来るリソースに限界があり、管理者の努力次第でその保有量は増減するが、雨宮一人が存在するだけで世界のリソースの大半を占有してしまう様な小さな世界も過去のロペは通ってきた。
第三超広域開拓世界はその名の通り、他の開拓世界と比較しても比較にならないレベルで超巨大な世界で、他の世界を数百そのまま吸収しても問題ないレベルの大きさで、神域が破壊される迄の間ずっと拡張を続けていたが、今現在はその作業を行う事の出来るイントエシリーズが居ない事も在り、拡張こそストップしている物の、ロペは雨宮の現在の性格を鑑み、直ぐにでも拡張を再開したいと考えている。
(あのガーディオン達、量産してみよっかなぁ?神域に配備したらイントエ達の代わりになりそうだし、あの子達を救い出すための手駒になりそう)
神域の破壊に際して散り散りになったイントエ達、既にその存在を追う事は出来ないが、一つの世界に奪われたのでは無いと言う事は可能性として考えられ、奪い返す事も現実的では無い。只可能性は捨てきれずに居り、ロペは雨宮の力に期待している。
(銀河きゅんの嘘は全ての因果律をも再構成しうるむちゃくちゃな力なんだけどなぁ。使いにくいみたいだし、下手な使い方をしたら取り返しが付かないから、敢えて使わないようにしているんだよねぇ・・・・・・。元々他人に嘘をつく人じゃないし、反目する力・・・・・・か。)
世界を丸ごとコピーするような事も可能な雨宮の嘘は、ロペの考えの中ではそれこそ万能な力として認識出来る事も在って、影響を及ぼす範囲が特定出来ない上、その効果が何処まで波及していくかすら不明な為、迂闊に使う事も憚られる・・・・・・。使ってと願い出れば恐らく雨宮は使うのだろうが、その力の及ぼす影響について全眷属に周知徹底されている事もあり、知っていても願うな、使わせるなとロペからのトップダウン強制指示で、眷属達はそれを無意識に避けている。
(銀河きゅんはどう思っているのかなぁ、あの娘の事)
マッサマンに来る少し前にロペと切り離した精神生命体、もう一人のロペ・・・・・・では無く別人の精神生命体。強固な精神構造を以て分解にギリギリまで踏みとどまり、今は結局分解されサーバーの隔離セクターへと隔離されている存在。
(天使響《あまつかひびき》。流石にエスパーとは言え普通の人間の精神では、数億数兆の年月は耐えられなかったみたいだけど、まさかとち狂って乗っ取りを賭けてくるとは思わなかったから、今回が初めてとは言え油断していたなぁ。多分もう現界だったろうから、分解されるのも丁度良い事だったのかも知れない。サーバーに保存される事で劣化は防げるし、銀河きゅんがその気になればロールバックだってして貰える。彼女の望みの一つは叶ったと言えるのかも知れないねぇ)
物思いにふけるロペの前に、恐らく宇宙港から出てきたと思われる元マッサマンの住人達が雨宮達と入れ違いになるようにやって来て、セントラルタワーの周りを物珍しそうに見学している。
「なんだこれは・・・・・・中央議会は何処に行ったんだ?」
「この人達何も話してくれないんだけど・・・・・・」
「俺の家何処行ったんだよ・・・・・・」
「端末が繋がらないんだが」
「ギルドも無いんだけど・・・・・・?」
数十人からなる集団は彼方此方に散らばり、元故郷であるこの場を散策し、一人の若者がセントラルタワーの入り口へと近付こうとして、ガーディオンに阻まれる。
「なあ、此処は何なんだよ」
「・・・・・・ようこそエターナルグレーへ、此処はセントラルタワー、当惑星の中枢を担う施設となり、関係者以外の侵入及び隣接は禁止されております」
セントラルタワーの守りを固めるガーディオン達に情報のアップデートがあったのか、一瞬の思考時間を挟んだ後、静かに説明し拒絶を伝える。すると若者とガーティオンの間に壮年の男性が割って入る。
「なら私は関係者だと思うのだが、これでも共和国の議員だ」
「共和国・・・・・・データ無し。既にその存在は消滅し、太陽系連合からも抹消されています。当宙域は現在銀河帝国の所有となっており、皆様はゲストとして一時的な滞在を許可されています」
周辺へと集まってきた人々は信じられないと行った様子で、議員を名乗った男に喰らい付く。
「ノスケ・ベアー議員!どういう事ですか!?此処は一体・・・・・・」
「落ち着いてください、私にも何が何だか・・・・・・」
襟首を捻り上げられながらも必死に何かを言わなければと言葉を紡ぎ出す議員だが、意味の有る言葉を紡ぎ出せず、集団の中の一人がガーディオンへと近付いた。
「あのー、此処ってネットワーク繋がってないんですか?」
「現在超空間通信網を構築中です、ご迷惑をおかけしますが暫くお待ちください」
「え?何それ太陽系ネットワークリンクじゃないの?」
「はい。旧式ネットワークを使用する必要は有りませんので、新規ネットワーク網を構築するまで数時間を要しますが、今暫くお待ちください」
「・・・・・・えーっとそれって凄い事?」
「従来のネットワークの遅延を一として考えるなら、限りなく零となり、ほぼ完全なリアルタイム通信が可能となります」
「え?ここから冥王星圏まで少なくとも一分ぐらい遅延がある筈なんだけど、それも無いの?」
「厳密にはほぼ、ですが、体感として感じる程の遅延は無くなると思われます」
「凄いねそれ・・・・・・。で、私達のお家は何処行っちゃったのかな?」
「当惑星の所有は全て銀河帝国となっております、しかしこれまでこの惑星に住んでいた方から住居を取り上げるつもりは無い、と皇帝陛下からお達しがありました」
「・・・・・・あー、えっと、こ皇帝陛下って誰?」
今迄二人の会話に黙って聞き入っていた周りの人達も、その当然の問いかけに反応し、ざわざわと喧噪が広がる。
「現在海王星圏、そして月・地球圏を手中に収めていらっしゃいます雨宮銀河皇帝陛下、皆様がこの惑星圏に住まう限りの主上となるお方です」
「雨宮銀河・・・・・・皇帝陛下?・・・・・・あの宇宙適応型新人種の?」
端末を持ち話しかけた彼女の声は尻すぼみに消え、うーんと唸りながらガーディオンに感謝の意を示すと、彼女はロペの隣のベンチに腰掛けた。
「貴方は私達がここに来た時から此処に居たけど・・・・・・関係者の人?」
「まぁそんな所かなぁ」
「これから此処はどうなるの?」
ロペは少しナノマシンリンクで雨宮や上位眷属達と相談をしたが、大きく何かを変えると言う事も無く、一般人の生活については変化無し、商業、行政はジェニが陣頭指揮に当たり、以前より効率よく運営出来るようになると言う事になった。
「住む所は所得によって分けられていた今迄の方が良い?」
「えぇ~?私にそんな事聞かれてもなぁ?」
「ん?君はどこに住んでいたの?」
「私は商業区の外れにあるマンションだったけど・・・・・・、マンションが有った所に行ったら何か巨大なエアコンみたいな物があって・・・・・・」
エターナルグレーでは酸素の質を高める為に、等間隔で巨大な空気清浄機が配置されて居り、かなり邪魔になっているようだ。しかしこれが様々な役割を果たしており、現在のエターナルグレーにおける綺麗な空気を生産循環滅菌消毒等、あらゆる機能を持った優れものなのだが、如何せんデカい。
「それは何とも・・・・・・まぁ今後の課題に挙げておこうかな」
「住む所どうしたら良いの」
「今は誰も住んでないから早い者勝ちで良いんじゃ無いかな?」
「ええっ!?良いの!?」
それとは言うものの、今回の一件で月の人口は百分の一程度にまで減少し、どちらにせよ産業は成り立たないし、商業も元になる物が無いので、外から持ってくる迄店を磨いておくぐらいしか出来ない。そして問題はもう一つ。
く~
「あぅ。お腹も空いてきた」
「あっ、それは困ったな。食べる物用意出来ないかも・・・・・・」
「ええっ!?皆餓死しちゃうよ!?」
「まぁ、うん。何とか・・・・・・なるかなぁ?」
「そこは何とかして貰わないとぉ・・・・・・」
ロペは思考の海に沈むのを止め、現実世界の問題に取り組む事にしたが、他の問題と違い、食料や他の有機物の問題はナノマシンで復元出来ないので、外から持ってくるしか無く、月圏内に存在するコロニーで生産された食料も今回雨宮が纏めて再構成してしまったせいで殆どが失われてしまった。
雨宮はΔエナジーを必要とする生物を生み出す事が出来るのだが、普通の生物を作ると大きくエネルギーを消費してしまう。食料にするだけなら普通では無い生物、つまり首から上が無いとか、内臓が無いとか
ーロペちゃんまだ戻ってこないのー?
(其れ処じゃ無い問題が発生してしまってねー)
ーもしかして食料の事ー?
(おや?よく判ったね・・・・・・ってそれ位当然か)
ー火星圏とか金星圏からもう、仕入れた食料が届くのよー
(そんなに早く来る物かねぇ?)
ー皆それぞれお仕事してるから大丈夫だよ~
(因みに具体的な予定は?)
ーもう宇宙港に入っているのよ~
(・・・・・・早すぎじゃ無いかな?)
ーそんな事無いのよー。ジェニちゃんはその辺もちゃんと判っていたから、手配はもう整っていたのよー
(成る程、後住民についてはどうするって言ってるの?)
ーあれー?役所の方に皆集まってる筈なんだけどなー?
(役所?何処の事?)
ー統括監督署だよー。もう少ししたら連合政府の出張職員さんも来るし、ガーディオンは居るから市民登録とかやって貰ってるのよー。
(成る程、あの子達ならそういうのは直ぐ終わるね)
ーそゆことー。配給も其処になるから今そこに居る人達も連れてったげてー。
(しょうが無いなぁ)
「ねぇ」
「えっ?」
空いた腹の上に手を置いたままどうした物かと黄昏れていた女性は、ロペからの問いかけに一歩反応が遅れたが、立ち上がるロペの背中越しに付いて来いとの声を聞き慌ててその後に従い進んでいく。その様子に気が付いた他の元住民達もゾロゾロと真新しい景色の中、エターナルグレーのしっかり区分けされた誰も居ない道を進んでいく。
ーーーーーーーーーー
統括監督署前
「おー。こんなに一杯人が居るのを見たのは・・・・・・昨日ぶりかな・・・・・・?」
自分で思い出したくも無い惨劇の光景を思い出した女性は、ため息を付きつつも仄かに香るスパイシーな匂いに空腹感を刺激され、フラフラと炊き出しの方へと向かっていくのだが、炊き出しに来た銀河旅団のクルーから、先に戸籍を登録するようにと促され、恨めしそうに先に炊き出しにありついた人達へと涙ながらに視線を送る。
「登録がまだの方は先に署内で登録をして認識IDを発行してくださーい!」
ロペはBMを装備していない制服のクルー達を見た後、自分がまだBMを装備したままだった事に気が付き、周囲に気付かれないように視線の交わらない場所にそっと移動し、自分も銀河旅団の制服へと瞬時に着替えた。
「いつの間に着替えたんですか・・・・・・」
「な・い・そ」
「それにしてもお腹が空きましたねー」
「もうそんな時間かー。ふあぁ~」
フルパワーでは無いとは言え、久しぶりに戦闘モードへと切り替わった事で精神的に疲労感を憶えているロペは、無防備に大欠伸をし、引き連れていた人達をそのまま監督署の中へと引き連れていく。
ーーーーーーーーーー
統括監督署内
監督署内は何処からやって来たのか判らない程多くの人でごった返し、受付に配備されたガーディオンへと怒号を浴びせ付ける者や、泣いて縋り付く者、泣き叫ぶ子供、誰かを探しロビーを徘徊する女性、一人唖然として佇む老婆。様々なドラマを抱えて居るであろう人達が押しかけ、署内は騒然としていた。
「じゃあ皆適当に」
「適当ってー」
「銀河帝国に鞍替えしたい人はそう言ってくれたら登録するし、そうじゃない人はゲストIDを発行して貰えるんだけど・・・・・・、最長一週間しか滞在出来ないし、銀河帝国のサポートは受けられないから、この場で何処の国家に所属するか決めないと、ちょっと大変な事になるよ?」
ロペに引き連れられた民衆は事の重大さを漸く理解したのか、周りに居た者達と現状について相談をしている。
この登録をし損ねると、難民となってしまい所属国家無しの浮浪者としてみられ、後に改めて国家に所属しようとしても、非常に手続きが煩雑となり、心証も悪くなる事から中々新しく所属する事が難しくなる。しかもこの難民という立ち位置が非常に危険視され、テロリストや、海賊、犯罪を犯す者達の大半が国家に所属していない、若しくは国家から弾き出された者達、其れ等も纏めて難民と括られる事が多く真面な生活が送れなくなる事が容易に想像出来る。
難民=犯罪者ではないがイメージという物は付いて回り、冒険者のような個人の力で生き延びていく者達ならある程度何とかなるが、戦う力を持たない一般人がそうなった場合、大半が海賊に自らが転身するか、略取され奴隷に落ちる。それ以外の道はほぼ無いに等しい。
「銀河帝国に所属すると何か良い事があるの?」
「そうだねぇ、色んな種族の友達が出来るとかぁ」
「ふむふむ」
「海王星圏に無条件で移住出来るとかぁ」
「え?」
「海王星ダンジョンでレベリング出来るとかぁ・・・・・・これはまだ案だけどねぇ」
「んん?」
「ほどんどのとこに人が居ないから、何処にでも住みたい放題だよ?」
「???」
現在銀河帝国の所有圏は、月及び地球圏、海王星圏この二つ。しかし火星圏は異世界からの移住者がコロニー一つ分程居るだけ、後は空のコロニーがナノマシンで最低限の稼働を維持しているだけ。地球圏も同じく場所こそ限定されては居る物の、月の周辺は殆どのコロニーが蝶に壊滅させられ、雨宮の力によってコロニーだけが復活し、無人のコロニーが点在している。流石に雨宮も其処まで見知らぬ人間を再構成してエネルギーを使う気は無かった。と言うより流石にエネルギーも其処までは足りない。
銀河帝国は随時人材を募集中である。
「能力があれば銀河旅団にスカウトもするけど、普通に暮らす人も募集中って事だから、それなりに人を受け入れてるんだよねー」
「それなり・・・・・・」
「そう、今はね」
銀河帝国としては所属する人間は幾ら居ても構わないのだが、雨宮やロペとしては最低限コロニーを死なせない程度の人間がいれば良い。特に雨宮はナノマシンのリソースを管理に向けてしまう為、余計な手間を掛け無駄にエネルギーを使用してしまう。勿論完全に無駄という訳では無いのだが、ロペや他の眷属達からしてみれば、雨宮の注意が余所に向く事で、自分に割かれる時間が減るのでは無いかと気になって仕方が無いようだが、最近の眷属達は雨宮に様々な知識を無理矢理教え込む事で、雨宮自身のレベルアップを無理矢理図り新しい技術を興して貰った方が、結果的に雨宮が自由に使う時間が増えるのでは無いかと、特に研究開発部に所属している眷属達はNVD、BMシリーズ、超空間通信網に続く新しい何かを期待している。
「まぁ、好きにして頂戴な」
「・・・・・・登録してこよ・・・・・・」
女性は携帯デバイスの充電を気にしながら、受付の列に並び、どうやら途中で知り合いを見つけたようでお互い肩を抱き合って再会を喜んでいる。
(これ以上此処に居てもしょうが無いし帰るかぁ)
ロペは偶然とは言え居合わせてしまった事で発生した義務感に区切りを付け、何やら後ろでロペに向かって話しかけて居るであろう誰かを放置して帰路につく。
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピス メインブリッジ
ロペがブリッジへと戻ると、雨宮とエリー、そして新庄の三人が無数のARモニターを開き集まっていた。
「あぁ、戻ったか」
「どしたの?」
「月圏の人達の処遇について少し問題が出てな」
(ああ・・・・・・やっぱり)
ロペは統括監督署の混み具合を思い出し、問題が起こらない方がおかしいと軽くため息を付いた。
「自分の家に帰れないって?」
「まぁそんな所だな、もう無いってのにわからんもんだなぁ」
「まぁ、それで納得出来る人がどの位いるかって話だねぇ」
(自分達が死んだ事も判ってないのにそんなの判るはず無いっしょ~)
ロペは自分の席には戻らず、そのまま定位置と化した艦長席の左の肘置きへと腰を掛ける。
「とは言え、今更何を言っても変わらないし、どうするかは結局それぞれだしなぁ」
「で、他にも問題あるんでしょ?」
「「「よくお判りで」」」
月本星周辺に人が居なくなった事で、難民が集まりコロニーを不法占拠しているのだが、其れ等を取り締まる物も居ない為野放しになるのだと言う。
(まぁ・・・・・・判りきった事だよねぇ)
しかもその不法占拠者の中には、海賊やテロリスト達も数多く、豪華なアジトのように扱われているらしいと言う事も判明している。雨宮達の手元にあるモニターには、不法侵入排除用のコロニー防衛システムとして配備された、無人SW達が次々と撃破され、戦艦ごとコロニーの中へと真っ正面から侵入していく様が映し出されている。
「楽しそうだねぇ」
「治安が悪いなぁ」
「治安も何も無いだろう、誰も居ないんだぞ?」
「ナノマシンで何とかしちゃう~?」
「無理」
「「「え?」」」
何時もなら雨宮がナノマシンでちょいちょいと何かを作り、この程度の事ならサクッと終わらせて仕舞うのだろうと思い込んでいた三人は、首を傾げて思い出す。
「・・・・・・エネルギーが無い。残っていたエネルギーが消えている。誰かがエネルギーを大量に消費したみたいだ」
「そんなバカな、あの時まだ六十%しか使っていないと・・・・・・」
「・・・・・・?あれ?銀河きゅんこれ何してるの?コアルーム」
「ん?コアルーム?・・・・・・あっ」
雨宮は重大なミスを犯した事に今気が付き、慌ててエターナルグレー防衛システムをストップさせた。するとコツコツと脚を鳴らし、プロトタイプガーディオンがリファンリアを伴いブリッジへとやって来た。
「ガーディオンリンクが消えたんだけど・・・・・・」
「あぁ。余計な事をしていたから切った」
「何故・・・・・・」
「余所の世界の生物の因子なんかいらねーんだよ!」
ガーディオン型アンドロイド・・・・・・では無くガーディオン型バイオロイドとして生産され、余所の世界へと浸透していた者達は数え切れない程存在し、雨宮が再生しガーディオンリンクが復活した事で、数多の世界に散っていたガーディオン達の草の根活動が再開し、膨大なデータが余所の世界から雨宮のサーバーへと送られてきたのだ。勿論そんなデータを処理するのに必要とされるのは、雨宮が必死で貯めてきたエネルギープールの残り四十%からひねり出される。無限とも思える程の膨大なデータはその処理の為に秒で残りのエネルギーを枯渇させ、雨宮は軽くパニックを起こしている。
因みにエターナルグレーが元の世界でエネルギーを節約していたのもm¥、この因子を保持し使用する為であった。
「もうマギアシリーズを艦隊行動させられないぞ・・・・・・」
「えっ!?そんなに!?」
「今電力を供給させているのと、新たにエネルギーを生産するのとがほぼ釣り合っていて、自転車操業状態だ。他の事を何もさせられない。研究も開発も解析も全部ストップだ」
「せめてこの生物因子を何かに使えないかと思うんだが・・・・・・」
改めて届いた殆ど処理されていないデータを確認して見るも、見覚えの有るデータは第三世界でも似たような物が在るのサラッと確認して処理待ちデータのセクターへとポイ。ホイホイと要らないデータを選り分け漁っていると、気になるデータを見つけたのだが、処理に何故か膨大なエネルギーが必要だという事が判り、結局分析は出来ず、手詰まりに近い状態なのであると改めて理解する。
「次の行動は決まったな・・・・・・」
「ん?銀ちゃん?」
「月ダンジョン・・・・・・行くしか無い。そこでモンスターを狩りまくってエネルギーを少しでもチャージせねば」
「やはりそれしか無いか」
「全員でアタックするのも悪くないかもねぇ」
「しかしだ、今のこの月にはギルドが無い。どっか適当な建物に誘致せにゃ」
「ギルドの人は生き残っているの?」
「ああ、蝶に殺されていない奴らに限るがな両手で数える程は居たはずだ」
「殆ど全滅じゃ無いか・・・・・・」
雨宮の頭の中には数千と居たはずのマッサマン冒険者ギルド職員のデータは既に無い。破棄してしまったからだ。サーバーに保存した精神生命体は完全に保存せず一時保存に留め、エターナルグレー再生と共に全て放出、現在適当にエターナルグレーのそこら辺に再生し、放置している。
他の住民達も同じ様な状況下におかれているが、ここから先は雨宮も関与せず、住民達はそれぞれの道を進む事が出来る・・・・・・が、本当に普通の人間に雨宮が再生したのかは、雨宮にしか分からず、ロペや近しい眷属達は何か有るような気がして多少の不安を残している。
「じゃあこれから皆でダンジョンアタックするの~?」
「・・・・・・それしか無いか・・・・・・?無いか?ホントか?ホントに無いか?」
「銀ちゃん?」
雨宮の頭の片隅に、何か・・・・・・莫大なエネルギーを持った何かが有ったような気がするのだが、それが記憶の彼方へと追いやられてしまっているようで、有るのに出て来ないタンスにしまった靴下の片方を探しているような、何とも言え無いような表情になってトントントントンとコンソールの端っこを指で叩いている。
「何か拾ったの?」
ロペはかなり苛ついている雨宮の腕が動く度にお尻が振動し僅かな刺激が背筋を駆け、もぞもぞとシートの肘置きに座り直すと、何かを思い出した。
「そう言えば美空ちゃんがなんか酷い目に遭ったとか?」
「あっ」
雨宮は記憶の中の地下茎を引っこ抜くかの如く芋づる式に記憶を蘇らせ、虚数空間にしまい込んだ種を取り出した。
「コレだ」
黒く吸い込まれそうな色の雫型の何か、重さを感じないエーテル的な何かで出来ている不思議な物体は雨宮の掌の上で妖しく光り、それを覗き込んだロペは一歩仰け反り、口に手を当て手何事かと目を見開く。
「ブラックシード!何でそんな物を持っているの!?」
「ん?そう呼ばれているのかコレ?なんか世界の種だとか何とか」
表情をコロコロ変え引き攣ったような表情で止まったロペは、ブラックシードとは何か肩を落として語り出した。
「それはまぁブラックシードと呼ばれていて、正確には樹系世界形成種子二型って言うんだけど」
「ほう・・・・・・樹系世界・・・・・・?樹系?暗黒世界じゃ無くてか?」
「うん。暗黒世界ってのは既に失敗して成長の止まった世界で、尚且つ世界消滅の煽りを受けてもまだ生物の残っている世界の事を言うんだょ」
「何それなんか怖い」
「何て言うかなぁ、あぁアレ。魔界とか地獄とか、そんな感じ」
「おっかねぇなぁ・・・・・・この中に地獄が入ってんのか」
「そう・・・・・・あ?銀河きゅんそれ分解したら駄目だからね!?その種子の外郭は委員会でもどうやって形成されているのか判明していなくて、何となくで出来てるから分解して吸収したら何が起こるか判らないょ?確かにエネルギーは普通の閉鎖世界に比べても割かし多く残っているかも知れないけど、その中には世界丸ごと一個のリソースが内包されているから、今の銀河きゅんじゃエネルギーが保有出来ないょ」
「エネルギープールも足りないか?」
「無理だって、どうやったらおちょこの中に海が丸々入る道理があると思うの!」
「そんなに差があるのか・・・・・・」
「と言うより、その世界がどれ程の大きさの物かって事も関係するんだけど、十三暗黒世界ってのは牧場世界の中でも大分昔に閉鎖された世界でね、此処に侵略してきた世界よりもっともっと前なんだけど、その理由がね」
「何か有ったのか」
「まぁ閉鎖されるような事があったのさぁ・・・・・・。例えばリソースの極偏重とか、コア喰いとか」
「偏重?」
「そう、偏重。そこに居る世界の一人、何て言ったかなその世界の守護者だった奴が、その世界のコアと管理者を喰ったのさぁ。するとね世界のバランスを保てなくなる訳、そんでコアを喰った事でそいつがコアと融合する事になるんだけど、そいつが世界に残った他の命を全て喰らい尽くして、もう訳の分からない化け物になったって事なんだけど、そうなるとリソースとしては分割されていない塊としてのリソースが一つ有るだけって事になるんだけど、まぁその一つが世界丸ごとって言う大きさだから、動く世界が余所の世界に食欲を満たす為に自分で動いて世界事ぶつかってくる訳。もうそんなレベルの話だから危なくってしょうが無いから、封印術式を使って管理が容易な樹系世界のコアと融合させて、世界を結晶化する事で中身が出て来ないようにしたんだけど、その中身が強力過ぎて完全に封印出来ないし滅ぼす事も出来なかったのょ。そこでまぁ何とか長い時間を掛けて世界を圧縮してその形にすることが出来たんだけど、それの管理者が弾みで無くして行方不明になっていたんだょ・・・・・・」
(どんな弾みでこんな訳の判らん物を無くすんだょ・・・・・・しかもそれって結局、世界二つ分のリソースが有るって事だろ?)
「まぁともかく危ないもんだから、ホントに分解吸収出来るようになるまで、虚数空間の中に入れておくのが盛大にマシ。割れたら最後この世界の中に変な物が出てくるからね?」
「判った・・・・・・じゃあそうだな、エリー、新庄。月ダンジョンに突入する眷属クルーを選出してくれ」
「眷属クルーだけで良いのか?他の者達も鍛えた方が良いんじゃ無いか?」
「そんな余裕あると思うか?」
「そうだな、最低限のメンバーで最大限のリソース確保だな」
二人はコンソールに向き直り、リストアップしてある眷属クルーの中から、四人ずつクルーを選出し雨宮の元へとデータを送る。
銀河旅団のクルー達は慌ただしく動き出し、各々パーティを組みダンジョンアタックの準備を進めていく。
ノスケ・ベアー 人種 元太陽系共和国上院議員
地球党所属の上院議員であったが、党は疎か故国諸共消え去ってしまった為全てを失ったマッサマンの一市民となる。
地球党の幹部候補として、ゼンメツ一族の議員達の秘書などをしていたエリート議員だったが、家も財産も全てマッサマンと共に消え去り、名実共に難民となるがロペの案内に偶々付いていき、エターナルグレーにて銀河帝国へと帰化する事になった。
議員としてのみ特化した生き方をしており、一般市民についてゴミとも思わない無感情だったが、今自分がそれより更に一つ二つ下の存在と成りそうになる現状を憂いで、慌てて帰化したものの、コレといって何かしようと思い立っている訳でも無く、正に路頭に間用を地で行く現状だが、ガーディオン型アンドロイドに銀河帝国について尋ねて回る等、銀河旅団側から見て不審な行動が目立つ為、既にガーディオン達にはブラックリストに入れられている。




