EP48 頻発するトラブル
新しい人出てこなかったな・・・。
あっOSHIOKI回です。苦手な方は読み飛ばし推奨。
物語の演出上行われる行為を行うと刑法に触れますのでおやめ下さい。
煉獄社
水星圏マーメイドコロニーに本社を置く大型戦艦を中心に商うメーカー。水星圏における宇宙船シェアトップファイブに名を連ねるトップ企業。
最近徐々に冥王星圏の方からティタノマキアがシェア争いに加わり、売り上げが低迷しつつある。SWの開発生産も行っているが特に特筆するべき所は無く、性能は現代における普通。
敢えて購入する必要性は感じないとか。
同社の代表的な商品はファイアストーム級戦艦(サラマンダー級)インフェルノ級戦艦(オーガ級)
EP48 頻発するトラブル
何が起こっているのだろうか?
私達四人はただスポンサーを求めて来ただけだったはず。
私達には不得手な交渉も、ゴルゴネアならきっと上手くやれる、ネミッサが馬鹿でも私達が止めれば良い。
そう、思っていた。
「んぎいいいいいいいいいぃ!!」
目の前では何故か、酷いことが行われている。・・・とは言っても彼女の場合自業自得ではあるが。
この部屋に引きずられてきている間に、こうなることになった原因は聞いた。私達三人は特に悪くは無いとも聞いた。
でも連帯責任だとかで縛られ、手伝うように言われた。
「見ていろ。」
総統サマにそう言われ、何故か目を反らしたくなっても身体が言うことを聞かなくなった。
脳の一部が勝手に動いているような、自分の意思に身体が従わなくなっているような、不思議な感覚。
ネミッサから・・・視線が外せない。
ゴルゴネアは縛られたロープをあっさり切られ(素手で)水の入った瓶を大事に抱えて震えている。
結構な量の水が入っているが、Sランクに至る程の実力者には、さほど重みは感じないようだ。
それよりも、自分の気に入っている総統サマから既知の外にあるようなよく分からない指示を受け、静かに響くモーター音を発するピストンを見つめて、目を白黒させている。
若干呼吸が荒い、彼女は今何を考えているのだろうか?
「アーイ・・・。」
私はネミッサから視線を外せないまま妹に呼びかける。アイオネアもまた私と同じ様に視線を外せないまま床に転がされたままだ。
「決して逆らっては駄目よ・・・。」
「・・うん。そんなこと絶対しない。」
ーーーーーーーーーー
気がついたら逆さまになってた。
ふくらはぎの辺りが熱い。
ふくらはぎから伝い落ちたしずくが下着を濡らしお尻が気持ち悪い。
傷口の裏側から錆びたナイフで肉を抉られているみたい。
思考が纏まらない。
痛い。
なんとなく顔を蹴られたのは分かった。でもそんなことより揺らさないで・・・。
「んぎいいいいいいいいいいい!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!???
パッと視界が開け、喉元まで垂れ落ちたしずくが自分の血だと分かると頭がおかしくなりそうな程の痛みが足から全身へと響くように広がっていく。
それから数分は痛みが引かず、自然と目から涙がこぼれる。
何が起こっているの?どうしてこんな目に遭っているの?私が何かした?
お金を持っていそうな人を見つけて、パトロンになって欲しくてお願いに来て、いつものように旗を使って・・・そうよ!旗!?
「旗は何処よ!?返して!!」
「ふーむ・・・。その旗とやらは何処で手に入れた?」
「それは・・・。」
少し離れていた所で椅子に座り、端末を眺めていたあいつが立ち上がり、旗の入手元を探ろうとしてゆっくりと近づいてくる。
「それは?」
言え無い。こんな奴に言うものですか。私をこんな目に遭わせて、只で済むと・・・。
「あ”--------っ!!!???」
!?!?!?!?!?
突然視界が閉ざされ、両目から燃えるような熱さが脳の奥まで広がり一瞬で自分の顔が燃えていることに気がついた。
雨宮は小型の火炎放射器でネミッサリアの顔面を燃やした。それは痛みだけで無く、レベルの高い冒険者なら只の痛みでは無い、肉体の一部を破壊するだけの行為だとそう気づく行為。
只ハムのように吊され、それでもなお反抗的な態度を崩さないネミッサリアに敬意を表し、より女性が傷つく質問の仕方に変えてきた。
「取り敢えず目と前髪かな。ちょっと炙っただけだから、直ぐ治せば後も残らないが。」
協力して貰わないとな・・・。と雨宮の気配は少し遠ざかり、近くに居たゴルゴネアの方へと近づいた気配を感じ取る。
やめて・・・。ゴルゴネア。やめて!
「その水をゆっくり注ぐんだ。彼女が協力してくれるまでゆっくりで良いから。何、彼女だってそこまで馬鹿じゃ無いだろう?仲間を危険に晒してまで意地を張ったりしないはずさ。」
何よ・・・私が悪いみたいに言わないで!全部お前が!・・・えっ?
シューーーーーーーーー
シュッ シュッ シュッ
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
う・・そ・・・。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
カラカラカラカラ
やめてやめてやめてやめて!!!
ネミッサリアの全身の毛穴という毛穴が逆立ち、徐々にスピードを増していくピストンの音を聞き、ゴルゴネアが自分を守ってくれないのだと知る。
「ゴルゴネあぁああああああああああああああああ!!!!」
カラカラカラカラカラ
ガッシャン
ガン!!
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
限界まで巻き上げられた鎖はある程度の力が加わると、鎖を引っかけていたフックの可動部分が動くように仕込まれていて、先ほど吊されていた高さまでわずか数センチではあるが落下する。そしてまだ、ピストンの音がやまない。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
カラカラカラカラ
ガッシャン
ガン!!
「いやっがあああああああああああああああ!!!!」
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
・・・。
「おや?もう水が無くなったか。ほら。これが新しい水だ。」
ワザと目の見えなくなったネミッサリアに聞こえるように大きな声でゴルゴネアへと語りかけながら、雨宮は先ほどと同じ量の水の入った瓶を渡す。
ゆっくりとピストンの音が消えて行くことに安堵しながらも、ネミッサリアの心にはぽっかりと穴が開き、自分の行動を振り返りブレーメンの魔女としての思い出が走馬灯のようによみがえる。苦しかった時も楽しかった時も常に二人で一緒に乗り越えてきた。幼い頃からずっと一緒だった。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
!?
もはや痛みが来る恐怖よりゴルゴネアの行動が理解できない。
新しい水を受け取ってからのゴルゴネアの行動は早かった。先ほどの逆恨みともとれる怨嗟の声にゴルゴネアは軽く憤慨し無言で瓶の中身を一気にピストンへと流し込んでいた。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
カラカラカラカラ
ガッシャン
ガン!!
「まってっひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
普通の人間の脳なら継続的に痛みに晒されれば脳内麻薬によってその痛みが麻痺することもあるが、ナノマシンによって感覚が麻痺しない状態になっているネミッサリアは常に新しい痛みに晒される。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
カラカラカラカラ
水の量が明らかに多かった。一度で終わり少しのインターバル・・・と思っていたネミッサリアと二人の巨人娘は目を見張る。
ゴルゴネアは雨宮に催促し、もう一瓶水を流し込んでいた。
ガッシャン
「たすけてええええええええぇえええええええぇえええ!!」
ガン!!
い”・・ぎ・・・。
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
「ま・・まっでごるごねあ!!もうやめてぇ!!!」
カラカラカラカラ
ガッシャン
ガン!!
「ぎゃっっっふ!!」
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
カラカラカラカラ
ガッシャン
ガン!!
助けて助けて助けて助けて助けて!!!
「だれかぁ!!!っっっうぅぅ!」
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッシュッシュッ
シュッシュッシュッ
カラ・・・
ふと痛みと恐怖に支配されていた時間が終わり、自分の顔が温かい光に包まれたのが分かった。
何度となく身に受けた覚えのある、ゴルゴネアの光の回復魔法ライトヒール、初心者のそれでは大した効果は期待できないが、ゴルゴネアのそれは魔力の多さも相まって上位魔法と見紛う程の効果を発揮することが出来る。
光が消え、開かれた目にはきゅっと口元を引き締め、ジッと此方を見るゴルゴネアの姿がある。
ーーーーーーーーーー
なかなか根性があるなぁ。結局何も話さなかった・・・と言うより途中から俺は何もしていなかったんだが、ゴルゴネアが水をさっさかさっさかとピストンに供給しだしたせいで、質問する隙が無かった。
ネミッサリアの前に立ちはだかる彼女は、何か思う所があるのか両手で空の瓶をしっかりと持ち、ジッとネミッサリアの心を見透かすように見据えている。
「そろそろ話をする気になったか?」
俺はふと巨人娘達の方を見てみたが、俺とネミッサリアを見比べ、どうして良いか分からないのか気の毒な程震えている。
しかし魔法を受けて少し余裕が出来たのか、顔を背け此方を見ようとしない。
そんなネミッサリアの姿を見たゴルゴネアは、何を思ったか手に持った瓶を振り上げ、思いっきり狙いも定めずに振り下ろした。
ガシャーーーン!
えぇ・・・。結構な衝撃を与えない限り割れないようになっているはずの強化ガラス瓶なんだけどなぁ?
「・・・!!!っっ!!!っつ!!んんんんんっっぅ!!!」
ちょろちょろちょろちょろ
幻の終わりが見えて気が緩んでいた所に予期せぬ痛みがネミッサリアを襲い、白目をむいて悶え、蒼い色の付いたガラスの瓶破片が全身に降り注ぎ、一瞬の気の緩みが膀胱の堰を決壊させる。
・・・クリティカルヒットだな。多分狙いは付けていなかったんだろうけど、脚を引っかけているフックに直撃してるから相当な衝撃だったろうなぁ。
「な・・・何を話せば良いのよ・・・もうやめてよぉ・・・。」
止めどなくネミッサリアから涙が溢れ、しゃくり上げ始めたので俺はナノマシンの痛覚増幅をやめ、肉体を回復させるように命令を出す。
しかし吊り下げられたままのネミッサリアはぶらんぶらんと激しい痛みににのたうちながら揺れている為、なかなか止まらず俺は暫くそれを眺めていた。
「いたぁああああああいい!!!」
そら痛いわな。無理矢理返しの付いたフックから引っぺがしたんだし。
しかも艦内に漂うナノマシンのお陰で傷口は徐々に修復されていくから、フックと脚がひっついていたしな。
肉ごと削げ落ちたふくらはぎは真っ赤に染まり、床に血の池を作っていたが、今のところ意識はあるようだ、膝から下の感覚が無いのか芋虫のように自らの作った血と尿の池から、這いずって離れようともがきビービーと声を上げて泣きわめいている。
実に元気な奴だ。
「私が何をしたって言うのよ!何でこんな目に遭わなきゃいけないって言うの!?」
俺は冒険者って言うのを侮っていたのかもしれない、レベルによる身体能力や精神の強化は只事では無い。
普通の人では無い・・・かつて人工人類のβ種であったアイリーンでもレベルはゼロだった。元々備わっていた能力のみで生きている普通の人間だ。
彼女の時は肉体と精神を両方一気に破壊した、今回も同じぐらいの苦痛は与えているはずだが彼女は全く応えていないように見える。
レベルの補正かそれともスキルなのか、分からないが・・・。
「お前随分と余裕そうだな。」
俺の中にある何かのスイッチが切り替わったのが分かった。
ボロボロになりながら此方を驚愕の目で凝視するネミッサリアだったが、逃げようともがく身体を巨人娘二人が押さえ込んだ。
「もうやめよう、隠し事、よくない。」
「スポンサーになって欲しいんじゃ無かったのかよ!只事で済むことじゃなかっただろ!?せめてちゃんと謝れよ!!」
何故二人が飛び込んできたのかと思えば、ゴルゴネアの手には空になった空き瓶が再び握りしめられ、今正に振り降ろさんと振り上げていた所だった。
流石に今の状態でアレを本気で振り下ろせば、ネミッサリアは死ぬだろう。魔法で回復させたのはどうやら体力では無く怪我だけだったようだ。
ネミッサリアのスキャンデータにはそれを表す『瀕死』の状態異常が点滅している。そして彼女が謎に元気だったのは、彼女のユニークスキルと思われる『反逆の意志』のせいだろう。
瀕死になってから身体能力が劇的に上昇し、生命力と引き換えにその効果を持続する。
今もまだネミッサリアのHPと記された命の灯火はゼロへと向かって減り続けている。
「ゴルゴネアももう許してあげて。」
「そ・・それは私はどうでも良いけど、今やったら死んじゃうだろ?」
二人はゴルゴネアを説得に掛かっているのだが、その二人が・・・巨人種の二人がのしかかっている時点で大分負担が増しているのだろう、ネミッサリアの抵抗が徐々に弱くなり今にも死にそうな領域に数字が減っている。
俺は二人の巨人を片手で一人ずつ持ち上げ、ネミッサリアの上から避けて降ろす。
二人ともまさか片手で持ち上げられるとは思っていなかったのか、借りてきた猫のように萎縮し、正座したまま再び固まってしまった。
「そのスキル、早く解除しないと死ぬんじゃ無いか?」
「無理よ!このスキルは発動すると目の前の敵を全員始末しないと収まらないのよ!」
思った以上にやっかいなスキル・・・と言うより呪いに近いなぁ。
「じゃあこのまま死ぬか。な。諦めろ。」
「そんなの嫌っ!私は!私は!!」
ガッシャーーーン!!
びっくりした!ネミッサリアと向き合っていた俺は彼女の耳の横数センチに叩き付けられた強化ガラス瓶の音に驚き、その破片が確実にネミッサリアを死に近づけていることに軽くめまいを覚える。
ゴルゴネア・・・何で急に瓶を割ったし・・・。めちゃめちゃびっくりしたんだが・・・。
「ふざけないで!これ以上クランを窮地に追いやるというのなら私の手で・・・貴女を殺すわ!貴女が死んでクランが終わるというのなら、終わりで良い、借金は私が全部背負うから!」
割と刹那的な考え方だな・・・。仲間思いなのかそうじゃないのかよく分からないが・・・これ以上彼女の体力を減らすと本当に死んでしまう。
・・・まぁ死んでも元に戻してやることは出来るんだが。
「その辺にしておけ。これ以上煩わしいのはごめんだ。自分で話す気が無いならそれでいい、言葉以外の方法で確認すれば良いからな。」
何故か俺は生命体そのものをパッケージングして再構成することは出来るが、その記憶領域にはアクセスできない。個人的なボーダーラインがそこに設定してあるのもそうだが、試しても出来なかったのもあるのだ。
何かそこだけ別の領域なのかもしれないが・・・。じゃあどうするのか。
従順なネミッサリアを作ってそいつに話を聞けば良いだけだ。
同じ人間が二人になるのだが、その辺はどうなるんだろうな?ネミッサリア(2)とかネミッサリア(コピー)とかなるんだろうか?
魂とかどうなるのか、自我はどうなるのか、試すにはちょうどいい。
「そのまま死んで、新しいお前が生まれる。それで全て解決するが・・・死なない方が俺にはちょっと都合が良いが・・・。どうする?死ぬ前に選んでほしいものなんだが。」
「・・・はぇ・・?」
ネミッサリアは口を開けて呆けているが、次の自分の発言で全てが終わることが理解できたらしい。
土下座のつもりだろうか失血により動かなくなった左腕はだらんと力なく床に落ちているが、残った右手を動かし額を床に付けた。
「・・・回復して下さいぃ・・・。」
ーーーーーーーーーー
ナノマシンを使ってネミッサリアを修復した後、俺はナノマシンに彼女の継続回復を指示しナノマシンの簡易端末となる首輪を彼女の首に付けた。これがあれば今のスキルが動いている状態でもプラスマイナスゼロの状態に出来る。
「ど・・奴隷みたいでいやなんだけど・・・ごめんなさい嘘です、すみません・・・。」
敢えて俺は何も言わず、ネミッサリア挟むように応接室のソファーに陣取った巨人娘達に彼女の背を押すように促す。
「あ・・・。う・・・。話し・・・ます。でも・・・これを話すとわたし・・・死ぬかも・・・。」
改めて俺は彼女のスキャンデータを確認する。
ーーーーーーーーーー
ネミッサリア・ファイブスター 二十九歳 ヒューエル ブレーメンの魔女
Lv95 魔女
HP 8700/8700
MP 14000/54000
状態 貧血(重度)
空腹(軽度)
衰弱(中度)
スキル 種族スキル 解放(封印)
個人スキル 反逆の意志Lv7(アクティブ)
後天スキル 火属性魔法Lv5
地属性魔法Lv5
雷属性魔法Lv8
雷電魔法Lv3
大地魔法Lv1
薬剤調合Lv2
毒物調合Lv2
ブルーム・ウーサージLv5
我慢Lv9
つん
上位拷問耐性Lv3
血死の契約Lv9
雨宮銀河の加護(極小)
ーーーーーーーーーー
「この血死の契約とか言う奴か?」
つん・・・?つんって何だ?そっちの方が気になってきたんだが・・・。
「それ・・・です。」
「何でそんなことをしたの!!」
少しソファーからはなられた所に背を向けて立っていたゴルゴネアが大きな声で叱りつける。
「しょうが無いじゃ無い!スポンサー契約を成功させる手段が他に無かったのよ!」
「ネミッサはどうしてそう思ったの?」
「それは・・・あいつが・・・。」
「「「あいつ?」」」
「天使のザムエルよ。あいつが・・・。」
ん?
ネミッサリアの身体が赤い光に包まれ・・・光が消えた。
?
「何だ今のは。」
「わからない・・・です。」
「「「??」」」
・・・ひょっとして。
ーーーーーーーーーー
ネミッサリア・ファイブスター 二十九歳 ヒューエル ブレーメンの魔女
Lv95 魔女
HP 8000/8700
MP 14000/54000
状態 貧血(重度)
空腹(軽度)
衰弱(中度)
スキル 種族スキル 解放(封印)
個人スキル 反逆の意志Lv7(アクティブ)
後天スキル 火属性魔法Lv5
地属性魔法Lv5
雷属性魔法Lv8
雷電魔法Lv3
大地魔法Lv1
薬剤調合Lv2
毒物調合Lv2
ブルーム・テルージLv5
我慢Lv9
つん
上位拷問耐性Lv3
雨宮銀河の加護(極小)
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血の契約が消えとる。やっぱり今のがそうか。
「契約を破ると死ぬようになっているのか?」
「死ぬ・・・とは言わなかった・・です。死にたくなる程の苦痛を・・・と言って・・・居ました。」
「でも光っただけ。」
ヘラはネミッサリアの身体をあちこち触り、異常が無いか確認しているが特に何も無いようで、胸をなで下ろしている。
「ここの中で余所からの影響を受けることは無い・・・筈だ。」
「契約魔法というのは本人に常駐する効果を与えるものが大半です。それでも何も無かったは・・・。」
彼女達の視線がネミッサリアの首にはめられたナノマシン端末・・・首輪に注がれている。
「それのお陰かもしれないですね。」
ナノマシンで肉体を回復させるだけのものなんだが、それが何の役に立ったのかは分からんなぁ?
「じゃあもう聞かせて貰っても問題ないな?」
「はい・・。」
ネミッサリアがアーティファクトを手に入れた経緯としては、とても褒められたものでは無いがこうだ。
まずネミッサリアと天使ザムエルは先日少し話題に出た水星圏とヴァルハランテの和平交渉の場で出会い、彼女は使節団の護衛の一人として単独で参加していた。
この話を聞いていなかったゴルゴネアは、ネミッサリアの頬を思いっきりつまみ、そういう事は相談しなさいと叱りつけていたが、その時のことを思い出したのかそれ以上の追求はしなかった。
和平交渉が終わった後彼女は向こう側の使節団の一人、天使ザムエルと仲良くなりこのアーティファクト『乱心の煽り旗』を譲り受けたのだと言うが、話をした内容は全く覚えていないと言うことだった。
その為にどういった経緯でアーティファクトを渡されたのかは分からない、しかしその使用方法についてはしっかりと覚えているらしく、用途もザムエルから伝え聞いた内容はしっかりと覚えている。
都合良く消された記憶もあったもんだ。流石アーティファクト・・・なのかね?
「スポンサーを惑わして味方に付けるか・・・。」
しかしそれではその効果の程はどうなのかと、俺達に関しては只単に認識がおかしくなっていたぐらいだが・・・今思えば戦闘中にこいつが来なくて良かったと心の底から思う。
主砲のトリガーこそ俺かロペにしか権限は無いが、副砲のトリガーはホムラにもエリーにも引くことが出来る。それ以外のサブウェポンだって沢山あるんだ・・・通常兵器と比べて威力が段違いのがな。
下手したら副砲で水星が消滅しましたなんて事もあり得たのだ。
そう思うとネミッサリアにげんこつの一つでもお見舞いしてやりたくなるが、今はまあ良いだろう。後にとっておく。
「ひゅん!」
一瞬だけ俺がネミッサリアをしっかりと見据えたことで、それに偶然気づいたネミッサリアは萎縮し変な声を出して俯いた。
「今にして思えばおかしな事も沢山ありました。」
「ん。変な奴いっぱいだった。」
煉獄社との契約にしてもおおよそ彼女達ブレーメンの魔女では、目に留まる筈の無いレベルのスポンサーだった。彼女達が連獄舎と契約したのはBランクの時だったからなおのことだ。
あのクラスの大企業が契約を結ぶとしたら、個人でSランクもしくはクランでSランク、それも何か大きな活躍の場で目立った活躍でもしていなければ、そもそも冒険者とスポンサー契約など結ぶ必要がないのだ。
それでも彼女のそのアーティファクトはそんな企業の心を動かし、スポンサーとしての契約を結んだ。その効果の程はしれるものだ。
「あなた達に効かなかった理由が分からない。」
ヘラはそう言うが、しっかり効いていたぞ?俺達以外には。・・・そう言えば警備部隊には効いていなかったな普通にあっさり捕まえていたし。
「俺には効果が無いが、全員に効かなかった訳じゃ無い。」
「それはそう・・・です。そもそも密室で・・・狭い空間で使うような用途のもの・・・らしいので。」
アーティファクトなんて初めて見たからこれが俺達の基準になってしまうが、何だか違うような気もする。本当にこれを基準に考えてしまって大丈夫かね?
「お前達は他のアーティファクトについて何か知っていることはあるか?」
ネミッサリアが言うには持ち歩けるアーティファクトは数多有り、ザムエルの懐にも多くのアーティファクトがあったらしいが、それがどういうものだったかは分からないとのことだ。
説明を受けた気もするが記憶に無いという。それもアーティファクトの効果かもしれないな。
「そのザムエルとか言う奴はちょっと気になるな、そんなに多くのアーティファクトを何の為に持ち歩いていたんだろうな?」
「そうですね。和平交渉でも使われていたのかもしれません。ネミッサにはもしかしたらアーティファクトの効果が薄かったのかもしれないですね。ニュースでは和平交渉は良いことだらけのような報道がされていましたし、寧ろへりくだるようなコメントも残されていました。」
ややこしい話だなぁ。こちら側の特使はアーティファクトに惑わされて不利な交渉をしていたかもしれない。だがそもそもその特使、何処の誰だ?
こちらの世界全体に影響のある話なのか?もしそうなら余計なことが起こりそうな気がするな。
「ふぅ。余計なことに首を突っ込んでしまうような気もするが、水星ダンジョンに行ってみるか。」
俺は応接室を出ようと扉に向かい歩き出す。
「私達はどうすれば!」
「好きにすれば良いんじゃ無いか?色々とやって貰いたいことも出来たし、ロペに話を通しておくから後腐れを残さないように整理しておいてくれればいいわ。」
金はどうとでもなる、人はめんどくさいからそっちでどうにかして・・・。
流石に使えない人員は要らないわ。
ーーーーーーーーーー
「銀ちゃん、バーバラちゃんから通信が来ているのよ。」
ん?何か嫌な予感が。
「つながないで放っておいたら駄目かね?」
「凄く慌てているからかわいそうなのよ~。」
エリーは困ったようにはにかみながら、俺の目の前にARモニターを表示する許可を求める。
俺はその許可を出し、ため息をつく。
ーーあんた達何をしたんだい!?水星軍が圏内から戦力をヴァルハラダンジョンに集結させているんだが!?
「?」
ーーえぇ・・?知らないのかい?
「調べても居ないから分からん。・・・ロペ?」
ロペはその話を聞いた時から忙しそうに携帯端末と自分の目の前のコンソールを操作しているが・・・。
「あー。・・・。」
「何だ?」
「ヴァルハランテから第三世界に対して宣戦を布告するだって。」
ーーえ?
「「「「「え?」」」」」
「え?」
な・なんで?
アーティファクト
乱心の煽り旗 らんしんのあおりばた 所持者 ネミッサリア→雨宮銀河
構成要素 ヴァルハランテ神気
形状 十センチ程の旗
効果 対象の認識を阻害する
意識を誘導する
魔力を起動キーとして作用する精神感応兵器、ネミッサリアの魔力では既存の能力を全て発揮することは出来なかったが、底知れぬ能力が隠されている事は明らか。
爪楊枝サイズの木のような物に刺繍の入った布がくくりつけられている。正に旗。
しかし雨宮や他の第三世界の者達からすれば、お子様ランチのライスの上に刺さっている旗にしか見えない。
認識を阻害する効果が本体に影響を与えているらしく、実体は不明だが何故か全員同じ様な物として見えている。




