EP17 第三世界トラブルツアー 世界すくってほしいんだけど?
漸く物語が始まる。
二万四千文字もあったのか・・・・・・
空が黄色い。
俺は、そんなリア充の話を今実感している。
カッとなってヤった。
だが後悔はしていない。
全裸でロイヤルスィートの窓辺に佇む俺は、キングサイズのベッドの上の三人を見て昨日の事を思い出していた。
俺はひょっとして危ない奴なのかもしれない。
昨日の夜自分を狙う奴が居ると聞いて、どうしようもないと思ったがその後にこれか・・・。
現実逃避とも思える行動だが・・・・・・多分それは全く関係ない。
やっぱり楽しかったのだ、あの絶叫、悲鳴、歪んでいるとは思うが、趣味だな。
そして趣味友を手に入れた俺、また今度誘ってみよう。
異世界に来て初めて真の友を手に入れた気分だ。
「おはろ~?」
腕を組んで仁王立ちをしている俺の股の間からロペが顔を出した。
「へへ~ぞーさん・・・」
触んなっ!反応するだろっ!
「昨日凄かったねぇ。もうふわふわのびくびくだったょ」
この女は全くもう・・・、まぁ・・・と言うか。
「股間をずっと弄るな、俺は朝も強いんだぞ?」
「へっへ~」
誘うようなロペの笑顔につい俺はノってしまった。
ーーーーーーーーーー
「にゅふふふ~、今日はお休みにしない~?もう足腰立たないよぅ~」
「ぎ・・銀河様ぁ・・・あ・・・朝から・・・ふにゅぅぅぅ・・・」
「わ・・・わたしはなんでぇ・・・・?」
ある程度が平等が俺の信条だ。
にしても飽きないもんだ。
女ってのは恐ろしいな、身を亡ぼす男の気持ちもわかる。
「三人はのんびりしてろよ、俺はマギアラビスが見たい。他にも気になるもんいっぱいあるからな!」
そう、戦艦見たい。
スペースワーカーも見たい。
宇宙服も見たい(いらんけど)。
「銀河きゅん元気だねぇ・・・?同じハイパーヒューマノイドとは思えないょ」
まぁそうだろう。
「と言うか、厳密には同じじゃ無いぞ」
「ほぇ?」
そうなのだ。実のところ、ナノマシンの進化が激しくなっていて、初めてここの世界に来た時と比べて90%以上変化・・・進化しているのだ。ここ最近で、グッと危険に出会ったからな。
多分そのせいだろう。ロペの権限を手に入れたのも大きな要因の一つだ。
そして極めつけが・・・。
「お前だ・・・そこの偽OL」
「に・・・偽物じゃないですぅぅ~~~」
奴はどうやら俺のスーパーアタック(主に下半身)を受けて、足腰が立たない様だな。ケツだけ突き出して、プルプル震えておるわ!
「笑わないでくださいよぅ~私初めてだったんですからぁー・・・」
しかし何というか壮観だな・・・。俺も確かにこの世界に来て、有り得ないほど姿形が変わったが、三人とも良く見ると・・・いや、見ないでも普通分かるんだがかなりの美人さんだ。
うん。俺の感ある。
ダークブルーの腰まであるストレートロング、だが腰の位置が前世の女どもとは十センチ以上高いように見える。
程よく鍛えられた筋肉に引き締まったおヒップ。これまた俺の手に合うサイズのベストバスト。
足はスラリと伸びていてもなお、全体のバランスを崩さない。
まさに俺の為にあつらえたかの様な女だ。
「むふっ、銀河きゅん私に見蕩れてるぅ?」
「まぁな」
そしてやや明るめのセミロング茶髪ウェーブにハートのヘアピン。やけにキラキラしたハートのヘアピンがよく似合う。
ヘルフレムで色々あったのだろう、至る所に傷跡の残る肌が痛々しくも美しい。まさに黄金比とも言える抜群のプロポーション。
ロペに比べればやや小ぶりながらも黄金比を崩さないバストにヒップ。
監獄の食料事情からか、余分な肉の一切ないスレンダーボディに隠された暴力的なまでの魅力。
この世界の女は少女漫画も真っ青のウエストをしている。腰から下の網タイツ・・・網タイツ?
「アンジー出かけるのか?と言うか、その網タイツ一体どこから出てきたんだ?」
アンジーは頬を可愛らしく薄紅に染めながらこちらを見た。
「銀河様の眷属にして頂いて何か出来る事が無いかと模索してみたのですが、こういう事が出来るようになりましたの。元は・・・その・・・、銀河様の破った普通のパンストですのよ?」
おぉマジか。出来るんだそんな事、その辺はあんまり試していなかったからわからんかったわ。
「頭いいなぁアンジー」
「そ・そんな事ございませんわ、銀河様にもできます、ナノマシンを通じて基礎のデータを送りました、モノづくりって楽しいですよ」
ニコニコと嬉しそうで何よりだ、何だか・・・昨日までと雰囲気が若干違う気がするなぁ。
女の余裕?
「で?出かけんの?」
一通り着替え終わったアンジーは、当然ですと言わんばかりに俺の目の前までツカツカ寄ってきた。
「はいっ!銀河様がお出かけになるのでしたら、お供いたします!」
グッと両手を握りもうアピールしてくるアンジー。
・・・?ロペと朝倉が居ない?
ふと、廊下の方に気配がする。そうかシャワーか。
「アンジーはシャワー、良いのか?」
あ・・・。とキョロキョロと辺りを見回すアンジー。ロペたちを探しているんだな。
服着ちゃってからだと、ちょっと面倒だよな。
「あの・・・。銀河様・・・」
俺は無言でアンジーの服をもう一度脱がせた。若干いい雰囲気だが俺はアンジーをお姫様抱っこし、二人の居る風呂場へ突入した。
ーーーーーーーーーー
アトレーティオ4マシンストリート
「「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
俺と朝倉は、各メーカーのセレクトショップ立ち並ぶ、メインストリートの端に辿り着くなり感動に心を震わせた。
「スゲーな!!」「すごーい!!」
「冥王星宙域でも一・二を争う商業コロニーですからね。家までは遠いですが、ここからなら色々見て回れますわ」
てか。
「朝倉。お前はなぜそんなに感動しているんだ?毎日見ているだろう?」
すると、ブンブンと伊達メガネが飛びそうになるほど首を横に振った。彼女のメガネは伊達眼鏡だ。魂を分解した時ににわかった。
「違うんです!私会社の寮に住んでましたから!お休みも引きこもっていましたし、外に出たことはありませんでした!!」
大きな声で言うようなこっちゃねぇ。
「何処から見て回ろうかぁ?」
スッとまるでパズルのピースがハマる様に、ロペが俺の右腕に腕を絡めて寄り添う。それに続き、左側にアンジーが腕を絡める。
町の喧騒が懐かしい。
休日の町を思わせる人々の行き交うメインストリートは様々な種族が居て、ファムネシアに聞いたことのない種族もたくさんいる。
エルフ、ドワーフ、人、それにあれは・・・機人種だろうか?
他にも俺の身長の半分ぐらいか、子供の様なおっさん・・・?ホビットとかいう奴かね?あっ・・・あの魚頭は見たことがある、サハギンだ。
背中に羽根の生えた人もいる。虫っぽい羽根は妖精さん?
鳥っぽい羽根、蝙蝠っぽい羽根、ドラゴン・・・?っポイ羽?
みんな何故かこちらをチラチラ見ている、ふふふ・・・良いだろう?かなり歩きにくいがいい気分だなぁ!
「銀河様・・・すごく見られていますよ・・・?」
「銀河きゅん注目されてるよぉ?」
え?俺?
てっきり二人が見られていると思ったんだが・・・?
「銀河様は素敵ですもの。鼻が高いですわ」
急に意識したら居心地が悪くなるぅ・・・。
何の注目を浴びているんだ?
俺が首をかしげながら美女二人を侍らせて歩いていると、朝倉が店のショーウィンドウの前で立ち止まった。どうやらテレビのようだが・・・?
「雨宮さん、ニュースで雨宮さんの顔が出ていますよ?」
えっ!?
俺たちはtショーウィンドウに飾られた大型テレビに目を向けた。
ーーーーー
「朝のニュースをお伝えします。先日発見されたと軍から報告のあった、未確認人種である年齢不詳雨宮銀河氏は、救助された軍の宇宙戦艦から、身元引受人の元へ護送途中、何者かに連れ去られ行方不明となっていた件で、どうやら海賊船に囚われ、戦闘になった際、民間人を巻き込み殺害したとされ逮捕されましたが、これが誤認逮捕であると、圏警察の記者会見にて明らかになりました。会見場のマトゥーさん。マトゥー・キャイさん?」
ーーーーー
許された・・・・!やってくれたか!後藤!!
ーーーーー
「・・・なお、ヘルフレム監獄が大破した事件で、身元不明のシャトルや航宙機、戦艦などが確認されており、現在全力を挙げて行方を追っているとの事です」
ーーーーー
エーッ!!!
余計な事をッッッ!!
「あははぁ~ガッツリ見つかっていたのねぇ」
「これは・・・大丈夫ですの・・・?」
「皆さんと何か関係が?」
ごとうーーーー!!!!
「まぁ・・・イイか。何とかなるだろ」
「だいじょ~ぶだよぎんがきゅ~ん」
「ろぺえもん・・・。何かしたのか・・・?」
「身バレするようなチョロハッカーじゃないつもりだよぉ?」
そもそもハッカーってのもどうなのかって話でな?
まぁそこは良いか、任せよう。
「ところで今から何処へ行くんですか?」
実は今朝早くにゲールマンの爺さんから連絡があり、昼前にはマギアラビスが仕上がるとの連絡があったのだ。
因みにジェニはホテルには泊まらず、自分のセーフハウスに目を覚まして自力で帰ったという事だ。肉体的に今日は動けないと言う話だったので、ジェニにはゆっくり休んでいてもらうことになった。
・・・まぁ、年も年だしな・・・。体は何故か若いが。
「スペースワーカーとか、他のメーカーの戦艦とかも見てみたいんだ」
「ティタノマキアに行く道中に見たあれぇ?」
「そうそう。」
チラッとしか見れなかったが、あれはきっといいものだ。
何時かマイスペースワーカーを造ってみたい。
「あの時見たのはなんと言いましたか?シェリック・・・・・・ティーホン・・・・・・んん~~」
画像が見えただけだから名前が分からないなぁ。
「朝倉よ、心当たりはないか?」
「・・・・・・」
ん?なんだ。石ころを蹴るふりをして・・・・・・?
「私は名前で呼んでくれないんですか?」
「急になんだ」
「・・・・・・私の初めてを奪って言ったのに・・・・・・」
むむぅ・・・・・・、勢いとは言えまぁ・・・・・・イイか。色々話も聞きたい事もあるしな。
「ミッシーとかじゃダメか?」
「色々駄目です!!!と言うか、既にロペさんがそう呼んでいます・・・」
「美汐は心当たりはないか?」
んんっ?距離を急に詰めてきた、近い近い・・・・・・。
「も・もう一回・・・・・・」
「みーしーお」
「うへへぇ・・・・・・」
うわぁ、一気に顔が緩んだ。
とりあえず頬っぺたでもつねってみるか。
ぎゅっ
「あぃたーーーーー!!!」
ん?大きな声だったが・・・・・・って、スキルを使っていないからか。
「アイドルの顔になんてことを・・・・・・はっ」
アイドル・・・・・・?
俺は車が信号待ちをしているところを思い出した。
アイドリングストップか。
ちゃうな。
「うたっておどるぅ・・・?」
「水着ポロリですの?」
美汐はワタワタと湿原を悔いている様だが、すぐに俯いた。
「全く売れなかったけど・・・。歌も全部忘れちゃったし」
何をするアイドル何だか・・・。
「元気出せ?とりあえず行こうぜ?ずっと注目されたままもなんかやだし」
注目を集めたままではさすがに居心地が悪かったのか、素直についてきた。
暫くメインストリートを進むと、一区画大きく開けた広場の様な区画と、その区画の奥に他のショップよりもやや大きめの店舗がある。
「あっ、ここがそうですね、ウィザード社のワーカーショップですわ」
広場は小さなサーキットコースの様になっており、大小さまざまなワーカーが試着されている様だった。多くの人で賑わい、中には冒険者かと思うような奴も居る。
「中に入ってみようぜ!」
俺は気が付くと、二人の腕を放して一人スタスタと店舗の中に進んでいた。
「あれぇ?今すり抜けたぁ?」
「え?え?」
二人はどうなったのか良く分からなかったようだが、あれだ。宇宙空間からシャトルの中に入った時と同じ要領だ。一瞬人体をすり抜けるぐらい細胞を細かくして通り抜けたのだ。
もう人間やめてんな・・・俺。
ーーーーーーーーーーー
ウィザード社ワーカーショップ
店舗内は思ったより広く、車などの販売店などに比べれば数倍の広さがある。まぁそれもそうだ、大きいものにもなれば、巨人の時のテツより大きなワーカーも存在するようだし、狭かったら万が一倒れた時とか、えらいこっちゃなるもんな。
俺はまず、一際目を引く巨大なワーカーが気になったので、素直にその衝動に従う。
「凄く・・・・大きいです」
目の前に立つと更にその大きさが際立って見える。見た感じ十メートルぐらいはあるだろうか?全体的にとげとげしていて、輪郭のシャープさ、バーニアの多さ、そして何よりあの両腕に付いたチェーンソーの様なものが一際目立つ。
「ゲルンガウスだねぇ、私も使った事があるよぉ?バーニアの出力が強力過ぎて、標準装備のままじゃエースアタッカーにしか使えなかったから、配備された大半がダウングレードされちゃったんだよねぇ、もったいないなぁ・・・・・・でも・・・・・・」
ほえーー、ダウングレードしなきゃ使えない位のパワーかぁ。すげーなぁ。
その本体の足元には説明書きの様なものが書いてあるが、単位とか良く分からんのでなんだか凄い。そんなぐらいでいいだろ。
「銀河様。ロペさんはこのゲルンガウスのスーパーエースカスタムという物に乗って、共和国の首都を半壊させたんですのよ」
にゃんと!!!
カスタム機・・・・・・だと?こいつはエースかっ!?・・・・・・いや、スーパーエースかっ!!!
「ロペ凄かったんだな!今度使い方教えてくれよ」
「これは誰でも使えるよぅ?ただ、出力が大きすぎて、鍛えていない普通の人だと、前に進むだけで全身粉砕骨折とかするけど」
それなんG掛かってんだ?死ぬだろ?
「前例があるのか・・・・・・?」
「ありますわ、先ほどロペさんが仰った様に誰でも乗れますから。戦時中に輸送途中で墜落した輸送機に搭載されていた、ゲルンガウスのエースカスタムに一般人が乗って動かしたのですが・・・・・・」
オチが読めるな。そんな主人公じゃないんだから・・・・・・。
「コックピット内は酷いものだったみたいだね。口から体内のあらゆるものが飛び出していたって、調査結果が上がっていたんだよぅ」
「それ、死んでるんじゃね?」
「う~ん。一応死んではいないみたいだよ?植物状態だって話だけど」
う、う~ん物議をかもす問題だな・・・・・・。
「まぁ、銀河きゅんなら何も問題は無いょ。でも、この飾ってあるのはちょっと型落ちかなぁ。これは先行量産型のダウングレードバージョンだし、機能もまだ揃っていない・・・・・・特攻仕様だしね。」
KAMIKAZE仕様とか、何があったんだよ・・・・・・。
「先行量産型に何があったんだょ・・・・・・?」
「え~っとね・・・・・・これは確か、私が使う前の話なんで、正直体験でも無いし噂のレベルでの話だから、聞き流すレベルで聞いてほしいんだけどぉ」
前置きが長いな?ロペにしちゃ珍しい。
「おぅ、そんで?」
「先行量産型には脱出装置が無くて、と言うか、コックピットがブロック構造になっていなくてね?あ、でも設計図ではちゃんとブロック構造になっていて、脱出装置もちゃんと付いていたんだょ?」
へ?脱出装置無かったのか?データ収集が目的の先行量産型なのに?
「本体とコックピットが一体になっている構造に何故かなっていて、被弾すると出られなくなるって言う噂があってね?」
鬼仕様だ、当たらなければ・・・・・・当たらなければ・・・・・・。
「噂だょ?見た訳じゃないし、又聞きだから信憑性もそんなに高くないから、でね?先行量産型には他にもトラブルがいっぱいあって、その腕の超硬化ミスリルソー何だけど、あれの回転が速すぎて始動させるとアームがもげるとか、ブースターがいっぱいあり過ぎて、ふかすだけで背骨が折れるとか、冷却機能がうまく機能しなくて、コックピットで蒸し焼きになるとか、両ひざに付いたレーザーキャノンの出力が強すぎて、チャージすると自爆するとか、まともに動く機体が無かったらしいって言う・・・・・・噂だょ?」
「やけに具体的な噂じゃねーか、お前その場に居ただろ」
「にゃんのことかにゃ~。わかんないにゃ~」
ねこか・・・・・・?じゃない。
「欠陥商品なんてレベルじゃねぇな・・・・・・悪意が見えるぞ。てか、軍になんか恨みでもあったのかこのメーカー?」
そんなもん普通納品出来ないだろうに・・・・・・。
「ここからは、私が内偵してた情報なんだけどぉ・・・・・・。それを知っていて納品させていた上級将校が居たんだよねぇ」
「陰謀のにほひがする」
「うん。それがまぁ・・・・・・アミィちゃんのパパなんだよねぇ。その欠陥商品を引き受ける代わりに、莫大な賄賂を受け取っていたんだょ」
トンビが鷹を産む・・・・・・とかなんだ言われても、俺はそのアミィパパさんを知らんからなんとも・・・・・・。
「アミィちゃんのパパは、軍人としてははっきり言って無能だょ。正直戦艦に乗ってきたら遺書を書くレベルで。アミィちゃんとは天と地ほど才能に差があるょ。って遺書は戦艦に乗る時は必ず書くんだけどねぇ」
愚物・・・・・・という言葉が浮かんだわ。
「一体なんで上級将校になれたんだ?その人?」
「陰謀って言うか、謀略っていうか、まぁ兎に角他人を陥れる事には天才的だったんだょ、昔からずっと。それこそ通り名になる位にね?」
「なにそれ・・・・・・めっちゃ気になるやん?」
「え~聞きたい~?」
むむぅ、にょにょと白い歯を剥き出しにしてにじり寄ってきおって・・・・・・。
「き・・・・・・聞きたい事も無いことも吝かでは無い可能性だって有るかもしれんな?」
「ど・どっち?」
俺はなんとなくロペのほっぺたを両掌で挟み込んだ。やらかい。
「んゆぅ~。ゆ~ゅぅ~。」
何言ってるか全くわからんな。
「も~~~。えっと、間引きベイって言われていたみたいょ」
間引き・・・・・・。必要以上に不安をあおる上官だな。
「縁起でもねぇな・・・・・・」
「でもそれ以外にそれっぽいものが無い事を考えると、それでいいんだろうね」
ロペの復讐対象の一人だな。ベイルーン・イルパラージュ。近づく必要は無いが、面倒な相手には違いないな。
「あ。でも基本只のバカだから。別にいつでも・・・・・・」
俺は慌ててロペの口をふさぐ。
「む~~~~???」
(今何言おうとした?公衆の面前で・・・・・・)
(あはは、失敗失敗)
「ぷはぁ」
「こら、手のひらを舐めるな」
まったく・・・。
「他のはどんなのがあるのかな?あっちの小型も見てみたいな」
俺は三人を引きずる様に移動し、小型タイプのワーカーの展示エリアまでやってきた。
「等身大サイズとかもあるんだ」
「宇宙服の代わりになるものですわね。他にも外壁作業用でしたり、エンジンルーム用なんていうのもありますわね」
そんなもん着ないといけないエンジンルームとか、おっかねぇ・・・・・・。
「あ。パイロットスーツタイプだ。これが有るのと無いのじゃ、全然乗り心地が違うんだよぉ?」
ほぉほぉ。
「パイロットの保護を優先するタイプなら、さっきのゲルンガウスも乗りこなせるんだょ?でもこれが発売されたのはつい最近で、戦争が終わってからだったから、そういう需要はほとんど無いだろうねぇ」
しかし元軍人さんは、何でも知ってるな。ちょっとうらやましぃ。
「あ、でもゲルンガウスに乗っていたのは一回か二回だけだったんだけどね。直ぐ故障するし、しかも直らないときたもんだから、どうしようもないんだなぁこれが」
使い捨てかよ。メーカーが修理を放棄してるとしか思えない話だな。
「何で直らんの?メカニックぐらいいるっしょ戦艦なら。
「そりゃいるけど、紙装甲すぎるんだょ。マックススピードを出すだけで、スタビライザ-が無くなったり、ブースターが燃え尽きたり、まぁ・・・とにかく欠陥品だったの」
「それってさっき言っていた先行量産型の話か?」
「ちゃうちゃう。あれはそんなところまで行く前に駄目になるから。今の話は私のカスタム機の事」
「あかんやん!良く生きていたなぁ」
「本当ですわ」
「ロペさんって不思議生物なんですか?」
失礼な事を言った美汐がロペにコブラツイストをかけられている。
「こほん・・・・・・。では出ましょうか銀河様・・・・・・視線が痛いですわ」
「あぁあぁあああ!ギブッギブ――――!!」
おそらくバイヤーだろうか、欠陥品だの事故だの普通の声で喋っていたもんだから視線が痛い。心なしか客も減った気がする。・・・・・・ちょっと悪いことしたかな?
「あ・・・・・・そうだ。ゲルンガウスの新型は無いのか?ちゃんとした奴」
「入口に展示してあったものが確か、ここの最新型の、ゲルン・エゼラ・・・・・・。だったような気がしますわね?」
「出がけに見ていこう」
そそくさとその場を離れ、出入り口近くまで来ると、自動ドアを挟む様に大きなスペースワーカーが対になった同じポーズでそこに居た。金剛仁王像を思い出す。
「うーん。正直あんまり変わったように見えないんだがなぁ?」
ゲルン・エゼラは、ゲルンシリーズの最終形態として開発されたらしいが、そもそもテスト機のロールアウトがつい最近で、対スペースワーカー用に作られたものとしては、些か需要にかける。そこでロールアウト直前に仕様変更をしたらしく、急遽標準装備として、両腕に付いていたミスリルソーをツインヒートカノンに変更し、オリジナリティを演出したがそこはウィザード社のお約束。
今迄調整に調整を重ねて、漸くまともに使えるようになったミスリルソーを外したことで、開発員たちのモチベーションはダダ下がり、ツインヒートカノンは一度使うとアームが溶ける仕様となり、ゲルンシリーズの歴史にさらなる汚物を塗り付けることになった。
「・・・・・・という事はだ、このヒートカノンさえ取り外せばそこそこ使えるんじゃないのか?」
「・・・・・・と、思いがちではありますわね」
ちゃうんかい。
「と言うかこの仕様書を見る限りでは、ミスリルソー以外に全く手を付けていませんわね?」
何してたんだ開発陣。
「ですが・・・・・・この超硬度ミスリルソーはそこそこいい出来ではありますわ。私としましては、これだけ買って帰りたいと」
ミスリルソーだけっすか?それ何に使うの?
「あれだけ買って何に使うんだ?」
「それこそ、CE社のマシンに持たせてみてもいいかもしれませんね」
んん?新しい言葉出た。
「CE社とは何ぞや?」
俺たちは結局何も買わず、ウィザード社の評判を落とすだけ落してショールームを出た。
「キャッシュマンエレクトロニクス社ですわ。ジェニ様の」
あーあー、確かにそんな事言っていたような気がする。
「もう少し先に言った所に、本店がありますのよ、寄ってみますか?」
俺は端末を開いて時間を確認する。するともう間もなく約束の時間と言う所だろうか。ちょっとゆっくりし過ぎたかな・・・・・・?
「覗くだけ覗いてみるか?あんまり時間は無いが、何か収穫もあるかも知れないしな」
ーーーーーーーーーー
キャッシュマンエレクトロニクスショールーム
俺たちは徒歩で五分ほど歩いた先にあった、CE社のショールームに辿り着いた。
俺は建物に入るなり驚いた。
「・・・・・・○ッグコア!?」
某有名シューティングゲームもびっくりと言うほどそっくりな、一面のボスにそっくりな、戦闘機の縮小模型が置かれている。ヤバい、四本のレーザーの間を避けないと・・・・・・。
「ビッ○コアってなぁに?銀河きゅん」
それはそれは脈々と続く闘いの系譜でな・・・・・・じゃない。
「そんなこたぁいいんだよ」
そう。もうあまり時間が無いので俺は二人の手を引き、サクサク見たいものを探して進む。
「銀河きゅんあれは?目玉みたいだよ?」
ほう?そう言われてみれば、あそこは一番人が多い。新型機か?
「どれどれ・・・・・・?」
どうやら今目の前にあるスペースワーカーは、量産型の最新機種らしい。
その名もAGドルフ。・・・AG?
俺は既視感を感じつつも、最新機種という事で一つ買ってみようかな・・・・・・とか思うわけだ。
「ドルフは、今の太陽系連合の主力機の一つなんだよ」
「ドルフってのがあるのか、ってーとあれか?ここに展示されているのは、カスタム機か?」
「多分そうだと思ぅ。それに・・・・・・」
AGがやはり気になるな。
「なぁAGって「雨宮銀河だねぇ」「雨宮銀河ですわね?」」
きまっているじゃ無いか君ィ。と言わんばかりのどや顔。なんでお前らが・・・・・・。
ジェニもロペもそろって同じセンスかよ!!しかも何で俺の名前を使うかな・・・?
「ほらぁ、あのヘッドパーツの顎のラインが銀河きゅんに似てると思わない?」
「そう言えばそんな気も・・・・・・て、そんな訳あるかい」
く・・・・・・ついノリツッコミを。
「そうですわね・・・・・・あのヒップラインなんかも・・・・・・。「「それは無い」」しゅん・・・・・・」
速攻で叩かれるアンジーに合掌。
ドルフは所謂避けて当てるタイプのワーカーらしく、装甲を犠牲に機動力を引き上げた為、シャープなデザインの中に小型ブーストが幾つも装備されているが、ウィザード社のゲルンガウスとは違い、テスト中に空中分解するような事は無いらしい。
ゲルンガウスのくすんだフレームとは違い、磨き上げられた鏡の様に光を反射するフレームがとても気になる。
カスタム機の横に同じく先行量産型と思われる、コモン・ドルフと書かれたネームプレートが見える。この機体はなんと、コックピットと固定武装の一部にマジックサーキットを使用しているらしく、魔法の素養のあるパイロットが乗り込むことで、その真価を発揮するらしい。
しかしこの先行量産型は、出力リミッターが掛けられているらしく、Aランク魔法使いレベルのの力をフルに使うと、オーバーヒートしてしまうらしく、安全の為、そして、研究の為にリミッターを付けたままにしてあるという事らしい。
そしてそのリミッターを付けず、先行量産型をエース用にカスタムしたものがAGドルフだという事らしい。
「マジックサーキットか・・・・・・。最近ちょっとブームと言うか、流行っているな」
マギア級戦艦なんかは、全艦にマジックサーキットが張り巡らされているらしいしな、新しい技術みたいだ。
「しかしマジックサーキット自体を使用することが出来る者が、今はさほど多くありませんわ。私も使えない事はありませんが、使いこなせるとは言い難いですし。身内で使いこなせるとしたら、イファリスさんやフェインさんぐらいなものではないでしょうか?」
そうか、二人ともエルフか・・・。
「普通の人種には魔法は使えないのか?」
「そんな事は無いんだよぉ?エルフは長く魔法に親しんできた種族だから、得意って言うだけであって、特別才能があるとかそういう訳でもないし」
えっ?そうなの?俺はてっきりそういう物だと思い込んでいたんだが、アンジーも美汐もどうやら同じ考えだったようで、二人とも俺と同じように驚いている。
「そもそも魔法って言うのは、根源たるマナの使い方の問題でね?」
また新しい単語出てきた・・・・・・。根源たるマナってなんだ?大いなる実りか?
ちゃうか。
「で、マナって言うのはこの世界では至る所に発生源を用意してあって、世界中に満ち満ちているのさぁ」
「そそそ、それってどういったモノですか!?マナのなる木とかあるんですか!?」
俺の頭の中で、とっても大きな木のCMの曲がリフレインされている、このーきなんの・・・・・・いや・・・・・・何でもない。
「世界樹と呼ばれる彗星樹が主だね。でも・・・・・・まぁこんな人の大勢いるところで言える話でも無いから、船を手に入れてから又話すょ」
おっと・・・もうそんな時間か。
俺たちは少し急ぎ目に建物の外に出た。
ーーーーーーーーーー
「よしっと・・・・・・。もうすぐタクシーが参りますわ。って・・・・・・もう来ましたの!?」
端末を操作し終わったアンジーが、俺に褒めてもらおうと近くによる間もなく、上空から小さなウイングのついた車が下りてきた。
「おまっせしまった~。どうぞのってくだっさ~い」
妙に癖のある喋り方の運転手だな。若い人に有りがちな感じかね?
「ティタノマキアに行ってくれ。一応裏に回って地下駐車場に頼む」
「りょうかいっしやっした~。しゅっぱつしまっす~」
若干うざいな・・・・・・。
「はぁ~・・・・・・」
俺はほくほく顔でシートに背を預けた。
楽しかった。実に充実したショッピング・・・・・・って結局何も買ってないじゃないか!!
「ロペ・・・・・・俺失敗した」
暖かい昼の日差しの中で、若干うとうとしていたロペが眠たそうに俺を見上げる。
「どったの?」
「ワーカー結局買うの忘れていた。ゲルンガウスも、ドルフも欲しかったのに・・・・・・」
あぁ・・・・・・。買うつもりだったの・・・・・・。と、若干苦笑いで眠たそうな頭をこてんと、俺の肩に乗せる。
「また今度でいいじゃん。時間はいっぱい・・・・・・じゃないけどあるんだし。それに」
今度はアンジーが反対側の肩に・・・・・・と言うか膝の上に寝そべってきた。段々大胆になるなこの娘は・・・・・・。
「ドルフはジェニ様にお願いしてみてはいかがですか?ゲルンガウスは・・・・・・何も購入することは・・・・・・」
ちゃうねんアンジー、そうやないねん。ドルフはまぁともかくとして。
「ゲルンガウスは、消えてしまう前に手元に置いておきたいんだ。あの儚げな雰囲気が俺にそう思わせるんだ」
そう、いつかあの事故機と言うか、殺人機と言うか、あれはウィザード社がまともな物を作るようになってしまった時、いの一番に消えてしまうだろう。その前に回収しておきたいのだ。
「成程ですね。何時消えてしまうかもわかりませんものね」
そういう事だ。
「じゃぁ・・・・・・。船が手に入ったらぁ。ぽちっちゃう?」
通販か?そんなもんで購入できるのか。
「そうだな!できればロペが使っていたカスタム機がほしかったけど・・・・・・」
するとうとうとしていたロペの目が、カッ!と見開き・・・。
「いらない!!アレハいらナい!!だめ!ゼッたい!!」
何で片言やねん。そんなに嫌か・・・・・・?
「あれは死ぬから!!人死にが出るから!!せめてあの展示してあるのにしてほしぃよぅ・・・・・・」
ロペは光を無くした目でカタカタ震えながら答える。
「私が乗っていたあの機体は、何故か自立型AIが搭載されていて、武装も展示されていた奴とは、大分レベルが違っていたんだよぉ。拠点襲撃型と言うか、殲滅兵器と言うか・・・・・・とにかくあれは絶対ダメ!!危険!!」
そんなこんなで、ロペは当時の事を思い出したのか、小刻みにカタカタ震えたまま俺の手を握っていたが、タクシーは無事に目的地に到着した。
「おつかれっしたぁ~。とうちゃくでっすぅ~」
アンジーは手持ちの端末でさっと支払いを済ませると、タクシーの扉が開いた。
降りた先にはゲールマンが美汐とは別の秘書と共に待ち受けており、こちらに駆け寄ってきた。
「神様!お待たせして申し訳ございません!」
ぐむ・・・・・・。まだ言うかこの爺・・・・・・。
「あ・いや。まぁいいか・・・・・・。船の方はどうなっているんだ?」
ゲールマンは胸を張って秘書と思われる女性を押し出した。
「お初お目にかかります神よ」
また・・・・・・。一体なんだ?ゲールマンは一体彼女に何を吹き込んだんだ?
「では案内させていただきます。その間に経過報告をさせていただきますね」
そして俺たちはエレベーターに乗り込んだ。
「修繕検査はすべて完了しております。何時でもお使い頂く事の出来る用意を既に終わらせておりますので、何時でも発進可能です」
すげぇな・・・・・・昨日の今日でもう問題ないのか。
「ただ、やはりテスト目的も兼ねていますため、各艦に一チーム、大変恐れ多いのですが、我が社の研究員とメンテナンス要員を含めたチームを置いて頂きたく許可を頂きたいのですが」
きびきびと報告をしてくれる彼女に俺は好感を持つ。しかし所々に神に対する畏怖と言うか、距離を感じざるを得ない。
俺は神やない・・・・・・。
「構わない。それで問題なく船が使えるのならこっちも人手を探す手間が省けるし、助かるよ。だが・・・・・・」
会社の人間をずっと借りっぱなしにしておくわけにもいかないしなぁ。
その内自前で用意する必要があるだろう、メカニックに、研究員、医療スタッフに、シェフとかも要るよな?あと清掃要員に、倉庫番なんかも要るかな?オペレーターに、総舵手・・・・・・火器管制官なんかも必要だよなぁ。
「何時人員を返せばいい?」
「データが集まるまで時間が掛かりますから、その後で問題ありませんわ。好きにお使いください」
エレベーターが止まり、ドックに辿り着く。
様々なバージョンアップを施されたマギア級戦艦十隻が、ズラリと俺の前に並んでいる。
これは良い眺めだな。真ん中のがマギアラビスか・・・・・・。まだテストをしているのか、四対八本のマニュピレーターがうぃんうぃん動いている。
「いかついなー、あのマニュピレーター。結構長さがあるし、色々持たせられそうだ」
うーむ・・・・・・。あのマニュピレーターに、ミスリルソーを持たせてみたい・・・・・・。戦艦の攻撃(物理)が楽しみだ。
正面から見たのは初めてだったが、船首には女神像が取り付けられている。
昔の船乗り達の守り神の様なものだろうか。
「なぁ、あの船首の女神像は何がモチーフになっているんだ?」
俺たちは作業員たちが忙しく行き交うスペースを抜けて、船のタラップを目指していた。
「あの女神像は、アンジー様をモチーフにしており・・・・・・えー」
するとアンジーが船首の女神像を見つめて立ち止まり、カタカタ震えだした。
「全裸ではございませんか!?あれ!!」
え??
俺の居た所からでは角度的にわからなかったので、少し戻って確かめてみる。
・・・・・・全裸だな。
水瓶の様なものに座り、足を組んでいて、手にはロングソードの様なものを持っている。
かなり細部まで作りこまれているようで、塗装さえしてしまえば、遠距離からでは巨人が座っているようにも見えるだろう。
・・・・・・全裸で。
「全裸である必要性!?お爺様!?」
ゲールマンは足を止めることなく進む。
「戦意の向上とはそういうモノでしょう。ほっほっほっ・・・・・・」
足早にタラップの袂まで行ってしまった。
仕方ないので俺はアンジーの手を引いてついて行く事にした。
「他の船にも全部か?あれ」
「え・・・・・・えっと・・・・・・」
秘書らしき彼女は、各艦の仕様書を開き確認をしている様だ。
「旗艦、零番艦はアンジー様。一番艦は・・・・・・ロペ様・・・・・・」
ビクッとロペは、一番艦と思われる方に走って行って戻って来たと思ったら反対側に走って行った。
「間違えた・・・・・・。私も全裸じゃん!!!なんでさぁ!!」
ゲールマンは走って零番艦、マギアラビスの中へ走り去った。
あの爺さんあんなキャラだっけか?普通のエロじじいじゃねーか。
他にもアミィやイントたん、センリ、アメリア、フェイン、果はホムラやエリューシオの様な全裸にしてはいけない像まであった。
ホムラがめそめそする姿が目に浮かぶようだ・・・・・・。
全身がかなり忠実に再現されている為、若干気の毒なことになっている。
他の像のモデルがモデルなだけに余計に気の毒だ。だが・・・あれはアレで良し!!むしろ間近で見てみたいものだ。
顔を真っ赤にして俯く二人の手を引き、俺たちはマギアラビスの中に入った。
「ふおおおおおおおおお!!!!」
「ふあああああああああ!!!!」
俺と美汐の叫びである。他のメンバーは若干美汐が急に叫んだことで、耳を塞いで飛び離れたが、スキルを使っている訳では無いので、特に何もなかった。
「これが俺の戦艦か!!!」
「宇宙戦艦だぁ!!!」
って、お前はここの社員じゃ無かったのかと。なんでそんなに感動しているんだと。
「美汐。お前はなぜそんなに感動しているんだ?見慣れたものだろう?」
美汐はブンブン首を横に振って否定する。
「内勤の人間だったの!!外からは見ていたけど中に入る事なんか一度も無かったのよ!!」
俺たちはそんな話をしながら船のメインコントロールルームに足を運ぶ。タラップが設置されていたのは階層で言うB4、所謂地下4階で、そこからエレベーターの様なものに乗り込み、F3メインコントロールルームへと進んだ。
「うわぁ・・・・・・。このエレベーター凄いな・・・・・・。全く振動しない」
「ほっほっ。このエレベーターは我が社の秘匿技術、トラクタービームの応用による最新技術で作られております故、このような事が可能なのです」
何気に超技術だわこれ・・・。百人は余裕で乗れるのに、揺れも無く、結構なスピードなのに、Gも全くかからない。
ロペはエレベータの真ん中にある操作用端末に近づくと、その端末をまじまじと眺め、不意に何かのボタンを押した。
するとエレベーターが二つに割れ、俺とロペ、秘書の居る方はその場で止まり、他の皆の乗った方は上へと行ってしまった。
「何をしたんだ?ロペ?」
「あははぁ~・・・・・・。なんか面白いマークのボタンがあるなって思ってぇ・・・・・・。あいたっ!」
俺はデコピンでロペの額をはじいた。
戻るのか?壊した訳じゃないよな?
「大丈夫です神よ。こういうモノですから。さぁ、私たちも上へ参りましょう」
あービックリした。
ロペはF3のボタンを押し、再びエレベーターの片割れは動き出した。
因みにF4はあるのかと尋ねたところ、有るがエレベーターではいけないとの事だった。何でも火器管制システムの操作室だそうで、メインコントロールルームから行けるという事だ。
その昔、エレベーターと火器管制室で悲しいお話があったとかで、エレベーターから直接行けるように作らなくなったらしい。
「銀河様!大丈夫でしたか?」
「あぁ。ちょっと驚いたが何でもない。と言うか、動いている途中であれが切り替わるのおかしくないか?」
ゲールマンと秘書は、何か相談しているが、直ぐに秘書が、端末を操作し、然るべきところに連絡を付けたようだ。
「先ほどの件は直ぐに対処しますので、このメインデッキから出る頃には改善されています。ご安心ください」
秘書有能だな!え?じゃあ今から出ようとしてもいいのだろうか?
「・・・・・・神様。意地悪をなさらないでください・・・・・・」
む・・・・・・。秘書の上目遣いがきゅんと来た。
このきゅんに免じてそれはしないでおこう。
「さて神様。それでは早速所有者登録をいたしましょう。今このドックにあるマギア級は全てこの艦にリンクさせてありますので、この艦で全ての所有登録が可能です。ささっ、こちらのシートに・・・・・・」
俺は促されるままに、所謂艦長席の様なシートに座り、目の前のコンソールに手をかざした。
すると、艦全体のインフラが起動し、艦長席のメインコントロールシステムが起動した。
「これで登録は完了です。この艦にも一チーム常駐させて頂きますが宜しいですかな?」
「ああ。構わない」
俺はそう言うとゆっくりメインデッキ内を見渡した。
俺の座っているシートは360度くるんと回るタイプのもので、モードを切り替えると固定されるらしい。
眼下に広がる各システムコンソールに、操縦席、そして上にも後ろにも、恐らく火器管制システムと思われるシートが並んでいる。
どうやら、全てのコントロールはこの艦長席からコントロール可能らしく、それもマギアラビスの固有機能の一つらしい。普通の戦艦を一人で操るとしたら、いくつ手があっても足りない、しかしこの艦はそれが可能なのだ。
俺は一通り見まわすと、目の前のコンソールにナノマシンを侵入させ、艦全体を掌握した。そして直ちにこの艦の問題点を洗い出し、秘書に伝える為データをまとめた。
「なぁ。何かデータの保存用のメディアは無いか?」
すると秘書は自分の端末からするりと、有線のケーブルを引き出し、俺に手渡した。コンソールの下に専用のコネクタがあり、そこにつなぐと、ナノマシンを使って分析した問題点の改善草案から、各機能のバージョンアップデータ、使用改善の要望など、膨大なデータが流れていく。
「あ!?ちょ!ちょっと・・・・・・かみさまーーー!?データが!データが多すぎます―――!!」
秘書は慌てて、懐から取り出した補助記憶装置を端末に差し込み、操作する。
艦全体のアップデートデータともなると、携帯端末程度の容量では全く収まらないらしい。
うっかりしていた。
「すまん。容量の事を考えていなかった。行けそうか?」
「は・ハイ。大丈夫です・・・・・・!!えぇ凄い・・・・・・。なにこれ・・・・・・!嘘・・・・・・?こんな改善の方法ってありなの・・・・・・?え・・・・・・?えええ???こんな技術知らない・・・・・・。ええぇ??」
なんだかわからないが、非常に面白い。明らかに狼狽えているのだが、その動きがくねくねしている。傍から見ると上気し、欲情しているようにも見えるのだから不思議だ。
俺はこの船を拠点として、自分の良い様に改良する予定だった。その為例の箱を使うための仕様変更や、ナノマシンの為のサーバーを作るための空きスペースを確保したい旨の要望、そういったモノを要所要所を伏せたままで、彼女に渡した。
「あの・・・・・・神様・・・・・・?」
コンソールからケーブルを抜き端末を胸に抱きしめるようにして、秘書が俺に近づいてくる。すると何かを察したのか、今まであちこちを調べていた、ロペが俺の膝の上に、アンジーが俺の首にスッと、絡みついてきた。
「銀河きゅん」「銀河様」
あまりの行動の速さに若干驚いていると、あまり気にした様子無く秘書が話を続ける。
「この空白の部屋や、ウルテニウムの購入要望は・・・・・・?」
そうウルテニウム、これが今回の俺の改良案の肝だ。これを使いナノマシンのサーバーを作ることで、恐らく俺はほぼ不死身になれる。俺が自分で調べた事だが、ウルテニウムは未だに固いだけの希少金属としてしか、この世界では認識されていないが、それが違うのだ。
この金属は組成構造をとある方法を使う事で、自由に組み替えることが出来る。
流石にこの事は俺の中だけの秘密だが、このウルテニウムを使ってサーバーを構築する事に寄って、限りなく大容量、超高速、並列、を実践に移すことが出来るようになる。
自分で見つければそれでやろうかとも考えていたが、どうやら戦艦を扱うメーカーなら購入することが可能らしい。主にウルテニウムは装甲に使われるが、
それ以外に使用方法が見つかっていないという事が現実である。
なら、この俺の持っている二つの箱は一体何か?どうやって加工したのか?
その理屈や方法は不明なままだが、俺は進化するナノマシンに寄って、おそらく箱の造られた工程とは全く違う方法で、ウルテニウムの加工が可能になった。
・・・・・・と言うかこの方法は俺にしか不可能であるのだが・・・・・・。
「この会社なら購入できると思ったんだが」
秘書は少し考えるような仕草をして、考えを示す。
「可能ではあります。しかし購入と共に、購入理由とその使用方法の記述が必要になるのです」
「それを伝えずに購入する方法は?」
秘書はゲールマンを見て、意思確認をしたのち、「あります」と答えてくれた。
「神様、それならご自身で採りに行かれた方が、安全でしかも確実ですぞ?天文学的な金が必要ですしな」
ほう・・・・・・。多少時間を使ってしまうのはこの際構わないか。タダで手に入るに越した事は無い。
だが、リスクがあるのだろうな・・?
「場所は分かるか?」
「もちろんです。この場所は以前家に居たバカ息子が、購入したもなのです。誰も近寄ることが出来ない場所を購入するなんて愚かな事をと思いましたが、神様のお役に立てるならよい先行投資だったのでしょうな」
カッカッカッ。と快活な笑い声を上げ、自身の携帯端末から、この船にその位置データをインストールしてくれた。
これで次の行動方針が決まった。
俺は今この場に居る皆に今後の方針を伝える。いつの間にか男衆もここまでやってきたようだった。置いて行かれたことを怒っているかと思っていたが、あっちはあっちで楽しんでいたようだな。
皆の視線が俺に集中する。
「この後はフリースコロニーに皆を迎えに行って、完熟訓練を行った後、ウルテニウムを手に入れる為に採掘ポイントに向かう」
皆頷き、おおむねよしとしてくれている様だ。ロペが膝の上から俺の首に手を回し、満足そうにもたれ掛かってくる。
「だが注意して欲しいのは、このポイントは海王星圏から溢れて来た巨大モンスターの巣窟であるという事だ」
そう。この採掘ポイントは、冥王星宙域と海王星宙域の境界線上に位置しており、徐々に境界ラインは巨大モンスターの侵蝕により、後退しているという。
下手な艦隊が近づくことは自殺を意味するほどの危険地帯だ。
「仮として、界獣とでも呼ぶか。あれの強さは、ロペが知っている。到着までに、全員にその強さを認識させておいてくれ。どうせそのうち、絶滅させるんだからな」
「わかったぁ」「承知いたしました」「任せろぉ!」「ふっ」「腕が鳴るな!!」「あ・あの・・・・・・?」
ん?何だこの折角の空気に水を差す、空気の抜けた風船みたいな声は・・・・・・。
「私も何故か行くことになっていますか?」
言葉がおかしくなっているが、美汐が腰の引けた状態でよたよたと俺の腕を掴んでくる。
「当然だろう。超宇宙アイドルヴァイブレーションしおりん」
「んなああああああああ!!!!」
素の状態でバラされるのが嫌ならやらなきゃいいのに・・・・・・と思わないでも無いが、面白いのでこのままにしておく。
「まぁ。あなたがあの?ライブハウスを吹き飛ばしたという」
秘書は何故か超宇宙アイドルヴァイブレーションしおりんを知っている様だ。
恐らくソースは俺と同じアングラネットニュース。
「その話は俺も聞いたことがある」
出たな新庄。この知識人め!
「は・・・・・・はわわわ・・・・・・」
美汐は伊達眼鏡がずり落ちておたおたしている。隠しておきたい事実だったのだろう。はわわとか初めて聞いたわ。
「わたしは荒事は苦手ですぅ・・・・・・」
「「「「「「「「嘘つけ!!!」」」」」」」
全員の声が重なって美汐の体が跳ね上がる。
「お前の力を使う。どうせ、この世界に転生してからずっと練習していたのだろう。レベル10のスキルなんかまだ見た事無いぞ?どれだけ練習したらそんなになるんだか。」
「「「「「「「レベル10!?」」」」」」」
「どうぞ?」
俺は解説係の新庄を促す。
「レベル10と言えば、過去に存在したのはデーモン戦争の英雄、勇者イチロー・スズキの『怒れる拳』と言うスキルしか確認されていないのだぞ!?
しかもあの拳一つで、月面の表層を地下数キロメートル削り取ったんだぞ!?素手でだぞ!そんなレベルのスキルなんだぞ!?」
イチロー・・・・・・あんたスゲーよ。リアル地球割・・・・・・いや月削り?
俺はふと頭の取れる女の子型ロボット思い出した。
「ええええええぇぇえええ?そそそそんなことできませんよぉぉぉぉぉ?」
いや・・・・・・出来るから普通に。寧ろ本気でそのスキルを使ったら惑星が粉々になるだろうな。
振動ってそういうもんだから・・・・・・。
暴走状態の美汐ではフルにその力を使えていなかったが、それでもあんな地獄を生み出すんだ。寧ろイチローより酷い・・・・・・いや、すごいスキルだよな。
「どうせ、これからどうしようか考えていなかったんでしょ~?」
ロペがそう言うと、「え?」と何故?と言う感じで首をかしげる。
「あんな大事件を起こしたのに、そのままでいられるとでも・・・・・・?」
美汐の顔が引きつる。すると見る間に表情が歪んでいく・・・・・・。
あ・・・・・・泣くぞ。こいつ絶対泣くぞ。そら泣くぞ。
ロペはとっさに美汐の口をふさいだ。
「ふむぅぅぅぅぅぅぅっぅ!!」
「気持ちは分からないけど、泣かないのょ~?
わからんのかいっ!
「そういう訳だ。大人しく付いて来い」
「でもでもでも・・・・・・おとうさんとおかあさんがぁ・・・・・・」
そうか。マスコミに囲まれるとうっとおしいな。
「その辺はジェニに頼んでおく。フリースコロニーにでも移住させておけ」
「え”っ!むむむむ・・・・・・無理ぃ・・・・・・」
なんでや。
「何か理由が?」
「あんな超高級居住コロニーに、一般人が住めるはずないじゃないですかぁ!!」
超高級?
俺は新庄を見る。
「ロペさんに聞いた方が速いだろう?」
「どうなん?その辺」
ロペは俺の首から手を放すと、う~んとうなった。
「確かに・・・・・・。最低でも、家賃で二百万クレジットは無いと難しいかなぁ?」
「えっ!?それって月なの?年間なの?」
「もちろん月間ねぇ?」
すみません。俺舐めてました。
「因みに間取りは?」
「ワンルーム、キッチンバストイレ付20畳って所かなぁ?」
ワンルームひっろいな!!
「金持ちは違うな・・・・・・。そんな所に住んでみたくはあるが・・・・・・。
流石になぁ。」
前世だったら年間手取りの90%位飛んでいくぞ?
一月で・・・・・・。
「あっ!!」
ビックリした!急に膝の上でデカい声を・・・・・・。
「何だロペ、急に?」
「私部屋引き払ってない・・・・・・。忘れてた・・・・・・」
え・えぇ~・・・・・・?
そんなン忘れるのか?確かにずっと一緒に居たからなぁ。
「どうすんだ?」
「手続きだけなら端末でもどうにかなるけど、荷物がいっぱいあるからぁ・・・・・・」
・・・・・・ん~~。
おっ。閃いた。
「爺さん。小型の高速輸送船ってティタノマキアには無いのか?」
ゲールマンは首をひねって思い出そうとしている。
覚えが無い様だなぁ。
「う~む。うちは主に中型専門ですからなぁ。小型と言えば、この近くならチラ社等如何でしょうかな?あそこの高速艇は中々の者であったと覚えがありますぞ?」
チラ社・・・・・・。パン・・・・・・。何でもない。
「成程。ポチれるか?」
「やってみるぅ・・・・・・」
まったく・・・・・・。ロペもどっか抜けてるところあるよなぁ。俺も人の事は言えんが。
ロペは自分の失敗がよほど恥ずかしかったらしく、端末を触る手が慌ただしく、焦っていた。
そんなに恥ずかしいならここで言わなきゃよかったのに・・・・・・。とか思わないでも無いがなぁ・・・・・・。
「これなんかどぅ?さっきのパンチラ社の奴。」
こ奴・・・・・・!こ奴・・・・・・!!俺が必至で我慢したおやじギャグを!!
俺は端末の情報に目を通す。
ーーーーー
高速移動倉庫XX
速度 亜光速迄加速可能
倉庫容量 10㎥=約10トン
小型SW搭載可能
専用コンテナプレゼント中。
ーーーーー
え?なにこれちょっと面白くない?
名前を付けた人を見てみたい。
しかし十トンか・・・・・・。まぁそんだけ容量があれば、引っ越しには問題ないだろう。
「良いんじゃないか?単身の引っ越し位ならこれで十分だろ?適当に何人か連れて行けよ?一応。自分の部下にしたい奴が居たら、そいつを連れて行くのもいいだろう」
「うん・・・・・・。ここに届けてもらってもいい?」
どうせ倉庫には何も入って無いし、大丈夫だろ。
「ああ。問題ないと思うぞ?それと、俺のから出しとけ?」
「いいの?」
「どうせ頻繁に使うことになるだろうしな。この後の事を考えたら。あ、あとそうだ。工業用コンテナを幾つか買っておいてくれ。各艦に均等に割り振っておいてな?」
「ん。わかったぁ」
あとは何かあったか・・・。
あった!あったわ!また忘れるところだったわ!
「ゲルンガウスとドルフ!あれも買っておこう!」
ロペは額にしわを寄せ文句を言ってくる。
「ゲルンガウス要らなくないぃ?ドルフはもうジェニちゃんに頼んでおいたから大丈夫だょ?」
さっすがロペ、手回しが良いな。ドルフは手配済みかぁ。楽しみだなぁ。
そう言えばウィザード社のショールームには値段が書いてなかったが・・・・・・?幾ら位するのだろうか?
「おいくらでっか?ゲルンガウスは」
コンテナの注文を終えたロペは、何だかんだで、言うとおりにしてくれている様だ。
「んーーー。高い。自爆装置の値段じゃないよこれ・・・・・・。どう考えても負債の清算に躍起になってるね」
自爆装置て。
「で?なんぼでっか?」
「一千万クレジット。有り得ない。ゼロが三つほど多いわぁ。不良品を売る値段じゃない」
寧ろ買わせない為の値段じゃなかろうか?売れたら逆に問題だからな・・・・・・。
「ディーラーはダメだね。中古を探してみる」
あんの!?一応兵器だろ?良いのか?
「ありなの?それ?法的に」
「ん。アリだよ。リサイクル兵器は無いと戦争が成り立たない時代があったから、今も普通に出回ってるんょ」
そんな事があったのか・・・・・・。
ロペの頭の回転は速い。俺も多分普通の人間に比べたら規格外なんだろうが、脳の鍛え方が足りないのか、ロペの手元の端末を肩越しに見てはいるものの、目まぐるしく表れては消える情報の波を、一時保存しておく位しないと処理できない。
これをロペはリアルタイムで保存せずに取捨選択できるのだから、末恐ろしい頭脳だ。
「ほぃ。これが普通のゲルンガウスの値段」
そう言って俺に見せてくれたのは、新古から中古迄手広く扱う店のネット窓口で、ゲルンガウスの値段は・・・・・・。
1万クレジット。
・・・・・・はぁ?
ちょっとまって・・・・・・。何だかクレジットの価値が分からなくなってきたわ・・・・・・。
「え~っと・・・・・・?この世界の食パンって五枚切りでどの位するの?」
「え?なんで急に食パン?えっと・・・・・・。私のアパートの近くにあるスーパーだと・・・・・・。大体200から400ぐらいじゃ無かったかなぁ?」
「アンジー?」
俺はアンジーを見る。
「そ・そうですわね?木星圏でも対して値段に違いはございませんわ?」
新庄?テツ?
「俺の毎日買っていた食パンは、大体一斤で500クレジット位だったから、大体同じだな。」
「俺は買い物とかした事ねーし。はっはっは!」
「俺には聞かないのかよ!!!」
大体前世の日本と変わらないな・・・。するってーとあれか?
ス○ツーとか、ど○くえとかと同じ値段で、あんな兵器が買えるのか?おかしくね?
「安くないかそれ?」
「お金出しても買いたくないって事!」
ロペが珍しく厳しい・・・・・・。そんな嫌か・・・・・・?
「しかもこれ、1ダース販売って書いてあるんだけど・・・・・・?」
俺はロペに端末を渡すと、ロペは、無し!なしっ!と違う所を探し始めた。
「一個でいいの!あんなの!!12個も要らない!!!!」
一機千円くらいだぞ?安かったのに・・・・・・。寧ろ2機おまけで付いてくる・・・・・・。と考える俺は貧乏性なんだろうか・・・・・・?
それぐらい要らないって事か・・・・・・?扱いがひどいな。
「これは?」
次に見せてくれたのは・・・・・・!これはエースカスタムじゃないか!!
ゲルンガウスエースカスタム
200C
は?
但し書きがある。
新品の横流し品です。
ダメじゃん!!絶対犯罪が絡んでる!
「これは逆にお金とられる方じゃないか?」
どうやらロペはどうしてもゲルンガウスを傍に置きたくないらしい。
だが俺はどうしても欲しい・・・・・・。
「ロペ・・・・・・。さっきの1ダースにしよう?俺がナノマシンでちゃんと安全な仕様に改造するから・・・・・・。な?」
ぐぬぬ・・・・・・。と、ロペは俺の膝の上で足をバタバタさせて抵抗を試みるが、
漸く諦めてくれたらしい。最初からそう言えばよかった。
「銀河様もお好きですね?あんな産業廃棄物を1ダースも・・・・・・」
「なに。ナノマシンの手にかかれば、ごみだって栄養に変わるさ」
分解吸収するわけじゃないんだぜ?
ぽちっと。
「購入しましたょ~ぅ」
拗ねていらっしゃる。俺はロペの後ろから手を回して、ハグハグする。
「いい娘イイ娘」
「むぅ・・・・・・。悪くない・・・・・・」
ロペは上機嫌だ。
それなりの扱いをしないとな。
さて・・・・・・。
「どうだ?出られそうか?」
ゲールマンは作業の終了を知らせて、艦を降りた。
「おい!雨宮の!これどうしたらいいんだ?ブリッジの機械なんか触った事ねーぞ?」
「ヤメロテツ!触んな!!お前機械壊すだろ!!」
テツはオペレーター席に座って椅子をぐるぐる回して遊んでいる。
「雨宮。取り敢えずオペレーターは俺がやろう。だが操舵手はどうする?」
アンジーはとことこと操縦席に座り、操縦桿を握った。
「私にお任せください。学生時代に免許を取っていますから。大型まで動かせますわ」
アンジーの意外な特技・・・・・・。いや、そうでも無いのか。メカマンの孫だしな。
出来てもおかしかないか。
「火器管制は任せろ!!」
あとは、ロペは俺の席の一段下の席に移動した。所謂副艦長席だな。
「だから俺はスルーかよ!!」
「システムチェック・・・・・・。グリーン。ん。」
切嗣が何か言っていたような気がするが、ロペが最終確認をし、俺に親指を立てサインを送ってくる。
美汐はと言うと。
「お部屋が広ーい!そしてきれ―!!」
探索に出ていた。
ーーーーー
ー美汐!出港するぞ!シートに座れよ!?
ーーーーー
俺は館内放送で美汐に呼びかけ、管内の最終確認を済ませる。
「ん。これで良いのか。シート使用1。これが美汐だな。テーツ!ぐるぐる回ってんな!ベルト締めろよ!発進できないだろ!」
安全装置の切り替えは出来るが、ここは最初だししっかり覚えておいてもらわんとな。テツはこの世界に長く居た割に常識に疎い所が有る。それもまぁ、ずっと海賊として生きてきたというのもあるのだろう。一般人との関りは一切なかったらしいし、街、コロニーに入ったのもフリースコロニーが初めてだったようだ。
「よーし。全艦発信準備!」
「システムはオールグリーンだ」
「火器管制オールグリーン!」
「艦内設備オールグリーンだょ!」
「何時でも出れますわ!」
長かった・・・・・・。実際の時間にしてみたらなんてことはない時間だが、内容が濃い。濃すぎる。渋い緑茶の様に苦々しい体験も多かった。
ここに来るまでに何人も死んだし、俺も殺した。
正直何の感傷も無いが、敢えて言うなら、ここに来るまで面倒ごとが多すぎた。ただ宇宙を、この世界を見て回りたい。それだけだったのになぁ。
ちゃうか。
世界もついでに救って、命いっぱい遊ぶ。
何て言ったっけかこの世界。
確か第三超広域開拓世界だったか。
「第三世界ツアーの始まりだな!!」
「いやっ!世界すくってほしいんだけど!?」
平常運転だった。
ウィザード社
スペースワーカーの開発販売の老舗メーカーの一つ。
ここ数年で急激に業績を落とし、現在は倒産の危機に瀕している。その原因は、社運をかけて開発する筈であった、ウィザード社の汚物とまで称された、汎用型スペースワーカーのゲルンガウス。今迄ゲルンシリーズとして汎用型、量産型の基礎となる機体を作り上げる、基礎開発技術に高い評価を得ていたウィザード社だったが、ゲルンガウスの開発中に太陽系連合軍の上層部から横やりが入り、開発に失敗巨額の負債を抱えることになった。
何とか巻き返しを図りたいW社は、最後の望みをかけてゲルンシリーズ最終形態とし、ゲルン・エゼラの開発に着手するも、その事を知った軍の上層部から二度目の横やりが入り、又も開発に失敗倒産を待つ事態となった。
しかし、キャッシュマンエレクトロニクスが、技術者の受け入れを既に始めているとの噂もあり、開発陣は暢気に構えているとかいないとか。
ただし経営陣は、自殺を考えるものまで出ているので、大手メーカーの幕引きに注目が集まっている。
ゲルンガウス
連合軍上層部との癒着によって生み出された、ウィザード社史上最悪の汚物と言われる超欠陥機。
元々の設計思想や、開発の段階ではかなりの良ワーカーになるはずだったが、ここに連合軍上層部が待ったをかけ、トライアルを通してやるから金を寄こせと強請をかけた。
そのせいで開発費用は新型機を開発するとは思えないほど縮小され、研究員や作業員のボーナスも無くなった。その為、開発費用の中で精いっぱいの性能を出すために、ありとあらゆる安全装置を排除、
生産段階で既に開発資金が回収不可能として茨の道を歩むことが決まってしまった。
だが武装の開発には奇跡的な閃きと、天才的なやり繰りの末開発費用の中から、かなりの費用が捻出され、今までに例のない革新的な固定兵装、超硬度ミスリルソー、膝部ツインレーザーキャノン、
6対12連装バーニアなどが、固定武装として開発されたものの、前述のとおり、安全装置が無く、使い捨ての武装になった。
そして何故か軍上層部の肝入りで実戦配備されると、次々とパイロットが死亡。前線に一時期投入されるも、殺人機の異名を手に入れ、僅か数回の使用で横流しされたり、廃棄された。
しかしこの時、ウィザード社もすでに自棄になっており、自爆すると判っていても倒産を免れるために売りまくらざるを得なかったため、敵味方共にゲルンガウスを使っている異様な状況になっていたことがあった。
元のゲルンガウスの配備数が異常なほど多く、数多くのバリエーションが生産されたが、既にバリエーション機が配備される頃には、新しい機体が前線を担っており、ゲルンガウスの出番はなかった。
そして軍で無用の長物として払い下げられた大量のゲルンガウスは、危険すぎて誰も使うことが出来ず、改造しようにも簡単に壊れてしまうため、本当の意味で只の鉄くずとしての扱いしかされ無くなって逝った。
アンジー曰く「産業廃棄物。」との事。
唯一まともに動いたとされているのが、ロペ・キャッシュマン中尉専用機であった、ゲルンガウススーパーエスカスタムであるが、事実は全く違い、ロペが搭乗した際勝手に起動し、ロペはコックピット内に閉じ込められる。
脱出装置など存在していなかった為、勝手に動く専用機の中で共和国の首都が破壊されていくのを見ている事しかできなかった。専用機は一通り破壊しつくすと、突然コックピットを開き、ロペが脱出する間もなく自爆し、ロペは大けがを負ったが、部下のイントに救出され、一命を取り留める。
この日の事がロペにゲルンガウスアレルギーをもたらす原因となった。
しかし、ロペ専用機がなぜまともに動いたのか、誰がAI をインストールしたのかなど、分からない事が多く、事件は闇に葬られることになった。
主なバリエーション ゲルンガウス超長距離支援型(未配備) ゲルンガウス近接戦闘特化型(草案のみ) ゲルンガウスエースカスタム(全機故障) ロペ・キャッシュマン専用ゲルンガウス(自爆)
ゲルン・エゼラ
ゲルンガウスの最終後継機として開発されるも、既に開発陣の熱意は無く、惰性で開発を行っていた。
この為、本体は全く変わっておらず、固定武装であるミスリルソーのみに開発費全てを注ぎ込み、ミスリルソーを完成させた。
しかし、ここでまた連合軍上層部から、待ったが入り、ミスリルソーが不採用となった。
開発陣は開発費を既に使い果たしてしまっていた為、変更することが出来ず頭を抱えたが、ウィザード社の誇る天才が、「有る物を使ってごまかそう。」
と開発陣にはっぱを掛け、もともと搭載されていた膝部レーザーキャノンの仕様を変更しダウングレード、両腕にヒートカノンとして搭載した所、
何故か審査を通過、連合軍に納品されることとなった。しかしこの時には既に戦争は終結しており、ゲルンガウスの悪評もあるが、誰の目に見ても明らかに、
元のゲルンガウスと全く変わっていない事が分かる為、一度も使われる事無く廃棄、横流しされた。
ディーラーによる販売価格は買わせない為の良心設計として、一千万クレジットと、小型スペースワーカーとしては高すぎる一品。
しかし何故か一機購入希望者がおり、販売せざるを得なかったが、購入者は、「博物館に飾るだけだから。」と一括で購入していったという。