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EP83 デッドラインカウントダウン

おそばせながら、明けましておめでとう御座います。皆様今年もよろしくお願い致します。

最近キャラが増えなくなったけど、出て来ないだけでいっぱい居るんだからねっ。

 消え去った不結理の頭部を眺めていると、体内からぎょろりと目玉が見え、その身体の中から質量保存の法則を無視した量の何かがずるりとこぼれ落ちる。

ナノマシンで構築されていたはずの不結理は、リンクから外れ精神生命体が消滅している。

 雨宮は慌ててサーバーの中を確認し、少し前に統合された不結理の精神生命体を保存してあるスペースを確認すると、そのまま存在していることが改めて確認できた。情報のアップデートは昨日、それ以降は新しい情報が有ったにも拘わらず更新されていない。つまり今日の不結理は既に別の奴だった。


 こぼれ落ちた物体は形を成さず、芋虫とミミズを足した様なヌメヌメとした外見をし先端に目玉が一つだけ付いている、先程雨宮に呼びかけた時はどうやったのだろうか?発声器官と呼べる様な物が備わっているとは到底思えない。


 「なんだこの芋虫・・・・・・」


 雨宮は芋虫を位相空間から取り出した先の尖った棒でツンツンと刺し、ゴロゴロと床を転がすと、血管を覆う皮膜が無いのか床が血だらけになり、眼球から水分がしみ出してくる。


 「何だろこの汚いの?ふゆりんは大丈夫なの?」


 「ああ、サーバーにちゃんと残っている、昨日の日付のままのがな。オートセーブもされてない・・・・・・コイツのせいか?」


 雨宮は少しイライラが募っているのか、そのままサクッと芋虫の中心を刺し、一瞬ビクンと痙攣した後芋虫は動きを止めた。

血だまりが辺りに一瞬広がるが、ナノマシンが瞬時に分解し辺りには何も無くなる。


 首から上が亡くなった不結理の抜け殻を雨宮が分解した所、肉体の所有者が書き換えられ、別の存在がそこに居た痕跡が確認できた、ついでに雨宮は芋虫も分解しその存在を確認する。


ーーーーーーーーーー


玉城 伊佐治 九十八歳 東方サイキックアカデミー学長 エスパーズドリーム所属


状態 死亡


種族スキル 精神浸透(封印)


固有スキル 次元浸透 C5

 

ーーーーーーーーーー


 普通の人間の肉体に勝手に置き換わってしまった不結理の肉体は、ナノマシンが全て離れサーバーのナノマシンプールへと戻り、状況のアップロードを行っていた。


 「玉城伊佐治(たましろいさじ)


 その名前をロペは知っているらしく、知っている情報を雨宮に語り始める。


 「そのじじいはエスパーを集めた学校のオーナー兼学園長で、エスパーズドリーム最高幹部の一人。普通の人間をエスパーに改造して量産していたサイコじじいだょ。普通の人間を攫っては脳を弄って疑似エスパーや、強化人間、怪人を生み出していたエスパーズドリームの科学部門の最高権力者だったはず」


 「怪人・・・・・・」


 きゅん・・・・・・と雨宮が妄想の海にダイブしそうになっている所を、腕を引っ張り無理矢理引き戻すロペ。


 「そんな位の高い奴があんな姿になってまで此処にやって来るって事は、向こうは相当焦っているのかも知れないね」


 「じいさんなんだろ?切られただけかもよ?」


 「・・・・・・それも有るかもしれないけど、後継者が居ない・・・・・・かどうかはわかんないなぁ」


 「んー・・・・・・火星人の解析をちょっと急かしてみるか、その後にエスパーは初めてだが解析してみるか」


 「大丈夫なの?」


 「問題は無さそうだな、サーバーの中でも何も出来ないみたいだし」


 (このじじいは色々と使えそうだ)


 雨宮の中に更に怪しい炎が燃え盛り、ロペからジト眼で見つめられているのだが、雨宮には然して気にする物でも無いらしく未来へと思いを膨らませつつ、忘れかけていた不結理という存在の事を思い出す。


 「そう言えば結局不結理って言うのは何だったんだ?俺は全く知らないんだが」


 「えぇ・・・・・・?前世に居たんじゃ無かったっけ?」


 「あいつがそう言っていただけだろ?俺は後にも先にも千里の他に従姉妹が居る何て一言も言ってないぞ」


 「おっと・・・・・・?あれ?じゃあ私の知ってるふゆりんは何者?」


 ロペは原初世界でも無く第二開拓世界でも無く、別の世界で不結理と出会っていたのだが、遠い昔の出来事で有ったが為に記憶が抜け落ちている様で、何処でどのようにして出合ったか、そもそもどんな人物で有ったかなど全く記憶していなかった。


 「推察で物を言うもんじゃないねぇ」


 「勘違いじゃ無いのか?」


 「会ったことはあるんだよ、でも全然覚えて無くてさ、向こうの話に合わせていたんだけど何の確証も得られなくて、話している内に何か思い出すかと思っていたんだけど、その前にああなっちゃったし・・・・・・あぁそうかそういう事か」


 「ん?」


 「あのじじいのせいかなって、ふゆりんに関しての認識が阻害されていたのかも知れないって」


 「今はどうなんだ?もう居ないぞ?」


 「そのせいかな?何か思い出せそうな気がする」


 原初世界からやって来たと思われるエスパーじじいはロペや雨宮と同格の存在で在る事が相対的に証明され、ロペ、曳いては雨宮にも影響を与えうることが判明した。

ロペはその影響で認識を阻害され、不結理に対する記憶を失っている。雨宮はそもそも記憶が無い為存在その者を知らなかった。


 不結理とは何者なのか、本人曰く雨宮の従姉妹で在ると言うが、それを証明できる者は何も無く、彼女が話した中で知っている情報と言えば、『観察者』と言う単語のみで在った。


 「何か切っ掛けになる様なことでも在ればなぁ」


 「そだねぇ」


ー遅い


 「「お?」」


ー朝ご飯


 「そうだったな、直ぐ行く」


ーーーーーーーーーー


マギア・ラピス 食堂


 「遅い」


 ブリッジにて呼び出しを受けてから数分、雨宮とロペは食堂へと足を運ぶ。何時の間にかビュッフェスタイルに変更されていた食堂は、起き出して来たクルー達が所狭しと行き交い、山盛りにキャベツと思われる物を丼へと積み上げている者や、それこそ白飯のタワーを築き上げ、席に着いた状態でどうやって喰うのかと首を傾げられている者など、クルー達も仕事に就く前に此処で食事を取り、ホウボウへと散っていくのだ。


 「すまんすまん、ちょっとした事件があってな」


 「む、危ないこと?」


 「うーん・・・・・・まぁそこそこ?」


 「・・・・・・訓練しなきゃ・・・・・・」


 イミルは雨宮達が食堂へと入って来た事を確認すると、トトを引き摺る様に引っ張り、四人分の皿を手に持ち雨宮の前に陣取った。そのせいで雨宮は非常に歩きにくいのだが、諦めた様子で肩に手を置きゆっくりと電車ごっこで歩みを進める。その後ろにはロペが雨宮の肩に手を置きたそうにしているが、流石に三メートル少々の雨宮には手が届かない様で、腰にしがみつき更にそのロペの腰にトトがしがみ付くという何だかよく判らない構図が出来上がっている。


 イミルはその華麗な手さばきで、綺麗に更に色取り取りの料理を取り分け、ほいっほいっと後ろの雨宮へと渡していく。雨宮もその流れに乗り後ろへと手渡そうとするのだが、後ろの二人は腰にしがみ付いており両手が塞がっている。しかし雨宮はその二人の背に皿を一つずつ乗せ、乗せられた二人はハッと背中に食べ物が乗っている事を感じ取り、ぎこちない動きで腰にしがみ付いたまま、雨宮に引き摺られつつ背中を動かさないようについて行く。


 席に着いた四人は妙に疲労しているトト・ロペと雨宮・イミルに別れて座り、ロペと雨宮は今後の方針について改めて話を始めた。


 「もうなんか色々いっぺんに起きすぎて、何から手を付ければ良いか分からんのだが」


 「その色々の一端を担った私としては、ごめんちゃいと」


 ロペはこの世界に転生した時からずっと、現在敵性勢力認定されているエスパーズドリームの幹部に操られていたのだが、マナトラッカーという存在を確定する装置にてその元凶を捕獲、サーバーへと封印した。


 「・・・・・・これからどうするの?」


 イミルはもぐもぐと朝食に仕入れたバターロールに、生ハムっぽい物と根菜と思われる何かを挟んだサンドウィッチを咀嚼しながら、惟からの身の振り方を雨宮に問う。

彼女も又雨宮に紐付けられた転生者らしいのだが、長い長い時間の流れの中で転生の目的もその理由も霞と消える。ロペも雨宮も元々転生とはそう在るべきなのでは無いかとそう思う。しかし、結果的に過去の仲間達は集まり、集うべき雨宮を灯台とし、その周囲は賑やかになっていく。


 かつて雨宮は一度、一人であろうと周りの人間から距離を置いていた事を思い出す。自分はおかしな人間だと、変な人間だと、周りに影響を与える前に離れていようと考え気配を消し、波風を立てる事の無い孤独を選んだ。しかしテツは離れず、新庄も目聡く雨宮を見つけ出す。切嗣も斗捌も何故か気が付くと近くに居る事が多く、一時は監視されているのでは無いかと被害妄想に駆られる事もあったのだが、この四人は代わる代わる雨宮の側にやって来ては只遊び、共に勉強をし、友人関係を続けていた。

その頃から雨宮は人間で在る事に価値を見いだし、他者から離れ、他者を離す事をやめた。人とは群れで生きる者が多い、それにはそれぞれの理由があり、メリット・デメリットもある、雨宮がこの世界で人を集めているのは、理由が有っての事ではないが、この銀河旅団、曳いては銀河帝国へと集まってきた者達は、遠い遠い過去、遡っては雨宮やロペの発祥である原初世界で仲間で在った者達、『銀河研究会』に所属していた者達が巡り巡って今此処に居るのだという。そんな事を聞いた雨宮の中にもう一つ目的が芽生えた。


 「そうだな、取り敢えず今はやはりマッサマンへ行くか、其処にグレン・カリバーンが居るらしいし、色々中でやる事は有るが、其処は研究チームに任せても良いだろう。ルビーダンジョンの事も気にはなるが、それより穴が空きっぱなしのダンジョンに対処する方が先だから後回し・・・・・・って言うと忘れそうだからぁ・・・・・・そうだ」


 雨宮は何も無い空間にARモニターを表示させ、ロペへとそのモニターを渡す。


 「誰でも奥まで行くぐらいなら出来るだろ?」


 「自分で行かなくて良いの?楽しみにしていたのに」


 「確かにそうなんだが、何かそっちを先に対処しないといけない様な気がするんだよな」


 「来た、銀河きゅんのそんな気がする」


 フラグを立てるとかそういう事では無い様で、ロペとしてはその言葉が過去から脈々と続く雨宮の系譜が自ら立証してきた『勘』、そしてその勘が外れた所を少なくともロペは見た事が無い。言うなれば運命を察知する能力、スキルなどには現れない、本人にも理解できない本能に基づく危機管理。

 「うむぅ・・・・・・良し、行くぞ」


 話をしながらもイミルによって綺麗に盛り付けられていたバランスの良い朝食を手早く腹に収めた雨宮は、定まった目標を改めて確認し、ブリッジへと戻る。


ーーーーーーーーーー


ブリッジ


 「マッサマンへ行く・・・・・・嫌な予感がしてきた」


 「全艦出港準備!今直ぐに!!」


 先程食堂で聞いた言葉よりもより不安を煽る言葉が飛び出し、ロペの顔色が朝食後の健康的な桜色から青へと変わる。


 訓練されたクルー達はその声色の尖り方を感じ、持てる最大の能力を発揮し直ちに出港準備を整えレッドアイコロニーを出港した。


 「特にこう・・・・・・理由は分からないが、なんか起こった気がするんだ」


 ロペの泡喰った様子を見たミンティリアは、理由は分からないがビリビリとその指示の先に危険を感じ、雨宮の言葉の先を推測しマッサマンへと潜入させた諜報員の様子を確認する。


 「ロスト・・・・・・?嘘でしょ?・・・・・・艦長!マッサマンから風魔姉妹の反応が消えました。ナノマシン反応なし、サーバーのバックアップは生きています」


 「分かった、進路はマッサマン、正面から行く。直上にディメンションスリップしろ」


 「「了解」なの」


 雨宮はミンティリアの報告を受け、マッサマンに居た筈の二人、風魔美空(ふうまみく)美海(みか)二人を再生する。二人のバックアップの最終アップデートは十時間以上も前だった。


 (なんでロストした時に分からなかったか・・・・・・?十時間前?)


 十時間前、それは雨宮達が眠る前、あの芋虫がこの世界にどのようにしてかやって来た時と一致する。


 「あいつが他に何かしていたのかも知れない・・・・・・いや、寧ろそっちが本命か?」


 音も無く出航し、艦隊は陣形も整えずにそれぞれ超空間へと潜行し、目的地へと向かって歩みを進める。


 周りに居た民間船の乗務員は、突如高速で移動する巨大戦艦に目を剥き、慌てて舵を切ろうとするが、あわや接触かと思われた瞬間には既に戦艦の影は無く、状況を把握する事も出来ず、淡く光を放つ巨大戦艦の艦隊が次々と見た事の無い超空間航法で、その姿を消していく姿を只見送る事しか出来なかった。


ーーーーーーーーーー


 「ディメンションスリップ完了、目的地まで最高速・・・・・・十分・・・・・・です」


 周りの皆の空気に当てられ、一番経験の浅いザミールは何かやり残した事は無いかと、慌てて報告する項目のチェックをし、瞬時に計算される目的地マッサマンへの到着予想時刻を確認し、その情報で自分が驚く事になった。従来の超空間航法では同じ惑星圏内とは言え、最低でも数時間は掛かる距離で有ったはずなのだが、マギアシリーズにはそんな常識は通用せず、後回しになっていた各艦の報告を受けるだけで過ぎてしまう様な時間で到着時刻を迎えてしまう事になり、ザミールの頭の中は先んじる事が出来なくなり、情報が渋滞している。


 「後・えっと・・・・・・全艦異常無し・・・・・・と」


 「艦隊全艦異常無し、スケジュール再計算、遅れ無し。超空間(ハイパースペース)安定、システム正常値、各項目遅延無し。現地では今何か混乱が起きているらしい、宇宙港へと通信を送っているが返答が無い」


 この間一秒も無いのだが、新庄は瞬時にザミールの足りない部分を補い、各部署から上がってくる報告を纏め雨宮へと報告する。そしてそれを報告しながらも既に、目的地の宇宙港周辺をサーチし、調査を開始する。


 「銀ちゃん!未確認生物と思われる大型物体を発見したよ!」


 「未確認生物?しかも大型?どのぐらいだ?」


 「・・・・・・全長四十メートル・・・・・・位かな?」


 (小型戦艦レベルか、生き物ねぇ・・・・・・界獣かな?)


 「襲撃を受けている様だ、どうする雨宮」


 「待て、もう直ぐ二人がブリッジに来る」


 雨宮の言葉を待っていたかの様に風魔四姉妹美空(みく)美海(みか)がブリッジへと駆け込んでくる。

 

 「お待たせしました親方様」


 「・・・・・・ただいま」


 美空は非常に不服そうな表情のまま入り口側の壁にもたれかかり、美海は雨宮の側までやって来て報告を始めた。


 「現在月面都市マッサマンは、蝶・・・・・・蝶蝶型敵性生物及びその幼虫と思われる芋虫に似た生物によって蹂躙、壊滅に追い込まれつつ有ります。被害は辛うじて宇宙港周辺までで抑えられているようですが、冒険者及び軍の出動は非常に緩やかで、各地の防衛部隊や有志による防衛のみで、防衛線の瓦解は時間の問題です」


 「・・・・・・死亡の理由は」


 「喰われた」


 「何に」


 「「芋虫だ!」です」


 「マジか・・・・・・」


 「マジさ!おおマジだよ!あの芋虫、蝶蝶もだけど、ダンジョンに生息しているモンスターとは桁違いの強さだ。背中がバクって割れて、触手がびゃーって!」


 美空は擬音を多用し自分が如何に酷い目に遭ったか説明をするのだが、如何せん要領を得ず雨宮には何が言いたいのか測りかねている。


 「・・・・・・眷属クラスでも危険かも知れません」


 そんな報告を背にしつつ周辺の宙域を探っていたミンティリアは、お前等が弱いんじゃね?と思いつつ先程エリーの発見した巨大宇宙生物を仮呼称として(ハイヴ)とマーキングし、各艦へと監視の指示を出す。


 「依然巣には動きが有りません・・・・・・ん?角度が・・・・・・」


 「ミンちゃん何か有った?」


 「ちょっと待ってね・・・・・・九番艦映像を・・・・・・もうちょっと角度を・・・・・・」


 ミンティリアは九番艦フェトラの外部カメラの角度を操作させ、宇宙港の見えない部分、丁度反対側に当たる部分を少しだけ映す様に指示する。すると宇宙港の見えていなかった半分が、既に現在宇宙空間に止まっている巣と同じ様な物が取り付いているのが確認できた。


 「あー・・・・・・成る程ね、アレの中にその芋虫がいっぱい入ってるのかぁ、私虫嫌いなのよねー」


 「俺もあんまり好きじゃ無い、前は蜂、今度は蝶蝶か」


 「殺虫剤でも用意しておいた方が良いか」


 雨宮はげんなりした様子で椅子にもたれ掛かり、新しい指示を各艦へと飛ばす。


 「周辺の探査を密に、レーダーに引っかからない様なら目視で確認しろ、巣は全部潰せ。副砲ブラストモード、距離は詰めなくて良い。宇宙空間を飛んでくるとやっかいだ、効果範囲を優先しろ。機動部隊出撃待機、白兵部隊は移動倉庫内にて待機だ」


 「おっけー、各部門へ通達でーす・・・・・・」


 エリーは全艦へと指示を拡散、新庄は副砲の照準を現在確認できている巣へと向けつつ、レビルバンと連携しギリギリの距離まで接近する。


 「雨宮、殲滅可能範囲だ」


 「撃て!機動部隊はブラスト照射と同時に出撃、残存戦力を潰せ!」


 「発射するよー!カウントテン、九、八、七・・・・・・」


 銀河旅団十隻の戦艦は、それぞれ標的を定めエリーの合図を待つ。指示を受けた各艦のハッチが開き、艦載機に灯が灯る。


 「三・二・一。作戦開始」


 作戦開始のしの声が聞こえると同時に、各艦の副砲が火を噴き、巣を消滅させていく。それと同時に飛び出したNVDナノヴァリアブルデバイスは、互いをカバー出来る陣形を保ちつつ、マッサマン宇宙港へと近付き、マギアシリーズのうちラピス・ベリス・フェトラ、零番・四番・九番の三隻は機動部隊を露払いに、マッサマンの宇宙港へと針路を向けた。

工業都市マッサマン 人口百十億人 主産業 加工 観光


 太陽系連合に属する太陽系共和国の首都、主な構成人員は人種。


 旧教会王国の跡地を再利用し、巨大な城を大統領府に改造した地点を中心とし、円を描く様に外へと徐々に広がり大きくなっていった都市。中央に近ければ近い程地価が高騰し、逆に外へ行く程地価が下がる。これは商業地区などが比較的内側に存在する為に、近い程利便性を値段に上乗せされている事が原因の一つだが、高給取り及び権力者程大統領府に近い場所へと住みたがる傾向がある為、自然と棲み分けが進み、今の構図が出来上がった。

 マッサマンの地下には数え切れない程無数の採掘用地下坑道が張り巡らされ、ちょっとしたショックで大地震が起こり、地面が崩れ落ちる様な大災害が近年頻発している。これはマッサマンという都市だけで無く、月全体の強度が失われている為に惑星としての存在が希薄になっている証でもある。

 現在の月は既に球形を保って居らず、旧世紀に観測されていた事態でもある、徐々に月が太陽系から離れていく、と言った事態が既に加速度的に進行しているのだが、機械技術の発達により、辛うじて地球周回軌道上に止まっては居る物の、毎晩夜中の零時から午前五時までの五時間ほどは、惑星用超巨大ブースターを噴射し無ければならず、その五時間は完全に都市機能が麻痺するのだが、都市の全エネルギーをブースターへと使用する必要が有る為に、必要な負担としてマッサマンに住む者達にとっては日常の風景となっている。因みにこのブースターによる軌道修正が行われなくなると、三日と待たず月は太陽系から姿を消す事が既に軌道計算によって明らかになっており、莫大なエネルギーを垂れ流しにしているが、止める訳にもいかず共和国政府の財政を逼迫させる種となっているが、背に腹はかえられない。


 工業都市マッサマンには、冒険者ギルドの月圏本部があり、このギルドも又ダンジョンの防衛線として存在するが、このダンジョンは主に共和国軍によって抑えられ、ダンジョン内で発見された物は全て軍による検閲を受ける事になり、物によっては没収される事もあって冒険者ギルドの領分を侵犯していると頻繁に諍いが起こる。

こう言った横暴とも思える行動は全て、ブースターのエネルギーを絶やす事が出来ない・・・・・・と言う事を建前とし共和国政府に帰属する者達の懐に入っている。


 本来ならダンジョンから産出する魔石や魔力含有アイテムを使用する事で、停電などを起こす事無く軌道維持が出来る計算が有ったはずなのだが、欲に目が眩んだ者達の心ない行動によって、現在の月は常に綱渡り状態でその場に止まっている。

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