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EP77 トラックトレースドリーマー

今年中に百話行けるかな・・・・・・?



71~77迄のEPナンバーが間違っていたので修正しました。

 分厚いゴム風船が破裂するような乾いた音と共に、女の顔面が破裂し、部屋中に血しぶきと肉片が飛び散ったかと思った刹那、瞬時に何事も無かった事かの様に元に戻る。

 その様子を見ていた周りの眷属達は、雨宮が手を振り下ろす瞬間に頭を手で覆い、ウルテニウムの床に額を叩き付け回避を試みるが、音速に近い速度で飛び散った肉片は彼女達の制服をズタズタにし、背中を中心に鋭い痛みが奔ったのか、涙目になりながら急いで制服を再生し全員で雨宮に猛烈な蹴りを入れた。


 「ふぅ」


 「ふぅ・・・・・・じゃないょ!びっくりしたょ!」


 「うちらや無かったらエラい事になってたんよ!?」


 「気を付けて」


 蹴りを入れられた雨宮の手の中には、目を全開で見開いたエルドーラが、死を意識した瞬間のまま硬直していて、カタカタと小刻みに震えだした。


 「申し訳ございませんでしたぁー」


 特に何もしていない上に突然気絶して話の腰を真っ二つに折ったエルドーラだったのだが、その一因となったのは雨宮の電撃であり、彼女のユニークスキル夢魔法である。彼女の夢魔法は、かなり特殊な魔法であり、極めれば三千世界を征服出来るとまで言われているが、使いこなせなければ今の彼女のように逆に魔法に寄って突然意識を失う様な事が頻繁に起こり、自分の力では目を覚ます事が出来なくなる。


 雨宮は両手を彼女の頬に当てたまま、むにむにと柔らかい頬を掌で押し、起き上がらせてその顔を覗き込む。


 「ヤれんのか?オメやれんのか?」


 「た・たぶんだいじょうぶです~」


 此処に呼び寄せた目的は既に伝えてあるので、雨宮の言葉の意味を正しく理解しているのだが、如何せん自信が無く非常に返答が弱々しい。

本当に大丈夫かと思いながらも、二人の眠るベッドへ向き合うエルドーラは、イミルの頭部へと手をかざし魔法を行使する。


 「夢世界」


 二人の身体がベッドごと薄いピンク色の膜に包み込まれ、悪夢にうなされていた二人の表情が僅かに弛緩し安定した呼吸に戻った。


 「これは何をやっているんだ?」


 「夢の調律と言いますか、操作と言いますか」


 夢魔法の一つ、夢世界、これは他人の夢を世界に見立て、術者を神と仮定し自在にカスタマイズする事が出来る魔法・・・・・・なのだが、彼女はまだ其処まで自在に魔法を使う事が出来ず、夢の中で起こっている出来事を曲げたり捻ったりする事が出来るのだという。


 「曲げたり捻ったりって何だよ・・・・・・」


 雨宮としてはエーテルサーキットを傷付けず、内部に詰まった何かを取り除く術がこの夢魔法という物に有るのではないかと考えているのだが、肝心の術者の練度が低く

夢の中で起こっている出来事の進み方を少し変える事が出来る程度なのだという。スキルのレベルとしてはレベル三、意図せずに勝手に上がってしまったレベルであり、完全に彼女がスキルに振り回されている事を意味している。


 スキルは意識して使う事が重要で、保持しているスキルは魂と直結しており、そのスキルをコントロール出来ないと言う事は、自分の魂をコントロール出来ない、それは例えるなら、猫じゃらしを猫の前で振るのでは無く、猫じゃらしを持った手を起点に、自分が振り回されているような状況である。


 「お前自分のスキルちゃんと使え無いのな~・・・・・・」


 「すみません~寝ちゃうんです~」


 そう言いながら既にあくびをし、かなり眠たそうにしている事から、魔法が既に暴走状態に入り、術者を眠らせようとしているようだ。


 「今此処で練習するか・・・・・・」


 「えぇ~?」


 雨宮の言葉に反応はしているものの、既に半目の状態でこっくりこっくりと舟を漕いでいるエルドーラ、雨宮のスキャンによる情報では、みるみるうちにエルドーラの魔力が減り、これが昏睡になる原因かと改めて別の手段を考える事を決意させる。しかしそこで、エクスは魔法と言う事ならと、専門家を呼び寄せる事にした。


ーーーーーーーーーー


アト・レイギントー


 夢魔法とはユニークスキルであり、アトの記憶の中にある一つのコロニーを壊滅に追い込んだ忌避すべきスキルでもある。

その現場に彼女は居り、自らも最終的に眠りに落ち、ともすれば死んでいた事を容易に想像させる恐ろしい魔法であった。


 (・・・・・・良く今迄気付かれずにいたもんだね)


 エルドーラの事を彼女が気付かなかったのは、偏にこのマギア・ラピスという、動くアーティファクトとも呼べる魔導戦艦のせいである。個々の情報については権限の許す限りは知る事が出来るが、その中でも特殊な位置づけにされているのが、無職の人間と睡眠中の人間である。この二種の状態は干渉不可とされており、銀河旅団では無職で有る事は雨宮の監視対象で有る事を示しており、雨宮以外のクルーがナノマシンを使って干渉する事は禁止されている。そして睡眠中の人間に関しては、単純に雨宮が睡眠を邪魔されると不機嫌になり、結果的に仕事が滞る事も有り、それを避ける意味合いもあって、寝ている人間を起こさない、と言う文化がラピスに芽生え始めたのだった。 


 (エルドーラだったか・・・・・・まさかね・・・・・・)


 アトは過去に自分を巻き込んだ男の事を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情になり、頭を振って考えを振り払うと、エクスから呼び出された医療スペースの病室へと足を向けた。


ーーーーーーーーーー


 「で、あたしが呼ばれた訳だ」


 「何とかなるかね?」


 魔法のエキスパートと言えば、元アンダーグラウンド最強と言われていた傭兵であり、テロ組織世界の終焉と共に、雨宮の巻き添えで監獄へと入れられた過去を持つアト・レイギントーである。彼女は常日頃から太陽系中の魔導書を買い漁り、又彼女のアジトが有った木星圏のコロニーから、どのような手段を使ったのかわからないがラピスまで持ってきたという。彼女の知識は常識の範囲を逸脱していると言うのは、魔法使いとして成らしてきたミンティリアやイファリスなどの熟練者達、正道を行く者達だが裏の道を行くエクスやティオレ等は禁じられた魔法を求め、そう言った情報を集める事も良く有る事としれっと言ってのける。


 「夢魔法ねぇ、サキュバスでも居れば何とか出来るかも知れないけどねぇ夢魔法自体をどうこうする事が出来るのは、スキル保有者か、サキュバス種だけだと思うんだけど・・・・・・」


 (サキュバスか・・・・・・残念だがここ(ラピス)には居ないな)


 「旦那が再構成したらどうなるんだい?魔法を使わなくても何とかなりそうじゃないかい?」


 「う~ん・・・・・・出来ない事は無い、恐らくエーテルサーキットに詰まっているのはΩウィルスによって変化した何かだからな、今俺達に感染していない事を考えても、外部に漏れる事も無いんだろうし、下手に触らなければこの二人の中だけで収まるだろう。だがその後はどうなる?流石に死ぬまで待つのはなぁ」


 アトは考え、一つの案を雨宮に提案する。


 「夢、と言う概念があるね?」


 アトは雨宮を見上げ、共通認識を改めて確認する。雨宮は何か言いたそうだが必要な事だと制止され、再び聞く姿勢に入った。


 「旦那はそれをきちんと把握した事は有るかい?」


 寝ている時にこれは夢だと、そう思うような事は有るが、外から眠っている人を見て夢を見ていると断言する事は出来ない。それを確認する方法が無いからだ。前世の世界で脳波を確認し夢を見ているであろうと言う波形を確認する事は出来るが、夢を見ると言う事は飽く迄主観で有り、例え状況がそうだと周りが確認したとしても事実では無い事も又ありうる事なのだ。

 しかし脳内で再生されている映像を外に取り出す事は、第三世界の技術では可能なのだという。夢は脳の中だけで完結しているものでは無い、そう主張する科学者も多く、脳内だけで完結させるには夢というものの情報量は多すぎ、又脳内に存在していないはずの情報が夢として出てくる事も様々な検証の結果確認されている。


 雨宮はその夢について、昔から心当たりがあった。


 「予知夢とかそう言う奴か」


 「うむ、夢を夢だと認識し、それを俯瞰出来る者は決して多くない、そして多くの場合夢を見たとしてもそれを覚えているものは殆どいない。夢魔法って言うのは恐らく、その脳内に存在しない情報の流れてくる所に干渉する能力なのだと私は思う」


 「難しいな」


 「つまりその情報の流れを追えば、夢の中に侵入出来るんじゃないかい?」


 「情報か・・・・・・」


 (そうか・・・・・・いやしかし・・・・・・)


 雨宮は人間そのものを完全に分解し、肉体を構成する要素と、精神生命体に分離させる事が出来る。そしてその精神生命体をコピーしサーバー、所謂量子コンピューターに保存する事で、死んだクルー達を蘇生では無く、復活させる事が出来る。その過程で僅かに精神生命体の情報がロスしてしまう事がある、このロスした情報について雨宮は特に疑問を持っていなかった、なぜなら復活させた人間はそのロスした情報について気付く事も無く、何かを欠落したというような症状も一切出ないからだ。

しかしこのロスした情報は一体何処へ行ってしまうのか、今それを確認するべきだとアトは雨宮に進言したのだ。雨宮が今現在追えていない情報、意図的に追っていないのでは無く、追えなかった情報、アトはそれが夢の中に通じているのでは無いかと仮定し、確認を促した。


 「旦那、そのロスする情報はどの位のものなんだい?」


 「うーん、データ量としてわかりやすく言うなら、一キロバイト位かな?」


 「ほー・・・・・・ふーむ・・・・・・」


 結構な量だと言いながら頭を捻り、何かと結びつけようとしているアトだったが、何か情報が足りないらしく、答えに辿り着けないで居た。


 「夢魔法を使う瞬間をスキャンしてみたらわかるか・・・・・・あ・・・・・・」


 雨宮はふとティオレ因子を発見したときのことを思い出した。あの時は一度ティオレを完全に分解し、全ての構成因子をマギアシリーズの演算能力を駆使して確認し、スキルというものに関わる因子を発見した、それと同じ事が出来るのでは無いかと雨宮は気付く。


 「分解するか」


 雨宮はそう言ってエルドーラの肩を叩く。


 「えっ?」


 和やかに彼女を見つめ、ひょいっと小脇に抱えると、無抵抗なままの彼女を連れ全員で雨宮専用の研究室へと向かう。


 「え?え~?」


ーーーーーーーーーー


マギア・ラピス 雨宮専用研究室


 研究室の内部には大きめの寝台と、寝台の周りには物々しい研究用の端末が所狭しと設置され広い空間の大半を埋めている。機器の大半は壁に埋め込まれているようで、その先が何処に繋がっているのかは雨宮にしか分からない。


 「え~?」


 運ばれている間に眠たくなったのか、瞼を擦りながらエルドーラは雨宮の小脇に抱えられたままであくびを一つし、一体何が行われている場所なのかと精一杯の感情で恐怖を伝えるのだが、雨宮は意に介さずエルドーラを寝台に寝転がし、寝台から少し離れると、雨宮が到着する前からこの室内に待機していた、双子猫の片割れミリュ・トートエル、そしてアーニー・キャッシュマンの二人は慣れた手つきでカプセル状に展開する寝台を操作し、既に寝息を立てているエルドーラの完全スキャンを開始する。


 「こんな設備があったのかぁ・・・・・・」


 一緒に付いてきたロペは初めて踏み込んだ雨宮の研究室の内部をキョロキョロと観察し、自らの与り知らない施設に興味津々の様だ。


 「銀河、ロペを連れてきても良かったの?」


 「えぇ!何それ酷い!」


 雨宮はロペの事を信用していない訳では無いのだが、ロペの行動が余りにも不審すぎる為に姉妹であるアーニーですら警戒し、雨宮に注意を促してしまう。

実際何度か雨宮の精神に侵入を試みたり、雨宮の研究物を漁っていた事も確認されており、その行動は不審の一言なのだが、その行動を起こさせたのは他ならぬ雨宮のロペに対する接し方の甘さによるものだった。雨宮本人も既に認めており、名実共に夫婦となっているのだが、雨宮自身の経験の無さから来る無関心がロペの不安を煽り、他の眷属達と同じ扱いを受けている事が、それに拍車を掛け感情が爆発するような状況で彼女を奇行に走らせていた。


 しかし今のロペは前世における全ての記憶を取り戻しており、精神状態が安定し雨宮は元々そう言う人間だと言う事を思い出している為に、以前のような不審がられる行動をしない代わりに、誰にも不審がられない完璧行動を表では行っている・・・・・・と本人は思っている。それは裏で雨宮の行動をサポートする為に、色々やっているだけなのだが、雨宮に一番近い眷属達からは何をやっているのか分からないという風に映り、不信感が拭えない状況になっていた。


 「いや~ロペってさぁ、俺の作った設備もそうだけど、プログラムとかも色々勝手に弄るじゃん?」


 ロペはそんな事あったっけ?と小首を傾げているが、直ぐにそれを思い出しぽんっと掌を叩いた。


 「ロボットクリエイターの事かぁ」


 「それだけじゃ無いぞ」


 以前雨宮が諜報員を送り出した際に渡した秘密道具のプログラムの中に、技術漏洩を防ぐ為の自爆装置を組み込んでいたのだが、ロペがそれを勝手に解除し別のプログラムを組み込み、手直しをすると言う事があった。しかもそのプログラムは雨宮が一度ナノマシンで完全に分解し作り直す事でしか解除出来ず、非常に手間が掛かった事を雨宮はずっと覚えており、これはロペの本質的な手癖の悪さなのだと、そう考えるに至り、彼女から機械類を遠ざけていたのが事の真相である。


 そして当時記憶の戻っていないロペが、諜報部隊用のアイテムに組み込んだ謎のプログラム、これはどこか雨宮の知らない場所に内部のデータを転送するプログラムだった。流石にこれは見逃せないと、雨宮はそれが発覚してから直ぐに全てのアイテムを再度作り直し、ロペの注意を引きつけている間に諜報部隊へと配布し、ロペが触る前に部隊を出立させたのだ。


 ウルトラロボットクリエイターのバグも、雨宮が意図していたものでは全く無く、ロペが前述のプログラムを仕込んだ事で、デバッグをしていた雨宮がプログラムを記録媒体ごと分解し、再度慌てて作り直した事で起こってしまった不慮の事故であった。


 「お前は誰かに操られているんだぞ?しっかりしてくれよ?」


 「うぇ!?銀河きゅん直してよ!」


 本人もびっくりな事実を突如雨宮から告げられ、翌々考えればおかしな事が有ったと表情をくるくる変え、涙目になりながら雨宮に縋り付き、必死に謝罪をするが雨宮は特に気にした様子は無く、雨宮としてはソコから敵対する者が釣れるのでは無いかと、期待して放置していたのだ。


 下手をすればこの会話も全て聞かれているかも知れないと思ったロペは、何を考えたのかナノマシンに自分の全てをスキャンさせてみるのだが、おかしな結果は検出されず、途方に暮れていた。


 「それを検出する為のこの装置、マナトラッカー!」


 「銀河様、まだ試験段階の物ですがよろしいのですか?」


 スッと雨宮の横に現れたミリュは、雨宮の横に来ると頭を撫でられる事を知って、目を細めながら雨宮の考えを聞こうと尻尾がゆらゆらと機嫌良さそうに動いている。


 「丁度良いと思ってさ、エルドーラで試してみて、問題無さそうだったらロペにも入って貰おうかなってさ」


 「銀河きゅん私って大事にされてる・・・・・・る?」


 以前開発段階の試運転で使用された時は、ティオレがその被験者となり問題なくダークエルフという種族のあらゆる因子を特定し、副産物として彼女の精神生命体に紐付いたユニークスキルの因子をも特定するに至った。そのデータをコピーしたものがBM(バトルマリエ)に組み込まれているティオレ因子である。

それ以外に、ロペの妹パメラもこの装置の実験台になっているのだが、その時はウルティマンこと光の戦士とは何ぞやと言う問題も解決するに至っている。


 いきなり実験台にされないだけでちょっと安心するロペだったのだが、依然ロペは理屈のわからないものを使う事に拒否感を示し、その表情は不安でいっぱいになっている。次は私が・・・・・・とマナトラッカーの中で光の粒子にまで分解されているエルドーラが、ゆっくりと元の姿に戻っていく様を張り付いて見ている。


 「そもそもこれってどういう理屈で動いているの?」


 ロペの不安も当然だと雨宮は詳しい説明をロペに話してみるのだが、ロペの知る情報ではその謎が解ける事は無く、雨宮も特に教えるのが得意では無い為上手く伝えられていないのでは無いかと首を傾げている。するとアーニーはそんな雨宮を見かねて要約する。


 「この装置は、銀河の精神生命体をリソースとして組み込んでいてね、Δエナジーを利用する事が出来る用になっていて、存在を完全に分解、再構成出来るようになっているのよ」


 「え・・・・・・それって」


 「マナと、Δエナジーの段階まで分解出来るのよ、このカプセルの中だけならね。このカプセルはマナを世界に返さない為の保護フィールドが拡散しないように抑えているだけなのよね」


 「え・え~?そんな事出来るの?」


 「銀河のリソースとΔエナジーが有ればね」


 存在が完全にカプセルの中にある事が確定したのなら、その中に有る物を探す事は比較的容易に出来、銀河旅団の技術者の変態技術、研究者の変態頭脳を併せた時、世界の一部を解き明かす事に成功するのだった。


 「人間の存在そのものを確定している因子・・・・・・?」


 「其処まではまだ確定出来ていないんだけどな、だが絞り込みは出来ている」


 夢魔法を司る彼女の因子を特定し、解析する事でその因子を組み込んだあらゆる装置を作る事が出来る。銀河旅団の科学力は、雨宮の外部記憶装置とも呼べる異空間に作った超特大ナノマシンサーバーの演算能力を使う事で、第三世界でも比類無き物に成っていて、眷属達の創造力の許す限り高みを目指す事が出来る。


 その成果として今此処にあるようなマナトラッカーや、ウルトラロボットクリエイターが有り、NVDナノヴァリアブルデバイスもこれから先更に進化していく。


 「むー・・・・・・危なくない?」


 「まぁ、危険だろうな、だがその位のリスクは想定内だ、死して尚、手に入るのが情報なり!」


 「死ぬのが前提なのやめよぅ!?」


 「だがまぁ」


 今やるべき事は、夢魔法の因子を特定しコントロールする事で有り、ロペを操っている者を突き止める事では無い。ハッキリ言えばそんな事何時でも出来るのである。

常日頃からロペには誰かしら監視が付いており、サーバーを経由する行動は常にリファンリア、サーバー娘が管理している為外部へ出る情報は無い。


 「銀河様、夢魔法因子の特定に成功しました、やはりスキル因子はティオレ因子と同様に、デ・・・・・・ナノマシンを利用する事で組み込み、使用する事が可能です」


 仕事が早いなと、ミリュの頭をくりっと撫で、端末と言うには大掛かりな装置のモニターに出力された、夢魔法因子の使用可能性の行く先を考え、創造力を膨らませ、ついニヤニヤとあれもこれもと想像してしまう雨宮だったが、はたと今の目的を改めて思い出し、直ぐに夢魔法因子を使い、一つのアイテムを造り出した。


 「どりーむだいば~・・・・・・」


 「「「「「・・・・・・」」」」」」


 (誰か何か言ってくれよ・・・・・・)


 何故かポケットから取り出したように見せかけ、高く掲げたその手には、ヘッドセットのような物が握られていて、雨宮が何かのネタを披露したのであろう事を考えている周りの皆は、ネタ元が異世界の物である事も理解できない為に、フォローする言葉を探し無言になってしまう。


 「で、それは?」


 「う・うむ、脳内で可視化されている夢の中に侵入する為のアイテムだ」


 「成る程、余所でやっていたみたいに映像化するだけじゃ無くて、其処に夢魔法因子で改変を加えるって事だね」


 第三世界で夢と思われる映像が取り出されたのはつい最近の事だという話だが、その映像はお世辞にも何が映っているかの判断は難しい物で、様々な解析器に掛けて漸く夢で見ている映像では無いのかと言われている、微妙な物であったらしい。だが雨宮のそれは映像を取り出す事に余り意味を見いだせなかった雨宮が、見る為に出すのでは無く、見に行くと言うアグレッシブさを形にした物であった。


 ヘッドセットの様な物を掲げ、皆の反応に戸惑う雨宮の後ろから、ミリュが顔を出しそれを観察すると、依然雨宮がわざわざ単独行動をしてまで購入に向かったVRシステムだと言う事が判明し、それを指摘された時雨宮は肯定し結局一度も使っていないが、同じ物をコピーする事は出来るし(違法)、その気になれば銀河旅団でもっと高性能な物を作る事が出来ると言う事もあり、余り気にしていない様だ。


 「これで夢の中にダイヴだぜ!」


 「どういうテンションなのぉ?」


 意味も無く上げていくスタイルの雨宮を見つつも、ロペはやはりマナトラッカーが気になるようで、既に再構成されてカプセルの中で眠っているエルドーラのどかに異常が無いかを必死に確認している。


 「そんなに必死にスキャンしなくっても大丈夫だって、寧ろロペがスキャンするより、こっちで確認した方が詳細に分かるからね?」


 「なんか気になるんだよぅ」


 ロペが気になっていると言うより、ロペの先に居る何者かが気になっているせいで影響を大きく受けてしまっているのだろう、今にも端末を解体してしまいそうになっているが、ロペから吸い上げられる情報は今此処で知った事しか送信出来ないのだろう、足は通信室へと向かおうとしているが、上半身はマナトラッカーにかぶり付いているというちぐはぐな状態になっている。


 「身体が勝手に動くぅ!」


 足に釣られて部屋を出ないように必死にマナトラッカーのカプセルにしがみ付き、今までにない悲壮感に包まれているロペを見かねたアーニーがロペをしっかりと掴み、マナトラッカーのカプセルを開き、エルドーラとロペを入れ替えた。


 「これで何か掴めると良いですね」


 ミリュは計器類を確認しカプセルが完全に密閉された事を確認すると、コマンドを入力しマナトラッカーを起動した。


 光の粒子になったロペの身体、マナの塊とも呼べる粒子から本来有るべきではない別の物が飛び出し、必死にカプセルの中を動き回っている。

モニターに映し出された情報を確認しつつアーニーは、ロペの存在を確実に保護するべく、ロペの中から切り離された何かを確保、元の存在に再構成を開始した。


 「上手くいきそうだな」


 「うん、銀河、ロペを怒らないであげてね」


 「寧ろ怒られるのは俺の方だろうに、放置していたのは俺だからな」


 雨宮に意図があったとは言え、アーニーやここには居ないエストも又ロペの状態を把握しており、気付かれないようにそれとなくロペを避けていた事もあって、後ろめたさもあるようだ。


 「これからはもっと・・・・・・優しくしてあげて欲しいな・・・・・・夫婦なんだから」


 元々形にこだわる事の無い雨宮だが、家族や夫婦の在り方という物を思い出し、ふと、遠い遠い何時かの時間の誰かの記憶が通り過ぎていく。


 (緑、緑、緑)


 しかし今の雨宮の中に心当たりは無く、その想いではサーバーの片隅へと消えた。


 


エルドーラ・リー・コーン 三十一歳 フェモン 元隔離病棟患者


 フェアリー種の父とデーモン種の母との間に生まれたハーフ、母はデーモン種の中でも絶滅危惧種とされているサキュバス種であり、彼女も又その特殊な力を受け継ぎ、サキュバス種のユニークスキルの一つ、夢魔法をその身に宿し産まれ落ちる。


 両親ともに魔法の才能が無く、生まれ落ちたエルドーラの魔法の才能を育て、義務教育へと彼女を進ませる事が出来ず、彼女をとあるコロニーのゴミ箱へと投棄した。

しかし、このことを彼女の母は聞かされていなかった為、心を壊して発狂し夫を殺害した。


 捨てられた彼女を偶然コロニーの襲撃計画に参加していた、アト・レイギントーによって拾われ、冒険者ギルドへと預けられるはずだったが、襲撃の際アトのクライアントであった男から暴力を受け、防衛の為に夢魔法が暴走、アトを除く全ての生物が眠りの世界へと落ち、コロニーは壊滅した。


 その後魔力コントロールを最低限アトから叩き込まれ、アトは彼女を冒険者ギルドへと預けたが、冒険者ギルドは彼女の保護を放棄、暴走障害隔離施設へとエルドーラを押し込み、無かった事にした。


 彼女のスキル暴走は彼女が眠っている時に常に起こっており、彼女の収容されていた病院は常に危険に晒されていると自治体へと通報、幼くしてヘルフレム隔離施設へと収容され、ヘルフレム爆破にし際しアトが偶然火風に連れ出される時に発見、非常に大きく育った彼女を引き摺るようにして脱出、事なきを得た。


 現在も彼女は基本的に眠っており、ナノマシンにより体調管理はされているものの眷属化はして居らず、雨宮も夢魔法が必要になるまで彼女の存在をリストでしか知らず、特に重要視していなかった。

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