EP59 底知れぬ力
手洗いうがい忘れずにね。
戦線を押し上げて数刻、曲がりくねった要塞のような無骨な通路を進み、出会い頭にクロスチャーチルの武装信者達を叩き伏せる。
七番艦クルーと九番艦クルーはあらゆる通路を進み、全ての生きとし生けるものを制圧していく。
大きな円形の広間に辿り着いた一行が部屋を見渡すと、歴史を感じさせる鉄格子の付いた狭い牢屋から牢獄の一角である事が判る。
「何・・・此処?」
ジェドとフェトラのクルーを束ねる小隊長、キャッシュマン一族の次女アーニーは腐敗臭の漂う牢を目の前に、中の様子を確かめるように近付き他の牢も確認するように部隊のメンバーに促す。
「酷い臭い・・・。」
腐乱した死体が牢の中に折り重なるようにして積み重ねられている。無視が存在しない空間のようでウジが湧いたり蠅が集ったりしていない事が唯一の救いだろうか。
「・・・。」
牢の格子を分解し、中に入ったアーニーは躊躇無く折り重なる死体を片手で掴み上げ、次々に分解していく。
眷属はナノマシンとの親和性によって分解の精度にも多少の差がある、アーニーはまださほどナノマシンとの親和性が高くなく、遠距離から間接的にナノマシンを操る事が得意では無かった。
「もっと練習すれば触らなくてすむのかな・・・。」
周辺に散ったクルー達はそれぞれ死体に遭遇し、複雑な顔をしつつも分解を始め、その情報を入手していく。
周囲に漂う腐臭を分解して消しつつ、最後の死体が貼り付けになった牢へと辿り着いたアーニー。
「悪趣味ね・・・。旧世紀にもこんな事していたのかしら・・・?」
命が消えてから数年は経っているであろう、その白骨死体は首から錆びたネックレスを下げ、頭蓋に三つの特徴的な穴が開いている。
「これはトライアイ・・・神官かな?かなり高位の人だったみたいだけど・・・。」
アーニーの周囲には分解の終わったクルー達が集まりつつある。
「隊長・・・トライアイの神官ですか?」
「みたいなんだけど、牢の中で貼り付けにされている意味が分からないね?」
これ以上見ているだけで分かるような事が無いと判断したアーニーは、貼り付けにされた死体を分解しその情報を手に入れる。
(・・・。神官の名はリュー・カージー、死因は餓死。生きている間にこの牢に入れられたみたいだけど、餓死するまでずっと此処で貼り付けになっていたみたいね。)
「駄目ね、此処は空振り、対したことは・・・。」
ナノマシンによる分析の情報はほぼシームレスに戻ってくる、しかし一歩遅れて戻ってきたその情報は、唯一の装飾品のネックレス。
(・・・は?な・・・なにこれ?)
ーーーーーーーーーー
ーエスト・キャッシュマンー
長い長い通路を走るエスト率いる混成部隊は、礼拝堂と思われる広い空間へと辿り着いた。煌びやかな装飾が所狭しと鏤められた礼拝堂の中央には、巨大な逆さ十字が吊り下げられ、つい先ほどまで多くの人が居たであろう列席用の長椅子には、微かにぬくもりが感じられる。急いでこの場を立ち去ったのか、床には手荷物と思われる鞄や、聖書と思われる本がいくつも散乱している。
「十字架とは又古風だね。」
「姉さん、まだ椅子が暖かいわ、近くに誰か居るかもしれないわね?」
エストと共にここまでやって来たのはキャンディ。キャッシュマン一族の三女、そして末娘のパメラ。
「何て言うか・・・ゲームの教会と違って、暗いねー。」
「人工の光では流石にね。」
本来ならステンドグラスでもはめ込まれているであろう場所には、無骨なライトが鎮座し、舞台装飾のように煌々とライトアップされている。
建物の広さと光量の釣り合いがとれていない為か、礼拝堂内は薄暗く辛うじて内部が見渡せる程度の明るさになっている。
「皆、辺りを隈無く探すんだ、一部の見逃しも無くね。」
エストの指示を受けたクルー達は、広い礼拝堂の中をそれぞれ散り、椅子の下から装飾の裏側まで目視で確認に向かう。
(流石にナノマシンを使うことになれている子なんて居ないか、私達もそれほど慣れているわけでは無いけど、銀河君のように思念誘導でナノマシンを操るのは難しいね。)
三人は講壇に上がり聖書台の裏側に回ると、妙にその場にしっくりくる本が台の上に置かれている。
これ見よがしに置かれた本には聖書とは書かれておらず、説法マニュアルと書かれている。
「・・・。初心者かな?」
「これを読んで何の役に立つのかしら?」
本の中を見ることも無く分解し何かを確認したキャンディーは、その本の置いてあった場所に小さな突起があるのを見つけた。
パメラが共にいることを確認し、エストにアイコンタクトを取ると、エストはパメラの後ろに回り、両手が動かせないようにしっかりと優しく抱きついた。
「何かの仕掛けのようですわね。皆さん!なるべく等間隔に散って!出入り口の場所をもう一度確認しなさい!」
キャンディは周辺のクルーに警戒を促すと、そのボタンに手をかける。
(何かを忘れているような気がするわね・・・?)
眷属であるエストやパメラなら、ボタンを押さずとも触れてナノマシンを流し込むだけでその機能を分析し、何処に繋がっているのかぐらい瞬時に確認出来る筈なのだが、冒険者としての経験と勘を頼り、確かに問題は無いのだが、それ以上のパフォーマンスを発揮出来る今の自分達の事を忘れている。
「あっキャンディ・・・。」
エストがキャンディの忘れていた自らのスペックについて気が付いた時には既に遅く、その手はボタンを押下し三人の立っている講壇が重々しい石材のすれる音を放ちながら動き出した。
「わわっ!」
パメラを抱きかかえたままのエストは、その体幹を発揮し何とか二人分の重心を支えきり、キャンディは聖書台に手を添え自らの足下が動く感覚のズレを修整する。
「古風だね・・・。」
講壇のスライドした後に現れたのは巨大な地下へと進む階段だった。
ーーーーーーーーーー
ーティオレ・アンクー
元々クロスチャーチルの工作員であった彼女ではあったが、百年以上の時間の流れはその組織様相を一変させるに相応である。
一度も訪れたことの無い教会の内部は、彼女にとっても未知の領域であった。
「・・・。」
「ティオレさん?」
ティオレと共に進むライはピュリアを結局ハンガーへ残してきたことを振り返り、不安に駆られつつも戦闘経験の浅い自分のことを考えると、どうしてもティオレの動向が気になってしまう。彼女の一挙動一刀速から目を離さないように注意を払いつつも今現在でもナノマシンを通じ、アト・レイギントーの記した戦闘マニュアルを、脳内で並列処理し、気が遠くなる程の回数を繰り返し目を通している。マルチタスクと言えば聞こえは良いが、注意散漫とも言える。
「此処はそう歴史のある建物では無さそうだ。」
二人の率いる部隊の進む先は、其処彼処が建設途中らしく、足場が組み上げられ建材が所狭しと放置されている。
一体何処からこんな資材を運んできたのかと、疑問に思いつつも足早にその道を進むと、人一人が漸く通れる程度の穴の開いた突き当たりに辿り着いた。
穴の周りには扉と思われるものが立てかけられており、これから此処を通路として拡張しようとしていた事が伺い知れる。
「穴を広げますね。」
ライはせめてこの位はと、ナノマシンに命じ只の穴を広げ三メートル程の大男でも通れる程の門構えを作り出した。
「主はここに来ると思うか?」
「来ても問題ないようにしておくものです。」
ライの判断基準の中心には常に雨宮が存在し、彼女の生み出す物はまず雨宮が使う事に耐える物であるかどうか、其処から始まる。
大きく開いた穴の先には、洞窟と言っても差し支えなかった先ほどまでの通路とは一変し、研究所のような金属の床や壁で出来た、広い空間が広がっている。
「さほど進んだ技術では無さそうなんですけど・・・。何ですかねこれ・・・。」
ライは自ら率いる技術者チームを辺りに散開させ、見慣れない機器類を確認させる。ティオレ率いる戦闘チームはその護衛に付く者と、その部屋から繋がる通路の先を探索する者に別れ、各々の役割を果たさんとしている。
ライは施設の中央に隆起するように造られた大型の機械に近付き、カプセルのような物体に手を触れる。
ナノマシンを浸透させ、その情報を読み取ろうとしてふと気付く。
「中に人間が・・・!」
ライが気付くのと同じくして、周りに散った技術者チームの面々も円形に配置されたカプセルの中に、命ある人間の存在を明らかにした。
「ライさん!此方のカプセルも生きています!」「こっちもです!人間が入っている!」
計十個のカプセルの中にそれぞれ男女十人の存在が確認され、それぞれが生命活動を行っている、かなり古い機械だがその稼働は止まっていない事がハッキリと確認出来る。
「・・・ステータスグリーン・・・全員純血の人種ですね。起こそうと思えば何時でも起こせるようですが?」
「やめておきましょう。」
ライは少し考えた後、素早く判断し、この施設をそのまま持ち帰る事をチームに伝える。
「こう言った物はボスが喜びます、持って帰りましょう。」
技術者チームのクルー達は色めき立ち、どうやって稼働状態を維持したままで持ち帰ろうかと算段する。彼女等にとっては然程難しい事では無いが、その過程を考察する事が楽しいようだった。
「皆、成果が上がるのが嬉しいのは判るが、先にも進まなければならないんだ、手分けして速やかに・・・な。」
ティオレの静かな一括に背筋を伸ばしたクルー達は、それぞれの役割を分担しカプセルを担ぎ自身の魔力でその稼働を維持すると、護衛に護られ駆け足でラピスへと戻っていく。残った大型の機械はライによって分解され、遠隔操作でナノマシンはラピスの空き部屋に同じ物を再現し、カプセルの到着を待っている。
「それだけナノマシンを操れて、戦闘向きでは無いと言われてもな・・・。」
「?」
「何でも無い。」
ティオレはそう言う奴がいても良いかと思い、ライと共に施設の奥へと続く通路へと進み出す。
ーーーーーーーーーー
ー雨宮銀河ー
ギンサーガを使い、教会のハンガーへとゆっくり降り立った雨宮は、ロペ、ゲイル、デカスそしてレビルバンと共にピュリアの座るハンガーの一角へとやって来た。
「お前こんなとこで何しとるん。」
ーーだっては入れないから・・・。
うじうじと何が入っているか判らない小型コンテナを転がしながら、ブツブツと不満を漏らすピュリアは、ライに置いて行かれて困っている事を雨宮に伝え、ちぇっ、と先ほどまで転がしていたコンテナを小石にように投げた。
ガォン!ガン!ガン!
金属製の壁に当たったコンテナは跳ね返り、近くで警戒任務に当たっていた一般クルーの目の前に飛来し、戦々恐々とした表情でピュリアの方を見るが当の本人は全く気にした様子は無く、雨宮にどうしたら良いどうしたら良いと、ねだるようにへばりついている。
「ふむ・・・。」
ピュリア自体は、そもそも人間として生み出したわけでは無いので、その存在としてはロボットで相違無いのだが、中身は間違いなく人間の精神が入っている。
どういう状態なのか今の雨宮には伺い知れないが、OSの代わりに人間の精神が入っているのだろうと、そう考えるようにして後回しにしている。
彼女には兄弟機・・・姉妹機として二号機が存在するが、そちらの方は普通のマシンであり、彼女のように突如自我を持って動き出すような事は無かった。
しかしピュリアは時折その二号機に対して何かを話しかけている姿が目撃されており、もしかするともしかするのかも知れないと思い、雨宮はそれを放置し様子を見ている。
「今から小さくする事は出来なくは無いが、直ぐに元のサイズに戻してやれるかどうかは判らんぞ?」
ーー寧ろ大きくなくて良いよ!皆と一緒が良いよ!
「折角巨大ロボなのに・・・。」
ーーうれしくないぃ~!
雨宮にしてもピュリアにしても、今の状態は偶然?の産物であり、誰が意図した訳でも無いそんな状態なので、望む通りになるのならそれが一番ではあるとそう意見が一致した。
雨宮がナノマシンに命じると、ピュリアの姿はみるみるうちに小さくなり、ロペより少し背が低いぐらいに落ち着いた。
「・・・え?」
皆が小型化したピュリアに興味を示している中、一人唖然としているゲイルは雨宮に突如食って掛かって、大外刈りを食らった。
「何だ急に。」
「ロボットなんて聞いてねぇよ!」
「いや・・・皆知ってるし・・・。」
「そんな馬鹿なぁ!!」
俺の初恋が!と床に転がされたゲイルは転げ回り、鬱陶しいと雨宮によって蹴飛ばされる。
ロボ子の状態のままで小型化したピュリアは、その身長に甚く満足し、各部をセルフチェックする。
ーーおにーちゃんこのミサイルは大丈夫なの?
ピュリアは内蔵されている小型誘導ミサイルのことを指して言っているのだと気づき、雨宮はふと思う。
(もう人間にしてしまっても良いんじゃ無かろうか?)
「ああ、何も変えてはいないからな、只縮尺を小さくしただけだ、機能に問題は無い。」
其処まで口にして雨宮はピュリアに内蔵された兵装を思い出す、その中に小型ロボ娘がうじゃうじゃいるのを思い出し、その様子を思い描いた雨宮はちょっと気持ち悪いなとピュリアの両脇腹に相当する場所を探る。
「この兵装、使うか?」
ーー便利だと思うんだけど・・・。このサイズだとはたき落とされるだけかも?
約身長百六十程のピュリアに無数に内蔵されたプチピュリアは、大体五センチ程の大きさなので役に立つとは言い難い。
プチピュリア達に人格は無く、ピュリアの指示に従って動くレギオンと言ったようなものだ。
「まぁ・・・何か使い道はあるだろ。」
俺に一人くれよ!とゲイルの声が聞こえた気がするが、それを無視して雨宮達は最短ルートを進み、地下へと進む。
ーーーーーーーーーー
ーキャンディ・キャッシュマンー
「何だかダンジョンに迷い込んだみたいだね。」
「やめてくださいお姉様、モンスターなんて相手にしたくないですよ?」
「私が変身してしゅわって!」
「「やめなさい。」」
パメラは光の枷を付けた右腕を高々と掲げ、むひー、と笑ってみせるが、彼女のその言葉の意味を知る七番艦に所属するクルー達は、パメラから大きく距離を取り、スタスタと歩き去って行く。
「みんなひどいよ~。」
パメラはエストの腕に抱きつき、緊張感の欠片も無い戦場が繰り広げられる。
(この先に幾つもの生命反応が感じられるわね、やはりこの先に逃げたと見るべきかしら?)
キャンディは腰から下げたロングソードを確認し、二人の姉妹を少し離れて観察する。
その表情から心中を察する事の出来るものはこの場にはいないが、多少の呆れと、多分な愛情が彼女の胸の内に秘められている。
(嫌な予感がする、やはり銀河さんを待っていた方が良かったかも知れない。)
キャンディがそんな心配をしていると、暗闇の向こう側から流星の如く尾を引く何かが飛来し、大きな爆発を起こした。
「「散開!!」」
通路を大きく揺らした爆発による負傷者はいないらしく、遮蔽物の無い石畳だけの通路の向こう側から、ガチャガチャと金属の軽い音を響かせ、大剣を肩に担いだ人間が姿を現した。
「ハッ!無傷とは恐れ入った!貴様等何者だ!何故ここにいる!」
(そんな事尋ねてどうするのかしら?返事が聞けると本気で思っているのなら・・・頭が悪いわ。)
キャンディはエストの方を確認し、パメラとワンセットで行動している事を確認すると、腰のソードを抜いた。
「・・・。」
「お前が私の相手か。さぞか・・・っと!」
キャンディは無言で相手に近付き、愛用のシルヴァタイトで出来た鏡のように光を反射するソードを突き出し、顔面を刺し貫こうとしたが、相手の反応も良くその突きは大きく後ろにバックステップする事で躱される。
「早いな・・・。だがその程度では・・・っ!!」
(この程度なら何も問題は無さそうね。)
バックステップで大きく距離を取ったと思い、又何かを喋り始めた剣士は、判りやすい隙を作り、キャンディの剣筋を誘導するように躱していくが、それは飽く迄彼の主観の話であった。
「・・・。キャンディ?」
「お姉様直ぐに済ませますからお待ちください。」
キャンディの剣技はエストのそれと比べても遜色なく、寧ろ既に上回っているのでは無いかとエストには思える。
だが彼女にはそれだけでは無い、恵まれた肉体が繰り出す力も同時に備わっている。
エストはその細身の身体に大きめのプレートメイルを装着し、自身の細さを隠して冒険者の時は戦っていた。
しかしキャンディやアーニーは、エストとは対局に有ると言っても過言では無い程体格に恵まれ、その筋力は男の冒険者をも軽く凌駕する鍛え抜かれている。
一方パメラは背も低く訓練も碌に行っていなかった以前は、冒険者になる事など考えもしないような普通の女の子だった。
しかしキャンディを除く三人は、雨宮によって眷属として新たな肉体を手に入れ、飛躍的にその戦闘能力を高めた。
それでもエストはキャンディを見て、その力強さに舌を巻く。
(どれだけ修練を重ねればあの強さを手に入れられるのだろうか、末恐ろしい妹だなぁ・・・。おねぇちゃんはもっと頑張らないと追い越されちゃうよ・・・。)
ハイパーヒューマノイドとして上乗せされたエストの戦闘能力と並ぶキャンディの戦闘力は恐らく、超人種の中でも指折りのものであろう事がエストには感じられた。
「すぐにおわ!」
「シッ。」
まるで腕が伸びたのでは無いかと思う程の距離から伸びるキャンディの剣は、数メートル間を開けた剣士の剣を容易く捌き、バトルドレスを着る事無く戦う彼女の身体は、床すれすれを舞うように滑り、一気に距離を詰める。
(頑張って剣を出してくる・・・。シルヴァタイトの剣で傷一つ付かないあの剣は何?オリハルコニウム?それとも・・・いえ、無いわね。ウルテニウムを剣に加工する技術は銀河旅団以外には・・・。)
「はっ!やるでは無いか!このウルテニウムの剣と互角に打ち合うとは、なかなかの剣を持っているな貴様!」
(・・・は?馬鹿なのかしら?)
キャンディはやれやれと思いながらも、僅かなからに可能性があるならと思い、会話に乗る事にした。
「何で出来た剣かは判りませんが、シルヴァタイトと打ち合える剣など珍しい物をお持ちですのね。身の丈に合う物をお持ちになった方がよろしいのでは無いかしら?」
多少眉をひそめた剣士だったが、飽くまでも自分の言葉を変えるつもりは無いようで、自分の持っている剣はウルテニウム製であると言って憚らない。
キャンディにはそれが間違いなく嘘であると確信があり、そうで無ければ本人がそれの名を知らないだけという可能性も、僅かながらに残されているのでは無いか?と、考えたがそこそこの腕を持った剣士が、自らの得物を理解していないなどと言う事があるかと首を傾げずにはいられない。
それ故にこの剣士の真意が測れない。
「いい加減嘘を認めてもよろしいのでは?」
「嘘では無い!これはウルテニウムで出来た・・・。」
「ウルテニウムはこの宇宙にはもう存在しないのですよ?」
「・・・。」
剣士は自らの言葉に自信を持って主張を続けていたが、其処に僅かな揺らぎが刺す。
(とは言え、銀河さんが回収する前に誰かが持って行った可能性も無いとは言えませんけどね。)
そうは思いつつも、ウルテニウムでは無い決定的な証拠もあるにはある。しかしそれは銀河旅団のテクノロジーを以てでなければ理解する事は不可能な事でもある。
言葉にした所で相手には理解出来ない事であるが、どうにかして言い負かしてやろうと、キャンディは頭をフル回転させて言葉を探す。
(そうね・・・一応言ってみようかしら。)
「仮にウルテニウムなのだとしたら、このミスリルにも劣るシルヴァタイトと、打ち合う等と言う事が起こらないのですから。」
ウルテニウム製の刃物などまず作る事が出来ないのもそうだが、仮に加工が出来たとしてそんな物があったなら、シルヴァタイト程度の分子結合など素通りする程度の抵抗ですり抜けるように両断されてしまうだろう。受ける事など出来ないのだ。
キャンディはちらとエストの方を見て、どう?と確認を取る。するとエストは複雑そうに笑いながら、その答えを言葉にする。
「その剣は只のメテオライト製の鉄剣だね。普通の鉄より多少硬度があるとは言え、ウルテニウムには程遠いかな。」
何故それが判るとばかりに目を見開いた剣士は、自らの剣をまじまじと見つめ、肩を落とす。
「そんな馬鹿な・・・。この剣は騎士団の叙勲の際に頂いた物で・・・。」
(流石に面倒になってきたわね・・・。何かこれ以上情報はあるのかしら?)
「クロスチャーチルではウルテニウムの剣が主流なのかしら?」
「・・・そうだ。」
キャンディの知る情報とは、照らし合わせようのない情報ばかりが出てくるこの剣士からはもはや得られる物が無いとそう思った彼女は、流れるような足運びで剣士の首を一太刀で跳ねて見せた。
ピッと僅かに付着した血液を振り払い、剣を鞘に戻すとドサリと金属音を響かせ剣士の身体は倒れ、跳ねた頭部は然程広くない通路の壁に勢いよく激突し、転がっていく。
「無駄な時間だったわね。」
「まぁ一つ賢くなったとそう思おう。」
(それもどうかなぁ?)
パメラは冷静に、クロスチャーチルが只の鉄の剣を使っている事が判っただけじゃん?とキャンディに突っ込み、頬を抓られていた。
「だから私は無駄だったって言ったでしょうに。」
「ふがー。」
「おっと・・・やっと追いついたね。」
「あーにーえ~ひゃん。」
パメラとキャンディがじゃれ合いながら進み始めるとほぼ同じくして、その後ろからアーニー率いる部隊が合流し対して広くない通路は僅かに賑やかになる。
「こいつは?」
アーニーはうつ伏せに倒れた首から下を足でひっくり返し、全身を確認すると近くに転がった頭部を見つけ肩をすくめる。
「あんまり良い事は無かったみたいね。」
合流したキャッシュマン姉妹は、特に急ぐ事も無いかと思い、それぞれ情報交換をしながら歩みを進めていく。
そして長い通路の奥に大きな遺跡のような建物がすっぽり収まった、巨大な空洞が口を開けていた。
「さて・・・銀河君早く来ないと終わっちゃうよ・・・?」
遮蔽物の全く無い建物の前では、クロスチャーチルと思われる集団が陣を敷き、隊列を組んで待ち構えていた。
ライプリー・レシュ(2)ハイパーヒューマノイド化 銀河旅団開発部総責任者
眷属化しハイパーヒューマノイドになってから様々な訓練を進んで受け、周りの眷属達からあらゆる教えを受けてきたのだが、元々の性格が受動的な為あまり前に出る事が無かったが、量産機計画を成功させ、雨宮にその存在を改めて見せつける事に成功、資源運用に置いて大きな権限を与えられ、開発部門の総責任者として任命された。
荒事には相変わらず関わりが少ないが、ピュリアとの距離が近く、彼女のメンテナンスはライのライフワークとなっている。
そう言った経緯もあり、ピュリアが出撃する際は何故か専用機があるにもかかわらず、無理矢理ピュリアによってコックピットへと転送され、中の人として押し込められる。
バトルドレスの改良にも一役買っており、雨宮の要望を余す所無く盛り込んだ新型は余りにも重く、まともに重力のある場所ではほぼ運用が不可能であったが、ティオレ・アンクを解析した末に発見された重力コントロールの為の因子、ティオレ因子をバトルドレスを構成する金属に埋め込み、その重さを維持したまま運用可能な状態へと改良する事に成功、新型バトルドレスの名称は、雨宮のセンスを排除し『ソリッド』となった。
量産機計画の際に仲良くなった、キャンディ、パメラ、ルミコとよく一緒にいる姿を目撃されているが、そういう時は大概スペースアーク2の世界へと連れ込まれている。
尚スペースアーク2内でのプレイヤーネームは銀河ラヴ。
ゲイル・セイハート(2) 銀河旅団警備部隊員
銀河旅団再編後から改めて人手の少ない警備部へと配属され、ラピスの中を巡回する毎日を送っているが、一般クルーが増え先輩としての自覚が芽生えたのか、同じ警備部に配属された後輩達の育成にいそしんでいる。
普段から特に何も起こらないラピスの中での警備は、彼にとっては都合が良いらしく、暇を見つけては雨宮に許可を取り、機密ハンガーにいるロボ娘ことピュリア・ナッシュ・・・ではない方の返事をしない本物のロボへと向かい話しかけている。
最近はピュリアが調整の為ライの元に居る事が多く、近付く事さえ出来ない事に多少不満を持っているが、雨宮が造ったのだからアレは人間に違いないとそう認識し、OSの無い二号機へと、花束などを贈っている所も目撃されている。
以前からロペ主催の訓練へと強制的に参加させられていた為、ヘルフレムにいた頃とは比べものにならない程の力を身につけているのだが、周りの力とかけ離れているように見える為、本人は実は強くなっていないのではと不安に駆られ、二号機に会いに行っていない時はトレーニングスペースにて汗を流している。
アーニー・キャッシュマン(2) ハイパーヒューマノイド化 銀河旅団近衛第四部隊エスト隊所属
アトレーティオ4襲撃の際、皆と離れ装備を調えにやってきたのと同じタイミングで巻き込まれ、自身も人知れず海賊を討伐しながら他の冒険者達と共にシェルターへと避難、その際に建物の屋上からゲルン・マースを応援する雨宮をみておかしな奴もいるもんだと、その直ぐ近くのシェルターへと逃げ込んで事なきを得た。
合流後他の姉妹達と暫く共に行動していたが、雨宮の私室に侵入しようとして失敗しそのまま奥の部屋に連れ込まれる。
その時偶然雨宮は誰にも言え無いような実験をしている途中で、雨宮は彼女に傀儡として死んで操られるか、全てを差し出し永遠に眷属となるかの二択を迫られる。
しかし彼女は雨宮の中の暗い欲望を知ったが「どちらも選ばない。でも私が貴方の味方でいてあげる。全部あげるから笑っていよう?」そう言い雨宮の全てを受け入れた。
現在アーニーは近衛に所属しているが、正式にはマギア・ジェドの艦長でもある。
七番艦を任されるアーニーは雨宮からの真の信頼を勝ち得たと言えるかもしれない。
エスト・キャッシュマン(2) ハイパーヒューマノイド化 近衛第四部隊エスト隊隊長
雨宮と合流し協力する事に決めてから暫く、アーニーが一時行方不明になる事があった。このことを不審に思い雨宮とアーニーが二人でいる所を捉え、問いただしに行こうとしたものの、総司令官と一般クルーの差は中々埋められず正式には雨宮に中々会えなかった。嫁であるロペにそのことを尋ねるのもおかしいと思い、独自に雨宮の事を調べていた所親衛隊ティオレによって捕縛、雨宮の秘密の部屋に閉じ込められる。
程なくエストと雨宮が完全に腕を組んで歩いている所が目撃される様になり、漸く結ばれたのかと周りはほっと胸をなで下ろしたが、実はそうではなく、アーニーの一件があり雨宮は普通にエストにも同じように二択を迫ったが、エストは躊躇無く後者全てを捨てて眷属になる方を選んだ。しかしこの答えを予測していた雨宮はいい加減半端な距離感で迫られると怖い、と言う事もあり自身の秘密を共有、味方に引き込む事にしたが本人は遠慮しなくて良いんだよ?と全てを捨てても一向にかまわないといい、アーニーに詰め寄られている。
好きな食べ物はアップルパイ。元々凝り性なエストはパイ生地から作る事を至上とし、アトレーティオ4へ行った際雨宮達と離れコンテナいっぱいのリンゴを購入している。しかしアップルパイ以外の食べ物を作る事が何故か出来ず、他の物を作っても何故か失敗しロペからは汚物。と誹られる事もしばしばあった。
アーニーと同じく近衛ではあるが正式にはマギア・ジェドの副艦長でもある。
キャンディ・キャッシュマン(2) 超人種 銀河旅団近衛第四部隊エスト隊副隊長
雨宮に完全に傾倒しているわけではないが、非常に好ましく思っているのは確か。
先頃ライによる量産型量産計画の一端を担い、雨宮とロペの合作であるウルトラロボットクリエイターをクリアし、周回プレイを繰り返し行っている。
現実に干渉する謎のプログラムを解析するべく、繰り返し量産計画と並行し解析を行おうとしてはいたものの、妹と共にゲームに打ち込むのが楽しくてしょうが無い。
親衛隊ミリュによって異世界の存在としてマークされている事を知っており、接触されるのを待っている。
中二をこじらせたような内面をしており、上手く仮面を使いこなして他にはばれないようにしているつもりだが、サーバーの中を監視出来る雨宮、ミリュ、リファンリアの三人には筒抜けであり雨宮に至っては彼女が楽しめるように、ウルトラロボットクリエイターの大型アップデートを実装する事に決めている。
立場上中々ロペやエスト達姉妹との接点が持てず、一緒に食事ぐらいしたいと思っているのだがお互い忙しく、今のところかなう予定がない。
ウルトラロボットクリエイターにて自分の為に最強のマシンを作る事を目標にして日々素材集めに奔走しているが、実は機械音痴でありプレイヤーとして最高の能力は持ち合わせてはいるものの、クリエイターとしてはライの手助けが必須であるが故に思うように行かない事を少し残念に思っている。
ティオレ・アンク(2)ウルテマヒューマノイド化 銀河旅団親衛隊長
銀河旅団発足後、教団を辞め一時七番艦へと出向、雨宮によって種族的な特徴を調べる為に一度完全に分解され、その情報を完全にサーバーへと保管される。
これによって銀河旅団では、なぜかティオレのそっくりさんがあちこちで見かけられるようになった。
基本的にはラピスのクルーとして戦闘部隊の総隊長をしながら、雨宮の側付きとして常にその傍らに付き従っている。
雨宮に名前を呼ばれる事に至上の喜びを感じており、何時までもこのままで居てはいけないとは思いつつも、名前を呼ばれるたびに感動し震え上がりそうになるのをこらえている。
重力操作のスキルは進化し、超重力操作となりマイクロブラックホールを生成できるほどになった。
しかしコレといって使用する機会が無い為、一般クルーの訓練に際し加重トレーニングと称して、自身のスキルの訓練をしている様子がクルー達によって目撃されている。
アノン・ケイ 28歳 人種 クロスチャーチル正騎士
聖域と呼ばれている建物を守護する部隊に所属していたが、銀河旅団襲撃の際我慢出来ず一人で出撃、キャンディによって首を跳ねられた上、死体蹴りされる。
尚彼の持っていた剣はクロスチャーチルの掲げる逆さ十字を柄にかたどった、量産型のアンクロスソードと呼ばれる物で何処でも採れる隕鉄によって量産されている安価な剣。
尚本編に名前は出ない。




