EP30 ライプリー・レシュトラブルツアー ~マシン作りたいだけなんだけど~後編
なぜか急にPVが増えたことに驚き。よろしくです!
工場の外は廃墟の様な街が広がっている。人気は全くなくVRなのに妙に埃っぽいと、リアルさに何故か磨きがかかっている。
キャンディは精神を研ぎ澄まし、辺りの気配を探ろうとするがそういった力もこの世界の中では通用しないようだった。
「そもそもがヴァーチャルですから、気配も何もあったものではないのかもしれませんわね。」
「そういった感覚はいらないゲームなのかもよ?」
「いえあの、ですから・・・。あれ?」
ゲームでは無い・・・と言いたいライであったが、自信を失いつつあった。
メインストリートと思われる片側四車線の道路・・・雨宮の記憶に残る前世の風景を風化させたかのようなオフィス街、歓楽街の跡地と思われる誰もいないバー。
そんな中でキャンディはふと一つの店の跡地の前で歩みを止めた。
「ゲームセンター・・・ですわね?」
シャッターが閉まったゲームセンターと思われる店の前には、もう動くことはないと思われるクレーンゲームが四つほど置かれている。
中身の景品はボロボロに朽ちたぬいぐるみや、もはや塵と化した大きいサイズのお菓子。しかしその中にキャンディの目に留まる景品が一つ。
恐らく雨宮がイベントとして置いたであろう真新しいフィギュアが、ボロボロのぬいぐるみに埋もれて角を出していた。
「おねーちゃんあれってもしかして・・・。」
「そういうイベントかもしれませんね?・・・ですが・・・。]
「どうやって動かすんだこれ?電源が入ってないぞ?」
すると目ざとく裏側を調べていたライは、筐体の裏側から延びる電源用と思われるコードを見つけた。
「これが恐らく電源ゲーブルなのでしょうが・・・。差し込めるところが見当たらないですね。」
四人は周辺をじっくり調べ、代わりとなる電源なども探してみたが見つけることはできなかった。
せめて店舗の中に入れればとそう考えていた時、今まで全く気配を感じなかった周辺に物音がする。
「何!?」
ガイン!
ガイン!
フシューーーー
目の前に現れたのは・・・・。
「うそでしょ・・・。」
「「「帝都オーだ!!」ですわ!」」
帝都オー。それは火星の子供たちを中心に爆発的な人気を誇るヒーロー特撮活劇テレビ番組の主役ロボにして、本物の特殊ワーカーを使ったリアリティが大きなお友達にも大人気な、百二十年に渡り放映され続けている、超長寿番組『帝都神剣帝都オー』その初代ヒーローロボ、帝都オー・・・そのヒーローロボが何故か四人の前に立ちはだかっている。
そんなヒーローロボのことなど全く知らず、たたらを踏むライとは対照的に、他の三人は息を荒くして興奮を隠さない。
「すげー!誰が動かしてるんだ!やっぱ瀬野順か!?」
(せのじゅん?え?人の名前よね?)
「きっとそうだよ!うわー初代だ―!カッコいー!」
「・・・。こちらをじっと見ていますわね。」
帝都オーの赤く光る眼差しが四人を捉えると、視界の端のアイコンが点滅する。
(これはまさか・・・・。)
ーー
☆帝都オーを破壊しろ!0/4
ーー
「ふぁっ!?」
(よよよよよよよんっ!?)
「逃げましょう!」
冒険者として名をはせるキャンディの判断は素早く、パメラの手を強引にとり細い路地に向かって駆け出すと、ルミコとライもそれに続く。
「生身で戦うとは思いませんでしたわ。」
「いや・・・多分本当は違うんじゃないかな。」
そう、四人はあくまでまともな方法でクリアした訳では無い。そのうえでの二週目である。
本来シナリオに沿って動き、順当にクリアすれば恐らくこの場で一週目最強のマシンを手に入れている・・・はず。という前提の難易度・・・ハード。
モード選択からまだ一時間もたっていないが、さっそく四人は後悔していた。
「倒せるものなのですか?だってあれは・・・。」
「皆迄言うないライさん・・・。しかも四機もいるんだぜ・・・?これ絶対一人一殺の仕様だろ?無理ゲー過ぎる・・・。」
「みんな待って!!私に考えがあります!!」
そう胸を張って声を張り上げたのは何を隠そう他三人に既に地雷認定されつつあるパメラである。
「今度は何をしでかしますの?ちゃんと言ってみなさい?」
キャンディの傷一つないきれいな手がパメラの頭にそっと載せられ・・・。
「はがっ!イタタタタタタタ!!ちょ!まって!おねーちゃん!ギブッギブッ!!」
(キャンディさん容赦ないっす。)
「まーまー・・・一応聞いてみような?」
頭を抱えてうずくまるパメラに三人の視線が突き刺さり、思わず仰け反り層になるパメラは、それでも踏み止まり袖を捲った。
「私にはこれがあります!さっきは失敗したけど、ここは広いから大丈夫!」
(あれって結局何だったのでしょう?)
「それはいったい・・・?」
「光の枷・・・。確かにそれは・・・そうね。やってみましょうか、ここで何もせずに時間が過ぎてしまっても問題は解決しませんから。」
光の枷、それはこの世界にはるか昔から伝わる伝説の封印アイテムである。かつて冥王星の奥深くに眠る魔王を封印していたともいわれている伝説の拘束具。
何故そんなものがここに・・・、と誰もがそう思うがそこはキャッシュマン一族の金と人脈のなせる業、魔王を倒した勇者から大金をはたいて買い取ったのだという。
「光の枷っていやぁ、魔王を封印していたっていうあれか?魔王と何か関係があるのか?」
「いえ・・・全く。ですがこの枷の持つ力がパメラのスキルの暴走を抑えているのは確かです。皆さんも体験したでしょう?・・・アレです。」
アレ。そう聞くだけでルミコとライは密室で圧殺されそうになったあの瞬間を思い出す。
あの時は二人ともそのスキルの全容が全く理解できないままであったが、危険なものであるというのが共通の認識だった。
「私のスキルは光の戦士化!です!」
どやぁ・・・とでも言いたそうで腕を組み胸をそらしているが、それを聞いた二人の顔はさえない。
「なんだそれ・・・?クリスタルでジョブチェンジな奴か?」
「ヒカセンじゃなくって!あ?でもそうかな?いや違う!ジョブチェンジとかしないし!あとクリスタルも関係ないです・・・。」
おたおたと自分のスキルについてあれこれと説明するパメラだったが全く意味が伝わらない。と、それに見かねたキャンディが補足・・・・改めて簡潔な説明をする。
「ウルティマンになるのです。この子は。」
「!?」
ルミコの目が驚愕に見開かれ、パメラを凝視する。そして両肩を掴んでガックンガックンとパメラの脳を揺さぶった。
「マジか!見せろよ!見せろよ!そして解剖させてくれよ!」
「ちょ!ま!解剖はやだぁ!」
「とりあえずアレは何とかなるのですか?」
「や・・やってみますぅ・・・。」
脳を揺さぶられふらふらと頭を抱えたままパメラは路地を一人出ていこうとするが、キャンディがいったん呼び止めて注意を促した。
「三分以内に終わらせるのよ?」
フラフラのままパメラは敬礼をし、帝都オーの前に立ちふさがった。しかし立ちふさがるというにはあまりにも体格が違い過ぎる。
一メートル五十程のパメラに対し、帝都オーの全長はおよそ七十メートル。足元で見上げても頭は全く見えない。動き出せば簡単に踏みつぶされてしまうことはまず間違いない。
しかしパメラは不敵に笑みを漏らし、光の枷を身に着けた右腕を高く掲げ高らかに叫ぶ。
「じぇあーーーーーっ!」
ーーーーーーーーーー
ライの眼前にはまばゆいばかりの光が発せられる謎の光景が広がっている。一体何がどうなっているのか把握することもできないまま、目の前の帝都オーが宙を舞った。
ーしぇあっ!
「あーまぶしい!早く光り収まれよ!見えないだろー!」
光の戦士に興味津々のルミコは悪態をつき裏路地からいつでも飛び出せる位置にまでにじり寄っている。
「全く毎度毎度・・・サングラスでも欲しいところですわ。」
眩しそうに目を細めながらもどこかほっとしたような表情を浮かべるキャンディは、ルミコに続き路地の端に移動して待機している。
そしてズシンズシンと何か巨大な物体が動く音が聞こえる様になった時、徐々に光が収まり三人の足元にはビリビリに破れたパメラのつなぎが散らばっていた。
「キャンディさん?これも毎度のことなのですか?」
「そうね・・・。脱げは良いのにそのまま変身するからこうなるのですわ。」
それもどうかと、と思いながらもパメラにも人並みの恥じらいがあるのかとライは少し感心した様子で光の収まったメインストリートを覗き込んだ。
ーへあっ!
「おー!!おーーー!!!ウルティマンだ!本物のウルティマンだ!」
「というか、ウルティマンって実在したんですね・・・。私テレビの特撮かとばっかり・・・。」
「「そんなわけないじゃん。」ありませんわ。」「え?」
ウルティマンは過去、人類史に何度か登場する正体不明の人種として公的な記録にも残っている。しかしその記録を閲覧する事が出来るのは、国家的に認められた学者・研究者や権力者のみの話である。
一般人であったライには当然知るはずの無いことではある。しかしキャンディとルミコはその限られたカテゴリーの中にいる人物であるがために、その事実を把握していた。
「じゃぁ彼女はその・・・。」
「パメラは間違いなくわたくしの妹です。肉体的な違いはほぼ無い・・・という話です。恐らくですが、過去に何度か表れていた光の戦士達もパメラと同じスキルを持っていた可能性があります。」
ーへぃやっ!
「でも私が見た文献だと、外宇宙からの来訪者だ~なんていうのもあったぜ?」
「・・・その可能性も否定はできませんわね。スキルがあったのかどうかなども確認はできませんし。」
「いやぁ夢のある話だなぁ。」
ーしぇあぁ!
ゲームセンター横の裏路地で光の戦士談義が始まっている中、当の本人は四機の帝都オーを前に大立ち回りを演じているのだが、花の咲いた話に止めど無く話題が投下されることによって、議論はどんどん進んでいく。
「では機人種があのスキルを持っていた場合は・・・。」
「獣人種だったら・・・?」
「フェアリー種等もとても興味深い・・・。」
「トイレはどうしてるのか・・・。」
「お風呂のお湯が大変・・・。」
「食事もいっぱい要りそう・・・。」
ーちょっとー!こっちみててよーーー!!
「「「シャベッター!!」」」
ーもー。そりゃ喋るよー!
黄金色に輝く金色の巨人と化したパメラは、ぷんすこと腕を組み拗ねた真似をする。が、その横からブーストダッシュによって勢いをつけた帝都オーCが、腰から下へのタックルを放つ。
「あーっ!アレは!帝都オー四の必殺技の一つデンジャラスタックル!」
必殺技なのに四つも・・・とライは突っ込みを入れようとしたが、ライの視線は今迄パメラの板足元に向いていた。
通りに出ることは流石に危険ではばかられるが、その場でも確認できる程の輝きを放つ何かがそこにある。
「二人ともあれはなんだと思いますか?」
「だから空を飛べるのは・・・って?あれ?」「ですから腕から出る光線は・・?あら?」
ライの指さす方向に光る何かを見つけた二人はキラキラと目を輝かせる。そしてメインストリートの向こう側で、パメラの拳によるラッシュ攻撃が始まった時、その光る何かの正体を確かめるべく動き出すことになった。
「ドロップアイテムですわっ!」
「数が多い!手分けして拾いに行こう!」
「ええっ!!行くんですか!?」
そう言うや否や、二人は走り出しライは一瞬戸惑いを見せるも女は度胸!と声を張りメインストリートへと飛び出していく。
「あった!これがミスリル合金板だ!」
「こちらのもミスリル合金板ですわね。ライさん?そちらの物は!」
「あ・・・オリハルコンコアです!」
「ぅおー!レアドロじゃね?それ!」
「他のも拾いましょう!」
ーどっせい!
パメラから繰り出されるラッシュラッシュラッシュ!あーっと!帝都オー?帝都オー膝をついた!これはパメラチャンスだ!
高く掲げた足から繰り出されるぅ!断頭の踵落としぃ!ダウン!帝都オーダウーーーーン!
バラバラと辺り一面に散らばるドロップアイテムが、白・青・赤・そして金色・虹色と様々な色を放ち一面を埋め尽くしていく。
そして三機の帝都オーを倒し一対一となったパメラが縦横無尽に辺りを駆け回る。その度に帝都オーから放たれるビームやミサイルが辺り一面を破壊し土煙を上げる。
「げほっげほっ・・・パメラ・・・やりすぎですわ・・・。」
「あいたっ!コンクリの破片が・・・。」
「爆風でメガネが・・・。」
おーっと帝都オーDパメラの打撃にたまらずこれはクリンチっ、レウッレウッ!クリンチ状態からのパメラの膝が帝都オーのコックピットを直撃か!?
パメラの一撃が入る度に空から降り注ぐ瓦礫とドロップアイテム。
「あ!虹色の!ってあいたーー!何かが倒れて・・・ひぃっ!」
必死にドロップアイテムをかき集めていたライの目の前に帝都オーDのもぎ取られた腕が轟音を上げて倒れ辺りに粉塵をまき散らす。
そのまま風圧で元のゲームセンターの前まで転がり戻ってきたライはへたり込み、もういいかと休憩に入った。
「はぁ・・・さすがに二人共元冒険者だけあって元気ね・・・。」
おーっとぉ?帝都オーD追い詰められた!背にするのは嘗て一大百貨店ブームを巻き起こしたまっさかや!パメラ帝都オーのヘッドをもって・・・ヘッドバッドぉ!
もういちどぉ・・・ヘッドバッドぉ!!これはたまらない!メインカメラも大破しているぅ!
ピコーンピコーンピコーン
おっと?ここでパメラ選手の動きが止まったぁ!?額についている宝石が点滅していぞぉ!?これはどうしたことかぁ?
「ハッ!パメラ!残り三十秒よ!早く終わらせなさい!!」
ーはわわっ!
ここで帝都オーDチャンスと見たかぁ!コアにエネルギーが集まっているぅ!これは出るか?必殺の!?
「いかん!早くとどめを刺せ!マーズブラスターだっ!」
パメラがやられてしまうとあとは蹂躙されるしかないのだが、ライには何を言っているのかが全く理解できず、クレーンゲームの前でドロップアイテムの中に紛れていた桃の紅茶のペットボトルを開けていた。
きっと危機的な状況なのでしょうけど・・・。二人のあの楽しそうな顔を見ているとそんな危機感も薄れてきてしまうな・・・。
頑張ってパメラさん・・・。私はもう疲れました・・・。
ここでパメラ選手一旦距離をとった!?何とか零距離で攻撃を受けることは避けられたかぁ!?
おーっと!ここでパメラ選手も何やら構えをとっているぞぉ!?両手で三角を作ってぇ・・・?
ートライアングルぅーーーーびーーーーーーむぅ!!!
カッ
「あっ・・・」「ちょっと・・・。」「ふぇ?」
立ち上る爆炎っ!吹きすさぶ瓦礫の山!帝都オーD善戦しました!辺り一面まったいらです!
丁度ゲームセンターの並びの通りの向かい側、反対車線側にある大きな廃ビルにもたれかかった帝都オーに向けて某三つ目の戦士の様な構えで放つ謎の光線は、
直線状にある建物を三角に切り抜きぽっかりと空間を開けた。
ー勝利っっ!
光の戦士パメラとなって暫く、三分きっかりに戦いを終わらせることに成功したのだが、この三分という時間はパメラの内に宿るマナの量で決まる。マナの放出さえコントロールできれば何時間でも変身していられるはずなのだ。
しかしパメラは何故か三分と自らに暗示をかけ三分で全てのマナを使い切ってしまう。だがその出力は、みんなのヒーロー帝都オーを四機も倒すほどのハイスペックを、たった三分だが演じる事が出来るようになっていた。
そして最後のビーム。アレを使うとどれだけ敵が残っていても全ての力を使い果たしてしまうため、強制的に変身が解除される事になる。最後の最後で一度しか使えないが、本人は切り札は取っておくべきと、意気揚々と語っていたという。
ブイ字サインを出したままシュルシュルと小さくなり、パッと眩しい光に包まれるとそのままの姿で後ろに倒れる元の姿に戻ったパメラ。既に意識を手放しているらしく、全裸で後頭部を強打しているがすやすやと眠りに落ち、ドロップアイテムを回収する間の数分間そのままで放置されていた。
「凄まじい暴れっぷりだったな。」
「ウルティマンにはまだまだほど遠いですわ。スマートさが足りません。」
「強いあこがれは感じましたね。」
三人は全てのドロップアイテムを回収し、クエストをコンプリートしたことに安堵し、急いで工場に戻る。
「いけない。パメラをそのままにしていましたわ。」
踵を返しキャンディは一人パメラを小脇に抱えて走る。光の戦士とみんなのヒーローが暴れまわった結果。朽ちていたとはいえ舗装されていた道路は穴が開き亀裂が入り、周辺の建物は良くて半壊、多くの建物が全壊している。
悪路を走るキャンティは相当な負荷をパメラにかけているはずだったが、一切目を覚ますことなくキャンディによって寝心地の悪そうな角張ったベッドに寝かされた。
ーーーーーーーーーー
「無事に帰りついてよかった・・・。」
「さーすがにあのレベルの敵がゴロゴロ出たらやばいだろー。」
「その可能性も否定はできないのですが・・・。なんせ二週目ですし・・・。」
がれきや砂ぼこりの舞う戦場を生身で走り回った三人は、泥まみれの埃まみれになっていた為、シャワーの一つでも浴びないとと背景と全く区別のつかないバスルームであろうと思われる扉の前に立つ。
「何故壁は2Dなのかしら・・・?」
「立体にする必要性を感じなかったのでしょうね。まさかこの空間の中でこんなに泥まみれになるなんて思いませんでしたわ。」
「うーん・・・この扉と壁の一体感。果たして開くのかな?」
ルミコは開けゴマ!とシャワールームの扉を押すが、何も起こらなかった。そのままの勢いで辺りの壁も触ってみるが、質感も手触りも全く変わらない様で、眉間にしわを寄せ扉の様な壁を叩いた。
「絵・・・か・・・?」
しかしライは扉のある部分に注目する、取っ手の表示されているすぐ下に、赤色のランプの点灯した場所を見つけたのだった。
「ロックがかかっているのではないでしょうか?」
「マジで?使用中?」
「わたくし達以外に誰かいる・・・と言う事でしょうか?」
他に誰かいるとしたら・・・。ここに来てからは、ジャック、ジャックと太郎。その二人にしか出会っていない。それ以外のNPCがいる可能性があるのだが、いかんせんベッドルームの風呂の中である。
三人も休もうかと思いもしたが、誰かがいる可能性があると判ると、とてもではないがゆっくり休めるような状況ではなかった。
コンコンコン
「どなたかいらっしゃいますか!?」
コンコンコン
「返事が無ければドアを破りますわよ!」
コンコンコン
ガチャ
「あら?」
三回目の強めのノックの後、何故か鍵穴もない扉から、アナログキーの解除音が響いた。
「いろいろ突っ込みたいところはあるけど・・・。とりあえず開けるぞ・・・?」
ルミコが意気込んだのも束の間、キャンティはある事に気が付く。
「開けるといっても・・・。押してみますか?」
そう。まったいらな壁に起伏は全くない。ドアを開けるノブさえ只の絵だ。もちろん絵のノブは回せない。方法は押すぐらいしかないようだが・・・。
「それしかないか、せーのっ!」
プシューン
「うわっ!あっ!」
空きかけの扉に足を引っかけたルミコはそのまま床に手をつく、扉は下に開くものだった。
「下かー!裏をかいて上は想像してたわー!」
「スライドドアの可能性も考えはしましたが・・・。」
「二人とも楽しそうですね?」
「「そうな!」ですわね!」
もはや楽しんでいることを隠しもしなくなったキャンディ、そしてゆっくり立ち上がったルミコは笑いながら扉の中へと入っていく。
ーーーーーーーーーー
カポーン
「・・・・・・・・。」
脱衣所で汚れた服を脱ぎ去った三人は、偶然その場に遭った洗濯機に全ての着衣を放り込み全自動コースのスイッチを押し連れだって風呂の入口の普通のドアを開けると、
その先に広がっていたのは・・・古き良き時代の銭湯だった。滑りやすい青のタイルの敷き詰められた床、やけに低い洗面台、そして壁に聳え立つフジヤマ・ナス・タカ・・・。
「な・・・なんでしょうかこの広いお風呂は・・・。」
「異世界に来た気分だな!あの山の絵凄いぞ!全部タイルでできてる!」
「やけに凝っていますね・・・。」
三人はひねる蛇口に苦戦しながらも体を清め、湯船へとたどり着く。泳げそうなほどの大きさの湯船にはこれといった特徴は無く、少し熱めのお湯がなみなみと揺らめいている。
「「「はぁ~~~~~~~~~~・・・・。」」」
「共同浴場も情緒があっていいですわね。これは銀河さんにどういった趣向で作られたのか是非お尋ねしたいところです。」
「熱い湯が染みるねー!疲れが飛んでいよー!」
「はぁ・・・。いぃ・・・。」
時間にしてたったの一時間弱ほどだったが、外に出て全力で逃げ回り、死地を駆けずり回った経験は癒されるに相応しい程の疲労を彼女達に与えていた。
「なんだかんだで上手くいったな!これでやっとロボットが作れる。」
「プロトレイブン・・・でしたか。ライさん何かこのロボットについて銀河さんから聞いていませんか?」
尋ねられたライは、今迄の雨宮とのやり取りを思い起こすが、そもそもこのVRプログラムについてすら知らされていなかったのだ、知らされている筈はなかった。
「全く・・・ですね。ですが材料から考えるに、ドルフよりも格上の機体に仕上がるような気がします。」
「それが二週目の初期マシンか・・・。楽しみだな!」
「ええ!カラーチェンジなどもできるのかしら?エンブレムカスタマイズに、スタビライザーの調整なんかもできるかしら?」
カラーチェンジはともかく、スタビライザー位ならあのマシンで簡単に調整できるな。とライの頭の中は既にどういうマシンに仕上げるか自らの頭の中に設計図を敷いていた。
ーーーーーーーーー
「さぁて!マシン作ろぜマシン!」
出会った当初はこんなにアクティブな方だとは思いませんでしたが、ルミコさんもさすがは冒険者、学者だとは聞いていましたが、趣味のフィールドワークは伊達では無いですね。
ドロップアイテムを回収する時も、生き一つ乱さず駆け回っていました。このVR世界では見る事が出来ないかもしれないけど、彼女も魔法を得意としていると先ほどお風呂で教えてくれました。
私は魔法には全く適性が無いらしく、子供のころからその道に進むことはできないとあきらめて久しいですね。ですがボスにお願いすればきっと・・・。
「そうだね!プロトレイブンって名前からしてちょっと強そうだよね!」
ちょっと・・・。まぁ名前からしてプロトタイプですしね。というかいつの間に起きていたのですか。
全裸のままでここまで来たのかしら?服・・服・・・あぁそれより下着が・・・。
「パメラ!はしたないですよ!?なぜ裸で・・・。そういえば何も着るものがありませんね。まぁそのままでもいいでしょう。他に誰もいませんし。」
「えーっ!まぁオフラインだし誰も来ないかもしれないけどぉ・・・。何か着るものないかなぁ・・・寒いとか熱いとかもないんだけやっぱりちょっと・・・。」
そりゃそうでしょうよ。
ふむふむ・・・と言うかこの一族は貧乳という言葉が無いのでしょうか?
ジェニさんもそうだしキャンディさんは・・・まぁ言わずともですしエストさんもかなりのサイズですしアメリアさんとアーニーさんは凶器ですし・・・ぐぬぬ・・・。
「仕方ないですね私の白衣でも着ていてください。」
「あ・よかった。ありがとうー。」
私が白衣を着ていなかったら本当に裸のままでいたのかどうかも気になりますが、まぁ私たちの間で今更肌を晒すのがどうかとか正直軽い話の部類に入りますね・・・。
もちろんボス以外の方に見せるような真似はしませんよ?
「では早速私から。」
円形プールの様なマシンクリエイターを手慣れた様子で操作するキャンディは、途中であぁでもないこうでもないといいながらも、自分のマシンを作ることに成功したようだった。
「次は私っ!」
パメラは何度も何度もやり直しやり直しをしながら納得するところ迄調整が出来たのか、小一時間程悩みに悩んで自分のマシンを完成させた。
「こ・・・このシステムはダメだと思います!弄れるパラメーターが多すぎて何を弄って良いのかわからないょ!結局デフォルトの状態で作っちゃった・・・。」
「散々時間を使った挙句それかよ!まったくぅ・・・。私は・・・っと。」
ルミコは表示されるあらゆるパラメーターを見比べ確認し、調整を加えながら手早くマシンの製作を済ませる。
「確かにこれはムズいな。正直意味の分からないパラメーターが多すぎて何を触ったらいいのかわからないわー。」
「ロペさんの作ったシステムをボスが組み込んだものですからね・・・。何があってもおかしくは無いですし、下手に弄らないのが正解だと思います。」
さて。私も自分に合うマシンを作れるでしょうか?このVR世界ではバトルドレスがありませんからね・・・。レイブに近づけようとしたら私が死ぬかもしれませんし・・・。
どうしようかな・・・。あ・・・。ナニコレ?空間微粒子採取設定?何を採取するの?アルファ粒子混合比率・・・?聞いたことのないものが・・・。
βソウル含有率?あ・・・これは見た事が有ります・・・。でもこれって・・・ソウルクリスタルの組成にある成分のことですよね?え?魂をここで弄れるの?
え?なんだかこれって・・・ものすごい機械なんじゃないの?私触っても大丈夫かしら?あ。これも見た事が有るな・・・表面湾曲比率。これはマギアシリーズの湾曲シールドの設定で触ったことがありますね。
これなら・・・ちょいっと。あとは・・・あ。なにそれ、え!?マジックサーキット・・・?紋章術が魔法使い無しでエンチャントできるの?嘘でしょ・・・。これは絶対付けたい・・・。
あ・・・あとコックピット周りの設定って・・・あ、あった。これをちゃんと私に合わせて設定しないと命に関わりますからね・・・。
後はカラー・・・?そうね・・・ピンク・・・いやいや・・・でも・・・ああ・・・うん。自分のマシンなのよね。よし。
「ライさんは流石本職だけあって凄いですわね・・・。あんなに触れる場所があるなんて。わたくしなんかエネルギータンクの容量だとか外部デザインだとかしか触れませんでしたわ。」
「あー。私も似たようなもんだわー。でも私は武装の変更とかやったぜ?」
「あら?そんな項目があったのですね?もっとよく見ておくべきでした。」
「まぁ最初にやると後が待っているしな。そもそもなんで一個しかないのかね・・・?」
ルミコの疑問も最もだが、普通に進めていた場合はそうではないのだがそれを知るすべはない。
あー・・・。可変型・・・。うーん高機動仕様にしても私には扱えないし・・・コックピットがしっかりしていても私の反応が付いていけないし・・・。
そうね・・・やっぱりここは・・・。
「これでよし・・・っと。」
ッターンとライがARキーボードをたたく音が聞こえた気がする三人は製作を終えたライの方に歩み寄った。
「どういうマシンに仕上がりましたの?」
「はい。私は高速機動のマシンに仕上げると付いていけませんので・・・。ボスが話していたスーパーロボットというものを参考にしてみました。
大きくて高出力で装甲が厚くて高火力、あと特殊能力?みたいなものもパラメーターを設定することで再現できたと思います。」
おおー。と三人は感嘆の声を上げで回りをきょろきょろと見まわすが、それらしいものは見当たらない。
「どこにあるのかな?マシンって?」
全裸に白衣というアダルトコンテンツのパッケージにでもなりそうないでたちのパメラは、辺りを見回して工場の一角にあるエレベーターを発見した。
「これエレベーターかなー!」
「どれどれ・・・また絵じゃないよな?」
「エレベーターですから下に扉が下りる事も・・・あるのでしょうか?」
「観音開きだったりして・・・。」
得意分野で力を発揮したライの表情はほっとした安堵の表情で晴れやかだ。珍しく冗談を言いながらエレベーターらしき場所の前に四人が集まった。
「ロックはかかっていないみたいだな?緑のランプがついているし。」
「赤はロック、緑はアンロックですか。」
「ゲームだねぇ・・・。」
「ですから・・・。」
軽く愚痴を叩き合いながらライがエレベーターの扉に手をつくと、体重がのった瞬間その扉が内側に開き、ライはエレベーターの穴に落ちそうになる。
「!!!???」
「おいっ!!!」
寸での所でルミコとキャディの手が間に合い、ライの体は奈落へと落下せずに済んだ。
「観音開きでしたねぇ!!?」
「そんなこと言ってる場合か!パメラひっぱれ!」
「ほほほほ・・ほいっ!」
四者四様に荒げた呼吸を整えながら改めて扉の内側を確認すると、底の見えない奈落に向かって上から垂らされたエレベーターを引き上げるワイヤーが垂れているのが見えた。
明りの届く範囲で内部を確認するとメンテナンス用の端後も無く、凹凸すらない平らな壁面が無限に続いているようにさえ見える。
「・・・こえー・・此処こえ―・・・。下が見えないぞ?」
「上も見えませんわね・・・。何階建てでしたかしら?そんなに高い建物であったような気はしないのですが・・・。」
「これ落ちたら死ぬ奴かな・・・。とぅるるっって。」
すると中のワイヤーが動き出し、下からエレベーターの箱の動く音が響きだした。
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
「ちょ!何の音だこれ!!?」
「ワイヤーが動いていますわ!下がって!」
奈落を覗いていた四人は慌ててエレベーターの扉から離れると、観音開きの扉はさながらウェスタンドアの様にバタバタと内側に開いたり外側に開いたりを繰り返している。
「ねえあれって危なくない?」
「そうですわね・・・。でも・・・。」
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
「おい上がって来るぞ・・・?どうすんだ!?」
「とりあえず離れませんか・・・?なんだか嫌な予感が・・・。」
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
徐々に大きくなる金属の摩擦音が近づくにつれて小さい振動が足の裏に響いてくる。そしてその振動のせいでいつまでも止まらないエレベーターのドア。
内、外、内、外バタンバタンと開閉を繰り返しついに。
ドッガンッ!
「うぁあ!!」
丁度内側に開いた瞬間とエレベーターの箱が上がってくる瞬間が重なり、解体現場の鉄球でもぶつかったのかと思うほどの大きな音と、床を揺らすほどの大きな振動が四人を襲う。
「こわれた!?」
「あたたた・・・。」
「丁度当たるタイミングでしたのね・・・。」
しかしそんな事態は無かったかの様に再び動き出すエレベーター。どうやら目的地に着くと止まるようになっているようだが・・・。
「これに乗るんですか・・・?しにません?」
ライの不安はもっともで、あのスピードで動くエレベーターに乗れば、おそらく中の人間は天井に張り付けになるか床に張り付けになるかの二択を自分で選ぶことになるだろう。
「もしかしてエレベーターに乗るのにレベルが足りなかったりするにかな・・・?」
「そんなもんあってたまるか!」
とりあえずエレベーターは中のボタンを押さない限り動かない様で、四人はエレベーターをいったん放置し、他にマシンが現れたような場所がないか確認しに回ることにした。
ーーーーーーーーーー
「何かありましたか?」
「中は何にもなかったよ・・・。非常階段もなかったし・・・。」
「災害対策に問題あり・・・だな。私は外の方から建物全体を改めてみてみたが、この建物は二階建てのようだった。屋上もひょっとしたらあるかもしれないが下からじゃ見えないから確認出来ていない。でもマシンらしき影は見えないから、上は無いかな・・・?」
「入ってきた方と反対側の方に搬入用出入り口と駐車場があっただけで車も全部スクラップでしたし、特に期待に沿うものは無かったですね・・・。」
じゃあやっぱりあれに乗るしかないのか・・・。と四人が諦めて絶望に沈んでいた時、エレベーターが動き出し階下へと降りて行った。
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
「・・・やはり誰かいるのでしょうか・・・?」
「何それ怖い・・・。」
「デフォルトが下の階だから時間が経って勝手に戻ったから・・・って事はないか。」
「戻る時もひどい音と振動でしたね・・・。」
四人はどうしたものかと途方に暮れていると、先ほど下に降りたエレベーターがまたこの階に戻ってこようとしていることに気が付いた。
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャギャギャ
しかし今度は扉は締まった状態のまま・・・。
「あ・・あ!振動で扉がちょっと動いてるよあれ!!」
「やっべ離れ・・・。」
ドッガンッ!
「ㇾっ!」
あれ・・・と口を開いていたパメラは衝撃で舌をかんだようで、しゃがみ込み口元を抑えて涙をぽろぽろ流している。
VR空間でのリアリティの設定がシビアなのが非常に困ります・・・ボス・・・。
ライも振動に耐えられず尻餅をついたままで止まったエレベーターが開くのを眺めていると・・・。
ーーあいたた!このえれべーたーはとびらによくあたるんですよ!
頭の上に白い吹き出しを出したジャックが頭をさすりながら足音もさせずに出てくる。
「「「「ジャック・・・。」」」」
あいたたで済むものなのかと首をかしげる一行をしり目にテキストが切り替わる。
ーーこのえれべーたーはひとがのるとゆっくりになるのでだいじょうぶだよ。さあしたのかいにいきましょう。あなたのましんがまっています。
「なんか腑に落ちないな・・・。相変わらずキャラが定まらないし。」
「じゃあお前はなんなんだっていうね?」
「もしかしてロボットでしょうか?」
「本当に大丈夫なのでしょうか・・・。」
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エレベーター内
どうしよう。
思ったよりずっと狭い。エレベーターの縦穴はかなり広かったのにこの箱の中はとても狭い。
というか狭すぎませんかここ?密着具合が非常に気になります。というか今私はパメラさんを守るためにジャックと完全に密着しているのですが・・・。
四角い箱の中に、四人と謎の四角い生き物がひしめき合っているこの状況は、物理的にも精神的にも中々のダメージだと思います。
ですがパメラさんを前に出すわけにはいきません。絶対です。
「むっぎゅ。」
ーーこのえれべーたーでいまからいくところは、ましんせんようのちかかくのうこさっ!
ふ・・吹き出しに物理的な接触能力があるとは思いませんでした!くるしぃ~。
「おね~ちゃ~ん・・ライさ~ん・・むりしないでぇ~。」
それにしてもこのジャック・・・これだけの圧迫感に微動だにしないっっ!ちょっと壁にくっつきなさいよっっ!
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工場地下格納庫
「「「「ぶっはぁ!!」」」」
四人がぜぇぜぇと息を切らせて軽い呼吸困難な状態になっている今だが、ジャックは頭の上に吹き出しを吐き出しながらすたすたと歩き去っていく。
「なんかっ・・はぁ・・・はぁっ!もうっ!!ほっといてもっ!いいんじゃないかぁ!?」
「はっはっ・・・これほどの嫌悪感・・・。ふぅふぅ・・・。おのれジャック・・・・。」
「暑かった・・・はふぅ・・・。」
「・・・・・はっ・・・。」
ハッ。外に出た瞬間意識が飛んでいました。
このエレベーター確かに人が乗っている時はゆっくり動くようです。・・・でもですね?ちょっとゆっくり過ぎるんじゃないですかこれ・・・?
長々と吹き出しに何かの文字が吐き出される度に圧迫→解放→圧迫→解放。の繰り返しが延々と・・・。体感で十分ぐらいでしょうか?非常に不快な上にとっても苦しかったです。
はぁ・・・。まだ目の前に星が散っています・・・。
ジャックの話の内容なんて全く目に入らない程の圧迫だったので、唯々殺されかけただけでした。
四人は唯々広い空間に辿り着き、その場所が格納庫であることに気が付いたのは、自分の設計したマシンを見つけてからだった。
果てが見えないほど広い格納庫の中に、たった四機のマシン。圧倒的な空間の無駄遣い。
きっとここには沢山のマシンを置いておく事が出来るのでしょう。
・・・しかし明りがあるはずなのに全く奥の方が見えませんね・・・?そしてここからどうやって外に出るんでしょうか・・・?
「あー・・・私のプロトレイブンだ―。デフォルトの色のままだからなんだかちょっぴりダサめ・・・。」
ミスリル装甲のエメラルドグリーンがそのままで、全く塗装がされていないプロトレイブンは、デフォルトの設定のままで武装は何と槍一本。
その名もミスリルジャベリン。若干とげとげしいデザインが男の子心をくすぐるようにきらりと光り、その出で立ちは弁慶を彷彿させる。
「何というか男らしいというか、潔いというか。シンプルな武装ですわね。槍一本ですか。」
「でもでも!私にはちょうどいいかも?」
「あっ!私のアーリマンだ!」
アーリマン。ルミコカスタマイズのプロトレイブンは、黄色と黒のデンジャーとか、keepoutなどを想像するような奇抜なカラーリングで両腕に四連装ガドリングガンを装着した近距離射撃型のテクニカル仕様になっている。
若干ブーストの出力やエネルギー容量等を増加させて継戦能力を底上げしているが、武装以外はデフォルトのプロトレイブンと大した違いはない。
「わたくしのアンブレラもありますね・・・。もっとカスタムすればよかった・・・。」
一番初めにカスタマイズを始めたキャンディは、急いでいた為か武装の変更もしておらず、ただ極端なスピード標準装備であるエネルギーバリアの出力を適当に変えただけであった。。
キャンディ自身はロングソードを愛用していることから、マシンにも実剣を持たせたかったがその謙虚さが裏目に出た。
「きっと後でもできますよ。あぁ・・・とうとう出来てしまいました・・・私の・・・。コスモラヴァ―・・・。」
「「「コスモラヴァ―??」」」
この命名は奥手で決して前に出られない・・・と思い込んでいるライの雨宮に対するラヴの表現でもあった。
銀河LOVE。マシンに名前を与える時、ライの頭の中に稲妻が走り、これしかないっ・・・と勢いで命名したのがこれ。
直球勝負は出来ない、さりとて伝えたい事がある。外角一杯ギリギリの変化球での勝負だった。
「宇宙愛?」
「まぁ・・・そのようなものです。」
「ポエミーだねぇ。」
「・・・・あぁ。なるほど・・・。」
キャンディは察したらしくうんうんと、そういうのもアリだと思いますとライの肩をたたいた。
そして四人はそれぞれ自分のマシンの前に立ち乗り込もうとするが、見えない壁に阻まれて触る事すらできなかった。
「触れないよー?」
「只のサンプルだとかそういう事か?」
四人は気づかないうちに急ぎ足になって、自分のマシンまでたどり着いたこともあって、ジャックを通り過ぎたことを忘れている。
それぞれが、透明な壁に穴は無いかと、ペタペタ調べ始めていたのだが案内をするはずのジャックが一向にやってこないことに全員が気付かない。
「もーなんでよぉーさーわーれーなーいぃー!」
「何か理由が・・・あら?」
パメラが地団太を踏み、他の三人もどうしたものかと辺りを見回したとき、キャンディがふと今しがた自分達が歩いてきた方向に目を向けると、白い塊が宙に浮いている・・・ようなものを見つけた。
「アレはなんでしょうか?」
キャンディが指さした先には、エレベーターと謎の白い物体。何だと問われても誰もわからないほどの距離にふわふわと揺れ動く塊が揺れ動く。
「わたあめかな?」
「そんな訳無いだろ?あれは・・・あっ。」
流石に綿あめは空を飛ばんだろ、と歩くため息をつくルミコの視線がその白い物体の下に動き、アレを思い出した。
「あ・あそこにいるのあれジャックだろ。」
「え?あれ?そうですか・・・?」
「確かに・・・・。そのようですわね。」
ジャックのことなど全く頭になかった四人は、ようやくジャックが途中で立ちんぼになって吹き出しを吐き出していることに気が付き、何かあるのかもしれないと急ぎ足でジャックのいるところまで戻る。
すると、タッチNEXTページと書かれているアイコンが目に入った。
「今まで殆どスキップしてたからすっかり忘れてたな。」
「ええと・・・?」
ーーこのちかかくのうこには、それはたくさんのましんをおさめておくことができますっ。
パメラはそっとスキップした。
すると再び歩き出すジャック。今度は四人のマシンの置いてあるスペースの丁度中心ぐらいの位置に立ち止まり、白い吹き出しの中に文字を吐き出し始めた。
ーーさぁみなさんましんにのりこむじゅんびはできましたか?、
パメラはまたそっとスキップをタッチした。
するとその様子を横目で見ながら、透明な壁をペタペタ触っていたキャンディの手が空を切る。
「乗り込めるようになったのかしら?」
自らのマシンに近づき手を触れると同時にキャンティの姿が掻き消える。
「おねーちゃん!?」
ーー大丈夫よパメラ。このこに乗り込んだだけよ.
ライやルミコも続いてマシンに乗り込んだ。
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これは・・・理想にかなり近いコックピットですね・・・。
コックピットの中はライの体に合わせてカスタマイズされており、設置されている操作機器は全てが手になじむようになっていた。
これは凄い・・・。このコックピットをオーダーで作ろうと思ったら、何百万クレジットかかるかわからないわ。
それを唯々材料を集めるだけで人の手を介さずに作ることが出来てしまう。しかもその材料は・・・恐らくナノマシン。
ボスがナノマシンを大量に生産していることは以前から伺っていましたが、ナノマシンとは恐ろしいものです。
時に人を操るほどの狂気となったり、人を進化させる起爆剤になったり、惑星一つを飲み込んだり、あぁ・・・考えるだけで寒気が・・・。
しかしここのナノマシンは全てボスの一存でコントロール可能だということです。
恐ろしくもありますが、頼もしくもあります。それに今の私の体の中にも私をサポートするナノマシン群体が寄生している。
そう考えると、私とこのマシンとの違いとは何だろうか?同じもので出来ているはずですから・・・。
ーーライさん?そちらの具合は如何ですか?
「え・えぇ。こちらは問題ありません。むしろ理想に近い仕様になっています。」
「後はこいつをどうやってリアルに持って帰るかだな。」
それは簡単です。私に考えがあります。
「簡単ですよ・・・。このマシンをほら。そこにある穴のようなものに入れてしまえば設定してあるハンガーに勝手に格納されにいきますから。」
そう言ってライはコスモラヴァを動かしその穴の中に飛び込んだ。
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雨宮専用ハンガー
ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!
ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!ガイン!
穴に飛び込んだライの視界が急に途切れ、暗転したが目に光が届く頃には既に現実世界に戻ってきたのだという実感があった。
ーー一体どういう理屈でここに戻ってこれたんだ?私たちは研究室にいるはずだろ?
ーーそうですわね・まさか精神が肉体から離れてしまったなんてことはありませんよね?
「そんな幽霊みたいな存在ではないですよ。ちゃんと自分の肉体ですから。ほら、服装が替わっていますよ?パジャマじゃないですか三人とも。
ーーそういえばそうですわね・・・。」
赤いサンタ帽のよぅなナイトキャップを頭にかぶった状態のキャンディは確かにVR世界に入る直前、あの専用シートで寝ていたときの姿だった。
ーーよかったぁ・・・。裸に白衣のままでいたら銀河おにーちゃんにお持ち帰りされちゃうところだったよー。
・・・あれ?そして私の白衣がない。まさか、同じ格好でVR世界に入ったから?白衣だけおいてきてしまったのかな・・・?
まぁいいか。一着ぐらい・・・。
「一旦戻ってきたとはいえ、量産計画には程遠い数ですわね。今たった四機ですよ?」
ーーそうですわね。でも今度はこのマシンがありますから。向こうで素材を集めるのも大変では無いような気がしていますわ。
ーー範囲狩りとか出来そうだよね。もう一度同じクエストを受けられるなら、とりあえずプロトレイブンはそろえられそう。
ーーだがどれだけ時間がかかるか・・・。
「それでもこれが一番楽なので・・・。このマシンがあれば帝都オーも難なく倒せる気がしますし、そうで無くてもまたパメラさんに倒してもらえばいいと私は思ってしまっていますが・・・。」
するとパメラは器用にマシンでガッツポーズをとり、任せて!と意気込む。
ハンガー内には誰もおらず、あたりは静まりかえっているが何かあったのだろうか?
いや、なんてことは無い。ただの就寝時間だ。皆既に眠りにつき、スクランブル要員だけしかこのハンガーの中にはいない。
警戒中のクルーたちが何事かと集まってきた。
「何事だっ!襲撃か!?」
ーー待ってください!私ですライです。
「なんだライか・・・って。なんだそのマシンは!?どこから持ってきた!?」
ハンガーの下層にいたティオレは走って勢いをつけたダッシュジャンプだけで、ライのコスモラヴァの肩に飛び乗った。
何というか・・・いくら進化しているとしてもこの人はちょっと身体能力が高すぎるんじゃ無いかなぁ?
このハンガーの中は地球標準1Gに保たれているはずなのに・・・。
下層から肩まで飛ぶってことは、少なくとも十五メートルはジャンプしているんですよね・・・。
コンコン
ライはコスモラヴァのコックピットハッチを開け、ゆっくりと格納スペースへと移動した。
ライは量産計画を実行に移すために今までVR空間に居たこと、新しいマシンを簡単に作れるようになったことを、ティオレを含む幹部メンバーたちに話した。
「そんなものがあったんですね・・・。」
「ロペさんも言ってくれればいいのに・・・。」
「イヤーおねーちゃんに限ってそれは無いと思うなー。」
「そうですわね。きっと今頃ニヤついていることでしょう。」
確かに。ロペさんはなぜか私たち女性メンバーに対して試すような行動をすることが・・・非常に多い。
虐めかと思うようなレベルのことも希にあるが、それは訓練に限ってのことなので皆了承しているのだが、ボスの目の前では絶対にそういうところは見せない徹底ぶりもまた、我々眷属からは一目置かれるところだったりするので特に恨まれるような話では無い・・・かな?
というか、ボスには逆に結構ひどい目に遭わされているところを目の当たりにしたものも多く、同情をする声もしばしば聞かれる。
そして今回・・・私は大分ひどい目に遭わされたような気がします。でもその成果もあるのでなんともいえない・・・。
でも一言ぐらいは言いたいところですね。
「ボスたちは今どうなっていますか?」
既にボス達三人が界獣の群れに向かってから半日はたっているはず。このまま戻ってこなかったらどうしよう・・・。
「案ずるな。つい先ほどこちらに向かって戻るギンサーガの反応を確認している。直に戻っていらっしゃるだろう。」
ならよかった・・・。一息ついたらまたVR世界に戻らないと。向こうで頑張ってたくさんマシンを用意しないと!
・・・でもあれ?
「キャンディさん。マシンを外に持ち出したのはいいのですが、これをどうやって持って行けばいいんでしょうか?」
「・・・そうですわね・・・?出る方法は分かりやすかったですが、入るとなるとどうにも・・・。」
「まー。一回入り直してみたらなんか方法があるだろ。それにロペだってもう帰ってくるんだし、そん時に聞きゃいいさ。」
「私お風呂入ってこよっと・・。あの中でお風呂に入ったらまた入りたくなっちゃった。」
確かに・・・沢山寝ている間に汗をかいたような気がしますから、私もいこうかな・・・。
「パメラさん私もいきます。」
「では皆でいきましょう。」
「ふむ・・・。私も交代の時間だ。詳しい話は風呂で聞かせてもらおうかな。」
VR世界に行っている間はただ眠っているだけに見える現実の体も、意識下のみの出来事とはいえ、何度も激しい緊張と弛緩を繰り返している。
体は実際に体を動かしていたのと変わらないほどのストレスを感じていただろう。四人はリアルな感覚を再現したあの空間の中で何度も死の危機に瀕し、痛みを感じ、悩んだ事で極度の疲労状態にあると言っても過言では無い。
「ふぁ・・・。このままお風呂に入ると眠ってしまいそうですね・・・。」
「そりゃ・・・ライは何度も死にかけたからなぁ。」
パメラがルミコの視線に気がつきするっと首をひねってそっぽを向くが、その方向にはキャンディがニコッと爽やかな笑顔で待ち構えている。
とても力がこもっているとは思えないその手が、パメラの顎を捉え掴んで放さない。
「ぎゅむ。」
「金輪際密室で変身しないこと。」
「わわりましゅた。」
「あぁ・・・あれは死んだと思ったからな・・・。」
「その話も詳しく聞かせてもらおうかな・・・。なんだか仲間はずれにされたみたいでさみしい話だ。」
ライはルミコから名を呼び捨てにされたことで、少し距離感が縮まったように感じ、ティオレが一緒に来ていれば帝都オーに生身で向かっていったに違いないと、そう思う。
「量産計画はまだ・・・始まったばかりですね・・・。」
「なんだか打ち切りになりそうな言い方ですわね?・・・冗談ですわ。」
ウルトラロボットクリエイター
雨宮が自らのマシンを設計したり、遊びに使う為に作り上げたゲーム仕立てのマシン制作プログラム。
VR空間で行う為周りに実際に被害が出ないことから、様々な設計図を作り出しその空間内に隠した。
しかし、誰にも自分の作ったマシンを見られないのはちょっと寂しいと思った雨宮は、ゲームとして自分の設計したマシンを紹介することにした・・・が。
これがロペによって魔改造され、RPG仕立てのゲームのようになってしまい、全ての設計図を見るのに千時間以上かかる設計になってしまった。
冗談のつもりで雨宮が設定したことが全てゲームとして実際に体験できるようになってしまい、結果的にライ達四人を非常に苦しめた。
しかし、マシンクリエイター自体はナノマシンによって普通にマシンを作成可能となっている為、ゲーム内で材料を集めることでナノマシンに直に変化を促し、思い通りのマシンを作成することが出来る奇跡のプログラムとなった。
しかしそのことを知るものは誰も居ない。
ジャック 年齢18歳(設定)人種(設定)工場の作業員(設定)
ゲームのチュートリアルを担当するNPC、どこからでも現れ、説明が終わるといずこかへと去って行く。本編では警戒されていたが、特に害の無いNPC。あらゆるシーンで登場し、様々なゲーム内の仕様を説明してくれるが全てひらがなで非常に読みにくい。
ゲームのラスボス『ジャック登太郎』とは赤の他人。
その姿がカクカクで四角い箱にテクスチャーを貼り付けただけのようになっているのは、雨宮自身が自力で思い出した前世のプログラムを適当に作った為、クオリティが非常に低くなってしまったせい。
攻撃を加えようとしても寸前で見えない壁に阻まれ、決して手出しできないように、破壊不能オブジェクトとして設定されているため、自身の動きを阻害されることが無く、イベントはスムーズ。
だが、そのジャックの前に回り込んだり、ジャックを引っ張って止めようとすると、非常に痛い目を見る羽目になる。
唯一ジャックにダメージを与えることの出来るイベント、地下格納庫へ行こうは、実は離れて近づくを繰り返すと何度でも繰り返し行うことが出来るため、ジャックを死に追いやることは可能。
しかしその後復活することが無いため、物語終盤まで何の説明も無いまま手探りで攻略する羽目になる。
ジャックには町の崩壊によって死に別れた妹が居る設定になっているが、妹の方は実際には存在しておらず、イベントで語られる妹の話をテストプレーで聞いたロペは、ちょっと痛いやつにしか見えなくなったと爆笑していた。
ジャック登太郎 年齢49歳(設定)人種(設定)元工場の作業員(設定)ラスボス(暫定)
ゲーム序盤でマシンクリエイターの説明を担当するはずだったNPC
歩いてマシンクリエイターに近づいてくる途中でパメラがジャックのセリフをスキップをしてしまった為、イベントそのものがスキップされ位置情報がバグってズレてしまい、結果的に休憩室の入り口を塞いでしまった。
双子の兄弟ジャックと太郎(誤植)は物語終盤で語られるイベントの後で、前任の工場長(故人)の双子の弟であることが判明するのだが、元々普通に攻撃すると敵対するNPCとして雨宮に作られていた為、敵対するとエンカウント時のエネミーネームとして前述の双子の~と表示される。本来生身の状態のジャック登太郎と戦うのは、バハーモと名付けられた超巨大マシンを倒した後なのだが、雨宮自身の手によりいつでもクリアできるようにと、いつでも攻撃が可能な位置(マシンクリエイターの横)に配置されるはずだった。
ちなみにイベントとして、バハーモを破壊することが出来れば設計図が手に入り、二週目開始時点で作成する事が出来、作成した後にジャックに話しかけると、物語の真相が語られるというイベントを見ることが出来る。




