表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/110

EP36 山積する問題と弊害

うだるような暑さの中皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は元気です。

じゃあ書けよって言う話で。


zzz


第三世界最終防衛ライン 海楼の城


 遠くから見ていた城のような基地のような建物は、目の前まで来てみるとこれまた巨大で端から端が見通せない程の大きな建物だった。

城の周りにはいくつもの滑走路が並び、その滑走路の側にはこれまた巨大な格納庫と思われる建物がいくつも建ち並び、空港のようにも見えるがやはり軍隊の基地と言った方がしっくりくる。

 しかしそれとは裏腹に建物の裏側にはこれまた大きな花園が広がっていて、見渡す限りの花畑、色取り取りの花が所狭しと植えられている。

此処だけ絵画から切り取られたかのように美しく幻想的な風景が広がっていた。


 「とんでもなく広い空間だなこれは。」


 「そうでしょ?なんせ此処が最終防衛ラインだからね。」


 最終防衛ラインって・・・。


 「一体何から防衛する・・・ってあぁそうか異世界か。」


 「そういうこと。この第三世界に明確な敵対意思を持って攻勢を仕掛けてきた奴は滅ぼしたけど、此処の防衛ラインの戦力か無くなった事は恐らく余所の世界にも知れ渡っているはずだから・・・。」


 この広い空間にはいくつもの建物も揃っていて、その一角には繁華街と思われる場所や、ショッピングセンターと思われるような場所も用意されている。


 ・・だが。


 「誰も居ないんだけどね・・・。結局。」


 ロペが俺の腕に絡ませた腕に力が少し入り、誰も居ないショッピングセンターの方を寂しげに見つめながら小さく呟いた。


 「その内誰か連れてくりゃ良いさ。イントエシリーズだっけ?洋介君レベルの化け物にでもなっていない限り、結構簡単に元に戻せそうだから何とかするさ。」


 軽く言い放つ俺の方をじっと見つめるロペは、両の頬をぷくっと膨らましながらグチグチと「これだから銀河きゅんは・・・。」とそっぽを向いてしまった。


 全く・・・頼りにならない風で居る俺だけど、やるときゃやるんよ?


 「ロペねぇ様行きましょう!」


 もう辛抱たまらんと言った様子で、イントとアイリーンが俺とロペの手を引き、城へと駆け出す。


 「そんなに急がなくても、城は逃げないべ?」


 「・・・。」


 「そういうことじゃ無いんですよ!もう!」


 なんだなんだ・・・。妙に慌てているな?


 「どういうことだ?」


 俺達は駆け出したイント達を追いかけてくる輸送用車両『宅配君』へと乗り込み城へと急いだ。

その車内でイントは事のあらましを説明してくれる。


 「神域の機能が戻った事によって海王星ダンジョンも機能を取り戻したんです。」


 「ほう?」


 「それで普通のダンジョンになってしまったんですが、その中に界獣がいっぱい取り残されているんです。このままではダンジョンがオーバーフロ-を起こしてモンスターが外に排出されてしまいます!」


 元々ダンジョンには許容量が設定されているらしく、中に侵入した人間やモンスターなど様々なリソースを数字として換算し、その最大値が決められている。

そして海王星ダンジョンは・・・。


 「あの巨大な界獣達が全階層を占領してしまっているせいで、新たに生まれたモンスターはもう既に外へとポップしてしまっているんです。」


 アイリーンもどうしたものかと指を顎に当て首をひねっている。


 「分解しなきゃ駄目だな・・・。エネルギーの事を考えると憂鬱だが仕方ない。」


 でもまぁ無抵抗で居てくれるって言うなら、俺のパワーアップにも繋がるはずだしナノマシンに学習させる為にも、やった方が良いか。


 「それなんだけどね銀河きゅん。」


 「ん?」


 いつの間にか座席を動いて俺の膝の上に座ったロペが気恥ずかしそうに思いを告げる。


 「私にも分解の仕方を教えて欲しぃなぁって・・・。」


 そう言ったロペの身体は小刻みに震えている。その表情から読み取れる感情は・・・恐怖。


 「理屈の説明が付かない力を使うのは怖いんだけど・・・。銀河きゅん一人でやっていたらどのぐらい時間が掛かるか分からないし、ならいっそのこと・・・って。」


 理屈の分からない力。


 確かにこの分解・・・ナノマシンによる強制的な分解は底が知れない力ではあるな。分解したものは全て原子まで分解され虚数空間へと格納される。

そしてその分解は超高速で手順を踏んで行われるらしく、どのような状態にも復元可能になる。ただしその分解前の情報を俺が習得する事を選んだ場合に限られるが・・・これも確かによく分からん理屈だな?

ナノマシン達が勝手に分解していた時はどうだったんだろうか?俺という群体の統率者がいる事によって初めて出来る事なのだろうか?


 わからんのぅ。


 ロペは以前から・・・恐らく俺に会う前からずっとそうなのだろうが、理論的科学的に説明の出来ない要素を極端に嫌がる。

本来なら実験に実験を重ねて行うような事を、俺はずっと無視して行き当たりばったりで実行してきた。しかしロペはそれを側で見ていながらも近づいてくる事は決して無い。

俺が失敗した時にそれをフォローし、助けられるものが居ないからだ。

ロペはありとあらゆる知識をその頭・・・ナノマシンに記録させ、俺が無茶をしても直ぐにフォロー出来るように常に準備をしてきたのだが、その中でもこの分解に関しては一切の情報が見当たらなかったらしい。

得体の知れない力を忌避するロペが尻込みするのも分からなくは無い。

俺自身も理屈は分からないからな。


 「そんなに深く考える必要は無いんじゃねーかと思うんだが、まぁロペの考える万が一の事を考えてリファンリアに伝えておくと良い。ロペ自体はいつでもロールバック可能だ。」


 「それもどうかとおもぅ。」


 長い距離をひた走る宅配君が停止し、巨大な隔壁の前で俺達は降りた。


 「すげーでっかいな!」


 俺がばーっと両手を広げてその大きさを体感している隙にロペ達はその直ぐ横にある通用口の方へと足を向けていた。


 「おぉぅまってくれよー。」


ーーーーーーーーーー


海楼の城内部


 普通の人間サイズの通用口を抜けると、無骨な鋼鉄作りのドッグのような場所に出た。そこには何も無く、誰も居ない。

以前はきっと大勢のイントエ達で賑わっていたのだろう。此処にも防衛の為の戦力が多く格納されていたに違いない。

壁際に設置されたswを係留する為の整備ハンガーや車両整備用のピットなども、以前のものを余すところなく再現しているのだろう。いつでも稼働出来るような状態になっているのは、郷愁では無く今から此処を使用するのが分かっているからだ。


 「ここは空陸専用ハンガーなんだぁ。」


 成る程なぁ。まぁデカかったとは言えあのサイズの出入り口ではマギアシリーズは通れないもんな。


 「地上戦はあんまり想定してなかったら、車両らしい車両は造ってないし買っても無いんだよなぁ。」


 「だねぇ。swもドルフ位しか居ないし、今のところそんなに使う事は無いんだけどぉ。どっちかというと使うのは地下ドッグの方かなぁ?

マギアシリーズはそっちに誘導しないとねぇ?」


 「ロペねぇ様。私達は先に中央管制室に向かいます。」


 「おっけーぃ何人か連れて行って説明したげてぇ。」


 ・・・。スペースワーカーか・・・。そういえば以前ジェニがスペースワーカーの名前が変だとか何とか言っていたな?

結局マシンマシンと特にこだわった名称も付けていなかったが・・・。


 ふと気づくと、皆内部の把握に乗り出すべく城の各所へと探索に向かっていったようで、周りには俺とロペ、そしてファムとネシアの四人になっていた。


 「最近忙しくて全然かまってやれて無かったな。」


 「問題ありませんマスター。いっぱいお勉強しました。」


 「そうね。ファムもそうだけど、私も色々世界の内側に来てから学ぶ事が多かったのよ、それこそ猫の手も借りたいぐらい。ナノマシンの中にある知識と情報だけじゃ全然足りないのよ。主にマスターのせいよね。」


 「ぐぬっ。」


 「銀河きゅんもお勉強しようねぇ。周りの皆がいっぱい色々集めてくれるようにこれからなるだろうけど、銀河きゅんにしか知る事の出来ない情報がきっとこれからいっぱい出てくるはずだからぁ。ね?」


 「あいたたた!急に持病の肩こりが!」

 

 「肩こりませんよ?マスター?」


 そうですね。


 ついついお約束の反応をしてしまったが、別に勉強は嫌いじゃないし必要なのは分かっている。じゃあやるってとこだ!


 「そうだな。でな?いきなり話の腰を折るようで何なんだが、考え始めると気になってしょうがなくってさ?」


 「何の話ぃ?」


 「いやほら。この前ブリッジでさ、ジェニがレイブはスペースワーカーじゃ無いって言ってたじゃん?」


 「あー・・・。言ってたねぇ?」


 「でさ。なんか別の呼び方を考えた方が良いのかね?と思ってさ?結局皆マシンマシン言っててさ、何のことだかわかんない時もあるじゃん?」


 「レイブのカテゴリー名称ですか?」


 「レイブだけじゃ無くなってきたよね。ガ・レイブなんてマイナーチェンジも有るし、ライに至っては銀河LOVE?だっけ?(笑)特機とかもちょこちょこ出来ているしね。」


 「銀河LOVE。良いと思います。」


 ファムたんったら・・・。このこも相当俺に甘いなぁ。


 「まぁ個体名称はともかく、もう元がスペースワーカーじゃないものが大半だから、新しい言い方を考えてみようかなって言う話。」


 「成る程ねぇ。確かに将来販売とか出来るようになってきたら、差別化も必要になってくるし考え時かもねぇ?」


 販売か・・・。ジェニの所からでも良いしなぁ。夢が広がリング。


 「まぁ何はともあれ、座って話せる所に行こぅ。」


ーーーーーーーーーー


海楼の城F6 管理者私室


 「ここは・・・。ずいぶんメカニカルな部屋だな。」


まるでラピスの中に戻ってきたかのようなメカニカルな内装に驚き・・・って。


 「普通にロペちゃんの部屋じゃ無い!?ラピスの!」


 ネシアが声を大きくする気持ちも分かる。先ほどの海楼の城に続き、ロペになる前に使っていた部屋とか気になるじゃん?


 「いやぁだってさぁ・・・。必要ないでしょぅ?結局私物も全部ラピスの自分の部屋にあるし、いちいちこっちに同じものを持ってくるぐらいだったら、部屋をつなげちゃえば良くない?って。」


 いや確かにそうだけどさ・・・。まぁここに居着くかと言われてみれば拠点としては使い勝手が良さそうなんだが、その使い勝手もラピスを上回るものじゃ無かったりするし、

うーむ。何なんだろうかこの感じ・・・。


 「マギアシリーズが便利すぎるんだょ。銀河きゅんが魔改造しすぎたせいだょ?」


 まぁ確かに。ここに来るまでに軽く城の中を案内して貰ったが、1Fの工房スペースなんかかなり立派なものだったし、居住エリアも頑丈だし住み心地の良さそうな所だった。

だったんだが・・・。


 「私達個人の居住空間は、自身で自由に改良して良いとマスターから許可が下りています。きっとそのせいでしょう。」


 まぁそんな所だろうな・・・。皆その辺はかなり自由にやっているようだし、自分のお気に入りの空間を自分で作って、最高のものに仕上げられる技術を持った者達を身近に置いているんだ。

ロペは確かに高ランクの技術を持っている、しかしそれは最高では無いのだろう。

このロペの私室もロペだけでは無い、イントやライ、元々そう言う仕事に就いていたその道のプロを呼んで、完全に自分が満足出来る空間を作り上げたと自慢していた。


 ロペは時計はアナログ派らしく、部屋の壁にはクラシカルなメカメカしさを放つ無骨な時計がつり下がっている。


 「もう昼かぁ・・・。」


 「夜中から動いていたからねぇ、ぼちぼち休憩するべきかなぁって。眷属化してから疲労って言う概念が無くってわかりにくいんだよねぇ?」


 「何かパラメーターを新たに作成して、数値を確認出来るようにした方が良いのでしょうか?」


 睡眠も必要無いっちゃ必要ないのかもしれないが・・・それはあくまで肉体の話であって、精神としては必要なものだ。起きている間に手に入れた情報は確かに自分の脳に当たる部分がしっかりと記憶している。

しかしそれを完全に定着させるには睡眠をとる必要がある。情報の無駄な部分をそぎ落としたり、自分に合わせて最適化したり・・・肉体の記憶を魂に刻み込んだりするのに肉体が動いていると都合が悪いのだ。

動いている状態でも出来なくは無い、だがタスクが分散する事でそれぞれに割り振るリソースが減り・・・まぁ集中出来んと言う事だな。

一気にやってしまった方が効率が良いと言う事だわ。


 「スタミナ・・・じゃないな疲れないし、MP?は又別にあるし、・・・。」


 「スタミナって大体STってするよねぇ?じゃぁそれでソウルタイムってのはどう?」


 「ソウルタイムぅ?なぁにそれ?」


 ネシアが興味深そうにソファーに座るロペの後ろに回り込む。ファムもネシアもめったに来ないロペの部屋に興味津々のようで、あちこち触ってチェックしまくっていた。


 「今何時間起きてますよーって言う時間をステータスに表示すれば、そろそろ寝ようかなーってなるでしょ?・・・多分。」


 それは・・・まだ百時間しか働いていないじゃないか・・・と不眠で言っていた、俺より先に死んだ友人の言葉を思い出す。


 「でもまぁ、普通に起きている時間を大きく超過していればアラームでも鳴らせば良いか。そっから先は自己責任だわ。俺達の場合は特にな。」


 好き勝手やらせてんだ、自分ぐらい自分で管理しろって話だろ。


 「ンじゃリファちゃんに指示出して全員のシステムアップグレードするよぉ。」


 「ん。」


 細かいアップデートの確認が終わり、イント達の向かった中央管制室からの報告が上がって来る、


ーー神域のシステムは異常有りません。人数が足りない分は・・・ナノマシンサーバーに処理を委託しても良いでしょうか?

  ・・・あ、あと銀河さんがナノマシンを散布してきたネプトラティアもリンクが完了しています。

  所有権さえ書き換えればいつでも外部の?えーっと、第三世界内の拠点の一つとして利用可能な状態に出来ます。


 おぉ・・・あの超でっかいコロニーを我が物に・・・って持て余すよな絶対。まだマギアシリーズの改造も終わっていないのにそんないろんなもの手に入ってもなぁ・・・いかんいかん顔が緩む。


 「マスターうれしそうです。」


 「まーた改造しようとしてない?」


 「きっとするねぇ。」


 おまいら俺の事を何処の飛空挺技師と思ってんだ。


 「んー・・・とは言ってもあそこは元々海王星の首都だろ?太陽系連合が所有権を持っているんじゃ無いのか?」


 俺はロペのクイーンサイズのベッドにぼっふと仰向けに倒れ込むと胸いっぱいに空気を吸い込んでみたが、何のことは無い普通の艦内を循環する綺麗な空気だ。ロマンを返してくれ。


 「大丈夫。元々放棄されていたし今更何か言ってきても、私達にしてきた事を考えたら・・・ねぇ?」


 「そっか、まぁバーさんもそれなりに情報を握っているだろうから悪いようにはならんか。」


 「もし問題になったとしてもたいしたことないさぁ、その為にプロフェッショナル達を無理矢理引き抜いてきたんだから。」


 おぃそれって、自分がハッキングする時にそれを察知出来る可能性のある技師達をこっちに引っこ抜いたって事か?

連合から抜けて合流した奴らが妙に多いと思っていたら・・・。今まで総勢二千人そこらだと思っていたけど・・・そのことを考えると・・・あ。

そうじゃない所からも人材を集めていたっけか?もしかして三千に手が届いていたりするか?ちょっと大所帯過ぎじゃね?

あれ?いやそんな事無いか。


 目を閉じて考え事の迷路を彷徨っているとロペがベッドの横に腰を下ろし、同じように大の字になる。


 「銀河きゅん何を考えてるのぅ?」


 「んー。人数の事。大所帯になったなーって。」


 「あー・・・それかぁ。別にまだそんな事無いょ?」


 「そうですマスター。マギアシリーズの本来の必要最低人員は745人と、スペックノートに記載してありました。」


 え?多くない?


 「銀河きゅん一応大型戦艦だからね?」


 「あれ?中型じゃ無かったっけ?」


 「中型ばっかり作っていたティタノマキアだから勘違いしてるかな?規模的には十分大型だょ。余裕を持って人員を使うなら一隻倍の千五百人は要るょ。」


 そうだったのか・・・。特にコレといって何の問題も無かったからそこまで気にしてなかった・・・。


 「じゃあ皆めっちゃ忙しくなかったか?」


 「まぁ、兼任しているクルーがいる時点でお察し・・・だょ?」


 そうだった。大概のクルー達は二つの部署を兼任しているんだった。


 「え、じゃあやっぱり全然少ないのか?少ないよな。うーん。」


 安定の人数で倍の千五百。かけることの十・・・おぅふ。


 「一万五千人ぐらい要るのか・・・。」


 「戦艦だからねぇ。」


 「様々な娯楽施設もありますし。」


 「オーバーテクノロジーだらけだし。」


 三人はそれぞれ畳み掛けるように俺に無知さを叩き付けてくる。


 「勉強しようねー銀河きゅん。」


 最近のトドメの台詞だわこれ・・・。


 「了解したー。時間をとろうー。」


ーー銀河さんも一度此方に来てください、それからもっと人員を募りましょう!

  今の私達ならちょっとやそっと人が増えたって平気ですっ!


 そうだな・・・。もう一応・・・大手を振って歩けるようになってはいる筈なんだから、募集をかけても良いか・・・。


 「よっし。」


 俺はぐっと腹に力を入れてベッドから飛び起きると、直ぐ側に立っていたファムとネシアの肩に両手を回し、歩き出す。


 「ロペ行こか・・・海王星は俺達の星にしよう。」


 すると背中にどっすとちょっとした布団を投げられたぐらいの重みが飛び乗ってくる。


 「それでこそ銀河きゅん!他の無人になっちゃったコロニーにもナノマシンを送ろうょ!そこに人を住ませて国にしちゃう?しちゃうぅ?」


 旅団になったばっかりだっていうのによぅ?


 「銀河帝国・・・良い響きだと思いますマスター。」


 そのネーミングは何とかならんのかょ・・・。閣下とか提督とか暴れ回りそうだ。


 「もしかして銀河旅団の名付けは・・・。」


 「はーい私でーす!センス有るでしょぅ!」


 ネシアの方かよ!センス・・・無いと言い切りたいが自分の名前を使っているせいではっきり言え無いぃい!!


 「ど・・どうかな・・。」


 「それよりマシンの方も決めるんでしょ?」


 「あっちに着いてからにしようか。」


 再び扉をくぐると、海楼の城の廊下に出た。俺は両手にファムとネシア、肩にロペを乗せたままのっしのっしと中央管制室までの道のりを進んでいく。


ーーーーーーーーーー


海楼の城中央管制室


 管制室の中にはいつものブリッジクルーの他に、主に元連合軍のクルー達が集まっていた。

それぞれ自分の経験のある部署に散り、未だに仕事の割り振られていない無職の者達は必死になって自分の居場所を確保しようとしているようだ。

新しく合流し、ここにいる者達は雨宮が今のところ給料などの設定をしていない事を聞き、競争が激化する前に一番安全そうな場所を選び、確保する事を目的とするものが多かった。


 「なんか混んでる・・・。こんなにいっぱい何しに来たんだこれ。」


 ざわざわと喧噪の絶えない管制室の中は女性の比率が多い事もあり、様々なにおいが充満し室内に入るなり雨宮は顔をしかめた。


 臭い・・・。化粧水やら香水やらなんかいろんな匂いがしてスゲークセー。臭いが混じって非常に不快だわ。

この甘ったるい匂いと、俺が死ぬ程嫌いなたばこの臭いまでしやがる。臭いごと全員分解してやろうかこの野郎ども・・・。


 「くさいっ!」


 その場にいた全員が静まりかえり、その注目を一身に浴びる。

雨宮はその視線を意に介さず人混みを押しのけ一段高くなっている指揮官用のシートに腰掛ける。


 「むぎゅ。」


 ん・・・!?何だ!?


 慌てて立ち上がりシートを確認すると、こいつは・・・。


 「こら犬っこ。何でここにいる。」


 「立派な椅子だから座ってみたかったのです・・・。」


 立派な椅子って・・・。


 「あっ!こら!犬!こんなとこにいたのか!・・・おぅっ。」


 そう言って静まりかえった人混みをかき分けて現れたのは、犬っこの世話を任せていたアマリーだった。

巻き取り式のリードを手に持ちその先をたどってみれば、視線の辿り着く先は・・・。


 「散歩の途中か?」


 「違うのです!引っ張って連れてこられたのです!」


 「犬獣人だから首輪とリードかなぁって。」


 安直・・・だな?せめて人として扱ってやれよ・・・。


 ふぅ・・・。まぁ良いか。よっこいせっと。


 「むぎゅぅ。」


 何でだ。


 「いや、退けよ。」


 何でそのまま座っているんだこいつは。普通に全体重をかけて座っちまったぞ。


 「苦しいのですー。」


 もう良いかこのままで。


 「ふぅ・・・。」


 ため息をついてしまって激しく後悔をする、胸いっぱいにこの臭いを吸い込んでしまった。


 「クサッ・・。」


 ぼそっと一人ごとを呟くと、背中の後ろからもごもごと何故か返事があった。


 「その気持ちはとっても分かるのですー。ふうまもとっても臭いのですー。」


 こいつ自分のファミリーネームが一人称なのか?ちょっと痛い娘かもしれない。


 「ったく・・・。良いクッションじゃねーかくそっ・・。」


 特に意味も無く俺の背中と背もたれにサンドイッチされている犬っこに体重をかけてもたれかかる。


 「ぐぅっん・・おもいですー。」


 しかしまぁ今此処でこんなことをしているの・・・。別におかしかないか。やっと一区切り着いた所だしな。

界獣達も脅威にはならないと分かったし、今現状やらなければならない事も・・・有るな。


 「ロペはいるのかー?」


 相も変わらずざわざわとクルー達がひしめき合う管制室だったが、俺が少し大きな声を出す度に静まりかえる。


 「いるよー。見えないけどー。」


 ロペが座っているであろう中央のCP《コマンドポスト》ターミナルの周辺には、その地位を狙うべく集まった多くの者達がそのターミナルをのぞき込み、アレはどうだこれはどうだとロペを質問攻めにしていた。


 「待ってくれ。」


 そこで聞き覚えの無い声に話が遮られる。


 「今は私が話をしているんだ、誰だか知らないが邪魔をしないでもら・・・。」


 ・・・イラッ


 「はぁ~・・・。」


 俺の席の周りにいたのはラピスのクルー達なので、空気を読んでいてくれている。ラピスに配属されたクルー達はより雨宮との親和性が高く、尚且つ自らの意思で雨宮に従う者達が多い為、その雨宮の一挙一動を注視しよく観察している。

だがそれも関係ない程雨宮からあふれ出した濃密な怒りの気配に、その両拳をしっかりと握りしめ、奥歯をかみしめて耐えるという事を学んでいたラピスのクルー達は、ピンと背筋を伸ばし雨宮の視界に入らないように全員がシートの後ろへ回った。


 そしてその雨宮の視界に収まっている他のクルー達は腰を抜かし、意識を失うものが一斉に現れる。その多くがナノマシンの投与をされていない、本当の意味での一般クルーである。

本来この中央管制室に入る事も許されない、そんな者達も多く含まれているようで、室内はその怒気を一身に浴び意識を失うものと、かろうじてその怒気に耐えたものの腰を抜かし床を塗らすものとに別れた。


 「何が起こっているんだ?これは・・・。なぁイント。」


ガタッ!バターン!


 何故か備え付けられていない椅子に座ってオペレーター席にいたイントは、その怒気をはらんだ質問に慌てて答えようとし、勢い余って激しく椅子を倒してしまう。

その大きな音に周りのかろうじて意識を保っていた者達の肩が跳ね上がり、その鼓動が早鐘を打っているであろう事が目に見えて分かってしまう。


 「ひゃいぅ!!」


 「で?」


 「ど・・・どどどどうしても仕事が欲しいという方達がなだれ込んできまして・・・その・・・。」


 「ここは入って良い場所なんだっけ・・・?」


 「あ~・・ぁ~そうだねぇ・・・。ちょっと気を抜きすぎていたかもぉ・・・。」


 ロペも神域を取り戻した事で、少し肩の荷が下りた部分もあったのだろう。この今の状況を何故か許容してしまっている事に深く反省しているようだ。


 何故か・・・?


 「ロペ。出入り口を閉めろ。」


シューン


 人が押しかけすぎていて閉まりきらなかった扉をロペが強制的に閉じる。何人か扉に挟まりそうになっているものがいたが、俺は気にしない。


 前まではこんなこと無かったんだがなぁ・・・。パッシブを切って直ぐこんなことになるとは。


 「今気絶している奴らは全員緊急脱出用のシューターに放り込んでおけ。」


 緊急脱出用のシューターは地下の宇宙戦艦用ドッグに繋がっていてその先にはマギア・ジェドのクルー達が待ち構えている。


 七番艦ジェドのクルー達は言ってみればアマリーと同じような立場の者達だけを集めて再編成した、本当の意味での雨宮に選ばれた者達だった。

彼女らは主にクルーの教育訓練を担っており、その多くが信者である。が、それと同時にロペやアマリー以外に雨宮の心根を知る厳選されたクルーでもある。

考え無しに中央管制室に詰めかけた一般クルー達は、その多くがこの時から一度生まれてきた事を後悔する程の地獄を味わう事になる。


ーーーーーーーーーー


 ドサドサとシューターから落ちてくる馬鹿共の姿を見ると自分のこめかみが軽くけいれんするのが分かる。


 「銀河様を無駄に怒らせよって・・・。其方等!この神域にもアレを備え付けてある。全員個室でお勉強の時間である。運べっ!」


 「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」


ザッ!


 一糸乱れぬ銀河旅団の敬礼を表したジェドのクルー達は、一人で数人もの気を失ったクルー達を軽々と運んでいく。


 「全く・・・。しょんべん臭いのう。ここでのナノマシン利用の許可はまだ出て居らんと言うに。誰ぞ!」


 「はーいはいっ。」


 ジェドのクルー達の中でも汚れ仕事に全く抵抗のない、一人の女が清掃道具を持って既にそこに待機していた。


 「あ・・相変わらず素早いのぅ。済まんが後始末を頼むぞ。」


 「おっけー!お掃除魔女クリアランスにお任せあれー!」


 クリアランス・・・。何だか間違っているような名前では有るが腕は確かだと、ちゃんと仕事は出来ると、そう心で唱えジェドの士官は中央管制室へと足を向ける。


 「在庫一掃・・・か。」


 彼女はこの程初期より雨宮に付き従っている者達に試験的に解放された給与体系に思いをはせ、雨宮を買い出しと言うなのデートに誘うべく足を繰り出すのだった。


ーーーーーーーーーー


 ため息をつく度に幸せが逃げる。そんな事を言ったのは一体誰か、そう思いながらシートの肘おきに頬杖をつき、めんどくさそうに辛うじて意識を保ち生まれたての子鹿のように膝を笑わせている男に目をやった。


 「誰かこいつらについて説明の出来る奴は?」


 雨宮は人が殆どいなくなり、酷いアンモニア臭の漂う室内を見回すと、イントが立ち尽くしたままで控えめに手をあげた。


 「しょ・・正直詳しくは確認してみないと分からないんですが・・・。あの・・・そこにいる人は連合軍月方面艦隊《つきぐん》の士官の候補生の一人だったような気がします・・・。」


 連合軍の士官候補生?何でそんな奴がここに・・・?

どうも俺が寝ている間に何やら色々あったようだな。それにしても。


 「ロペは把握していたのか?」


 ロペに話を振るとばつが悪そうに頭を掻き、少し顔を伏せた。


 「誰がいるって言うのは分かっていたんだけどぉ・・・こんな暴挙に出るとは思わなくて・・・。」


 「・・あのー・・・・?」


 ん?この妙に疑問符が似合う声は・・・。


 「あんまり?ロペさんを?責めないであげてくださいね?艦長がいない間は?色々大変だったんですからね?」


 頭の上に乗ったホタテがパカッと開き小粒の真珠と思われるものがちらっと見える。

ホタテ娘ことエルマ・スキャロはその真珠を無造作に手に取り、俺の前に回り込み手渡してきた。


 これをどうしろと・・・。


 「そんなつもりはねーんだ。済まん。俺が言いたいのは・・・いや違うか。」


 ロペは恐らく俺の居ない間俺が見ていた全ての部署で管理運営のサポートをしていたのだろう。この銀河旅団・・・厳密にはそうなる前から俺、ロペ、そしてイファリス、ティオレ。この四人で全ての部署を管理していた。


 もちろんナノマシンによるサポートは万全だ。だがそれはあくまで肉体面で疲労しないと言うだけであって、精神面までサポート出来るような代物では無い。


 心が疲弊すれば自ずと肉体にも悪影響が出る事だろう。ロペには元々自由にさせている部分が大きかったが、それをしながらも統率者としての業務も怠ってはいない。しかも仕事は完璧だ。

しかしこと管理業務に関しては俺が他の人間を殆ど信用していない事もあり、割合として七・一・一・一で殆ど俺が全部やっていた。


 その理由の一つとして俺の中のナノマシンを使い、同時並行に全ての業務を一括で一気にやってしまう事が可能だからというものがあったからだ。時間にして数分。総合してそんなレベルで作業は終わってしまう。しかしこれはあくまで俺がやるからであり、他の眷属が同じことをしようとすると一瞬でエネルギーが枯渇しその場に崩れ落ちる事だろう。

それほど俺のやっていた事の範囲は広く、尚且つ超大がかりな事だった。単純に七掛けしてハイやってみてで、出来るようなものではそもそも無い。


 そんな中でおろそかになった部分があっても責められるはずも無い。それに、そうなったのはきっと俺が何とかすると言うロペの信頼もあっただろう事は想像に難しくない。他に優先すべき事が沢山あった時期でもあるし寧ろこの部分だけで済んだのだから、素直に賞賛するに値する話だ。


 「まぁ人の管理ぐらい少しばかり手を抜いても良いか。だが・・・。」


 俺は未だにぷるぷると膝を震わせ腹を抱えて顔色を青くしている男に某奇妙な冒険バリに指でっぽうを構えて俺の気持ちをぶつける。


 「だがテメーは駄目だ。」


 俺がそう言うと絶妙なタイミングでイファリスが何やら手元にあった黄色いボタンをポチッと押した。


 「!?」


 「!?」


 その場から男の姿が掻き消え、床にぽっかりと穴が開く。俺は特に何もしていなかった訳だが・・・。只指を指してさぁ話でも聞こうかと、そう思っていただけだったんだが・・・。


 「落とし穴か・・・?」


 エルマはぽっかりと口を開けた穴をのぞき込んで・・・。


 「何処に繋がっているんですか?この穴は?」


 「さぁ?」


 イファリス?さぁ?って。


 俺が怪訝な顔を向けると慌ててイファリスはそのボタンのつながりを調べるが、結局よく分からなかったらしく、後でロペから「よく分からないボタンを押さないように。」ときつくお叱りを受けていた。

おめーが作ったんじゃねーのか・・。


ーーーーーーーーーー


 その後直ぐに「魔法少女クリアランス登場!」と二十代後半女子が掃除道具を持って現れ、あっという間に中央管制室を掃除していった。


 「少女って割には・・・。」


 「よせっやめろ。」


 いつの間にかやってきていたテツと新庄はクリアランス事、クーリー・アライアンス無職(二十九歳)についてあれこれ語り合っている。


 「あの・・・銀河きゅん・・・。」


 「いや良いんだ。よく考えてみたらそうそう出来る事じゃないしな。手抜かりがあっても仕方ないさ。にしても・・・。」


 あいつは・・・いや、あいつらは一体どこから?いつからここにいるのか?

俺は記録を遡って確認してみる事にした。


 皆が自分の行動記録を提出する事によって、その時何が起こったか再現が出来るプログラムをキュキュってのが作っていたな。それはどういうものなのだろうか・・・。

使ってみよ。


ーーーーーーーーーー


海王星ダンジョン侵入一ヶ月前


 (お・・・?これはその時のロペか。)


 「ロペ先輩。そろそろ私達が声をかけた人達を呼び込んでも良いですか?流石にこの人数だと何処も手が回らないんですけど・・・。」


 連合士官学校時代からのロペの後輩である、キュキュ・レンダヴィル元連合軍士官は人員リストデータを空中に表示させ、眉をひそめながらロペの前にそのデータを動かし、ロペはそのデータの上に細い指を滑らせながらサラッと流し見で確認をしていく。

 

 「分かっちゃいるンだけどねぇ~。銀河きゅんに黙って本隊に人を組み込むわけにもいかないし、そもそも今から呼んだ所でここまでどうやって来るの?って話だからぁ。」


 「星間航行船を使うって言う手は・・・。」


 「何処の旅行会社がこんな超危険地域に出す?」


 「それはほらぁ、先輩の人脈で何とか。」


 「流石に民間会社にそんな知り合いいないょ。軍の船だってこんな所まで来るのにどれだけ時間が掛かるか・・・。」


 二人はうーんとあちこちのデータベースを検索ハッキングし人員輸送に足る船を探していた。


 「あれ?先輩これ知ってました?」


 「どぉれ?」


ーーーーーーーーーー


ティタノマキア社 新たな事業は会長の肝いりか!?


 昨今元社長であった故トレマン・ティタノマキアの代わりに現会長でありトレマン氏の父親でもあるゲールマン・ティタノマキアは、宇宙機事業の新しい政策を打ち出した。

同氏は「我がグループに新しく参入したメーカーにおける革新的な技術と、我が社が誇る新技術を用いた超高速輸送船の開発に着手する事を決めました。」と新しい事業の着手に強い意欲を見せた。


ーーーーーーーーーー


 (うわ!こんなことになっていたのか・・・。ニュース見なきゃ駄目だな・・・。)


 「わーぉ。これあれだね、私達と別れて直ぐの記事だね。さっすがティタノマキア。」


 「これって何時ぐらいに完成するんですかね?何だかうちにとっても要りそうなんですけど。」


 「確かにあったら便利ではあると思うんだけどぉ・・・。ってこのニューカマー・・・。倉庫作ってる会社じゃん?」


 「倉庫?あー。移動倉庫シリーズ!」


 「そそそ。成る程・・・ちょっと聞いてみようか。」


ーーーーーーーーーー


 「もしもしー。」


 通信室に映し出される老人は硬めのスーツを着こなし、溌剌としていた。


ーーおー!奥様!御加減は如何ですかな?


 (じーさん元気そうだな。)


 「まーまーかなぁ。っとそれより聞きたい事があるんだけど?」


ーーどーぞどーぞ何なりと。


 「チラ社を吸収したんだって?」


ーー耳が早いですな!あの移動倉庫シリーズが気になりましてな!トレマンの馬鹿がいなくなってからうちには余裕が出来たのです。


 「成る程、事業整理の一環って事かぁ。で?」


ーーふふふふ・・・・。仰りたい事は分かります。有りますよ。良い船!


 「ビンゴですね!先輩!」


 「ほほー。」


ーースペックデータをそちらに回します。一応テスト段階までは進んでおりますので、実戦に投入しようと思えば直ぐにでも。


 「最速でどのくらいでここまでたどり着ける?」


ーー三日もあれば十分かと。


 「「みっかぁ!?」」


 (え!?はっや!)


ーーHAHAHA!驚かれるのも無理はございませんな!我が社の紋章術士達が総力を挙げて作り上げた最新のマジックサーキットなら可能なのですよ!


 「まさか転移魔法を組み込んだの?」


ーー良くおわかりで。魔力如何によっては更に短縮出来るかと・・・。


 成る程・・・。転移魔法を鍛えているパイロット・・・クルーがいれば一発でここまで飛ぶ事が出来るって事かぁ・・・。


ーーアンジー様々ですなぁ。神様から頂いたデータがこれほど素晴らしいものだとは思いませんでした。


 「あーそっか・・・。そんな事してたね・・・銀河きゅん。そういえば・・・。」


 (そういえば・・・俺が作ったデータを渡したような気がするな・・・。)


 「じゃぁお買い上げしましょうよー!先輩!」


ーーまさかまさか!既にそちらに一隻送っております!後数時間でそちらに到着する予定ですので・・・。


 「うわちょっと待って早くない?それ途中でどっか寄ったり出来ないの?」


ーー今ならまだ冥王星圏内に居りますから直ぐに指示を出せば可能かと思いますが。


 「じゃぁ直ぐにマイアコロニーとアポロコロニーに寄って貰うように指示をお願いします!えっと・・・。」


 「距離的にマイア、アポロの順番だね。」


ーー承知しました。


 ロペとキュキュは手元の端末を急いで操作し、追加する人員達に慌てて連絡を飛ばし、今すぐに荷物をまとめて宇宙港へと向かうようにと指示を出す。


 「慌ただしいですねー?」


ーーまぁ何とかなるでしょう。


 「人員のリストを送るから回収してきて欲しぃ。」


ーー承りました。データの転送は直ぐですからのんびりそちらでお待ちください。


ーーーーーーーーーー


 「いやー。速攻で話が終わっちゃいましたねー。」


 「仕事の出来るおじーちゃんで良かったわぁ。」


 ロペ達は通信室を後にし、二人して顔を合わせる事も無く端末を宙に浮かせ、両手で神速のタイプをしながら並んで歩く。たまにすれ違う者達からは見えない指先が繰り出す高速のタイプ術・・・では無く、その姿に奇異の視線を向け通り過ぎる。


 (二人ともすげーな・・・。)


 「それにしても、キュキュちゃん・・・この人員何とかならなかったの?なんか問題起こしそうな奴いっぱい混じってるんだけどぉ?」


 (なんと・・・。)


 「あ・ははは・・・断れなかったんですよぅ・・・。偶然マリコちゃんにこの話をしてる時に聞かれちゃってて・・・怖くて断れなかったんですー。」


 はぁ・・・。これ絶対銀河きゅん怒る奴だ・・・。どーしょ・・・。


 (・・・。)


 「今から断ったり出来ないの?」


 「流石にもう無理ですよ・・・連絡送っちゃったし・・・。」


 そこで違う合流先を送っちゃったり出来ない所がキュキュちゃんらしいっちゃらしいんだけどなぁー・・・。困ったなー・・・。


 「事故に見せかけて・・・。」


 (ロペの思考が危ない!)


 「他の人も巻き込んじゃいますよぅ!」


 あー・・・もう仕方ないな・・・。


 「取り敢えず合流してくる人は全員保留で。クルーになれるかどうかはちゃんとしたテストをするから。キュキュちゃん私達・・を基準にした、ペーパーテストを作って。実技の方はこっちで何とかするから。」


 「あいまむぅー。」


ーーーーーーーーーー


海楼の城中央管制室


 「・・・・。」


 ガーレニー・ピンピン・・・ね。


 ってか。


 「アレ何処にあんの!?新型移動倉庫!!」


 ぜってー見てーだろアレ!転移装置付きだぜ?革新じゃん!?


 「銀河きゅんの零番に入れてあるょ。みたいだろうと思ったし。」


 「流石じゃん・・・。やるじゃん・・・?」


 じゃない・・・違う・・・そんな話じゃ無くって・・・。


 「違う違う・・・そうじゃ・・・そうじゃない・・・。」


 「あいをゆるせない?」


 「ちがうっつーの!」


 「あいつらは結局どーすんだよ?不穏分子を抱えたままとか面倒だぞ?」


 多分これは俺がパッシブを切ったせいだ、今迄こういうことが無いように、嘘の力を使ってそう言う奴が寄りつかないようにしていたって言うのに・・・。

切った途端これかよ。


 俺が犬っこクッションに背を預け深いため息をつくと、ロペが側までやってきた。


 「銀河きゅんのせいじゃないよ?」


 「いや、そういうのを含めて・・・。ってまだ説明してないからわからんか。」


 そういえばさっき見た中でなんかいっていたな。


 「テストするの?そういえば。」


 「もうそれ自体は完成してるから、これからってとこかなー。」


 「じゃあ今からやろうか。」


 「「「「「「えぇっ!?」」」」」」


 ああいうのはほったらかしにしておきたくないんだよね・・・。何しでかすか分からんし。


 「じゃぁここは取り敢えずイントたんとアイリーンに任せてもいい?」


 「了解ですロペねぇ様。」


 「私もだいじょーぶでーす。」


 よし・・・じゃぁ実験・・・じゃなくて試験を始めようか。



クーリー・アライアンス 二十九歳 マギアノイド 七番艦所属イレーサーユニットNo1


 銀河旅団再編の際に見いだされた元ヘルフレム囚人。元々大人しくお花畑な考え方をするお嬢様であったが、親の教育が行き届いていたのかいなかったのか、命に対して全く価値を抱いて居らず子供の頃からよく小動物を殺して遊んでいた。

生活環境のお陰かそう言った部分は隠蔽され、そのままの状態で大人になり親の連れてきた見合い相手を両家の集まる席で殺害、相手方の強い要望でヘルフレムへと収監される。


 ヘルフレム収監後は気に入らない→殺すの図式を行動に起こす事が出来ず、非常に大きなストレスを抱え爆発。同じ階層の囚人を見境無く殺害して回るかと思われたが、能力的に不可能であったがために簡単に取り押さえられ、独房へと入れられる。それからは独房→相部屋→爆発→独房のループを数回繰り返し、漸くすり減った精神の隙間に常識という知識が入り込む予知が出来たらしく偶然相部屋になったティオレに世間の常識や価値観などをたたき込まれ、共にヘルフレムを脱出する。


 皆が雨宮に傾倒する中彼女は雨宮に対してそう言う感情を抱く事が出来ず、非常に困り再びストレスを爆発させたのが切っ掛けになり雨宮の目にとまる。


 そんな彼女に雨宮は様々な精神的負荷をかける実験を繰り返し、彼女の精神構造の特異性を把握し、皆と同じになりたいと願った彼女の意向をくみ取り、外部から精神構造を矯正する紋章を全身に刻み込み、痛みによって正誤を理解させる手段を執った。そしてその矯正が終わり彼女は自ら雨宮のてによって新しく生まれ変わる事を願い、魔術的に肉体を強化したマギアノイドとして生まれ変わる。


 精神構造も肉体すらも好きに改造される事になった彼女だが、そのこと自体に喜びを見いだしそれを与える雨宮をマイロードと呼び全てを捧げ、様々な改造を求めるようになった。


 雨宮によって根底から作り直された為人種のカテゴリーを脱してしまったが本人は一切気にして居らず、「マイロードとの子供が出来ればそれでいいのです。」との事。


 七番艦を構成する雨宮親衛隊のイレーサーユニット《ころしや》のトップであり親衛隊のNo4 今のところ雨宮教とは敵対していないようだ。


 キュキュ・レンダヴィル 三十歳 ヒューエル種 元太陽系連合軍冥王星宙域方面艦隊第三艦隊所属巡洋艦『ネタロー』メインオペレーター兼艦長秘書


 士官学校時代からのロペの後輩の一人で、ロペに匹敵する程のハッキング技術を持つ天才三次元プログラマー。しかし軍にいる間はその才能を仕事に生かす事をロペから強制的に止められていた為、普通の出来る軍人として従事していた。

 学生時代、ロペにとある弱みを握られて以来の悪友とも呼べる存在で、軍内部でロペの暗躍を知る数少ない人物。そう言った部分でのロペのサポートを行っていた事もある。

 彼女の個人スキル、真相心理通信《ディープテレパシー》によって初めて雨宮とタロー大佐が話をしていた時、雨宮の心の中で呟いた桃缶さんの一言がツボに入り、笑いを抑えるのに必死になっていて話の内容を良く聞いていなかった。

が、実は彼女は軍を辞めた後のロペと常に連絡を取り合っていた為、今回の接触が偶然では無くロペ自身が誘導していたと信じ、何かしら起こるのでは無いかと危惧していたが、その危惧は当たっていたが実は作戦当日は既に自分が退職している等とはみじんも思っていなかった。

 なおAGフォースのメンバー達と交流が深く、特にエリーとは裏、表共にパートナー関係を結んでいた事もあり非常に仲が良い。


 戦闘面でも一定の評価があり、電子戦においてそうそう右に出るものがいない程の技巧者でもある。比較的電子関連に弱いとされているヒューエルである彼女だが、そう言った種族的ハンデをものともせず機人種達のような適合者達をも上回る能力を持っている。ただし本人は雨宮と波長の合う程の享楽主義者であり、楽をしたいがために頑張ると豪語する程のやる気の無さを見せる事もしばしば。


 趣味はVRゲーム、好きな食べ物は鍋料理全般。


 VRMMORPGスペースアーク2におけるPKクラン『レイダーズ』のリーダーであるが、サブキャラでは普通のプレイを楽しむエンジョイ勢。

メインキャラクター名は首折り、サブキャラ名はファニー鷹花田。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ