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EP52 ポセイドン防衛線

大晦日でござる大晦日でござる!

水星軍総司令部


 「これは一体どういう事だ」


 慌ただしく職員の走り回る司令部に入ってきた男は、遅々として進まない作戦の状況に顔をしかめ、状況を把握するために司令官用のシートに腰をかけた。


 「何故司令部の正面入り口が開いたままになっているのかと聞いている!!」


 「それは・・・。」(皆逃げたからに決まってんじゃん・・・。)


 「報告します!冒険者ギルドからの返事が来ました!」


 「今更か・・・?」


 「ハッ!ギルドは軍からの依頼を受けない方針を固めました」


 「何を馬鹿な事を・・・今は緊急時だぞ!?」


 「そ・それが・・・」


 歯切れ悪く端末を確認する報告者は、そわそわと所在なさげにその場に立ち尽くす。


 「何だ!!」


 「ハッ!ギルドは無意味な上に報酬のない依頼を受ける理由がない、元よりどのような事情、状況にあってもギルドと軍は対等である。指揮下に入る理由もない。・・・との事です」


ダンッ


 司令部に響き渡る大きな声で罵詈雑言を撒き散らしながら、水星軍統合司令部副長官レイシュ・アッカーン准将は司令部を見渡す。


 (・・・ん?何だ・・・?)


 レイシュは立ち上がり、ゆっくり司令部を見渡した。


 何故か空席が目立つ。


 よく見てみれば慌ただしく走り回っている者は確かに居るが数人と少ない。


 「何故これほど人数が少ない・・・」


 「ハッ!理由は不明です!」


ダンッ


 「不明なはずが有るか!!誰にも何も言わず消えたとでも言うのか!?」


 「し・・しかし・・・。」(皆逃げたんだって・・・。)


 「しかしも案山子も無い!さっさと全員呼び出せ!全員だ!!」


 「ぜ・全員でありますか・・・?」


 「そうだ!私の指揮下(・・・・・)にある全ての部隊に今すぐ緊急任務を出せ!司令部に集結しろと!!」


 「りょ・・了解しました・・・。」


 報告に来た士官は自分のポジションに戻り、水星軍全軍へと通達を出す。


 「水星圏方面軍全軍に通達・・・直ちに統合本部・・・ポセイドンコロニーへと集結せよこれは厳命である、全ての任務を放棄し直ちに集結せよ。繰り返し・・・。」


 緊迫した空気が満ちる中、僅かな意志のすれ違いが水星圏を混乱へと導く事になる。


ーーーーーーーーーー


水星ダンジョン入り口


 「これがあれば通れると言う」


 「冒険者になるなんて新鮮ね」


 美陸みり美海みかの二人は冒険者ギルドの他の冒険者達と共にダンジョンの入り口に立ち、先にモンスター討伐を始めている軍の防衛隊とギルドの冒険者達を遠巻きに見つめている。


 「酷い有様」


 「ここで戦闘なんて危なそうね」


 二人の場合はあわよくば、ヴァルハランテへと侵入しその情報を持ち帰る積もりでいた。

そもそも潜入捜査の為にここに来たものだから武器や防具なども持ち合わせていない。


 そんな二人を怪訝な顔で見つめるのは、一般的な装備に身を包む普通の冒険者達。


 「ねぇ、貴女達なりたての冒険者なんでしょ?せめて武器ぐらい・・・」


 「?武器なら有る」


 「そうね、心配してくれてありがとう、でも私達は大丈夫」


 「そ・そう?」


 二人はそのままダンジョンへと入る事にした。


ーーーーーーーーーー


 ダンジョンの入り口には、どこから集まってきたのかと思う程のゴーレムの群れが、防衛部隊を徐々に押し始めている。


 「おい!軍人共!砲の射撃は無いのか!?」


 「ここでは無理だ!ゲートの外に出ないと巻き込まれる!」


 「戦車ぐらい出せるだろう!?」


 「無いんだ・・・・・・」


 「何だって?」


 乱戦の騒音で聞き取れない冒険者は、互いに背中を預け合い聞き漏らした言葉を確認する。


 「今なんて言った!?」


 「だから一両も無いんだ!皆乗って逃げちまったんだよ!」


 「はぁ!?」


 「逃げたっつってんだろ!今此処にいる兵員しかもう残ってないんだ!」


 「マジかよ・・・」


 先ほど司令部の敷地の外に向かって、走り去っていった軍人達は皆、単純に逃げ出した脱走兵だったという事だった。


 「ならこれ以上戦力が増える事は無いって事か」


 「軍はそうだろな・・・。ぐあっ!」


 背中を預け合っていた二人は一際大きなゴーレムの一凪で叩き飛ばされ、美陸と美海の足下へと滑り込んだ。


 「あら?油断したみたいね?魔力は温存しておきたいから回復は後ろに居る誰かにお願いしてね?」


 「あんたは・・・?」


 「・・・銀河旅団。それだけ教えておく。」


 美海はビシッと床に這いつくばる二人へと指を指す。


 「美海、私達は諜報部、広報じゃ無いのよ?宣伝なんてしないで良いんだから」


 「そうだった」


 二人の前に非常に重そうな足音を響かせ、周りのゴーレムより二回り程大きな石のゴーレムが立ちはだかる。


 「大体十メートルって所かしら?」


 「SW(スペースワーカー)と同じぐらい?」


 二人は両手の爪を確認する。空色に光り輝くコーティングに守られた爪は二人の顔を映し出す。


 「ちゃんと固まってる」


 「殿に報告できる事が又一つ増えそうね?試しましょう」


 「「ふっ!」」


 左右に分かれ巨大ゴーレムを回り込むように動くと同時に美陸は素早く腕を振り、何かを飛ばす。するとゴーレムは美陸に狙いを定め腕を振り上げようとしたが、その腕は動く事無く地面に落ちた。


 「牽制のつもりだったのだけど、貫通したみたいね・・・・・・」


 偶然関節の繋ぎ目を狙ったミスリルの爪は直撃し、大きさの割に細く脆い繋ぎ目を切り落とした。


 片腕を失いバランスを崩した巨大ゴーレムの後ろから、美海が姿を現しその巨体を飛び越えるように跳躍し、右手を素早く振り上げる。


 動かなくなったゴーレムは縦に両断されバランスを失ったまま、落ちた片腕の上に倒れ込み、砕け散った。


 「流石は殿の作ったミスリル。店で売ってる不純物混じりのミスリルとは魔導率が段違い」


 美海は砂埃の立ち上る空間からゆっくりと美陸に近づき、拳を合わせた。


 「爪一枚分剥がしてしまったけど・・・アレも回収して・・・。」


 そう言って美陸が見た先は何も無い空間だった。辺りをナノマシンで確認してみるが、飛ばしたミスリルの爪は確認できず、ナノマシンに残るデータログには所持者から離れすぎたため分解消滅したとの履歴が流れた。


 「爪については問題は無いようね。」


 「そうみたい。」


 完全に動かないゴーレムをちらとナノマシンで確認した二人は、そのままダンジョンの中へ向かい歩き出した。


ーーーーーーーーーー


 「えぇ?手伝ってくれないのか?」


 「あの二人何なの?めちゃくちゃ強いじゃ無い?さっき冒険者登録していたのに・・・・・・」


 「まぁ、初めて冒険者になる奴が弱いとは限らないって事か」


 二人を見た冒険者と軍人は、歩き去って行く二人の姉妹を見送りながら、普通サイズのゴーレムの大軍に苦戦する防衛部隊を見て、もっと強くなろうと心に決めるのだった。


ーーーーーーーーーー


ヴァルハラダンジョン浅層


 第三世界側から見た水星ダンジョンは浅層と深層に分けて語られる。洞窟の様な浅層、そしてヴァルハラゲートを抜けた先である異世界ヴァルハランテと言われる深層。


 二人は普通サイズのゴーレムをミスリルの爪でバラバラにしながら悠然と進んでいく。

 曲がりくねったり横道が有ったりもしない、だだっ広い通路のようなものが延々と続いているだけだ。


 「それにしても多いわね、ゴーレム」


 「レベルが上がりまくって身体がなんかおかしい、ナノマシンがざわついてる」


 「噂には聞いていたけどこんなに変わってしまうものなのね。これも報告書に・・・・・・しなくても他の人がやっているか」


 「一応纏めとく」


 ゴーレムをなぎ倒し、無理矢理道を切り開きながら進む事数時間、二人は巨大な扉の前へと辿り着く。

そこには巨大な扉を必死で押さえつける二人の巨人が居た。


 「人間・・・・・・では無いようだな」


 「おい・・・・・・お前等!ここに近づくなよ!さっさと外に出て・・・」


 「そっちがみるめーく、で、そっちがとらんく・・・・・・だっけ?」


 「グゥルメィクだ!」「ドランドゥオだ・・・・・・」


 この二人がこのポセイドンコロニーへと来たのは、事前調査と、可能で有ればこの巨人二人への伝言を届ける事・・・・・・と言う任務を受けていたからだ。

そして目的の一つは早々と達成され、この奥までやってきたのは只単に伝言を届けるためだけだった。


 「取り敢えず伝言」


 「この状況でそれを言うのかよ!」


 「伝言とは何だ」


 「おっさんも聞くのかよ!」


 「おっさんでは無い」


 巨人二人は片方ずつ扉を押さえながら器用に首だけを動かして風魔姉妹の方を向いて、会話をしているが・・・。


 「その前に誰だよお前等は!」


 「私達の自己紹介は必要ありません、この後まもなく・・・と言っても一日はかかるでしょうが、殿・・・雨宮銀河様がいらっしゃいますのでもうちょっと待って欲しいとの事です」


 「マジか!一日・・・おっさん!」


 「おっさんでは無い。一日なら何とかなる」


 「では暫くお待ちください」


 「「それでは」」


 踵を返して帰路につく風魔姉妹。


 「ホントに帰るのかよ!手伝えよ!」


 「いえ、結構余裕そうですので帰ります」


 「報告も有る」


 「それに私達二人がその扉を押さえた所で、対して役には立ちませんよ?」


 巨人二人は助けを求めては見たものの、それもそうだと改めて腹の底に力を込め地面にしっかりと脚を付け、身体ごと扉を押さえつけた。


 「そう言えば殿から聞いた話では、その扉は自動で開くものなのでは?」


 「もうその機能は解除してある、和平交渉とやらから奴らが去った後直ぐにな」


 「こいつはもう只の重い扉になってるって事だ」


 だかそのせいでどちら側からでも開けられるようになり、今正にヴァルハランテ側からの猛攻、に若干軋みをあげるようになってしまっている。


 元々この大扉、試しの門はヴァルハランテ側が設置し、侵入者を拒むために開ける方法を限定したのが始まりだった。

それが年月を経るにつれ、ヴァルハランテの統治者が変わり、試しの門は第三世界側の人間を誘い込むように、操作可能なアーティファクトとして加工され今その役目を終えた扉は開かれようとしている。


 「・・・送信完了、そのまま話し相手になってやってくれって言われた」


 「あら・・・お弁当を持ってきていないけど・・・まぁ一日ぐらいなら大丈夫よね」


 多少心に余裕が出来たのか、グゥルメィクは二人に向けて矢継ぎ早に質問を投げかけるが、美海は「聞くより見た方が良い」と敢えて楽しみを残す方で返事を返し雑談を躱しながら時間が過ぎていく。


どどどどどど


 「なんだ?」


 「人間か?」


 二人が門に到着してから数時間が経ち、騒がしかったダンジョン内は静かになり、そして又騒がしくなる。


 「おーい!!無事かぁー!?新人ー!」


 大きな声で二人に呼びかけるのは、冒険者登録をする際に二人にウザ絡みをしてきた冒険者の一人だった。

静かになってから数刻、既にゴーレムの群れは多くの犠牲を払いながらも撃退され、防衛線は再構築されつつある。

そんな中でダンジョンの中に押し入っていった二人の新人冒険者は、非常に周りの者達の印象に残っていた、


 「あんた達・・・何をしているの?」


 「ん?雑談」


 「時間つぶしよ」


 「「何で?」」


 銀河旅団やここに居る巨人に関わりの無いその他の冒険者達にその事情など分かるはずも無く、首を傾げて試しの門を見上げる冒険者達、しかし彼らの知る試しの門とは今の門は大分様相が違っている。


 「なんか・・・門がおかしくねぇか?」


 「と言うか門番が何で門を抑えているの?」


 訳の知らぬ冒険者からのもっともな質問にドランドゥオは一瞬答えるべきか迷ったが、ある程度の事情は知っていた方が良いと判断し、現状を語り始めた。


 「この扉の向こう側には、天使と巨人総数十万の侵攻部隊が扉を破ろうとしている。だが巨人も天使も全員が戦闘可能な存在だ、その総数は即ち向こう側の世界に居る全ての巨人と天使だと考えて良い。」


 「「全て!?全員!?」」


 「和平交渉にアーティファクトを持ちだしていた事から何事かと考えていた、お前達は知らないだろうが天使ザムエルと言う奴が、持ち出せる全てのアーティファクトを手にしていた。

そんな事をしなければならない要件など数える程しか無い」


 「おっさん!勿体ぶるなよ!何が起こったんだよ!」


 「おっさんでは無い。俺が考えた可能性は二つ、一つは天使と巨人の決別。だがこれはお互いにとって難しくメリットが無い」


 「もう一つは?」


 地面に座りそこらに落ちている石ころを積み上げ、立派な城を築き上げていた美海は質問をするためにふと、ドランドゥオを見上げた。


 「ヴァルハランテに終わりが訪れたのかもしれん」


 その言葉を聞き、門の前の広間に集まった冒険者達に動揺が走る。後者の可能性が真実であるならこの場が新しい戦場になる、しかもその全てが死兵となって襲い掛かってくるのだ。


 元より巨人、天使と互角に渡り合える冒険者は多くない。ランクにしてAランク最低でもその程度の力が無ければ、巨人や天使と立ち会う事など出来ない。


 天使は未知の魔法を、巨人はその強靱で巨大な肉体をそれぞれ持ち、こと肉体のみで言えば、天使でさえ普通の人間とは比較にならない程の耐久力を秘めた肉体を持っている、生物としてのベースが第三世界とは桁違いに強化された存在なのだ。


 そんな圧倒的な存在とも言える二種族が全てを賭け、只生存するために背水の陣の元突撃してくる。


 負け戦は目に見えていた。


 「俺達だけじゃ・・・。抑えきれるはずがねぇな・・・」


 「案ずるな」


 ドランドゥオは冒険者達から語られた外の世界の話を聞き、一つの考えに辿り着いていた。


 「いざとなれば、ダンジョンをコロニーとやらから切り離してしまえば良い。恐らく我ら巨人といえどもその宇宙という無の空間では生きていく事は出来まい。天使の事は分からんがそれだけで巨人は一掃できよう」


 悲壮感漂う決意を秘めた言葉を放ったドランドゥオを見上げていた風魔の二人は、クスクスと笑いながらその決意に満ちた言葉を一蹴する。


 「大丈夫」


 「そんなもったいない事をしなくても良いのよ。もう直ぐ殿がここに来るからその時は銀河旅団と正面衝突・・・あら?」


 美陸は正面衝突して・・と紡ごうとしてふと大切な事を思い出す。


 「ギルドカードを持っているクルーはどの位居るのかしら?」


 「殿も持ってない」


 「あらら?これは先に言っておかないと後が大変そうね?」


 「どういう事だ?」


 二人の巨人は冒険者ギルドによって封鎖されている状態の入り口の事を知り、少し顔をしかめたが、以前雨宮がここを訪れた時の事を思い出し、それが杞憂だと知る。


 「奴はそんな物を持たずとも直接ここに来た事がある、事態を知った現状なら問題なく駆けつけてくれるのでは無いのか?」


 「・・・もうすぐそこに居るって」


ーーーーーーーーーー


 水星冒険者ギルドのサブマスター、トゥー・リンは混乱を極めていた。


 「あの・・・急ぎなのは・・・分かるんです・・・でもですね?手続きが・・・」


 「あのねぇ!そんな事を言っている場合じゃ無いでしょ!?」


 「そうです、今は一刻を争う事態、(しゅ)の妨げになる事は許されません」


 冒険者ギルドの手続きには火星にある冒険者ギルド総本部へとデータを送り犯罪などの経歴を調べ、遺産の受取人を決めたり、遺書を書かせたりと、難しくは無いがとにかく手続きが多かった。

人数が増え、管理が難しくなりつつある冒険者を管理する為には仕方が無いとは言え、無駄に足止めを喰らっている銀河旅団のクルー達は、目的地を目の前に蹈鞴を踏んでいた。


 「非常事態だというのにこの体たらく、これでは政府も黙っては居ないぞ?」


 雨宮と共にギルドの入り口を抜けてきた新庄は、受付嬢に向かい事の重大さを理解しろと詰め寄っていく。


 「君のその行動がこの世界の危機を招き入れる事になるのだ、その責任はとれるのだろうな?」


 「そ・・・そんな事・・・」


 新庄の心は何故か今迄に無いぐらいに逆立っている。意識の奥底に押し込めていた前世の記憶、前世での新庄を生み出したその切っ掛けになった女、受付嬢はその女と鏡写しの外見をしているのだった。

その顔を見ているだけで、無意識に眼鏡を触ってしまう。そんな不可解な行動に苛立ち、自分自身に少しの嫌悪感を覚え表情が引き攣っていくのが感じ取れる。


 (造形、声、性格・・・全てが・・・。)


 「落ち着けよ新庄。何をそんなに苛ついてんだか知らんが、その娘は違うんだろ?」


 「そうだ・・・。そうだ」


 新庄は自分に言い聞かせるように呟き、受付嬢から視線を外した。


 「雨宮、時間が惜しい突破しよう」


 「そうだな・・・」


 雨宮は冒険者ギルドの閑散とした状況を見て少し肩を落とし、手続きにも時間が掛かると言う事を知って更に憂鬱な気分になった。


 「はぁー・・・・・・下手したらもう冒険者になれないかもしれんなぁ・・・」


 「銀河きゅん、そんな事無いってぇ。バーちゃんが何とかしてくれるからさ」


 「そうかぁ?」


 雨宮達は受付嬢の制止を気にもとめず、ダンジョンの入り口へと向かって進む。


ーーーーーーーーーー


 「オイオイ今度は何だ・・・?折角ゴーレム共を片付け終わった所なのによ・・・。」


 見張り台に上り目視可能な範囲でダンジョンの中を確認していた軍の見張りは、ギルドの方から歩いてくる数百人にも及ぶ制服に身を包んだ謎の集団に目を見張る。


 「おい!そこの見張り!ゲートのバリアを解除しろ!」


 先頭を歩き、見張り台の下までやってきたアマリーは真上を見ながら声を張り上げた。


 「そんな事出来るわけ無いだろう!お前等一体何だっ!!!!???」


ガン!ガン!


 ウルテニウム製のガードが入った靴で、見張り台を蹴り上げるアマリー、その小さな身体からはとても想像できない程の破壊力を持って四本脚で立つ見張り台の一脚をねじ曲げた。


 「解除しないならこのまま蹴り倒すぞ!」


ガン!ガン!


 「ま・・待てっ!待ってくれ!俺は只の見張りだ!ここからでは何も出来ない!バリアの解除はギルドでしか出来ないんだ!!」


 二度手間・・・。雨宮は頭を抱えギルド内へともう一度戻ろうかとも思ったが、その前に目の前のゲートは音も無く消え去った。


 「分解しちゃった」


 てへっ!と全く悪びれもせず、さもこうあって当然であるかのように眷属クルー達はゲートそのものを分解し、雨宮の道をこじ開けた。


 「まぁ直せるから良いか・・・。ティオレ、入り口の警戒に部隊を一つ割いておこう」


 「ハッ!既に警戒に当たらせています!」


 「良し、じゃぁ中に行こうか」


 唖然として揃いの赤い制服に身を包んだ謎の集団を見送る軍人と防衛隊の冒険者達、蹴るだけで粗悪品とは言えミスリル合金製の見張り台を蹴り飛ばす様な者達に異議を唱える事も出来ず、自分達よりも一回り二回り小さい女達を唯々見つめていた。




レイシュ・アッカーン 五十七歳 ヒュンブ 太陽系連合軍水星圏統合司令部副長官 准将


 水星軍の政治将校として長年勤め上げてきたエリート軍人、前線に出たことは今迄一度も無く、その体型は軍人とは到底思えない程ヒョロヒョロのもやし体型。

その頭脳と家柄だけで准将まで上り詰めた典型的なボンボン。軍人としての能力は下の中。下から数えた方が早いレベル。

しかし若き日の訓練にてダンジョンへと侵入し、ほんの少しレベルを上げレアスキルに目覚めた所から彼の増長が始まり、スキルの練度は他の追随を許さぬ程の超一流なのだが、前線に出ることが無い為未使用のままのスキル童貞。

 決して頭脳労働が得意なわけでは無く、寧ろ前線に出てこそ初めてその真価を発揮できる能力の持ち主なのだが、何故か全力で前線に出ることを拒否、あらゆる手を使って前線に出ることを避けている。


 トゥー・リン 二十九歳 ヒューエル 冒険者ギルド水星圏本部サブマスター


 若くしてサブマスターの地位を手に入れるに至った才女、元々は月共和国の出身だったが、その能力を買われ偶々空きの出た水星圏ギルド本部のサブマスターに就任、水星圏ギルド全体の売り上げを底上げするなど多大な功績を残している。


 ヴァルハランテから宣戦布告がなされた際、ギルドマスターはギルドの資金の一部を持って逃走、彼女によって指名手配されることになった。

これが原因で彼女が異性の出世をし最年少ギルドマスターとなるのだがそれは又別のお話。


 彼女の容姿、声、その性格などがか前世での新庄が初恋をした女性と酷似しており、新庄も彼女もお互いに運命的なものを感じるに至ったが、その思いは真逆である。

新庄は彼女を見るだけで吐き気と苛立ちを催し、手を上げそうになる錯覚を覚えているが、彼女は既視感とときめきを感じてドギマギしてしまい、その態度が更に新庄の感情を揺り動かす。


 冒険者として活躍していたこともあり、巨人や天使と渡り合える限りなくSランク冒険者に近いAランク。

得意武器はマグナムトンファー、近接戦闘に特化した冒険者であった。


 好きな食べ物は天然火星マグロの刺身、サブマスター就任の祝いの席で食べたマグロの味が忘れられず、いずれか制へと赴き専門店をはしごしたいと思い、せっせと預金を課せ寝る毎日。

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