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EP74 滅びは時を選ばず

そろそろ涼しくなってくれませんかね?

ボス部屋前キャンプ


 少女はふと思う、このまま引き摺られていると死ぬんじゃ無かろうかと。同じく隣で気を失ったままの女性は、何故か胸や股間を強調する縛られ方で同じ様に引き摺られている。だがキャンプへ戻ってから暫くの時間が経ち、漸く体力が回復し少女は改めてそのロープを引きずっているティオレに問う。


 「そろそろ(ほど)いてくれるとありがたいんだけど」


 「ん?まだ息が有ったのか」


 「酷い言いようじゃ無い?」


 「冗談だ」


 キャンプでたき火に火を付け、囲む様に一行は休憩しているのだが、雨宮は自分でベッドを作り出し、そのまま横になってリンクを通じて送られてくる映像を確認している。傍から見れば寝ているだけにしか見えないだろう。


 「もう良いと思うのよ、貴方があんまり動かないで居てくれるから、頭を打たなくて済んでいるのだけれど、もう少し火から遠ざけて欲しいし!」


 ティオレが前に此処でキャンプをしていたパーティの、バックパックにくくりつけられていた薪をひょいっと火の中に投げ入れ、火力を維持すると、パチッと火花が弾け少女に降りかかる。


 「熱っ!あつー!」


 「主が瞑想中だ、声を抑えろ」


 「でも、アーッ!」


 弾けた火の粉が少女のロープへと移り、チリチリと燃え移っていく。


 「私が何をしたって言うのよー!あつっあっつーー!」


 「そう言えばそうだな、まあ、主が起きるまで待て」


 「無理ぃ!!燃えてる!火ぃついているからぁ!」


 ハァ、とため息をついたティオレは、水の魔法でロープを鎮火し、同じく火を囲んで対面に居るロペへと視線を送る。


 「五月蠅くしないなら良いんじゃ無いのぅ?」


 ロペも困った様に笑いながら、雨宮の邪魔をしないならと条件付きで解放を許可する。


 漸く動けないのにもかかわらずギッチギチに両手を縛られ、引きずり回してくれた忌まわしきロープから解放された少女は、ゆっくりと火から離れ、ティオレの横に腰を下ろした。


 「キメラディードをあんなに簡単に倒すなんて、おかしいったらありゃしないわよ、何もんなのあんた達」


 「キメラディード?あのレッドボーゲンのことか?」


 「違うわよ、アレも大概おかしいけど、その前の話よ」


 あぁ、とあの三匹のモンスターが無理矢理つなぎ合わされたと思われる、穴竜・・・・・・を思い出し、位相空間に入れた魔石を取り出すティオレ。


 「その魔石を売れば、一生遊んで暮らせそうね」


 「遊んで暮らすつもりなど無いが、確かに価値はありそうだな、だがこれは主の手にあってこそ意味が有る物に思える」


 「ふーん、アンタ奴隷でも無いのに人間に付き従っているって、ダークエルフにしては珍しいわね」


 「ふっ、この世界にはダークエルフは殆ど居ないからな、珍しいと思うのは仕方有るまい」


 「ティーちゃん、多分太陽系に居ないだけだと思うょ?」


 「そうなのか?」


 「遊星国家もまだ一杯有るし、その中にはダークエルフだけの国もあるからね」


 ロペの何気ない情報に驚きを隠せないティオレだったが、自分のルーツは何処から始まったのかと考えると、もしかすると、と思わざるを得ない。


 「私はそういった所から産まれたのかも知れないな」


 「あるかもねー」


 「そう言えば少女」


 「少女って何よ、これでも立派なレディなんだけど」


 「そうか少女レディ、名前を聞いていないと思ってな」


 新庄は少女なのかレディなのかと自問自答しながらも、漸く落ち着ける時間なのだからと、情報収集を始める。


 「私の名前はドゥールーシ、ドゥールーシ・セリオ・ボンジュよ。セリオ氏族の末席よ」


 名乗った少女の名前を吟味しているのは、ティオレだけで無く、エマも又聞き覚えのある名前に耳を立てていた。


 「セリオの大森林に住むエルフ・・・・・・ですね?」


 「な・・・・・・何で大森林のことを知っているのよ」


 「それを答える前に、貴方は此処を何処だと思っているのか聞いても良いですか?」


 ドゥールーシは訝しげに辺りを見渡し、何かを見つけると、確信を得た様にハッキリと告げる。


 「此処はゲートダンジョンの五十階よ」


 的外れな答えが返ってきたとエマは困った様な顔で考えるが、その言葉を聞きエマの中でも情報の断片が繋がった。


 「貴方は地下と言いませんでしたね」


 「当たり前じゃ無い、塔を上っているのだから地上五十階(・・・・・)に決まっているでしょ?」


 勿論決まっているのは彼女の頭の中だけだが、雨宮達一行にはそんな事は全く無い話しで、此処は間違いなく地下十階だと確信が有る。


 「此処は地下十階だし、ゲートダンジョンとか塔は判らないが、君の中にも何か確信めいた物があるのか?」


 「当たり前でしょ!其処に書いてあるじゃない、五十層紅き戰輪の間って」


 彼女の指さす先には、薄暗くてよく見えないが、確かに何かが書かれている看板の様な物があり、それをヒューニが確認に行くと・・・・・・。


 「読めませんね」


 「あっ・・・・・・?えっ?きょ・共通文字で書いてあるんだけど?」


 「なんやろ?ひょろひょろって、象形文字?」


 「データベースにも該当する文字は存在していませんね」


 「それはそうでしょうね」


 エマはロペから渡されたチキンレッグを口に運び、もごもごしながら当然だと詳細を語り始めた。


 「むぐ・・・・・・、その共通文字は、私の産まれた世界、第五双性世界における共通文字です、第三世界で伝わっているはずはありませんね、読めなくて当然です」


 ドゥールーシはぽかんと口を開けたまま、何を言っているのか判らないと周りの皆に視線を向けるが、勿論他の皆も初めて聞く話の為に、理解している者は居ない。


 「えっと・・・・・・むぐむぐ・・・・・・ナノマシンの使い方は難しいですね・・・・・・」


 エマはナノマシンリンクのネットワークへと第五双性世界の共通文字をインストールし、共有する。すると看板の前に居た二人は、それをダウンロードして適応する。


 「おー、ほんまや、五十層て書いてあるな」


 「だから最初からそう言ってるでしょ!」


 「うちらは今さっきまで読めへんかったの」


 ジト目のエクスに睨まれ薄ら寒い物を感じたのかドゥールーシは、慌てて視線をそらしエマと向き合う。


 「彼女は第五双性世界の双子星(ふたごぼし)、アキレスにあるセリオ大森林と呼ばれる森に住んでいるエルフですね、この世界のエルフは惑星の名を加えていますが、あちらはその土地の名を加えているのです。私も昔はそんな名前を持っていた気がします」


 もう覚えていませんが、と言いながらむしゃむしゃと自分の顔程もある骨付きのチキンにかぶりつき、食事に集中しだした。


 新庄は少し頭の中を整理し、話を纏めてみる。


 「つまり彼女は第五双性世界人で、あのモンスターは其処のモンスターのキメラだったと。そしてそれが表すのは、このダンジョンが・・・・・・」


 「まっへください、んぐっ」


 「食べながら喋るなと言うのに・・・・・・」


 喉にチキンを詰まらせたエマに、飲み物を渡すティオレは重力操作でエマの背をトントンと叩き、嚥下(えんか)を促す。


 「ふぅ、新庄さん、このダンジョンは何処にも繋がっていませんよ、第五双性世界と繋がっている可能性があるとすれば、それは・・・・・・此処では無い別の所です」


 「じゃあこの子はどうやってこっちに来た訳?」


 「恐らく此処でキャンプをしていたパーティを、あの中へと追いやったモンスターが現れた時に、一緒に来たのでしょう?違いますか?」


 「・・・・・・そう言えば何かそんな事もあったかも」


 「ハッキリしないな」


 「皆で塔を上っていたら、急に見たことの無いモンスターが突っ込んできて、そのまま目を覚ましたらここに一人で居たから・・・・・・もしかしたらそうかもって」


 ドゥールーシは塔と言う所に居たのだが、初めて見るモンスターの突撃を避けられず、其処から先は覚えていない、それもその筈、彼女はそこで一度命を落としたのだ。


 「覚えていないか、だが、レッドボーゲンやあのキメラのこともある、そのモンスターもΩウィルスによるモンスターの可能性があるな」


 「さっきから聞いていたけど、そのΩウィルスって何よ」


 「びょう・・・・・・」


 新庄は病原菌と言いそうになり思い留まる、第五双性世界の事を知らないままで迂闊なことを言うものでは無いと考え、エマへと確認を取る。


 「何処まで話しても良いのだろうか?」


 「ウィルスと言っても伝わりませんからね、あちらは全く科学が発展していないので、科学的な話はしても意味が無いと思います」


 「そうか困ったな・・・・・・」


 「圧縮学習機に掛けてから説明した方が良いかなぁ」


 「その方が良いかと、私も眷属と成るまでは、周りの方に色々と教えて頂かなくては、右も左も分からないままでしたからね。ホテルへと辿り着くのも大変だったのですよ」


 「ちょっとー、置いてけぼりなんですけどー」


 「まぁ悪いもんだって事だ」


 雨宮は突如起き上がり、投げやりに話をぶった切ると大きく伸びをし、どうしたものかと考えながら、異世界へと送ったナノマシンから送られてくる情報を精査する。


 (詳しく説明してもな・・・・・・あんまりロペを動かしたくないしなぁ・・・・・・)


 ロペは記憶を取り戻した今となっても、雨宮に関わる事となると、非常に無茶をすることがこれまでの事で雨宮にも何となく分かってきた。

先程も魔力でもスキルでも無い別の力を使い、エマを引き留めた。新庄やティオレはそれ自体は気にしていない様だったが、エクスやヒューニは違う。

謎の力を使いエマをサポートしたロペの事を見る目が明らかに変わっている。


 「旦那様?」


 雨宮はベッドへと腰を下ろし、寄り添うエクスの頭に軽く手を置き、警戒しなくても良いとリンクを通じ後で説明すると告げる。


 「ナノマシンの行き先の事なんだが・・・・・・」


 「何か判ったのぉ?」


 「第二発展世界」


 「!」


 (見た事か、そのまま伝えたらこれだ)


 雨宮は悩んだ末ありのままを伝える事にした訳だが、世界の名称を伝えただけでこのロペの反応、記憶が戻り元のロペ・・・・・・ベロペとしての存在を取り戻した彼女は非常に感情的であり、以前までの軍人をベースとした冷静なロペとは似て非なる存在となっている。有る意味雨宮とそっくりだ。雨宮も又この世界に来てから、前世では完全に押し殺してきた感情を爆発させ、暴威とも呼べる感情のままに行動を起こしてきた。


 雨宮自身はそれを俯瞰し理解している事もあり、同じ様な道筋を辿りつつあるロペの事を非常に気に掛けている。


 (多分ロペは前にあそこに居た事があるんだろうな)


 雨宮は今も尚レッドボーゲン改め、アルファタウロスに纏わり付いているナノマシンと精霊達の事を守る為に、エネルギーを送り続けているのだが、精霊は非常に疲弊し、ナノマシンが逆に活性化している。精霊には雨宮達ハイパーヒューマノイドの使う生命エネルギーはあまりお気に召さないらしく、不平不満が出ているのを感じとることが出来た。


 (やはりΔエナジーを渡してみるか)


 雨宮は生命エネルギーと共に、雨宮にしか認識出来なかったΔエナジーを精霊に直接送り込んでみた。


ーーーーーーーーーー


ーひょっ!?


 雨宮の脳内に素っ頓狂な声が響き、Δエナジーが精霊に引き起こした事の顛末を知る。


 (聞こえるか精霊)


ーななななな


 (なが多いな、これでお前達は恐らく一個の生命体として完成したはずだが)


ー僕達は精霊だぞ!?いや、あれ?


 (文句は後で聞こう、新しい情報は無いか)


ーむぅ・・・・・・これちゃんと元の世界に帰れるんだろうね?


 (無理だろうな)


ーぶっ!何でだよー!


 (生命体は世界の壁に触れられない)


ー・・・・・・どうしてくれるんだよぉ・・・・・・?


 (ナノマシンと一緒に帰ってくれば良いだけだ)


ーホントに大丈夫なのか?


 (さあな、やってみた事も無いから判らん)


ー無責任!


 (精霊(おまえたち)に言われたくない)


ーナノマシンでは判らない事もあるからね。


 (そういう事だ)


ーこの世界は人種のみが存在している、今僕の仲間達が世界中に散っていったけど、直ぐに戻ってきた。


 (ほぉ?)


ーつまりすっごく狭いって事、それに他の種族も昔はいたみたいだけど・・・・・・その辺はもう判る?


 (ああ、ナノマシンがサーバーに浸食している、活性化の原因はこれか)


ーでも何も起こっていないね、さっきのミノタウロスはすっごく大きくなってあっちこっちを歩き回っているのに。


 (映像は見たが、混乱は起こっていないのか?)


ー皆地下シェルターに逃げたから、誰も地上には居ないみたい、人が触らなくても動く鉄の塊が動いて居るぐらいだね。


 (成る程、ナノマシンの独壇場という訳だ、おっ、その地下シェルターにも浸食が始まったぞ)


ーどうなってるの?


 (時期にその世界の機器は此方の管理下に入る、それと同時に此方に戻ってくると良い。話はその後で聞こう)


ーわかった。


ーーーーーーーーーー


 「と、言う事だ」


 雨宮は口で説明する事を放棄し、データを直接それぞれに送り、事態を把握する様に勧めた。


 「え~・・・・・・?」


 ロペとエマはそれぞれ額にしわを寄せ、強引すぎると雨宮を批難の目で見るが、二人はそれでもまあ良いかと雨宮の左右へと寄り添い、エクスは仕方なく雨宮の足下を占領した。


 「あの世界はどうなっているんだ?」


 新庄は全く判らないと言った様子で、じっくりとデータと映像を見比べているが、理解できることがあまりにも少なく降参と手を上げる。


 「あの世界は此処の上位世界・・・・・・だとか言われていたんだけどぉ・・・・・・」


 ロペは過去を思い出しながらそう言うが、今の現状を見てその考えが間違っているのだと確信に至る。


 「逆だな、俺が思うにはこっちがあの世界の上位互換なんだろう」


 「(わたくし)もそう思います、それを考えると、数字が上がっていく程に後から発生した世界であり、上位の世界で在る事が考えられます」


 そう言えばと、雨宮は過去に自分が産まれた世界も確か、第二世界だったような気がすると、ふと思い出す。


 「第二世界も沢山有るんだな」


 「そうだねぇ、でもこの世界と直接関係のある世界はあの世界だけだから、他は今は気にしないで良いとおもぅ」


 そして一旦話が終わると、雨宮達の視線が一斉に少女、ドゥールーシへと向かう。


 「で、こいつは何なんだ?ある程度情報は抜いたが、イレギュラーなのかね?」


 「私が居なくなった後の第五双性世界で、何かがあったのかも知れませんね、数千年前にはあのようなモンスターは居ませんでしたし、セリオの大森林のエルフ達も森から出たりは出来ませんでしたから」


 「出来なかったのか?」


 「えぇ」


 過去のセリオ大森林では、世界に狼藉を働いたエルフ達を隔離する為に、森の中に小さな集落を作り閉じ込めていたのだという。

その際には大型の領域結界が設置され、森を出る事が出来ない牢獄の様な場所であったのだという。


 「あそこで生まれたエルフには、耳の裏に焼き印があるのです、それがセリオの証、罪人の証です」


 「罪人じゃ無いわよ!そんなの五千年も前の話よ!私は関係ないわ!」


 「まぁ、時間が経っても罪は罪、彼らは許されない事をしましたから」


 エマの態度は頑なで、どうしても許すつもりは無いらしい。


 「何をやったんだ?」


 「・・・・・・今思えば、今眷属として手に入れた情報を元に考えれば、彼らの行っていた事は、Ωウィルスの生体実験だったのだと判ります」


 「・・・・・・マジかぁ」


 「彼らは異世界から危険な存在を招き入れ、その実験成果を第五双性世界に散蒔き、双子星の片割れであるアクレウスを消滅させてしまいました。あの惑星には百兆の人間が住んでいたというのに」


 「そんないっぱい居たのか!?」


 「ええ、この世界で言えば・・・・・・そうですね地球の五百倍は大きな惑星でしたから」


 (でけぇなー)


 「科学が無い世界で其処まで発展するのも凄いな」


 新庄が感心するのも判る、と雨宮は以前いた世界の地球の総人口が百億にも満たない事を思い出し、ざっと一万倍以上の人口が一つの星に居るのだと考えると、それは凄い大きさだろうと、寧ろその位大きくないとどうしようも無いんじゃ無いかと、そう思う。


 「まぁ、大きいだけの世界ですから、でも、大は小を兼ねるとも言いますね」


 ドゥールーシは自分の先祖がとんでもない事をしでかした事だけは、何となく理解した様だったが、それでもやはり納得は出来ない。


 「今の私達には関係ないでしょ・・・・・・」


 「この世界では、遺伝的回帰現象という物があるらしいですね?」


 「先祖返りの事か」


 「そうです、千年に一度はその現象が起こります、多少の前後はありますが」


 「それが何だって言うのよ」


 「貴方達に押される焼き印、アレはその先祖返りを未然に防ぐ為の紋様なのです」


 「・・・・・・え?」


 ドゥールーシも漸くエマが言いたい事が理解できたようで、自分の耳の裏に押されるはずであった紋様の事を思い自らの内に眠るモノの恐ろしさを案じる。


 「もうこんな事しないで良いって・・・・・・」


 「誰に言われましたか?」


 「知らない人・・・・・・」


 「他に焼き印を押さなかった人はどの位居ましたか?」


 「い・いっぱい・・・・・・少なくとも私と同じ時期に成人した奴は誰も・・・・・・」


 「ハァ・・・・・・恐らく貴方の世代が丁度周期の当たり年なのでしょうね・・・・・・」


 (又新しいフラグが立った!もうやめろよぉ!)


 雨宮はふと位相空間に収納した穴竜・・・・・・キメラディードとか言うモンスターを位相空間内で分析、確認をしてみた所、何やら三つの部分にそれぞれ同じ紋様があり、それぞれ紋様が別の紋様で上書きされているのを見つけた、雨宮の中で可能性の一つが過る。


 「紋様の上書きって出来るのか?」


 「可能です、しかし紋様の技術は今は廃れてて久しい物で、可能だと思えるのは・・・・・・」


 「こいつらに焼き印を押させなかった奴か」


 ダンジョンの攻略に来ただけだと思ったのに、又面倒な事に巻き込まれる予感が収まらない雨宮は、一旦この話をやめようかと現実逃避を始めるが、今直面している問題と、もしかしたら関係があるのかもと、面倒臭いと心で泣きながら、関連性を探る。


 「第二発展世界と関係がある様な気がするんだが・・・・・・」


 「可能性はあるかなぁ、BES(べす)についてもあそこが発祥地だし、Ωウィルスも多分そうでしょ」


 (BES(べす)って何だ・・・・・・?)


 「行かなきゃ駄目か?ほっといても多分もう滅ぶと思うんだが」


 「え?何で?」


 「何でって、レッドボーゲンが残った文明を踏み潰して歩き回っているからだよ」


 「え!?駄目じゃん!?あそこにあるデータを取りに行かなきゃいけないのに?」


 「え?何で?ナノマシンが居るじゃん?」


 「あれ?」「ん?」


 ロペと雨宮は言い合いになったと思った途端、お互いの認識に違いがある事に気付いた。


 「ナノマシンって世界の壁を越えられるの?」


 「当たり前じゃん、アレは生命体じゃ無いぞ」


 そうだった、とロペは(てのひら)をグーでぽんっと叩き、深いため息をつきベッドに寝転がった。


 「心配して損したぁ」


 「何を言っているんだか・・・・・・データはその内ロペにも送るから、全部終わるまで待ってろ」


 「あーい」


 データの収集は其処まで時間は掛からず、自我を見せてきた精霊達も、早く帰りたいと雨宮を急かしている。

第二発展世界へと侵食させたナノマシンは、数時間と掛からず世界全ての機械類を浸食し、膨大なデータを第三世界へと持ち帰った。

勿論精霊達は分解して持ち帰る。


 「どうなるかと思ったよっ!」


 Δエナジーによって肉体を得た精霊・・・・・・この精霊はやけに馴れ馴れしく、雨宮の頭に座り、ぐいぐいと髪の毛を引っ張ってくる。


 「精霊が・・・・・・」


 「やっ、エマ」


 よっ、と手を上げて答える精霊だが、この精霊だけ何故か雨宮から離れるそぶりを見せない。しかも雨宮自身は全く意識していた訳では無いのだが、この精霊だけ普通にデカい、掌サイズだ。他の精霊達は指の第一関節程の大きさしか無いのに比べて、圧倒的にデカい。


 「電子的なデータは手に入れた、今の向こうの様子はどうなっていた?」


 「あーそれねー」


 彼?彼女?が向こうで見たことをありのまま話し、首を傾げる。


 「あの牛がさー、すっごいおっきくなってね、ずっとうろうろしてんの」


 「暴れたりしていないのか?」


 「うん、ぜんぜん。なんか探してるのかな?って思ったんだけど、周りをずっとキョロキョロ見渡しているだけでさ、まぁ足下は酷い有様なんだけどね?」


 精霊が戻ってくるまでずっとアルファタウロスは、転移した先の施設の周りを延々と周回していたらしく、足下の施設群は踏み鳴らされて瓦礫の山となり、地下に存在している避難用のシェルターは、出入り口を塞がれ脱出不可能になり、軍と思われる集団が近付いては来て居たのだが、途中で消滅し、消え去ったのだという。


 「消滅した理由は分かるか?」


 「簡単な話だよ、もう終わるのさ、あの世界も」


 「第二発展世界が・・・・・・!データ!」


 ロペは突然ベッドから跳ね上がり、何かを考えたがナノマシンで既に雨宮が持ち帰っている事を思い出し、大人しくベッドの上に正座する。


 「安心しろと言って良いのか判らんが、あの世界はめちゃめちゃ狭かったから、大概の物は回収出来たと思う」


 「おおぅ・・・・・・そうなんだ」


 何が欲しいのかは判らないが、ロペはナノマシンのリンクを探り目的の物を探そうとしているのだが、今の所雨宮は共有をしていない為目的の物は見つからなかったようだ。

 「世界の終わりが加速しているような気はしたよね、それに何も人間は知らなかったみたいだし」


 「それはそうでしょうね、あの世界の人間は酷く傲慢でしたから、自分達にそんな事は起こらないと勘違いしていましたし」

 

 (エマもあそこの事を知っているのか?)


 「そだねぇ、精霊君めちゃめちゃ大きなビルは無かった?」


 「ビル?そんなの見てない・・・・・・もう無かったんじゃ無いかな?」


 (・・・・・・世界の崩壊が判らない?そんな事があるのか?ミンティリアのいた世界は、世界の崩壊の予兆を世界全体で共有していた、それがあったから転生させるようなことも出来た訳だし、ヴァルハランテも・・・・・・あんな状態なのに判らないことがあり得るのか?・・・・・・とは言えあそこは数時間もしないうちに消え去ったからな、それもあり得るのか・・・・・・?)


 雨宮は手に入れたデータの一部を検索し、その手の情報を確認してみるが、ニュースにも秘匿情報にもそう言った情報は一切無かった。


 (既に無くなった後だったかね?それらしいものは見当たらないな・・・・・・閲覧制限か)


 雨宮に無い閲覧権限があるのなら、恐らくそれのせいで雨宮に確認出来ないだけなのかも知れない。そしてそれをロペは持っている?

雨宮は思考の迷路に迷い込む前に、考えを打ち切り、一度引き返すことを決めた。


 「このまま進んで又あんな奴が出てくるのも面倒だな、皆装備はともかく荷物を二人も連れて進むのは時間が掛かる、情報の整理もしなくちゃいけないし、一度引き返そう」


 「賛成だ、そろそろそいつの頭蓋骨が割れるかもしれんしな」


 ずっと引き摺って歩いていた為に、一部がハゲているが、雨宮達は全く気にした様子は無く、受付嬢ディオラ・海卯(かいう)は、結局目を覚ますことが無く、もしかしたら死んでいるのでは無いかと、新庄は思っていたが、知られると面倒なことが多い為にワザと目を覚まさないように眠らせているのだと、ティオレから説明をされ納得している。


 ボス部屋で力尽きていた少女も、ヒューニが荷物でも担ぐように肩で担いでいるが、目を覚ます様子が無い。

 

 「ふぅ・・・・・・其処のアンタも一緒に戻るぞ」


 「っ・・・・・・いつから気付いていましたか?」


 「部屋に入った時からに決まってるだろ?誰が外に運び出したと思ってるんだ」


 門を開く者のもう一人のメンバーで有る名前も知らない子供が、岩陰から現れ、魔力欠乏で意識を失った仲間の元へと駆け寄る。


 「怪我は治療・・・・・・してくれたのか?」


 子供の方は入って早々雨宮がナノマシンをボス部屋に飛ばした際に、その所在を確認、既に虫の息であった為に緊急的に肉体を再構成しそのままで放って置いたのだが、アルファタウロスが消える前に目を覚まし、地力で雨宮達の後を付いて外へと出てきたのだが、金色の炎を生み出した少女の方は未だに目を覚まさない。


 子供は殆ど死んでいた、その為に再構成したのだが、それが功を奏したのか彼女は帰りのダンジョンでも元気に歩き、自分はスカウトだからと言いながら周囲を索敵し一行の安全を守っているようだ。・・・・・・ティオレの感知範囲よりめちゃくちゃ狭いせいで特に意味は無いのだが、その頑張りに皆が癒やされ、好きなようにさせていた。


 「其処に罠が・・・・・・」


 「ヨーシ、おじさん躱しちゃうぞー」


 「・・・・・・」


 「銀河きゅん子供好きだねぇ」


 「まぁな」


 雨宮が子供を愛でる姿を、勘違いされないと良いがと生暖かい目で見守るロペとエクスであった。



ドゥールーシ・セリオ・ボンジュ 二百八十歳 第五双性世界の冒険者


 セリオ大森林と呼ばれる、罪人を隔離する目的で作られた森の奥にある、小さな集落の生まれ。


 セリオ大森林では二百歳を迎えるエルフが成人を迎えると、過去に厄災を引き起こした血を沈める為、耳の裏に特殊な金属で作られた呪印(紋様)で印を焼き入れ、血に流れる過去の呪いを中和する事で、自由に森の中を行き来する事が出来るようになる。しかし、森の外には出る事は出来ない。


 彼女の成人の年、森の外から怪しげな集団が村へとやって来た事で、結界が無くなっている事に気付いた村の住人は一斉に外へと逃げだし、血に宿った呪いを悪化させモンスターへと変化した。

しかしそれは外から来た集団によって意図的に起こされた事件で、成人の儀式に彼らは乱入、紋様を焼き入れる儀式をする前に新成人達を森の外へと逃がした。


 紋様の無いセリオ氏族の者達は、森を出た所でとある組織に回収され、行方が判らなくなる。

しかし、ドゥールーシは最後まで集落に残っていた事が幸いし、一人、第五双性世界の惑星の一つ、アキレスにて旅の冒険者として生計を立てる事に成った。


(2)冒険者


 彼女の魔法は、他のエルフ氏族を遙かに凌駕し、瞬く間に有名冒険者の仲間入りを果たす。

そして上位冒険者として長く冒険をしている間に、仲の良くなった二人の冒険者とパーティーを組み、アキレス最難関ダンジョンの一つゲートダンジョンへと足を踏み入れる。


 総階層数不明とされる、未踏破ダンジョンへと力試しに向かった彼女達は、五十階層のボスと戦闘中、突如謎の乱入者(もんすたー)が現れ、ドゥールーシ一人がそれに巻き込まれて次元の歪みへと落ちる。


 目を覚ました時には身に付けていた物も殆どが喪われ、愛用の杖一本を手にダンジョンと思われる洞窟を上っていくが、途中で自身を吹き飛ばしたモンスターキメラディードと遭遇、抵抗も虚しく命を落とした・・・・・・が、偶然が重なり通りかかった雨宮に命を救われる。


 精神生命体が肉体に適応するのに時間が掛かる要に調整された肉体を雨宮に与えられ、結局暫くの間身動き一つ出来ないままで引きずり回される事になった。


光の精霊


 第五双性世界からエマに付いてきていた精霊、彼らはその魂に住処を作りエマに付き従ってきたのだが、エマの魂が二カ所に存在し彷徨っていたが、動き出したエマの魂を追い掛け、ダンジョンにて呼び寄せられる。


 彼ら精霊に性別は無く、宿主の願いに応じて変化させる事が出来る。しかしエマにはそう言う考えが無く、今迄は特に形のない存在であったが、第三世界で様々な物を見聞きし、ゴリマッチョ光の精霊が産まれた。


 精霊達にも自我があり、Δエナジーによってパッケージングされた精霊の一人が偶然雨宮とのリンクを確立、エマでは無く雨宮の配下のように成ってこき使われている。

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