EP51 忍び忍ばず
ついにダンジョン突入・・・?
拙者は服部、服部宗野心蔵乃助殿に印象を付けるべくこのような喋りを実践してござる。
「なぁあんた諜報部の人間だろ?俺も仲間に入れてくれよー仕事無いと肩の荷が狭いんだってー・・・」
拙者に話しかけてきたのはエックス・甲賀殿、同じく忍びに属する者であるらしい。らしいというのも、彼は忍びである事が嫌らしく、自分はスパイだと言ってはばからないのだ。
「そもそも其方何をしにここに居るのでござるか?」
「ぐぅ・・それを口に出すのは流石に・・・」
まぁそうであろうな。普通の諜報員であればそもそもこんなに目立つような事はしない、無職ならなお目立たなくて良いと思うのだが。
「仕事が欲しいと言われても拙者は平でござる。殿に直接言うかキャッシュマン女史に伺うが良かろう」
そもそも拙者にそのような権限は無いのだ。聞く相手が間違っている。
・・・こいつ本当に諜報員か?
「流石に何処にも何も出来なくて困ってんだよー。なぁ頼むよー。」
しつこいでござるな・・・。
「仮に拙者がそれを良しとした所で、殿は其方等を信用して居らんし仕事が回ってくる事も無いであろうよ」
「そんな事無いだろー。俺これでも甲賀の免許皆伝なんだぜ?」
普通そんな事バラす奴が居るか?自らの素性をバラす諜報員とか一体どこから必要とされるというのか。
一応全員の所属や背景は全て把握しているが、敢えて追求する事も無く、殿は暗に知って居るぞとそう言う態度を見せるに止まっているはずだ。
帝国の少佐殿は、帝国から給料が振り込まれているか不安だという事で、ここで仕事を与えられているが、それは単に殿の優しさで有るのと、彼自身が有益な存在である事を示したが為でもある。
既婚者である事も要因の一つであるような気もしている、殿はお人好しだ。
「其方はあの少佐殿と違って頭が悪すぎるのだ。少なくとも銀河旅団では必要とされる事は無いであろうよ」
肉壁としてならあるいは・・・。ござるはそう心の中で呟いたがこれ以上こいつと話をしていてもため息が出るだけだと、その場を離れた。
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マギア・ラピス ブリッジ
「教育係ですか」
殿は拙者に風魔の娘達と、諜報員としての能力の高い者達の教育を任せたいとそう仰った。
光栄ではあるのだが、拙者には荷が重すぎるのでは無かろうか?
「流石のクルファウストでもそっちの方面には疎いらしくってな、一番その界隈で実績のあるお前さんが良いかと思ってな」
消去法という事でござるか、殿はいつも分かりやすくて助かる。歯に衣着せぬという輩も居るが拙者には此方の方が分かりやすくて良いのだ。
「承知しました、やってみましょう」
「ん。頼む」
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マギア・ラピス トレーニングエリア
任されはしたものの、はてどうしたものやら。風魔の娘達と言えば一応皆伝の者であろうし、それについてわざわざ教える事など無いのだろうが、まぁ銀河旅団について教えておく事は多々ある。
そして・・・。
親衛隊の方々より先にある程度『教育』しておかねば、彼女達も殿によって『再構成』されて仕舞うであろう事も考えに難しくない。
拙者は特殊な方法で眷属にして頂いた、男の眷属のテストケースであるが故にこれを命ぜられたのであろう・・・はっ!
と言う事は風魔の娘達は既に眷属化したのか!
「流石殿。手が早い」
それにしても呼び出してから随分と時間が掛かる、まだ誰もここに来ない。眷属化している者達なら迷う事など無いはずなのだが・・・。
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風魔 美海
ここに来てから数日が経った、今は水星ダンジョンに向かっているのだという。私は今までこんな大きな戦艦に乗った事が無い。とっても新鮮だ、あっちこっち散策しうろうろしているのだが・・・。
「迷子になったかもしれない」
おかしいな?自室から出たのが多分一時間ぐらい前、部屋にいた時に二時間後から訓練を始めるから、レクリエーションルームに集まるように言われて、二階に階段で上がってから・・・。
「そうだ、ネコ」
ネコが階段の踊り場に見えたモノだからちょっと追いかけてみたんだけど、結局見失ってしまったのだった。
と言うか・・・広い。
「ここは・・・プレイルーム?」
誰か居るかもしれない、ちょっとのぞいてみよう。
プシューン
ビリヤード台って初めて見た。スロットマシンもある・・・アレは美空に見せたら駄目な奴だ。
エアホッケー?奥の広い部屋にはバスケットボールがころがっているが、誰も居ない。
「なぜ・・・」
皆仕事中なのかもしれない・・・。
「でもここが二階なのは分かった」
前向きで行こう。
プレイルームを出ると目の前に白いネコが座って此方を見ている。さっきの黒いネコと似ている。
「ちちち」
指を指しだして誘ってみるが全く微動だにしない。
「あんた何やってんだ?」
「!?」
白いネコは女性的な声で普通に私に話しかけてきた。
凄くびっくりした。
「しゃべる・・・の?」
「なんだこのやろー、ネコがしゃべって悪いか」
ぐぅ、悪くない。可愛いです。
「さっきアーリーの事、追いかけてただろー。びっくりしたって言ってたぞー」
アーリー?ひょっとしてさっきの黒いネコの事?
「ごめんなさい。つい気になっちゃって」
「お前素直な奴だな。何やってんだこんな所で、早くリラクゼーションルームに来い」
そう言うだけ言うと彼女?は此方に可愛らしいお尻を向けてテコテコ歩いて行く。
案内してくれるならありがたい。私もその後ろを付いていく。
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ござるー
やっとやってきたのはちょっと前に我ら銀河旅団を監視していた、『元』水星軍ラーアミ・マトイヤル、つやのある空色の髪が特徴的な女。
「えーっと・・・ここがレクリエーションルーム?」
「そうだ、随分遅かったな?」
「不可抗力なんだけど・・・私あいつ・・・雨宮に呼び止められてたんだよ」
ふむ、今し方殿から彼女について不問にするようにとの連絡が来た。ナノマシンというのはかくも便利な物だ、諜報員が要らなくなるのではとそう思える。
「まぁ良いか、適当に座って待っていてくれ。見ての通り君が一番だからな」
「他にも来るのか?」
「殿からは二十人程来ると聞いているが・・・」
「そんなに!?何で!?」
そう言えばそうだ、そう言う話も私がしなければならないのか。いや、だが・・・。
「君は眷属じゃ無かったか?」
「眷属?」
「いやなんでも無い。」
そうか、知らないのか・・・まぁ幾ら彼女が元々諜報員だったとしても内部の事情など知らないか。
プシューン
そんな話をしていると漸く他の者達も集まってきた。つい自分が早く来すぎたのかと時間を確認してみたがそんな事は無い。
普通に一時間程全員が遅れている。
諜報員にとって時間の感覚は必須だ、それ以前に社会人としてどうかという話なんだが・・・、ヘルフレムにいた者達が居ないのがせめてもの救いか。
彼女達は長い囚人生活で研ぎ澄まされ、一般登用のクルー達より遙かに社会性が高い、集団生活に慣れているとも言うな。
こんな奴らで本当に大丈夫だろうか?いやそれ以前にこうやって教えるのも初めてなんだが・・・。
大学の講師達の事を思い出して色々考えては見たものの、正直上手くいく未来が見えない。
こう言った事に慣れている他のクルー達にも助言を求めては見たものの、自分にそれが実践できるとは限らない。
ざわざわとクルー達が集まり、思い思いに近くの椅子に腰をかけていく。
「・・・一人足りないな」
・・・今気がついた、彼女達の顔は見覚えがある。全員だ。
プシューン
「遅くなりました。」
いやほんとにな、むしろ私が集合時間を一時間間違えたのかと思うぐらいだ。
「まぁ良い、私が今日から暫くの間君達の教育を受け持つ事になった服部だ。とは言っても様々有る部門の一つとして君達が集まっている訳だが・・・」
「アタシ達は何をやるって言うの?」
そう言いながら足を組み赤いロングの跳ねっ毛を掻き上げるのは風魔の長女。
「君がここに居る時点で察してしかるべきだと思うが?」
もちろんここに居る者達は全員、これから銀河旅団の諜報活動を担う事になる者達だ。その為に彼女等に必要な事を教える必要があるという事だ。
ここに集まった二十人の中で眷属は五名風魔の四・・・三姉妹と元警備部の一人、そして彼女達の上役としてまとめ役になって貰う七番艦のイレーサーユニットが一人。
そのほかの者達は・・・。
「風切だの影家だの、見た覚えのある奴らばっかりじゃん?」
この風魔は・・・。だが確かに、名うての忍び達ではあるのだが、同業者に簡単にばれるというのも如何な物か。
だが風魔達はさておき、それ以外の十五人は殿のセレクションを上位で通過してきた者達だ、それなりには力も頭もある。
それに何より・・・。
「ここに居る者達以外にも似たような境遇の者達は居る、だが選ばれたのは君達だ」
「・・・何か別の理由でも?」
首に妙に長いマフラーを巻いた忍びとは対極にあるような格好をした女は、同業者の括りで呼び出された訳では無い事に疑問があるようだが、そんなのは決まっている。
「殿が選んだからだ、それ以外に理由は無い。見た目重視なのは間違いなかろう」
一時ざわつき妙な空気になったが、やる事はすませてしまおう。それ以外の話は後でも良い。
「そう言った疑問は後で殿に直接聞くと良い。とは言っても話が終わったら暫くはここへは戻れんだろうがな。」
彼女達には銀河旅団のスタンス、殿の欲している情報について説明し彼女等に支給される備品のセットを手渡していく。
「今渡した物を説明する」
ナノマシンフード
ラップのように薄い使い捨てフード。ナノマシンによるスキャンが行われていない場所で有効な魔術光学迷彩、機能を使用している間は光を透過するフィールドを展開、使用者の意思によってそのフィールドの範囲を増減できる。
簡易ディメンションドア
ゴムのように引き延ばして使うツール。輪っかになるように伸ばして壁などに貼り付ける事によって、最大三十センチの厚さを通過する空間を生成する。
但し使い捨てのアイテムでは無いため必ず回収する必要がある。
ミスリルマニキュア
紋章技術によって液体化する事に成功したミスリル製マニキュア。爪に塗る事で極薄の刃物として装着する事が可能な使い捨てできる武器。
各種ナノマシン端末アクセサリー
イヤリング、ピアス、ブローチ、ネックレス、リング、バングル、ストラップ等様々な形にしてあるナノマシン操作端末。眷属には必要ない。
遠隔操作型ナノマシンボム
発信器の役割も果たす使い捨てマジックアイテム。二ミリ程の超小型爆弾だが爆発自体は魔法による物なので魔力の込め方次第でコロニーごと吹き飛ばす事も可能な大容量型の爆弾。
見た事も無いような謎のアイテムの数々に興味津々で手に取ったりひっくり返したり、様々な角度から支給品を確認する女達、使いようによっては、銀河旅団を社会的に窮地に追いやる事も出来るようなアイテムを簡単に渡すとかどういう事?と訝しげに此方を見てくるのが分かりやすくて実に良い。
「消耗品は使い捨ててもかまわないが、その分報酬から減額される、資源は無料では無いからな。それと・・・アクセサリーに関してはどのような状況においても必ず肌身離さず身につける、若しくは持ち歩くように」
「それは何故?」
風魔の次女・・・美陸と言ったか同じ顔なので美空と見分けが付かないが、敢えて髪型を変えてあるらしい、綺麗に整えたロングを一つに纏めてある。これが無ければ正直声を聞くまで分からない。姉の方が若干喉が焼けている。
「機密保持のためだ、それら全てのアイテムは我々以外の手には決して渡ってはならない。技術の流出については言うまでも無いが、どれか一つでも戦が起こる可能性があるような代物だ、殿はそれを望んでいない。」
そして。
「ドアとアクセサリーには認証システムを搭載している。所有者以外の手に渡ると所有者を巻き込んで自爆するように設定してある。君達の身体に微量のナノマシンが活動している事は既に説明を受けているだろう。
それらが全て自爆するようにプログラムが施してある。跡形も残さずに死ねるだろう、生きる事が許されない場面では有効な物だ。但し眷属で無い者達は半端な成果では殿は復活させてはくれないだろうと覚えておくと良い」
「ふ・・・復活ってどういう事ですか?」
霧隠の長女か。真面目そうだが情報収集にアラが残るイメージだな。
「ここに居る者達は全員銀河旅団の正式なクルーだ。それは即ち殿によって生態情報を保存されている事を意味する。そして我々に有機物のストックが有る限り人として再び生を受ける事が出来るという事。人以外としても可能だとは殿も言っていたが、アイデンティティの崩壊によって肉体に精神が無理矢理同調しようとするとか何とか、そのような事も聞いたな。」
簡単に言えば死んでも大丈夫だが荷物が全部無くなるから気を付けろという事だ。
「あとは・・・」
ハイハイハイ!と声を上げるのはやはり風魔の長女。
「報酬ってどーなってんの?」
意地汚いのは子供の頃から変わっていないな。
「基本は成功報酬、それ以外の報酬を得たければ有益な情報を持ち帰る事だ。何時どの程度仕事をするかは君らに任せるという話だが・・・、成果を見せるまでは真面目に働く事をおすすめする」
「その心は?」
一番前に座り必死に話をメモしているのはジリー・ライヤー。白髪に片眼が悪いのかモノクルを付けている凹凸のハッキリした女。彼女の事も殿は気に入っているようだ。
ライヤーの一族は特殊な召喚魔法を得意としている。
「殿は行程をあまり重視しない、だがそれは何でもやって良いというわけでは無い。特に殿を利用しようとはしない方が良い、殿に害をなす者はほぼ生き残っていない。
自ら生み出した身内も拷問にかける事もあるしな・・・。」
「・・・」
「ともかく、殿の機嫌を無意味に損ねない事だ、ある程度の信用が得られれば君らもやりやすくなるだろう。」
一通り説明が終わった所で、彼女達のリーダーとなる女性が隣へとやってきた。
「私が銀河旅団諜報部を統括する事になるエリナ・甲賀、よろしくね」
彼女は・・・数時間前に絡んできたエックスの姉だ、既にその身体は眷属化して久しい。
彼女も又殿の情報を得ようとやってきた者の一人だったが、アトレーティオ4襲撃のどさくさに紛れて艦へ侵入しようとしていたが、ナノマシンによる光学セキュリティに阻まれ、出入り口であっさり捕まった・・・残念な忍びだった。
だが今はロペ殿の矯正と、殿の躾によって完全に屈服し、忠誠を誓っている。
「貴方達には一人一機、移動用のステルス戦闘機が与えられます。しかし、もう分かっているとは思うけど失ったら罰金、そして奪われたら自爆するようになっているわ。貴女達自身も含めてね。」
立派になったものだ・・・・・・。いや、おかしくなったのか?
「銀河様に超最高クオリティの情報を届けなさい、以上よ。依頼はナノマシン経由で受けられるから何時でも開始可能だからね?」
にこりと銀河旅団の制服に身を包んだエリナが笑顔で殺気を放ち、場の空気を引き締めた。
「あと、銀河様を裏切ったら、超殺すわ。」
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マギア・ラピス メインブリッジ
モニターには片手間に作ったステルス戦闘機、『バイパー・ウーノ』量産型の戦闘機の試作型が飛び出していく。
二十機のバイパーはそれぞれ違う方向へと向かい、超空間航法のゲートを生み出して飛び込んだ。
「小型のディメンションスリップシステムは上手く作動するようだな。」
一度も動かした事の無い戦闘機だったので、試運転には丁度良かった。全員のバイパーがゲートの中に消え去って暫くすると、俺の端末に報告有りのアイコンが表示される。
「ん?何か有ったっけ?」
何かを指示して忘れていたとか、研究中のアレの事とか・・・あるっちゃあるか。
中身を見てみるとそれは、小型のディメンションスリップシステムの使用の報告書と、バイパーの改良提案を纏めた草案だった。
報告書の内容は可も無く不可も無く、予想の範囲を超えなかったが改良の案は彼女等諜報員にとっては必要な物が纏められていて、その中でも俺が気になったのは・・・。
「別人のように変装できるアイテムか・・・。」
「変装道具ぅ?」
「メイク道具でも渡しておけば・・・ぉ?」
ナノマシンによって魔術的な光学迷彩効果を得られるフード、アレの技術を応用すれば別人に成り済ます事も割と簡単なんじゃ無いだろうか?
しかし顔が変わった所で、以前ミンティリアが使っていた魔法『アナライズ』を使われてしまえば一発でばれる。
そう言った力を偽るような効果の有る物でもあれば良いんだが・・・そんな物はそうそう有りはしない・・・有りは・・・。
「有るな」
俺は上着のポケットに入れっぱなしになっていた小さな旗を取り出した。
「銀河きゅんそれって・・・・・・」
「アーティファクトって奴だな」
分解解析するって言ってから、ちょろっと情報を手に入れたのは手に入れたんだが、流石はアーティファクト、完全に解析するのには少し時間が掛かっている。
俺は改めて『乱心の煽り旗』を完全に分解し、サーバーにそのデータを保存した。
「解析完了まで一月だと」
「それでも早いですね?」
「相変わらずスキルの解析と並行して進めているからな、ご愛敬といったとこじゃ無いかねぇ?」
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水星圏首都コロニー ポセイドン
コロニーの中はある程度の平静を装っているものの、メインストリートには慌ただしく宇宙港へと向かう軍人達が溢れかえっている。
「流石にこれから戦争が始まるんだから、こうなっていても仕方ないわよね」
「どうかな?何か別の理由でも有るのかもしれない」
風魔四姉妹の次女美陸と三女美海は、開戦準備で慌ただしいメインストリートを、買い物客を装って練り歩いていた。
美陸は姉と違い肩甲骨辺りまであるストレートの髪を束ね、伊達眼鏡をかけて顔の印象を心持ち抑えている。
美海はフード付きパーカーにジーンズを合わせた、スポーティーさを出したストリートファッションに身を包み、視線だけで周囲を観察している。
「そもそも何で港の方に軍人が向かっているのか、行くべきはダンジョンの方じゃ無い?」
水星ダンジョンは水星軍総司令部のある、軍の敷地内に入り口がある。海王星ダンジョンと同じ様に、万が一ダンジョンからモンスターが出てきたとしても水際で止める事を想定しての立地になっている。
そもそもこのポセイドンコロニーは、ダンジョンの入り口を封鎖する目的で作られたコロニーなので、その警備は厳重である。
「と言うか、総司令部の方から逃げてきているようにも見えるね」
軍用の車両に乗り次々と出てくる軍人達は、交通ルールなどお構い無しに逆送し、爆走して走り去っていく。
二人は冒険者ギルドの水星圏本部へと脚を伸ばす。立地としては総司令部の建物と繋がっているので依頼を受けダンジョンへと入るのに、建物の外に出る必要が無い・・・位のメリットがある。
「冒険者は居るのね。」
ギルドの中は多くの冒険者達で混み合っている。怒号を発する冒険者も居て、何かが起こっていると想像するに難くはない様子だった。
「軍は何をやっているんだ!ダンジョンの入り口を開放したまま立ち入り禁止だと!?」
「このままじゃ巨人と天使が出てきちまうだろ!!」
「落ち着いて下さい!今軍に問い合わせて・・・」
二人は少し受付のカウンターから離れたテーブル席に移動して、冒険者達の様子を観察する事にした。
「問い合わせなんかしてる場合かよ!あいつら皆逃げてるだろ!?もう誰も居やしねぇよ!!」
「それよりさっさと進入許可を出しなさいよ!コロニー迄来られたら町が・・・!!」
水星ダンジョンの出入り口は、軍によって光学的、物理的に封鎖されており、冒険者がダンジョンへと侵入する時はギルドから進入許可を受けた冒険者の証である、IDカードを所持していなければ光学的に弾かれ大やけどをしてしまう。
物理的なゲートは既に開放されているが、光学ゲートは冒険者ギルドにその開放は一任されている為、辛うじてモンスターの出現は抑えられている。
しかし巨人や天使に対してそう言ったモノが効果が有るかどうかは未知数であり、その二種と手合わせをした事がある冒険者達からしてみれば、恐らく二つのゲートでは止める事は出来ないだろうとそう感じてしまう。
「ぐ・・軍と連絡が取れました・・・」
「「「「・・・」」」」
血の気の引いた受付嬢の声に静まりかえるギルド内。水を打ったような静けさに陥ったこの場の緊張感に、思わず生唾を飲み込みそうになるのを我慢し、彼女は何とか声を出す。
「冒険者は直ちに総司令部の防衛任務を受領し、軍の指揮下に入れ・・・との事です・・・。ですが!!!」
何故かこの場にいないギルドマスターの代わりに、冒険者ギルド所属の職員階級を表したサクラの花びらを三つ付けた受付嬢は、目尻に涙を浮かべながら声高に冒険者達に指示を出す。
「軍の依頼は受けなくても良いです!直ぐにダンジョンへ向かい、防衛線を築いて下さい!皆は本星系ギルド支部、及び他星系のギルドへと救援要請を!打診はヴァルハラダンジョンスタンピードセリ・・・です!!皆さんコロニーを守って下さい!!」
少し離れたテーブルで話を聞いていた二人は、手に持った端末でラピスへと報告をする内容を上手く二分割し、二人で報酬を受け取ろうと算段をしていた。
「戦争になるか怪しいぐらいの感じ」
「むしろ一瞬で制圧されそうよね」
「旅団が到着するまであと一日はかかる、それまで多分保たないよね?」
「私達で何とかするしか無いわね?折角眷属にして貰ったんだから、貢献しないと」
二人は席を立ち、動き始めた冒険者達を横目に、受付カウンターへと向かう。
「「冒険者登録したいんだけど」」
二人はまだ冒険者では無いのでダンジョンへと入る事が出来ないのだった。
風魔 美陸 (ふうまみり)三十六歳 超人種 フリーター
風魔四姉妹の次女。姉の美空と同じく風魔流忍術の免許皆伝、美空とは双子の姉妹だが本来持ち得た性格を二分割したかのような正反対の性格をしている。
主張は弱いが妹達の事はとても大事に思っている。しかし、美空にコスプレを押しつけられた時明らかに自分のサイズでは無い物押しつけられ、困惑し四女トトへとコスプレを押しつけた。
諜報員としての技術は超一流だが、それを生かすタイミングが無く、実家があった頃は家の炊事洗濯、店の店長等も一手に担っていて四姉妹の母親役だった。
好きな食べ物はロールキャベツ、趣味はパッチワーク。
姉妹の下着から洋服から全てを自作し、少しでも出費を抑えテイク努力をしていた。
風魔 美海 (ふうまみか)三十二歳 超機人種 アルバイター
風魔四姉妹の三女。風魔の忍びとしては師範代に当たるが皆伝はしていない。
実は三女だけはちゃんと自分用の口座を持ち、密かに預金を増やしていたが、その預金は全て妹のトトを学校に通わせるための資金としてひた隠しにし、年の離れた妹を溺愛している。
しかし銀行に入る所を美空に目撃されキャッシュカードを奪われた。
戦闘能力はトトを遙かにしのぐはずだが、冒険者として、道場の師範代として慣らしていたトトと互角の実力。
好きな食べ物は焼きそば、趣味はジャンクフード食べ歩き。
まだ両親が健在であった頃、アルバイトで得たお金を握りしめお祭りに出ている出店の食べ物を、端から端まで食べ歩いていた。




