EP46 無礼面の魔女
まだまだふえるぞぉ!
銀河旅団の展開する宙域からほど近く、小型の高速艇が密かにその存在を隠すように漂い、残骸の漂う水星軍第四艦隊の展開していた宙域を監視している者達が居る。
「ブレーメンの魔女か。」
「迷惑な話ね。折角あの邪魔者達を始末できると思ったのに。」
操縦席に座る女性はしっかりとパイロットスーツに身を包み、モニターに映し出されている惨劇を見てつまらなさそうにコンソールに肘をついた。
「マギアシリーズだったっけ?アレの能力も見られなかったしねぇ。何の役にも立たなかったね。あの人。」
操縦席のとなり、オペレーター席に座る細目の男は、特に気にした様子も無く携帯端末を操作し状況を記録する。
「第四艦隊全滅、ターゲットはギルドから冒険者を雇って手の内を明かさず・・・と。」
「冥星軍からは何も報告が上がっていないのよね?」
「そうだな。・・・何も無いな。」
女はシートに背を預け考える。
(あれだけの規模の大型戦艦を十隻も所有している民間人なんて、報告が上がっていないはずが無い。
何かを隠している・・・?)
「・・・。きな臭いねぇ。」
「全くだよぉ。どおなってんだろうねぇ?最近は色々あって忙しいって言うのにさぁ。」
「スペックシートを見たら目玉が飛び出る程のスペックだし、値段もあり得ない金額。あんなものを十隻もそろえるなんて戦争でも始める気か?」
「確かにな・・・一隻二兆クレジット。十隻で二十兆クレジット・・・。小国の国家予算を遙かに上回る様な金額だ。只事では無い。」
「何か良からぬ事が・・・?」
女が自らの身の安全について思案していると、ふっと、モニターが暗転した。
「おい。モニターが映らなくなったぞ?」
「えぇ?そんなはずは・・・。」
シートの後ろに立っている男は何かに気づき、コックピットの入り口に向かって銃を構える。万が一のことを考え出力を抑えた大型スタンガンだ。
「馬鹿な・・・何も感じなかったぞ・・・。」
「何があった!銃のセーフティを解除したのか!?」
「扉の向こうに・・・居る!」
シートに座っていた二人ががそれぞれ武器を構えようとしながら振り向いたと時、銃を構えていた男が崩れ落ちる。
「ダーハン!」
ズズン
艦を揺らす様な大きな音と共に扉が横にずれ、上下に分かれた扉は床に倒れ落ちる。
「おいたはあきまへんでぇ?」
「・・三秒待ちます。武装を解除しなさい。」
瞬間的に二人の頭部に銃のレーザーポインターをあてたヒューニが警告すると、二人の押し入ってきた女から発せられる異常な殺気に身体を震わせ、手に力の入らなくなった二人の男女は武器を取り落とし、床に滑らせた。
「こ・・・降伏する。」
「俺達を撃ったらあんまり・・・い・良いことにはならないと・・・思うんだけどなぁ・・・?」
しかし細目の男はその自分の言葉が無駄なものであると言うことに直ぐ気づく。もう既に自分の相棒は物言わぬ骸となって床に転がっているのだ。
半端な話し合いの通じる余地がないことは、火を見るより明らかだった。
「男は死んでもえぇ。女は持って帰る。それだけやよ?」
「まってくれ!何も殺すことは無いだろ!」
エクスは首を傾げふわりとにこやかな雰囲気を乱さないままで、男に尋ねる。
「せやけど、ええことないんやろ?ほんなら皆殺してしもた方がええやないの?ねぇ?」
「そういうことじゃ・・・。」
隣の女は自分が殺されることは無さそうだと、ほっと一息をつくと細目の男の肩に手を置き素敵な笑顔を作って一言。
「頑張れ。」
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マギア・ラピス メインブリッジ
「で。監視していた奴らを連れてきたと。」
エクスとヒューニは二人を連れてラピスに戻ると、直ぐ雨宮の所に連れてきた。
二人は雨宮の両腕にしがみつき、甘えるようにすり寄っていく。
「別に男は連れてこなくても良かったんだけどなぁ。」
「労働力位にはなるぅおもて、もってかえってきたんよ~。」
「反抗的なので、脳を改造しても良いと思います。」
ヒューニの発言を近くで聞いていた細目の男は、大きく肩をふるわせ膝が笑い始める。
「銀ちゃーん。」
「ん?」
「ブレーメンの魔女さん達が挨拶したいってー。」
はて、戦闘?が終わってから大分時間が経っていたから、もう既に帰ったのかと思っていたが、まだ居たのね。
「モニターに・・・。」
「ちがうのよー。直ぐソコまで来ているから会って話がしたいんだってー。」
あら。
まぁ俺も会ってみたかったし丁度良いか。
「応接迄通してくれ。俺も行く。」
俺はコンソールを操作し、通信室にこもりっきりになっているジェニを呼び出してブリッジを任せると、ロペを連れて応接スペースへと向かう。
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ラピスB2 応接スペース
(・・・広い・・・。応接室なんだろうけど、何でこんなに広いの?)
余った空間が無いようにとだけ考えられて作られている、そしてドックから近い。しかし室内そのものが広すぎて無駄だった。
小型艇で乗り付けたブレーメンの魔女の幹部達は、まずドックの広さに驚き、廊下の広さに驚き、そして応接スペースの広さに驚いていた。
(金もってそうねー・・・。)
キョロキョロとしきりに周りを見渡すとんがり帽子をかぶった女は、今にも立ち上がって辺りを物色し始めそうだ。
しかしそんな落ち着きの無い彼女を隣でしっかりと押さえつけている幹部の一人、蒼く輝く布で目を覆った女は呆れてため息をつきながらも、自身もその規模の大きさに舌を巻いている。
「ネミッサ、落ち着いて。周りのものをあんまり触らないで。座ってよお願いだから。」
そして同じく護衛としてついてきた双子の巨人娘も、自分の居場所を求めて周りをうろうろしていた。
「ひろい・・・ひろいよぅ・・・。」
「こぉら!隅っこに行こうとするな!護衛なんだからここに居なくちゃ駄目だろ!?」
広所恐怖症気味の妹ヘラは中央に配置された椅子の後ろに立っているべきなのだが、あまりに落ち着かない為フラフラと部屋の隅に無意識に移動してしまいそうになるが、姉のアイオネアがその腕を掴んで放さない。
「にしても、遅いわね。」
「遅くは無いわ。ここがドックに近すぎるだけよ。しかも急に押しかけたんだから。こっちがそう言うのは失礼よ。」
「むぅ・・・。」
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端末で応接スペースの様子を見ながら、雨宮とロペは先ほどの二人とヒューニ、エクスの二人を連れて応接スペースへと向かっていた。
「ふふふ・・・あの巨人娘達可愛いなぁ。あ・・・また端っこに行きたそうにしてる。」
オロオロと狼狽えるブレーメンの魔女達を見ながら癒やされる雨宮は、片手で端末を持ち、もう片方の手はロペにしっかりつながれていた。
「それにしても旦那様ぁ?どうしてあんなにブリッジから遠い所に応接を作りはったんですぅ?」
「こうやって眺める為だよ。中の音声もバッチリ拾えるし、中々面白いぞ。」
そう言って端末をエクスに渡すと、応接スペースの扉が見える。
エクスとヒューニは扉の両脇に立ち、雨宮が扉の前に来ると、ヒューニが開閉の指示を出し扉を開いた。
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「待たせて悪かったな。」
全く心にも無い社交辞令を口にする雨宮の様子を見て、エクスがクスリと笑みを漏らす。
「いいえ。此方こそ急にご挨拶に覗わせていただきましたのに、お会いできて光栄です。」
ほう。あの目隠しちゃんはしっかりした子だな。それに引き換え・・・。
「報酬の件で話をしに来たのよ。」
やけに偉そうな態度の赤い女は何だろう。
「こ・・こら!足を組まないのよっ!」
苦労していそうだな。目隠しちゃん。
「で?報酬の額は決まっていたはずだが。一体何のようなのかな?」
雨宮がそう言うと赤い方はむっとした表情を隠さず、不平を漏らした。
「急な依頼だったからね、まともな準備・・・「それは自己責任。」・・。」
ロペはすかさずカットインして話を遮る。まぁそんなもん知ったことかいな。
「で?何のようかな?」
「あれ・・・??」
「で?何のようかな?」
「えっと・・・。」
「で?何のようかな?」
「だから・・・。」
「で?何のようかな?」
「それは・・・。」
「で?何のようかな?」
「ちょっとぉ!!」
「で?何のようかな?」
あ?やめどき?
「ネミッサはもう黙ってて。」
コホン都政払いをして落ち着いたのだろうか、目隠しちゃんは改めて用件を話し出した。
「私達のクランはパトロン・・・スポンサーを探していまして。」
「ロペ?」
ロペはさっと端末を操作し、その情報を探し当てる。
「んー?ブレーメンの魔女は煉獄社と専属契約を結んでいたはずだけど?」
「それが・・・。」
ロペの言うとおり、今迄・・・つい先日までは水星圏の戦艦シェアトップスリーに並び立つ煉獄社と専属契約を結んでいた彼女達だったが、あまりにも損耗率が高くこれ以上艦隊戦を繰り返すようなら契約を切ると言われていたのに、つい先ほどの戦略級兵器を使用した際、戦艦を壊してしまったらしく、ついさっき契約を切られたそうだ。
「アホス。」
「あほーす。」
「あほやねぇ。」
「ポンコツ。」
「ばかだなぁ。」
「ぷっ。」
周りにいるメンツ全員から思い思いに罵られて、顔を真っ赤にしたネミッサは口を真一文字に結び、明後日の方を向いてふてくされてしまった。
「まぁネミッサは馬鹿なんですけど。」
「ちょっとはフォローしなさいよ!」「いや無理。」
即答だな。目隠しちゃんには好感が持てる。
「あ・・。申し遅れました。私はブレーメンの魔女所属のSランク冒険者ゴルゴネア・ヘルヘルと申します。そしてこの隣にいる馬鹿が、ネミッサリア・ファイブスター同じくSランクの冒険者で、一応ブレーメンの魔女のリーダーです。
「ちょ!」ハイハイ。で、後ろの二人が護衛もしていますが幹部と言っていい者達です。双子の妹のヘラ・オリオン、そして姉のアイオネア・オリオンです。」
サラッとリーダーをディスって行くスタイル。
「成る程ね。ではこっちも軽く紹介しておくか、俺が雨宮銀河・・・銀河旅団の・・・ボス・・・だ・・・っけ?」
自分で自分のことをボスとか呼ばないよな普通?俺は一体どういう立ち位置なんだ?何者?
つい雨宮はロペの方を向いてしまったが、ロペは何も考えていなかったようで首を傾げて固まっている。
それを見かねたエクスが助け船を出してくれるようだ。
「銀河はんは、うちらの旦那様にしてこの銀河旅団の総統閣下であらせられます。そしてその隣がロペねぇさん、旦那様の第一夫人にして銀河旅団の副総統閣下ですぅ。
それからうちらは銀河旅団零番艦ラピス所属近衛第二部隊のエクシリスとヒューニですぅ、護衛と秘書のまねごとをやってます。」
俺って総統閣下だったのか。まぁ・・・良いか。
しかしエクスの自己紹介を聞いた辺りからブレーメンの四人の表情が固まった。
「あ・・・ぇ?」
半分混乱しているブレーメンの女性方を横目にエクスは俺の座っているソファーの肘置きに腰を下ろし、何か?とでも言いたそうに首を傾げた。
「せ・・・世界の終焉の・・・惨殺魔エク・・シリス・・・?」
ん?世界の終焉って何だっけ?
「あらあらぁ?そんな古い話・・・よぉ知ってはりますなぁ?」
まるで生け贄を見る悪魔のように目を鋭くしたエクスに、一瞬全身を硬直させていたブレーメン達だったが、エクスは直ぐ俺に撓垂れ掛かって俺の肩に指をぐりぐりしてきた。
「旦那様ぁ。うちはもうええこですぇ?死んで罪も消えましたし・・・。」
世間的にはヘルフレムへと収監された囚人達は、俺の起こした大爆発で全員木っ端みじんになった・・・事になっている。
連合警察の手配所からも、彼女等の情報は既に削除されていることを確認している。
しかしまぁ・・・。人の記憶には残るものは残るものだ。
「エクスは彼女達と面識があるのか?」
「いいぇぇ。ありません。」
「じゃあ一方的に知られていただけか。」
だが彼女達みたいな有名所がそう言う情報を持っているのもあまり都合がよろしくない。変な噂を流されでもしたら、折角今迄情報操作してきたロペやジェニやバーバラ達の努力が水の泡になる。
しかもそれで俺達の行動に制限が掛かってしまうと・・・。
主に俺がむかつく。
「で?スポンサーがどうとか言ってたっけ?戦艦返してこぢんまりやっていくって言うのは無しな訳?」
俺が話を強引に元に戻すと、ゴルゴネアが我に返り自身の持つ端末とにらめっこしながら、返答に困っている。
と言うかあの端末目隠ししていても見えるのかね?
「あ・・この布に端末の情報を投影できますので・・・だいじょうぶです・・・はい・・・。」
「ふーん。」
「あ・・あの・・・。戦艦は修理箇所が多すぎて買い取りになってしまって・・・その・・・借金が・・・。」
なるほどねぇ。まぁあのクラスの戦略級魔法を使えば、普通の戦艦は壊れるわな。明らかにオーバーキルだし。
十分の一の出力でも問題は全く無かったんじゃ無いかなぁ。
「じゃぁ聞くけどぉ、スポンサー契約を結ぶとしてぇ、うちに何のメリットがあるのかなぁ?」
本来の目的を果たしてさっさと帰って貰おうという意図がありありと見えるロペの態度に、ゴルゴネアとネミッサリアの背筋が伸び、エクスに対する恐怖をある程度拭い去り二人は勇気を振り絞った。
「私達二人はSランク冒険者ですし、後ろの二人もAランクです。彼女達の他にもAランクが五十人ほど在籍しています。戦力としては申し分ないかと・・・。」
俺は今ひとつその冒険者のランクが戦力と結びつかないので、どうしたものかと思っているとロペが判断材料をよこしてくれた。
「Aランクだと大体レベル八十から百って所かなぁ?Sランクになれば百以上二百未満って感じ。」
うーん。
「うちで言うとトトちゃんが大体Bランクなりたてぐらいで、エトラちゃんがSSランクよりちょっと上ぐらいで・・・エクちゃんはSSS以上で計測不能って感じかなぁ。」
トトとエトラの間が開きすぎてわかりにくい。その天と地程の開きの間が気になるんだが・・・。
「因みに今この前に居る四人は、ミンティちゃんよりも弱いょ。」
ミンティちゃんて・・・あぁミンティリアの事かあいつもAランクだったが・・・。
「ロペねぇさん・・・ミンティリアはんはパーティメンバーが弱すぎてSランクの昇格試験を受けてへんかっただけで、SSクラスの力は持ってはりますで?」
「ありゃ。じゃあ余計にわかりにくいかな?うちのクルー達はレベル補正を殆ど気にしない地力があるからねぇ?銀河きゅんもまだレベルで言えばゼロだしねぇ。」
うっふ・・・。あぁ・・・早くダンジョンに行ってみたい・・・。
「うーん。じゃあ彼女達と同じぐらいの奴らって言うとどの辺なんだ?」
「あー・・・。今のライちゃんと後ろの二人が同じくらいかなぁ。で・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ。Sランクの二人はそう。銀河きゅんがアレやった時のアイリーン。と同じくらい。」
・・・あー。なんとなく分かった。でもそれって弱くないか?クルファウストより弱いぞ?ああでもあいつは何でも出来るマンだから比べたら駄目か・・・。
しかもうちの非戦闘員筆頭のライより弱いってどうなの?
そして導かれる結論は・・・。
「戦力としては評価無し・・・。だなぁ。その辺にいる娘達にも負けそうだし。」
「ちょちょちょ・・・ちょっと待ちなさいよ!Sランクよ!Sランク!そんなそこら辺にいる奴に負けたりしないわよ!」
じゃぁ・・・。試してみよっか?結果は分かってるけど・・・。まぁ、暇つぶしにはなるかな?
暇じゃ無いけど。
「じゃぁヒューニ、その辺の娘ちょっと見繕ってきて。」
「はい。」
短い返事で頭を下げ、さっと扉を開けたヒューニはものの数秒でその辺の娘を見繕い応接へと引き入れた。
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「はい!はいっ!お客様ですか?お客様ですね?」
「テンション上げすぎ。うるさいし。」
やたらと元気の良い猫耳のクルーと、制服のポケットに手を突っ込んだままの片眼のクルーがヒューニに手を引かれてやってきた。
元気な方が、イズ・ボイル。元海賊のクルーでゲイルと同じ振動を操るユニークスキルの持ち主だ・・・ゲイルって覚えているかな?
片眼のクルーは、レレイマナラーニャ・マーズ・林原・・・舌を噛みそうな名前の火星生まれの元海賊、だが、イズとは別の海賊団にいたらしいエルフのクルーだ。
彼女は右目が無かったので、俺が勝手にナノマシンでちょっとしたおもちゃを作って代わりに埋め込んでおいた。きっと便利に使っているだろう。
二人とも眷属では無い一般クルーだ。だが・・・。
「と言う訳で、二人でこの四人を縛り上げてみて。」
「腕試しですねっ!がんばりますっ!」
「縛り上げる必要性。」
二人ともなんやかんやでやる気満々。俺の耳には二人の身体がこれ以上無いぐらい引き絞られ、放つ前の弓のように全身の筋肉が軋みの音をあげているのが聞こえる。
「良いわ。私が一人で相手してあげる。Sランクの実力を見せてあげるわ。」
無茶しやがって・・・。フラグビンビン物語が始まったぜ・・・。
「ちょっとネミッサ勝手に・・・!?」
ごしょ・・・ボタボタボタ
クッション性のある堅い物を叩き付けるとこんな音が・・・とどうでも良いことが頭をよぎったが、現実逃避をしている場合では無い。
ナノマシン・・・再生させろ。思いっきりフラッシュを焚いてな!
カッ!
「まぶしっ。」
「「「ぬあー!め・・めがーーー!」」」
俺達の座っている正面の壁に向かって潰れたトマトになったネミッサリアは、無駄に眩しい光の中でナノマシンに全身を再生され生き返った。
既に彼女の情報はサーバーへと保存済みだ。
不意打ちに眩しく輝いたことで、エクスもヒューニもロペも目を押さえてもんどり打っている。
ブレーメンの三人は何が起こったのかすら理解できていない様だ。
「ネミッサ・・・?」
周囲をキョロキョロと探しているゴルゴネアは自分が居る後方の壁際に彼女の気配を感じ取り、状況の把握に努めた。
しかし、引き絞られた弓は一張りだけでは無く、もう一人。その矢のような攻撃的感情は自身の元へと向いていること戦慄を覚え、同時に彼女の本能が全力で媚びろと頭痛がする程の警告を発してくる。
「降参します!」
「「ずるい!」」
双子の巨人娘達も本能で危機を感じ取り、どうかその拳を降ろして下さいと流れるような動作で膝を折り、額をウルテニウムの床に叩き付けた。
「「「どうかお許し下さい!悪いのはあいつです!」」」
いっそ清々しい位の手のひら返し・・・とは言っても力試しに乗り気だったのは、トマトになったネミッサリアだけだったが。
因みにネミッサリアは意識を失って居る。一瞬とはいえ魂が肉体を失ってしまったせいでエーテルサーキットの接続が切れてしまったのだろう。
魂が世界に返る前で良かった良かった。
「で・・・。どうしよっか・・・。」
若干圧迫面接のような空気になっている応接スペースだったが、そこで勇気を出せるのがゴルゴネアの良い所だった。
「脱ぎます!」
「「ええぇ!?」」
立ち上がり、シャラシャラの上着をひっつかんで後ろに放り投げ、元々薄着だったゴルゴネアは褐色の肌に映える白の・・・。
「脱いでどうするよ?今んところそういうのは間に合って居るぞ?」
「・・・・。」
見せブラに手をかけた所で俺にそう言われ、固まってしまったが頭は必死に動いているようで、状況の打開を思案しているようだった。
「まぁ座れよ。良い身体してるのは分かったからさ。」
ーーーーーーーーーー
「どうかお慈悲を賜りたく・・・。」
あまりの戦力差に敬語がなんかおかしくなっているが、実を言うと俺はこの三人はちょっと気に入っている。
ネミッサリアは普通の人種でちょっと強いだけだが、ゴルゴネアは今迄一人も見たことの無い新種族。ゴルゴン種と言う銀河連合政府から絶滅危惧種に指定されているレベルの希少な人種だった。
そして双子の巨人娘、彼女達はちょっと調べてみたいことがあるからちょっと欲しいんだよね。
「どうする?パトロンじゃ無くっても良いんだったら、うちで働いてみても良いと思うが。」
一瞬晴れやかな換え顔を見せてくれたゴルゴネアだったが、その笑顔も直ぐに曇り俯きがちになってしまう。
どうやらクランのメンバー達のことが気になるらしく、今迄散々甘やかされてきたメンバー達は、恐らく独り立ちすると各々悪い奴らに酷い目に遭わされるであろう事が容易に想像できる、そんな箱入りレベルのメンバー。
他のパーティーに入ってもまともに活動できるかどうか怪しいうえ、それを懸念していたゴルゴネア達幹部がダンジョンへと侵攻せず艦隊戦に執着していた理由も、小口のパトロン達の娘達を預かっている事が原因だった。
幹部達は普通の冒険者としてある程度は慣らしてきているので問題は無いが、恐らくモンスターの返り血など浴びようものなら、絶叫し卒倒するであろう者達も居るだろう。
箱入り娘達のステータスの為に、一年程でメンバーがコロコロと入れ替わり、もはや幹部達も誰が誰だか把握できないとのことだった。
総数約八百五十人もの大所帯になってしまっているブレーメンの魔女は、太陽系各地から上流階級の子女達を預かっているが、もはやその子女達の浪費ぶりに首が回らない状態が続いていてクラン消滅も見える所まで来ていた。
そこに来て一発逆転を狙った依頼でネミッサリアは失敗し、莫大な借金とクルー達の治療費、そして娘達の安否を確かめる上流階級の親御さん達からのひっきりなしに来る連絡の対応と、もはや首の皮一枚所では無く報酬を貰った所で、焼け石に水。
雀の涙。どうにもならない所まで来ていた。
「そうまでして見栄を張りたかったのぉ?」
「そう言う訳では無かったのですが・・・。いつの間にかそう言う役所になってしまって、気がついたら手遅れに・・・。」
「「大体ネミッサのせい。」」
娘さん達は裸一貫から成り上がってきて、その煌びやかな生活を手に入れたネミッサリア達に憧れ、純粋に最初のブレーメンの魔女のメンバー達はダンジョンの探索に様々な依頼、冒険者として活躍の場を広げ本当の意味でのステータスを身につけていた。しかし、そんな初期のメンバー達も上流階級、家を継ぐ、仕事を手伝う、結婚する、様々な理由で冒険者を引退していった。しかしそんな彼女達の口コミから、噂を聞きつけたその他大勢の子女達が殺到し、見る見る間にまともに管理すら出来ない状態になってしまった。しかもそのせいで冒険者だというのに冒険すら出来ず、金も稼げない。やむなくスポンサーを求めることになった。
そして何より・・・。
「一番悪いのはネミッサ。何でもかんでも買い与えるし、自分も要らないものをいっぱい買って浪費していたから。」
「弾薬はいつもカッツカツで、艦隊のエネルギーだって一クレジット単位で切り詰めていたんだ。」
「私達は三日に一回しか食事をしていないし、それもスーパーの半額シールが貼ってあるモノだけしか口にしていないんです。」
事情を聞いてみると出るわ出るわ、不平とか不満とか愚痴とか・・・主にネミッサリアのこと。
妙に態度がデカいと思ったら、ホントに何にも考えていなかっただけなのか・・・。
俺はてっきり仲間に見せる為の演技かと、話の最初はそう思っていた。だが事実は違うらしく、この三人は常に数字と戦っていたらしい。
「不憫・・・。」
「うぅ・・・やめて下さい・・・。」
しょうがないにゃぁ。
「ブレーメンの魔女は一旦解散。おっけ?」
「「「え?」」」
「ロペ。」
「そっちのメンバーリストが無かったから、ナノマシンに調べさせたょ。確かにあっちこっちのセレブっぽいのからそうじゃないのから色々居るけど、全員帰らせようか。怪我してる子達はこっちで治療してから返すし、戦艦は全部スクラップで良いよね。銀河きゅんが新しくなんか作るでしょ?」
「そうな。あれだけの量のスクラップだ、マシンが何機作れるか・・・。」
「旦那様、マシンばっかり作ってたらあきまへんぇ?その内あふれてまいます。」
そうだった。量産機計画は上手くいっているから、あんまり余計なものを作りすぎてもいけないか。
「人手の方が欲しいですが・・・使えない人手を組み込んでもいけません。」
「やっぱ全員帰して、ブレ魔女本隊だけうちで回収しようか。あと・・・。」
ブレ魔女て・・・。
「あと?」
「借金は煉獄社に掛け合ってチャラにして貰おうかなーって。」
え?何それどういう事?そんなんチートやン?三隻分の借金て相当だろ。
「どおやって?」
そこまで言うとロペは俺の背中を叩き、任せたっ!と丸投げしてきた。
「仕方ないかぁ。バリバリ働いて貰わにゃ割に合わんなぁ。」
ってどうするよ俺?何をしたら数千億の借金が消えるのよ?
今回はどうやらホントに俺に任せるらしく、三人は巣立ちを見守る母親のような目で俺を見ていた。
色々勉強させて貰ってはいたが・・・こんな交渉できるのか?俺に・・・。
ゴルゴネア・ヘルヘル 二十九歳 ゴルゴン種 ブレーメンの魔女所属Sランク冒険者
リーダーであるネミッサリアの幼なじみにして、超希少種と呼ばれるゴルゴン種の女性。自身の魔力を制御することが出来ず魔眼と呼ばれる目から、魔力が漏れ出してしまう為、常にオリハルコン繊維で作られた布で両目を覆い隠している。
幼い頃からネミッサリアと共に水星圏を駆け回り、数々のダンジョンを攻略してきたベテラン冒険者だったが、ブレーメンの魔女を結成して以来、クランのまとめ役として中々冒険に出られないことに常日頃不満を漏らしている。
理由が分からないまま雨宮に熱を上げるネミッサリアについて、冥王星圏に出てきたが入れ違いになってしまい、結局直ぐにとんぼ返りすることになってしまったのだが、復興し始めていたアトレーティオ4の宇宙港にて銀河きゅん人形とイントたん人形をお土産に購入して戻った。しかしこれが災いし、ネミッサリアからどこで買ったか問い詰められ、これを購入する為だけにもう一度アトレーティオ4を訪れることになった。
しかし彼女も転んでもただでは起きない気質であった為、休日と割り切って両手いっぱいに土産物を買いあさり、私室の中をいっぱいにしているという。
趣味はぬいぐるみ製作。様々な土地であらゆるぬいぐるみを買いあさり自作のぬいぐるみの為のネタ作りをしているが、近年金欠が続き中々高価なぬいぐるみが買えないことがストレス。
好きな食べ物は穴子の白焼き、タレも良いが塩も良い。
ヘラ・オリオン 三十六歳 巨人種 ブレーメンの魔女所属Aランク冒険者
双子の巨人姉妹オリオンズの妹。オリオンズとはブレーメンの魔女として活動する前の二人だけだった頃のパーティー名で、水星圏金属ダンジョンでは、ローカルランキングトップの実力の持ち主達だったが、ダンジョンの中層に辿り着くなり全く先に進めなくなり挫折、ダンジョンの中に存在する広大な部屋を繋ぎ合わせたような構成の階層にて姉とはぐれ、置き去りにされたまま一月以上放置されていたトラウマから、広い場所にいることを認識すると全身が痙攣し呼吸困難の症状が現れるようになってしまった。このトラウマの為にSWで出撃することが出来ず、パイロットとして秀でた能力を持ちながらも、その能力を全く使うことが無くなった。
ブレーメンの魔女として活動し始めてからは、宇宙空間での活動が極端に増えて仕舞った為、全身を覆うパイロットスーツを常に装着し、出撃前には自らに閉所にいるという暗示をかけてから出撃する。
趣味はレトロカメラによる撮影と暗室にこもってフィルムを現像すること。しかしブレーメンの魔女として活動し始めてから、自らに入ってくる収入が極端に減ってしまった為新しいフィルムを購入することが出来ず、カメラのレンズを磨く毎日が至福。
好きな食べ物はビーフジャーキー。ダンジョンに置き去りにされた際に命をつないだ食べ物をこよなく愛するようになり、報酬が分配されると箱でお気に入りのメーカーから取り寄せて自室で密かに楽しんでいる。
アイオネア・オリオン 三十六歳 巨人種 ブレーメンの魔女所属Aランク冒険者
幼い頃から水星冒険者ギルドの孤児院にて育つ。双子の姉妹の姉で元々姉妹で前衛と後衛を分けてパーティーを組んで冒険者をしていたが、同じ巨人種の多いヴァルハラダンジョンでは全く歯が立たず数年アタックした後断念。姉妹揃って同じ水星圏にある、金属ダンジョンの攻略者として時間をかけ名を馳せる。しかし前衛の戦士と後衛のハンターだけではどうしても攻略できない場所があり、他のメンバーを探していた所、クランを立ち上げる為の幹部メンバーを探していたネミッサリアに見初められ、後衛しか居なかったブレーメンの魔女のメンバーになった。
趣味はギャンブル。稼ぎの九割をつぎ込む程のはまり具合だが引き時はわきまえている為ギャンブルが元でのトラブルは無い。
好きなスロットは『真・機動少女マッスルマギカ』
好きな食べ物はおでんのこんにゃく辛子マシマシ派。
ラーアミ・マトイヤル中尉 二十九歳 メローフ 水星軍機密諜報部隊所属
メロウ種とエルフ種のハーフであるメローフと呼ばれる種族に生まれ、水星には水が沢山あるという勘違いから幼い頃メロウ種の母に連れられ、火星帝国から移住したが、もちろんそのような事実は無く母子二人して普通のコロニー下層民生活をしていたが、彼女は非常に頭が良く学生時代を特待生としてエリート街道を進むことになった。そして母を思いやる気持ちから軍学校に入学し学生士官候補生として、少ないながらも母を仕送りで助け、卒業する頃には特殊部隊からのスカウトが来る程の実力を開花させた。
戦時中にとあるコロニーを防衛した局地戦における戦績の非凡さを認められ、機密諜報部隊からスカウトされ昇進、雨宮銀河の監視を命じられヘルフレム監獄に潜入したがヘルフレムの厳しい看守の目を掻い潜ることが出来ず、女囚達の派閥の中で細々と情報収集をするに留まった。雨宮が脱出することを知った際水星軍から迎えが来ていた為普通に脱出、離れた所からヘルフレムが大爆発する所を見守っていた。
趣味はVRゲームスペースアーク2。プレイヤーネームは纏ちゃん。
好きな食べ物はイカそうめん、イカそうめんにはめんつゆが良いというこだわりから火星製のめんつゆが彼女の部屋の冷蔵庫には常備されている




