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EP65 ホーリービースト

冷房!

 聖域と呼ばれる建物の中には非戦闘員が押し込められていて、あちこちに悲壮な表情を浮かべた様々な種族の人間が何者かに祈りを捧げている。


 「俺あんまり信仰とか無いんだよね」


 「私もぉ」


 内部は広く、複数の部屋に分かれていて、居住エリアと祈祷エリア、礼拝堂の三つに分かれているようで、それぞれに大人から子供まで多くの信者が銀河旅団のクルー達の事を、怯えと怒りの入り交じった表情で睨み付けている。


 「な・何しに来た!此処には何も無い!とっとと帰れ!」


 子供を腕で覆い隠すように匿いながら、一人の男が声を震わせ先頭を進むエストパーティへと声を荒げる。しかしエストは相手にするつもりはないらしく、威圧感を振りまき、無言で奥へ奥へと突き進んでいく。


 「待てっ!何も無いって言っているだろう!」


 威圧に負け直視する事も出来ないままだが、子供を抱きしめたまま強く目を瞑り更に大きな声を上げるのだが、他のパーティーの皆もまるでそこに誰も居ないかのように無視し、導線を塞ぐように縮こまっている別の男を足で払いのけ更に奥へと進んでいく。

 雨宮はそんなクルー達を見ながら、周りをゆっくりと見渡してみるが、此処には女がいない、大人も子供も老人も全員男だ。


 「女が居ないな」


 「そうだねぇ?奥に居るのかな?」


 周りに居る男達は声を上げて「待て」だの「止まれ」だの投げかけてくるものの、一切止めに掛かってくる事は無く、唯々怯え震えている。


 奥の礼拝堂へと到着したエストパーティは見覚えのある景色にフルフェイスの中で眉をひそめた。


 「又地下室か」


 「これ以上下ると突き抜けてしまいそうですね」


 キャンディは辛うじて雨宮に縋り、独房ユニットへと突っ込まれる事を免れ、強化宇宙服のままでエストのパーティへと参加している。

問答無用で次々と一般クルーを独房ユニットへと叩き込んでいく雨宮に本気で怯え、蹴った事だの、ずっとゲームばかりでごめんだの取り乱している姿は、パメラによって映像として収められ、思い出のデータフォルダに収められたのだそうだ。


 「確かに此処は小惑星のかなり底の部分に当たる場所のようだな」


 「銀河、アレは何?」


 アーニーが指さす方向に頭から血を流し、蹲るように倒れた男が震えながら此方を見ている。


 「こっちに来るな!・・・来ないでくれ!」


 必死に拒絶する男の声を聞き入れる者は居らず、ティオレパーティーは男に手をかざしスキャンを終える。


 「ノブン・オーカー、探索者ギルドの探索者か、信者か?」


 「ち・違う!俺は信者じゃ無い!牢屋から逃げて来ただけなんだ!!俺は何もしてない!!」


 上の階の礼拝堂と同じく中央の下り階段がぽっかりと口を開けているのは、彼がこの奥にあると言う牢屋から逃げてきた際に下から開いたのだという。

ティオレはそのまま軽く彼の傷を魔法で癒やし、何かをパラパラとノブンの頭の上から振りかけると、その瞳から光が消えペラペラと聞いてもいない事を話し出した。


 「何をしたんだ?」


 「強力な自白剤だねぇ」


 ロペが雨宮に教えた強力な自白剤とは、数年前に月に存在する異世界ダンジョンから出土した小石の形をした薬で、普通は磨り鉢などを使いゆっくり磨り潰して使うのだが、ティオレはそのまま手で握りつぶし粉にして振りかけた。だが使う際には魔力を使う必要がある、只粉にして振りかけるだけでは目潰しにしかならない。


 「魔力と反応して溶けるんだょあれ」


 魔力と反応し解けて皮膚から内部に浸透、脳まで浸透すると脳内の情報伝達を阻害し自失状態になり、その状態になれば魔力を浸透させ情報を引き出す事が出来る様になる。各地に放った諜報員は着実に成果を上げているようだ。


 「魔力って凄いなー」


 「銀河きゅんも勉強しようね」


 「お・おう」


 その内な、と言いそうになるのを呑み込み、前向きに考えている事はアピールを忘れない。


 「あ・・・あ・・・・!ああ!・・・」


 ノブンは自失状態の中虚空を掻き雨宮に向かい何かを訴えるような、求めるような動きをした後力尽きるように項垂れ涎を垂らしたまま床に倒れた。


 「何か読み取れたか?」


 「彼を助けてくれ、と」


ズシン


 突如大きな振動と共に何かが階段の下から飛び出し、床を転がっていく。


 「汚いボールだね?」


 アーニーは無造作に掴み上げた物体は、性別も分からない頭部だった、辛うじて人種である事だけが窺える程大きく損傷した頭部は、只破壊されただけで無造作に投げ捨てられたようだ。顔面に有るべき有機物は全て剥がれ、その表情を窺い知る事は出来ず、興味を失ったアーニーは大きく振りかぶり、階段の下へと向かって頭部を投擲した。


 「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 辺り一帯が振動する程の方向が礼拝堂に響き渡り、恐らく直撃したであろう何者かが階下から勢いよく迫ってくる。


 「総員戦闘用意!」


 ティオレの声が礼拝堂に響くと同時に階段の天井部分を破壊しながら飛び出してきた巨大な存在は、三つの人間の頭部を持ち身の丈八メートル程の巨人だった。


 「コレもキメラっていうのかね・・・?」


 雨宮でさえ見上げる程の三頭みつあたまの巨人は、SW(スペースワーカー)に匹敵する程の巨大さと威圧感を以て、銀河旅団へと向き合い一人のロボに目を付ける。


 「ん?」


 「ピュリア!」


 ライが叫び手を出す間もなくロボ娘ことピュリアは、巨人の腹に付いた口から飛び出してきた手に掴まれ、バリボリとおもむろに咀嚼し呑み込んだ。


 眷属クルーが反応しきれない程のスピードで飛び出す、隠し腕を見送ってしまった事に一瞬呆然とするが、次の瞬間には全員がパーティ毎に別れ周囲から飛びかかる。


 「チェストー!!」


 無手での攻撃を主に戦う、七番艦の眷属シンシィ・ルーは、十の影を解き放ち質量を伴った分身を造り出して上下左右、四方八方からの一斉攻撃で飛びかかるが、危険を察知した巨人の左腕一本で払い飛ばされ、礼拝堂の壁に大きな穴を開けた。


 ティオレは瞬時に戦力分析を済ませ、雨宮にリミッター解除の許可を求める。


 超重量の新型バトルドレスをいとも簡単に弾き飛ばした怪力は、銀河旅団としては初めての互角以上の相手ではあるが、離れしているティオレやその他のクルー達は、雨宮の心配を余所に、一瞬で最大戦力を再編成し、前衛と後衛に別れ雨宮を中心に半円の陣形を形成する。


 「対人リミッター解除、本気を出しても良さそうだ、ピュリアのボディを噛み砕いた奴だ、油断するな・・・ってそんな事無いか」


 (ロペは知らないかも知れないが、ピュリアのボディはオリハルコニウム合金をメインに造ってある超重量ボディだ、小さくしてあるとは言え重さは殆ど変わっていない筈なんだが・・・?多分普通の人間サイズでも二十トン以上有る筈なんだが)


 「むふ、銀河きゅんだけだょ?どっきんこしてるの」


 (バレテーラ)


 丸ごと食われてしまったので、ボディの重さ以外にも内蔵武装の重さなども合わせれば、あのサイズでは身動きなど取れるはずも無いのだが、今の所巨人は特に変化が無い。

 「グァオオオオオオオオオオオオオオ」


 短い咆哮の後、巨人の胸の内側から肉が迫り上がり、徐々に人の顔を形成していく。


 「悪趣味な奴だな」


 「しかもアレはロボットのヘッドですよね?本人の顔では無く」


 ライが首を傾げたのは、もしかしたら精神生命体を取り込んでいるのかも知れないという考えが有ったからだが、そのような事は無く雨宮が造った只のロボットの顔だった。

 (俺には全く反応出来なかったから、ちょっと役には立て無いかなー)


 雨宮がふと横を見ると、ロペの両手にレーザーブレードと思われる金色の光を放つ一目見ただけで危険と思われる武器と、ハンドガン程のサイズの小型銃が握られている。いつも軽口が飛び出してくるロペとは思えない程緊張しているようだ。


 「ちょっと出てくるのが早くないかなぁ・・・」


 「ん?」


 「うん、アレはちょっとヤバい奴、皆で全力で全開でやらないと今は倒せ無いかなー」


 (理由は分からんがロペがそう言うならそうなんだろう。しかも今は戦力も十分の一にも満たない。)


 最初に弾き飛ばされたシンシィはリミッター解除と同時に復活し、戦列に戻って居る。表情を窺い知る事が出来ないが、その身体には黄金のオーラが荒れ狂う嵐のように激しく弾け散っている。

 白、黒、銀と三種のカラーで別れたクルー達は、最前衛を務める黒のカラーを背負う隊長格のクルー達、そしてその後ろから白のエースカラーを背負う上位能力者達、そしてサポートに専念する銀色の眷属クルーは戦闘能力においては下位と言う事はあるが、別の分野で頭角を示す者も少なくない。


 (最悪スキルを使う事も考慮せなあかんく空気やな)


 「スキャン!」


 ロペの大声で全員が動き出し、サポートクルーがスキャンを試みるが全員の力を合わせても巨人の精神防壁を貫く事は出来ず、スキャンを諦め全員が補助魔法や援護射撃に回り、それぞれがペアになった前衛クルーを守り、リンクを広げ、空間の把握に努めている。


 「スキャン通りません!後衛最大火力!」


 ライの叫びが響き渡ると同時に、後衛クルーの援護射撃が雨霰(あめあられ)と巨人に降り注ぎ、僅かに蹈鞴を踏んだ巨人の行動を見過ごすはずも無く、前衛のクルー達は各々の武器を振りかざし一気に距離を詰める。上の礼拝堂と同じく非常に広いこの礼拝堂では有るが、巨人一人居るだけで手狭に感じ、若干の動きづらさの錯覚を覚えるクルー達であったが、第一撃はかなりのダメージを与えたようで、巨人は危うく階段を踏み外し後ろに倒れるかと思われたが、ピュリア・ロボ娘を取り込んだ事が幸いしてか、その重みで階段を踏み抜き、その踏み抜いた足が支えとなり倒れずに済んだようだ。


 自らの力に絶対の自信を持っていたのか、一撃とは言え非常に効果的な一撃を受けた事で冷静になったのか、三つの頭で周囲を見渡し何かを探るような仕草を見せる。


 「・・・・・・、俺達にスキャンとか無駄だな」


 「あ、やっぱりそうだょね」


 どうやら巨人は銀河旅団のクルー達をスキャンしようとしているらしいのだが、ナノマシンによってもたらされる情報をを巨人に受け取れるはずも無く、ピュリアのヘッドに備わったスキャン機能をどのようにしてか使用しているのだが、情報が入ってこない事に首を傾げている。ピュリアを構成していたナノマシンは、只の鉄くずと化したボディを置き去りに、既に周りの眷属達へと還元されている。


 「巨大になった弊害でしょうか?少し頭が悪いような気がしますね」


 キャンディは身も蓋もない事を口にするが、それを知るには分解して保存する必要がある。


 そんなバカな事を言っている間にも眷属達は巨人を取り囲み、魔法障壁を展開している事を確認しつつ、改めて持てる力をフルに発揮し、次の一撃はこの小惑星を破壊するのでは無いかと雨宮は内心肝を冷やしている。


 (何か・・・思ったより楽・・・?)


 「あれー?何か今迄と違う・・・。」


 「銀河さまぁ!!!!!!」


 ビリビリと空間全体が振動する程の怒りを孕んだ怒声で呼ばれた雨宮は、何事かとその発生源を探そうとするが、それは探すまでも無く、目の前に広がる黄金のオーラを弾けんばかりに漂わせた、シンシィ・ルーだった。今にも爆発せんばかりのその攻撃的なオーラは、雨宮を除いたその周囲のクルー達をも後ずさらせ、目映い輝きは益々増していく。


 「(わたくし)が血闘を”お”お”お”お”お”ぉお”!!!!」


 今迄見た事も無い程の怒りに満ち満ちたクルーの姿に雨宮は生唾を呑み込み、無意識にその拳を握り締め思案する。


 (任せても良いものかどうか?巨人のあの様子を見れば気圧されている事は明らかだ。だがそれだけで力の差が埋まるものなのか?そんな漫画みたいな話があるはずが無い。だとするならあの力は何だ?この空間全てを吹き飛ばすんじゃ無いかと思える位にはエネルギーが、エネルギー・・・?)


 雨宮が慌ててサーバーのエネルギーリソースの配分設定を見直してみると、これまでに雨宮や眷属クルー達の溜め込んだエネルギーを溜め込んだ領域に一筋伸びる黄金色の糸で紡がれたプログラムが、雨宮のプロテクトを突き抜け突き刺さっている。


 (抑えられなかったのか、プロテクトの見直しが必要かも知れないな・・・。)


 黄金色の糸は、限界まで細く細く伸ばしたシンシィのエーテルサーキット、そしてその周りを猛烈な勢いで雨宮のプロテクトを弾き飛ばすのは彼女に従属するナノマシン。

破られても構わないとは雨宮も思っていたが、些か早すぎる。そして彼女は・・・。


 「銀河きゅんあの娘って・・・七番艦の?」


 「そうだ。魔導機人種(マギアノイド)の亜種、闘機人種(オーラマキナ)、機人種をベースに()種の因子を掛け合わせて完成した超近接特化型の肉体を持つ娘だ。」


 「そりゃ又無茶な合わせ技を・・・。」


 純粋な機人種は魔法などのマナ的な技術には適正が殆ど無く、エンチャントを施すにしても他の種族よりも、より拒否反応による苦痛を味わう事になる程であり、一般的にマナから嫌われた存在と言われるぐらいには、かけ離れた相性を持っている。しかしそれを雨宮は無理矢理産まれる前から全身余すところなく施してから肉体を作り出す事によって、親和性を造り出し、魔導適性の極めて高い機人種、魔導機人種(マギアノイド)を産み出した。そして闘機人種(オーラマキナ)は魔導適性と同じく、感情の起伏が乏しい機人種には相性の悪い、生体エネルギーの出力をコントロールするという技術を克服した存在として、機人種の精密さと鬼の強大な力を持つ存在として産み出された。


 「まだ暴走はしていないがな・・・。」


 「怒らないの?」


 (そんな権利が俺に有るかね?)


 「問題ない。やれ。」


 「お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!!!」


 雨宮は考える事を一時的に放棄し、流れに身を任せる選択を選んだ。


 天文学的な量のエネルギー領域に溜め込まれたエネルギーをぐんぐん吸い上げ、小さな身体が悲鳴を上げるが、BMシルバーに身を包んだシンシィは肉体の崩壊を止める為にバトルドレスと融合する道を選んだ。


 「アレって戻れるの?大丈夫?」


 「問題ない。融合は闘機人種(オーラマキナ)として生まれ変わった者達の固有スキルだ。」


 雨宮個人の意見としては、姿形が変わったとしても、そう言う変化をするという事実が判明するだけで儲け物、そう思っているし彼女達もそれを知っているのだが、造形の著しい変化は彼女達にとって耐え難いらしく、その変化だけは絶対に嫌だと珍しく猛反発を受け、次善の策としてBMシリーズとの融合の力を手に入れさせた。


 「種族スキルじゃ無くって?」


 「そうだ、それは又別に目覚めている。」


ーーーーーーーーーー


ーシンシィ・ルー


 (あぁ・・・溶ける・・・Δエナジーの奔流が・・・これが・・・Δエナジー・・・)


 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」


 その身が巨大に膨れ上がる程の膨大なエネルギーを取り込み、僅かな落ち着きを取り戻したシンシィは、ふらりと巨人の前に歩き出し、自らの身体の内側を渦巻くエネルギーの奔流を押さえ込み、醜く膨れ上がった肉体を制御し、数刻前迄のスラリと伸びる手足の美しいフォルムを取り戻し、身体の不調が無いか改めてナノマシンに確認を促す。

 (オール、グリーン。エネルギー二万パーセント。二万パーセント?何それ?意味が分からない)


 彼女の脳裏に映し出される数字の羅列は、意味が有るのか分からない程の桁数を表しており、ともすれば只バグを吐き出しただけと勘違いする様な有様だった。

肉体の制御に成功した彼女は、手足を軽く動かし首を回し、肩を回しトントンと軽く飛んでみせる。


 (こんなに激しい思いを抱いたのは初めて、これが・・・情熱?恋?愛?)


 目の前の巨人は自らの力に酔いしれ、高揚感に包まれていたつい先ほどの事を後悔するかのように、階段を踏み抜いた足を慌てて引き抜き、本能の赴くまま這々の体で逃げだそうとするが、その後ろにも銀河旅団のクルー達が待ち構えている為、逃げる事など出来ない。駆け出そうとした瞬間、後方に控えていたBMホワイトに身を包んだクルーが、機先を制し巨人の目の前で閃光を放つ。視界を失った巨人は二つの手で両側の二つの顔を押さえ、真ん中の顔は大きく顔をゆがめ身もだえている。


 「銀河様、力が、溢れそうです」


 「身体に異常は無いか?」


 「オールグリーン、問題ありません。しかし、脳内の不明領域にΔエナジーのインストールを確認しました。このエネルギーは未知であり、使用方法が分かりません」


 (Δエナジーを確認出来ただと?)


 シンシィのその言葉を聞きつつナノマシンの情報は、確かに脳の(いち)パーセント未満の領域にΔエナジーがある。

雨宮はそれを確認した後、自らの身体に力が漲るのを感じ、何故かその瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


 (・・・これが、認識されると言う事か)


 「銀河きゅん?何が有ったの?どうしたの?ねぇ?」


 「後で話す。」


 雨宮はシンシィに背を向け、歩き出す。


 「シンシィ後は任せた。生け捕りにしろ」


 「りょ、了解、です」


 「ティオレ、即時撤退だ」


 「!?総員全速撤退!駆け足!!」


 「「「「「「「「「「イエスボス!」」」」」」」」」」」


ーーーーーーーーーー


ージェニファー・キャッシュマン


 (!)


 「警戒人員を全員収容!誰もこの場に残すな!急げ!!」


 「了解なのよー」


 「了解」


 「りょ・了解です!」


 メインブリッジのジェニは、リンクが戻ってからずっと雨宮のナノマシンと通信し、リアルタイムでその情報を収集していた事で、ほぼタイムラグ無く撤退の準備が整っていくのを艦長席で見守る事が出来た。


 「何が起こるんだか・・・」


 ジェニはいつの間にかやってきたトトを膝に乗せたままで、周辺宙域図を展開し見慣れない光点が近付いてくるのを確認した。


 「恭二!この光点は何だ?」


 「・・・水星軍機密諜報部隊、ゴンザレス中将の艦隊のようです」


 「パトロール部隊の艦隊も一緒なのよー?」


 「何で今更・・・って手柄でも上げに来たか?」


ーーーーーーーーーー


 銀河旅団に遅れる事半日、水星軍は漸く掃き溜めの有る暗礁宙域に到着し、遙か彼方に展開する銀河旅団の艦隊が掃き溜めを離れ、遠巻きに掃き溜めを観察している所を捕らえた。


 「漸く辿り着いたか、命一杯急いでもこの遅れ、銀河旅団の船はとんでもない性能だな・・・」


 現行水星軍の最精鋭に配備される高速艦でも、マギアシリーズの船足に追いつく事は出来ない。ゴンザレスは半ば呆れながらも、今度ティタノマキアと繋いで貰おうかと、今手元にあるカードの切り方を検討している。


 「艦長、銀河旅団と接触成されますか?」


 ゴンザレスは先の銀河旅団諜報部隊エリナ・甲賀との接触を思い出し、薄ら寒い悪寒を感じるが、結局やって来たものの特に何もしないで居る自分達の事を思えば、銀河旅団()いては娘のイントの扱いにも影響を与えるのでは無いかと、そう考えると挨拶ぐらいはするべきだろうと思わざるを得ない。


 「頼む」


 オペレーターはエリナの残した超空間通信端末を操作し、艦に搭載されている最新型の圧縮レーザー通信ですら届かない距離に通信を送る。

この距離で銀河旅団を補足する事が出来たのも、同じ通信機に搭載されている居場所をナノマシンリンクによって把握する事が出来るようになるからだが、これは銀河旅団側から既に補足されている事も示している。

銀河旅団から一方的に遮断する事も可能だが、今は連絡を取っても問題ないとそう思われているからこそ通じるものだった。


 「此方水星軍諜報師団旗艦ジ・アース、銀河旅団応答願います」


ー此方銀河旅団旗艦ラピス、ジ・アースどうぞ


 コロコロと転がるような可愛らしい女性の声が聞こえ、オペレーターの男性は当たりだ、と心の中で手を叩く。


 「ゴンザレスです、先日ぶりですな」


ーあぁ、アンタか。


 ジ・アースのモニターに映し出されたのは、艦長席に座り、膝の上のトトを撫でているジェニだった。


 「じぇ・・ジェニ様!!」


ーゴン、今近くに来ると危ないぞ?離れた位置で待機してな?


 「一体何が?」


ー・・・クロスチャーチルが半端な化けもんを用意してやがったせいで、クルーの一人が本気を出す事になったのさ・・・


 「はぁ?」


ーまぁ、遠くから見ていれば、何となく分かるさ・・・


 「はぁ・・・」


 間の抜けた顔をしているなと、思いながらも情報として対して何も手に入れられていない自分に、何か落ち度があったかと再考するゴンザレスであったが、ジェニが敢えて危険を知らせてくる事に、内心危機感を募らせていた。


ーあんまり近付いてくると、余波で船が沈むよ?気を付けな?


 「!?」


 二度に亘って警告を受ける事で事の重大さを理解したゴンザレスは、手で合図を出し、ジ・アースのブリッジは俄に慌ただしくなる。


ーあ、おかえり。今ゴンが・・・


 モニターの向こう、ラピスに戻った雨宮が映り込み軽く手をフリフリと挨拶し、少し何かを考えるような表情に変わり、一言。


ーそこに居ると危ない・・・


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 突如船体を揺り動かすような激しい振動と、それに伴う轟音が響き渡り、ラピスとの通信が途絶えた。

船全体がバラバラになるかと思う程の揺れは、艦内の人員を天井や床に叩き付け、一瞬の間に見るも無惨な惨状ができあがった。

ガフィア・マーフィ 三十一歳 人種

(2)

 ノブン・オーカーによってコールドスリープシステムから目覚めさせられ、後遺症の残るコールドスリープ病を患うも、ノブンの献身的な看病により現代にて探索者を行える程にまで回復、ノブンとコンビを組みリハビリの傍ら探索者としても活動を始めた。

 しかし現代のクロスチャーチルによって、拠点として丁度良いという理由だけで拠点を襲撃され、幽閉される。

以前手に入れた力の大半は失ったが、過去のクロスチャーチルにおける能力は失って居らず、聖騎士としての装備さえ手に入れられれば以前の半分程の力は出せるが、拠点を奪われた際に装備一式を奪われ、小惑星に元から存在していた地下教会の牢屋に投獄され、死の淵を彷徨う事になった。

 牢獄で力尽きようとしていた時、現代クロスチャーチルの一人に、偽聖水と呼ばれる強制的に通常と異なる進化を促す薬品を浴びせかけられ、三つ頭の巨人と化した。


ノブン・オーカー 三十二歳 人種 B級宇宙探索者


 宇宙探索者及び開拓者へと仕事を斡旋する宇宙探索者、駆け出しの頃に見つけた小惑星を暇を見つけては自らの手で開拓し、自分の城を作り上げようとしていたが、テロ組織と化したクロスチャーチルによって襲撃を受けて、小惑星の奥へと幽閉されてしまう。

 自らが開拓していた時に過去のクロスチャーチルの使用していたコールドスリープシステムを発見、朽ち果てそうなマニュアルを睨み付けながら辛うじて一台のカプセルを蘇生させる事に成功したが、中に入っていた人物は生命力が非常に低下していて、ノブンの助けなくして生存が難しい状態だった。

 数年の治療、リハビリを通じ日常生活を取り戻す事に成功し、共に探索者として今の世界を生きていこうと友情を交わした二人は、小惑星の開拓を再開し、その小惑星の奥に金塊を発見、さあこれから城を建てようとした矢先に二人は襲撃を受け、別々に幽閉されてしまった。


 探索者としての能力は高く、多くの資源小惑星を発見売却する事で自らの小型戦艦を購入したり、SWも数台所有している小金持ちとして成功を収めていたが、全てクロスチャーチルによって奪われてしまった。


 趣味は資源探索、好きな食べ物は熟成天然和牛のステーキ。

 趣味が高じ探索者として大成したが、同じ理由で不幸な目にも遭う。若干心の弱さが見え隠れする事があり、相棒のガフィア・マーフィーが居る事で大きく力を付けた。

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