EP53 死闘 悪党 電磁砲
と言うわけで年明け一番だぁ!
「随分待たせてしまったなぁ。」
悪い事をしたと思いながらも、状況がそれを許さなかった事もあり雨宮の胸中は複雑だった。
「割と忙しかったからねぇ、しょうが無いょ。」
歩いていては時間が掛かると、半ば全速力で走り始めた銀河旅団の面々はダンジョンでモンスターに遭遇する事も無く、三十分と経たず試しの門へと到着した。
門の周りには緊張した面持ちで車座になって腰を下ろした冒険者と思われる集団と、暢気二人であやとりをしている風魔の姉妹が居る。
雨宮は立ち止まる事無く二人の女と巨人の元へと脚を進める。
「お待たせ。」
「はぁ・・・はぁ・・・随分遅かったじゃねぇか!」
「・・・っく、待ちわびた。」
二人の巨人の身体には玉の汗が浮かび、足も腕も気の毒な程震え、今にも力尽きそうになっていた。
「・・・ごくろーさん。」
「良いか・・・俺達はもう限界だ、この扉から手を離せば十万の巨人と天使の軍団が雪崩れ込んでくる・・・と思う。」
(おもうて・・・。)
「あく迄推論だが・・・。」
「ああ大丈夫話の内容は二人から聞いている。」
雨宮はその後ろに付き従う総勢四百名程の眷属達へと振り向き、左手で右胸をトントンと叩いた。
「手加減の必要の無さそうな相手だ、全員バトルドレスを装着して迎え撃つ。」
「総員戦闘準備!!」
ティオレの声がダンジョン内に響き、雨宮を含む全員が色取り取りのバトルドレスに身を包み、各々でウォーミングアップを開始した。
「二人とも、何時でも良いぞ。」
突然姿の変わった集団に目を向ける事も出来ない巨人達は、雨宮の言葉を聞くなり崩れ落ち、その門から手を離した。
崩れ落ちた二人の巨人を片腕で担ぎ上げ、門から少し離れた所に横たえたのはテツだった。
「若ぇ奴らだな、見た事はねぇがなかなかの面構えなんじゃねぇか?」
「テツはそのままで良いのか?」
「まさかまさか。元のサイズで行くさ!」
テツは上着を脱ぎ捨て拳をかち合わせ、ゴキゴキ全身の内側から生理的に不都合の生じそうな音を立てながら、元のサイズへと戻りバトルドレスを身につけた。
ゆっくりと開く門は徐々にスピードを上げ、門が開ききらないうちに小柄な巨人達が雪崩れ込んでくる。
小柄とは言ってもそれはあくまで門番の二人や、テツと比べた場合の話であり、眷属達との体格差は数メートルにも及ぶ。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
雄叫びを上げながらダンジョンの中に入り込んだ巨人達だったがしかし・・・。
「水鉄砲用意・・・てぇ!」
エクスのかけ声と共に一歩前に出た水属性魔法の使い手達は、ライフル型魔導増幅器を構え、超高圧力で圧縮された水のレーザービームで巨人達の身体を穴だらけにする。
辺り一面が一瞬のうちに血の海と化した奇っ怪な状況に、周りで見ている事しか出来ない冒険者達は目を白黒させる事しか出来ず呆然としていた。
「充分通用するみたいだな。」
「雨宮。私も前に出て良いか?」
「おっ?来たなセーラー戦士。」
「なんだセーラー戦士って・・・。」
そんな短いやりとりをした後、普段は食堂の主としてラピスの胃袋を握っていたセイラーは、自分の身長の三倍はある大鉈を片手で振り上げ、次々と迫り来る巨人達の首を跳ね胴を裂き、叩き潰していく。
「せーちゃんは元々ここで普通に戦える人なのよー。」
「オーバーキルオーバーキル。」
すらりと背の伸びたエリーは、漸く成長痛の波を乗り越えたらしく、この戦いから前線に復帰する事になった。
とは言え本職がオペレーターなのは変わらないのだが。
その横では切嗣が、実体の無い弓を構えて肩をすくめている。
「珍しいな?切嗣が表に出てくるのは。」
「万が一の事を考えてるって事よ、活躍の場か無くなるのは俺的にあんまりよろしくないんでね。」
バトルドレスのフルフェイスに完全に身を包んだ切嗣は、光で出来た矢を無数に放ち、空を飛び巨人達の死体を乗り越えて来た天使達を撃ち落としていく。
「まぁ、これをやってる所を見られたら身バレも糞も無いんだけどな。」
話には聞いていたがアーチャーだったんだな。流石ベテラン冒険者だ。
「言っておくがよー、俺の実力だけでこんなことが出来るわけじゃ無いんだぜ?このスーツが凄すぎるだけなんだぞ?」
何言ってんだこいつは、バトルドレスはあくまでも只の防具だ、肉体を強化するような機能は無いし攻撃力を上げるような要素を入れ込んだりもしていない。
「一応言っておくが、お前が考えているような機能はそれには無いぞ?プラシーボ効果じゃ無いのか?」
「気のせいじゃねーって!」
「よく考えろよ、お前のそのスキルの威力が上がっているとしても、バトルドレスにはそんな機能は全く無い。大体スキルに干渉するようなものを使ってない・・・はず。」
・・・?使っていない・・・よな?確かにミスリルを使った部分もあるし、オリハルコニウムを使っている部分もある。
だが大半はウルテニム合金で出来ているから・・・。んー?
「そう言えばライ達がドレスの改良をやっているような事を聞いたような気もしないでも無いが。」
「いやしかしだなぁ・・・。」
「まぁ何か有るのかもしれん俺が知らんだけで、皆思い思いにやっているから。」
ずずん・・・
「雨宮の、このスーツは凄いな!」
又それかよ。
元のサイズ(八メートル)に戻ったテツはバトルドレスを身に纏っている、見た目の問題か大きさの問題か、スペースワーカーが自立して動いていると思われても仕方が無い。
切嗣もテツもそうだが、新庄も俺も結局武器も持っていない。全員素手だ。
テツは近くにあった手頃な岩を片手で掴み、漸く完全に開ききったヴァルハラゲートの向こうへとぽいっと投げる、流石の巨人の戦士達も自分の身体よりも大きい岩を支える事は出来なかったようで、そのままの勢いで数人の戦士が下敷きになった。
「こんな事素のままだったら出来ないぞ?」
「そら出来んわ。何トンあるんだあの岩。」
「さあなぁ?まぁ軽かったしそんなに重くは無いと思うぞ?」
そんな訳あるかい。
「さて・・・何時までも死にかけや死体を放置しておくのもはばかられる、バラしてしまうか。」
「「そっちの方が出来んわ。」」
門の前に堆く積み上げられた巨人と天使であった物は、雨宮のナノマシンに包まれこの世界から消え去った。
「ふむ・・・凄いデータ量だな。この中に天使ザムエルは居ないようだが・・・。」
そして何故か俺の中のナノマシンがざわざわと俺に対して何かを訴えてくる。
「なんかむずむずする・・・。」
だが今は取り敢えずぐっと我慢の子。
次々と現れては倒されていく巨人、そして天使。ひょっとしてウチとこの娘達ってめっちゃ強いんじゃ無かろうか?
そう思い自然と口角が上がる。
「銀河きゅん嬉しそうねぇ。」
ニコニコとフェイスオープン状態のバトルドレスに身を包んだロペが、前線から戻ってきた。
「皆楽しそうだし、今回は俺は掃除に専念した方が良いかなーって思ってさ。」
雨宮の手の届かない所で倒された巨人達は七番艦所属のイレーサーユニットに因って端から分解され消えていった。
「雨宮君。」
「ん?」
珍しい呼び方で俺を呼んできたのはロペの親友という者達の一人、レーム。
「参加しないのか?」
「さっき少し参加してきたよ、巨人も天使も初めてだったけど、後の事を考えなくて良いからって事で最初っから全力で行けば対したことは無いね。むしろ私の通ってたダンジョンに居るモンスターの方が強いかもしれない。」
「きゃあぁあああああ!!!」
ズゴン!!
「「!?」」
レームと二人で戦場を見渡しながら雑談していると目にも留まらぬ早さで誰かが飛ばされ、岩壁に突き刺さる。
「あいたたたたぁ・・・・。」
「アマリー?大丈夫か?」
「んんー・・・大丈夫。なんともない。」
ホントに大丈夫なんだなぁ。ものすごいスピードでぶっ飛ばされてきたから死んだかと思って身構えてしまったぞ。
「雨宮!天使長だ!」
飛ぶように跳躍しながら天使を叩き落とすセイラーが、その天使長とやらを追いかけて此方まで戻ってきた。
「貴様がこの惨状の原因か・・・!!!」
何言ってんだこいつ・・・間接的にはそうかもしれんが、一目見りゃ他のクルー達が原因だと分かるだろうに。
「アマリー?」
やれるか?とナノマシン経由で通信すればゼッコロ!っと憤りをあらわにする。
「ハッ!先ほどの雑魚が、又私の前に立つか!?」
銀色に近い光を反射する長髪に青と白の鎧を身に纏った天使の女性は、腰に携えた幅広のロングソードを鞘から抜き放ちその切っ先をアマリーへと向ける。
アマリーも今正に飛びかからんと身構え、俺の合図を待っている。が、俺の横で部隊指揮を執っていたティオレは、その天使長を見つめながら首を傾げる。
「あの天使は馬鹿なのでしょうか?」
「え?」
「いえ・・アマリーはアレでも主に細部に亘って強化された超越存在ですよ?そのアマリーと同レベルの超越存在が、百人単位で居るこの場所に飛び込んでくるなんてとても正気とは思えません。」
いや確かに七番艦クルー達の性能試験の為に、多くのクルーをここへ連れてきている。しかしそれがどの程度のモノかというのは普通は分からんのでは無いだろうか?
「まぁ良いか、アマリーそいつは生け捕りにしろ。」
「了解!モルモットだね!」
そこまで言っていないんだが・・・。
返答を返すとすかさず、天使に飛びかかっていくアマリー。悠然と構えた天使長は真っ直ぐにアマリーへと向け剣を構えたままアマリーに片手で顔面を掴まれそのままの勢いで後頭部から地面に叩き付けられた。
「このやろー!ボスの前で恥かかせやがって!!」
ガォン!
「人が別の奴と取っ組み合ってる横から蹴っ飛ばしやがって!」
ガォン!
「ちょ・・・。」
ガォン!
「なめてんじゃねーーーー!!!」
ゴゴォン!!
「あー・・・。」
はぁ・・・とため息をつくティオレと固まる切嗣。周りの天使達も自分達を纏める存在の圧倒される様子を見て、武器を取り落とす。
「ぐぬぅーー!!」
「ストップ!ストップ!死ぬから!生・け・捕・り!」
「あ・・・。」
天使長は馬乗りになられたままで顔面を殴りつけられ、恐らく最初の一撃で意識を刈り取られ、首が明後日の方を向いた状態で動かなくなっていた。
ティオレの手によって取り押さえられたアマリーは、ぷんすことふくれっ面を晒しながら俺の側に戻ってきた。
生きてるよなこれ・・・?
「アマリーちゃんめっ。」
「ごめんなさい。」
エリーが兜を粉々に叩き潰された天使長を引きずり此方へと連れてくるが、つい数秒前まで盛大に粋り倒し自信と美貌に溢れていた顔は、両目からは眼球が飛び出し歯も無くなっている。
よく原形を留めているものだと感心する程のダメージだった。
「一応生きては居る・・・みたいだな。」
「頑丈だねぇ天使。」
「まぁ多分・・・この兜と鎧のお陰だろうな。」
テツはのしのしと前線から戻り、砕けた兜の欠片をつまみ、光に賺してみた。
「ふーん?なんか特別な鎧なのか?」
「あぁ、天使共の作っている簡易的なアーティファクトだ、こちら側の世界の武具と質としては対して差は無いが、神気と呼ばれる力を練り込んで作られているから、そこらの武具とは比較にならない性能になっている・・・と思うんだが。」
テツはバラバラに砕け散った兜の欠片を眺めながら、苦笑いをして天使を気の毒そうに見ている。
アマリーは眷属の中でもそこそこ攻撃力がある方だと思うが、それでも最後の一撃まで何とか兜は形を保っていたから、テツの言うように相当の防御力はあったようだ。
徐々に喧噪が収まり周りは倒れ伏した巨人と天使、そして膝を付き化け物でも見たかのような顔で周りの眷属達を見ている。
次々と押し寄せてはたたき伏せられ死んでは分解され消えていく、そんな様子を見る事も無かった後続の戦士達は現状の最前線に居る戦士達が急停止した為、何事かと必死に前をのぞき込み天使は上空に飛び上がった瞬間に、ヒューニや他の眷属達によって狙撃され首から上が消えて弾け飛ぶ。
「勢いが完全に止まったな、まだ十分の一も来ていないんだが完全に先頭に居る奴らはビビってるなこれ。」
「軍団の将はまだ一人しか来ていないようだが、どうなっているんだろうな?」
テツはのっしのっしと眷属達が空けた道のど真ん中を通り、先頭に居る小柄な巨人の戦士の元まで近づいた。
「おい、巨人将達は来ないのか、天使将達も誰一人として現れない、何のつもりでここに来たんだ?」
テツの身長の半分程の巨人は目の前に来たテツの巨大さと、その威圧感に縮こまり口を開けないで居た。
それでも悲鳴を上げて逃げない所は流石巨人の戦士と言った所なのかな?大分威圧しているから苦しいだろうに。
「・・・きょ・・・巨人将はこの直ぐ後ろに居る・・・。天使は知らない・・・あいつらは逃げてもおかしくは無いから・・・。」
「ふーん?巨人も天使も両方ともチキンなんだな、前に立たない将軍の意味なんて無いだろうに。」
「雨宮、それは事の一面だがそう言う側面も有るというだけの話でな?」
新庄は何気なく俺にツッコミを入れながら俺の横に並びともに歩き出す。その一歩後ろにロペ、エリー、エクス、ティオレの四人が続き、俺達が門の境界線上まで辿り着いた時不意に視界が暗くなり辺りに地響きが響き渡る。
目前の空間に突如として土煙が上がり大地を割った破片が降り注ぐ。
土煙の晴れた後に見えたのは首が横を向き頭を掻くテツと、巨体の拳を振り切り背中まで見え、今にこすっ転びそうになっている巨人。
ずずん・・・
「あ?」
テツは自分の意識外からの攻撃に呆けた声を上げ、勢いのままにすっころんだ巨人の方へと視線をやる。
「グゥルディルか?この腰の入ってねぇ糞みてぇな拳は。」
「・・・。」
完全にずっこけて地面に形作られた小さなクレーターの中にころがった巨人は、テツを見て怒りに染まるが直ぐに起き上がり構えを取った。
何だか昔ゲームかアニメで見たかのようなヴァイキングの様な姿をした巨人は、武器も持たずテツの前に立ちはだかる。
ふと俺は横を向いて新庄を探したが、新庄は先ほどの一瞬でテツより遙か前方まで飛び出し、もう一人別の将と対峙していた。
ーーーーーーーーーーー
「久しぶりだな新庄議員、いや、元議員だったか。」
「ああ、何か勘違いしているようだな、天使ゴリエル。」
「ゴゥドリエルだ・・・。」
「俺が議員を失職したのはお前の力では無い、そこに居るロペ女史の策略によるものだ。お前は利用されていただけなのさ。
にしても月に居た天使が何故こんな所に居る?」
「・・・貴様には関係の無い話だ。」
「大方上級議員に取り入ろうとして失敗し、逃げ帰ってきたんだろう?」
「・・・。」
「ふっ・・・。」
新庄は既知の間柄である天使を前に、眼鏡外し、埃で汚れたレンズを綺麗に拭き取ると再び眼鏡をかけ見下すように天使へと視線を投げかける。
「情けない奴だ、あの程度の議会にも潜り込めないなんて、天使が聞いて呆れる。」
自らの失敗をさも見てきたかのように語る新庄を睨み付け、端整な顔立ちが怒りに歪み歯ぎしりの汚い音が天使の雰囲気を台無しにした。
「貴様にな・・。」
パスッ
「何か有用な情報を持っているのかと思って近づいてきてみたが、本当に只の負け犬だったようだな。」
新庄は瞬時に自らの右腕をキャノン砲へと変化させ、レーザーのようなものを放った。
それは天使の顔面に拳大の穴を開け、その後ろに居た戦士達を数人巻き添えにし、貫通した。
「さて・・・俺もたまには運動しないとな。訓練だけでは飽きが来る。」
ーーーーーーーーーー
「ふふ・・・新庄も動き出したか!こいつじゃ相手にならんがちょっと相手してやるか!」
「何を言うか!故郷を捨てた異分子が!!」
ジリジリと近づき拳の届く位置まで辿り着いた巨人将グゥルディルは、拳を振りかぶりテツに向かって数発パンチを放つが、その全てをテツは避けずに身体で受ける。
「はっはっはっはっ!!何も感じんなぁ!触ったか?」
様子見のつもりだったのか非常に軽い拳はテツの身体に触れる事も無く、その数ミリ手前で何かに当たって弾かれる。
「貴様・・・神気を纏うのか!!」
「違うな!これはオーラだ!神気というのはな!」
テツはバトルドレスを纏った拳を大きく振りかぶる。
「巨人王の下僕にだけ与えられる只の排泄物みたいなもんだ!!」
ゴシャッ
グゥルディルはテツの華麗なアッパーで天井に突き刺さり、力なく身体の制御を手放し、動かなくなった。
「がっはっは!やはり弱すぎて相手にならんなぁ!」
俺は楽しげに笑うテツの横に立ち、天井に突き刺さった巨人を見上げる。
ポタポタと血液が垂れ徐々に地面に血だまりを作っていくが、ダンジョンに吸収されシミにもならず消えていく。
ついでに分解しておくか、あんまり強く無さそうだから別にどうでも良いとは思うが。
「知り合いか?」
「知り合いの子供だな。アレが将ならその質は落ちたもんだなぁ。昔は一番弱い将でもこんなに弱い事は無かったんだが。」
「ほぉー将ってのは結構いっぱい居るのか?」
「そんな訳ねぇだろ、将軍だぞ?天使三巨人三の六人しか居ないはずだ。」
「じゃあその内の二人がここに居るのか?」
「さっきの天使は将じゃない、将ならもっと良い装備をしているはずだ。あの蒼い鎧は下級天使だからな。」
「下級。その割にあの巨人より強かったよな?」
俺は上を指さし分解され消えかかった巨人を見て他の巨人の将軍の事を考えてみるが、テツと同じぐらいの強さがあるような巨人の事をまだ見た事が無いので、その強さを図りかねている。
「あぁ、あの天使は強かったな、相手が悪かったみたいだが。一応言っておくがさっきの天使の方が何倍も強いと思うぞ。」
「巨人って弱いのか?お前を見ているとそんな風には見えないが・・・。」
「俺は強いからな!」
がはは、と大口を開けて笑うテツはそのまま恐れ戦く雑兵達を押しのけ、ヴァルハランテの大地を踏んだ。
「はぁ・・・久しぶりの故郷だ。だが、何も変わらんなぁ。」
「そんなもんか?」
「何度となく見たここからの景色も、ここから見える城も、そうそう変わる物では無いのかもなぁ。」
門の先に広がる草原は辺り一面巨人や天使で埋め尽くされ、以前少しだけ見た綺麗な花畑も、草の匂いも戦いの臭いに取って代わられ、風情も何もあった物では無くなっている。
「どいつもこいつも酷い顔だな、何をそんなに焦っているんだか。」
「全くだ。この世界も寿命が尽きたか?」
世界の寿命ねぇ?その辺の情報は今のところよく分からん。
首をひねって何かあったかと考えていると、テツは知っている事を教えてくれる。
「俺が生まれた頃から、ヴァルハランテはもう寿命が近いとそう言われていたんだ、それこそ俺が寿命で死ぬ前には消えて無くなると、・・・俺のじいさんが言っていた。」
「それは確かなのか?」
「間違いないはずだ、じいさんは柱へのアクセス権を持っている外部管理者だったからな。」
・・・思いもかけず重要そうな言葉が飛び出してきた。
「そのじいさんはまだ生きているのか?」
「いや、俺がここを出る前に死んだ。・・・第三世界で言う・・・と言うかお前が界獣と言っている奴らに食われてな。」
ここにも居るのか。
「そういや言っていたな、既に界獣を作る技術は流出しているとか。」
「この世界の端っこ・・・竜の爪痕とか呼ばれていた所で遭遇した奴は、あの洋介とか言うのの操っていた界獣とは違っていた気もするが、もっと凶暴で好戦的だったな。」
「時系列が分からんから何とも言えんが、閉鎖世界の界獣は全部洋介君が操っていたらしいからなぁ、ロペの神域を壊した界獣も別の世界から送り込まれた奴かもしれんなぁ。」
今判明している時系列を考えてみると、まず洋介君最初の界獣になる→エマ苗床になって界獣量産→空白→牧場世界閉鎖、第三世界へと侵攻。
ざっくり言うとこんな感じかな?この空白の間に何が有ったか分からんので、そこで時系列がおかしくなる何かがあったと考えられるが、テツがこの世界に出てきたのは二百年前?とか言っていたか。
だが二百年前には界獣は居なかったはずだ。アレを作ったクルファウストがそれを自分で証明した。
そもそも流出した経路とその行方が分からないのが困りもので、それ自体は洋介君に確認するように頼んであるんだが、何時になるか分からない。
クルファウスト自身は界獣が完成した後に、侵攻先の世界を知るべく先行して第三世界に侵入していたから、流出の元では無い。
騎士団長にもう少し詳しく話を聞いておくべきだったな。
「その世界の端っこというのも見てみたいものではあるが、こいつらを無視していくわけにはイカンだろうしなぁ。」
俺達は全員ダンジョンから先へと進み、徐々に戦線を押し上げていく。
既に這々の体で逃げ出す巨人と天使が数多く出ており、敵陣は既に戦線を維持できていない。
押せば押すだけ下がっていく、そんな状況になっていた。
「しかしこのままでは埒があかんな、将とやらが出てこようとしないならこっちから城に突っ込むしか無いか。」
地平線に見える巨大な城は、見た感じかなり距離がある様だが、虚数空間に忍ばせた移動倉庫を持ち歩いている俺に隙は無い。
「銀河きゅん?」
「ちょっとまってろ・・・。」
俺はポケットに手を入れ、ポケットの中で虚数空間の入り口を開き大人数を運び移動可能な、小型宇宙船、超高速移動倉庫α-7を取り出し戦線を押し上げた後の更地に取り出した。
「どこから出てきたんだよそれ。」
「ん?ぽけっとよぽけっと。」
「メタいからやめろし。」
切嗣から既定路線の突っ込みを貰い、船の中を確認しようとした・・・。
ごおおおぉおおおおおん!!!
「コレはいい倉庫!・・・・。」
一瞬のうちに燃えさかる炎に包まれる超高速移動倉庫α-7。
「だ・・・。」
彼方から飛来する謎の熱線は戦場を焼き、辺り一面に炎の海が広がっていく。
「漸く重い腰を上げたようだな。天使将。」
テツは一歩前へと踏み出し、彼方から飛んできた天使を睨み付ける。
呆然としていた雨宮が正気を取り戻すと先ほどまで移動倉庫があった場所に赤い鎧に身を包んだ天使が降り立ち、六枚羽根の翼を器用に畳みごく自然な動作で近づいてくる。
「人間がこのヴァルハラン”ん”n”!?」
かなりの美貌の持ち主である事は分かった。俺も嫌いじゃ無い。目鼻立ちのハッキリした清楚系美女。
だが俺に話しかける前にしでかした事がよろしくない。非常によろしくない。
つい鳩尾に拳をめり込ませてしまった。
グゥルディル 二百八十歳 ティタン族 ヴァルハランテ巨人将
ヴァルハランテの水と風を司る管理者として将の地位を手に入れたのだが、この第三世界侵攻に際して急遽他の候補者がいなくなってしまった為急遽繰り上げで将になった。
本来将として有るべき実力は備わっておらず、若さにものを言わせて暴れ回るだけの粗暴ものだった。
しかしとある天使に組み易しと簡単に唆され、何故か誰も名乗りを上げなかった空きが出た将の地位に名乗りを上げ、候補者の中でも一番下から数えた方が早い位の実力しか無い彼が納まってしまった。
過去にヴァルハランテで起こった厄災などの知識が全く無く、只テツの事を裏切り者とだけ認識しており、視界に入れた途端激怒、飛びかかったが一切の攻撃が通じずヴァルハラゲートの天井に突き刺さって死亡した。
父親と兄の三人で暮らしていたが、兄と比べて非常に育ちが悪く常に兄と比較される事にコンプレックスを持っていたが、将となってそのコンプレックスが払拭された様で、張り切って前線任務へと向かう姿が兵士達によって目撃されていた。
ゴゥドリエル 四百八十二歳 下級天使 ヴァルハランテ連合軍兵士
かつてヴァルハランテの天使達の一派『知天使』に属し、第三世界へと潜伏、世界を裏側から支配しようとの目論見で、月共和国へと潜入していた彼は何故か天使としての素性を隠さず、議員の下働きとして野党の政治家の元で働いていたが、雑用係として使われていただけで、政治のせの字にも触れることが出来ず、その激務に耐えきれずヴァルハランテへと逃げ帰った。
しかし普通はある程度の知識は自信で学び、その振る舞いなどを現場で見て盗むような世界で、彼は何も見ず何も理解できず、訳も分からないままで唯々雑用をこなす毎日を、周りの人間に毒を吐き当たり散らすことで発散しようとしていたことを周りの人間は理解しており、芽の出ない彼を誰も相手にしなかった為、居なくなっても誰も気が付かなかった。
そんな日常の中で彼は若くして政治家として嘱望されていた新庄と出会い、打ち解けた・・・様に見せられていた。
新庄は只彼からその故郷、ヴァルハランテのことを探るようにロペから指示を受けていただけであり、他の者達と同じ様に彼自身には特に気に留める事も無いと、極力接触を避けていた。
事務所から逃げ出した際、彼は新庄なら追い掛けて来てくれると勘違いし、宇宙港で三日待っていたがそんな事は無く、新庄が彼が逃げ出した事に気が付いたのはヴァルハラゲートで見かけた時のことであった。




