EP75 点と線を繋ぐ門、そして
秋深し 貴方は何を 食う人ぞ?
助けた子供を先頭に、雨宮達一行はダンジョンの入り口、改札口へと戻ってきた。
相変わらず人の行き来は多く、子供が人波に掠われて行かないように、雨宮は襟首を掴み肩へとひょいっと乗せる。
「ふぉおおおおおお!」
身長三メートルの肩の上は非常に見通しが良く、まるでアトラクションを楽しむように周りを見渡し、周囲の視線を独り占めにしていた。
「そんなに楽しいもんか?」
「感動です!」
素直な子供の意見は非常に通りが良く、雨宮の心にも素直に響く。
「ほれ、IDをかざせ」
「ほい!」
テンションの上がりに上がった子供と雨宮のコンビは、周囲の冒険者にも癒やしになったのかロビーに辿り着く頃には、多くの視線を集めていた・・・・・・のだが、ロビーに入った後には冒険者達の視線はその後ろのティオレが引き摺る、受付嬢へと注がれていた。
「そろそろ目を覚まさないものか」
「昏倒してるんとちゃうのん?」
「その可能性もあるかも知れないねぇ」
雨宮達一行が進む先は冒険者達が何故か道を空け、ダンジョンへと侵入する際に訪れたカウンターへとそのまま向かうと、当然のように其処には別の受付嬢がいる。
「お帰りなさいませー・・・・・・!?」
雨宮の肩の上に乗った子供と、その後ろに引き摺られる二人を見た二つの大きなお団子を頭に付けた受付嬢は、笑顔で雨宮を迎え、驚愕に目を見開き、混乱し、一行を見渡し何が起こったのかを考えているようだ。
「あの・・・・・・?その人、ウチのせんぱ・・・・・・あ、ディオラですよね?もう一方は・・・・・・?」
「門を開く者、です」
受付嬢は頭の上から振ってくる声に気付き、首を一杯に後ろへと倒し、子供の方を見る。
「門をって、あの、四人パーティーでしたよね?」
「・・・・・・二人死にました、私達は助けて貰いました」
「規約に一応遺品はギルドに届けるようにとあったから、持ってきたぞ」
雨宮は位相空間から、バックパックや武具などを取り出し、カウンターへと並べる。
「・・・・・・ギルドIDは有りますか?」
子供が二人の遺体からIDを回収しているのを確認していた雨宮は、背中をトントンと叩き、提出を促した。
実は子供が見ていないうちに、エクスとヒューニが遺体を回収しているのだが、雨宮は子供の前で出してやる事も無いかと、ナノマシンを使い受付嬢に向かって通信を送り何時何処で引き渡すかを打ち合わせた。
「二人分・・・・・・」
「はい、・・・・・・はい。確かにお預かりいたしました、ご遺族の方には私共から確かに遺品をお届けさせて頂きます。この度は誠にご愁傷様でございました。」
混乱していた顔から一転真面目に口を引き絞り、周囲の冒険者やカウンターの奥に居る職員達も此方へと一斉に頭を下げ、冥福を祈っているようだった。
(寝てる奴起こしておけば良かったな・・・・・・タイミング逃した)
「ありがとう・・・・・・お願いします」
雨宮の頭の上に精霊が乗っているのだが、雨宮と精霊の二人の頭に大粒の涙がこぼれ、ぎゅっと髪が握られる。
「ごめ・・・なさ・・・・」
「良いから泣いてやれ」
「そうさ、祈りは世界に届くよ」
(神も側に居るしな)
子供の泣き声は、年頃の大人にはよく響き、雨宮も子供の祈りが届くと良いなと、目頭が熱くなっているのか、鼻をすすり上げる。
(年を取ると涙腺が緩くなっていけねぇわ)
ーーーーーーーーーー
ホビット種や、フェアリー種、ドワーフ種の事も有り、雨宮の肩の上で眠ってしまった子を雨宮は子供と呼んでいたが、本当に子供だった。
彼女はエルフェンと呼ばれる、エルフを主とするフェアリーとのハーフであり、同じ年頃の子供達と比べ体格は良いが、種族的にも然程大きくなる種では無い。
身長は百三十はあるだろうか、雨宮の肩に乗ったことで、雨宮にだけではあるが体重も把握されている。子供にしては異常に筋肉質であり、尋常な鍛え方ではこうはいかない。中堅所とは言え子供がパーティの一翼を担うなど、並の力では到底不可能な領域だ。だがこの子供はそれを成し遂げ、最後の最後も生き残った。
気を失ったままの受付嬢を連れたまま、雨宮達は再びギルドマスターの執務室へと招き入れられていた。
「随分と長く探索なされていたのですね」
始めてダンジョンに入る冒険者は、大概レベルがゼロから一に上がった時に、肉体を強制的に急成長させ、不調をもたらす。それによって酷い者は動けなくなり撤退を余儀なくされる、そういったことがある為基本的にギルドはソロでの冒険を推奨しない。しかし今回は元々レベル持ちの存在が居た事もあり、そう言った心配はしていなかったが、それでも初めてダンジョンに挑戦する者達の冒険時間は、大体二時間から三時間程で、三階層へと地図を持って進めばモンスターを一匹探して倒し、フラフラになって帰ってくる。その位が限界だという一般的な考えの元に、多少の心配があった。
彼にとって雨宮は、既に超の付く重要人物で在り、うっかり死なせてしまいましたでは済まされない、そんな自己保身とも思える焦りもあった。
「色々あったからなぁ、中々濃い冒険だったぜ・・・・・・」
「その・・・・・・」
ジョンは床に転がされているディオラを見て、どういう風に聞けば波風を立てずに済むかと考えている。
「この人か・・・・・・なんか起きないんだ」
ディオラに対するざっくりとした説明を聞き、ジョンは雨宮が面倒になったのかも知れないと、貴族達とのやりとりの経験を元にそう推測する。
「門を開く者は、中層辺りのモンスターでも早々負ける程の力でも無かったはずですが、一体何が・・・・・・」
雨宮はエクスへと説明を促し、事の詳細をジョンへと説明する。
「サプライズボスに、レアボス・・・・・・彼女等の運が悪かった事もそうですが、良くあなた方だけでそんな大物を二匹も・・・・・・」
「正確にはエマ一人だけで倒したんだけどな、結局俺達は何もしていないんだわ」
「なんと・・・・・・!」
「まぁ、うちらはそんなもんって事なんよ」
エクスがひらひらと手を振り、其処は重要じゃ無いと話の続きを促す。
「ディオラ君は偶然こうなったと・・・・・・」
「偶然って言うか・・・・・・動きが怪しかったもんでつい・・・・・・」
「ま、まぁ生存が優先でしたからなぁ、傍から見ればそう見えてもおかしくは無いですなぁ」
ジョンは椅子に座ったまま少し身を乗り出し、眠っているディオラを確認してみるが、触る訳にも行かず秘書の女性へと視線をやる。
秘書はディオラの首筋に手を当て、外傷がないか確認をする。
(あっ、後頭部治すの忘れてる)
彼女はゆっくりと後頭部辺りを擦ると、何かに気付いたが雨宮の方をちらと見、気付かないふりをした。
「特に問題は無さそうですが・・・・・・」
(良し、ナノマシン今だ)
雨宮が合図を出したと同時に、ディオラは意識を取り戻し勢いよく起き上がると、秘書が外傷を確認していた時に少し動かしてしまったのか、頭の位置がテーブルの少し下へと動いていたようで、彼女は強かに角の取れた加工をしていないテーブルの角へと、額を打ち付けた。
「~~~~~~!!!」
彼女は額から軽く血を流し、涙目になりながら辺りを見渡すが、見覚えのある顔ばかりで逆に混乱している。
「こ・ここは!?」
「おお、起きたかねディオラ君、支部長室だ」
「えぇっ!?」
いつの間に戻ってきたのかと額を押さえたままで首を傾げ、涙を拭ってから立ち上がると、何かを思い出したようでジョンへと向かい早口に捲し立てた。
「ヘルプコールがあったので確認に向かったのですが、途中で頭をやられて仕舞ったみたいで・・・・・・!?」
(気付いたか)
ディオラは後頭部へと手をやると、不穏な手触りに血の気が引き、そのまま後頭部から手を離さなくなった。
両手で額と後頭部を押さえたままという非常に妙な格好だが、うるうると瞳に涙を溜めたまま、サプライズボスが現れた事を報告した。
「ああ、その事だったのか、その件はもう終わったとの事だから・・・・・・君は医療室へ向かいなさい」
「はぃ・・・・・・」
ディオラは後頭部へ手を当てたまま出て行った。
「ふむ・・・・・・しかし今迄そんな事はこの周辺で起こったりはしなかったのですがなぁ」
「まぁ、原因となる事は特定出来ないが、早々起こらないというのなら何か理由が・・・・・・」
(今まで無くて、今回有る事、そんなの俺達が来た以外に何か有るのかね?)
「まぁまぁ、判らない事を無理に特定しようとせずともよろしいでは無いですか、それより、今回の収穫は如何でしたかな?そこそこ長い時間潜って要らしたようですし」
広く長いダンジョンは、やはり移動に時間が掛かる。しかし、雨宮達が走って行けば、今回掛かった時間の三分の一位の移動時間になるのだろうが、引き摺っている者も有ったり、特に急いでいなかったりで、何だかんだ一日の残りは四半日、既に夕暮れ時を過ぎており、冒険者ギルドの受付も報告のラッシュを迎えている。
「そう言えば、今回の収穫は如何でしたかな?」
話が一段落した所でギルドマスターは、今回の冒険の成果を確認するが、結局の所、道中まともにモンスターと出合わず、五階層では異世界から飛来したキメラディード、十層では再び異世界から送り込まれたアルファタウロス、どちらもこの世界の冒険者ギルドに提出するには、危険性を拭えず、雨宮は如何した物かと首を捻り、結局お茶を濁す事にした。
「殆どモンスターが襲ってこなくてなぁ、ボスも逃がしてしまったし、まともな収穫は殆ど無いなぁ」
「ボスが逃げる!?」
「ああ、異世界から来たようだったが逃げてしまったな」
正確には無理矢理送り返したのだが、もう戻ってくる事も無いだろうと、アルファタウロスの事は置いておき、少女にキメラディードと呼ばれるモンスターは、雨宮の位相空間で分解を試みた所、普通に分解が出来、構成要素として人間と全く同じ物が確認された。つまり姿形は全く違うがアレは人間の変形で有る事が確認出来た。そして、三つの部位に分かれている事も考え、少なくとも三人はモンスターの生け贄になっている。
全てを話してしまっても、もしかしたら問題にならないかも知れないと、雨宮は軽く考えてはみた物の、その考えを直ぐに消し去り、事の顛末を胸の奥に終う。
ギルドマスター個人が信頼に値する人であったとしても、彼も組織の人間だ、上に居る者まで情報は上っていくだろう。
グレン・カリバーン元天王星方面軍艦隊総司令、こいつが今の冒険者ギルドの実権を握っているのだという情報が、ウチの新しくできた諜報部の人間から送られてきている。こいつは過去にロペからの救援に応えなかった人間の一人、制裁の対象でもある。居場所がまだ特定出来ていないようだが、それも時間の問題だろう。
一方的とは言え雨宮自身も敵対者として認識している存在であるが為に、少しの情報も与えたくない、そんな気持ちが雨宮の中にあった。
「今迄にそんな事は一度もありませんでしたがなぁ」
「まぁ、実際にあったんだからそう報告したまでだ、信じようと信じまいと好きにすると良いよ」
「左様でございますか・・・・・・」
詳しく話し始めれば、異世界の現状に付いてまで話す必要も出てくる為、これ以上のお話は必要ないと考えた雨宮は立ち上がり、ギルドマスターに背を向ける。
「報告はそんなもんだ、そろそろ帰るよ」
「お・お待ちください、あの子は如何なさるのですかな?」
「あの子・・・・・・あぁ、あの子供の事か、ウチで引き取ろう、同じ年頃の子供も居ない事は無いからな」
(肉体年齢的な話だが・・・・・・)
「そうでしたか!それは良かった・・・・・・では、手続きが御座いますので、もう少しだけお待ち頂けますかな?流石に下の受付では手狭でしょう」
狭かろうと広かろうと問題は無いのだが、何故か雨宮を引き留めようとするギルドマスターに首を傾げるのは、ティオレにエクス、ヒューニは子供達と一緒にロビーのカフェで待たせてある。
「なんや慌ててはるなぁ?ここに居らなアカン事有るん?」
「いえいえ!とんでもない、ああ・この書類にサインを・・・・・・」
「ロペ」
「は~ぃよっ」
ロペは一瞬で細かい文字がびっしりと書き込まれた端末の画面を把握し、ギルドマスターを睨み付けた。据わった瞳の先にギルドマスターの焦った顔があるのだが、ロペはその書類に不備があると、突き返した。
「こんな物にサインは出来ない」
いつもの様子からがらりと変わったロペの冷淡な声に、秘書共々冷や汗を掻く。
「な・何かおかしな事でも・・・・・・」
「?」
雨宮はギルドマスターの手から端末を奪い、データを確認すると、月共和国の冒険者ギルドだけに適応されるであろう、謎の条件がつらつらと並べられており、雨宮の目はその条件の一つで止まる。
ーーーーーーーーーー
ーギルドの育てた子供の買い取りについて
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「此処は奴隷売買もやっているのか」
雨宮は気になった部分を指で指し、ギルドマスターへと突き付ける。
「めめめ滅相も御座いません!!!子供達の養育費を回収する為にですね・・・・・・」
「彼女がそれを返済していないとは思えないのだが?」
門を開く者として数年とは言え活躍していた子供、そんな彼女がたった数年の養育費を返済出来ない訳が無い、と新庄の目の色が変わり、旧知の仲であったはずのギルドマスターは狼狽え、次第に手元が忙しなく意味も無く動き始める。相当なストレスを感じているようだ。
「それだけじゃ無い、なんだこの子供からの報告義務とは」
「それは、健康状態を考えてですね・・・・・・その、引取先で酷い目に遭う子供も居ますので・・・・・・」
取り繕うように真面な事を言い出したギルドマスターだったが、ロペはそれを否定する。
「他のギルドではそんな事は無いんだけどねぇ?そんな引き取り手にそもそも子供を引き渡したりしないし」
ロペの感情がヒートアップしてきそうな予感のした雨宮は、今一度ソファーへと腰掛け、問いかける。
「監視か?」
「あ、いえその・・・・・・」
「誰に報告する」
一応ギルドマスターなのだな、と、口を割らないギルドマスターを冷ややかな目で見る雨宮の視界に、ふとその後ろに立つ秘書の女の表情が変わったのが映り、雨宮はナノマシンを秘書へと浸食させる。
「あがっ!?」
突如悲観とも絶望とも取れない苦悶の表情を表に出し、限界まで口を開いた秘書は、白目をむいて大きくブリッジをする形で後ろへと倒れた。
「!?」
「雨宮?」
「敵対行動・・・・・・だな」
雨宮はギルドマスターを攻撃しそうになった秘書へとナノマシンを強制浸透させ、意識を刈り取った。
「私は!」
「あんたがそいつに監視されていたんじゃ無いのか?」
「・・・・・・そうです。私は・・・・・・もう二十年近くになりますか、その頃から彼女は私を監視して居ます」
過去を語り出しそうなギルドマスターを制し、必要無いと伝えると、突然の事に如何したものかと、新庄へと縋るような視線を向ける。
「引退はそれ関係に原因があるのか、まぁそれは良いとして、雨宮、この部屋のスキャンは出来るか?」
「もうやってる、盗聴器、カメラ、発信器、モーションキャプチャー、色んな物が仕掛けてあるな」
雨宮は発見次第情報が漏れるような物を全て分解し、部屋を完全にナノマシンで掌握、外界からシャットアウトした。
「もう問題ない、話したいなら聞いてやるぞ」
「ど・どういう事ですかな!?」
「監視機器の類いは全て破壊した、この部屋も完全に隔離してある」
ギルドマスターは唖然と大口を開け、キョロキョロと既に消え去った機器類を探して視線を彷徨わせている。
「・・・・・・グレン・カリバーンだ」
名を聞いた途端記憶を取り戻し、ほぼ全てを取り戻した筈のロペの瞳が細く鋭く切れていく。
(記憶を取り戻したとは言え、復習をやめるなんて事は無いって事か・・・・・・)
グレン・カリバーンは元天王星方面軍艦隊総司令であり、神域陥落当時の太陽系連合軍最高幹部の一人、そして銀河旅団眷属ショウコ・カリバーンの父親である。
諜報員の情報に寄れば、今は既に軍を引退、冒険者ギルドのトップに何故か居座っている。
「天下りって奴か」
「その通りです、奴は軍を引退するなりギルドの幹部に納まり、多くの幹部を力で脅し、グランドマスターになったのです」
グランドマスターとは太陽系に存在する全冒険者ギルドのトップであり、冒険者とっては元請会社の社長・・・・・・雲の上の存在である。
どのようにしてその立場に納まったのか不明であったのだが、今回ギルドマスターの証言によりそれを明らかにするヒントを得られた雨宮は、諜報部隊へと新たなミッションを発令する。
「多くの冒険者がその犠牲になり、奴はギルドの利益を不当に吸い上げています」
「迷惑な奴だな・・・・・・」
「正に、私が引退を余儀なくされたのも、ギルド職員にされたのも、あいつのせいなのです」
ジョンは冒険者時代にグレン・カリバーンから罠に掛けられ、弱みを作られ、握られている。そしてそれを元に今日までの人生を握られていたと言う事だ。
「そいつの目的は何だ?」
「判りません、しかし碌でもない事なのでしょうな」
秘書を転がしているエクスは、その身体をまさぐり何やら端末のような物を手にしている。
「旦那様、この端末、バラしてもええですか?」
「あー・・・・・・ちょっと待て」
雨宮はエクスがバラす前にナノマシンを浸透させ、通信の繋がる先にナノマシンを送り込んだ。
「よし、もう良いぞ」
「はい~」
エクスが端末を分解し、その中に入っていた情報を共有する。この中に入っていた情報は、冒険者ギルドとしての情報では無く、月圏冒険者ギルド本部諜報員としての情報だった。
「・・・・・・成る程な、こいつを通じてこの部屋以外での情報をグランドマスターに送っていたのか、俺達との接触も既に知られているらしいが・・・・・・」
(流石にロペとベロペとの関係は理解出来ないだろうなぁ)
「那様?ナノマシンは、何処にやりはったんですか?」
「マッサマン・・・・・・とか言う所だな」
「グランドマスターがマッサマンに?彼は普段木星にいるはず・・・・・・」
冒険者ギルドの本部、『グランドギルド』とも呼ばれる、太陽系全土に広がる冒険者ギルドの中心、其処には他のどのギルド本部よりも多くの冒険者が所属し、その冒険者達のレベルも他とは比較にならないハイレベルな物となっている。太陽系全土から多くの依頼が舞い込み、様々な種族が所属する正に太陽系で一番のギルドなのだ。
「何か用事があるんだろうが・・・・・・」
雨宮はふと気を失い床に転がる秘書をみた。
(最近ご無沙汰だったしな)
雨宮の目が不意に細くなり、その瞳の奥に暗い炎が宿る。
「この女は何か知っているかも知れないな」
「彼女がですか?・・・・・・確かに、彼女は木星から派遣されてきた職員ですからなぁ」
ギルドマスターも、ふむ、と、可能性を考えそれを肯定する。
「どうなさるおつもりで?」
「濃密なコミュニケーションをしようかと」
「・・・・・・程々になさってください」
「考えておく」
雨宮達一行は、グランドマスターに何か有ったら連絡するようにと、マギア・ラピスと繋がる超空間通信機を渡し、一度ラピスへと戻る事にした。
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピス 秘密の部屋
ラピスへと戻った雨宮達は解散し、ロペは情報の精査を、エマは肉体の慣熟訓練、ティオレは目を覚ました少女と子供の二人を連れ、ラピスの案内を始め、エクスとヒューニは雨宮の側に付き従っていた。
冷たい床に秘書を転がし、ナノマシンで強制的に覚醒させる。
「・・・・・・!?!!ガハッ」
「ちゃんと目を覚ましたか、死んでしまっていたらまぁそれはそれで別に良かったんだが・・・・・・」
後ろ手にロープで縛られ床に転がる秘書は、憎しみのこもった視線を雨宮に向け、その視線に気が付いたヒューニによって頭を踏みつけられる。
「お前には知っていることを洗い浚い吐いて貰うことにした」
「そ・そんな事を誰が!」
「解らへんやっちゃなぁ、そんな生意気な口、利いたらあきまへんで?」
エクスはそう言うや否や、一メートル程もある長い針のような物で、秘書のふくらはぎを通し、両足をそろえさせる。
「ぃぎっ!?~~~~うぅうっ!」
背筋を奔る悪寒と鋭い痛みの両方に襲われ、意志に逆らい痙攣を繰り返す身体から、次第に血の気が引いていく。
「銀河様に生意気な口を利いてはいけません」
「旦那様に偉そうなこと言いなはんな?」
ヒューニは秘書の頭をリフティングの要領で跳ね上げると、エクスが襟首をタイミング良く掴み、床から迫り上がってくる椅子へと座らせ、手首の拘束を解いた。
「!?!?」
急に視界が目まぐるしく変わり、変化の速度に脳が追いつく前に、秘書の両腕は椅子の腕置きに添えられ、パチン、パチンと、再び手首を拘束され、椅子に据え付けられた。
「クラシカルスタイルで行こうかと思ってね・・・・・・昔の物は無骨で・・・・・・機能的だ」
これ以上無い笑顔で雨宮は秘書に笑顔を向け、最後に意思の確認を済ませる。
「素直に全部話すつもりは有るかい?そうすればちょっと違う趣向に変えるんだが・・・・・・」
秘書の表情筋は、これから行われることに対する恐怖と、今の自分が置かれた状況に対する不満、そして何より、得体の知れない雨宮への恐怖で目まぐるしく変わり、少しでも強気を装いたいが為に笑顔でも作ろうとしていたのか、口元だけがヒクヒクと釣り上がり、瞳の焦点は定まらず視線は動き続けている。
「わた・わたし・私はっ!ぎ・グランドマスターの・チョクゾ・直属の!」
自意識のコントロールが定まらず、何を口に出そうか迷いながら喋っている為、結局雨宮達には何が言いたいのか判らず、従う意志がないとそう判断する。
「もう良いか、今日はエレクトリカルパーティーだ」
雨宮は入り口の扉を閉め、パーティの準備を始めるのだった。
アルミム・ムーン・ムラッセ エルフィン 三十歳 ギルド娘
月圏レッドアイコロニー冒険者ギルド支部所属の受付嬢。
幼い頃から女性のみの名門一貫校、『マッサマンガーデン』へと通い、卒業と共に冒険者ギルドへと就職を果たしたエリート子女。
童顔な為に年齢より若くみられることを不満に思っており、冒険者と相対する時は、若い、と言う単語を口にする冒険者へは完璧な塩対応でそつ無く流し、年相応のレディ扱いをする冒険者には普通の対応を行う。
エルフの血が流れる種族は基本的に長命だが、ハーフやクォーター等の混血種は身体の成長は人種のそれと殆ど変わらず、自らの肉体がこれ以上変わることは殆ど無いことに彼女は抵抗し、ビルドアップすることでより深みのある女を目指し、日々の鍛錬を欠かさない。
女学生の頃から妹系として周りから持て囃されてきたのだが、それも彼女の反骨精神を刺激する材料にしかならず、彼女は若くして冒険者と成り、ギルド職員となる迄にBランク冒険者となる程の実力を身に付けた。
趣味は筋トレ、好きな食べ物はプロテインバー。
彼女の一日は早い。朝起きて十キロのラン、帰宅してシャワーの後朝食は高タンパク低糖質の合成食料とプロテインドリンク。
出勤は一時間早めに出勤し、空いた一時間はトレーニングルームでのトレーニング、そしてプロテインドリンク。
昼食は好物のプロテインバーを食べる前に軽くトレーニング、そして帰宅前に一時間のトレーニングの後、クールダウンの為に五キロ離れた自宅マンションまでのジョギング。自宅に帰った後は、飼い猫のジャンに癒やされ一日を終える。




