EP47 別に怒っている訳じゃ無い
OSHIOKI回です。
そうだ。ダンジョンに行こう。
俺は折角水星圏についたというのに目的を見失う所だった。
そもそもここに来た理由は何だと。あの二人を迎えに来たんじゃ無いかと。
後テツに関することも気になるけど、本人が言って来ないのでこっちからは聞かない。
あいつは切嗣と同じで長生きだ転生してから数百年は巨人生活をやってきている。
何か目的があってもおかしくは無い。界獣達に対しても大分敵対心をむき出しにしていたし・・・他にもあいつに関しては気になることが幾つかある。
あるんだが・・・。
「迎えに行くって言ってからかなり時間が経ってしまっているから、そろそろ行ってやらんとな・・・と。」
「「「「「「誰を?」」」」」」
まさかナノマシン化して既に水星ダンジョンまで一回行ってましたとか、言っても何が変わるというものでも無いし逆に心配させそうなんだが・・・。
だがその辺を言わんことには何故ここに来たのか誰にも分からんやろうなぁ。
自分自身のコントロール精度を高める為にナノマシン化を訓練していたことに加えて、色々なモノの意思を感じたこと、そして彼ら二人と約束したことをブリッジにいる皆に話した。
各々よく分からないへの字眉の表情を浮かべ、ロペに至ってはもうちょっと気をつけて欲しいと俺に釘を刺してきた。なぜ。
「で?ヴァルハラダンジョンに行くのよね?あそこは最近平和になったって聞くけど?」
「その二人を迎えに行くだけでしょぉ?」
「ちょっとまてぇ!」
大きな声がブリッジに響くが、入り口の扉はそこまで早く開かないので声はすれど主の姿は中々俺の視界に入らない。
「なんか入り口が開くの遅くなってないか?」
新庄にそう言われて俺はつい口をとんがらせて不平を漏らしてしまう。
「この間みたいに押し込まれても嫌だし。」
皆呆れたような顔をしているが、俺は自分の視界がごみごみしているのはあんまり好きじゃ無い。
と言うか自分と関係ない所で赤の他人がごちゃごちゃと集まってくるのを好む人がいるかね?巻き込まれたこっちは息が詰まるっつーの。
「それにしても遅すぎだろう。テツがどうして良いかこっちを見て居るぞ。」
漸く半分程開いた扉の向こうから半身を押し込んで無理矢理通ってこようとして失敗し、鼻っ柱をこすったテツは更にのけぞったことで後頭部を打ち付けてしまう。
「そんなに何を慌てているんだか。」
「遅すぎだろう!非常時はどうするんだ!」
テツにしてはまともな突っ込みだがそれも俺には想定内なのだ。
「その時はちゃんと元に戻るようになっている。で?大きな声を出してどうした?」
「前も言ったと思うが・・・一度ヴァルハランテへ戻ろうと思うんだが。」
テツが実家に帰ると言う話かな?それは別にかまわんのだが・・・?
「別にいちいち断らんでもええやん?テツはうちのクルーじゃ無いだろ?」
「ひでぇ!!」
何でそんなに驚いてるんだよ?最初からテツは故郷に帰るつもりで一緒に乗っていただけ・・・じゃないのか?
「いやだって、最初から帰省するつもりで乗ってたんじゃ無かったっけ?」
「一回様子を見に行きたかっただけだって!俺はこっちに出てきてから随分経つから気になってただけだよ。幸か不幸か海賊やってた時の手下共はみんな死んじまったし、身軽になったからのぞきに行こうかって・・・。」
何だよそんなデカい図体で隙間に入ろうとするなよ。トト特設シートにケツが当たってシートが動いてるだろ。
「分かった分かった。悪かったよ。別に仲間はずれにするつもりは無かったんだって。」
「む。じゃあダンジョンに行く時は連れて行けよ?前みたいに置いていくなよ?」
ん?前みたい?何時の話をしてんだ?
「何だよ!そんなことあったっけみたいな顔して!お前等四人して壮行会の後に俺を置いてファミレスにしけ込んでたじゃねぇか!」
壮行会?ファミレス?え?前世の話か?
「一体何時の話をしてんだ?高校の時はお前が壮行会の主役だったじゃねぇか。連れて行ける訳ねーじゃん。」
「お前等が居なくなったのは見てたんだよ!全く・・・。」
確か壮行会の時は会事態が終わっても延々とテツが会場から出てこなかったし、恐らく部活の奴らと一緒に居ると思って誘わなかったことも有った気がするが・・・。
「何百年前のことを根に持ってんだお前は。」
「最近色々思い出したんだよ。」
「なんぎなやっちゃなぁ。」
取り敢えず小さくなれとテツに伝えると素直に普通の人種と変わらない・・・事も無い身長の大男になった。
「うむ。それでその水星ダンジョンというのはここからだとどの位掛かるんだ?」
「えーっとねぇ。」
水星ダンジョンはコロニーアトランティオに存在する水星軍管理下の・・・最近水星軍の管理下に何故か置かれるようになった、水星圏の中心とも言える場所にあるダンジョンで、主に石材の出土するダンジョンである。
「超空間航法なら二・三分で着くと思うけど・・・。」
「そんなに近くにいきなり現れたら大混乱だろ。」
絶対余所の船とか衛星とか巻き込むだろそれ。十隻通れる大きさの空間断裂だぞ?阿鼻叫喚の地獄絵図になるわ。
「通常航行なら一週間ぐらいなのー。」
それぐらいならのんびりしてて良いんじゃ無いのか?
「何か問題でもあるのか?」
「問題というかぁ、やることあるでしょ?」
そうでした。煉獄社にもいかなあかんのよね。あとブレ女の解散のこともあるな。忘れる所だったわ。
「ゴルゴネアを呼んでくれ。」
「はーい。」
ん?だれだ?
「あれ?今返事したの誰だ?」
と、横を向いてみるとマスコットシートに座っていたはずのトトが居なくなっている。
あいつわざわざ自分で呼びに行ったのか?
「銀ちゃん?」
「いや、トトがさぁ。」
「ほぇ?」
????
「トトは最初から居なかったぞ?」
え?何言ってんだ新庄?
あれ?今さっきまで隣のシートに座っていた筈なのに?
ブリッジクルー全員が首を傾げる中もっさりと開く入り口の扉を開け、トトがブリッジに入ってくる。
「連れてきたのですー!」
あ、ほらやっぱ居たじゃん。話聞いてたよ。
「ほら話聞いてたじゃん?ゴルゴネアこっちに・・・。」
連れてきたという割に後ろに誰も居ない。トトは一体誰を連れてきたというのだろうか?
トトは後ろを振り返って、誰も居ない空間に向かってキョロキョロと視線を彷徨わせている。
「?」
「あれ?ゴルゴネアさんを呼びに行ってきたのですよ?」
何かがかみ合わない。
「お前等一体何を。」
・・・。よくブリッジにいる皆を観察してみると、各々が誰かと話をしている様でそうでは無い不思議な状態に陥っている。俺の声に反応したのはトトと、ロペ、テツ、そしてレビルバン。
「総統閣下。」
むずがゆぃい。レビルバンむずがゆいぃ。
「お前はなんともないのか。」
「はい。皆幻術のようなモノに掛かっておるようです。」
レビルバンは俺の横に立ち、トトは俺の膝の上に座り、テツは新庄の顔の前に手をかざした。
「反応がねぇな。」
「私達眷属にまで掛かる幻術って相当だと思うんだけどぉ・・・。何も気づかなかったねぇ?」
そう言うロペの言葉に反応したのはテツだった。
「気づかない・・・。?あっ。」
「なんだ?何か気になったか?」
「アーティファクトだ。こんなことが出来るのはアレしか無い。」
また聞き慣れない単語が飛び出してきたな。
「そのアーティファクトとやらは、どういうモノなんだ?」
テツが言うには、『乱心の煽り旗』と言う異常な力を纏ったマジックアイテムのことだという。テツが知っている限りの効果は同士討ちをさせる様な使い方をするらしいが・・・。
「みんな何かとしゃべっているだけだな。何としゃべっているのかはかなり気になる所なんだが。」
「まぁ、このマギアシリーズのマジックシールドを抜いて効果があるのは凄いけどぉ、大分効果は減衰しているように見えるねぇ?」
と言うより、以前のエリー乗っ取り事件のこともあって精神耐性を皆に配っていた筈なんだが、それでも効果があるっていうのは凄いな。
まぁそんな大きな効果のあるモノじゃ無かったりしたと言うことか。またちょっと考えておこう。
「しかしこれはどうする?航行に支障が出ないか?」
ロペはネットワークなど電子関係の部分を調べているようだが特に問題は無かったらしく、ついでに全艦隊の安否確認もしてみたがラピス以外には何も起こっていないらしい。
「はっ・・・。だとしたら原因は一つしか無いだろ。」
ボキッボキッ
テツとレビルバンの二人が、ウォーミングアップを始めている様で随分と物騒な音が聞こえる。
「雌狐共に修整が必要なようですな。」
「余計な手間をとらせやがって・・・。」
「ロペ。あいつらは今どこに?」
「少し見てから帰ると言っていたから・・・。あぁ。来客用ドッグ前の連絡通路で酷い目に遭っているみたいだね。」
「のぞきに行くか。」
トトは何をいうでも無く自然に俺の肩の上に座るのだが、何故そんな所に乗る?肩車とか小学校の組み体操以来だわ。
ーーーーーーーーーー
来客用ドッグーエレベーターホール連絡通路
な・・・何故こんなことになっているのかしら・・・?この馬鹿は一体何をしたの・・・?
「おかしいわね・・・?もっと大きな混乱が起こるはずなのに・・・。」
さっきからお子様ランチに刺さっているような、小さな旗のようなモノを振ってはブツブツと文句を言っているリーダーは、今の状況をとても理解しているようには見えない。
「ま・・待って下さい!私達は何も!」
私が折角弁明の機会を伺おうとしていた所で、またリーダーの手に握られた旗が小さな光を放ちゆっくりと光が消える。
「おっかしいなー?こんな直ぐに光が収まるはず無いのになぁ・・・。」
今私達四人は・・・。
「大人しく両手を地面に付けて頭を下げろ!このウジ虫共が!!」
ゴッ
うはぁん!
思いっきり後頭部に銃床を叩き付けられてあっけなく倒れ伏す私、めちゃめちゃ痛いんです・・・。意識が飛ぶかと思ったわ・・・。
「何が悪いんだろ?魔力が足りないのかしら?いたっ!やめごふっ!」
ずっと訳の分からないことをやっているうちの馬鹿は床に組み伏せられた上で、更に金属で出来ていると思われる靴のかかとで頭を踏みつけられている。
何をやっているんだか・・・。
・・・。そういえばここにお招き頂いた時から、最初からちょっとおかしな行動が多かったような気がする・・・のだけれど、元々こんな感じだからおかしいのかどうかあんまり気づかなかったわ。
そう考えると若干・・・?そうね。ちょっとおかしいわね?
「あれー?」
まだ言ってる・・・。ヘラもアイオネアも大人しく両手と頭を床に付けて土下座みたいな姿勢のままで涙を流して固まっている。
だってこの人達・・・殺気が異常に強くて怖いのだもの・・・・。
コッコッコッ
バババッ
此方に向かって足音が・・・みっつ?
「銀河様に敬礼ッ!!」
「このような格好で失礼しますっ!」
「いや良いよ。そのままで。」
救いの神が・・・。
「なんなのこれ?」
総統閣下が馬鹿の手から小さな旗を取り上げると、ネミッサの表情が豹変し急に暴れ出した。
「かえせぇええええええええええええええええええ!!!!!」
「?」
ガゴッ
しかして、声を上げて暴れ始めた刹那、ネミッサを踏んでいた守備隊?の方の足が一瞬消えたかと思ったのだけれど次の瞬間にはネミッサの頭から嫌な音が聞こえて、ダクダクと踏まれている方から血が流れ出てきた。
刺さってる!ヒールが刺さってる!
「ふーん・・・。これがアーティファクトねぇ。チキンライスの上に刺さってる旗にしか見えんがなぁ。」
分かりますそれ。私もそう思いました。・・・アーティファクト?
既に先ほどの神速の踏みつけで意識を刈り取られているネミッサからはダクダクと冗談のように出血しているが、全く気にとめることも無い総統閣下は旗をぷすっとネミッサの頭に刺されました。
「なんか意味あんのかねこれで?」
「俺の知っているのと随分形が違うが、それがアーティファクトで間違いないと思うぞ。妙なマナがそれから漂っている。」
「よし。じゃあ分解して解析してみようか。」
「大丈夫か?一応アーティファクトだぞ?」
「俺の勘は・・・ナノマシンは大丈夫だと言っている気がする。」
「まぁ問題ないなら良いけどよ。」
総統閣下もそうですが、その横にいるお二人も非常に大柄で筋肉質で・・・。私が小人になってしまったかのようです。
「そ・・そうとうかっかぁ・・・。」
「このっ!」(ヒィッ!)
「ああまてまて・・・。」
あわや私もネミッサと同じ目に遭うかと思いましたが、そこは総統閣下が止めて下さいました。・・・よかった・・・。
「このような失礼な体勢で大変恐縮なのですが・・・何があったのかお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか・・・。」
今の私は土下座状態。そしてその私の背中には柔らかいお尻の感触と共に、誰かがその背に座っていることがなんとなく分かります。
「俺もなんかよくわからんのだが、変なモノを持ち込んでいたらしいな。」
「状況的に見ればそこの雌狐が我々に攻撃を仕掛けてきたと判断できる。」
サハギンのおじさま?が衝撃の発言をなさりました。私にそんなことは・・・って。
「ネミッサぁ・・・・。」
こいつがまた・・・こいつがまた何かを・・・・!!!
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ささっとるささっとる。
警備部隊の彼女達にはアーティファクトの効果は及ばなかったらしく、爛々と目を輝かせて赤いのを踏みつけ、更に床まで赤くしている。
それ死ぬんちゃう?え?いいの?大丈夫。そう?。
少し視線を落とし、赤いのを垂れ流したネミッサリアを一瞥、ぷすっと爪楊枝で出来た旗のようなモノを意識の無いネミッサリアに気まぐれに刺してみる。
「操られている風では無いなぁ・・・。」
余所の世界からの介入を考えていた俺だったが、スキャンしたデータにはそのようなモノは無く、只こいつの考えの元で騒ぎを起こしたのだと言うことが判明した。
「お仕置きが必要そうだな。ブレーメンの魔女。」
「「「私達は無実です!!!」」」
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B1 秘密の部屋
レビルバンとテツをそれぞれの持ち場に戻らせた雨宮は、私室の奥の扉を開け部屋に入る。エクスとヒューニはそれぞれ部屋の入り口で物珍しそうに周りを見渡している。
そう言えばここには殆ど誰も入れたことが無かったな。
「さぁ。楽しもうか。」
最近忙しくてこの部屋をあまり使っていなかった、と雨宮の中で色々な考えが巡らされているが、その部屋に謎の頑丈なロープ一本でめざしのように足を括られ数珠繋ぎになったブレーメンの魔女の四人は、引きずられそのまま広い部屋の真ん中へと放り投げられる。
「総統閣下ここは・・・。」
ゴルゴネアは蒼い顔を隠すことも出来ず、部屋の異常なまでのマナや自分の知り得ない謎のエネルギーが染みついた・・・どう見ても拷問器具にしか見えないそれらに戦慄する。
ごそごそと綺麗に整頓された棚の引き出しから何かを取り出した雨宮は、意識を失ったままのネミッサリアを片手で掴み、拘束を解いた。
「うーん。まずは上か・・・それとも下か・・・。」
ゴルゴネア達にはその意味が分からず、得体の知れない雨宮の行動を逐一見守ることしか出来ない。
「ここはオードソックスに行こうか。」
そう言うと雨宮はぐるんとネミッサリアをひっくり返し、両足を束ね、ネミッサリアの足首の半分程もある返しの付いた鋭利なフックでふくらはぎを吊り下げた。
「いたぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
この部屋に来るまでにナノマシンによって怪我をした頭部は修復されていたが、今、その鋭い痛みによってネミッサリアは覚醒する。
しかし逆さまにつるし上げられ、ナノマシンによって脳内物質を制御されている今は感覚が麻痺することも無く、焼けるような痛みに悶える。
そしてそうやって悶えることで返しの付いたフックは更に肉を抉り、終わりの無い痛みを彼女に与え続けた。
「おはよう。」
「ぎいぃいっ!」
今迄感じたことも無いような痛みに歯を食いしばり、今にも意識が途絶えそうになるが、もちろんそんな甘えはナノマシンが許さない。
「聞く所によると、アーティファクトと言うモノはとても普通の人間に制御できるモノでは無いんだってな。」
「あ”~て”・・・ぃ?」
頭に血が上ってきたのか痛みのせいかは分からないが、顔を真っ赤にしたネミッサリアは何を言っているのか分からないと、ボディーランゲージで雨宮に返事をしたつもりだったが、動く度に焼けた鉄の棒で肉を抉られるような熱さと痛みが襲い、全身の神経が音を立てて震えているような錯覚を覚え、断続的に意識が飛びそうになる気配を感じ取り徐々にネミッサリアの心が蝕まれていく。
雨宮はフックから繋がったアナログな滑車を眺め、その先に視線が辿り着く頃にはその動きを追っていた四人はネミッサリアにこの後襲い来る脅威を知る。
「今日は単純に行こうと思ってね。馬鹿には痛みが似合うだろ?」
滑車は只フックの付いた鎖を引っかけているだけで、巻き上げる機構などに繋がっている訳では無かったが、その鎖の先にはこれまたアナログな蒸気ピストンが繋がっている。
蒸気の押し出す力でピストンが動き、一瞬だけ大きく鎖を引く。只それだけ。しかし・・・。
「このピストンは水を入れることで動くんだよ。グッツグツに煮えた水蒸気の熱はピストンを動かしてその鎖を引っ張る。」
それだけじゃ無いけど、と含みを持たせた雨宮は今はまだ動かないピストンの側に水の入ったガラス瓶を置き、ゴルゴネアに近づいた。
「そう・・とうかっか・・・?」
次は自分が吊される番かと目を白黒させていたが、雨宮はするりとゴルゴネアの拘束を解き、手を取って立ち上がらせた。
ゴルゴネアの足下は恐怖でおぼつかなくなっている。
雨宮はゴルゴネアの手に水の入った瓶を持たせると、そのまま蓋の開いたピストンの前に立たせる。
「そこが注ぎ口だ。」
うぃーん。と静かにモーター音のような音がピストンから聞こえるのをゴルゴネアは聞き、この装置に電源が入っていることを知る。
今迄感じたことの無い焦りと、これからすることによって何が起こるかを想像し、水の入った瓶を持つ手が震え、瓶を取り落としそうになる。
「おっと危ない。その水は普通の水だがガラスは普通のガラスじゃ無いからまぁ・・・割れないけどこぼれるだろ?しっかり持て。」
雨宮に肩を叩かれたゴルゴネアは全身を引き攣らせ、落としそうになる瓶を全身で抱きかかえるように支えた。
未だ床に転がされたままの巨人の双子は目の前で何が起こっているのか理解できず、目を白黒させたままで食い入るように雨宮を見つめていた。
「・・・。」
次はもしかしたら自分の番かもしれないと思うと、声も出ず口をパクパクと金魚のように動かすその姿が雨宮にはとても面白く映ったのか、雨宮は二人の前にしゃがみ頭を撫でる。
「お前達は見ているだけで良いから。・・・一瞬も目を離すなよ。」
強い口調で強調された言葉は二人の心を縛り、ネミッサリアから視線が外せなくなる。
少しの間だが時間が空き、ネミッサリアの痛みと熱さの波が引きその瞳に僅かに光が戻ると、胸いっぱいに空気を吸い込んだ彼女は雨宮に対して暴言を吐くのが精一杯だったが、雨宮はずっとそれを待っていた。
「こんなことをして只で済むと思っているの!!??この変質者!!」
光が戻ったその目は先ほどのアーティファクトと向き合っていたそれとは違い、確かな知性を宿していた。
「いきなりこんなな事をし・」
ぺしっ
「しぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
その言葉は雨宮にとっては首を傾げるに値する言葉ではある。そしてそんな疑問を胸に雨宮は足でネミッサリアの頭を払った。
天井付近で吊り下げられた彼女は逆さづりのまま、ふくらはぎから流れ落ちる血液と共にぶらりと振り子のように揺れ動いた。
耳を塞ぎたくなる程の絶叫だったが、水の瓶を抱えているゴルゴネアにはそうすることも出来ず、双子はその行為も唯々眺めていることしか出来なかった。
「さて・・・。おはなししようか。」
にこっと、近所の人とすれ違った時に挨拶をするような笑顔で雨宮はネミッサリアの腹に拳をめり込ませた。
イズ・ボイル 二十二歳 猫獣人 銀河旅団零番艦ラピス第三白兵部隊
猫団こと、超絶雌猫海賊団出身の元海賊。白兵戦闘におけるスペシャリストで銀河旅団のゲイルと同じ振動のスキルを操る普通の女の子。
彼女は猫団の急先鋒を務める傍ら、猫団の胃袋を任されていたコックでもあった。性格は非常に好戦的で尚且つ人見知り。
見慣れない人に会うと早口になりテンションがおかしな事になるという特異な人物。だが一人でいる時は刺繍を好み、洋裁に楽しみを見いだす乙女チックガールとしてフリフリひらひらな、ゴシックでロリータな衣装を日々作り上げている。
最近の楽しみはファムとネシアに自分の作った衣装を着せることと、その写真を撮ること。
好きな食べ物はめざし、直火で炙っためざしが大好きで常に手元に置いておきたいと思っているが、宇宙では高級品である魚はなかなか手に入らず、火星に移住して海の近くに住みたいと思っている。
レレイマナラーニャ・マーズ・林原 八十五歳 エルフ種? 銀河旅団零番艦ラピス第四機動部隊
火星エルフ氏族林原の産まれ。元宇宙海賊だがヘルフレムの囚人でもあった。過去海賊同士の大きな戦争があり、白兵戦の末に右目を失う。
その戦争で敗北した彼女の海賊団は多くの死傷者を出し、その中でも巨額の賞金をかけられていた者はヘルフレムへと収監された。彼女もその一人である。
彼女は数年間に亘りヘルフレムの中で生活をしていたが、右目の無い状態ではなかなか上手くいかず、苦しい毎日を送っていたが、アンジーの派閥に引き取られ一時の安寧を得る。
銀河旅団再編時、一度七番艦に送られ右目の再生手術を受け、何故か目のようで違う何かを雨宮によって植え付けられる。
それは普通に見える目であり、兵器で有り、圧縮したエーテルサーキットである。その名を『万死の目』と言う。
カテゴリー的にはアーティファクトに分けられるそれを、自らの目として使用可能なまでに改良された彼女はもはやエルフとは程遠い何か別の存在へと昇華しつつある。
好きな食べ物はリンゴ。無類のリンゴ好きで初めて支給された給料で四分の一コンテナいっぱいのリンゴを購入。彼女の腰にはリンゴを三つ常時携帯可能なリンゴホルダーが装着されており、常にリンゴを囓っている。
またVRゲームスペースアーク2における生産者ギルド『リンゴの誓い』のリーダーであり、VR空間でリンゴの味を再現する為に専用のMODを開発し、運営から厳重注意を受けたことがある。
しかしそのMODは後に運営に買い取られ、とある大型アップデートの際味覚再現アップデートとしてスペースアーク2の拡張性を更に広げる一役をになった。
プレイヤーネームはリンゴレディ。




