EP84 蟲VS銀河旅団 カウント3
進まないッッ
「不味いぞ雨宮、非常に不味い」
「何だ急に」
「このマッサマンの裏側に位置する場所、何か重要な事を見落としていると思って思いだしていたんだが、それを思い出した」
「何の話だ?」
「この巣が突き刺さっている場所、此処には月を地球周回軌道上に定着させる為の、超巨大マジックブースターがある」
「・・・・・・ほぉ」
(突き刺さっている場所に?)
「このブースターは毎日午前零時から午前五時迄の五時間、最大出力で噴射され続ける・・・・・・必要がある」
新庄は眼鏡を一旦外し、こめかみに手を当てて天を仰いだ。レーダーに映らない蝶蝶をマーキングする為に、目視で其れ等を追い掛けていたせいで過分に眼に疲労が蓄積しているのだろう。
「絶対必要なのか?」
「絶対だ。一時間・・・・・・いや、三十分でもブースターが動かない何て事が有れば、月は銀河の外へと飛び出してしまうだろう」
「月が無くなると困るな・・・・・・ダンジョンどっか行っちゃうぞ?」
「それだけじゃ無い、恐らく月面にあるコロニー群は死滅するし、月自体が恐らく絶えきれずバラバラになるだろう」
「そうなったらダンジョンはどうなるだろうな?人間は頑張って外に逃げ出せば、助かる可能性はあるだろうが・・・・・・ロペ?」
ロペも又オペレーターの手伝いの為に、モニターに映る景色の中に居る蝶を探し目を皿にしていたが、一旦その手を止め、顎に手を当てて考え首を捻る。
「どー・・・・・・なるだろうねぇ?あー・・・・・・もしかしたらだけど、ダンジョンは宇宙空間に取り残されるかも」
少し前にロペはダンジョンはモンスターみたいな物だと言っていた事を雨宮は思い出し、ダンジョンだけが残るとどうなるだろうかと想像を膨らませる。
「そう言えば宇宙空間に入り口のあるダンジョンも有るって話だったよな、それと同じ様になるのかも知れないな?」
「まぁそうなったら魔窟探索システムで見つければ良いんだけれどもだょ」
「おぅ」
「月が無くなるとだねー、いっぱい人が死ぬと思うんだぁ」
現在知られている月圏の人口はおよそ十兆人、他の惑星圏と比べても然程少ない訳では無いが、大小数多有るコロニーに別れ月を中心にその引力を計算に入れ配置されている。
恐らく月が無くなる事で引力と斥力のバランスが崩れ、コロニー群は崩壊、今は無人と思われる地球にも多大な影響を与える事になるだろう。それだけで影響は止まらず、隣接する金星圏及び火星圏は、少なからずその影響を受け被害が出る事が容易に想像出来る。
共和国消滅だけではその事態は収拾が付かない事だろう。
「いきなりそんなにマナが失われると、反動でエラい事になるんだょ。言ってみれば惑星もマナの塊みたいな物だし」
「だがもうあの月は限界だろう?」
「確かにそうなんだけど・・・・・・ん?銀河きゅん何か変なこと考えてない?」
「失礼な」
(どっか余所から別の惑星を持ってくれば良いんじゃ無いかとか考えたが・・・・・・何処の何を持ってくるかって・・・・・・あ)
雨宮の中に一筋の光明が見えたのだが、ふと思い留まり、自分のやってみようと思ったことを考え直す。
(別の世界から新しい月を持ってくれば良いんじゃ無いか・・・・・・と思ったんだが、そもそもどうやって移動させるかって言うね・・・・・・)
仮にナノマシンを使って新しい月を作ったとしても、何だか面白くないことが起こりそうな予感がし、雨宮はその案を一旦保留して、閉鎖される直前の世界から月を持ってこようと考えたまでは良かったのだが、移動させる為の手段が思いつかない。今現在月に付いているブースターは現在の穴だらけの月だからこそ機能する物であり、元の質量のままの月ではそもそも悪戯に軌道をずらしてしまうだけで、移動させるにはパワー不足、そもそももっと巨大なブースターと、もっと多くのエネルギーが必要になり、それを賄うことは恐らく雨宮を置いて不可能。そして雨宮自身そこまでする必要性を感じていない。無くなったら代わりの何かを置いておけば良いとふと思う。
(そうだよ、別に無くなったからって新しい物を用意したり、俺が骨を折る必要はそもそも無くねぇか?)
「・・・・・・ん~適当に余所の銀河から石っころもってきて置いときゃ良くねぇか?」
(何でそんな面倒な事を俺がせにゃならんのだ、マナが大量に世界に還るのなら、Δエナジーを調整すればそれでバランスは崩れないし、その余剰マナはなんかの形で世界に戻せば・・・・・・ん?)
(そっか、そんな事普通出来んのだな)
Δエナジーを調整すればと言っても、そんな事が可能なのは雨宮只一人であり、そもそも増えたマナを消費する事で一応の解決は出来る、が・・・・・・。
(そのマナを際限なく使う事の出来る存在、柱は今体調不良って言うね)
世界の柱であるファムとネシアは雨宮と対を成す存在である。
世界には必ず一柱ずつが存在する。この世界の柱は一柱が二つに分かれただけで、二つの柱が有る訳ではないが、二人に分かれてから暫くの時間が経過し、個を確立した今それはもう二柱居るのと対して変わらない状況になっている。それぞれが力を持ち、同じ権限を有している。
「ネシアなら何とか出来るか・・・・・・?」
「・・・・・・あーその手があったかぁ」
「待ってくれ雨宮、俺達にも解る様に説明してくれ」
「えっとな・・・・・・」
ーーーーーーーーーー
十分後
「なんか上手く説明出来た気がせんが、そんな感じ」
「銀ちゃん・・・・・・」
「ん?どうしたエリー」
「そのやり方だと、一旦月圏が滅びちゃうよね?」
「「「あ」」」
マナが世界に還った後、そのマナを使って新たに月を造り出す、とは言ったものの、エリーの言う通り、それが成されると言う事はそういう事である。
「やっぱどっかから持ってくるしか無いか・・・・・・」
「でも何処から?」
「ヴァルハランテはもう無いし、牧場世界も・・・・・・あれ?」
「そう言えば牧場世界って閉鎖されたって話は聞いたが、もう消滅したのかね?」
「多分もう無いと思う、確認は出来ないけど・・・・・・何処に有るか分からないし」
「あぁ・・・・・・そっか、穴は閉じたんだっけか」
神域へと侵攻してきた牧場世界のゲートはロペが完全に封鎖し、雨宮がその傷跡を修復した。本来ならその役目はファムとネシアが行うはずなのだが、二人の居場所が露見してしまう事を危惧したロペがそれをさせなかった。この世界には他にも穴が空いており、余所の世界から何かをしに来た者達が潜んでいる事も充分考えられる。その為の予防策だった。
今雨宮が認識している異世界で、尚且つその場所が判明しているのが、第二開拓世界A及びB、わんにゃん牧場、この三つだけだ。しかしわんにゃん牧場は手を出すと無駄に犠牲が出る可能性があり今はまだ無理だが、第二開拓世界Bは既にそのわんにゃん牧場によってほぼ壊滅しているが、斗捌によって新しい人類が誕生し、覇権を取り戻すべく闘いが始まっているという。そんな世界から果たして月を持ってきて良いものかどうか?これから先のある世界からは、持って行くのは止めようという結論が出た。
「駄目じゃん」
「滅び・待った・無し」
「大体何でこんな事で頭使わにゃならんのだ・・・・・・ん?」
雨宮の脳裏に再び一筋の光が差し、ベストな案では無いし簡単に出来る事でも無いが、それなりに問題を解決出来るかも知れない案が浮かんだ。
「なんか思いついた?」
「あの月を・・・・・・治そうか」
「「「「「?????」」」」」
「デブリを掻き集めて月の質量を球形を保っていた頃迄戻す」
「そんな事どうやって・・・・・・」
雨宮の力を使えばゼロから作り出す事も可能ではあるが、恐らく惑星クラスの物体を作り出せばエネルギーは枯渇し、一時的にとは言えナノマシンサーバーがダウンしてしまう可能性すらある。そうなれば雨宮は防衛のエネルギーを作り出す為にラピスから動けなくなり、雨宮は飛び切り不機嫌になる事だろう。
それよりも今そこら辺に存在している隕石や惑星を構成する成分を有している物質を掻き集め、月の穴を埋めてしまえばそれで問題はある程度解決するだろう。
だが月は只の石の塊では無い、惑星という体に精神が宿っている言わば生命体、人間とそう変わらない精神構造になっている。痛みも感じれば、悲しみ、憎しみを感じる事もある。喜ぶ事もあれば笑う事だって有るはずだ。
「新しい命を作り出すのは簡単では無いが、まだ燃え尽きていない命を元の状態に戻してやる方が難易度は低い」
「成る程、月はまだ死んでいないんだな」
「そうだ、まだ生きている」
不幸中の幸いと言えば聞こえは良いが、偶々惑星としての存在を保たせるコアとも呼べる部分が残っている為、雨宮の提案する方法が可能なのだが、問題はその質量を補う構成物を何処から何を持ってくるか、まさか他の惑星を削って持ってくる訳にも行かず、偶然余所の銀河から隕石群が飛来するなどと言う事も無い。だがこんな時の雨宮はいつもとは少し違い、堅実な案で尚且つそれを力でマシマシの上でやってのける。
「太陽系全土からデブリを拾い集めてこようか、月一個分ぐらいなら集まるやろ」
「おいちょ・・・・・・」「それ間に合うの?」
「そこで眷属の皆さんに命令です」
雨宮の有無を言わせない命令の言葉にその場の誰もがギョッと肩を震わせ、何時もの気怠い瞳の奥が笑っていない事を確認すると共に、その場に居る非眷属、男衆やイミル以外の全員が立ち上がり、周りをキョロキョロと見渡し男衆に目を付けると、ロペは必要と思われる人材をブリッジへと招集、切嗣は有無を言わさずエリーによりサブオペレーターとしてコンソール前に座らされ、首根っこを引っ掴まれて艦内の研究施設から連れてこられた斗捌は火器管制、シールド・ダメージコントロール等あらゆる施設管理を任される。
「お・お?おれはどうする?」
「何か出来たっけか?」
自分で理解しつつも敢えて口に出されるとそれはそれでショックを受けるテツだったが、いつもの事なので特に気にはしていない様だ。
「操舵ぐらいなら・・・・・・多分」
「良し、じゃあレビルバンと交代しろ。レビルバンはロペと交代、副官代理として艦の指揮を執れ。」「御意」「お・おう」
テツはオロオロしながらもレビルバンと交代、操縦シートへと跨がり、おっかなびっくりでスロットルへと手を伸ばす。
(あががががが!の・脳が!!)
スロットルへと手が触れた瞬間、テツの全身に電撃が奔り、未知の情報が人一倍動きの鈍い脳へと強制的に流し込まれる。テツの体内に微量寄生しているナノマシンはそれを受け取り、脳がそれを記憶するまで延々と流し続け、無理矢理刻み込んだ。
「あ・雨宮の?」
「お前マギアシリーズの操縦の仕方知らんだろう、インストールしたからちゃんとやれよ?」
「ん・んん~ぅ?おう」
知らない事を知るという探究心を軽く満たされたテツは、かなりの頭痛を味わったものの、これで少しは役に立てるかと胸をなで下ろし、ここ最近何も出来ていない自分へと叱咤を心の中で繰り返す。逆にそれは自分を追い込む事にも繋がるが前世からテツはこうだった。自ら、若しくは雨宮から精神的に追い込まれる事によって限界以上の力を発揮し、常に成績・実績を残し続けてきた精神的マゾである。
(むむむっ俺にも解るっ操縦の仕方が解るぞっ!)
眷属クルーが全員居なくなり、何時も雨宮の隣のシートに落ち着いていたトトさえ居なくなったブリッジは、少し寒々と静かな時間が流れるが、雨宮の膝の上からトトの座っていたシートへと移ったイミルは、雨宮に向けてキラキラとした視線を送る。私は何をする?と。
「あー・・・・・・イミルは新庄の手伝いをしてやれ」「了解」
返事が早い。と雨宮は喰い気味に返事をするイミルに困った様な笑顔を返すも、視認が必要な敵の捜索に必要な眼は幾つ有っても良いと思い直し、イミルの前に広域モニターを広げ、新庄のコンソールとリンクさせて、タッチでその存在を報告出来る簡単なARタッチパネルを作り上げた。
「良く見て敵なら赤色の輪っかを、的じゃ無いなら緑色の輪っかをタッチで付けるんだ」
「うん」
「間違ったらもう一度タッチすれば外せるぞ、だが新庄が確認するまでに外さないと・・・・・・」
ブッブー
ARモニターから失敗を表すサウンドが響き、ビクッと反応するイミル。しかしやる気は俄然満点の様で、両手をぐっと握り締め、モニターへと視線を集中させる。
「がんばる」
(眷属じゃ無くても、もっとちゃんと信用出来る奴が居ればなぁ)
イミルの能力は低くは無いが飽くまでも子供、戦争に近い様な状況に参加させる事は多少なり雨宮の良心に響く様で、楽しそうにしているイミルの横顔を見ながら、どうしたものかと考えはするが、本人が楽しいならそれで良いかと思い、改めてラピス以外の艦へと乗り込んで行った眷属達へと指示を出す。
「各艦へ通達、これよりラピスは単艦行動を開始、ラピスを除いた全艦隊は太陽系全域へと散開、可能な限り質量の大きいデブリ及び隕石群を入手、月へと転送しろ、九番艦は其れ等のプラットフォームとして稼働、全宙域へとフォローに回れ」
それぞれの艦から肯定の返事と共に、レーダーに映っていたラピス以外の八隻が別の宙域へと消えていく。
「雨宮、時間は少ないが間に合うのか?」
「問題は無いはずだ。既に動き始めているし、必要な量も揃うはずだ。俺達はその間にマッサマンの制圧、可能なら解放まで行う」
既に雨宮は水面下で動き出しており、銀河旅団諜報員達には既にデブリの多いポイントや、接近する隕石・彗星等を調査・確認へと向かわせている。
この情報を元にマギアシリーズ各艦は秒単位でスケジュールを組み、必要量を既に算出し終えている雨宮から細かい必要物のリストが送られている。
「実際にはどう動く?何時も前に出てくれているメンバーも今回は居ないだろ?」
「そうだな、お前達は此処に居なきゃならんし、動けるのは俺・・・・・・」
雨宮はラピスに残す必要の有る人員として分けていた眷属を思い出しているが、ほぼ全員を外にやってしまったが為に連れて行ける眷属は少ない。
少ない人員を整理し、眷属以外のクルー達を前面に押し出す事は決まっている、眷属の中でも下位に位置するが、BMを着て居なかったとはいえ風魔姉妹をあっさりと平らげてしまう様な存在と、非眷属クルー達がぶつかって只で済むとは思えない。しかもその中で最も戦闘能力がある者達は今全員此処に居て、尚且つブリッジに居る必要が有る。
「艦長、私が参りましょうか?」
「いや、お前は駄目だ。消極的な選択だがお前は此処の人員を護衛して貰わないといけないからな、俺は性格的に万が一の保険はなるべく外したくないんだ」
「ふむ・・・・・・成る程、私達は死んだらそれ迄ですからな」
「いや・・・・・・それは違うんだがな「「「「「え?」」」」」・・・・・・?」
(おっと・・・・・・言わなくて良かったかな?)
「何と言うかなー」
ラピスを含め銀河旅団のマギアシリーズは全てに超空間リンクを用いたサーバーを設置しており、常時ナノマシンによって環境コントロールや、クルー達の体調管理を行っている。そしてその体調管理の延長として、肉体の情報をサーバーに保存し、その魂、精神生命体のコピーもついでに行っている。この為にもし死ぬようなことがあれば、周囲の眷属及びナノマシンを通じて保存されたデータが自動で死の直後にアップデートされ、死んだ事を認識しつつ復活再生が可能になっている。
「まぁ結構何とかなるよ」
「んん・・・・・・何というか、有難い気もするが、何とも背徳的な気持ちも出てくる話だな」
「死んでも生き返れるってのは悪くねぇな」
「実質的に生き返る、ってだけの話だがな」
「肉体は新しく作られると言う事ですかな?」
「そうだが、同じものが出来るからな、差違は無いはずだ」
「世の中便利になりましたな・・・・・・」
(いや、普通は無理だがな)
「まぁそういう事なんだが・・・・・・此処に残る皆には外せないミッションがある」
雨宮の言うミッションとは勿論ラピスを守る事である、しかし未知の戦闘能力を持っているその中身が万が一侵入してきた場合、サーバーが破壊される可能性がある。
これが破壊されれば一時的に再生が出来なくなったり、エネルギーの供給が止まったりと、眷属クルーが弱体化する。
この世界にはあらゆる場所にナノマシンサーバーが設置してあるが、仮に全て破壊されてしまったとしても、一時的な障害にしかならないが、それでもリスクはある。
「一つ壊される度に、復活出来なくなる奴が出てくる、主にデータの保存容量的な問題でな・・・・・・」
人間一人に使う容量は膨大だ、肉体やその肉体に宿る記憶、そして精神生命体。その膨大な情報を雨宮がどうやって保存しているのかというと、異空間に置いてあるマスターサーバー・・・・・・だけでは保存しておくには今は足りない。ロペが過去、管理者として世界のあらゆる場所に設置した端末としてのサーバー、この全てを動員して始めて、億を超える人間の情報を全て保存しておけるのだ。そして根本的な疑問が切嗣から飛び出す。
「何でそんなもんが世界中に有るんだ?」
「・・・・・・ロペは、ベロペは最初からこうなる事を知っていたらしい」
「どういう事だ?」
「今の状況になる事を俺が来る前から、想定していたと言う事だろう、俺がこうやって大勢の人間の情報を保存しておく事をな」
「成る程な、まだ聞けてない事が有るって事か」
「言わないのなら必要無いんだろうぜ、その位は信用しているつもりだ・・・・・・」
「実際どうなんだろうなぁ、俺はあんまり詳しい事情は分からねぇが、隠し事の多い女ってのは大変だって聞くぜ?」
「もう大変な目には遭いすぎるぐらい遭ってる、聞きたくなりゃ聞くし、言いたくなりゃ言うだろ」
そんな事を言っている間もテツはマッサマンへ向けて進路を向け、どうやら目的地に辿り着いた様で、雨宮を振り返り、指示を求めてくる。
「良し、機動部隊・白兵部隊に出撃命令を、艦内の手の空いているものは銃座に、ラピスはマッサマン周辺の蝶蝶共を殲滅しろ。防衛部隊は新型のお披露目だ、グレイヴを出せ」
「了解、全艦スクランブル、全艦スクランブル。出撃部隊は直ちに出撃、防衛部隊はラピス外部にて迎撃を開始せよ、繰り返す・・・・・・」
雨宮率いる突入部隊は宇宙港へと突入するべく、NVD突入部隊と共に出撃ドッグへと集合する。
「どれだけの人間が生きているかは知らんが、今回の目的は敵性生物の排除がメインだ。その次にこのマッサマン冒険者ギルドに居るであろうグレン・カリバーンの生け捕り。この二つだ、可能な限り蝶やら芋虫やらを排除しつつ、対象を探せ」
住民を助ける必要は無い、と言いかけてその言葉を呑み込んだ雨宮は、少し考える様に首を傾げたが何でも無いと手を振り、開き始めるハッチへと視線を向ける。
(住民を助けてやる義理は無いが、此処を故郷としている者達も居る事だし、出来る事はするか・・・・・・)
心の中でも天邪鬼な雨宮だったが、此処に残した者達の大半はロペや他の眷属達によって集められた、マッサマン出身の者達だった。
ナノマシンサーバー
第三超広域開拓世界各地に点在するナノマシンを製造保管する為の超大容量サーバー。雨宮はこれの存在を転生直後から認識しており、直感でベロペが説明できなかったことの中に含まれるものなので有ろう事を推測していた。ラピスに存在するマスターサーバーとは違い、第三超広域開拓世界に存在する者達の手によって作り上げられたが、その存在は遙か過去の物であり、その存在を知る者はロペ、雨宮を置いて存在しない。
生命体及び情報体(精神生命体)の全てを保存しておける程には容量も有り、その情報をほぼ劣化させない程には超高性能な存在ではあるが、非常に巨大でその存在はかなり目立つ。だが存在その物が希薄でそれを認識出来る者は第三超広域開拓世界には存在しない。世界の誰もが一度は目にし、何度も訪れた事がある。そんな場所にもそれは存在し、雨宮は其処を訪れる度に誤って壊されたりしない物かと気が気では無い。
サーバーにはオートセーブ機能が搭載されて居らず、雨宮が第三世界にて使用中にサーバーの中に存在していた意識の一人が暴走し、多くの情報をめちゃくちゃにされ、非常に肝を冷やすと共に、雨宮を本気で起こらせる事態に発展、その事を契機に雨宮はサーバーを自分で管理する事にした。
サーバーの中には現在数億人規模の情報が記録されており、雨宮の意志一つで自在にその存在を現実世界に生誕させる事が出来るが、サーバー内に存在する存在は決して雨宮に好意的な者だけでは無く、中には明確に敵対している者達も存在し、雨宮は徐々にそう言う者達の情報を消去し、データを整理している。
サーバーが破壊されると一つにつき億単位の情報が消えてしまう為に雨宮は一刻も早くセントラルサーバーにその存在を吸収してしまいたいと思っている一方で、そのサーバー自体が隠されている為、探究心を擽られ、それを自らの手で発見したいと思っている。その為敢えて自らがその存在を確認したサーバー以外からの位置情報を遮断している。
サーバー自体はこの世界の物質では無い物で構成されており、基本的には破壊不可能であるが、不可能であるが為に目立つという悪循環も在ると言う。




