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EP49 太陽は女神の如く

何かタイトルが・・・気に入らない・・・。もっとなんかあるよね?

 最近ちょっと面倒ごとが一気に起きすぎなんじゃ無かろうか?まだ殆ど手を付けられていないんだが、それでも新しい事件?が起こる。

俺は巨人種の門番二人を迎えに来たのと、テツの帰郷の為にこの水星圏に来たはずだ。後ダンジョンに行ってみたいのとな。


 しかし実際はどうだろう。


 水星圏に到着するなり何故か軍に攻撃され、ギルドに助けを求めて(特に必要は無かったが)助けて貰った冒険者がパトロンになって欲しいと、アーティファクトなる戦略兵器にしか聞こえない代物を振り回してきたり、突然和平交渉を結んだらしい異世界ヴァルハランテが宣戦布告をこの世界に対して表明したり・・・。


 「訳が分からんのぅ。」


 「ほんとにねぇ。」


 ロペは俺に同調しつつも、忙しそうに情報収集をしている。

オペレーター諸君は非常に忙しそうだ。まぁそれはそうだろう。


 「俺等戦争に巻き込まれる感じ?」


 「そうだな。このまま水星ダンジョンに向かうと、ほぼ間違いなく巻き込まれるだろうな。銀河規模のウルトラCでも起こって俺達を見逃してくれたとしても、ヴァルハランテか水星軍かどっちかは相手にすることになりそうだな。」


 逃げようと思ったら逃げるのは直ぐに出来るんだろうけどなぁ・・・。


 「約束したしなぁ・・・。」


 「約束を破るのは駄目ー・・・なのよ?」


 まぁそうだな・・・。


 「気は進まないが・・・煉獄社に寄って支払いを済ませてから水星ダンジョンに行くかぁ。」


 「「「「了解。」なのよ。」」」


ーーーーーーーーーー


水星圏コロニーマーメイド付近


 特に用事の無かった円盤形未確認飛行物体の形をしたコロニーを素通りし、二日程航海した所で三つ叉槍の様な形をした巨大なコロニーに出くわした。


 「普通がどんな物か俺には分からんが、けったいな形のコロニーやな・・・。」


 槍の先の部分がくるくると回っているのにも何かきっと理由があるのだろうが、傍から見ると設計者の頭を疑いたくなるような形のコロニーがこの世界には沢山ある。


 きっと俺には分からない何かがあるのだろう。


 「雨宮、マーメイドから入港許可が下りた。」


 「ん。順次入港。特に異常は無いか?」


 コロニーに近づくにつれ、大小様々な船がモニターに映る。形も様々だ。


 「そうね。離れていく船が多少多いのは仕方ないことだと思うわ。」


 過密と言う程では無いが、確かに船は多い。そしてコロニーへと入港する船より、コロニーからどこかへと出て行く船の方が圧倒的に多かった。

宣戦布告を受けた影響は決して小さい物では無いのかもしれない。


 コロニーからレンタルドックへのガイドが示され、それに沿って銀河旅団の船は同じドックへと入港を終えた。


ーーーーーーーーーー


 「いやぁ・・・何だか潮の匂いが凄いな。」


 このマーメイドコロニーは所謂レジャー産業に特化したコロニーらしく、まだ宇宙港から出ても居ないのに潮の匂いが漂っている。


 「気密性を疑いますねここ・・・。どこか錆びているんじゃ無いですか?」


 そう訝しげに俺に近づいてきたのは、ゴルゴネアだ。彼女はこれから煉獄社へと俺を案内してくれる。今日はロペも、イントたんも、アミィも、新庄も、エリーも・・・居ない。


 非常に不安だ。


 その代わり、トトとミンティリアが何故か付いてきた。


 「ここには一度来てみたかったのよね。何でも海があるって言う話だし。」


 「生臭い匂いですー。」


 若干不安の残るメンバーだが、ここには煉獄社へと行くしか用事は無い。

確かに観光もしたいと言えばしたいが、正直俺の心はそれよりも交渉のことで頭がいっぱいだった。


 「ふあんー?」


 「お・・おう。ロペもイントも居ないのは初めてかもしれん・・・。俺は今・・・この世界で独り立ちする・・・。」


 何だか俺自身言っていることが分からんが、こんな気持ちになったのはバイトの面接に行った時以来だ。胃に来る。


 「大丈夫ですか?総統閣下。」


 「多分な・・・。」


 「はぁー。何を今更言っているのよ。最悪クレジット端末でぶん殴ってやれば良いだけの話でしょ?あ、専用端末じゃ無いんだっけ?」


 そう言う問題か?


 そう言う問題かもしれない。


 丸く収める。丸く収める。自分から騒ぎを起こさない。・・・・。アレ?


 「俺って監獄の時以外自分で何かやった記憶無いんだが。」


 「ほぇ?」


 トトが俺の肩に自然に乗り、上から俺の顔をのぞき込んできた。


 「不可抗力だよなぁ。」


 俺のせいで何か起こったのは確かかもしれんが、それを事前に把握できたかって言うと無理だろ・・・。いや出来るわ。


 「あぁ・・・。」


 「ほら!何を落ち込んでいるのか分からないけど、さっさと行きましょうよ。この後水星ダンジョンにも行くんだから手早く行きましょ。」


 そうね・・・。そうだな。


 「ふぅー。いくか。」


 「おー。」「はい。よろしくお願いします。」


 俺一人重い足取りのまま、宇宙港の外に繰り出し、宇宙港に人を運んでくるバスの為に作られたロータリーにたどりついた。


 「人類は!大地に根を下ろして!正しく生活しなければならないのだ!!宇宙に居てはいけない!滅びがやってくる!」


 何だかどこかで聞いた覚えのあるフレーズだな。


 「回帰教だか地球教だか・・・そんなだったか?」


 「おっきい声だー。」


 「トト、見えるか?」


 トトは俺に肩車されたままで、人集りになっているその中心を手で光を遮りながらのぞき込む。


 「うさ耳のおじさんがいるー。」


 バニー・・・。アンクゥル・・・。


 そうだな。おかしくは無いな。ウサギの獣人だってそら居るわな。


 「前に見た奴とは違うのか。」


 「前に見たって・・・冥王星圏の話よね?」


 「おぅ。非常に濃い奴だった。顔は覚えている。」


 あんなに濃い顔面の男はそうそう忘れない。宣教師としてはこれ以上無い人材なのだろう。だが・・・それ以外は覚えていない。

何かを語っていたような気もしているが、全く覚えていない。あんな風なことを言っていたような気がするなー?程度だ。

ふわっとした記憶が必要ないとそう俺に囁きかけるようだ。だがそんな情景を思い出すと、奴の顔面だけが無数に浮かんでは消えてゆく。


 「ぐぬぅ・・・。顔をハッキリと思い出してしまった。」


 「そんなに酷い顔の方だったのですか?」


 ちがう。違うんだそうじゃない。全てのパーツが整っていてある意味イケメンなのかもしれない、だがその整いすぎた顔と何故そうなったのか理屈が思いつかない、深すぎる顔の彫り。

十三の名の付く暗殺者のような、最後の楽園のような・・・とにかく現実感がまるで無い濃さなのだ。


 「濃いんだ。」


 「こい。」


 「どんなのなんだか。」


 「So Dark」


 「「「?」」」


 考えすぎると深みにはまりそうで怖い。


 「・・・。」


 俺達はその人集りをスルーし、バスターミナルに到着する。


 様々な場所へと向かうバスが所狭しと並び、乗客を待っている。


 時間帯は朝。到着したばかりの観光客や、バカンスを楽しむ為にやってきた旅行者達も心ここにあらずといった感じで、皆思い思いに今回のレジャーに思いを馳せているのだろう。

カメラを持ち辺り構わず無駄なフラッシュを焚く若者、家族全員の荷物を持たされ重そうに巨大なトランクを三つも四つも引きずって歩いているおっさん、トランクの上にまたがりコロコロとバスへと向かう子供。


 「あ。」


 トトがトランクの上にまたがる子供を指さし、私も一緒とばかりに「ごろごろがーがー。」なんて楽しそうにしている。


成人女性の方ですよね?


 「あのバスね。どう見ても。」


 「そうですね、アレなら確実に目的地に着きます。」


 そう言ってミンティリアとゴルゴネアが指さすのは、所謂工場見学ツアーなどで使われる色物バスだ。宇宙船の形を模したその外観はフローターとして若干地面から浮いていることもあり、空飛ぶ船、飛行船と言っても過言では無い(反語)。


 「センス無いわねー。」


 「目立てば良いんだろ。」


 俺達は思い思いにバスをこき下ろしながら、そのバスへ乗り込み出発を待つ。

このバス、見学者用のくせに無料じゃ無いんだと。ちょっとけちくさいと思ったが、バスに乗っている人数を考えればそれも仕方有るまいとそう思う。


 「にんきないのかなー?」


 「まぁ、あくまで戦艦のメーカーですから。一般の方にはそうそう縁のある企業では無いと思いますが・・・それでもガラガラですね?」


 実際俺達四人の他に乗っている乗客は、さっき外で見た四人家族と、トランクに乗って移動していた子供だけだった。

子供はバカンスのついでなのか、明るいワンピースに不釣り合いなデカいサングラスをかけていて、リクライニング全開で船をこいでいる。今にも眠ってしまいそうだ。

四人家族は賑やかで、二人の男の子は窓の外の景色を開け放って身体を乗り出しながら見ている?ともすれば落ちそうな位乗り出しているが、その男の子の服の裾は母親がしっかりと握っているようだ。


 「動くみたいですね?」


ーーご乗車誠にありがとうございます。

  このバスは煉獄社ショールーム行き直通バスでございます。

  ビーチなどへお越しの方は向かいの六十番のバスをご利用下さい。

  ・・・。

  それでは扉が閉まります。扉から離れてお席に座ってお待ちください・・・。

  それでは発車いたします・・・。


ーーーーーーーーーー


煉獄社本社ショールーム


 バスは特に観光スポットを巡ることも無く、数分程走りあっさり到着した。


 「おー。やっぱりショールームに来るとわくわくするなー!」


 「そ・そうですか?」


 何だがゴルゴネアが緊張しているようだが、俺の緊張は自然と消え・・・と言うより目の前のショールームによってかき消された。


 「はいろっ!」


 俺達はトトに手を引かれショールームの中へと駆け込んだ。


ーー煉獄社のショールームへようこそ。当ショールームは企業史博物館としてもお楽しみ頂けますように、当社開発の初代宇宙船より、現在の最新戦艦に至るまでの歴史を全てご覧頂けます。ごらんになるお客様は、順路に従いゆっくりとお進みください。


 「博物館・・・ねぇ?」


 「俺達は関係ないぞ。」


 「そうですね。あちらの受付に行きましょう。アポイントメントはちゃんと取ってありますから。」


 ・・・!


 「優秀っ。」

 

 「えっ?」


 「いやなんでも無い。」


 アポイントメント・・・新鮮な響きにちょっと感動を覚えた。

今迄大概行き当たりばったりだったからなぁ。


 どこかでジェニが怒っているような気がした。


ーーーーーーーーーー


 「ようこそ煉獄社のショールームへ。今回はどういったご用件でしょうか?」


 何というか、とても清楚な・・・と言うかこざっぱりというか、とにかく印象が薄いのだがそれでもその美しい顔立ちに目を引かれるとても不思議な受付嬢だ。


 「・・・ゴルゴネア・ヘルヘルでアポを取らせて頂いているのですが。」


 にこやかに笑顔を浮かべたままでその手先は高速のブラインドタッチ。此方から決して視線を外さず、それでいて不快感を与えないほどほどの観察眼。

彼女は・・・プロだな・・・。


 「ヘルヘル様ですね。承っております、当社の専務が伺わせて頂きますので右手のエレベーターから三十二階の応接室へとお進みください。」


 うーむ。好感触。非常に良い。うちにも一人欲しい人材だな。


 「ありがとう。じゃ、行くか。」


 俺達はそこそこ速いスピードで上昇するエレベーターに乗り、示された三十二階、応接室へと通された。


ーーーーーーーーー


 「・・・はぁ・・・。お待ちしておりましたよ?ゴルゴネアさん?」


 ぴっちりと七三に分けられた髪からも、そのパリッとしたスーツからも神経の細かさが窺える、清潔さと潔白を前面に押し出したかのような印象を相手に押しつける・・・堅そうな専務だ。


 「まぁおかけください。・・・で、そちらの方々は?」


 俺とミンティリアは会議机を挟んで専務の斜め前に陣取り、トトは俺の膝の上に座りそうだったので隣へと座らせる。

その間も訝しげに俺達を見る専務の視線は決して褒められた物では無いが、全くの部外者に対する態度としては程度という物をよく意識していると思う。

この人も出来る人だ。


 何故だろうか。前世むかしから、俺が相対するビジネスマン達は、その会社のエースだとか、気鋭の新人だとか、プロジェクトのリーダーだとか、やけに貴方よりも能力がありますよ私。みたいな人が多い。

まぁそんな奴らを叩き潰すのが俺の楽しみだったのだが。だがまぁ所詮俺は中小家電メーカーの窓際社員だった。そんな現実が訪れることも無く、成果は上司へと吸い上げられ、出がらしを受け取って俺はその仕事を外れる。損な役回りが多かった俺だったが、彼には何の思いも無い。


 「自己紹介が遅れたな。聞いたことは無いだろうが、銀河旅団を纏めさせて貰っている雨宮銀河という。左のはミンティリア、右のはトト。部下というか護衛のような者だ。」


 ジッと此方を見た後、デスクに備え付けられた端末を操作し、恐らく検索でもしているのだろう俺達の事を。


 「ほう。海王星圏を取り戻した英雄。雨宮銀河殿ですか。大層な肩書きをお持ちのようで。」


 鵜呑みにはしていないが、真偽の程を知ることも出来ないと言った所か。


 「必要だったんでな。海王星圏が解放されたのはついでみたいなものだ。」


 「何でも異世界からの難民を受け入れることになったとか。」


 洋介君達に任せているから、問題なく進んでいるはずだが・・・。多分そっちの話じゃ無いな。


 あの後時間をかけ、眷属総出で界獣化してしまった者達を分解しクルファウストの研究室があったコロニーへと移住希望者全員を送り届けた。

マギアシリーズもあの時ばかりは流石に慌ただしかったなぁ。

 今ではラピスに残っているのはエマだけだ。彼女には色々と聞きたいこともあるし、彼女の希望もあってラピスに残って貰っている。


 「実際は受け入れたと言うより、俺達が行った時には既にいたんだがな。」


 「その難民の方達は連合に加盟なさるのですかな?もしそうであれば我々も今一度海王星圏まで脚を伸ばしてみようかと思うのですが。」


 「その予定だと聞いている。ティタノマキアは既に展開しているという話だぞ。」


 「なんと・・・。流石は近いだけありますな。一時は危ぶまれていたようですが、その手腕は流石といった所ですか。」


 この人やっぱり引き出しが多いな。どこから仕入れた情報なのやら。まぁこっちから意図的に流した情報だから掌の上ではあるんだがな。


 「俺が今回ここに来たのは、彼女達の事で聞きたいことが幾つかあったからと言うのと、知っているなら聞かせて欲しいことがあったからなんだが・・・。まぁ先にブレーメンの魔女をうちで引き取る事になったんでその挨拶をと思ってね。」


 「ほう。彼女達をですか。それはそれは・・・。」


 「ま、彼女達自身が戦艦を動かすことはもう無いだろうがな。」


 「成る程。きちんと冒険者稼業に戻ると言うことですな。」


 専務の目に押しの炎がともったように感じる。


 させねぇよ?


 「でだ、彼女達はそちらに借りがあるらしいんで、うちで肩代わりさせて貰おうと思ってね。幾ら出せば良い?」


 一瞬軽く前傾姿勢になりそうだった専務が止まり、こちらを伺うように視線で射貫きかけてくる。


 「では・・・当社の新造戦艦一隻中破、大破二隻、併せて二千四百億クレジットとなります。」


 高ぇ・・・。でもそんなもんか・・・?そんなもんか?


 「ふむ・・・。俺の中の指標はティタノマキアのものになるんだが・・・。」


 「はい。大型三隻のうち大破二隻が一千億ずつ、中破は一隻は四百億となっております。」


 「それは修理費?それとも購入費用?」


 「もちろん修理費となります。貸し出していた四隻は全て我が社のテスト機でしたので販売は行っていない・・・と言うより、未だ販売に至る段階では無いというのが実状です。」


 んー?一隻は買い取りになったとか言っていなかったか?


 「彼女は一隻は買い取りになったと言っていたのだが?」


 「申し訳ないのですがそのような事実はございません。」


 「あります。」


 おっと?もしかして知らなかったか?


 ゴルゴネアは何故か胸の間から小さな手巻き寿司を取り出し、テーブルの上に置いた。


 ・・・これ流行ってんのか?ジェニも持ってたよな?


 「このメディアには最後通牒の際の通信音声、及び映像データが全て記録されています。貴方とは違う方でしたが、私達にそう言った責任者の方がちゃんと映像として残っています。

その後一方的に契約を破棄したあなた方が仰った最後の契約でしたので、これを以て契約を終了したものと我々は考えています。」


 そう言いながら彼女は自分の携帯端末を取り出し、巻き寿司をその上に置いた。・・・あの端末うちの奴やん。


ーー三隻は回収!後で修理費用をギルド経由で請求するから覚悟しろ!残った一隻は買い取りだ!併せて請求書を送るからそのつもりでいるように!以上!


 涼しげな顔をしていた専務が額を軽く手でこすり、深くため息をついた。


 「・・・確かに・・・。しかしお判り頂きたい、あなた方の乗っていたあの戦艦は、データ収集用のモニター艦だった。あの艦は当社の重要機密の塊なのです。」


 畳み掛けるなら今・・・か?いや・・・駄目だ一手足りない。


 せめて金をその場で支払っているのならもう終わったことで済ませられていたことかもしれないが、一銭も支払っていないのだから持ちかけた側が引っ込めるのはおかしな事では無い。


 そして・・・。


 「ゴルゴネア、大事なものみたいだから返して欲しいんだとよ。」


 「しかし・・・!」


 「よく考えてみろ・・・。要るか?あれ。」


 「え?」


 はぁ・・・。まぁ少し聞きかじった程度ではこんなものか。


 ハッキリ言ってあの戦艦、インフェルノ級だったか。要らない。


 俺がアレを欲しいと言ったのはあくまでスクラップ、資源として欲しいと言うだけの話であって、極端な話只のゴミでも良いのだ。

確かに大きな戦略級魔法を主砲として使うことが出来るシステムが彼らに手に入って、その運用の為のテストをブレ魔女達にやらせていたのかもしれない。

だがそれがどうしたという話だ。あんな技術うちの副砲に使っている技術や、艦全体に張り巡らしているマジックサーキットの技術を思えば、絵に描いた餅を返して下さいと言われているようなものだ。要らないしどうでもいい。

まだ完成もしていない。完成していないのはうちのも同じだがこっちのは既に実用レベル、しかも技術体系で言えば既に俺のナノマシンで元のマギア・ラピスとは全く違う物になっていると言っても過言では無い。

設計図や詳細な情報があったとしても、この世界ではそもそも生産不可能なものへと姿を変えている。


 いらないのです・・・。


 「壊れているんでしょ?ゴミじゃない。」


 ミンティリアの棘のある言葉に、辛うじて表情を崩さない専務は口の端が若干ひくついているが、その感情を表に出すことは無かった。


 「大体、貴女達はこれからラピスに乗るのよ?どうせあの船を持っていたって彼がバラしておもちゃを作るだけなんじゃ無いの?ロペさんから聞いた話だけど・・・。」


 まぁ・・・まぁ・・・。そういう事だな。しかもこっちに来る前に、ナノマシンで丸ごと解析済みだから企業秘密も何もあったもんじゃ無いんだがな。


 「バラす・・・?」


 若干血の気が引いている専務の顔が引き攣る。


 そうだな、そんなことを聞いたらなんとしても取り返さなくてはいけないよな。

あのインフェルノ級は彼女達の旗艦、それこそこの煉獄社の心血を注いで研究した血と汗と涙の結晶なのだろう。


 実はあの船をスキャンした時に分かったことなんだが・・・。


 「打倒ティタノマキア。」


 俺のその言葉に反応したのはプライドだろうか?それとも義務感だろうか?

専務は無意識にか、目の前で両手を組み顔を覆い隠してしまう。


 『打倒ティタノマキア』これはあのバカッサリアが使っていた魔導増幅装置の根元に刻み込まれていた技師達のメッセージだった。本来増幅器などブリッジに付けるような物では無いのだが、彼女はその危険性を知らず煉獄社もあまりそう言った危険性には気づいていなかったのだろう。と言うよりバカッサリアの報告が無かったせいで気づけなかったと言うべきか。何の保護もしていない増幅装置に直に魔法を叩き込む。その増幅装置に繋がった砲身を通り、魔法使いの思念誘導によって目標へと攻撃を放つ。

これが恐らく煉獄社の守りたい物なのだろう。あまりにも拙いマジックサーキットの技術。


 他に見るべき所は無かった。


 この技術に辿り着いたティタノマキアの技術力、開発力の高さはやはり他の追随を許すようなレベルの物では無いのだろう。

そしてこの煉獄社もまた、彼らの後に続き新しいフィールドへと駆け込もうとしている。そんな時にブレーメンの魔女だ、怒りも一入だったことだろう。

その怒りはアーティファクトの呪縛を振りほどき、その決別を実現させた。

ティタノマキアが実現した技術の欠片が漸く見え、やっとの思いで実戦に耐えうる物に仕立て上げた。

しかし彼女達は何度も何度も中破し、大破しその度にデータごと吹き飛ばしたのだろう。艦に蓄積されたデータは散々な物だった。

 なまじ彼女のレベルが高かったせいで、ブラックボックスが仕事をしていなかったようだ。


 モニターである彼女達から上げられるはずのレポートも、ゴルゴネアの物以外子供の読書感想文でも読んでいるかのような物ばかりでモニターとして役に立っているかと言えば、全く役に立たない。

辛うじてゴルゴネアの上げるレポートが、彼女達の首の皮をつなぎ止めていただけだった。


 そんな思いを感じざるを得ない。


 「ふぅ・・・。心中察するに余る。」


 「っっ!!」


 例えは悪いが・・・俺はガキの頃からゲームが大好きだ。昔のゲーム機はショックに弱くちょっと小突いただけでデータが飛ぶなんて事はしょっちゅうあった。

何時間も何時間もかけてクリア目前まで進めたセーブデータが、外から偶然飛んできた野球ボールに当たって消える。なんて事があったら俺はガラスの破片を持ってそいつにブッ刺しに言っていたかもしれない。


 彼のあの手を見る限り技術屋の一人なのだろう。ゴツゴツの手には沢山のしわが刻み込まれていて、所々火傷の跡なのか新しい皮膚を隠そうともしない。寧ろ勲章なのだろうか?指摘すると喜んでくれそうだ。


 「ゲールマンに先を越されたと知ったのは、あの魔導戦艦の完成披露パーティに呼ばれた時だった。・・・彼はやはり凄い・・・。もはや手の届かない所にいるのだと、改めてその事実を叩き付けられたようで愕然としたよ。」


 そんなこともしていたのな。まぁそれぐらいしていてもおかしくは無いレベルの物だからなぁ。


 「君達にとっては我々のインフェルノは二番煎じに過ぎないのだろう。だがな・・・。」


 少し目が赤くなっているだろうか、だがそれでも彼はクールだ。此方を見る顔には笑みすら浮かんで見える。

好きな物を語る時の男ってのはこういうものだろうな。


 「自力で辿り着いたんだ。我が社にも天使が居てね、あぁ天使と言ってもヴァルハランテとは関係は無い、天使のような存在と言うものだ。彼女が私達にその新しい道を示してくれた。」


 彼はゆっくりと机の上に置いていた手を膝の上に下ろし深くため息をついた。


 まだ朝だというのに、彼の後ろの窓から差し込む光はキラキラと反射しその悲しげな顔を優しく覆い隠す夕焼けの様に優しかった。


 「彼らの背中は遙か遠いな。」


 「そうか・・・。」


コンコン


 「今はまだ来客中・・・。」


 専務がノックの主を止めようとしたが、そんなことは意に介さないとばかりに開け放たれた扉からは・・・。


 「?」


 俺の座っている位置からは何も見えない。


 「ポルターガイストでも飼っているのか?」


 「そんな不吉なものを飼う趣味は無いよ。彼女が・・・。」


 「いた!専務!私もブレ魔女に会いたいって言ったでしょ!?」


 キンキン声の主はロペと同じ感性の持ち主かもしれない、俺はそう思う。


 「はぁ・・・。彼女が先ほど少し話させて貰った我が社の天使だよ。」


 ほほう・・・。俺の居る所からは全く姿が見えないがな・・・。


煉獄社


 水星圏マーメイドコロニーに本社を置く大型戦艦を中心に商うメーカー。水星圏における宇宙船シェアトップファイブに名を連ねるトップ企業。

最近徐々に冥王星圏のからティタノマキアがシェア争いに加わり、売り上げが低迷しつつある。SWの開発生産も行っているが特に特筆するべき所は無く、性能は現代における普通。

敢えて購入する必要性は感じないとか。

同社の代表的な商品はファイアストーム級戦艦(サラマンダー級)インフェルノ級戦艦(オーガ級)及びSW業炎セカンド。

(2)

 ブレーメンの魔女と広告契約を結んでいたが、その契約に至った経緯は不明、テスト艦を壊しまくる為にまともにモニターとしての情報を期待できないと契約を切った。

ブレーメンの魔女に与えられていたのはマジックサーキット技術を使ったテスト戦艦だったが、紋章技術が低くその理論も確立されていない為、Sランク魔女ネミッサリアの魔力を使用すると自爆する

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