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EP41 銀河旅団選抜セレクションファイナル

なんか短くするようになってから急にペース上がって不思議。

・勝ち抜き格闘


 あり得ない・・・絶対おかしいわ。


 「何なのこれ!このトーナメント!?」


 おかしい・・・と言うか何で私が・・・。


 「ミンティリア一番最初なのですねー?」


 そう。この勝ち抜き格闘・・・飛び道具さえ使わなければ何でもありというめちゃくちゃなルールだって、それだけでもおかしいのに・・・。


 「今迄の成績で一番優秀なものから順番ってどう考えても逆じゃ無い!?普通私達上位は一番後でしょ!?一番下が最初のチャレンジャーになるでしょふつうぅ?」


 掬い上げるようにトーナメント表を見つめては見たものの、中身が変わるような事は無いようだ。当たり前だが。


 一回戦は順位一位ミンティリア対順位二位レビルバン。


 「勝てるわけ無いでしょうがぁ!!!あんな反則サハギンにどうやって勝てと!?ついさっき思い出したわよ!宇宙刑事レビルバン!SSS・・・トリプルエスクラスのレジェンド冒険者じゃ無いのよ!」


 おわった・・・折角ここまで来たのに・・・。一回戦で絶対負ける・・・。せめて逆だったら当たるのは決勝戦だったのに・・・。


 ぽんっと方に温かい手が置かれる。


 大きな手・・・。


 「正々堂々と戦おうでは無いか。」


 レビルばんんんんん!!!!!


 せめて出場者を気遣うとかなんかしなさいよ↑!


 この場にいない雨宮に向かって、心の中でガンを飛ばしては見るものの特に何も変わる事は無い・・・。

しかもレビルバンは頑張ろうぜっ!と言わんばかりにグッドサインを此方に向けて送ってくる。錦鯉らしき頭部が妙にむかつく。


 しかも妙に良い笑顔だし・・。


 「ま・・・まぁ?SSSクラスの冒険者にチャレンジする機会を得られるなんて、こ・・・光栄よねっ。」


 今迄散々規格外の身体能力を見せつけられてきたのだ、足の震えも止まらず見栄も張ってみるが全く戦いになるヴィジョンが浮かばない。

ミンティリアの中のあらゆる知識と経験が、その勝利という文字を完全に否定していた。


ーーーーーーーーーー


脳内ミンティリア会議


ミンティリアAは言う。


 「逃げましょう。死ぬわ。」


ミンティリアBは言う。


 「土下座で許して貰いましょう。死ぬわ。」


ミンティリアCは言う。


 「脱いだら勝ちを譲ってくれるかも。死ぬわ。」


ミンティリアDは言う。


 「ここは一つ雨宮銀河にすり寄ってみてはどうかしら?でも死ぬわ。」


ーーーーーーーーーー


 脳内会議の結果は満場一致で、死。

それ以外の結末が見えない。だが一つの光明は見えた。直談判だ。


 「それしか無いわ・・・。」


ーーーーーーーーーー


 「却下。」


 ミンティリアは激怒した。


 「な・なんでよー!」


 「こっちの方が面白いだろ?別に弱者の成り上がりなんか見たくないし。みじんも無い可能性を育てるよりかは、最高の状態で強者の戦いを見た方が良いだろ?

でも時間が無いからこうやっただけさ。」


 どうせ五十番以下は失格なんだし・・・。と誰にも聞こえない声で雨宮は言った。


 今回の挑戦者は実に多く、一体どこからこんなに連れてきたのかと首をかしげる程の人数が集まってしまった。

後でロペとはじっくりOHANASHIしないといけないな。


 今迄の試験は何とか終わり、漸く最後までこぎ着けたが、いかんせん時間が掛かりすぎた。四千人もいちいち見ていられるかよ。


 「それに、俺はお前かレビルバンが四千人抜きしてくれるのを信じてるぜ?」


 そうは言ったもののミンティリアは魔法使い。魔力が枯渇してしまえばそれでお終いである可能性が非常に高いが、レビルバンの力は底が見えない。パン食い競争でもど根性を見せてくれた。

不可抗力みたいだったが。


 「私はれーむんに期待したいんだけどなぁ・・・。」


 「うぐっ!ぜ・・善処する・・・。」


 彼女はロペのお墨付きの人だな。唯一パン食い競争でやらかさなかった猛者でもある。だが戦闘能力ではどうだろうか?


 「時間が惜しい。俺達は別に問題ないが挑戦者達はもう限界だろう?」


 雨宮達ハイパーヒューマノイドは眠る必要は無い、しかし普通の人間は違う。既に彼らは全員途中気を失った者達を除いて、一睡もせずに三十時間もの間ずっと実技試験を行っている。

全力で動いている上での徹夜ともなれば、ここいらが肉体の限界であろう事は想像に難しくない。眷属では無い新庄とござるは既に途中で抜けて眠りに帰ってしまった。


 優勝候補の一人であるレビルバンも又、目の下に黒いクマをうっすらと浮かべている。


 元々それほど体力も無いであろう魔法使い達は既にグロッキー状態の者も多い。

本来なら翌日・・・日をまたいで休憩を挟む。なんていう方が雨宮の望みには合う。しかし現状はそれを許さない。


 ・・・こっちを先にやった俺が悪いんだが、外がやばい事になっている。すっかり忘れていた。

外にダンジョンのモンスターがポップしているって言っていた事を。今は何とかラムとブロアの二隻で抑えきれているらしいが、もっと戦力が要るとの報告が上がっている。

こっちをほったらかしにしてしまうと後で内部に余計な者が巣くってしまいそうだし、だからといってこっちに掛かりきりになるわけにもいかない。

 俺が海王星ダンジョンの中に居る界獣達を分解してしまわない事には、ずっとモンスターが外に現れ続けるんだ。もしかしたらいつか戦線が瓦解してしまうかもしれない。

 因みにその原因の界獣を操る事の出来る洋介君は、移住先の下見に行くと行って既にここを離れたのだとか。


 ・・・なんて真剣に考えては見たものの、十分の二の戦力で完全に押さえ込めているのに俺が行く必要性は無い。

それでもヘルプが必要なら、レムルなりジェドなりを出撃させれば良いだけの話だ。海王星ダンジョンの詳細はまだロペから聞いてはいないが、現状で問題ないと俺は判断するね。


 どっちかというと、新しく仲間になってくれる奴らの身体の方がちょっと心配なんだが・・・。


 「よし。じゃあ一回戦始め。」


 「ちょっと!いきなりじゃ無い!?」


 慌ててステージへと移動していくミンティリアとレビルバン。

因みに何故ミンティリアが一位なのかと言えば、只面白かったからだ。いっぱい楽しませて貰った。

後で犬っこも褒めてやろう。


 雨宮の黒い笑みが出場者達を捉える。


 何人か実験台としてクルーにしない奴を囲ってしまおうかな・・・。


 気配に敏感な者達は異様な気配に辺りをキョロキョロしているが、雨宮画素の発信源だと気づくものはいない。


ーーーーーーーーーー


 「さぁどこからでも掛かってくると良い。」


 いや・・・もう眠くて・・・。視界がぼやけるんだけど。この状態で四千人抜き?無理じゃ無い?


 しかしそこでミンティリアに天恵が舞い降りる。


 はっ・・・。私は魔法使いなのよ?『飛び道具』を使わなければ良いだけなのよね?

じゃあ魔法は問題ないじゃ無い?


 「か・・・勝つわ・・・私・・・。」


 「なるべく・・・はやく・・・掛かってきて欲しいのだが・・・。」


 こっくりこっくりと船をこぎ始めるレビルバンも又焦っていた。一瞬の油断で眠ってしまいそうだったのだ。

限界まで身体を酷使し、更に殆ど吐き出したとはいえ腹も満腹だ。これで眠くならないわけが無い。


 ミンティリアが腰に差している短めの青い水晶のロッドが淡い光に包まれ、魔力が高まっていくのを誰もが感じ取る。


 「普通の・・・魔法なら私には・・・。」


 最後までしゃべりたくなくなる程の眠気と戦いながらレビルバンはファイティングポーズをとる。今にも眠ってしまいそうだ。


 「見逃したわね・・・・先制しなかった貴方の・・・負けよぉおおおおおお!」


 眠気を吹き飛ばす為に大きな声を上げ魔法名を叫んだ。


 「スリープエクステンション!!!!」


 「おうふ・・・。」


 込められた魔力の奔流が会場を所狭しと駆け巡る、どうやら眠すぎて集中出来ず、半分魔法が暴走しているようだ。


 同じ舞台に立っているレビルバンは為す術も無く舞台の上で眠りについた。


 そして会場の周りでそれを見ていたであろう参加者達もまた・・・暴走する眠りの魔力によって次々と地面に倒れ伏し、眠りに入った。


 「はーっはーっ!こ・・・これで文句ないでしょ・・・?よ・・・四千人抜き・・・してやったんじゃ・・・な・・・・い?」


ぱたり


 結局今日一日で二度も全ての魔力を使い果たし、心身共に限界を遙かに超えていたミンティリアは深い深い眠りについた。自身の魔法によって。


 「ダブルノックアウトかな?」


 「頑張ったんだからぁ勝ったことにしてあげよぅよ。」


 ロペもそうはいってみたものの、自分の判断も自爆で失格・・・に限りなく近い勝利で有る事も又優しさなのかもしれない。


 「まぁ・・・。全員寝ちゃったし流石にどうしようも無いか。」


 「そういえば銀河きゅんこの中から何人ぐらい採用するつもりなの?」


 ん?


 「上位五十人だけど・・・?」


 はぁー。と頭に手を当てたロペは俺の両肩に手を置きじっとこちらを見てきた。


 「聞いてね銀河きゅん。全員雇っても足りないんだって覚えてる?」


 お?・・・おお?そういえば・・・。


 「そんな話も・・・あたかもしれない。」


 「短文は作らなくて良いからぁ。ね?要らない奴だけそぎ落として、それ以外全員雇おう?ちゃんと選ぶから今度は。ね?」


 そうだったな・・・結局こいつら全員を合わせても八千ぐらいしかいないんだった。

普通に戦闘に加わるクルーだけじゃ無い、サポートに回る者達も必要だし、施設や設備の管理なんかも任せたいんだ。ナノマシンを使わずに。

駄目だなー色々注意が散漫になっていて、覚えてなかったというかそこまで重要視してなかったわー。


 「人らしい営みをキープするなら、ちゃんと考えなきゃ・・・人じゃなくなっちゃうょ?」


 それは嫌だ。俺は人間でいたい。


 俺はいつからか雑になってきているようだ。ロペがいて良かった。


パチン


 「うっし。変な奴もいっぱいいたみたいだし、ロペが気になる奴は片っ端から切ってくれ。ナノマシンはフル稼働で良いからな。人の記憶に関わる事だからな。」


 雨宮はこれまで、他人の記憶に関する情報にアクセスできないことに疑問を抱いてこなかった、しかしロペの権限を手に入れてしまってからは、それが理由かは定かでは無いが普通にアクセス出来るようになっている事に気づいた。しかしそれまでの雨宮も出来ないなら仕方ないで終わらせていた上で、他人の記憶は弄らないと決めていた。

 しかしここで雨宮はその決定を曲げる。雨宮は自分だけで無く組織の安全を優先したのだった。


 「ちょっと成長したかな?銀河きゅん。」


 「そうかもな。いろんな冒険者達を見られて、勉強にもなったしな。」


 雨宮とロペは先に中央管制室へと向かった新庄、ファム、ネシアを追いかけるべく駆け出した。


ーーーーーーーーーー


海楼の城中央管制室


 「銀河さんお帰りなさい。外のモンスターは順調に討伐出来ていますよ。」


 「そっか。やっぱり戦力は問題ないんだな。」


 「はい。」


 イントはそう言って改めて出撃中のマギア・ラムとマギア・ブロアの二隻へと戦術支援を行っている。


 「今のところ問題はなさそうだな。」


 「だいじょーぶみたいだよー。Bランク以下のモンスターが二万ちょっと、Bランク以上のモンスターが八千って所なのー。」


 うーむ。わからん。


 「それはどう見るべき何だ?」


 えっとねぇ・・・と。雨宮にかみ砕いてどうやって教えようかと、エリーが思考を巡らせているとロペの方が先にその話に入ってきた。


 「Bランク以下のモンスターはレイブに乗っているうちの娘達なら、十機もあれば充分かな?で。それ以上のモンスターはピンキリだけどまぁ二隻出撃してトントンって所かな?」


 「うーん。成る程・・・。じゃあイントの戦術支援無しでは、ギリギリって所か。」


 「そんな感じ。」


 「そんなに戦力が足り・・・ている筈が無いわな。主砲も封印したままだし。」


 モノがあっても人がいないんだった。


 主砲の封印を解いてしまえばあっさり片が付くだろうが、それに伴う被害が甚大だ。恐らく二隻同時に主砲を乱射してしまえば、周辺のコロニーは只の残骸に変わるだろう。

もうちょっとなんか考えないと駄目だな・・・主砲。


 「主砲の解禁は出来ないのか?雨宮。」


 「無理だな。出来るとしても0.1%位まで絞らないと、撃つ方向によっては神域にまでズドンだぞ?」


 「洒落にならんな。しかもそんなに絞る事の出来る砲身はまだ完成していない・・・んだな。」


 あんまりあのディメンションブラスターのエネルギーを弄りたくないというのが俺の本音。あのねじれのエネルギーを押さえ込んだらその果てに見えるのは・・・。

せめて射程距離ぐらいはいじれるかなぁ・・・?レーダーで確認できないところまで被害が出ているらしいからなぁ。


 「ぞっとしないねぇ?何が起こるか銀河きゅんは大体想像がついているンだょね?」


 「まぁな・・・。」


 ブラックホールみたいなモノが出来るだけならまだしも、空間をねじ切って穴が開くなんて事も充分考えられる。

アンジーの力を考えてみれば寧ろそうあって当然と言えるかもしれない。


 もっと勉強しよ・・・。


 「さぁて・・・。イントたん七番艦に通達、界獣の分解に付いてくる人選をしておくようにって言っといて。」


 「・・?近衛じゃ無くって良いんですか?」


 それは考えたんだが・・・。


 「今回は逆走だからなぁ。それにレベルアップが目的でもないし、多分そう言う事も無いだろ?界獣が相手なんだし。」


 「成る程。了解しました。・・・」


 界獣達もちょっとやそっとの数じゃ無いからな。外にいる界獣を全部詰め込んだとかさっき言っていたような気がするし・・・。


 「分解でエネルギーを消費しない方法はないものか・・・?」


 「また無茶な事考えて無ぃ?」


 そもそも分解する時に対象のエネルギーを使ってしまえば良いんじゃ無いだろうか?そうすればハイブリッドカーのようにスタートにだけガソリン・・・じゃなくって自前のエネルギーを使って・・・。

そうだよ。そもそも元々対象の保有していたエネルギーは、どうしていたんだよって話でな?答えはどうもしていない。ナノマシンを作る目的で分解した奴以外のエネルギーなんて俺の頭の中には全く無かったわけで。

つまり分解しただけで放置していたわけで。それを使えば実際の自分のエネルギーより、より大きなエネルギーを持つ存在も簡単に分解出来るのでは無いかと。何で今迄そんな無駄な事をしていたのかと。


 「はい解決しました。」


 「ほぇ?」


 「あんなに苦労しなくっても、割かし簡単に分解できることが判明しました。」


 「と言うか・・・何も考えてなかったからロスが出ていただけだったんだが。」


 「くわしくぅ。」


 今迄の分解中の出来事を含めてロペに軽く説明すると、心配して損したとちょっと怒られた。


 「じゃぁエネルギーの変換とか、リサイクルに関しては問題ないんだよね??」


 「そういう事だな。今迄は只分解してデータだけを抜き取っていただけだったからな。エネルギーごと抜いてしまえばそれを使う事には何の問題も無い。」


 俺はそう言うと自身のナノマシンに命じ、新たな分解プロセスを構築。他の眷属達にも使用可能な状態のダウングレード版プログラムを用意しサーバーの共有スペースへと配置した。


 「これでよし。皆で分解分解。」


 「はぁ・・・・。」


 エリーとイントを含め管制室にいる眷属達は、共有ブログラムを確認しため息をついた。


 「「「「「めちゃくちゃだわー。」」」」」


 「便利だろ?」


 「べんりだけどー。これ皆でやると何でも分解出来そーだよー?」


 「マギアシリーズは俺がプロテクトをかけているから大丈夫だぞ。」


 「そーじゃなくてー・・・。ほら。惑星とか。」


 んん?


 「このプログラムを持って逃げる奴が出るって事か?」


 「それも気になるんだけど・・・まぁそっちは無いかな?」


 「皆さん遊びでついやっちゃうって事がありそうなので。心配です。ほら。」


 ほら、と促され横を見てみるとネシアが自分で作ったポーチの中に入れていたマイお箸を分解して遊んでいた。


 「こ・これは試し!やってみたかっただけなのよ!?」


 「あのなー・・・。危ないからやめろよー。」


 「雨宮。そのプログラムは眷属以外には支えないのか?」


 「そういう事だ。新庄達には悪いがデバイスで使おうにもそもそもプログラムにアクセス出来ないからな。」


 新庄を含め眷属で無いクルー達には、ナノマシンをある程度操る事の出来るプログラムのインストールされた、携帯用小型端末とそれぞれの私室に設置されているデスクトップ端末が配布されている。

しかしその端末の処理能力では分解するプログラムを使用する事はそもそも不可能なのだった。


 「ふむ・・・。まぁ現状特に困った事もないし問題は無いか。」


 「使いたかったら眷属になれよって話でな。・・・何を考えているお前達。」


 周りの皆の視線が一斉に突き刺さり、皆が何故か目を見開いているのが見えた。


 「銀河きゅん両刀なの?」


 「主よ・・・私はアリだと思います。」


 「ぎんちゃんかけるきょーちゃんなのねー。」


 腐った会話が飛び交うラピスは今日も平和で・・・。


 「やめろっ!俺はそういうのは・・・。」


 なんだこら。ちょっと間を作るんじゃ無いよ。余計に勘違いさせるだろ!?


 「ごほん。話がそれたがこの後直ぐにダンジョンからの追い出しに掛かるから。付いてくる奴は準備しろよ。」


 俺はそそくさと管制室を去った。



 あっ結局マシンになんて言う呼び方をするかの会議すっぽかしちゃったな・・・。

まぁこの出撃の間に考えておけば良いか・・・。



ーーーーーーーーーー


海王星ダンジョン出口


 大きな神殿のような門構えが一際目を引くダンジョンの出口は、恐らく普通にダンジョンを効力してきたモノにとっては特に振り向く事も無いようなモノなのだろう、

なぜなら、その位出口から見渡した新規の景色はとても見晴らしの良いモノだったからだ。


 「妙に高台にあると思ったらこんな景色が待っているはずだったんだな。普通に攻略したら。」


 さーっと少し乾いた風が吹く中、雨宮は転落防止の柵の上に手を突き、視界に映る神域の景色を眺める。


 「綺麗に作ったんだょ?きっと感動しちゃうね。」


 その横にロペがやってきてそっと手すりに腰をかけた。ロペの流れる紙がキラキラと光に反射しているようにみえて、少し幻想的だ。


 「雨宮様!七番艦クルー五名参上いたしました!」


 そう言って俺達の側にやってきたのは、近衛でも無く、あ・・雨宮教とか言う恥ずかしい奴でも無く、親衛隊・・・とか名乗っている七番艦マギア・ジェドのクルー達。

俺にとってはラピスのクルー達と同じぐらい大事な子達だ。


 「よく来てくれた。恐らくそんなに手間にはならないだろうが、護衛みたいなモノだと考えてくれれば良い。」


 ラピスから連れてきたのは結局ロペとティオレだけだが、ムラサメもついて来ようとはしていた・・・していたんだが、前回あの醜態をさらした事で他のクルー達から待ったが掛かった。

 ティオレは元々戦闘教練以外の事は殆どさせていないので、気軽につれて歩ける。護衛としてもこれ以上の人材はいない。

 件のスキル以外にもちゃんとした魔法も使えるし、ナノマシンが無効化されてしまったとしても戦える。

とは言ってもティオレを連れて歩くと、他の者の訓練が地獄の訓練に切り替わるので若干其処は気がかりでは有る。


 イファリスには俺からそういう風にやってくれと指示してあるからな・・・。


 今回ここにやってきたジェドのクルーは元エルフ機人種・・・エルフマキナのシーニャ、元人種のアト、元鬼種の火風かかぜ、元巨人種のジュリオーネ、元超機人種のコッファ。

全員元・・・が付いているのはお察し。彼女等は・・・と言うか七番艦のクルーは全員眷属である。ラピスや他の艦のように混在はしていないのだ。

彼女達はその中でも比較的新しい実験を行った者達で、その実験結果を見る為に連れてきた。

彼女達に行った実験はそう難しい問題のある事では無い。ハイパーヒューマノイドの更なる進化形ウルテマヒューマノイドの意図的な進化の結果を見たいが為だった。


 ネシアをこの世界に連れてきた時、彼女を眷属にした。しかしそれは偶然の産物であり、あの時の俺にはその理屈も意味も分からなかった。

 暫くネシアを観察し、七番艦実験施設にてネシアの構造を解析した。その結果内に宿る精神体こそ変わらないので何とも言えないが、世界の基幹存在として存在するネシアの身体である・・・世界の物理的な柱。

世界を構築する為の演算装置を作成する事に成功した。


 意図しなかった事とはいえ偶々調べを進めていく内に、ネシアがナノマシンにその身体の在り方を指示し自ら必要な身体を手に入れた理由についても大体の予想が付いた。

後は本人に確認してみるだけだ。


 ハイパーヒューマノイドをベースにして、世界を構築するマナと、それを安定させるΔエナジー。その二つを『作り出し循環させる』事が彼女達ウルテマヒューマノイドの役目だ。

つまり、彼女達が存在する事でこの世界は上位世界から閉鎖世界認定させる事が出来なくなる。と俺は判断した。無論逆効果になる可能性も考えた。

 言わば世界の種とも言えるような存在が何時でも何人でも意図的に作り出せる。この状態を危惧して何らかのアクションを起こしてくるかもしれない。だがそれはそれで俺の思うつぼ。

逆探知してナノマシンをその世界に送り込んでやる。


 「銀河きゅん悪い顔してるょ?」


 「ふふん。今のところ俺の最高傑作と言ってもいいだろう。ウルテマヒューマノイドだ。その内ロペ達もこっちに進化して貰おうと思っているからそのつもりで。」


 「おおぅ・・・。詳しくは後で聞こうかなーぁ。」


 きっと驚く事だな!


 「よし。じゃぁ・・・お前達の分解の手並みを見せて貰おうかな。ロペも試しにやってみるんだろ?」


 「・・・失敗したら怖いから銀河きゅんは何もしないでちゃんと見ててね?」


 「おうよ。今の新しい分解は俺だけの特殊能力じゃ無いからな。ロペにちゃんと検証して貰ってもっと改善出来そうだし。」


 「期待して貰っているのは良いんだけどぉ・・・。ホントにちゃんと見ててね?」


 「わかってるって。」


 こうして総勢七人で海王星ダンジョンの逆走を開始するのだった。

シーニャ・ヴェバル・ジュピター 百三十四歳 ウルテマヒューマノイド 銀河旅団七番艦マギア・ジェド所属 メインオペレーター


 木星圏にすむエルフ氏族最大勢力、ヴェバル出身の元エルフマキナ。

 五年程前、戦争に乗じて火事場泥棒を働いていた犯罪組織『混在者達こんざいしゃたち』の中でサブリーダーを務めていたが、冥王星圏での仕事の途中巡回任務中の連合艦、ネタローに遭遇、当時のピーチカン少佐によって壊滅させられヘルフレムへと収監された。

 エルフマキナとして肉体の首から下、腰までが生体機械として生まれてきた。ヴェバル氏族の中ではハーフは忌避されるべき存在として扱われていた為、生まれた次の日には生命維持装置に入れられ宇宙へと放流されていた。

しかし偶然『混在者達』の当時のリーダー獣機人種びーすとまきなのゴリア・ディーンゲラハに拾われ、育てられる。

 ゴリアが生命維持装置を開けた時シーニャの産着には母親からのメッセージと共に、大金の入った冒険者ギルドのギルドカードが入っていた。

そのメッセージとカードを守る為、にゴリアはシーニャへとそのありかを示したメッセージを伝え組織から脱走した。

 マキナ種と呼ばれる機人種とのハーフは普通の人種と比べると比較的寿命が長く、今もまだゴリアは生きているがシ-ニャは雨宮にそのことを伝えられずにいる為、時々自力でゴリアの居場所を探すべく調べ物をしている。



アト・レイギントー 八十五歳 ウルテマヒューマノイド 銀河旅団七番艦マギア・ジェド所属 給仕長兼戦闘教練官


 孤児として生まれ、様々な犯罪組織を渡り歩いてきた元非合法傭兵。

 御年八十も半ばを迎えなお現役を貫き裏社会の重鎮として恐れられていたが、エクシリス・イロリナート率いる『世界の終焉』へと最後の仕事として雇われ不慮の事故(・・・・・)で乗っていた戦艦が轟沈、『世界の終焉』のメンバーと共にヘルフレムへと収監された。一個人としての賞金額は人種の犯罪者としては破格の十億クレジット。

 収監後は『世界の終焉』メンバー、風の火風かかぜと同じ部屋に収監され、暇つぶしに火風へと禁じられた魔法の一つ『深淵呪法』を教えていた。

ヘルフレムの混乱が終わった後、そのまま残ろうとしたがエクスにより無理矢理シャトルに詰め込まれ、シャトルの中で雨宮の興味を引き早い段階で眷属としてハイパーヒューマノイド化する。

 眷属化した後は雨宮の意向で何故か若返り、こんな枯れたおばあちゃんをどうしようって言うのさ。と老婆っぷりを発揮していたが、エクスに連れられ雨宮の私室に通ううち一人の乙女として覚醒。

三つ指を突いて忠誠を誓うまでに心酔する。周りからアトばーちゃんと呼ばれていたが、もうばばあじゃ無い!と一喝無理矢理アトちゃんと呼ばせるようになった。

 料理が得意で七番艦の胃袋を支える傍ら、雨宮から禁じられた魔法を研究する使命を与えられ「あたしゃ今最高に燃えているっ!!」と張り切って研究に打ち込んでいる。

又その長年培ってきた生存能力の高さを皆に伝えて欲しいとも言われ、戦術や戦闘の訓練をする教練官としてマギアシリーズ各艦に赴き教鞭を振るっている。



火風小和かかぜこより 二十一歳 ウルテマヒューマノイド 銀河旅団七番艦マギア・ジェド所属 第一白兵戦闘部隊


 雨宮と同じ第二広域開拓世界からの転生者。ベロペの関係していない自動的に転生するシステムによって第二広域開拓世界から転生した。

彼女は眷属として一度ハイパーヒューマノイド化した際に前世の記憶を取り戻し、自ら進んで雨宮にその全てを捧げた。

 第三世界では火星に孤児として生まれ、普通に生活していたが自分の中に備わった大きな魔力に気づいた後、自分を迫害してきた人間達を攻撃、魔力を暴走させ自爆する所だったが偶然通りかかったエクスによって保護され、高度な教育を受けテロリスト組織『世界の終焉』で猛威を振るっていた。

 エクスと同じタイミングでヘルフレムに収監されたが、特にコレといった活動をすることも無く、今迄の自分の生き方について反省をしていた。しかしその姿を退屈そうにしているとみたアト・レイギントーから禁じられた魔法の一つ『深淵呪法』を教わり、時間を潰していた。しかし教わったそれを頭の中で上手く整理出来ず、暫くの間魔法が使えなくなるという謎の障害に行き当たった。

事を重く見た、若返ったアトに雨宮の元へと連れて行かれ眷属として新たな生を受けると、今迄きちんと理解出来ていなかった情報が一気に整理され『深淵呪法』をマスターすることに成功した。


 第二世界における雨宮銀河のストーカーに相当する存在で、雨宮の会社の後輩社員だった女。学生の頃から雨宮のことを曲がり角の陰から見守っていた本物。

 前世の雨宮が高校生の時、強化選手に選ばれたテツを守る為に身を挺して凶刃からテツを守ろうとしたことがあったが、彼女はその雨宮を守る為に原付で襲撃者に突撃。相手を植物状態に追い込んだ。

しかし何故か彼女は罪に問われず、次の日も普通に登校していて雨宮を驚かせたことがある。

 只彼女は雨宮本人に話しかける勇気は無く、常に一定以上の距離を保っていたが、雨宮を追って同じ職場に就職した際に教育係として雨宮が付き、恥ずかしさのあまり常に妙な動きをしていたため、雨宮から謎の火風と呼ばれていた。


 雨宮が転生した翌日彼女は自室で首を吊って自殺した。

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